魔王様の友人は風変りな悪魔(元男です)   作:Ei-s

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第十五話

カルネ村を出発したモモン一行。道中は平穏そのものであり野伏であるルクルットは警戒を緩める事はない。だが、彼のスタンスなのか、警戒していない様子で陽気に話しかける。意気揚々とまるでハイキングだ。

このまま襲撃がなければ、翌日の夕刻にはエ・ランテルへ到着する予定であり、実に順調。順調すぎる旅路である。

これ程までに襲撃が無いのはルプーが要因だ。彼女はレベルを誤魔化すアイテムを、その役目から、狼形態では装備していない為モンスターは本能的に恐れて近寄らない。レベル10以下が50以上に挑むなど、唯の自殺である。

 

順調すぎる旅路はモモン達にとっては非常に有用であった。彼等は、モモン達の人柄や事情を、先のカルネ村の村長をはじめ、村人にもさり気無く聞き、少しの警戒心を残したままだが、善良な人物だと判断したのだ。

聴取の際、多くの男性がモモンを勇者だと大きな声で称え、小さな声でエンリとフドウを魔獣だと怯え混じりで称したのは理解出来なかったが。一見男性のみのパーティーである漆黒の剣とンフィーレアには、2人が襲撃犯のベリュースに行った処刑は話さない方が良いとの判断である。

 

ともかく、現役冒険者である漆黒の剣と、エ・ランテル在住の腕の良い薬師の孫ンフィーレア。カルネ村の村長には申し訳ないが、情報の質は段違いだった。

 

漆黒の剣との談話では、魔法や武技、冒険者関係の情報が手に入った。

武技や魔法については元陽光聖典の面々から聴取したのだが、現在精査中であり、まだ報告は完璧に終わっていない。また、元陽光聖典組は魔法詠唱者の部隊である。そのため、モモンとしての出立の同日明朝に、シャルティアが犯罪組織に属しており、消えても問題無い武技所持者を捕獲目的で出立。先行しているセバスとソリュシャンに合流予定だ。

漆黒の剣との談話で得た情報から、現時点では、武技はスキルに近く、感覚で使用している技と判断せざるを得ない。

ワールドアイテム<真実の目>でも武技とは何かと調べる事は出来ない。だが、HPやMP等の消費やステータスの遷移は分かる。休憩時にペテルに武技。<不落要塞>を使用してもらった様子からして、肉体的疲労はHPを消費して起こる事だと分かり、情報不足も有りスキルの亜種と判断した。

魔法に関しては、元スレイン組で、歴史好きがいた事から土着の魔法が有ったが、現在主流の、便宜上ユグドラシル式の魔法が八欲王が広めたと分かる。その派生から、生活や使い勝手の良い魔法が生まれ、現在に至る事が分かり、ニニャに聴取した内容からして略間違いは無さそうである。

また、彼等との談話で予定変更した。

城塞都市エ・ランテルへ入る際に、ルプーと森の賢王で乗り込むのは取り止めとしたのだ。コレは、町へ入る際の審査に時間が、本来の予想以上にかかる為であり、ンフィーレアというツテが有ったとしても面倒なのは間違いない事が判明したからだ。冒険者登録をしてから、再度騎獣として登録というのが、結果的に面倒が少なくなるとの判断である。この間。二体は転移マーカーを付けた上で、エ・ランテルから一定の距離が有る時点で待機する予定だ。

 

そして、エ・ランテルへの入町は問題なく、一般的な審査で済んだ。魔導具も上位に擬装しており、見破る実力者もないかった為だ。

時刻も夕刻であり、予定通りである。手続きが終われば、モモン組は冒険者組合へ行く予定であり、漆黒の剣を含めたンフィーレア達は彼の店へと向かう予定だ。

 

「エンリ。リイジー女氏を交えた話も有るだろう。君の登録はルプー達の登録と合わせよう」

 

「分かりました」

 

だが、モモンはエンリをンフィーレアと行かせる事にした。エンリは不思議そうに了解の意を伝え、フドウも予定と違う事をするモモンに対し首を傾げる。

 

「では、失礼するよ(頑張れ)」

 

「っ、ありがとうございます!」

 

モモンはンフィーレアの側へ行きながらそう言い、肩を数回軽く叩くと、そのまま歩を進めた。ンフィーレアにはモモンの心の声が聞こたのだろうか。確りと御辞宜をした。その言葉に、そのまま歩きながら軽く手を振るモモン。

漆黒の剣にはモモンの意図が正しく伝わったのだろう。微笑ましくンフィーレアとエンリを見た。

 

(何か有ったのかな?)

 

(・・・ンフィーに何か危険が迫ってるのかな?)

 

フドウは何所か、理解できない感覚を覚えるも、ナーベと共にモモンの後を追う。エンリは、漆黒の剣の面々の視線に気づきながらも、モモンの指示は何かを察知したのかと思い、マントに隠れた右手の変身を解除し、刃を何時でも展開できる体制を取った。

モモンの行動は、彼等を影から護衛する2体のエイトエッジアサシンにとっては悩ましい事態だった。二体は視線を交差させると、一体はモモンの後を追う事となる。

 

そして、モモンと別れたンフィーレアは店の裏手へ行き、裏門から中へ入った。夕刻だというのに、祖母のリジイーの不在に不思議に思いながらも、漆黒の剣の助力もあり、薬草の搬入は滞りなく終わった。

空はいつの間にか黒く染まっている。

 

「下がって。ンフィー」

 

「エンリ?」

 

一息つこうとしている中、ンフィーレアが店の方へ行こうとした時、エンリは彼の前に立ちふさがり店の方へ続く扉を睨む。

彼女の異様な様子から、ンフィーレア達は尋常では無い何かを感じ、思わず緊張を覚える。

 

「漆黒の剣の皆さんは―――っ!」

 

エンリが言葉を紡いでいると門が破砕音と共に破壊された。

音と同時に数本の短剣が投擲され、エンリは咄嗟に右手の刃を展開し叩き落す。

火花が舞い、己や近くにいたンフィーレアに当たるモノは叩き落せたが、再度投擲された短剣を全て落とすには、投擲の間隔が短かった。

 

「ぐぅおっ!?」

 

「ダイン!」

 

『襲撃されました』

 

結果、ダインの肩に一本の短剣が突き刺さり苦悶の声をあげる。ニニャが心配から声を上げ彼に近寄った。

そんな中、破壊された扉が地面へ倒れ、粉塵が舞う中エンリは襲撃者を警戒しながら、左手で、マントの裏へ隠していた、非常用のスクロールでメッセージの魔法を使い、フドウへ短く緊急事態である旨を伝えた。

 

「ぐぅっ・・・」

 

「毒っ!」

 

短剣には毒が塗られていたのだろう。仰向けに倒れ、白目を剥き口からカニのようにブクブクと泡を吹くダイン。

小刻みに痙攣をしている彼の症状からニニャは、毒が原因だと判断したが、現状の手持ちの薬では対処は難しいとも分かるが、ソレでも手当てをするしかなかった。

 

「へぇー。なかなかやるじゃーん」

 

「何者なの?」

 

「誰でも良いと思うんだけどねー」

 

一刻も早く処置をしなければならない中、女性の嗤い声が響く。

扉が倒れた拍子に舞い上がった粉塵の中から獲物で遊ぶ、狂気に満ちた笑みを浮かべた金髪のショートに、ビキニアーマーの上にローブを羽織った妙齢の女性。クレマンティーヌが現れる。

その姿に対し、エンリは油断も隙も無く鉄の如き冷たい言葉で返すが、ソレがまた面白いのかクレマンティーヌは楽しそうに笑うばかりだ。

 

「へぇ・・・なら、お土産に何がしたいわけ?」

 

(え、エンリがカッコイイ・・・)

 

名前を素直に答えない事から、目の前の敵は少なくとも『考える頭』は有ると判断したエンリは、時間を稼ぐべく目的を問う。

その冷たい視線と言動は、ンフィーレアの持っていた、エンリへの印象をガラリと変えるモノであり、彼に有った男のプライド的なモノがベッキリと折れるが、エンリが気付く筈も無い。

 

「んふふっ。中々楽しそうだね。いいよー。言っちゃうよー」

 

クレマンティーヌは、目の前のエンリが臨戦態勢であり、楽しめそうな資質を持っているのではとこれまでの対応等から考え、外にいるカジットが異変に気付き、突入する時間を稼ごうと行動する。

 

彼女の判断では、エンリ以外は、今剣を抜いた漆黒の剣の面々と、敵が目の前にいるのに、何処か心此処に在らずというべき誘拐対象のンフィーレアと、正直ナメてるのかと言わんばかりの面々に苛立ちを覚えてもいる事も有った。だが、エンリが楽しめる対象かどうかの判断基準に話そうと考えた事もあり、話すのは時間稼ぎ3割だというのが彼女らしいかもしれない。

だが、最大の要因としてカジットは魔法詠唱者である。仮にエンリがンフィーレアを抱え、漆黒の剣を捨て駒にすれば突破事態は容易だと感じてたのも有る。

 

彼女の内容は単純だ。第七位階の死者の軍勢(アンデスアーミー)を使う為に、ンフィーレアの身柄が欲しいというモノだ。

 

「成程ね。けど、させると思ってるの?」

 

(なるほどねー)

 

クレマンティーヌの話した内容に、今日の晩御飯は何?と話しているかのように返答するエンリに、評価を一段と上げ、この危機的状況下で脱出を試みない漆黒の剣とンフィーレアに、逃がす気等無いにも関わらず一段評価を下げた。

エンリは、クレマンティーヌが目的を話したのは、絶対的に、己の実力への自信が有るのだろうと思う。彼女の狂気に満ちた双眸に、冷徹な理性を見たのだ。故に、現状ではンフィーレアが攫われるだろうと予測している。自衛ができない者が5人もいるのだから。

 

そして、中の異変に気付いたカジットが扉の隙間から中の様子を伺い、目が合ったクレマンティーヌは、楽しそうに嗤う。

 

「んふふっ。確かにアンタ一人なら問題だったかもしれないけどさぁー」

 

「うぐっ!」

 

「しまーーーっぐあ!?」

 

「ぺ、ペテル!ルクルット!」

 

あえて右手でスティレットを抜き、その切先をエンリへ向けながら、左手で投擲用の短剣を抜くクレマンティーヌ。

切先を向けられればソコに視線が向かうのは自然の通りであり、ソレが合図だった。カジットは闇属性の魔法弾を撃ち、クレマンティーヌへ警戒心が集中していたペテルとルクルットに直撃させた。エンリを狙わないのは、射線上にンフィーレアがいる為だ。

ダインの手当てをしていたニニャは2人の苦悶の声に驚き、振り返れば蹲っている2人の姿が目に映る。2人の背中は革鎧が損傷するだけに留まらず、背骨が見え、周りの肉が弾け飛んでいる事から相当の攻撃だったのかと思い、体が震えずにはいられなかった。

 

「うわっ!?」

 

「ンフィーレアさん!」

 

「クレマンティーヌ。さっさと片づけろ」

 

そして、念動力の魔法なのだろう。ンフィーレアの体が浮き、即座にカジットの元へと連れていかれるンフィーレア。

ソレを見ていながらも、先の魔法の威力から動けないニニャの声は苦悶に満ちている。

カジットは捨て台詞なのだろう。そう言い、裏門から出ていった。詰まらなそうに見下しているような語気だが、油断もせず、実に迅速で的確な行動だ。

 

「てなワケ。護衛するには失格ねー」

 

「貴女を此処で捕まえれば良いだけの事じゃない?アレは魔法詠唱者だろうから厄介なのは貴女だし」

 

クレマンティーヌは理解していたのだ。

背後の、動けないモノが増えれば増える程、エンリが動けなくなる事を。そして、仮にエンリだけが護衛であれば、もしくは、漆黒の剣を見捨てる事が出来る性格であったならばンフィーレアを攫うのは容易では無かった事を。

 

この揉め手を予測してようとも、動けない現状に、エンリの目には更に危険なモノが宿り、ソレがまたクレマンティーヌの心を揺れ動かす。

実に彼女の好み的に、仲間を傷つけられて激昂するのはとても、とても嬉しいのだ。正にクリティカルであり、思わず性的興奮を覚える程好ましい。

 

だからこそ、この一時はコレで終わるのは内心残念に思い、嗤う。

 

「ソレも無理だよー。ばははーいw」

 

「っ・・・」

 

「え、エンリさん・・・」

 

クレマンティーヌは右手を軽く振るい、流水加速や能力超向上等の武技を使い、ニニャへ向けて短剣を投擲する。

その速度からして、間に合うのは非常に微妙だったが、体勢を崩しながら叩き落すエンリ。だが、その隙にクレマンティーヌは駆け抜け裏門から脱出した。

 

マントを翻しながら立ち上がり、右手の刃を収納するエンリ。負傷した3人と、腰を抜かし、女の子座りをしているニニャを一瞥し、自責から歯軋りをしてしまう。

その表情は苦虫を噛潰したように、苛立ちと怒りに満ちている。

 

「っ!遅かったか!」

 

「ンフィーレア!ンフィーレアはどこだい!」

 

そんな中、冒険者登録を済まし、ンフィーレア宅へ向かおうと道を尋ねた相手が、偶々リイジー・バレアレだったモモン達が到着した。

モモンは扉が破壊され、倒れ伏せるペテル達から現状を把握し、フドウに抱きかかえられているリイジーは店の惨状よりも、ただ一人の肉親である、孫のンフィーレアの姿を探すが、見当たらない現状に焦りと不安で困惑した視線をしている。

ナーベは破壊された門の前に立ち、警戒しているようだ。

 

モモン達は、彼女と雑談しながら向かっていた途中で、エンリからのメッセージを受け取ったフドウがエイトエッジアサシンへ確認を行い、また、エンリの側にいた一体に追跡を命じ、リイジーを御姫様抱っこで抱え、走りながら彼女に緊急事態である事を伝えて急行したのだが遅かったのだ。

 

「リイジーおばあさん」

 

「エンリちゃんなのかい!?ンフィーレアはどうしたんだい!?」

 

降ろされたリイジーは、当事者である黒い女戦士が、ンフィーレアが懸想していた相手だと知り、あまりにも変わった雰囲気と、抜き身の刃を思わせる空気を纏っているにも関わらず、思わずマントに掴み掛る。

その必死な様子に対し、エンリは現在彼女に説明するよりも、モモンに指示を仰ぎ、即座に対応するべきだと判断した。己を護衛に付けたにも係わらず、護衛に失敗した現状に思う所がないと言えば嘘になるが、彼女は己の感情を完全に切り捨てる。

そんな彼女等のやり取りを見ながら、フドウは負傷者の治療に当たる。マイナーヒールと解毒魔法をかけた。雑菌が入ったままで治療して、感染症等を発症しないようにする為の処置だ。

ダインの容態も急激に安定し、息使いも穏やかなモノへ変わる。どうやら、解毒魔法単体で十分対応できる毒だったようだ。

 

「モモンさま。ンフィーのタレントを使って、死者の軍勢(アンデスアーミー)でここ。エ・ランテルを襲撃するそうです」

 

「彼のタレントでか?」

 

「はい。おそらく、ンフィーを魔力タンクにするつもりなんだと思います」

 

エンリの淡々とした報告にリイジーは唖然とした。そして、狙われた原因が、彼のタレントが知れ渡っている事から今回の事件が発生したのだと考え、彼のタレントが如何に彼の身を危険に曝し、町の危機に迄発展するモノだとは思わなかったのだ。

そして思い至る。

今回の事件が発生した以上、エ・ランテルにはいられない可能性が有るのだと。このように、事件の原因を知っている者がいる以上、一定の財力と権力ではンフィーレアを守る事は叶わないのだと。

 

「痛てて・・・モモンさん。エンリちゃんの言ってる事はマジだぜ。面倒な事に、魔法詠唱者とイカレタ女の護衛付きだ」

 

「ルクルットさん。まだ動いてはダメ」

 

「お、おう」

 

まだ傷口が塞がったばかりで、動けば皮が引っ張られる感覚から痛みを覚えているにも関わらず、体を仰向けにしようとしながらエンリの報告を補足するルクルットだったが、フドウの冷たい静止の声に、息を呑んでしまう。

彼女の発言は心配しての言動であるのは間違いないが、レベル差から威圧感を伴う言葉だったのだ。

 

「すいません。我々が邪魔になった為にエンリさんはンフィーレアさんを・・・」

 

「力及ばず、申し訳無いのである」

 

ペテルはルクルットと同じく重症であり、ダインは短剣に塗られた毒で体の自由が奪われていた事から何も出来なかった。

シルバープレートの冒険者であれば、生き残っただけでも幸運なのだ。

 

「何もできませんでしたっ」

 

だが、ニニャは泣き出してしまった。

生き残った安堵よりも、言葉通りに何もできなかった事に対してだろう。彼女は、己では対処できない『力』を持った相手に『奪われかけた』のだから。今回は幸運にも奪われなかったが、もしエンリがいなければ、彼女等全員の命は無かったのは間違いないのだ。

涙を流す彼女を、3人の治療を終えたフドウは優しく抱きしめる。ニニャはフドウに抱き着き、その顔を彼女の胸に押し当てながら泣く。

 

『ジュン様。現在地は墓地です。どうやら、なんらかの儀式を行う様子。もう間もなくかと』

 

『開始の合図は不要だよ。ただ、彼が死にかけたら即座に救出して』

 

『承知』

 

ニニャの様子は、まるで幼子が母の胸で泣いているかのようだ。彼女の嗚咽を聞きながら、フドウは優しく彼女の頭を撫でつつも冷静であり、エイトエッジアサシンの報告をメッセージの魔法で聞く。

そして行動に反し、注釈としてンフィーレアの死亡を防ぐ指示を出した。エイトエッジアサシンならば、即座に救出も可能だが、あえてエ・ランテルを危機に曝し、効率良く名声を稼ぐべきだと判断したのだ。

モモンから聞いた、エ・ランテルで冒険者登録する目的は、冒険者としての名声を得、情報ネットワークの構築なのだから。

ソコには彼女の感情は無く、ンフィーレアを危険に曝すのは彼女の本意ではない。だが、万が一が生じないようにするのが、彼女個人の意図を組み込める限界なのだ。

 

「そうか。では材料が要るだろうから、相手の拠点は墓地からか?」

 

「恐らく。エ・ランテルには集合墓地が有るので、間違いないかと」

 

「対処できる人物がいるって分かっている以上、時間はあまり無いと思う」

 

モモンはユグドラシル式の魔法から、アンデッドの作成には材料として死体が必要であると考え、最も効率的な場所を言い、エンリは魔法の基本的な仕様を叩き込まれている為肯定した。フドウは現状分かっている内容から不自然さが無い程度に、憶測として言うが、モモンは、コレがエイトエッジアサシンから齎された情報だと理解している。

時間がそれ程残っていないのだと、聞いていた者達は理解した。

 

「私が防衛。モモンさんとナーベが強行突破して救出かな。ある程度撃破しながら突破出来るだろうし」

 

「いや。死者の軍勢(アンデスアーミー)ならば時間との勝負だ。私とエンリがルプーに乗り強行突破する。2人には防衛を頼む」

 

「雑魚を無視して、中核を叩くって事だね」

 

フドウの案としては、ある程度の討ち漏らしを想定したエ・ランテルの防衛策だったが、モモンは強行突破を選択した。第一の作戦目標がンフィーレアの救出であれば不自然さは無い。だが、多くを守るために、少数を切り捨てるのは一般的な考えであり、大多数を危険に曝す案でもあるため、受け入れる者は人情が有る者や、当事者の肉親くらいかもしれない。

モモンの考えとしては、エンリ程度の実力者(レベル50程度)を想定すれば、エンリとのコンビでも十分敵の撃破が可能なのだ。

 

「さて、リイジー・バレアレ。私達ならば孫を助ける事ができる。依頼するか?高いがな」

 

「カッパーのプレートだが、確かにお主達ならば・・・うむ。汝らを雇おうともっ!孫を救ってくれ!如何程であれば満足して頂けるか!」

 

「報酬は後で話すべきだな。今は時間が惜しい」

 

そして、わざわざこのようなやり取りをしたのは、リイジーへの説明も兼ねてだ。そして、暗に己達は彼女の味方なのだと言っているようなモノ。

彼女としては、モモンの首に架けられている、黄銅色の輝きを放つ冒険者プレートよりも、目の前で行われた会話と、微塵の心配も無く、自信に満ち溢れたモモンに頼もしさを感じ、例え財産の全てを失おうとも構わないと、決心した。

そしてリイジーの決意に応えるかのように、モモンは足早に裏門から外へ出ようと歩を進める。報酬未定の後払い程恐ろしいにも関わらず、その決意と一縷の望みに賭けた信頼に足りると思わせる程、彼女にはモモンの背中が大きく見えた。

 

モモンの後を皆が皆追い、全員が出たのを確認したフドウは、ルプーと森の賢王をこの場に呼び出すべく、転移門を発動させる。

白と黒の混沌を思わせる渦から、彼女等がこの場へ出てきた。

 

「なんとっ。召喚を扱えるのかっ・・・それに、精強な魔獣を2体も・・・」

 

彼女等の放つオーラ的なモノに、リイジーは己の判断が間違い無いモノだと確信した。

彼女の雰囲気を横目に、止められていた荷台付きの馬車と森の賢王の物理作成の魔法で、ベルトと鎖を作成し、森の賢王が荷台を引ける状態にした。

 

「森の賢王。漆黒の剣の人達とリイジーさんを冒険者組合まで乗せてあげて。基本的には漆黒の剣かリイジーさんの指示を聞いて。私達は侵攻を遅らせる」

 

「ルプーよ。私とエンリがお前に乗る。今回の獲物は骨だ」

 

「承知でござる!」

 

「了解っすよー」

 

フドウとモモンの言葉に、森の賢王は元気よく、ルプーは少し気怠そうに答える。リイジーの様子からして、彼女の好む展開にはならないと本能的に感じた為だ。

 

「リイジーさんや漆黒の剣は冒険者組合に報告をお願いします。あと、3人は戦闘への参加は止めて。私達が確りと護るからね」

 

「すいません。お願いします」

 

「頼む。ンフィーレアを救っておくれ・・・」

 

フドウの言葉は、彼女等にできる事をお願いするものだったが、ペテル達は守れないばかりか、荷物になった事が悔しいなのだろう。だが、彼等は己の実力を把握し、フドウとモモンへ頭を下げた。モモン達がリイジーの、最後の希望なのだろう。そう言うしか無い。

ソレを見届けたモモンはルプーに騎乗し、エンリの手を引いて己の前に座らせると、ルプーを走らせた。フドウとナーベはモモンの出発からフライの魔法を使用し、飛翔する。

灯りの有る夜のエ・ランテルを翔ける。

 

移動中に、打ち合わせや装備の準備を済ます。

今回モモンとエンリ、ルプーが突入組だ。未知の敵であり、エンリ程度の実力者の出現は、フドウが自身の額に装備しているアイテムを貸し出すには足りる事態だと判断した。

 

モモン達は邪魔な一般人がいない、屋根や空をメインに翔れば墓地の門の前には直ぐに到着した。

だが、誤算が有った。アンデッドの戦力展開が予想以上に早く、既に衛兵は壁の上での防衛を放棄し、門の内側に戦力の展開をしていたのだ。

そして、フドウの目には、逃げ遅れた2名の衛兵がスケルトンの餌食になっているのを捉えた。

 

「まだ生きてる。ワイドエリアヒール!」

 

「ぅぅぅ・・・っ」

 

治療魔法はユグドラシルと同じくアンデッドにはダメージ効果を持つが、人間には回復効果を与える。

フドウは急加速で接近し、広域治療魔法を爆弾のように落とす。スケルトンは塵へと化し、残ったのは呻く衛兵の姿が残った。どうやら、恐怖か、死にかけたからか気絶している様だ。

 

「モモンさん!エンリ!ルプー!お願いね!」

 

「ルプー!飛び越えろ!」

 

地面に着地したフドウは、彼等の容態を見る前に、広域回復魔法で壁の近くにいたスケルトンを一掃し、一度空へ向けてそう叫んだ。

それが合図になった。

モモンは一度手綱を引き、そう命じればルプーはその跳躍力を見せ、軽々と壁を飛び越え、一気に駆ける。モモンは左手に剣を持ち、エンリは右手の刃を展開し、進行方向にいるアンデッドを切り裂き、瞬く間に見えなくなった。

疾風迅雷とはこの事だろうか。

 

魔法最大化・聖なる防壁(マキシマイズマジック・ホーリーウォール)!」

 

それを確認したフドウは、即座に魔法の防壁を発動させる。効果は単純であり、アンデッドや悪魔系へのダメージの有る攻勢防壁だ。

 

「ナーベ!迎撃!」

 

「雷撃」

 

だが、この障壁は、即座にHPが0になり、アンデッドが問答無用で消滅するほど威力が有るモノではない。ナーベは淡々と魔法で骸骨共を塵へとする作業に入った。

夜だというのに、陽光を思わせる光の障壁の出現。そして魔法の炸裂音が続く現状に、一人、また一人と衛兵達は壁の上へと行けば、ソコに広がる光景に我が目を疑う。

 

「お、おい・・・俺達は何を見た?」

 

「俺達は伝説を見ているのか?」

 

先ほど迄は、見渡す限りいたスケルトン共。終には抑えきれずに、壁の内側へ一時撤退するハメになった。だが、光の障壁の内側には一体も存在しない。

迫りくるアンデッドの軍勢を2人の女が魔法で押し留めており、また、諦めていた隊員が蹲っているが時折痙攣しているかのように、動いている現状。

そして、不自然に奥へと続く、アンデッドがいない一本道が形成されている上に、姿の見えない狼の魔獣に乗った二人の漆黒の戦士。

彼等の常識を逸脱した光景に、どう行動すれば良いのか。そして、どうするべきなのか。男達は分からず、隣にいる者に、ついこの光景が見えているのか。現実なのかと話し合ってしまう。

 

「よし。誰か!この人達を門の中へ!アンデッド化はしていないから大丈夫ですよ!」

 

「あぁ!門を開き、彼等を救出しろ!」

 

障壁へ流す魔力の出力を、何とか第5位階以下になるように調整しながら、気絶した彼等の容態を確認したフドウは彼等を退避させる事を選択した。

彼女の言葉に現実へ引き戻された中年の男。衛兵の隊長は部下達に命じ、彼等も現実へ引き戻す。

 

「フィリップ!スタンリー!マジかよ!?」

 

「傷一つ無い。なんて人だよ・・・」

 

「カッパーなんて嘘だろ?」

 

門を開き、彼等の無事を確認した隊員達は混乱するしか無い。スケルトンに引き摺り込まれ、生存を諦めていた仲間は無傷で気絶しているだけなのだ。

隊員の一人が、フドウとナーベの首に架けられたプレートの輝きに気付くが、それがまた現実逃避させようとする。

最下位に属する銅クラスの冒険者ではありえない戦果なのだから。

 

「ボーっとしない!退いて門を閉めなさい!」

 

「「「はいっ!」」」

 

フドウは彼等の様子からして、あえて強い口調で注意した。我に返った彼等は慌てて気を失った仲間を担ぎ上げ、撤退した。

だが、門はまだ閉まらない。

 

「君達はどうするのかね!」

 

「私達は大丈夫。モモンさんが戻って来るまでは、絶対に護りきるから安心して」

 

「頼む!門を閉めろ!」

 

隊長の言葉に、フドウは笑って見せた。仮面で隠され、口元しか見えないが、その笑顔は穏やかであると隊長には感じ、下手に援護すれば、逆に彼女等の足を引っ張る結果となると判断した隊長は御辞宜をして、そう部下に命じるしか無かった。

軋む金属音と共に門が閉まり、魔法の炸裂音が続く現状に、隊長は己の無力さを感じつつもこのアンデッドのスタンビートの発生に、彼等を遣わしてくれた者へ感謝する。

そして、ふと呟く。

 

「漆黒の英雄と仮面の聖女だ・・・」

 

アンデッドの軍勢を切り裂き、奥へと突入した漆黒の戦士と、押し留める仮面の魔法詠唱者。ソレを補助するのは同じく、漆黒の鎧を着た女と、旅装束の魔法詠唱者。

伝説を見たと思う。また、命が助かったと、何処か本能的に感じたのだろう。隊長の呟きに同じく『英雄』だと『聖女』だと囃し立てる彼等の声が、魔法の炸裂音に混ざり響き渡る。

 

「ゴ・・・命を救われた以上。モモン様の役に立つよう励んで貰えるようですね」

 

「そ、そうだね」

 

ナーベは彼等の会話から、何処か満足そうであり、フドウは少し言いずらそうに肯定する。

ナーベはフドウやモモンから、活躍を広めるのは目撃者が必要であると聞いていた。支配者の考えを完全に理解する事はできないと理解しているナーベだが、モモンの考えの通りに動きそうな現状は彼女的には満足に足りる。

 

(止めてよっ!名声を高めるのは成功したんだけど、ソレは無いよ!聖女とかフラグっぽいし!)

 

一方のフドウとしては、己が『聖女』と称えられるのが非常に嫌だった。

厨二病の再発等ではなく、スレイン法国等の宗教国家が有るのだ。勝手に付けられた二つ名だといえ、面倒事にしか思えないのだから。

 




道中は大幅にカット!
飯食うだけでも隣に座るフドウさんの腰に手を伸ばし、自分の方へ抱き寄せたり、寝るときにはマントの中に隠そうとするモモンさんを書いていて、何か、非常に・・・『何所の乙女漫画だよ』と判断したからねw

そして、漆黒の剣生存ルートです。
ただし、生きているからと死亡フラグが完全に折れるとは甘い考えw

次回も日曜投稿でーす。

追記1
感想でご指摘が有り、調べさせて頂きました。
リイジ―さんのイですが、TVアニメ公式オフィシャルサイトでは大文字。アニメオーバーロード完全設定資料集でも大文字。書籍2巻P55~と書籍8巻p12。此方も大文字でした。
ィ表記なのはオーバーロード大百科ですね。 ttp://overload.2-d.jp/

よって、当作品ではリイジ―・バレアレとさせて頂きます。
ご指摘して頂いた方には此処で感謝を。ありがとうございます。

追記2
いつの間にか総合評価が2000pt超えてました。皆さんの応援、ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。

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