魔王様の友人は風変りな悪魔(元男です)   作:Ei-s

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キャラ崩壊・捏造万歳


閑話2 ウルベルトの独白

この世の中は腐っている。そんな漠然とした思想を抱いたのは何時だっただろうか。

政治は企業共の言いなり。貧富の差は、変な差別意識を含めて、気が付けば偽善すら吐く者はいない。富は一部の上層部に集まり、アースコロジー内のみにしか、自然というモノは存在せず、一歩出れば毒しかない大地。外では、まだ一桁の年齢しか無い子供ですら春を売る始末。何処に人間の尊厳等有るのだろう。だが、『子供』でしかない私には『知識』も『力』も無い。故に、蓄えねば。そう思い、気づいたら12歳を迎えたのだ。

母は知識人だった。己の思想は母の影響を多大に受け、その結果だと理解している。父は科学者だった。規約等に縛られ、家で『何の研究』をしているのか話す事が出来ない。正にアースコロジーの働き蟻だ。私はそんな父が情けなく思い、それでも、我慢する日々を過ごしていた。

そんな日常が変わる事が有った。

母が命と引き換えに、弟を産んだのだ。

始めは、大好きだった母を奪った存在だと思ったが、医師の対応から『母』を救う気が無いと感じており、その思いを飲み込んだ。

そして、その懸念は正しかった。父が連絡すらしなくなり、毎月の通帳への振り込みしかしなくなったのだ。

私は思った。父の研究が佳境を迎え、父を逃さない様にする策略ではないかと。だが、立証もできなければ、確信が得られる訳でもない。唯の被害妄想だろう。だが、この考えは、何故か『間違っている』という思いは無かった。

『力』の無い私には、弟を育てる事しか出来なかったのだ。

 

弟は夜泣きを殆どせず、一緒に寝てやれば『天使』に等しい寝顔を見せ、初めに喋った言葉は『にー』。まるで猫の鳴き声みたいな声だった。少し大きくなり、食事を用意しようとすれば、えっちらおっちらと食材を運び、つい、コテンとコケて泣く姿は愛おしさしかない。だが気になる事が有る。『父』という存在を理解していない様子だった。故に隠した。私は隠す意味も分からず、父と母の写る写真データを記録媒体に落とし、鍵付きの引き出しの中へ隠したのだ。

己が18才。弟が6才の時。我が家は裕福である為、己は大学へ。弟は小学校へ進学した。そこで弟は気づいてしまった様だ。両親という存在は、この裕福な者達にとって一般的なのだと。そして私に聞いてきた『お父さんって何?お母さんって何?』好奇心なのだろう。だが、その無垢な瞳は、私を断罪している様に思えた。

故に、母は死に、父はそれ以降帰って来ない。そう幼い弟に伝えるしか出来なかったのだ。

 

この頃だろうか。弟が笑顔の下に感情を隠す様になったのは。弟が、幼い子供が感情を制御する等、私には到底受け入れる事が出来ず、ソレを何とか崩そうと、今は亡き母と同じく、古いアニメを一緒に見、価値観の共有をしようとした。だが、ある意味失敗だった。親子とは何かを知りたがる様になり、アニメを一人でも見続ける様になったのだ。隠していたグロ系や微エロ系迄、フォルダの暗証番号を私の持つ本の傾向からか『1799』を探り当て、私に悟られずに見終わる等、予想できもしなかった。

それ以外では良く出来た子だった。家事を手伝い、よく甘える様になった。私に『親』を求める様になったのだ。

私は可能な限り一緒にいる事にした。

私が本を読んでいれば、さり気なく私の膝に乗り、意味が分からない内容であろうとも読もうとする弟に、丁寧に説明した。

私が風呂へ入れば、何時の間にか背後に立ち、背中を流そうとするのでされるがままにし、上手にできたと頭を撫で、褒める。

私が家事と学業で疲れ、ソファーで寝てしまえば、一人で毛布を出したのだろう。私に掛け、自分は私に抱きついて眠る弟。

共にアニメを見、共に食事をし、共に眠る。私の前では感情を制御等せず、屈託無く笑う様になったのは何よりも嬉しい事だ。

・・・今思えば、弟が何を求めていたのか分からない。だが、私は弟にとって『父』であり『母』であらねばならなかった。故にコレが私たち兄弟にとっての普通なのだ。そして弟を歪める、最大の原因となったのだ。

 

私は警察へ就職した。父に万が一有り、仕送りが無くなった際、高給の職業且つ、富裕層への覚えが良い為だ。私の行いは『悪』なのだろうかと、真剣に悩む職種だと理解し、覚悟して就職したのだ。

この時代。モラルは既に崩壊し、政府は企業の傀儡である。故に、富裕層がでっち上げた犯罪者を始末するのが、ある意味警察の仕事なのだ。

治安維持の名目の下、外にいる民を銃で一掃し、その屍を放置するなど人の行いでは無い。中には正義感有る者もいるのだが、ソレを表に出せば始末される。何とも生きにくい事だ。母が良く言っていた。この時代の警察は既に絶滅した『ヤクザ』以上に酷い、企業の猟犬だと。義理も人情もない等・・・昭和と呼ばれた時代の映画の見すぎだと、私は思う。

ともかく、今の生き残る術は、長いモノに巻かれる事である。反骨精神からは反逆すれば、害は私だけで無く弟も苦しめるだろう。故に、私は己の『意志』を捻じ曲げ、弟の為を思い、生き方を変えたのだ。今思えば父もこの苦しみを味わったのだろう。母と私を護る為に。やはり、子供には理解できぬ苦しみだったのだ。だが、父は愛した女を奪われた。ソレでも尚、私と弟を護る為に傀儡となっているのだろうか。私であれば・・・いや、もしかしたらと、この頃から父の真意が知りたくなった。母が言っていた、私が産まれる前の父は、唯の理知的な男では無く、野望を抱いている野心家だったと聞いていた為だ。

こうして時間が流れ、心を擦り切る現実に、私を癒してくれたのは弟だ。弟の存在が、家に帰れば用意されている食事等が、私を『人』である事を思い出させてくれる。だが、弟との会話が最近少なくなってきた。少し早いが反抗期なのだろう。そして、私の仕事を知っているが故に、私を嫌悪しているのかもしれない。やれやれ。こんな所を似られる等予想外だった。父よ。すまない。私が幼いばかりにこの様な苦しみを味合わせていたのだな・・・

弟が11歳になる年。DMMORPGユグドラシルがサービスを開始する事なった。同僚がβ版をやっており、自然等も素晴らしく、少しでもこの仕事で得たストレスを発散するのは良いだろう。との事だった。

私は不特定多数の様々な人間との接触や、疑似的地とは言え、自然が豊富である事から弟の教育にも良いのではと考えた。

弟の意見は尊重せず、思わず弟の分のアカウントも取得した。弟も自然というモノに興味が有ったのか、一緒にする事になった。『ジュン』という在り来たりのHNを利用させる為、有給休暇を取った事には呆れ半分に喜ばれたのだが、今思えば良い思い出だろう。だが予想外だったのは、まさか弟が『女』のアバターを利用し、人族でソロプレイを始めた事だ。現実の顔をより女に近づけた顔つきは、以前見た昔のアニメのキャラクターにソックリであり、つい笑えば不思議そうに私を見た。この時、悪ふざけで髪を伸ばしたらどうだと言わなければ良かったと、暫くして後悔した。

・・・弟の容姿は非常に華奢なのだが、髪を伸ばせば『女』にしか見えない。コレが滅んだ筈の『男の娘』か。等と現実逃避するしか無かった。そして母に良く似ていた。深読みかもしれないが、弟がアバターを女にしたのは『母』を求めての事だったのかと思わなくもない。・・・どうか、主義趣向は正常であってくれ。

ともかく、私はユグドラシルでは、『悪』を極めるロールプレイをした。種族も異形種であり、『人』では無いのだから、いろいろと抑えている感情を表に出し、『悪』で在っても良いと考えたのだ。もっとも、異形種を狩る人族を潰すのが楽しかった事も有る。正直、ただ弱者を虐める事しかできない輩を、更なる圧倒的な力で潰す行為は快感でしかない。こうして私のプレイスタイルは決まった。圧倒的火力で消し炭にするのだ。思わず高笑いをしてしまう程、ストレスが発散されて実に良い。弟には、もう少し自分を出したら、等と言われたが・・・残虐無比。冷酷無血なプレイをしている上で、更に自分を曝せとは・・・悩ましい限りだ。

同僚には感謝せねばならない。と思っていた矢先・・・凄まじい迄のヒロイックロールをするプレイヤーと、一人の骸骨のプレイヤーを弟から紹介された。何でも、PKに遭っていた骸骨のプレイヤー、モモンガさんを助けた際に知り合ったそうだ。

そして、異形種狩りをする者へのPKKギルドを作るのだと、ヒロイックロールのプレイヤー。たっち・みーが言い出したのだが、自身が人族でプレイしている為、参加できないと悲し気に私にお願いしてきたのだ。まぁ、最近は弟が頼み事をする等、珍しい事なので受け入れたのだが。妙にこの『たっち・みー』とは反りが合わん。まぁ、ロールプレイの問題なのだが、つい子供みたいに曝け出してしまう。まったく、20過ぎの男として情けなくもあるが、何処か心地よいのは何故だろうか。成程。コレが弟が言っていた事か。確かに、何の因果も無く、口喧嘩やPvPをするのは、楽しい事だ。

だが・・・コレは、私には友達と呼べる者が少ない為か?まぁ、富裕層の多くは、下種だ。気にしても無駄か。

 

一年後くらいだったか、同僚を家に招いた時の事だ。

弟がエプロンをしたまま玄関で出迎えた。この日は偶々タンクトップに短パン姿だったのだが・・・同僚の『裸エプロンで出迎える妹、だと・・・?犯罪だ』の呟きが嫌に鮮明すぎる。冷静に考えてみれば、確かに弟の姿は彼の言った通りだった。容姿も女にしか見えないし、声も声変わり前の為、女の声にしか聞こえない。同僚に『弟』だと訂正したのだが、なかなか信じない上に、弟は弟で私と同僚の、スーツの上着を受け取るとハンガーにかけ、我関せずと食事の準備を続行した。

弟よ。少しは兄の世間体を考えてほしい。酒の酌、配膳までこなした後で食事を開始する等、同僚の私を見る目が、完全に職場にいる時の目なのだが・・・勘弁して欲しい。

何はともあれ、弟に彼がユグドラシルを紹介した人物だと伝えれば、感謝の意だと理解しているのだが、真横で酌をしたり、食事の世話をするな。地味に隠し味は何だと耳元で囁いたり、少し屈んだりして彼の顔を覗き込んだり等々、本当にやめてくれ。

鋼の精神力を持つ彼が、そんな彼の目がだんだんと遠くを見る目になっている。小さく、「彼は男。彼は男。彼は男」だと呟いている等、信じられない。

弟よ。ソレを楽しむかのように小さく笑うな。何時からそんなに小悪魔チックになった。茶釜さんか、ペロロンの影響か?やはりあの姉弟は教育に悪い。流石に、この件については抗議・・・いや、まだ歳は近い方か。現実では本当の意味での友人が少ない様子の弟。ここは少し控える様に求めるか。

そんなこんなで、彼が平静を取り戻せば、話は自然とユグドラシルの事となる。

ソコで私と弟は、彼が『たっち・みー』だと知る。弟は純粋に驚き、甘える様に抱き着いたりしているのだが、私は驚きを隠せなかった。何故なら彼は、正義感は強いが、仕事では一切私情を出さず、私と同様に、冷徹に仕事をこなすのだから。まぁ、それで彼が、ユグドラシルでは、やりたい事として過剰な迄のヒロイックロールをしているのだとすれば・・・納得できる。それ程、『優しく・正しく』生きる行為は、今の時代はできない事なのだ。

彼を駅迄送る際、双方のロールについて等を話合ったのだが、このままではギルドが二つに分かれる可能性が有る為、本拠地を手に入れ安定し、時期を見てギルマスの座をモモンガさんに譲る事を決定した。モモンガさんには人の意見を上手く纏める才能が有る上に、小さいことも見逃さない観察眼。更に、咄嗟の判断力と実行力については脱帽する程だ。正直、リアルの上司がモモンガさんならば、私と彼の心労は間違いなく減る。モモンガさんが小卒でなければ、スカウトしたい人材だと彼と駅で駄弁った。この時私と彼は公安・・・現在ではある意味、秘密警察兼対企業の特殊部隊への配属が決まっていたのだ。戦闘や潜入捜査も増えるが、生き残る為には是非モモンガさんみたいな人材は欲しい。まぁ、上司に却下されたがな。

まさか、相棒になるのが彼だとはな。ゲームでは相性最悪でPvPをよくする仲なのだが、現実世界では、これ以上無い相棒になるなど、この時は思うはずもなかった。

 

そして、弟が16になった頃、ギルド。アインズ・ウール・ゴウンは完成した。

正に冒険としか言いようがない日々は私達の好奇心を満たし、また、弟の存在がダンジョンであったナザリック攻略の鍵になる等、信じられん。容姿に反してウォーモンガー過ぎるぞ。モモンガさんのコンビでレベル100の6人パーティーをPKK出来たとか・・・兄さん寂しいよ。

そして、課金による拡張の結果、完成した大墳墓は、ある意味天上の空間。財を尽くした趣向は正に至高の出来だった。

そして、マーレ。お前に自意識が有ったら謝らせてくれ。例のたっちを自宅に招いた件を、ぶくぶく茶釜さんに根掘り葉掘り聞かれたせいで、お前は男の娘になってしまった。まぁ、ペロロンチーノへの当てつけも有るだろうがな。

色々有ったが一息ついた。そう思っていれば、一つ問題が発生し、予定より早いが、たっちがギルマスの座をモモンガさんに譲る事になった。

結婚したのだ。まぁ、結婚相手が某大型ギルドのギルマスであり、ある意味たっちの奴が誘拐して一つのギルドを崩壊・離散したのだから。たっちがユグドラシルを引退しなかっただけ良しとしよう。

そもそも、彼女を放さなかったのは、大半が寄生していたギルメンだったのが良くなかったな。

因みに、たっちが引退しなくて良かったのは、動画をるし☆ふぁーの奴が撮っており、ソレをネットに拡散し、大量の擁護者を得た為だ。当の結婚相手は羞恥のあまり引退したようだが、たっちのロールも相まって、騎士が洗脳されていた姫君を救出した様にしか見えない。前後の事情は良識有る元ギルメンが、掲示板に色々書き込んだのが、多くの支援者を得た切っ掛けだろう。

ついでだが、リアルでの彼女は、まさかの同僚だった。優秀な人材が退職か・・・まぁ良いがな。

 

これからだろうか。アインズ・ウール・ゴウンが悪のDQNギルドと呼ばれる様になったのは・・・まぁ、仕方がない。こうなれば、モモンガさんに、『魔王ロールとは、支配者ロールとは何か』を、シッカリと教えさせて貰おう。恥ずかしがるな。やはり貴方は最高だ。磨けば素晴らしい役になる。と、楽しんでいたいたのだが、弟が齎した情報がややこしかった。『悪のDQNギルド』という表の情報を鵜呑みした輩が、攻め入る事になったらしい。しかも、運営を巻き込んだ一大イベントにして。その根幹になったギルドを、策で割り、ついでに色々と放火した弟の成果で、烏合なんだがな。例の鉱山やPKで色々と恨み買っているからな。

あとな。兄さん。お前の将来が心配だ。ゲームでは、私も色々とハッちゃけているいるがな。お前は何をしたいんだ?まぁ、モモンガさんが面倒見が良いのは知っているが、下調べも無く種族変更アイテムを使うわ、加入したいギルドの加入条件を知らないとか、溜息モノだぞ。

そして、問題の大侵攻だが・・・おい。モモンガ。第八階層で、残りをお前一人で全滅できたとか。まぁ、るし☆ふぁーの奴が動画を撮っているし、ネタにしてやろう。あと魔王ロール最高だったぞ。

ナザリック地下大墳墓を見て、弟がギルドとギルドホームを、スカイ・スカルを作る事になった。アイツはギルメンにも好かれているし、モモンガさんも可愛がっているからな。ただ、何故私を頼らない。殆どの素材を一人で集め、偶にモモンガさんやぶくぶく茶釜さん。ペロロンチーノの姉弟の協力を得たようだがな。寂しいモノだ。小さい頃は何時も私にベッタリだったんだが。?ぶくぶく茶釜に、やまいこ?何?詳しくだと?っと、要らん事を思い出しそうになった。

 

暫く相棒と共に仕事で自宅にも帰れず、ログインもできなかったんだが・・・ジュン。そのアバターは、大丈夫だったのか。そうか。

・・・運営。元ネタ知ってやがったな?NPCについてはシッカリ監修兼規制するぞ。

気が付いたらギルメンが弟に色々と教えている様子なんだが・・・現実でも、ふとした仕草が女っぽいんだが、どう責任取ってくれる?久しぶりに兄弟家族討論会したが、性的趣向は正常だった。ただ、無意識にそういう仕草をしてしまうとか・・・頭が痛い。

 

まぁ、そんなこんなで楽しい日々を過ごしていたのだが、弟が17になった頃、ユグドラシルを引退する面々が出始めてきた。サービス開始から6年。たっち曰、遅いくらいらしい。たっちの奴も子供が産まれた為に、皆に惜しまれつつも引退したしな。

そして、私も引退する事になった。ある日。父の遺体と遺品が届けられたのだ。

私も非番だったのも有るが、久しぶりに顔を見た。最後に見て19年。年老い、総白髪であり、やせ細った姿は思い出と相違し、また死に顔は無念さが伝わって来る。父よ。結局、弟の声も姿を知らないまま逝くか。この時私も知ったのだが、どうやら弟は父を憎んでいた様子だ。職業柄か、弟の目が危険なモノだと判断できた。まぁ、被害者になりそうな相手は既に死んでいるのが、不幸中の幸いか。

父の遺品を整理していると、日記らしいデータを見つけた。そして、ソレは唯の日記ではない。

母が生前言っていたのだが、ある規則性をもって読み解けば・・・父の無念と怒りが伝わってきた。やはり母は殺されたのだ。そして父は怒りと憎しみをもって研究に当たり、そして不治の病にかかったのだと記してある。そして問題なのは・・・私と弟が人質となっていた様子だ。故に父はこの日記に全てを隠したのだと理解した。

父の研究は一言で言えば、量子力学による、物質転送らしい。一瞬なんのSFかと思ったが、論文に当たる部位を読み解けば、危険性が大きいものの、実行できる可能性は高いと判断した。そして、これが企業共のゴリ押しで進められている事も。また、証拠に成りそうな物が保管されている場所が幾つか記されており、コレはチャンスだと思ってしまった。コレで、アイツらの天下を崩せるのだと。

父のデータを元に相棒と調べれば調べる程、不思議な位に証拠は集まる。そして、私は決心した。全てを白日の下へと晒すと。

どす黒い欲望に支配された私は、ユグドラシルを引退する際、まだ残っているギルメンと、NPCであるデミウルゴスとアンジェの様子を見る事にした。

デミウルゴスは己の悪の美学を注ぎ込み、少々黒歴史感が有るものの・・・弟がいなければこうなっていたであろうと予測した『自分』がモデルだ。敵に熾烈に、味方には優しさを抱きたいと思った理想でもある。故に、思うのだ。『人』の心は此処に置いて行こうと。NPCに話しかけた自分の姿は変だっただろう。だが、コレは、私が歩む修羅道で、慈悲を見せない為の儀式なのだ。

故に、デミウルゴス。アンジェ。お前たちに意識が有るのならば・・・アイツを頼んだぞ。

モモンガさんには一身上の都合と言い、仕事の都合上弟と一緒に住めなくなる為、可能な限り弟の様子を気に掛けるようにお願いした。そして、モモンガさんの、私を、弟を気遣う言葉を述べ、その配慮に感謝する事しかできなかった。だが、コレで『心』は置いていけそうだ。ありがとう。モモンガさん。

 

弟には現実世界で、父が帰ってこなかったのは、連絡もしなかったのは守秘義務に関する事であり、ソコには父の意思は無かったと伝え、私も仕事の都合で家を出ると告げた。私の独りよがりなのだと分かっている。だが、弟には余計な荷物は背負わせたくなかったのだ。

そして、弟から連絡が来る事は、無くなった。心配しているが、父の意思を知った弟が、心を整理する時間も必要だろうと判断し、気に留める事も無かった。

時が過ぎるのは早かった。そして、相棒と暴き、証拠を集めれば集める程『人間』が嫌いになっていく。

相棒は困った人を助けたいと思う反面、自身が救える者たちが少ないと落胆もしていた。それほど、企業共の作った世界の闇は濃い。そして疑問を覚える者が少ないという歪さを、私は痛感していた。

私は相棒に告げた事がある。『世界の欺瞞が悪ならば、更なる悪、暴力によって滅ぼすしかない』

この一言に相棒が返したのが。『力は所詮は力でしかない。お前は、暴力は悪だと言うがな』

何て厨二具合だろうか。いい年したオッサン2人が面と向かって大笑いした。だが、私は思う。誰が何と言おうと、力でしか解決出来ないのならば、ソレは『悪』なんだろう。言葉による相互理解の可能性を考慮に入れていないのだから。だが、良かった。ユグドラシルの時みたいに、意見が割れずに済んで。

多分。相棒も理解しているのだろう。『夢や理想は美しいが、現実では達成できる可能性は低い。現在出来るBestを尽くすしかない』と。

あぁ・・・戻れるなら、昔に戻りたいモノだ。皆と笑いあい、相棒であるたっちと反目しながらも楽しかった日々に。弟の笑顔が見たいモノだ。だが、ソレは叶わないだろう。先日、ユグドラシルのサービス終了が迫っていると弟が告げた為だ。たっちも残念に思っているが、私達もココが正念場だったのだ。

何故か用意された地球脱出用兼居住性能の有るモノ。アースコロジーの宇宙用とも言いたくなるモノを建造した者共が何をしようとしているのか、予想もしたくはない。相棒曰、私達がやらねばならない仕事は、『次世代に希望を示す事』らしい。まぁ、私は『復讐』も兼ねているが・・・確かに、弟に未来の可能性を残したいと思う。

しかし、笑える話だ。私達2人の仕事だというのに、引退した、嘗てのギルメンの協力で、此処まで来れたのは正に行幸。まさか、死獣天朱雀が父の友人であり、父の研究も理解できたため、奴等の目的も直ぐに理解したのは本当に助かった。だが、連携には少し難が出た。やはりモモンガさん。貴方がいれば、もう少し迅速に動けたのだろうかと、残念にも思う。

 

記憶が所々曖昧だが、懐かしいナザリックで気が付き、幽霊みたいな現状は理解できる。そして、モモンガさんが体に引っ張られる形で心が変化し、狂ってしまっている事も理解できる。そして、責任を背負う覚悟からか、『アインズ・ウール・ゴウン』を名乗り、人心掌握に努めたのは感服する。

するが・・・

 

「何故だジュン。兄さんは、兄さんはそんなハシタナイ娘に育てた覚えはないぞ!」

 

「いや、もともとは男だっただろう。確かに女の子みたいな容姿をしていたが」

 

月下の下、アインズの膝枕で眠るジュンを見ながら、ウルベルトは嘆いており、たっちは、そんなウルベルトの肩を何度か叩きながら慰めている。ユグドラシルでは『遊び』として認識しており、双方共にロールしていた為に嫌悪しあっていたのだが、実際は唯一無二の相棒だった為だ。

先ほどから泥酔し、昔の思い出を壊れた機械の如く垂れ流していたウルベルト相手に、黙って愚痴を聞いていた、たっち達である。実際、たっちとしては子を持つ親として記憶が有るため、他人ごとではないと感じており、共感も覚えているのだ。

 

「すまないアルベド。すまない・・・だがモモンガーーーー!!!僕の娘をもっと可愛がってくれ!君もギャップ萌え派だろう!?」

 

「いや、タブラさん。その理屈はちょっと・・・」

 

黙って聞いていたタブラが突然の魂の叫び。流石のペロロンチーノも少々受け入れる事が出来なかった。

シャルティアは彼の理想を注ぎ込んだ、正に『嫁』だ。だが、タブラはアルベドを『娘』として作成した上での『ビッチ』設定である。拘りを持つ者のツボは、同じ拘りを持っていない者には理解されずらいモノだ。

 

「だいたい!ジュンちゃんもジュンちゃんだ!何だよアノビッチっぷり!」

 

「タブラ!ウチの妹がビッチだって!?君達!特にコイツと姉の茶釜のせいだろうが!」

 

「ちょ!?ウルベルトさん!?」

 

「いや、男だっただろう。君の中では妹でも良かったのか」

 

タブラの怒りの矛先はジュンへ向き、その言葉にウルベルトの怒りはペロロンチーノと姉のぶくぶく茶釜へ向く。ウルベルトのヘッドロックは綺麗に頸動脈を締めており、呼吸は多少問題有る程度だが、脳へ行く血流を制限している状態である。幻影に体調管理の概念が有るかは不明だが、ペロロンチーノは意識が飛びそうになる感覚を味わい、たっち・みーは明らかに呆れ顔を浮かべている。甲殻みたいな顔で、何となくそう思うという感じだが。

ジュンが甘え上手に育ったのは、ウルベルトが甘やかして育てた為であり、色々なテクは、主にぶくぶく茶釜とペロロンチーノ姉弟の英才教育(?)の結果である。

 

「たっち。アイツはな。マジで男の娘だったんだ」

 

「知ってる。妻に邪推されて、浮気を疑われた・・・」

 

実はジュンとたっちの妻は、警察官の家族という事で地味に交流が有った。

ジュンの服装は男性のモノだったのだが、ボーイッシュ系な女の子に良く間違われていた。また、炊事・洗濯・掃除等の家事が得意であり、地味に裁縫等もできる。兄と二人三脚で育った為、基本的には穏やかな性格をしていた事もあり、急な仕事でたっちが家に帰らなかった際には、高頻度で疑われたのだ。

なお、浮気を疑われた原因は、ウルベルトの家で良く呑んでいた事と、たっちの妻が、ジュンの性別を信じなかった事が原因である。流石に1淑女としてタッチやキャストオフを求める事は出来なかったのだ。尚、身分証明証の確認は、富裕層であれば偽造が容易の為、確認していない。

 

「オシメも私が換えたんだ。私が弁当を作ったんだ。私が育てんだ。ジュン・・・」

 

「君も多才だな。あと、ペロロンチーノの顔色が悪いから気をつけろ」

 

ブツブツと呟きながらペロロンチーノの首を締め続けるウルベルトに対し、たっちは何とも言えない気分になる。

職場では冷徹・冷血・冷酷の3R(?)を揃えた完璧超人は、気が緩んだ上で酒を飲むと、泣き上戸・怒り上戸・絡み上戸の、かなり面倒な酔っ払いになる。普段は甘えない男なのだが、ジュンがいた際には、泣きついて、膝枕されながら耳掃除を受け、そのまま就寝する迄がセットだった。

今迄泣きついていた相手に触れられない、存在すら気付いてもらえない上に、アインズの膝枕で寝ている為か、嫉妬からなのか、八つ当たりなのかは不明だが、ペロロンチーノの首を締める為に絡ませた腕に、加わる力が幾分か増していると、たっちには見えた。ペロロンチーノの顔色が更に白みを帯びた為である。

たっちは呆れ半分にペロロンチーノを、ウルベルトの魔の手から解放してやる。腕力では圧倒的にたっちが強い為、アッサリと開放できたが、ペロロンチーノは咽ながら喉を弄っている。

 

「モモンガさん。何故だ。あえて変更しやすい様に、自然にモモンガさんに惚れるように『ビッチ』にしたのに、ワールドアイテム迄持たせたのに、妻に、母に相応しく家事がパーフェクトに出来る設定なのに!何故なんだ!?」

 

タブラの独白は非常に不可解である。NTR属性が有るのか、それとも心血を注いだ娘が、モモンガに蹂躙される事を望んでいたのか、それとも、モモンガの嫁にすべくアルベドを創ったのか・・・実に意味不明である。

タブラ自身も酒に酔い、支離滅裂な事を述べている自覚は無いのだろう。だが、タブラの言っている事が本心からならば、サービス終了の間際にその本懐を遂げたのは間違いない。ビッチ設定を好奇心や悪戯心で弄ったのだから。

 

「今気づいたけどさ。アルベドとジュンちゃん。似てない?」

 

ペロロンチーノは地味にジュンが家事が得意なのを知っている。ユグドラシル時代、オフ会にて女性陣の『女子の矜持』を真正面から叩き潰す程の女子力を持っていたからだ。化合性合成食材で、自然モノに近い触感や味を引き出した技術は称賛に値する。尚、アルベドとジュンの、現時点の相似点としては、種族が悪魔であり、家事が得意。出来る女タイプの美女であり、処女である点である。

 

「・・・あれ?ど、どったの?」

 

ペロロンチーノは怯えながらも困惑してしまう。自身のさり気無い一言でタブラとウルベルトが目を充血させ、深紅の双眸を向けているためだ。尚、たっちは一人我関せずと酒を飲み始めた。

 

「モモンガさんの嫁に相応しいのは、アルベドだ!僕が心血を注いで創ったアルベドが相応しい!」

 

「少なくとも!モモンガさんは、ジュンの面倒を出来るだけ見ると私に約束してくれた!嫁以前の問題だ!」

 

「「いや、そうじゃないだろ」」

 

4人の男達の馬鹿話は、アインズが眠ったジュンをお姫様抱っこをし、自室へ転移しても続いたそうだ。




ウル「兄ちゃん寂しい・・・」
たっち「彼は男らしくない男だったが、今は女・・・?いや、考えるな。嫁に〇される・・・」
タブラ「モモンガさんっ!アルベドをお願いします!」
ペロロン「・・・男の娘というジャンルか」


すいません。まだ暫くお休みです。手術終わってリハビリ中なのです。

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