転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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9.プールと青春の一コマ

 諸君、日曜日の午後である。

 見たまえ、この晴れ渡った空、まさに五月晴れ、という奴ではないかね? もっとも、今は四月なのだがね! ついでに言えば屋内なので空は見えないのだがね!

 眼下に広がる水の平原は青々と輝き、時折あがる飛沫が光を反射し、まるで世界の全てを祝福しているかのような光景ではないかね!!

 

 あ、お前誰だって? どうも、佐藤です。

 

「いや~、今月入って二度目やけど、やっぱえぇなぁ~プールはえぇなぁ~」

「君の場合はプールが、じゃなくて水着のお姉さんが、じゃないのかい?」

「何を当たり前のこと言っとるんや? なぁヨッシー?」

「いや、君は小学三年生であるということをそろそろ自覚したほうがいいと思うよ虎次郎くん。ちょっとマセすぎだと思うよ僕は」

「やれやれ……年中発情期のヨッシーならわかってくれると思うとったんやけどなぁ……」

「なにその不名誉な称号!? 僕いつそんな様子見せたの!? どちらかといったらそれは天ヶ崎くんとか虎次郎くんだよね!?」

「佐藤くん、この場にいない人間の悪口とは関心しないね」

「俺ココにいるだろうが!? おいコラ、刹那てめぇマジで喧嘩売ってんのか? っつうかモブ、てめぇもプールに沈めるぞコラ」

 

 え~、会話の内容で分かったかもしれませんが、僕達は今プールに来ています。

 メンバーは虎次郎くん、刹那、僕、そして何故か悠馬。なんで居るのコイツ。僕びっくりなんだけど。刹那もあんだけ怖い目にあったのに割とあっさり受け入れてるのが凄い。

 やっぱアレか、手加減されてたのわかってたのか。そして女の子いないのに悠馬はよく参加したな。やっぱこいつ実はいいやつなんじゃないか? 変態だけど。それとあんだけ勢い良くなのはちゃんのディバインバスター喰らって遥かお空の彼方に飛ばされておいてお前よくそんなにピンピンしてるね。

 

「せやで? たまには男だけで盛り上がろうやないかっちゅうこのワイの心配りを、いくらユウマンがウザいからって不意にしたらあかんよ?」

「トラ、おいトラ、てめぇからまず最初に沈めるぞ?」

「虎次郎くん、僕は一応女の子だからね?」

「身体は男やろ? 水着は女物やけど」

「……虎次郎くん。君さ、デリカシーって物をそろそろ知るべきじゃないかな?」

 

 え~っと、ごめん。周りが濃すぎてちょっとコメント追いつかない。

 微妙に涙目な刹那と、ニヤニヤ意地悪そうな笑いを浮かべる虎次郎くん、そして憤懣やるかたなしといった様子なんだけどそういえば一度も手を出さない悠馬。なんとなく力関係が透けて見えるね、本当に。

 で、とりあえず虎次郎くんが先ほどコメントしたように、今回のプールへの集合は虎次郎くんが企画した「ドキッ! 男だらけの水着大会! 恋バナがあったらハハッワロス」が開催された結果らしい。

 

 なんでもつい先日もなのはちゃん達とも来たそうなのだが、その時はあんまりゆっくり遊んでいられなかったので改めて遊びたかった、ということらしい。

 

 ちなみに水着解説だけど、別にいらないよね? 野郎ばっかりなんだし。皆トランクスタイプだよ、ってだけ言えば分かるでしょ? あと虎次郎くんは相変わらずメガネ着用である。

 あ、でも一応一人だけ女物を着用の刹那はパレオだっけ? なんか腰に青い布地のひらひらしたのがついてて、胸はぺったんこなのに(男なんだから当たり前)上にも青い水着(ビキニよりは布面積多い。アレなんて言うんだろ、名前わからん)を着用して、その上に白い半そでの薄いTシャツを着ていて、おなかのところにポケットがついてる。ちなみに背中にうさぎさんの可愛らしい絵が描かれてます。かわいい。

 こういう格好されると、顔と体格も相まって知らない人が見たら完璧に美少女である。

 

 あ、今更だけど何で四月にプールなんだよ、寒いだろ、バカなの? 死ぬの? って思うでしょ? 残念、温水プールでした!!

 ……あ、ごめん。なんでもない。気にしないで。

 

「大丈夫や、女の子、特に美少女に対してのデリカシーは人一倍もっとるからな、ワイ」

「おかしいな虎次郎くん、君の目の前に美少女が一人いるのが見えないかい?」

「女装してるだけの男の娘なら見えるな」

「せやな」

「君達は……君たちは色々と人の、人の心の機微を分かろうよ! そろそろ僕も泣くよ!? なんなの!? 折角僕の中身知ってる人だけだから女の子として振舞えると思ってたのに!!」

 

 虎次郎くんと悠馬の地味な口撃に刹那がガチ泣きしそうな雰囲気である。

 あ~、周囲のお客さんがちらちらこっち見てるよ? ほら、なんかヒソヒソ言ってるよ? 完全に君達可愛い女の事を泣かせている男の子二人組って思われてるよ?

 

「虎次郎くん、君が天ヶ崎くんと同類扱いされるのは忍びないから進言しておくよ。今すぐ佐々木くんに謝ったほうがいいよ。佐々木くん可愛いのは事実じゃない」

「うぅ……」

「てめぇは本気で殴られてぇのかモブ!?」

「な、なんてことや……こんな腐れ外道と同類にされるのは勘弁や!! すまん、すまんかったな刹那!! いや、せっちゃん!! 可愛いで! めっさ可愛いで! ぶっちゃけコレなんも知らんかったらワイ口説き落としてるで!」

「ほ、ほう? そうかい? ふふふ……いやはや、まぁ……うん、咄嗟のお世辞でも嬉しいよ虎次郎くん。ありがとう。……佐藤くんもありがとう。でも可愛いと思うなら、せめて今はくん付けはやめてくれないかな……色々思うところがあるんだよ……」

「え、あ、なんかごめん。えっと、佐々木さん」

「……あれ? 佐々木でその口調やと――」

「!?」

 

 いけない虎次郎!! そこから先は言ってはいけないよ! 僕も今気付いたけど!!

 

「ん? どうしたんだい虎次郎くん」

「ん? いや、あれ……? なんやったっけ。あ、そんでコレからどないする? ワイはウォータースライダーいきたいんやけど」

「……なるほど、ふん、やるな、トラのくせに頭が働く」

「ん? なにがや?」

「いや、分かってる。くくく、大丈夫だ。俺も協力してやるよ。行くぞ」

「あ、ちょ、待ちぃや! ほなヨッシー、刹那! 二時になったらまたここで集合や!」

 

 え? なんかよくわからん内に悠馬が先導して歩き始めて、虎次郎くんもその後を追っかけていっちゃうんだけど。あれ?

 ……僕と刹那だけ置いていかれても困るんだけど?

 

「……佐々木さん、どうする?」

「僕はウォータースライダーはちょっと……」

「まぁ……その格好ならそうだよね……僕も酔いそうだからやめておくよ……」

 

 参ったな……どっちにしろあの二人とは別れることになってたのか。っていうか、虎次郎くんはそれが分かってたからバラけるの前提であんなこと言って悠馬とウォータースライダーに向かっていったのか。

 僕が乗り物酔い酷いのあいつは知ってるからなぁ……ウォータースライダーも多分アウトだろうし。

 

「……えっと……」

「あ、あ~っと、佐々木さん、とりあえずその辺に座ろうか。その格好からして泳ぎたい訳じゃないんでしょ?」

「あ、あぁうん。まぁ、ね。少人数で競泳とかなら楽しめるんだけど、こう人がごみごみしているところだと……アハハ」

「そ、そうなんだ。僕は元々泳いだりしない人だから人がいようがいまいが競泳すらできないや。アハハ」

 

 ……き、気まずいよ!

 お互いに、「あ、」とか如何にもその場しのぎで会話してますな声が台詞の前についてるし、なにお互いのこの乾いた笑い! 虎次郎くんお前なんなの!? 誘ったなら最後まで責任持ってエスコートしてよ! 昨日で大幅に上がった好感度が今時が満ちるごとに音を立てて下がっていくよ!? 呼び捨てにするぞコラ! 心の中だけで!

 

「あ~、そ、そういえば佐藤くんはお昼は食べてきたのかい?」

「え? あ~、あ、うん。一応。あ、佐々木さんは食べてこなかったの?」

「いや、なにぶん急な誘いだったものでね。お昼を後回しにして水着の用意をしていたら時間がギリギリで……」

「あぁ……まぁ女の子の準備って時間かかるもんね……」

「……え?」

「え?」

 

 恥ずかしそうに笑う刹那に「こいつ、可愛いぞ!?」とか思ってたら、何故か驚いた顔でこっちを見られた。なんぞ?

 

「今、女の子って言った?」

「え、言ったけど、うん、それが?」

「お、女の子だと思ってくれるのかい!?」

「えぇ!? 佐々木さん今日一日女の子として過ごすってさっき自分で言ってたじゃない!?」

 

 なに、なんでこんなに食いついてくんのこの人!! なんでこんな目をキラキラさせて身を乗り出してんの!? やめて!? 僕BLの気は無いのに君の外見のせいで、ちょっと胸がきゅんきゅんしちゃうから!!

 

「あ、い、いや、そうなんだけどね? その……そこまであっさりと、うん、あっさりと受け入れてくれるとは思ってなかったから」

「あ~……いや、前世云々言っちゃう痛い人だというのは承知してるけど、心が女の子だっていうなら尊重してあげたいじゃない」

「痛い人……君は……君は僕を喜ばせたいのかい? それとも貶めたいのかい……?」

 

 え~、なにこの人面倒くさい。痛い人は事実なんだから認めておこうよ。そもそも僕を転生者だと勝手に決め付けて前世がどうとか言い出したのが君の運の尽きというものだよ刹那。

 

「え、ごめん。痛い人だって自覚なかったんだね……」

「……ねぇ、泣いていいかな?」

「あ、ごめんなさい。痛いけど可愛い人でした。はい」

「あんまりフォローだと感じられないんだけど佐藤くん……」

 

 睨まれるけど、そんな涙目じゃあ怖くないぜ! むしろちょっときゅんとするぜ! 特に身を乗り出しながらだから視点がほぼ同じくらいの位置だしね!

 

「いや、だって……ねぇ?」

「……はぁ……まぁいいよ。えっと、じゃあ僕そういう訳だからココで座って待ってるよ。佐藤くんも佐藤くんで泳いできたら?」

「え……完全に泳がないの? せめてプールに足だけ入れてジャブジャブしたりしないの? 佐々木さん本気で何しにきたの?」

「ねぇ、アレかい? もしかして僕佐藤くんに嫌われてるのかな? それお前みたいなやつがなんで来たのって言いたいのかな? あのさ、そろそろ、本気で僕は泣いてもいいと思う頃合だと思うげどどう゛がな゛?」

 

 既に、既に泣いてるよ刹那!?

 滅茶苦茶鼻声じゃないか!! ダバダバは出てないけど、涙ぽろんぽろん落ちてるよ!? やめて!? お前外見は女の子なんだから、滅茶苦茶罪悪感湧くから!

 

「ご、ごごごごごめん! そういう意味じゃなくて、ほら、せっかくプールに来たんだし、こんなところに一人でいたってつまらないでしょ!? えっと、だからえっと……」

 

 だから、なんで君がここに来てるのか皆目検討がつかないんだけど、なんて台詞は言えないよ! 泣きが酷くなるよ! この後なんて言えばいいの!? 主人公!! 主人公補正の虎次郎さんカンバァーーック!!

 

「……ふふふ、なんだ、一応気を使ってぐれてなのか。ぞれなら許しであげるよ」

 

 あぁ良かった。あっさり泣きやんだ。全くなんなんだね、演技かね今のは。君の涙はやっすいね、とか思ってたらおなかのポケットからティッシュを取り出して鼻をかんでいた。

 ……ちょっと鼻声だったもんね今の台詞も! でも声音も可愛いもんだから不快じゃない! 不思議! このオリ主め!

 

「うん、なんかごめんね?」

「いや、良いよ。僕のことは気にしないで遊んでおいでよ。二時には虎次郎くん達も戻ってくるって言ってたんだしさ」

「いやいや、今一時ちょっと過ぎたとこだよ? 一時間近く座ってるだけなの?」

「待つのは慣れてるのさ、女の子だからね」

「そういうもんなの?」

「そういうものさ」

 

 うん、そんな微妙に悲しそうに微笑んで言われても……。いや、なんか笑ってるはずなのにさっきまで泣いてたせいか若干声震えてて強がってるようにしか見えないんですけど……。

 

「ん~……分かったよ。じゃあちょっとだけ遊んできてから戻ってくるね」

「ん、いってらっしゃい」

 

 立ち上がった僕に、小さく手を振る刹那。くっそぅ可愛いな。どうしてこいつ女の子じゃないのさ。

 まぁいいや、とりあえず一回更衣室に戻ってお金とってこよう。元々誘われたから来ただけでプールにあんま興味ないし、プールに付き物の売店でフランクフルトとかポテトとか買って食べたい。お昼は食べたけど虎次郎くんの誘いが急だったからおにぎり一個をバスの中で食べてきただけで実はちょっとお腹減ってるんだよね。

 

 ……べ、別に刹那に買ってきてあげるための口実な訳じゃないんだからね!!

 

 うん、ガチでお腹減った。

 

「ヒャッホー!!」

 

 あ、虎次郎くんが凄い勢いでウォータースライダーから落っこちてる。……何故か巨乳のお姉さんに背中から抱きつかれながら。

 

 そうか……なるほど……虎次郎も悠馬もそれが狙いだったのか……ッ!!

 おのれ、なんとうらやまけしからんことを……ッ!!

 

 まぁ良いけどね。うらやましいけど、僕は虎次郎くん達みたいにお姉さん方に自分から「僕のこと抱っこして一緒に滑ってください」なんて言い出せないし、っていうか、ああいうのって身長制限あった気がするから僕には元から出来ないような気もしてきたし。そもそも酔いそうだし。うらやましくなんかないし。全然羨ましくなんかないし。

 

 ほ、本当なんだからねっ!?

 

 ……ふぅ、脳内一人ツンデレごっこは楽しいなぁ。うふふ。更衣室入って、コインロッカーご開帳。マジックテープのお財布から千円取り出していざ行かん!!

 

 よし、刹那はちゃんと動かずにあそこにいるな。

 

 そういえばさ、プールにある売店ってそんなに美味しくないはずなのになんか釣られちゃうよね。海の家の具の少ないカレーみたいな感じ。値段と味的にはアレより良心的な気もするけど。

 とか考えつつ、幸いにもお昼をちょっとすぎていることから、食事用の席は粗方埋まってたけど順番待ちは二人くらいしかいなかったのでさっさと並ぶ。

 

 あ~、なに食べようかな。刹那の分もとなると数があったほうがいいよね。っていうかやっぱぼったぐり価格だなぁ……フランクフルト250円って……コンビニで同じもの100円くらいで売ってるよ? ポテトも300円……ちなみにカレーライス800円。どうせインスタントのチンするだけでできちゃうようなカレーのくせに! 原価100円もかかってないだろそのカレー! 売店パワーのせいでちょっと食べたいと思っちゃうけど!

 

「はい、ご注文はお決まりですか?」

「えっと……フランクフルト二本と、ポテトください」

「はい、千円お預かりします。二百円のお返しです。ちょっと待っててね?」

 

 ちょっと迷ったけど、結局その二つだけにすることにした。もう100円あったら刹那の分のポテトも買ったんだけども、やっぱりこういうところの基本はフランクフルトだよね。ビッグタイプもあったけど400円とか書いてあったから流石に買う気はしなかった。

 

 あ、でもビッグフランクとポテト二つにして、フランクをわけっこするという手もあったな。まぁもう注文しちゃったしいっか。

 

「はい、お待たせしました。熱いから気をつけてね?」

「は~い。ありがと~ございます」

 

 ペコリと店員さんに一礼してからフランクとポテトを受け取り刹那のいたほうへと向かう。

 なんかお辞儀した時に店員さんがすっごい微笑ましいものを見た、と言わんばかりにこっちを見てたけど気にしない。僕はお店では注文の料理が届いた時や会計の時には店員さんにお礼を言う人なのだ。飲食店で偉そうにしてる人ってあんま良いイメージ無いのよね。

 で、刹那は……あぁ、如何にも退屈そうに足をぶらぶらさせながらボーっとしてる。

 

「佐々木さん。はいどーぞ」

「ん? 随分早かったね佐藤く……ん?」

 

 フランクフルトを一本差し出しながら声をかけたら、刹那は笑顔を浮かべながらこちらを振り向いた瞬間に表情が一気に冷めた。

 

「佐藤くん? これはなんのつもりかな?」

「え? フランクフルトだけど」

「そういうことを言ってるんじゃないよ。なんのつもり?」

「え? なにが?」

 

 ……ごめん。なんで僕怒られてるの? いや、質問されてる訳だけど、その顔と微妙に震える声で完全に怒ってるってことくらい分かるよ? 僕だって。

 

「施しのつもり?」

「ほどこしってまた大げさな……友達がお腹減ってるって言ってたから、自分の買うついでに買ってきただけだよ?」

「……ふぅん。まぁ、いいけど。でも僕それ嫌いなんだよね。だからいらないよ」

 

 つ、冷たい、冷たいよ!?

 なんで僕こんな冷たくされてんの今!? どちらかといったらありがとうとか言われる立場じゃないの!? 僕きみの分奢りで買ってきたんだよ刹那さん!?

 い、いや待て、もしかしたら刹那はフランクフルトに何か嫌な思い出があるだけかもしれない。昔フランクフルトに腕を噛まれたとか。いや、それは犬とかか。フランクフルト生き物じゃねぇよ、落ち着け僕。

 

「えっと……あ、じゃあポテト食べる?」

「いや、別にいらな――」

 

 明らかに断わろうとした刹那の腹が、ぐぅ、と可愛らしい音をたてた。

 ……うむ。おなか減っているのだね?

 

「……まぁ、ポテトなら」

「うん、じゃあどうぞ!」

 

 ふぅ……。

 あっぶねぇぇ!! 変な地雷はギリギリ回避できたよ!! 良かったよ!! ポテトさんありがとう!! 本当は僕が食べたかったんだけど、僕フランク二つで我慢するね!!

 

「……なんかボソボソしてあんまり美味しくないね、このポテト」

「え、奢ってもらっておいてそれを言っちゃいますか佐々木さん」

「別に君に頼んだ覚えはないんだけど。なに? 金返せって? 別にいいよ? でも今日は手持ちが帰りのバス代くらいしか無いから明日でいいかな」

「い、いや、そこまで言ってないよ。っていうかごめん。なんかごめん」

「ふん」

 

 あっれ~? おかしいな。全く他意の無い善意だけの奢りのつもりだったのにちょっと冷たすぎるよ刹那さん? なに、そんなに人に奢られるの嫌いなの?

 

「ね、ねぇ佐々木さん?」

「なにかな。僕はこの美味しくないポテトを消化する作業で忙しいんだけど」

 

 冷たすぎるよね!? 泣いていいかな僕!? あと声をかけるごとに少しずつ自然に距離置くのやめてくんないかな、地味にへこむよ!?

 

「あ、いや、あの、えっと、その」

「ハッキリしない男の人って嫌いなんだよね」

 

 ごめん涙出てきました!!

 

「あの、あのさ、佐々木さんって人におごられるのって嫌いなタイプだった……?」

「そうだね。頼んでもいないのに一方的に物を恵んだつもりになって、恩着せがましく接してくる男は大嫌いだね」

 

 ごめんなさぁぁぁぁぁい!!

 

 ごめんなさい、もう僕勝手なことしません。金輪際刹那には何も買ってきません。うぅ……僕そんなに押し付けがましい、恩着せがましい態度だった……?

 もしかして今までも虎次郎にもそんなこと思われてる時とかあった? あ、弁当の時とか? そうだよね、男が男に弁当作ってきたら、気色悪いよね。僕なにやってたんだろうね。

 

「……って、な、泣いてるのかい佐藤くん」

「生まれできでごめんばざい」

 

 もう嫌だ!! なんで僕こんな扱い受けなきゃいけないのさ! いくらモブだからって、いくら刹那が主人公の立ち位置だからって流石に酷いよ!! 僕だって今は小学三年生なんだよ!! 心はガラスのように割れやすいんだよ!! 自分でも訳わかんないくらい感情がグルグルまわってるよ!! 子供の頃の感情制御って大変なんだよ!!

 

「い、いや、えっと、いや、あの、その……ご、ごめんなさい」

「びびよ……ぼぐがばるいんだぢ(いいよ、僕が悪いんだし)」

「……いや、……その、ごめん、ね。善意でしてもらったことに対する態度では、無かった……よね」

「うぐぅ……」

 

 分かってんならなんなのさ君の態度は……僕のガラスのハートは既にひび割れが全体に広がっているよ!?

 

「あぁもう……ほら、ティッシュ貸してあげるから」

「あびがどう……」

 

 うぅ、お鼻チーンだよ。ちくせう。一枚じゃ足らんよ。もっかいチーンするよ。

 

「うぅ……言っておくけどティッシュは一回使ったら返せないよ」

「いや、貸すってそういう意味じゃないよ!? 僕も流石に使われたティッシュを返されても困るよ!! 泣いてる割に君は人の揚げ足取りに走るんだね!?」

 

 うるせぇやバーロー。僕の中でお前に対する好感度はどんどん落ちちゃってたからね? 今更そんなノリの良いツッコミキャラなところを発揮しても駄目だからね?

 

「むぅ……」

「いや……えっと、その、ごめんね。他意無く奢られるのは初めて……いや、虎次郎くんがいたか。口説かれたけど。……えっと、まぁそういう訳で反応に困っただけなんだ。そう、俗に言うツンデレという奴なんだ」

「あんな冷たいツンデレがあってなるものか!!」

 

 僕が何も知らないお子様だと思ってバカにするなよ刹那! ツンデレの本来の意味が「最初はツンツンしてるのに、仲良くなってくるとデレデレになる」であることも知ってるんだぞ! ちなみに「照れ隠しにツンツンしてるけど実は内心デレデレ」って意味のツンデレの元祖は巣作りする竜の婚約者キャラだという話をきいたことがあるが、事実は不明だよ! あれ諸説あるからね! いろんな古い作品知ってる人たちは「この子こそ真の元祖ツンデレヒロインだ!」とか論争する人もいるからね!

 

 ごめん、なんの話だったっけ!

 

「……えっとさ、佐藤くんって両親は?」

「血は繋がってないけど父親が一人いるよ。ダンディなおじさまだよ。ちょっと涙もろいけど」

「あ……ごめん」

「いいよ。気にしてないしお父さん良い人だし」

「……そっか。ありがとう。お父さんのこと好き?」

「家族愛的な意味でならこれ以上ないくらい好きだよ。もし僕が娘だったならば将来はお父さんのお嫁さんになるー、と無邪気に高校に上がっても言っていた可能性があるよ」

「いや、高校生でその発言はちょっと危ない子だと思う」

 

 うん、僕も自分で言ってそう思った。

 っていうか、僕がもし娘だったら、おとうさん、このおようふくスースーするよ? が現実の物に……。

 

「ならねぇよ!! 落ち着け僕!?」

「え!? いきなり何佐藤くん!?」

 

 ごめん刹那、ちょっと今はそっとしておいて!!

 お父さんごめんなさい! 貴方の息子は現在着実に駄目な子に育っていきつつあります!! あと見なかったことにするにはあの本はちょっとインパクトがありすぎました!!

 

「ご、ごめんなんでもないよ佐々木さん」

「いや、なんかごめんね?」

「大丈夫……多分。僕はお父さんを信じてるから」

「ごめん。君がどんな想像をしていたのかちょっと心配になってきたけど、訊かないでおくよ」

 

 うん、それが正解だと思う。僕も言いたくない。

 

「ま、まぁでも、仲が良くて羨ましいよ。良いお父さんなんだね」

「うん、僕の知る限り最高の父親であると思っているよ。そういう佐々木さんは?」

「あぁ……僕? ……言わなきゃ駄目かい……?」

 

 え、なにその微妙な反応。自分から家族の話振っておいて自分は言いたくなかった感じ?

 

「あ、いや、言いたくないならいいよ? その……家庭の事情なんて人それぞれだし」

「あはは……君が言うと説得力があるね。……しかし意外だ。君ってなんの不自由も無く、幸せな家庭で育ってきたってイメージがあったよ」

「え~、なにそれ」

「いや、だって普段からボヤーっとしてるし、世間ズレしてるけど誰かれ問わず友達作ってる感じもしないから箱入り娘ならぬ箱入り息子、みたいな?」

「定価いくらくらいの?」

「いや……売り物じゃ、ないよ……」

 

 え、ごめん。なんかツッコミもらえるかと思ったら微妙に悲しい顔されたんだけど、外した!?

 

「いや、でもなんとなくそう思われても仕方ない感じはあるよ~。実際お父さん過保護だし、愛されてるからね僕」

「ははは、羨ましい限りだね」

 

 あ、良かった元に戻った。

 いいね、やっぱり美少女の笑顔は心の清涼剤だよ。

 

 ……この子、男の子だけどね!! 忘れてはいけないよみんな!! 外見でほっこりしても、僕はBLには走らないからね!!

 

 

 こうしてなんだかんだで、虎次郎くん達が戻ってくるまで僕と刹那の歓談は続いた。

 うん、やっぱり一時期正統派主人公の匂いをさせていただけあって、話してると面白い人で、先ほどの冷たい態度の件も平謝りされた。

 どうも男性から奢られるということ自体が嫌な思い出ばかりあるらしくて、虎次郎くんみたいに心許してる相手からならまだしも、それ以外の人から奢られると自分でもよく分からない嫌悪感で機嫌が悪くなるのだとか。

 何があったのかは知らないけれど、なんとも不便なことである。あと、お返しに今度何か奢ってくれるとのことだったので忘れられないことを祈りつつ期待しようと思う。

 

 そして、虎次郎くん達が戻ってきたのは二時どころか三時まわってたよ。どんだけ楽しんできたんだよ。

 ちなみに歓談中もたまに二人の声聴こえていた。その度にちらっと目をやると、二人ともその度に別の女の人に抱っこされていたという。

 あ、いや、悠馬は一人で滑ってる時もあったし、悠馬の場合は身長が結構あるから逆にどう見ても年上な女性を背後から抱きしめて滑ってる時もあった。

 リア充死ねと言いたいところだが、とりあえず爆発するのは悠馬だけで良いよ。虎次郎くんは我が親愛なる親友殿だから許す。

 

 

 

 

 結局、僕と刹那は一回もプールに入らなかった。あの後は虎次郎くんと悠馬が流れるプールで売店のカレーを賭けて逆走レースしたり、波の出るプールでビート盤を組み合わせて作ったサーフボードもどきを使って虎次郎くんが波乗りしていたら近くにいた悠馬にぶつかって大破し、勢い良くプールに落下して二人して波に飲まれたり(勿論監視員さんに怒られた。というかよくもまぁビート盤であんなしっかりしたサーフボード作れるものである。波と虎次郎くんの体重であっさりと壊れそうなものだが、もしかして特殊能力とか魔法使ったんではあるまいな? デバイス疑惑のあるメガネかけっぱなしだしありえる)など実に小学生らしい(?)プール遊びの様子を見せていて、それを僕と刹那は笑いながら見ていた。

 

「いや~、おもろかったな~。入館料千五百円という枷さえなければ毎週来とったで」

「まぁ……それは俺も認めるな。この俺のあまりのイケメンっぷりに女がわらわら集まってくるのは困り物だが」

 

 フッ、とまだ少し濡れている髪をかきあげる悠馬。非常に不本意ながらイケメンなのでそいう格好付けた仕草が似合っている。

 

「うん、まぁ見てて面白かったよ、二人とも」

「とか言う割にヨッシー結局一回もプール入らんかったなぁ。別にカナヅチって訳やなかったやろ?」

「ふん、画面に映させる手間すら製作陣が面倒くさがるほどのモブなんだろ」

「僕の扱い製作陣でどんだけ低いの!?」

「基本、目は棒線一本で口と鼻は無し、画面の最奥で女子の後ろに半分だけ映ってるレベルだ」

「モブどころか背景化してるよソレ!?」

 

 どういうことさ!? っていうか悠馬もそういう返し出来たんだね!! お兄さんびっくりだ!! 僕は君より身長30~40センチ以上低いからお兄さんには見えないって? ごめんね! 僕も君が年下どころか同世代にすら見えないよ!

 

 ……あ、っていうか、全く邪気の無い笑み浮かべると悠馬も本当に普通の爽やかなイケメンだな。お前いっつもその表情でいろよ。残念なことに銀髪オッドアイというアレな外見のせいで厨二病くささは抜けてないけど。

 

 とか思ってたら、刹那がクスクスと、そりゃあもう可愛らしく笑い出した。

 

「また、皆で来ようね」

 

 ……この子は、どうして本当にTSしちゃったんだろうね。可愛らしいよ、本当。一瞬男の子だって忘れるくらい。

 それくらい、本当に無邪気に、子供らしい可愛らしい笑みを浮かべる姿があった。

 

「……せやな。ほなら、来月とか、どうや?」

「俺は、別にいいぞ? どうしてもって言うなら、暇があれば来てやる」

「えっと、僕も大丈夫だよ。また来たいと思うし」

「……みんな、ありがと」

 

 オレンジ色に染まっている空と、男三人が照れたように笑って、女の子が一人無邪気に微笑んでいる。

 なんだか、青春の一コマみたいだなぁ、と、そう思った。

 

 


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