転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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8.介入バカと友情とか新しい家族とか

 突如現れた銀髪オッドアイの少年、その正体とは!?

 

 言うまでも無く、変態ナルシストの天ヶ崎悠馬(あまがさき ゆうま)くんである。

 このタイミングで何しにきたアイツ。

 

「ユウマン、なんや? ワイらと遊ぶお誘いなら、また今度やと嬉しいんやけど」

 

 黒を基調にしたちょっとセンスの良い服を着たまま空に浮かんで腕を組み、偉そうにふんぞり返ってる悠馬に虎次郎くんが苦笑しながら言うが、まぁ当然ながらそういう穏やかな話では無いらしい。悠馬は地面にゆっくりと降りると同時、いつぞやに遠目に見た黒光りしていて、随所に金の装飾が施された鎧を一瞬で着込んだ。

 

 やっぱりあの鎧は悠馬のバリアジャケットだったんだな。しかしデバイスが何なのか分からない。パッと見なにか持ってるようには見えなかったんだけど。

 

「……加勢なら、間にあっとるで? もうこのお嬢ちゃんにはお帰りいただくだけやしな」

「それは困るな。参戦前に味方が退場されては来た意味が無い」

 

 苦々しく、自分達に加勢するつもりで来たのではないのだろうと理解している表情の虎次郎くんの言葉に、間髪入れずニヤニヤと笑いながらそう言って肩を竦める悠馬。

 

 これは、完全にオリ主同士のバトルフラグである!!

 頑張れ! 負けるな虎次郎くん! 地球の平和はお前の双肩にかかっている! かもしれない。

 僕の応援を他所に、虎次郎くんは小さくため息を吐いてから笑う。

 

「まぁ、そんなこっちゃろうとは思っとったけど……あんまりにも露骨やないか? ユウマン」

「俺は元からフェイト派だ。なのはも愛してはいるがな」

 

 虎次郎くんを鼻で笑う悠馬。お前まだ諦めてないんだね、なのはちゃんの事……お前自分の背後を見てごらんよ、後ろの方でジュエルシードをレイジングハートに保管中のなのはちゃんがすっごい微妙な顔してるよ? っていうかどうでも良いけど、意外になのはちゃんって顔芸キャラだよね。

 

「……なんで私の名前を知ってるの?」

「俺が君の味方だからだぜ、フェイト。クソみたいな暴力女から君を救い出すためにやってきた、な」

「……誰の、ことを言ってるの?」

「わかってんだろ? プレシア・テスタロッサのこ――」

 

 悠馬の台詞の最中に、フェイトが憤怒の形相で襲い掛かったが、地面から突如生えてきた鎖によって身体をがんじがらめにされて動けなくなった。

 

「おいおい、俺は味方だって言ったはずだぞ? なんで斬りかかってきた?」

「母さんの、悪口を言うな……ッ!!」

 

 呆れたと言わんばかりに肩を竦める悠馬に、鎖で縛られて無力化されているにも関わらず、フェイトは視線だけで殺せそうな殺意を乗せて悠馬を睨む。

 まぁ、多分殺意乗せてるって僕が思ってるだけで、僕は見てるだけだから本当は殺気とか全然わっかんないけどね!!

 

「まぁ、そういう態度になるだろうとは思ったけどな。でも良いのかフェイト。俺が協力してやれば、こいつらからジュエルシード奪って、そのクソ親にやることも出来るけど、共同戦線断るっつうんなら、こいつら全員相手にすることになるし、俺も敵にまわるが……お前それでも一人で勝てるつもりか?」

「アルフ……使い魔がいる。貴方なんかの手を借りなくても……」

「……立場が分かってないみたいだな。こっちはそのまま拘束しておいて管理局に連絡したって良いし、デバイス没収して監禁しても――」

「「にゃ~!!」」

「っ、空気読めトラ野郎!!」

 

 シリアスな空気など作らせはしないと言わんばかりに、今だに一杯いた三頭身にゃんこ達が新聞紙の剣片手に悠馬に突っ込んで、これまた地面から出てきた鎖に薙ぎ払われて宙を舞った。

 

 な、なんてことをするんだあのナルシー!! あんな可愛い生物(?)の群れを、あんなごっつい鎖でぶん殴るなんて!!

 

「「「あぁっ!! にゃんにゃんずがっ!!」」」

 

 ほらぁ!! 虎次郎くんも三頭身狐さん達も悲鳴をあげてるじゃないか!!

 

「ごめん虎次郎、今のは君が悪いと、僕も思う」

「いや、せやかてこっち置いてけぼりでなんかシリアスな空気醸し出してるんやもん……。いや、知り合いやから不意打ちとかせぇへんけど、これワイが管理局とかやったら今のうちに両方とも捕縛しとるで? 今なら片方鎖で縛られとるし。亀甲縛りで」

 

 あ、本当だ。よく見たらフェイトに絡み付いてる鎖が亀甲縛りになってる。

 コレ小学生でツルペタ体系だから良いけど、ある程度発育してきてる女の子にやったら青少年には目に毒だよ。いや、眼福ではあるだろうけど。少なくとも年齢二桁にも達してない女の子にやる所業じゃないよコレ。あいつシリアスな空気作っておいてやってること相変わらず変態じゃねぇか。

 

「虎次郎……こういうのは様式美なんだよ。分かっていても言っちゃいけないし、やっちゃいけないんだよ。ヒーローの変身中とか、変身しようとしてる時に悪役が攻撃しないのと同じなんだよ。むしろ悪役ですら空気を読むのに君って人は……」

「あかん、あかんで刹那。そういう固定概念に支配されとっては、新しい何かを生み出すことは出来へんのや。昨今じゃ平日の昼間っから奥さんの金でパチンコ行くヒーローとか、町の人気者で警察から感謝状送られちゃったりする悪の組織とかもあるんやで」

「それはもう、立場完全に逆になってるね……」

 

 それは太陽戦士のことかーッ!!

 いやでも、確かにアレだよね。無力化するなら今のうちだよね。そこで敢えてにゃんこ達を突撃させた意味が分からんが、単純に、特に意味も無くシリアスブレイクしたかっただけなんだろうな、とは想像出来る。

 

「てめぇら……全部聴こえてるからな……」

「「あぁごめんごめん。続けていい(えぇ)よ」」

「この状況で話続けられるかぁッ!!」

 

 ムキー、と地団駄を踏む悠馬。凄い。リアルで地団駄踏む人とか初めて見た。

 あ、三頭身狐の一匹がとことこ寄っていって、悠馬の膝をぽんぽんと叩き(多分、肩を叩くには身長が足りないから代わりにそこなんだと思う)、「ドンマイだコン」と言って親指を立ててサムズアップした。凄い。三頭身なのに手もちゃんと動物を模したぬいぐるみみたいな手なのに、しっかり駆動してる!

 

「じゃかぁしい!!」

「「「「「こ、コンコン38号~~ッ!!」」」」」

 

 あ、悠馬が怒って三頭身狐さんを思いっきり蹴っ飛ばした。宙を舞う三頭身狐さん。それを見て叫ぶ虎次郎くんとその仲間達(生き残りのにゃんこときつねさん達)。便利だなぁあのにゃんこと狐さん。

 

「と、とにかくフェイト、拘束を解くから一緒に戦うぞ。ジュエルシードはお前にやる。共同戦線だ」

 

 そして、気を取り直してそうフェイトに提案し、鎖を解く悠馬だったが、フェイトは少し迷った様子を見せながらも立ち上がりバルディッシュを構えた。

 

「……裏切ったら、斬ります」

「好きにしろ。行くぞ。フェイトは赤髪の奴を狙え。あいつは女には手をあげない主義だから、遠慮なくぶん殴れ」

「……わかった」

 

 そして急に高まる緊迫感。おぉ、遂にまともな戦闘が始まるのか! さっきまでのフェイトとの戦い、正直あんまりゆっくり見てられなかったし、若干もっさり感を感じてたから楽しみだ! あ、でも皆あんまり怪我とかはしないようにね! 回復魔法とか使えるんだろうけど、痛いのは痛いんだろうから!

 

「しゃあないなぁ……いくで! コンにゃんズ!」

「「「「合点承知の助(にゃー)コン!!」」」」

「参ったな……虎次郎、早めに片付けてこっち手伝ってよ?」

「え~、たまには一人で頑張りや?」

「無茶言わないでよ!? セイバー連れてこなかったんだから僕まともな戦闘なんて出来ないよ!?」

「一応無限の剣製とかできるやんか。大丈夫。贋作者は英雄王の唯一無二の天敵なんやで?」

「ランクE-の宝具が限界の贋作でどうやって勝つのさ!? 贋作の贋作なんだよ僕のスキル!」

「愛と勇気と友情があれば、最後にはご都合主義でなんとかなる筈や」

「完全に運任せじゃないかぁ!!」

 

 戦闘開始すんじゃないのか? なんであの二人あんなほのぼのしてるんだ……いや、刹那はガチで涙目になってるけど。これであの三人組のヒエラルキーははっきりしたな。虎次郎くん>刹那>悠馬だ。

 

「さて、殺り合おう。贋作の貯蔵は充分か? 贋作者(フェイカー)」

「台詞の立場完っ全に逆転してるよぉぉぉ!!」

 

 ……あれ? おかしいな。もしかして虎次郎くん>悠馬>刹那? あ、戦闘面ではそうなのかな? 日常面では刹那の方が優位に立ってる感じしたけど。

 

 とか考えてたら、戦闘が始まった。

 

 まず、フェイトVS虎次郎くん。

 フェイトちゃんが突撃し、三頭身にゃんこ軍団が迎撃に出てあっさり斬られて消滅し、お約束の虎次郎くんと狐さん達の「にゃんにゃんずー!」の絶叫。

 そして三頭身にゃんこ軍団を飛び越えたフェイトがそのままの勢いで虎次郎くんに斬りかかると、上体を逸らすだけで回避。

 追撃。バックステップ。追撃。ターンしながらバックステップして回避。

 追撃。バック転して回避。

 追撃。応援を頑張る三頭身狐さん軍団に笑顔で手を振りながら蹴りでバルディッシュの矛先を変えて回避。

 追撃。身を屈めて回避し、そのままブレイクダンスに突入。

 追撃。ブレイクダンスしながら蹴りでバルディッシュを弾き、ぼけーっとしながら遠目に戦闘を見ているだけのなのはちゃんにちょっと手を振る。あ、なのはちゃんも手を振り返した。

 追撃。奇妙な動きで立ち上がるとフェイトの右手を掴んで腰元にも手をやり、そのままぐるりと一回転し、「シャルウィーダンス?」と至近距離でにこやかに微笑んで顔を真っ赤にしたフェイトちゃんに突き飛ばされる。よろけながらも追撃をあっさり回避。

 そして一言。「サイズフォームの攻撃をエクストリームな動きで避ける。まさにエクササイズやな」。

 

 ……戦えよッ!!

 

 なんでそんな余裕に回避してんの!? っていうか、せめて、せめてちょっとは、ちょっとは真面目に回避行動をとろうよ!! 可哀想だよフェイトが!!  見てよ、明らかに遊ばれてる回避のされ方して、若干泣きそうになってるよフェイト!! 圧倒的過ぎるだろ虎次郎くん!!

 あとお前の召喚した使い魔の三頭身狐さん達、完全に応援だけなんだな!! 僕びっくりだよ! せめて、せめて何か相手を撹乱するような行動とるのかと思ってちらちらそっち見てたらさ、振ってる旗は増えてるし、今まで手をメガホンにして応援してたダンボール装備の奴等が気づいたら学ラン姿のとチアリーダー姿のに変わって、学ランの狐はトランペット吹いてたり太鼓叩いてたり正拳突きの素振りしてたりして、チアリーダー姿の狐さん達はバトン投げたりポンポン持って一糸乱れぬ華麗なるチアリーディング決めたりしてるよ!! 可愛すぎるよ!!

 あと地面の上でヘルメットや防具も無しにブレイクダンスして痛くないの!? 大体「シャルウィーダンス?」ってバカじゃないの!?

 その体勢完全にセクハラだからね!? 全国のフェイトファンの皆様からクレーム来るよ!?

 そして最後の駄洒落のつもりかもしれないけど、誰も上手いと思わないよ!?

 あとあの電気鎌はサイズフォームなのね! 把握! じゃあザンバーモードってどんな形態だっけ! 知ったこっちゃないね!

 

 ……はぁ……うん、あっちはもう見るまでも無いからいいや。

 で、刹那VS悠馬の方は……。

 

 悠馬の背後には見慣れた金色の空間の揺らぎと、無数の剣、槍、戟、斧、ハンマー、どれもこれも無骨な外見ながらもところどころに綺麗な装飾がされているそれらが顔を出し、順々に刹那に襲い掛かっている。

 対して刹那は同じような外見ながらも装飾がそぎ落とされたバージョンのそれらで迎撃し、それでも防ぎきれない物はローアイアスで防いでいる。見ていて分かったのだが、花弁が全部割れるまでは新しいローアイアスは展開できないようだ。お陰で展開が間に合わない時は身体を投げ出すようにして回避しているせいで身体中泥だらけである。

 

 ……っていうか、コレで確定したけど、毎回僕の近くに刺さってた剣や槍、及び斎藤さん家破壊したハンマーの犯人は刹那だわ……。

 悠馬の装備はどれもどこかしらには装飾されてるけど、刹那のは一切無い訳で、つまるところ僕が今まで間近で見たことのある凶器と完全一致するわけだ。

 毎回剣が飛んできてる時に見えたのが王の財宝<ゲートオブバビロン>の光だったから完全に騙されてたよ……それとなく斎藤さんの家直すように仕向けられないもんか。あいつが原因なんだし。でも直接言う訳にもいかないしなぁ……。

 

 あぁ、刹那は一応、隙を突いて<無限の剣製>と思わしき詠唱を口ずさんでいるように見えるのだが、口を開いた次の瞬間には悠馬が地面にハンマーを叩きつけて土を飛ばしているせいで口に土が入って咽たりしていて、詠唱が出来ていない。

 

「無様! 無様だな刹那!!」

「くそっ、五月蝿いな! 大体君は人がデバイス持ってない時を狙うとか卑怯だと思わないのかな!」

「あん? バカかてめぇは。相手の油断をついて攻めるのが戦争だろ? 油断するほうが悪い」

 

 うぉぉ、言ってることは悪役だけど、実に正論だよ! そうだよ、なんでお前デバイス持って来てないんだよ刹那! っていうかデバイス無しにそんだけ戦えるってお前ずるいな! あと悠馬、お前普通に喋るだけなら口開くの妨害しないんだな! お前実は結構気ぃ使ってるだろ!

 

 ……っていうか、アレどう見ても悠馬が手加減してるよね。

 あのさ、悠馬の周囲に滞空してる武器の数と飛んでいく武器の数が噛み合ってないんだよね。歪んだ空間から突き出している武器は数十本単位なのに、一回に飛んでいくのが多くて10本。刹那も一度に10本ちょっとくらいしか出せてないからなんとか今のところは怪我しないで済んでるけどさ、悠馬の射出した武器は別の物ですぐ補填されてるから蔵の中身が少ないから勿体ぶってる、って訳じゃなさそうだし。

 

 ん~……一度に射出できる本数でも決まってるのかな。コントロール出来るのが10本までとか。でも射出する瞬間までコントロールして、射出したら後は慣性に任せとけば飛んでくんだから連射できるもんなんじゃないのか?

 

 あ、刹那が地面から生えた鎖で捕まった。

 

「くっ、卑怯だぞ悠馬くん! 天の鎖<エルキドゥ>使うならちゃんと呼称するべきだ!」

「あのなぁ、別に叫ばなくても発動出来るもんを何で口に出す必要があるんだ? 言ったらバレるじゃねぇか」

 

 これまた正論である。

 

「くっ、ああいえばこういう人だね!」

「いや……まぁいいわ。んで、この前の仕返しってことで、いいよな?」

 

 なんかほのぼのだなぁ、この様子なら大丈夫かなぁ、とか思っていたんだが、悠馬が背後の空間の揺らぎから一本の獲物を取り出したことで僕は頬を引きつらせた。

 

「え? 何が――悠馬くん、あの、えっと、何かな、そのメスは」

 

 メス。手術用の道具である。なんでそんなもんが王の財宝<ゲートオブバビロン>に入ってるんだとか思ったが、それ以前に剣じゃなくてそんなもん出した時点で嫌な予感がする。

 

「何って、生皮剥ぐに決まってんだろ。てめぇに剥がされた時本気で痛かったんだからな……それとも生爪からいくか?」

 

 ……グロいよ!! っていうか、ガチだったんだ! いつぞやの生皮剥いだ発言ガチだったんだ! やめてよそういうの!

 

「き、君は痛覚遮断できるんだからいいじゃないか! ちゃんと時間巻き戻して回復させてあげただろう!」

「完全に遮断してるわけじゃねぇんだよ! 痛覚完全に切ったら身体動かしにくいだろうが! てめぇだってやられてもすぐ治せんだから問題ねぇだろ!」

「大有りだよ! 今日はセイバーいないって言ってるじゃないか! 下手したら僕ショック死するよ! 大体アレは洗脳系くらったせいだって知ってるだろう!」

 

 いや、下手しなくてもショック死するだろ! 虎次郎くーん! 刹那を助けてー! なんかグロいこと起きそうになってるからー! 自業自得な香りがしてきたけど!

 

「テメェは毎回変なところでボケるからこっちが割くってんだよクソが!」

「そこに関しては素直に申し訳ないと思うけど、それとこれとは話が別だよ!」

 

 しかしなんか子供の喧嘩じみてきたな。

 って、そうだ。刹那は時間を操れるんじゃないのか? なんで一回も使ってないの? 使えば逃げられるだろうに。って、デバイスが無いのか……時間操作はデバイス必要なのか。なるほど。

 

「ディバインバスター!」

 

 そう、ディバンバスターが必要……うん?

 

「うおぉぉぉ!?」

「お……? おぉ! なのはちゃん!!」

 

 あ~、なのはちゃん完全に忘れてたわ。さっきまでぼへ~っと虎次郎くんの戦闘見てたと思ったら、流石にこっちで刹那がやられかけてんのに気づいたんだね。

 桃色の光に包まれた悠馬が、某バイキン男の如く吹き飛ばされてお空へと消えていった。

 

 ……大丈夫か? あいつ。

 

 いや、空飛べるんだし大丈夫か……魔法だって非殺傷設定な訳だし……。

 あれ? 非殺傷設定といえば刹那の投影魔術って、名前通り魔法じゃなくて魔術だとしたら非殺傷設定とかどうなってるの?

 

 ……ねぇ、なんか物凄い不安になってきたんだけど大丈夫だよね? 今まで何回も僕の方に飛んできてたから、その内刺さるんじゃないかと心配なんだけど、非殺傷設定だよね? 大丈夫だよね……ッ!?

 

「ふぅ……すまないね、なのはちゃん。あやうくあの変態にキズモノにされるところだったよ。ありがとう」

「うん、気にしないで刹那くん。……ねぇ、あのさ。虎次郎くんの方、そろそろ止めてあげるべきだよね……?」

「え? ……あぁ……そうだね……」

 

 走りよってきたなのはちゃんに助け起こされた刹那が、なのはちゃんの言葉でようやく虎次郎くんの方がどうなっているのか確認して呆れた声を出してため息を吐いた。

 いや、まぁそうだよね。明らかに遊んでるもんね。チートオリ主チーム連携取れて無さ過ぎワロタとしか言いようが無いよ。

 

 で現状だけど、フェイトちゃんが今度は空に浮かび、距離を置いてチャージしたっぽい射撃を撃ったら、その弾をどこから持ってきたのかわからないラケットで三頭身にゃんこ軍団(また召喚しなおしたらしい)のいる方へと打ち返し、三頭身にゃんこ軍団が待ってましたとばかりにコンセント穴の開いた機械を持ってその魔力弾みたいなのに自らぶつかりに行き、機械が魔力弾を吸収したと思ったら、メガネをかけて白衣を着た狐が機械についているメーターみたいなのを見て「実験は成功だコン! これで人類のエネルギー問題は救われたコン!」とか言っている。

 

「「「「永久電力発電機万歳にゃ(コン)! 電気少女エレジーフェイト万歳にゃ(コン)!」」」」

「ふっ、どうやらワイは歴史的瞬間に立ち会ってしまったようやな……」

 

 一斉にフェイトの方へと向き直って万歳三唱する三頭身にゃんこ達と三頭身狐さん達。そして極め付けに髪をかきあげて爽やかに微笑む虎次郎くんの一言である。

 

 やったねフェイトちゃん! 君は人類の救世主だよ!!

 

 耐え切れなくなったのか、泣きそうなのか、手袋の部分で目をごしごし擦りながらフェイトは帰っていった。

 ……うん、もうね。強く生きるんだよ、としか言えない。

 

「ミッション・コンプリートやな」

「手ごわい、相手だったね」

「えっと、そ、そうだね」

「「「「僕達の冒険はこれからだにゃー(コン)!!」」」」

 

 ……虎次郎くんよ、その無駄に清々しい笑顔をやめなさい。あと刹那はさっきまでボロクソにやられてたのにそんな爽やかに笑っているけれど、私服が泥だらけだよ。見なさいよなのはちゃんのすっごい微妙な顔を。勝ち名乗りあげる側の表情じゃないよ?

 あと三頭身の狐さんとにゃんこ達や、それは打ち切りフラグだよ? あと早く君達を1セット僕に譲るよう頼んでくださいよ?

 

 こうして今日も海鳴市の平穏は守られた。

 

「あれ、そういえばヨッシーどこいったんや?」

「え? あぁ、そういえば彼が猫を追いかけて森に入ったのがそもそもの原因だったね。……追いかける猫がピンポイント過ぎたし、このあたりで介入してくるかと思ったけど……そう言う訳でも無い、か」

「私は見なかったよ?」

「あぁ、一旦結界解除せぇへんとそもそも探しようないんやあらへんか? ……あ~、ちゅうか、まずはにゃんこ巨大化を見てたかどうか確認せなあかんなぁ……」

「あぁ、確かにもし見てしまったのなら口止めしておかないといけないしね」

 

 あ、大丈夫です、見たけど見てません。口止めしなくても言いふらしたりしません。そもそも「あいつら魔法使いなんだぜ!」とか学校で言い出したら「あぁ、こいつ早くも厨二病か」みたいな目で見られることうけあいだよ。

 

「魔法のこと言う訳にもいかないもんね……うん。ユーノくん、結界解除してくれる?」

「あ、いや、え~っと……」

 

 と、そこで何故かなのはちゃんからの要請にユーノくんが僕の隠れている茂みとなのはちゃん達の方を何度も交互に確認する。

 ユーノくん、適当に誤魔化しておいて! 僕言わないから! 絶対に言わないから! 言いふらさないっていうか、言いふらしても頭可哀想な子だと思われるだけだから!

 と、熱心に願いを込めてユーノくんに懇願するような視線を向けたら、なんかため息でも吐きそうな声で「わかったよ。今解除するね」とこちらから視線を外したユーノくん。

 良かった……アイコンタクト通用して良かった……。

 

 

 その後、こっそりとその場から抜け出して、さも今ここにたどり着きましたと言わんばかりの演技で誤魔化すことにした。

 まず、相手から何か訊かれる前に「あれ? 虎次郎くん達とすれ違った覚え無いんだけど、僕何時の間にか抜かれてた? っていうか、佐々木くん服泥だらけだけど何かあったの!?」と言っておくことで予防線を張っておく。

 これにより「あぁ、こいつ今ここに来たところか、じゃあ大丈夫か、それよりも刹那のこの状態をどう誤魔化すか」という風に思考誘導できてたらいいなぁ!!

 

 と、思ったけどやっぱり何か言われそうになったので、なのはちゃんが抱っこしてた巨大化ちびにゃんこミニマムバージョンに「にゃ~、無事でよかったね~? もう勝手にどっか行ったりするにゃよ~?」とでれっでれの顔で猫に語りかけることで機先を制し、「あ、ところでにゃんこ見つかったなら早く戻ろう。僕はともかく三人がいつまでも戻らないと心配されるでしょ?」と手短に言ってアインに元の場所まで先導してもらい、線路は続くよを口ずさみながら戻ることにした。

 

 ふふふ、どうだ、畳み掛けるように喋って、更に歌まで歌いだした僕にわざわざ確認のために声をかけようとは思うまい!

 

「あ、ところでヨッシー、さっきの見たか?」

 

 くっ……! あっさり声をかけてきよって!

 

「さっきのって?」

「悠馬がお空を飛んでいくところや」

「それ悠馬じゃなくて天馬じゃない!? っていうか、仮に天ヶ崎くんだとしたら何があったの!?」

「あぁごめん。なんでもないわ」

「え? いや、気になるんだけど!? 何!? なんで唐突に今日来てないはずの天ヶ崎くんの話が出てきたの!?」

「それが若さや」

「虎次郎くん……とりあえずそう言っておけば誤魔化せると思ってるよね……まぁ言いたくないならいいけど……」

 

 全くもう、気になるじゃないか、とぶつぶつ文句を言いつつ、僕はほくそ笑む。

 計算通り……ッ! 自分の演技力が怖いね! ハッハッハッ!

 

 

 

 

「にゃ~」

「アイン、ヨッシーくん帰るんだから、もうさよならしなくちゃ駄目だよ?」

「にゃ~」

 

 気づけば、帰る時間であった。

 某(それがし)、もふもふのお猫様方と過ごしたこの時間を、生涯一時と忘れ得ぬであろう……。

 

 え、お前誰だって? どうも、佐藤です。

 ちょっとにゃんにゃんパラダイスでヘヴン状態が続いてたせいか、賢者モードもとい武士モードに入っていました。あ、武士モードって武士ロードみたいだね。ところで武士ロードってなんだっけ。その単語だけは覚えてるけど何を表す単語だか忘れた。乙女ロードみたいなものかな? うん、どうでもいいね。

 

 さて、もう五時を超えたことだし、解散という空気になって帰ることになったのだが、僕の足元には我らが愛しのアインちゃんがすりすりしてきてマジ萌え萌えきゅんです。あ、最初に玄関で会って抱っこしてたあのちびにゃんこ(巨大化した子)は、なのはちゃんにべったりになってしまったので僕のところにはもう来てくれませんでした。

 

 でも、良いのさ! 何せ僕にはアインちゃんがいるからね! マジもふもふだったよ! 毛糸玉ころころしたり、ねこじゃらしでぴょんぴょんしたり、だっこして頬ずりしたり、もうコレ以上に何を求めろと言うのだね!!

 

 で、でだよ? その愛しのアインちゃんたら今現在、足元で僕にすりすりしてるの! あ、それさっき聞いた? いや、大事なことだから何回でも言うよ? アインちゃんすりすりしてきてるの!! マジ天使! アインちゃんマジ天使!!

 

「も~……ごめんね? ヨッシーくん」

「あぁうん、大丈夫だよ」

「良かったやんなぁヨッシー。大好きなにゃんこに懐かれて」

「今なら死んでも悔いは無いよ」

「安いわねアンタの命……」

「バニングスさん! 何を言うんだい! にゃんこさんだよ!? おにゃんこ大明神様が自分からすりすりしてきてくれてるんだよ!? 宝くじに当たるより嬉しいよ!?」

「「「「そこまで!?」」」」

 

 虎次郎くん、刹那、なのはちゃん、アリサちゃんが驚愕の声をあげた。なんだよ、どう考えてもお猫様からの寵愛を頂くことの方が嬉しいじゃないか。

 

「……なんか、もうそこまで行くといっそ清々しいわね……」

「にゃはは……ヨッシーくん今日一日で大分印象が変わった気がするよ……」

「そうだね……僕もまさかここまで変人だとは思わなかった佐藤くん。君は外見がアレなだけで普通のツッコミ担当かと思ってたよ……」

「え、ごめん。ツッコミ担当だけは譲れない」

「「「つっこむ所そこなの!?」」」

 

 今の驚愕の声はなのはちゃん、アリサちゃん、刹那である。

 あぁもう、自分が変人なのは知ってるよ。外見がちょっと幼いのも知ってるよ。でも前世と同じなら中学卒業する頃には人並みになるのが分かってるからいいんだよ。グリーンだよ~。

 ――これも前世のネタで覚えてるんだが、なんかのCMだっけ? 咄嗟に思い出すのは良いけど元ネタがわかんなくなってるの多いな。でも虎次郎くんとのかけあいネタは増えたな。今度それとなく使ってみよう。

 

「う~ん……あ、月村さん」

「すずか、でいいよ。ヨッシーくん。同じ猫好き同士仲良くしようね。あんまり暴走されると困っちゃうけど」

「あ、ありがとう。すずかちゃん……なんかごめんね」

 

 ど、どうでもいいこと考えてたら不意打ちな発言きちゃったよ! ペロッ! コレはまさかのすずかちゃんフラグ!

 うん、冗談です。あくまでにゃんこ好き仲間としてだよね? ごめんね、暴走しちゃって……。大体すずかちゃん刹那のこと好きっぽいもんね。刹那と話す時、声のトーンが1オクターブ高いからすぐ分かるんだぜ? 嘘だけど。

 実際にそんな微妙な変化わからんけど。まぁ表情見れば分かるよね。あんな頬をほんのり赤く染めてたらすぐわかっちゃうよ。

 

 見た目完全に百合だから眼福っちゃ眼福です! しかも精神的にも彼女達は百合です! でも肉体的には男女関係になれます! つまり結婚しても全く問題ありません! 謎の方程式!

 まぁ惜しむらくは、百合してる子達が小学生のせいであんまりエロさを感じなくてむしろ微笑ましい点と、僕この身体がまだ精通すらしてないから精神的にエロ感じたところで肉体的には全くエロに反応しないからそこまで魅力的に感じない点だけだね!

 

 あれ、何も惜しむ必要なく、微笑ましいと思えてるなら問題無いな。

 

「よかったやんな~、ヨッシー。お友達が一人増えたで」

「うん……いや、本気で嬉しいよ」

「え? 私は元からお友達のつもりだったよ……?」

 

 虎次郎くんが肩を叩いてにっこり微笑んでくれたんで同意したら、すずかちゃんにちょっと悲しそうな顔でこちらを見られた。

 っていうか、え、なにそれ初耳。

 

「あれ、もしかしてヨッシーくん、名前呼びしてない人って友達だと思ってなかったの……?」

「え、あ、いや、あの……えっと……」

 

 凄い悲しそうな、でもなんか非難めいた言い方のすずかちゃんに、僕はたじたじである。

 

「……ねぇ、ちょっと、それってもしかして私も友達に含まれてないってことなのかしら? ヨッシー」

「え? なんや、そうなんか? じゃあ私もなんか?」

「あ、いや、えっと……え? 友達に……なっていいの?」

 

 今度はアリサちゃんである。ちょっと怒った顔だ。っていうか、くん付けやめたんだね! ちょっと怖いよアリサちゃん! 身長差から来る、上からの睨みつけって割と本気で怖いよ!

 そしてはやてちゃん! そんな不思議そうな顔してるけど、僕本気で君との接点無いっていうか、お互いいることを認識した上で面と向かってるのはこれで二回目だし、まだ良くてお知り合いレベルだと思ってたよ!

 

「アンタ、本気で言ってるわけ?」

「せやで? その態度にはちょっとこの優しいはやてお姉さんも怒らざるをえんで?」

 

 そして、そんな僕の言葉に心底呆れたと言わんばかりにため息を吐くアリサちゃんとはやてちゃん。うぅ、なんてこった。フェイントだったよ。所詮モブは光り輝く原作キャラとお友達なんて夢のまた夢だったよ!

 

「一瞬でも勘違いしてごめんなさい。生まれてきてごめんなさい」

 

 ごめんねアリサちゃんはやてちゃん! 僕なんかが友達になりたいとか思っちゃってごめんね! 一瞬期待持っちゃっただけにダメージでかかったよ! 涙目だよ! 若干声震えちゃってるよ!

 

「アリサちゃん? はやてちゃん?」

「い、いや、違、そうじゃなくて、そういう意味じゃないわよ! 私もすずかと同じで、お友達だと思ってるって話よ!」

「そ、そうやで!? 自分かてそうや!」

「え……?」

 

 え?

 

「にゃはは、私もお友達だと思ってるよ、ヨッシーくん」

「佐藤くん、一応言っておくと僕も友達だと思ってるからね?」

 

 なん……だと……ッ!?

 

 え、これ泣いていいかな。どうしよう。苦節9年。あ、一桁だと大して苦節って感じしないな。まぁとりあえず9年間、「あれ、僕友達いないんじゃね?」という恐怖感と自己嫌悪と戦い続けてきたこの僕に、とっくに、友達がこんなに出来ていただと……ッ!?

 

 あ、ごめん。マジで涙出てきた。

 

「くっ、ひぐっ、あり、ありばぼう……」

 

 鼻水と涙で、まともに発音できないよ!!

 

「良かったやんなぁ……ヨッシー」

 

 うん、マジで良かったよ! 今日は呼んでくれてガチでありがとうね虎次郎くん!! いや、虎次郎くん様!! なにこの至福の一時! さっきまでこの世のものとは思えぬ癒し空間にいたというのに、今度はこの友情系の感動! どうしよう! 小学生って割りとちょろい!!

 

「虎次郎くん、君も君だよ? 元から友達だと思ってたのに、勝手に友達未満だと決め付けた言い方はどうかと思うよ?」

「……そういえばそうね。アンタの中でヨッシーってアンタ以外の友達いないポジションって勝手に決め付けてたんじゃない?」

「そのへんどうなんや? 虎さんや」

「い、いやいやいや! そないなこと思っとらへんよ!? ただなんや普段からヨッシーは他人と距離とっとるし、そもそもすずにゃんもアリサも普段全然ヨッシーと話しとらんやんか!? はやちぃに到っては二人が顔合わせてるとこすら見たの初めてなんやで!? ワイかて誤解してたわ! ごめんなさいやわ!」

「「「あぁ。そう言われてみれば……」」」

 

 ふっ、普段会話が無いことすら気づかなかったのかい三人とも? でも大丈夫だよ! その辺は僕、自分の事ちゃんとモブだって割り切ってるから存在感薄いの分かってるし、原作でも仲良しさんが二人いる上にオリ主が二人も(悠馬除外なう)いるんだからそりゃあわざわざ席の離れた僕のとことまで話しにきたりしないもんね! はやてちゃんに到っては学校来てないから余計だよね!

 

「私は普段から虎次郎くんが話しかけたり、隣の席の子とお話ししてるから、男の子同士のところに混ざるのってどうなんだろうって思ってあんまり近づけなかったんだよ」

 

 完全に気づいてなかった三人とは違って、私はそこに気づいてたよと言わんばかりに、然れどもにゃはは、と誤魔化し笑いを浮かべながら釈明するなのはちゃん。なるほど、それは一理あるな。僕も女の子だらけの空間に知り合いが混ざってても自分から声かけようとは思えないし。

 

「あ、なのはずるいわよ! 一人だけ自己弁護だなんて!」

「わ、私もそう思って近づけなかっただけだよヨッシーくん!」

「えっと、私は単純に会う機会が少ないだけやで!」

「あ、すずかにはやてまで! じゃあ私もそうよ!」

 

 えぇ、なにコレ。傷つく僕のフォローのためなのか、ガチで自己弁護なのかわかんないけど、僕なんかにこの友情イベントは勿体無さ過ぎるですよ。僕、今日帰り道にでも死ぬんじゃない? 一生分の幸福使い果たした気がするんだけど。

 

「う゛ん……ばびばぼう(うん、ありがとう)」

 

 くそぅ、鼻水も涙も止まりやしねぇぜ……虎次郎くん、ちょっとお前の服で鼻かんでいいかな。

 

「ヨッシー、良かったらコレ使いや?」

 

 と思ったら虎次郎くんにハンカチとティッシュを差し出された。くそぅお前マジイケメンだな。特にハンカチ単体でもティッシュ単体でも無く、両方渡すあたり分かってるね。こんだけ涙と鼻水ぼろっぼろだと単体じゃ間に合わないからね。というわけでありがたくお鼻をチーンします。

 

「ふふふ、青春のひとコマだね」

 

 なんか刹那が良い物を見た、と言わんばかりに笑顔を浮かべてこっちを見ている。くそぅ、お前外見はマジ女の子だからそんな輝かしい笑顔で見られたらちょっと恥ずかしいじゃないか。っていうか、お前今泥だらけになった私服の代わりにアリサちゃんの服借りてるから余計にそうとしか思えないよ。女物の服を着るのに全く抵抗無いとか、お前は小学生か。あ、小学生だ。

 いや、でも普通男の子って、このくらいの歳になったら女の子物の服着るのって嫌がるもんなんじゃないの? あ、こいつ転生者だったわ。しかも前世女の子だったわ。ついでに言うと、僕も今の身体ならそこまで女装に忌避感なかったわ。

 

「にゃ~」

「うん、アインちゃんもありばぼうね?」

 

 あ、また鼻が。チーンずるずる。

 

「ふふふ……」

「えへへ……」

「全く……」

「やれやれやな」

「良かったやん、ヨッシー」

 

 な、生暖かい視線の集中砲火やぁぁぁぁ!!

 ちょっと恥ずかしいんだけど! 微笑ましいものを見るような視線に晒されるのって結構恥ずかしいんだけど!

 

「ねぇ、ヨッシーくん」

「……うぃ、なにすずかちゃん」

「あのね、アイン、まだ里親決まってないんだけど、……もし、良かったらなんだけどね?」

「もらっていいの!?」

「うわっ!?」

 

 にゃんこをいただけるお話でございましたらば僕、涙も鼻水もひっこめますよ! 言質は得たと言わんばかりにすずかちゃんに突撃ですよ!

 あ、でも勢いあまって手を握ったりはしてないから安心してね。今僕の手、涙と鼻かんだ時にティッシュからちょっとこぼれた鼻水やらでべったべただから。

 

「よ、ヨッシー、復帰早すぎへんか……空気ぶち壊しなんやけど……」

 

 虎次郎くんがなんか言ってるけど知ったこっちゃないね!

 

「ほんまに猫さん好きなんやなぁ……まぁ気持ちはわからんでもないんやけど。私も猫さん欲しいけど、こんな身体やからなぁ……」

「あ、それならはやては犬飼ったら? 言っておくけど犬だって猫に負けないくらい可愛いんだからね?」

「おぉ、それは名案じゃないかい? 犬ならちゃんと躾ければ物を運んでもらったり、はやてちゃんに何かあった時に人を呼びに動いてもらうことも出来るしね」

 

 おい聞き捨てならないぞ刹那! にゃんこだって躾ければ物運んできたりしてくれるんだぞ!

 

「いやぁ……せやけど一から躾けるにもそもそもお世話ができへんからなぁ……」

「ふふふ、海鳴市が誇るわんわんパラダイスの主、バニングス家の娘がここにいるのよ? 介助犬としての訓練をしてる子もいるから、その子達の中から一人プレゼントしてあげるわよ!!」

「ほ、ほんまか!?」

「ふふん、いい女には二言は無いのよはやて! 安心しなさい。背中に乗っても嫌がらないで目的地まで運んでくれるような子を用意するわ! ご飯のあげかたとかトイレの設置とか、接し方とか、そういうのはこのアリサ・バニングスが全責任を持って伝授してあげるから!」

「さ、流石はアリサちゃんやでぇぇ!!」

 

 おぉ、なんかあっちも盛り上がってる!!

 でもそうか、はやてちゃん一人暮らしだもんな。お手伝いさんがたまに来るとは言っても、世間一般的に見たら明らかにおかしいのに許容されちゃってる身体障害持ちの小学三年生一人暮らし。認識阻害系の魔法がかけられてるんだろうけど、大問題だよね……僕は知ってるからこそ違和感に気づけるんだろうけど。しかしそこはやくなんとかならないもんか。半年後だよな、ヴォルケンリッター出てくるの。

 家族が出来れば寂しさも解消されるし不便な所も大分良くなるだろうし、何より車椅子生活とはおさらばだもんな。一時的に悪化する時があったはずだけど……。そういう意味ではわんこ飼うのは寂しさ紛らわせる意味でもってこいだよね。

 問題は闇の書事件による被害がどうなるかなんだけど……。

 

 まぁ、そのへんはうまいことオリ主組がどうにかしてくれることを祈ろう。夜天の書のバグ破壊向きな特殊能力のひとつやふたつ持ってるだろ。無くても被害を軽減することくらいはしてくれる……筈。最近、特に今日の戦闘見てたらなんかすっげぇ不安になってきたけど。

 あ、悠馬の王の財宝<ゲートオブバビロン>の中にアスクレピオスの杖とかルールブレイカーの原典あれば結構簡単にいけんじゃね? じゃあ安心だね。良かった良かった。

 

「え、えっと……あの、うん。お友達の証に……それにアイン、ヨッシーくんと離れたくないみたいだから」

「にゃ~」

 

 あぁいかん。にゃんこにゃんこな未来が目の前にあったというのに、ついつい別のことを考えてしまった。でもマジ不憫だからなぁはやてちゃん……、いや、まぁそれは今はおいておこう。とりあえず今は……。

 

「僕、一生大事にするよ すずかちゃん!」

「ヨッシー、それは告白にしか聴こえん」

「ふふふ、ありがとう。アインをよろしくね? ファリン、ケージ用意してきてくれる? それとうちで作ってる餌の作り方のメモとキャットフード、あ、それと猫のお世話の仕方の本あったよね? それもお願いしていいかな?」

「お任せくださいすずかお嬢様! ちょっと待っててくださいねヨッシーくん。すぐ戻りますから」

 

 すずかちゃんに言われるや否や、僕にウィンク交じりに声をかけて風のように去るファリンさん。

 う~ん、ドジっ子のイメージあったんだけど、今日一回もドジしてない上にこの素早いのに女の子らしくて下品でない洗練された動き。僕達とそんなに年齢変わらんだろうに、プロのメイドさんだ。あの人何歳なんだろう。中学生くらいかな。外見的に。

 

「よし、じゃあ明日……は流石に今からじゃ渡すのに支障無い子の判断出来るか分からないし……はやて今は学校休学中なのよね?」

「せやで? お陰で平日も休日も昼真っから図書館浸りの日々が殆どや。たまに病院とか買出しには行っとるけど」

「ん、それじゃあ来週、病院無くて都合良い日ある?」

「ん~……水曜日からはなんも予定無いで。土日も然りや」

「あ~、じゃあ私のお稽古とか塾もあるから……来週の土曜に私の家に案内させてもらっていいかしら? 迎えのリムジンもつけとくから」

 

「おぉ、ほんまか! それはえろう助かるわ! おおきにな!」

 

 あ、向こうもわんこもらうの完全決定か。わんこもいいよな~。個人的には猫派なんだけど、わんこ様も勿論大好きだよ。っていうか、小動物は大半が大好きだよ。うさぎさんとかハムスターとかモルモットとかも当然大好きだよ。すずめさんとか鳥系もありだよ。

 そうそう、鳥といえばカラスも個人的に有りなんだけどどうだろう。賢いしね、あの子達。

 ゴミを荒らす害鳥とか不吉の表れみたいに思ってる人いるかもしれないけど、日本の本来のカラスの立ち位置って神聖なものだった気がするんだよね。

 八咫烏(やたがらす)は太陽の化身、天の使い(或いは熊野の使い)の三本足のカラスで八幡神宮とかにも関係していたはず。あと熊野神社とか。熊野地方土着の神様かなんかだっけ? 詳しいことはもう覚えてないけど、なんかそんな感じだった気がする。黒いカラスは不吉の表れ、っていうと西洋系の考えだと思う。

 

 でも戦国時代も戦場で死体を食い散らかしたりするイメージあるから、やっぱそういう神聖なイメージは古代で終わってるのかな。どうなんだろ。わからん。まぁ気になる人がいたら調べると良いよ。僕調べたくてもPCも携帯も無いから。

 え? 図書館で調べろ? 嫌だよ面倒臭い。雑学好きだけど一度熱が入ると熱中して他が目に入らなくなる性質だからね僕。他の勉強に支障をきたしたら困るもの。浅く広くうろ覚え、が基本。この前の雷って秒速150~200kmくらいじゃね? ってのもうろ覚えだからね。光の速度も秒速10万kmだったか30万kmだったかすらうろ覚えだし。でもこれらに関しては理科の勉強でどっちにしろやることになりそうだし、その内図書館で調べておこう。

 

 あれ? なんの話だったっけ。

 

「あ、それなら僕も行かせてもらっていいかい? アリサちゃん」

「あぁ、別に良いわよ? そうだ、どうせだったらこのメンバーでまた集まらない?」

「それは良いね」

「うん、私も土曜日は予定無いから大丈夫なの」

「私も大丈夫」

「ええんやないか? どうせ来週はワイも暇やし」

「来週も、じゃないの? アンタの場合」

「ハハハ、何を言うとるんやバーニング。わいは男女問わず平日休日問わず引っ張りだこがデフォやで?」

「バーニング言うな! そういうこと言うなら家にあげないでおこうかしら?」

「アリサ、愛しとるで。もう半端なさすぎるくらいの愛があるんで、是非とも週末は一緒にいたいと思うんやけどどうやろうか」

「……む、むずがゆいからそういうこと言うのやめてくれないかしらっ?」

 

 虎次郎くんをからかおうとしたアリサちゃんが、虎次郎くんによって陥落した。っていうか、もう完全にアリサちゃん落ちてるな~。虎次郎くん愛情表現ストレートだもんな~……誰に対してもそうだけど、ふざけて言うのかと思ったら今の言い方もちょっと熱こもってて本気感があったし。

 

 ……ところですっごい下世話な話だけど、虎次郎くんってまだ精通してないよね? アリサちゃんも初潮まだだよね? なんでこんな小さい頃から男と女って感じがぷんぷんするデレ具合なの? お互い。

 もっとさ、もっと小学生で、しかも低学年なんだから爽やかにというか、こう……ねぇ?

 お互い異性としての認識はしてないんだけど、でも大切な人で、手を普通に繋いじゃったりして、それをからかわれると男の子の方がちょっとうろたえて手を離しちゃって女の子に寂しそうな顔されて、で、男の子もなんだか寂しくてその気持ちを誤魔化すためにからかってきた奴等に言い返して追い掛け回したりするんだけど、結局は女の子のところに戻ってきて「ごめんね? その……でも、僕……恋人とかそういうのはよくわかんないけど、でも君のこと好きなのは……その、間違いないよ」とか顔を真っ赤にしながら言っちゃったりなんかしちゃったりして、女の子も「うん……その……私も、君のこと、好きだよ? お父さんとお母さんに負けないくらい」とか顔を真っ赤にしながら言って、お互いまた手を結んで、女の子がちょっとおませな子なら男の子のほっぺにキスしちゃったりなんかして……。

 

 ……ストロベリーだね!! あっまあまだね!! 僕もそんな恋愛がしてみたいな!! まぁ今の穢れた心じゃ出来ないこと請け合いだけどね!!

 

 いやぁこんなこと考えてたのがバレてたら虎次郎くんにスイーツ脳だと笑われてしまうね。僕は割と好きなんだけど、こういう甘々な展開。多少の紆余曲折はあっても、絶対に最後はハッピーエンドで終わるラブコメとか純愛物とか大好物だからね僕。読みながら足をバタバタさせて「身体がむずがゆいぃぃ」とか言いながら枕に顔をうずめて暴れちゃうタイプだからね、僕。

 

 そこ、少女趣味だとか言うな。僕は前世からこういう人間だ。

 

「すずかとヨッシーは?」

「あ、私も大丈夫だよ」

「あ、ぼ、僕も大丈夫だよバニングスさん!!」

「ヨッシー? バニングスじゃなくてアリサよ。友達なんだから名前で呼んでいいのよ?」

「う、うん、了解アリサちゃん!」

 

 ……意識飛ばしてると良いことが起きるのかしら!! なに? 今度はわんわんパラダイスご招待確定なの!? いいいいやっはあぁぁぁぁぁぁ!!

 あ、うん。それとアリサちゃん名前呼びOKのお許しが出たね。わ~い。

 

 え? アリサちゃんに対する反応が薄い? ごめん。わんわんパラダイスご招待という感動的事件が起きたのでそこは見逃してください。

 

「じゃあ決定ね!! 来週土曜日の今日の集合と同じ時間で!!」

「すずかお嬢様~、ケージ他数点お持ちしましたよ~」

 

 お、話がまとまったところで丁度ファリンさん来た。なんという空気を読むメイドさん。誰だあの人をドジっ子だなどという情報を僕にくれたのは。あ、アニメ本編だ。じゃあいいや。

 

 

 

 その後、もらったケージにアインちゃんを入れて僕は再び虎次郎くん、高町兄妹と共に家路へと着いた。

 え? 皆でわいわいしてた時に恭也さんどこにいたのかって? おいおい、それを聴くのは野暮ってもんだよ。まぁただひとつだけ言えるのは、会話に忍さんも参加していなかったということだね。

 

 ……あれ、ところで次って温泉の回じゃなかったっけ? 来週の月曜日祝日だから連休だし、土日って高町一家と月村一家で宿泊旅行じゃないの?

 

 ……まぁ、どうでもいいや! わんわんパラダイスだよわんわんパラダイス!! そして今日から僕の家はにゃんにゃんパラダイスだよ! アインちゃんしかいないけどね! それでも僕にとってはパラダイス!!

 あ、そういえばお父さんに猫飼っていいか確認するの忘れてた。まぁ大丈夫だよね? 猫アレルギーあったりしないよね? お父さん。

 

 ……大丈夫、だよね?


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