転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

7 / 38
7.猫天国と戦闘初観戦

 土曜日になった。

 

 尚、その間の三日間をダイジェストで語ると、

 

 水曜日は僕に転生者であると認めさせようとした刹那くん……いや、中身女の子だし刹那ちゃん? に問い詰められたけど、

「転生とか前世とか、ちょっと意味わかんないけど、とりあえず言えることは、爽やかで元気な少年みたいなイメージあったけど、意外にねちっこいんだね。僕、そろそろ君を見る目が変わりそうだよ」

 と ニコヤカに告げたら若干涙目になって席に帰っていった。それ以降は接触はかってきていない。

 しかしなんで転生者ってバレかけたのかがわからない。もう少し話させて情報聴き出せばよかった。

 

 それと、虎次郎くんが思い出したように弁当の感想言ってきたので、弁当箱洗って返せとだけ言っておいた。僕、お前に対するヒロイン化はしないと決めたからな!

 あ、でも親友ポジは変わらないでね! 割とマジでお前との会話無くなったら僕学校でまともな話し相手いないから!

 

 そしてナルシーこと悠馬だけど、何故か僕に優しくなった。いや、優しくなったって言っても相変わらず呼称は「モブ」なんだけど、すれ違いざまにいきなりローキック入れてきたりという悪行はしなくなった。代わりに別のイケメン男子がくらうことになっててちょっと気の毒だったけど、それを見て「あぁ、悠馬って仕返しがこないタイプ相手じゃないとこういうことできないんだな、さすがかませ犬役の小物」とほっこりしたのは秘密である。本当最低だなアイツ。

 

 それらオリ主グループ以外だと、原作かしまし三人娘とは相変わらず挨拶はするけど会話をお互い持っていったりはしない程度のいわゆるただのクラスメイトとして接している。一応、ヨッシーという変わった名前として覚えてもらったみたいだけど僕は納得していない。

 

 あとは隣の席にいたクラスメイトに勇気を出して話しかけてみて、友達になったという快挙を遂げたことをここに記しておく。彼の名前は鈴木太郎(すずき たろう)くん。

 僕以上に完璧なモブ名だなと思ったけどきっと言ってはいけない。外見も運動も成績も可も無く不可もなくだが、ちょっとおっとりしててお人よしというすばらしい友人である。でも話の盛り上がり具合は虎次郎くんには及ばない。っていうか、会話のキャッチボールが彼はへたくそなのか何故か明後日の方向へと会話を投げる困ったくんである。

 

 それはさておき、土曜日である。

 

 土曜日、なのはちゃん他オリ主二人ががすずかちゃんの屋敷に遊びに行くことになっている。これは木曜日にいつものメンバーで決めたのだそうだ。虎次郎くんが教えてくれた。そして誘われた。

 

 そう、誘われたのである。友達のお呼ばれにお呼ばれされちゃったのである!

 え、原作介入しないんじゃなかったのかって? バッカ! お前月村邸といえばにゃんにゃんパラダイスだよ!? バニングス邸のわんわんパラダイスと並んで、海鳴市二大癒しスポットだよ!? そんな些細なこと気にして遊びにいかないなんて選択肢は無いよ!

 いや~、僕凄い進歩! やったね! これも日頃の行いが良いからだね!

 

 ……うん、ごめん。コレ完全に虎次郎くんの善意でしたね。調子こきました。サーセン。

 

 で、それはさておきそのいつものメンバーに悠馬が入っていないことに、僕は一抹の憐れみを感じる。よもやモブの僕が呼ばれたメンバーに呼ばれるという形ではあるものの参加が決定したのに、仮にもチートオリ主のあいつがお呼ばれしないとは……まぁ普段の言動見てれば当たり前なんだけどさ……。

 

 でもまぁ、やっぱり好意を持ってる子から拒絶されるってのは可哀想だよね。僕に対してたまに起きる地味な嫌がらせが無くなったことでたまに悠馬のこと見るようになったんだけど、あいつ口では「俺の○○」とか言ってるけど身体的接触を無理に図ろうとはしてないことに気づいたよ。てっきりナデポニコポ能力持ちとかじゃないかと思ってただけにちょっと意外だった。

 はやてちゃんに無理に言い寄ってた時だって、あくまで車椅子押そうとしてただけだったし、相変わらず容姿と相まって気色悪いのは変わりないんだけど、ちょっとだけアイツを見る目が変わった。

 

 それを虎次郎くんに言ったら「ヨッシー、世の中綺麗事だけでは食っていけへんけどな。ヨッシーのそういう優しいとこ、ワイは好きやで」と肩をやさしく叩かれてにこやかに言われた。面と向かって言われると照れる。

 

 まぁそれはどうでもいい。そんな訳で土曜日、今日は巨大にゃんこデーであり、フェイトとの初戦闘であり、悠馬の裏切りが心配される日である。

 

 いや、だって明らかに原作イベントなのにハブられた悠馬が何しでかすかなんてなんとなく想像つくじゃん。あいつ完全にかませ犬ポジだもん。

 好感度が知人レベルまで回復して多少見る目が変わっても、僕のあいつが担当していると思っているかませ犬ポジに変更はないもん。大体、人のスカート堂々と覗き見したり、転生してるってことは精神年齢ある程度いってるはずなのにリコーダー嘗め回したりしてる時点で人としてアウトというか、友達になりたいとは思えないしね。特に舐められた側からしたらね!

 

 

 

 

「おっす、ヨッシーおはよーさんや」

「ヨッシーくんおはよう」

「おはよう」

「おはよう、虎次郎くん、高町さん。ユーノくん。おはようございます。高町さん」

「なのはでいいよヨッシーくん! 高町が二人だと混乱するから!」

「あ、うん。わかったよなのはちゃん」

 

 かくして僕は朝から虎次郎くん、なのはちゃん、恭也さんの三人と共にバスで月村邸に向かうこととなった。

 僕となのはちゃんはリュックサックを背負い、僕はそれプラス菓子折りを。虎次郎くんと恭也さんは手ぶらだ。

 

 しかしアレだね。緑川ボイスのお兄ちゃんとか全国の声優オタの夢だよね。それも性格良し体格良し頭脳良し器量良し、ついでに主人公補正持ちだよ? もうね、こんなお兄さん欲しいなと思うよ。僕の前世は父親があまりろくなもんじゃなかった分、兄に懐いててブラコンの気があったから、ちょっと思い出してしまう。

 

 まぁ、男兄弟よりも女姉妹のほうが欲しいけどね! 特に妹!

 

「ヨッシー、ところでその随分小奇麗な包装されとるソレはなんや?」

「うん?」

 

 妹欲しいよ~! と脳内で父さんに対して駄々をこねる自分の姿を想像してたら、唐突に隣に座る虎次郎くんに声をかけられて意味がわからず首をかしげた。

 小奇麗な包装、というと僕が今膝に抱いている菓子折りのことだろうか。見て分からんのかね。

 

「いや、そない不思議な顔せんでも……アレか? もしかしてすずかちゃんにプレゼントなんか? にひひ、ヨッシーも隅におけんやつやなぁ」

「あぁ、これはプレゼントじゃなくてお菓子だよ」

「ヨッシーくん、お菓子ならすずかちゃんのお家には美味しいの一杯あるから大丈夫だよ?」

「あ、いやそうじゃなくて、やっぱり初めて人のお家にお邪魔するんだから家の人に菓子折りのひとつくらい持っていくでしょ?」

「「「え?」」」

「え?」

 

 僕の言葉に、何故か恭也さんを含めて全員がきょとんとした表情を浮かべた。なに? どしたの?

 

「い、いや……えっと、あ、お父さんに持ってくよう言われたんか?」

「え? いや、言われなくても普通じゃないの?」

「え、えっと……そうなの? お兄ちゃん」

「あ、あぁ……まぁ大人同士とかならそうだろうけど……」

 

 ……うんん? ただでさえ初めて行く人の家で、しかもあんまり親しくない人のところなんだから、菓子折りのひとつくらい渡すのが礼儀じゃないの?

 

「ヨッシー、気ぃ使いすぎやで……」

「そうだな……いや、悪いとは言わないけど、小学生なんだし、友達の家に遊びに行くだけなんだしそこまで気にしなくていいと思うぞ? ヨッシーくん」

「うん、というかそんなこと言われたら私達もケーキくらい持ってくるんだったって今かなり動揺しちゃってるから」

「そうなのかなぁ……いや、でも三人は何度も行ってるだろうからそうかもしれないけど、僕初めてな訳だし、そもそもすずかちゃんからしたら虎次郎くんが呼んでいいかって訊いてくれたから参加することになったけど、本来お呼ばれしてもらえるような仲良しさんでもないし……」

 

 だって、逆に考えてみて欲しい。仲良しだけ家に呼んだら、何故かついてきた名前だけは知ってる程度の知り合い。それが堂々と家にお邪魔してお菓子食ってお茶飲んで帰るだけ、コレどう思う? 僕だったら「帰れ」って言いたくなるよ?

 だから少しでもそういう不愉快な思いをさせないために事前に菓子折りを渡しておいて、邪魔に思われている空気を感じたらすぐに気まずい空気を作らないように、且つ不自然で無いように去る。コレが鉄板だよ。

 あ、ちなみに菓子折り代はちゃんと自分のお小遣いから出したよ? 小学生が毎月三千円も貰っても使い道少ないから貯まってたんだよね。女の子とかならお洒落にお金まわすんだろうけど、僕男だし、ゲームも戦略ゲー系だと一本で長く楽しめるから新しいの欲しいとも思わないし、マンガは週刊のやつは立ち読みで済ませるし、小説は大概図書館で事足りるし、お菓子もうまい棒とたまにチョコ、たまに食べる翠屋のケーキくらいで充分だし……。

 

「ヨッシー……なんか、その……友達にお呼ばれするのに嫌な記憶でもあるんか……?」

「え? いや、別に無いけど……」

「ヨッシーくん。君は子供なんだから、そんな考えすぎないでもう少し自分に自信を持ってもいいと思うぞ?」

「うん。私も気を使う方だと思うけど、ヨッシーくんはちょっと使いすぎだと思うの」

 

 あれ~? なんで僕、諭されてんの?

 

「ヨッシー! 退いてばっかりやと友達なんて作れへんで! ワイを見習って、ちょっとくらい自分の欲望を真正面に押し出すべきや!」

「虎次郎くん、流石にそれはそれで駄目だと思うの」

「虎次郎、お前は逆にもっと退くべきだと思うぞ、俺は」

「ごめん虎次郎くん、僕は高町兄妹の意見に同意だよ」

「バカなっ!?」

 

 僕を説得しようとした筈が、逆に仲間だったはずの高町兄妹にやんわり否定されて驚愕する虎次郎くん。いや、当然だろう。お前はちょっと欲望前面に押し出しすぎだよ。それでも憎めないキャラなあたりがまたずるいけど。

 

「いや! しかしワイはこうして欲望を前面に押し出すことで友を、そして愛人を作ってきたんや! そうやろうなのはちゃん!」

「えぇ!? 友達はともかく、愛人はどうなの!?」

「待て虎次郎、一応訊いておくが、なのはは、あくまで友人だな?」

「愚問ですわな恭義兄(きょうにぃ)、無論愛人ですわ」

「私いつから虎次郎くんの愛人になったの!?」

「虎次郎、明日、道場に来い。いや、今日向こうで解散になったらすぐ来い」

「ちょ、落ち着いてや恭にぃ! 目のハイライト消えとるから! その目は色々ヤバイて! 何人か殺してそうな目やから!」

 

 わざわざ高町家の地雷踏み抜きに行ったお前が悪いんだと思うぞ虎次郎くん。っていうか、やっぱり恭也さんチートオリ主でもビビるレベルの強さなのか、虎次郎くんの態度見た感じからして。

 大体どこの二次創作でもシスコンで無駄にハイスペックな戦闘能力持ちだもんなぁ……原作であるリリなのの更に原作のとらハとか言うのの主人公なんだっけ? 恭也さん。

 まぁその世界だと士郎さんが死んでたり高町家に居候がいたり、リンディさんが妖精さんだったりクロノくんがフェイトの立ち位置で尚且つなのはのカップリング相手だったりするみたいだけど。あとアリサちゃんが幽霊なんだっけ。んでユーノくんの立ち居地が狐だっけ?

 

 え? なんでアニメ第一期しか見てないはずのお前が知ってるのかって? 二次創作読み漁ってるうちに興味でたからWikiで見たことがあるんだよ。元はエロアニメ? 18禁ゲーム? どっちかだった気もするけど、そのへんまでよく覚えてない。違ったらごめんなさい。この世界だと当然ながらそのへんの情報新しく仕入れたりも出来ないし、もし万が一ネットで調べられたとしてもそもそもPCも携帯も持ってないからな、僕。

 

「うわぁ……」

「「「ん?」」」

 

 とかどうでも良いこと考えてたら、なのはちゃんが何やら感嘆の声をあげたのでそちらに目をやると、海が見えた。なるほど、綺麗に晴れ渡った空に輝く太陽の光が、海のさざ波に反射して幻想的な光景である。

 しかし僕はそれを長時間見ていることは出来ない。何故か? 前世でもそうだったんだが、三半規管が弱いのか乗り物酔いが激しいからである。バスみたいな揺れる乗り物に乗ってる時に真横を向く? 五分で吐くわ! 貴様はだから阿呆だと言うのだァ!

 そんな感じで、その後も虎次郎くんとひたすらどうでも良い掛け合いをし、時折そこに虎次郎くんに対するツッコミとして恭也さんが参加し、なのはちゃんが笑う、といった風情で気づけば月村邸の近くのバス停についていた。

 

「ヨッシー、お兄ちゃんって呼んでくれへんか」

 

 そして到着してバス停に降りると同時にそんなことを虎次郎くんが真顔でお言いなされた。

 

「ごめん、なんで?」

「いや、恭にぃとなのはちゃんのやりとり見てたら妹欲しくなってん」

「僕男だよ!?」

「じゃあ弟でええで!」

「見境ない!?」

 

 最低な発言をとても良い笑顔で言いのけた虎次郎くんにツッコミを入れつつも、ちゃっかりノる僕は虎次郎くんの袖をくいくい引っ張って注意を引くと、思いっきり腰元に抱きついて上目遣いで叫ぶ。

 

「虎次郎くんおにいちゃん、僕おにいちゃんみたいな素敵なおにいちゃん持ってうれしいよ!!」

「おうふ……ッ!」

 

 効 果 は 抜 群 だ !!

 

「妹……妹萌えを信じていたワイが……よもや弟キャラに萌える日が来ようとは……ワイも思っておらんかったでぇ……」

「ふっ、今の僕は悲しくも自他共に認めるショタ系ちびっこだからね……」

 

 胸を押さえて息を荒げる虎次郎くんに、僕は自嘲気味にそう呟くのであった。

 

「えっと……二人とも、なにしてるの?」

 

 そして、そんな空気を破壊するべくやって来るは我らがなのはちゃん。流石だな、この状況下の僕達に話しかけられるとは!

 僕はすばやく虎次郎くんとアイコンタクトをとると、寸分のぶれもなく同時に手を掲げてハイタッチしてニヤリと笑ってなのはちゃんの方へと向き直る。

 

「「友情の確認 (や)」」

「あ、そ、そうなんだ……」

「……えっと、虎次郎、ヨッシーくん。こんなところで油売ってないで、そろそろ行くぞ」

「「は~い」」

 

 

 

 

 にゃんにゃんパラダイスである。

 もう一度言う。にゃんにゃんパラダイスである。

 大事なことだから何回でも言う。にゃんにゃんパラダイスである!

 

 今の僕なら、ちっちゃいにゃんにゃん、おっきいにゃんにゃんとにゃんにゃんしたいにゃん、とか恥ずかしげも無く言える!!

 尚、元ネタはゼロ魔とかそのへんだった気がする。コレ素面で言えたらとんだ変態さんである。

 

「にゃんこ可愛いよにゃんこ」

 

 言うまでも無いが今の僕の顔はデレッデレである。びっくりするほどデレッデレである。もし僕が中年親父で、この表情のまま駅のホームにいたら間違いなく逮捕されてしまうレベルのデレデレっぷりである。

 良いよね。にゃんこいいよね。ここのにゃんこ達は皆人馴れしてるから近づいても逃げないし、抱っこしても変な抱き方しない限り逃げないんだよ?

 子猫が一杯いるんだよ?

 にゃんにゃん一杯でにゃんにゃんし放題なんだよ!?

 

「……あんな、ヨッシー、猫と戯れとるとこ悪いんやけど、まだすずかちゃんとこに挨拶すらしとらへんで……せめて挨拶終わってからにしようや……」

「う~……一匹抱きかかえたままでもOK?」

「あ~……もうえぇんちゃうか……」

「にへへ……」

 

 小動物の可愛さは異常。ごめんなさい。今の僕はお猫様、にゃんこ様たちのことで頭が一杯です。状況説明が正しく出来るかわかりません。

 

「恭也様、なのはお嬢様、虎次郎くん様、ヨッシー様。いらっしゃいませ」

「あぁ、お招きに預かったよ」

「「こんにちわ~」」

「こんにちわ……僕の名前もう月村さん達の間では完全にそれで定着してるんですにゃー」

 

 呼ばれ方に若干テンション落ちかかったけど、抱っこしているにゃんこの癒しパワーで持ち直したぜ! にゃんこ! にゃんこ! もふもふにゃんこ!

 いろんな方面から冷たい視線を投げかけられている気がするが、猫好きにしか分かるまい、この僕から出る猫好きのオーラ力は!

 

「ヨッシー、語尾語尾」

「ん? にゃんだね虎次郎くんにゃん」

「よ、ヨッシーくんが壊れかけてる!」

「にゃにゃにゃにゃん、にゃにゃにゃにゃんにゃんにゃん?(なのはちゃん、何を言ってるの?)」

「どんだけ好っきゃねん、猫……」

 

 虎次郎くんが呆れたみたいだけど、知ったことじゃないね! 今の僕は小学三年生、つまりにゃんこをもふもふして暴走しても全くドン引きされなくて済むのさ! ちょっと変わった子認定はされるかも知れないけど知ったことじゃないよ!

 

「あかん、とりあえず連れてこか……」

「そ、そうだね……」

「そのほうがよさそうだな……」

 

 三人が苦笑いしてるけど知ったこっちゃないね!

 ……あ、いかんいかん。菓子折り渡さんと。にゃんこ抱くのに邪魔だからリュック半開きにして、そこにつっこんでおいたんだ。

 にゃんこを一旦降ろして、僕は菓子折りを両手で差し出すと頭をペコリと下げた。

 

「コレつまらない物ですがお近づきの印にと思って持ってきました」

「あらあら……わざわざお気遣い頂いてありがとうございます」

「いえいえ、なにぶん子供の身ですので大した物もお渡しできず心苦しい限りですけれども……」

「お気持ちだけでも充分に伝わりました。ありがとうございますね」

 

 美人さんの柔らかい笑みはとっても心に染み渡りますね。

 とか思ってたら虎次郎くんに思いっきりため息吐かれた。

 

 え? 僕なんか悪いことした? にゃんこさん、僕今なんか悪いことしました?

 

「にゃ~」

 

 あ、してないと思う? ですよね~。にゃんこさんがそういうなら間違いないですね~。抱っこしますね~。にゃ~にゃ~。

 

「……あかん。重症や……」

 

 虎次郎くんよ、お前がにゃんこ様にかしづかないことの方がおかしいのだよ。

 

 そしてそんなやり取りの後はメイドさんに案内されてすずかちゃんとその姉の忍さん、そして先に来ていたアリサちゃんと刹那くん、ちっさいメイドさんと、何故かいるはやてちゃんのいる場所へとやってきた。

 

 な、なんて素晴らしいんだこの状況! ここもにゃんこ帝国ではないか……ッ!!

 

 

 

 

 忍さんは僕達に一通り挨拶し、メイドさんが僕から菓子折りを貰ったと伝えると僕の頭を撫でた後に恭也さん、メイドさん(大)と共に部屋を出て行った。その後にちょろっとお話してから、メイドさん(小)改めファリンさんとやらはお茶とお菓子を取りに出て行く。

 

 そして残されたるは、僕とにゃんこ達ッ!!

 

「おいで! にゃんこたち!」

「「「にゃ~!!」」」

「おうおう、なんやお前ら、相変わらず甘えんぼうさんたちやなぁ。ワイはお菓子はもっとらんで?」

「お~、虎くん相変わらず猫さん達にモテモテやんなぁ」

「……ぐふっ」

 

 両手を広げ、部屋で戯れるにゃんこ達に向かってにこやかに告げた僕を無視して、にゃんこ達は一直線に虎次郎くんのもとへと駆け寄っていった。

 

 バカなっ……ッ!! オリ主補正は動物にも有効だというのか……ッ!! 普段は別に欲しくも無いオリ主補正だが、こんなときはとっても羨ましいぞオリ主補正!! 代われ虎次郎くん!! いや、代わってください虎次郎先生!!

 

「……よ、ヨッシー? なんやさっきからワイを見る眼がやたらギラッギラしとるんやけど、なんでや?」

「僕とのことは遊びだったんだね虎次郎くんッ!!」

「え、ほんまになんで!? どういう状況なん!?」

 

 血涙よ溢れでん、と言わんばかりに眼力を込めて虎次郎くんに震える声で叫ぶと、虎次郎くんがやたら狼狽している。それでもその手は寄ってくるにゃんこ達のもふもふを続けている!! なんて野郎だ!!

 あ、ちっこいにゃんこが二匹も奴の肩にジャンプして乗ったではないか!! 小学三年生の肩のサイズにギリギリ乗れちゃうサイズの子にゃんこさんが!!

 

「え、えぇっと、なのはちゃん、ヨッシーくんどうしたの?」

「う~んと、よくわかんないんだけど、とりあえず猫さんと遊びたくて仕方ないみたい」

「そうなんだ。あ、ヨッシーくん。じゃあこの子と遊んであげてもらっていいかな?」

 

 おにゃんこ様に視線がいっていても、おにゃんこ様との遊ぶ許可が出る台詞は僕、聞き逃さない!!

 バッ、と発言者であるすずかの方を見ると、床に降りてたユーノくんの方をジーっと見つめている可愛らしい子猫さんがすずかちゃんに抱っこされてるではないか!!

 

「有り金はたいてでもこちらからお願いしたいくらいです!!」

「「にゃ~」」

 

 叫んでるのに嫌がらずに僕の腕の中にいるままの、玄関前で拾ってきたにゃんこ様と、すずかちゃんの子猫が鳴いた。ワンダフォー!! あ、にゃんこだからニャンダフォー!!

 

「佐藤くんもやっぱり変人の一人だったか……」

「まぁ、猫可愛いから、私も気持ちは分からなくも無いわよ」

「うん、そうだね」

 

 そこ! 刹那くんうるさいよ! こんなかわいらしいお猫様の群れを前に興奮しないお前らがおかしいんだよ!

 いや、すずかちゃんとアリサちゃんはいつでも自宅でもふもふできるからこそのその余裕なんだろうけど! だからこそアリすずコンビの理解力を御覧なさい刹那くん!

 あぁもう可愛い! にゃんこ可愛い! あれ!? もしかしてすずかちゃんと結婚したらこのにゃんにゃんパラダイス味わい放題じゃね!?

 

「月村さん! 結婚してください! 僕、専業主夫になって毎日この屋敷のにゃんこ達のお世話するから!」

「「「えぇぇ!?」」」

「猫の世話したいから求婚する人って始めて見たよ佐藤くん……」

「いや、でも気持ちはわからんでもないで。猫さん達かあいらしいからなぁ」

「ヨッシー、えぇで、その調子で自分の本性をさらけ出すんや……ッ!!」

 

 にゃんこ! にゃんこ! 両手ににゃんこ!

 あ、そういえばはやてちゃんと虎次郎くんが同じ場にいると同じ関西弁だから地味にキャラ被るね。これではどっちがどっちか分からなくなる人が続出しちゃうよ!

 

「関西弁コンビ! 虎次郎くんはこれから語尾にコン、八神さんはポンポコってつけて。分かりづらい」

「「いきなりどういう事や!?」」

「っていうか、なんで私ポンポコなん!? 狸!?」

「なんでワイは狐!? 赤い服やからか!? あ、そういえばはやちーも若干薄緑系の洋服やな!」

「「赤い狐と緑の狸やな!!」」

「いくざくとりぃ。その通りでございます」

 

 流石は関西弁コンビ。ノリの良さはピカイチだね。そしてそんだけ騒いでも、肩に乗ったにゃんこ達が逃げ出さないとか羨ましいぞ虎次郎くん!!

 

「分かりづらいって……普通に声で分かるよね?」

「「うん……」」

 

 かしまし三人娘が何か言っているが気にしない気にしない。

 

「お待たせしました~。お茶とお菓子ですよ~」

 

 あ、ファリンさん来た。

 

 

 

 

 中庭である。場所移動したのである。皆、各々の膝の上ににゃんこを乗っけながらの雑談である。虎次郎くんのとこだけ二十匹くらい来てる。ずるいぞ虎次郎くん!!

 

「にゃんにゃん」

「「にゃ~」」

 

 原作組がほのぼの会話してるけど、ごめんなさい。今の僕は目の前のにゃんこ二匹と遊ぶことしか考えてません。

 そしてそのにゃんこと遊ぶ為に、わざわざ家から持ってきた道具の数々、ご覧じろ!!

 

「ふっふっふっ……じゃーん。毛糸玉!」

「にゃ~」

 

 おぉ、すずかちゃんに託されたちびにゃんこ、アインちゃんが興味津々だ。これは勝つる! でも玄関前で拾った灰色っぽい毛並みのちびにゃんこ(そういえばこの子の名前聞きそびれた)は反応微妙だ!

 

「そんな君にはコレだ! ねこじゃらし!」

「にゃ~」

 

 くっくっくっ、アインちゃん、君はいやしんぼさんだねぇ。玉よりもこっちかい? コレかい? このうねうね動く棒がそんなに欲しいのかい?

 でもちびにゃんこの方は相変わらず興味湧かないのかそっぽ向いてるよ! コレはいけない! にゃんこ戯れ技能検定一級合格(自称)の実績を持つ僕がにゃんことの交流に失敗するなんて!

 

「にゃ? にゃ~」

「あぁっ、待つんだちびにゃんこっ。追いかけるぞアインちゃん」

「にゃ~!」

「あ、猫じゃらしで遊んで欲しいの? じゃあ追いかけながら遊ぼうか」

「にゃ!」

 

 なんて頭の良いにゃんこさんなのかしらアインちゃん! いやしんぼさんだけど!

 幸い、ちびにゃんこの移動速度は大したことないので、アインちゃんの前でねこじゃらしうねうねさせながらてこてこ追いかける。うふふ、アインちゃん可愛いよアインちゃん。

 

「ちびにゃんこ~待て~……って、茂みのほうに入っちゃったな。アインちゃん、匂いで追跡だ!」

「にゃ~」

 

 おぉ、本当に先導を始めたぞアインちゃん! なにこの子賢い! 案内は任せたぜ!

 

 

 

「その結果が、コレだよ!!」

「「にゃ?」」

 

 目の前には巨大ちびにゃんこ。巨大なのにちびにゃんこ。そう、つまるところソウルジェムじゃなかったあれ、なんだっけ。あぁジュエルシードだ。一瞬素で名前が出てこなかった。

 

 ジュエルシードで巨大化したにゃんこが目の前にいた。

 

「やっちゃったよ……にゃんこの可愛さに釣られた結果がこれクマー!」

「「にゃ~」」

「あ、ごめんごめん。釣られた結果がこれニャー!」

 

 あ~、もうどうしよ。今更この子放置して戻る訳にもいかんよ。なんせ僕がこの子の保護者だからね。え、いつ決まったのかって? 元から全世界のにゃんこは僕の保護下だよ? なに言ってんの?

 

 しかしどうしよ……巻き込まれるの面倒だなぁ……。

 え? 面倒ならバレないうちに戻れって? バカ言うんじゃないですよ。お前さんこんないたいけなちびにゃんこがフェイトちゃんからフルボッコにされるのを見逃せって言うのかね! 僕だって盾くらいにはなれるんだからね! 非殺傷設定のはずだし死にはしないはずだしね!

 

 そもそも巻き込まれただけなら、「僕、魔法なんて見なかったし聞かなかったよ!」って約束すれば大丈夫だよ。大丈夫かな。大丈夫だよね。相手はあのなのはちゃんだし。

 

 それによく二次創作でよくありげな"魔法のことがバレてしまったけれど、そのお陰で秘密を持つことなく気兼ねない相談の出来る相手ができたの!”というなのはちゃん攻略ルートフラグは既にあの三人組が構築してるはずだから僕がフラグ建てちゃうこともないだろう。強制介入イベント(但しモブとして)だというのは間違いない。そうに違いない。

 

 あ、待てよ? でも別に堂々と見つかるような位置にいないで、隠れて様子を伺って、万が一オリ主チームが間に合わなかったらちびにゃんこの盾になる、でいんじゃね?

 

「ソレだ!」

「「にゃ?」」

「あ、気にしないでいいよ。よしアインちゃん、一緒に隠れよう。ちびにゃんこ~、この後なのはちゃん来てくれるから、さっさとジュエルシード渡すんだよ~? フェイトちゃんに攻撃されそうになったら逃げるんだよ~?」

「「にゃ~」」

 

 うむ。実に良いお返事だ。

 そう言うわけで僕は丁度人一人隠れられそうな茂みを見つけたのでそこに隠れることにする。

 そして、隠れたのとほぼ同時にユーノくんの声が聴こえて「ギリセーフ!」と内心で叫んでおいた。そして僕の隠れている位置から2mあるかないかの距離に現れてストップするユーノくんとなのはちゃん。

 

「結界を作らなきゃ」

「結界?」

「最初に会った時と同じ空間。魔法効果の生じてる空間と、通常の空間の時間進行をずらすの。僕が少しは」

 

 ユーノくん、そこでなのはちゃんから視線を外し、

 

「得意な魔法」

 

 キリッ、と決めた。でも残念! 今のユーノくんフェレットだから! かっこよくないから! 可愛いだけだから!

 そしてユーノくんの眼前に広がる魔法陣。

 ……どうでも良いけどさ、よくよく考えたらユーノくんデバイス無しで魔法使えるとか凄くない? それとも魔法ってデバイス無しでも普通に使えるもんなの?

 

「あまり広い空間は切り取れないけど……この家の付近くらいなら……なんとか……」

 

 言い終わるや否や、世界から色が奪われ、少し色素の薄くなった景色に包まれた。

 

 ……ねぇ、明らかに“少しは得意”の域を外れてない? どう見てもさ、どう見てもコレ滅茶苦茶範囲広いんじゃない? デバイス無しで魔法使えるのはわかったけどさ、ここまで広くそんな即席で出来ちゃうものなの? 結界魔法って。

 

「にゃ~お」

 

 とか思ってたら、巨大ちびにゃんこがなのはちゃん達に気づいてご挨拶。

 

「う゛っ」

「お……ぉ……」

 

 そこでようやく巨大ちびにゃんこに気づき、固まるなのはちゃんとユーノくんである。

 

「あ、あぁっと……アレは……」

「多分……子猫の大きくなりたいっていう願望が、正しく叶えられた形、じゃないかなぁ……」

「そ、そっかぁ……」

 

 ユーノくんの多分間違いなく正しい仮説に、なのはちゃんがなんとも言えない表情をして、後頭部をポリポリと掻く。

 

「だけど、このままじゃ危険だから、元に戻さないと」

「そうだね、あのサイズだと、流石にすずかちゃんも困っちゃうだろうし」

「襲ってくる様子は無さそうだし……ササッと封印を……」

 

 って、ちょっと待って!? 虎次郎くんと刹那は!? なんであいつら来ないの!? このタイミングで来ないとちびにゃんこが攻撃受けるじゃん! 何か、何かフェイトちゃんの雷攻撃を誘導できそうなもん無いかな! パチンコ玉みたいなのあれば、それ投げればそっちに誘導できんじゃないかな! でもそんなもん持ってないよ!

 

「レイジングハート!」

「なのはちゃん危ない!」

 

 ふぃ~……良かった。どうやら杞憂に終わったようだ。

 比較的聞きなれた声が響き、何か、どう考えても自然音では有り得ないような不思議な音(多分、魔法と魔法がぶつかる音)が響き、視界が一瞬青と黄色で小さく光った事で僕は安心した。

 

「にゃぁぁぁお!?」

 

 そして倒れる巨大ちびにゃんこ。

 

 安心できねぇぇぇ!!

 なんで!? 今の刹那くんの声だよね!? え!? フェイトちゃん、いや、にゃんこに攻撃仕掛けるような人は呼び捨てでいいや、フェイトの攻撃魔法に割って入ったんじゃないの!? 

 

「魔道師……? ……バルディッシュ、フォトンランサー連撃」

 

 遠くにいるはずなのに、ハッキリ聴こえた声。そして、また黄色い雷属性っぽい魔法の弾が巨大ちびにゃんこに殺到する。

 

 ……って、原作アニメだとそんなに大した量じゃないように感じたけど、リアルで見るとすごい弾幕なんだけど!? なにコレ! ガトリング!? 東方かなんかの世界から来たんじゃないのあの子!! 的確にちびにゃんこの位置だけを狙ってるんだけど!?

 

「粗製・熾天覆う七つの円環<ローアイアス>!!」

 

 けど、それを全部弾く青白い光を放つ三つの花弁の盾。

 刹那くんはローアイアス持ちか! でも粗製って言うだけあって花弁三つしか出てないから、これじゃ七つの円環じゃなくて三つの円環だね。原作の士郎の見様見真似ローアイアスは五枚だったっけ?

 あ、花弁が一枚……二枚壊れた。

 

「刹那くん!」

「なのはちゃん! 変身を!」

「うん! レイジングハート、お願い!」

『Stand by Ready』

 

 って、おぉ! 生変身シーン!

 全国の大きなお友達歓喜の一瞬全裸になるアレじゃないか! 見たい! 凄い見たい!

 へたれで優柔不断で、恥ずかしがり屋な過去の僕、さようなら! はじめまして! 小学生女子の全裸を見ようとして目を見開く僕!

 

 ……あれ、なんだろう。人として終わった気がする。今の僕、悠馬と同類じゃね?

 

 そう思った瞬間、僕は眼を瞑っていました。僕は紳士です。変態という名の紳士ですが、紳士は紳士です。少なくとも小学生の生着替えとか見て興奮しちゃうような大人にはなりたくないです。

 

 ……それは、お父さんの事かぁぁぁ!!

 

「なら……フォトンランサー」

「ぐぅっ! し、しまった!! なのはちゃん!」

「任せて!」

『Protection』

 

 しまった。どうでも良いこと考えてたら、なんか戦闘がちょっと本格的になり始めてきた。

 

 フェイトのフォトンランサーが、さっきの物よりかなり大きいのが三発ほど巨大ちびにゃんこに向かい、それを一発受け止めて消滅させるのと同時に、刹那くんが張っていた最後の<ローアイアス>は破壊され、残りの二発が刹那くんの守りを突破してちびにゃんこに向かう。

 

 すげー、さっきの弾幕の弾を例えるなら拳銃弾だとしたら、今のは戦車砲並のデカさだったと思うよ。いや、実際にはさっきの弾幕も今の弾もどっちももっとデカかったけど、例えるならそれくらいの大きさの差があったってこと。

 心なし速度も早かったし、アレは僕が身体張って盾になろうとか思っても無理だわ。盾になろうにもあそこまで高くジャンプできたらとっくに僕はチートオリ主の仲間入りしてるわ。戦闘舐めてましたごめんなさい。

 

 ……でもさ、雷って秒速150~200キロくらいなかったっけ? どう贔屓目に見ても、これそこまでの速度無いよね。球状だから?

 しかしまぁ、そんなやたら強そうな弾をあっさり弾くなのはちゃん。ぱねぇ。なのはちゃんの反応装甲は果たして戦車砲何発で突破できるのであろうか。

 

「粗製・熾天覆う七つの円環<ローアイアス>! ッ、なのはちゃん!」

「にゃっ?」

「にゃあぁぁおぉぉ!!」

「ふぇっ、ふぁっ、ふあぁぁ!?」

 

 うおぉ!? あぶねぇ!! こっちに倒れてきた!! あぶねぇ当たるとこだった!! っつか砂埃が!!

 

 えっと、えっと、今のは、無詠唱でフェイトが追撃のフォトンランサーを撃ってきて、刹那くんが新しい<ローアイアス>張ったものの、一部がそれに当たらない位置から抜けて飛んできて、巨大ちびにゃんこの足元に直撃、なのはちゃん巨大ちびにゃんこの上から離脱、だね。

 

 っていうか、ちゃんと止めろよ刹那くん!! 頑張れよ刹那くん!!

 

「くそッ……!! 粗製・投影魔術!!」

 

 と、ここで刹那くんが叫ぶと同時、刹那くんの周囲にどっかで見覚えのある無骨な剣や槍が十本ほど虚空に現れ、フェイトに向かって疾駆する。

 

 ……ねぇ、訊きたいんだけど、それって悠馬の奴をイメージして投影しただけだよね? 決して、今まで僕の周囲に飛んできてた剣やら槍やら、斎藤さん家を破壊したハンマーやらの持ち主が君ってことはないよね? 刹那くん。もしそうだとしたら君の人気ガタ落ちだよ? ただでさえ君の支持率落ちていると統計で出ていたのに。

 ……あれ、なんか電波が。気のせいか。

 

 あ、とかなんとかやってたら空から女の子(なのはちゃん)が降ってきたよ親方!!

 

 え? パンツの色? あ、ごめん。バリアジャケットになるとロングスカートだから僕の位置からじゃそこまで見えなかったし、そもそも砂埃激しくてそこまでちゃんと見てられないわ。というか興味もないわ。

 しかし、いくら靴から羽っぽいのが生えてゆっくり降りてきたとはいえ、落下の影響で風を受けてまくれあがりそうなもんなのにね。まぁどうでもいいけどさ。そのへんもやっぱり魔法なのだろうか。だったら始めからズボンはけと言いたいけれど。

 

 ……っていうか、虎次郎くんどこいった! 出てこい虎次郎くん!! 今こそお前の出番だよ! 全くチート能力が判明していないお前の能力を、今こそ見せびらかすときだよ!

 

「……あ」

「うん? ……あ」

 

 と、何やらすぐ近くで声が聴こえたのでそっちに視線をやると、ユーノくんが目と鼻の先にいた。

 

 ……バレたぁぁぁぁぁ!! 覗いてるのバレたぁぁぁぁぁぁ!!

 

「え、えっと……」

「大丈夫。僕は何も見てないし、魔法なんて知らないし、君の声も聴こえなかったし、巨大になったちびにゃんこのことなんて見てないし、なのはちゃんの生変身もパンツも見てないから……!!」

「えっと、えっと……。……なんか、ごめん」

 

 謝られた!? なんで!? 反応に困ったの!?

 

「ねぇ、もしかしてこの空間に存在できて、動けてるってことは、君も魔法が……?」

「え、もしかしてこの空間に入れるってだけで魔力あることになんの? マジで? お……僕も魔法使えるようになる?」

「あ……ごめん。なんでも無いよ」

「……あ、うん。そうなんだ」

 

 そこで、そこで謝らないでよ……ッ!! なんでもなく無いよ! なに!? この今の反応だけで、僕に魔力がちゃんと使えるほどには無いことが分かったとか!? ねぇ、ここに入れるってことは魔力あるんでしょ!? そうなんでしょ!?

 チートじゃなくて良いから、やっぱりちょっとは魔法使ってみたかったよ!! ごめんねモブが一瞬でも夢見ちゃって!!

 

 ザクッ。

 

 ――既視感(デジャヴ)。目の前にザックリ刺さってる無骨な剣。僕よりもむしろユーノくんが危ないところだったという、十センチかそこらしか離れていない位置にソレが刺さった。

 

 ……お前が犯人だったのか刹那ぁぁぁぁ!!

 

 とか思って上を見上げたら、続々と空から剣と槍が落ちてくるじゃないですか!! いやぁぁぁ!! 避けて! 避けて僕ぅぅ!!

 ……無理だけどね☆

 

「……ッ!! ッ!!」

 

 悲鳴あげなかっただけ、僕えらいよね!? あ、剣と槍? 全部ギリギリの位置に刺さったけど、ユーノくんも僕も当たってないよ!! 無傷!! 怖かったよ!! 逃げようにも見た瞬間に実は腰抜けてたよ!!

 

「……鼠が潜んでいる気がしたんだけど、気のせいだったかな」

 

 気のせいじゃないよ!! にゃんこもフェレットもいるよ!! そうだよ!! アインちゃん僕の腕に抱かれたまんまだったよ!! 大丈夫アインちゃん!?

 

「にゃ~」

 

 あ、良かった。呑気にしてるから大丈夫だ。

 

「なんだ猫か」

 

 うん、猫です。

 

「なんて言う訳がないでだろう……ッ!!」

 

 ぎゃああぁぁぁ!! 追加で剣と槍がぁぁぁ!!

 

 逃げて!! アインちゃんだけでも逃げてぇぇ!! ユーノくんも逃げ……あ、あやつさっきの時点で既に堂々と逃げてたわ。ハハハ、やりおるわい。

 

「にゃ~!!」

 

 とか考えつつ、せめて君だけでも逃げておくれと思って僕が茂みの外にアインちゃんを放り投げたことで、アインちゃんは若干驚きながらも華麗に着地した。

 

「本当に猫だった……ごめんね、猫さん」

 

 謝る刹那くん。いや、刹那。謝るくらいなら初めからやるなよ!! 泣くよ!? っていうか漏らすよ!? あやうく恐怖のあまり漏らすところだったよ僕!! じゃなかった僕!! 涙は既に出ているよ!! あと追加の剣と槍は、僕に刺さる寸前に、アインちゃんを見た刹那が攻撃方向変えてフェイトに向けてたよ!!

 

 怖かったよぉぉぉ!! 実況どころじゃないよぉぉぉう!!

 

「なんか……ごめんね……」

 

 そしてユーノくんはあっさり逃げておいてソレだけ言ってまた離れるなよぉぉぉ!! 寂しいし怖いからからアインちゃんかユーノくんどっちか一緒にいておくれえええ!! モフモフさせておくれえぇぇ!!

 

「にゃ~」

 

 とか思ってたらアインちゃん帰ってきたよいやっほぉぉぉぅう!! おにゃんこ大明神様ぁぁぁぁ!!

 

 ……ふぅ。アインちゃんなでなでしてたら落ち着いた。

 

 えっと、現状。気づいたらフェイトがバルディッシュのザンバーモードだっけ? なんだっけ、あの電気釜……じゃなかった。電気鎌のモード。まぁとりあえずそのモードになったバルディッシュと、刹那が剣で打ち合いしていた。

 ……けど、どう見ても刹那が押されてる。おいおい、お前チートオリ主なのに最初の魔道師戦で競り負けかけてるってどうなの?

 

「待たせたな刹那!! 応援にきたで!!」

「援軍……ッ」

 

 と、そこに現れたたるは我らが真の、そう、真の主人公、虎次郎くんである!! キタ! メイン主人公キタ!! コレで勝つる!!

 虎次郎くんが来たのを見て、フェイトが一旦刹那とのつばぜり合いから離れた。

 

「ぐっ、虎次郎、来るのが遅い!!」

「ヒーローは遅れてやってくるもんやで? 頑張れ頑張れせっつっな!! 負けるな負けるなせっつっなっ!!」

「冗談なのか本気なのか判断つかないから駆けつけて来ておいてただ応援するだけっていうスタイル、今回は本気でやめてくれないかな!?」

「本気で応援してるで!!」

「頼むから戦ってよ!?」

 

 手をメガホン代わりにエールを送る虎次郎くんに、涙目で叫ぶ刹那。うん、そうだよね。君は今割とガチで戦闘してるもんね。ごめんね、なんか部外者が頑張れよとか偉そうなこと言って。

 あと虎次郎くんはそんな胸を張って応援してることを誇らなくて良いからね? なんで親指立ててサムズアップしてんの? 殺されかけたけど、流石に可哀想だから刹那に加勢してやってよ。

 

「三対一……アルフを……いや、いける」

 

 と、呑気に応援してるだけの虎次郎くんを見てから、フェイトは再び刹那に無表情で向き直り、もう一度バルディッシュで斬りかかる。

 

「ぐっ、あぁ!?」

 

 そして、剣でそれを受けようとした刹那が、あっさりと剣を両断されて吹き飛ばされて虎次郎くんのすぐ近くの地面に激突した。音すげぇ、大丈夫か刹那。

 

「あ、な、なんかすまん。ガチでそんなあっさり負けるとは思っとらんかった。ごめんな。よう考えたら今日セイバー連れてへんもんな、お前」

「うぅ……そうだよ……分かってるならなんで傍観なのさ……君は毎回毎回、なんで本気で戦わないかな……」

 

 勢い欲吹き飛ばされた割には、ちょっと土で汚れた程度にしか見えない刹那が、割とガチ泣きしかけで虎次郎くんを女の子座りしながら上目遣いに睨んでいた。

 

「う……いや、すまん。せやけどな?」

 

 流石に居心地悪そうに視線を逸らし、右頬を掻きながら釈明しようとする虎次郎くん。

 

 ……って、志村、じゃない。虎次郎くん! 後ろ後ろ!! フェイトちゃんバルデイッシュ振りかぶって突っ込んできてるから!!

 

「ッ、虎次ろ――」

 

 とか心配してたら次の瞬間には上体を少し逸らして、素手のまま左手でバルディッシュの柄を掴んで止めている虎次郎くんの姿があった。

 

「……女の子相手に男の子が本気で戦ったら、ずるいやん?」

 

 困ったような笑いを浮かべるその虎次郎くんの姿は、もう完全にイケメンオリ主である。いつもの糸目じゃなくて、ちょっと目を開いてその開くとちょっと冷酷そうなツリ気味な眼が、妙に優しい光をたたえて斬りかかってきたフェイトを見詰めている。

 

「ぐっ……! 離してッ……!」

「離したら襲い掛かってく――おっと、危な~、刃の形状変化なんか出来たんやな」

「……手ごわい、でも、負けない」

 

 お~い、お前ら、原作主人公のなのはちゃんのこと忘れてない?

 っていうか、なのはちゃんも戦闘に参加しないで何やってんだろう、と思ったら巨大ちびにゃんこのところで頭を撫でてあげていた。くっそ、可愛いな。回復魔法でもかけてんのかな。良い子だねなのはちゃん! 可愛いよなのはちゃん! 戦闘完全にオリ主に丸投げしてちょっとほのぼのする空気出しちゃって、それで良いの原作主人公って言いたいけど、ほっこりする光景をありがとうとしか言えないよ!!

 

 ……いや、でもコレ冷静に考えたら本当に大丈夫なのか? なのはちゃんの戦闘経験値貯まらないし、そもそもコレじゃなのはちゃんとフェイトの友情フラグ建たないんじゃないの……?

 

「あ~……気張ってるとこ悪いんやけどな。ワイ女の子に手ぇあげる趣味ないねん。あのクソ親父みたいにはなりとうないからな」

「……だったら、おとなしく退いて」

「そうもいかへんのやなぁコレが……。なぁ嬢ちゃん、見たところ魔力が雷系統に変化するタイプやろ? ジュエルシード封印しようて思たらあの猫ちゃんビリビリして可哀想やんか。そう思わへん?」

「私には、関係ない」

「ワイには関係あんねん。小動物と女の子は愛を持って愛で、可愛がるもんやと思うし」

「……だったら、戦うしかない」

 

 ジャキ、とバルデイッシュを構えるフェイトに、虎次郎くんは苦笑しながらため息を吐いてから――ニヤリと笑った。

 

「ほなら嬢ちゃんの相手はこの子らや――いくで!!」

 

 左手中指でメガネを押し上げて格好付けながら言ったと思ったら、右手でパチンッと指を鳴らした瞬間、真っ赤な魔力光があたり一帯に満ちて……次の瞬間、そこには恐るべき大軍がいた。

 

 

 

 猫と狐が三頭身にデフォルメされた可愛らしいマスコットキャラみたいなのが二足歩行している大軍が。

 

 

 

 か、かかかかかかか可愛いんだけどおおおおおおぉぉぉぉぉ!!

 

 なにアレなにアレ!? ぬいぐるみみたいだけど、毛並みのモフモフっぷりはにゃんこ観察眼技能検定一級(自称)を持つ僕にはわかるよ!! アレはすっごいもふもふだよ!! 恐るべきモフモフ軍団だよ!!

 

 しかも武器と防具らしいの持ってるけど、武器が新聞丸めた子供のチャンバラ用のアレで、防具は頭に新聞で作った折り紙で作る形の兜と、身体にはダンボールだよ! あれ完全にダンボールだよ!! ご丁寧に平仮名で“がんにょむ”って書かれてるよ!! ネタすぎるだろ!! かわいいよおおおおお!!

 

「……え、と」

「ふふふ、驚いたやろ? これぞ我が最強にして究極の奥義、狐猫祭り(こんにゃんかーにばる)や!!」

 

 犬じゃなくて、敢えて狐なあたりにお前は自分のキャラを弁えているなと僕は思うよ!!

 見ろよあのフェイトの困ったような顔!! さっきまで何があっても無表情だったのに、ちょっと困ってるよ!!

 

「いくんや! 野郎共!!」

「「「「合点承知の助だニャー(コン)!!」」」」

 

 しかも喋ったよぉぉぉ!! あの子達喋るよぉぉぉ!!

 なにあれぇぇ!! ねぇ、アレお願いしたら一匹くれるかな! あ、でも猫も狐も捨てがたいから、どっちも貰いたいんだけど駄目かな!? 今なら僕がダンボールにアルミホイル張って剣作ってあげるから!! お洋服も頑張って作るから!!

 

「「覚悟するにゃ~!!」」

「「頑張れにゃんにゃんずだこ~ん!!」」

 

 そして突撃するのにゃんこ達だけだよぉぉ!! 狐さん達応援してるだけだよぉぉ!! どっからか肉球の描かれた旗持ってきて、パタパタ振りながら応援してるよぉぉ!!

 

「バルディッシュ、フォトンランサー連撃」

『Yes.sir』

「「にゃ~!!」」

「「「にゃんにゃ~んず!!」」」

 

 そして、あっさり返り討ちにされるにゃんにゃんず。それを見て叫ぶ虎次郎くんとその仲間達(きつねさんたち)。なんてこった……!! あんなに可愛らしいのの大軍でもフェイトは揺れないほどに心を閉ざしているというのか……ッ!!

 とか思ってたら、ピンク色の魔力光が視界の端でなんかピカピカしたのでそっちに目をやると、どさくさに紛れてなのはちゃんが封印準備に入っていた。

 

「ジュエルシード、シリアル14……封印!!」

「つっ、しまった……ッ!!」

 

 そして、あっさりジュエルシード封印。巨大ちびにゃんこはちびにゃんこに退化した。良かった。とりあえずコレでちびにゃんこが電撃ビリビリの刑にあわずに済むのは確定した。

 

「んで、こうなったらなのはちゃんも戦闘に参加できるから三対一……いや、ワイの軍勢もおるから百三対一、やで? どないするんや?」

 

 封印が済んでしまったことに歯噛みするフェイトに、ドヤ顔で語りかける虎次郎くん。

 うん、確かになのはちゃん単体でも、刹那単体でも競り負ける相手ではるけど、虎次郎くんはなんか大分余力あるっぽいし、多分あのネタ魔法(でも可愛いから許す)以外にもちゃんとした戦闘用魔法や特殊技能は持ってるんだろう。

 

 こうなると、フェイトに勝ち目は無い。

 

「虎次郎、その子達は全く戦力にならないから実質三対一だよ……しかも君基本的に戦闘しないつもりでしょ? サポートはありがたいけど……」

 

 と、ここで今まで回復に努めていたのか観戦に徹していた刹那が新しい剣を手にしながらそう言ってため息を吐く。

 

「そらせやろ? 自分、女の子に向ける刃はもっとらんで。……とはいえ、流石に友人がガチピンチになったらんなポリシー捨てて相手殺してでも助けたるから心配せんでもえぇで、刹那」

「本当、君は底が知れないよ……」

 

 会話の、内容が、完全に虎次郎くんのオリ主空気ッ!!

 

「くっ……」

「まぁ……この状況なら、目当てのもんも奪えへんし、退くのが吉やろ? お互い戦いたいわけやないんやし、ここは退いてくれへんか?」

「……、……」

 

 自分の方へと歩み寄ろうとした虎次郎くんに反応し、ジリ、と一歩後退するフェイト。

 

 あ~。これで今回の戦闘はお開きかな? にゃんこが一撃もらって可哀想だったけど、怪我人も出なかったしこれで万事解決、かな?

 

「ちょっと待って、もらおうか?」

「「「ッ!?」」」

 

 そこに突然、空から降って割って入ってきた人物がいた。

 その人物とは、銀髪オッドアイ。

 

 ……あ~、そうだ。コイツの存在忘れてたわ……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。