転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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6.考える傍観者と進まない原作イベント

 あの大木で周囲一体大停電+僕の家に小さな穴とお向かいのおばあさんの家がぶっこわれたよ事件の翌日、結局虎次郎くんと刹那くんは学校に来なかった。

 一応、先生曰く「風邪でお休みだそうです」とのことだったが、昨日あんだけ元気だったのにいきなりそんな風邪ひいて悪化したりするもんだろうか、と疑問に思う。

 

 しかし意を決してなのはちゃんに訊いてみても「私も分からないんだ、ごめんね」としか返ってこないし、一応アリサちゃんとすずかちゃんにも訊いてみたけどこれも似たような反応だった。しかもお見舞いでも行くかと思えば、用事があるから三人とも行く予定は無いという。

 風邪が長引くようなら心配だから行くとは言っていたが……あの三人が、ほぼ間違いなく最も近しい異性の恋愛対象として見ているであろう刹那くんと虎次郎くんが風邪で寝込んだと聴いて見舞いに行こうとしないような薄情な子達だろうか?

 

 これは嫌だけどナルシー悠馬にも訊いてみるべきかとも思ったけど、コイツが生きてるということはあの二人が戦闘かなにかで死んでしまって行方不明ということになっている、みたいな展開は無いだろうから心配する必要ないかも知れない。

 だってナルシーなんかが生きてるのに他のまともなのが居なくなるとかおかしいし。そもそもフェイトが出てくるまで戦闘らしい戦闘は起きないはずである。ジュエルシードが取り付いた生物との戦闘なんてチートオリ主達にとっては準備運動にもならないだろう。

 

 そう思って、結局何も行動を起こさないまま、夕方にはおばあさんを迎えにおばあさんの息子さんが来たのでおばあさんとはお別れだ。

 ちなみにおばあさんの息子さんはおばあさんを迎え入れようと前から言っていたのだが、おばあさんが「年寄りが迷惑かけたら悪いでしょう」って言って来てくれなかったらしい。

 けれども「住むところがこんなんになったんじゃうちに来るしかないだろ、観念してね、お母さん」と柔らかく微笑むおばあさんの息子さん改め、いい歳のおじさんに、おばあさんは泣きながら「意地を張ってごめんね、陽一、ありがとうね」と言って抱き合っていた。

 

 なんというハートフルな光景、と僕は思わず貰い泣きしながらおばあさんとの別れを惜しみつつ見送った。

 これが、もしかしたらおばあさんにとっての正しい幸福の形であったならば、僕の地味な能力の恩恵受けられたのかもしれないな、と思うと少し嬉しくなる。家が壊れたままなのはそういう理由なのかもしれないな、と。

 

 しかし、そんなことがあったから余計に虎次郎に電話するということすら忘れて、何もしないまま火曜日を迎えた。

 

 その日も、虎次郎くんも刹那くんも風邪。

 

 おかしい、と僕は思った。そしてなのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんはそれをむしろ普通と思っているかのように、普通に談笑している。

 

 いや、待て、というか出来れば気にしたくないからと意識から除外していたけど、ナルシーはどこいった? いつもならあの原作かしまし三人組が他の男がいない状況なんて見たらべたべたしに行くだろうに、そういえばあいつの姿も無い。でも先生は何も言ってなかったし、それを誰も疑問に思ってないみたいだったから僕も今まで気付かなかった。

 

 そもそも、あいつら本当にチートオリ主なのかどうかという疑問も持つべきではないだろうかと僕は冷静に思考する。

 

 少なくとも、悠馬は間違いなく転生者で、チート能力持ちなのは疑いようもないだろう。だって王の財宝<ゲートオブバビロン>持ちなのだから当然だ。しかもあの容姿である。

 

 虎次郎くんも外見的にチート転生者系だと思っていたが、この世界では赤髪なんてむしろざらに居る。無駄にイケメンで頭良くて人気があって運動も出来るというハイスペックキャラだが、あいつが人外の能力を発揮するところなんて見たことがない。これは刹那くんも然りだ。

 

 もしかしたら、あの二人って意外なことに僕と同類なんじゃないだろうか。

 

 ……いや、でも一昨日見たあの青い光は多分、いや間違いなく二人のどちらかだ。悠馬は金ぴかの魔力光なのは多分間違いないと思うし。宝具投射時のあの光は恐らく魔力光によるものだと思うから。

 

 デバイスは、ユーノくんはレイジングハートしか持っていないはずだから、多分自前のデバイス持ちだと思う。そして、魔法が存在しない筈のこの世界で純正地球人がデバイスを持っていたら間違いなく転生者だ。

 

 ……青い光。イメージ的には虎次郎くんは赤だし、そうなると刹那くんの方は間違いなくチート転生者だと思うんだが……、すると虎次郎くんはチート転生者では、無い?

 

 よくよく考えたら、あいつハーレム作ろう的な思想は持ってるけど明け透けだし、なんか"力持ってるが故の驕り”的な物が無い感じするし……いや、でもあのハイスペックはやっぱりチート転生者じゃないかと思うんだよなぁ……。

 あ、もしかしてメガネがデバイスとかじゃなかろうか。あいつサッカーの時もメガネつけてたし。サッカーみたいに激しく動いてぶつかりあいもあるスポーツする時にメガネかけっぱなしなんて危ないから普通はしないだろう。

 

 そんなことを考えながら午前中を過ごしていたら、昼休みにひょっこりマスクをつけた刹那くんと虎次郎くん(刹那くんだけはガチで風邪ひいてるのか顔が青白かった)がやってきて笑って言うのだった。

 

「一昨日は川に落ちてそのまま隣町まで流されてたよ。お陰で風邪ひいちゃって。もう大丈夫だから。ゴホッゴホッ」

「一昨日はバーニングのパンツ覗いたら殴られてそのまま今日まで気絶しててん」

「私そんなバカ力じゃないわよ!?」

「などと容疑者は供述しており」

「ムキー!」

 

 ……僕の、僕のシリアスシンキングタイムを返せ! 授業内容ろくすっぽ頭に入らなかったじゃないか!

 冗談だとは思うけれど、そんなあっけらかんと言われては心配していた身としてはなんかこう、もやもやするわ!

 

 ちなみに後で虎次郎くんにこっそり訊いたところ(ヨッシーにだけは教えておくわ、と悪戯っぽく笑ってた)、一昨日ちょっとナルシーと喧嘩して怪我をしたせいで一日動けなかったらしい。

 魔法関係のこと隠してるんだろうけど、それにしたって喧嘩って……丸一日動けなくなる喧嘩って……ていうか、喧嘩した相手のはずのナルシーが学校に来て、虎次郎くんと刹那くんだけが学校来れなかったってことは「まさかナルシ……天ヶ崎くんが勝ったってこと!?」と訊いたら、虎次郎くんは不思議そうに「いや、ワイが勝ってんやけど……あんだけボコボコにしたんにあいつ昨日動けたんかいな」と唸っていた。

 

 あぁうん、そういえば昨日のナルシー変態行動とってなかった気がするから、もしかしたら怪我が酷くてチート能力かなんかで生み出した分身とかなんかもしれん。もういっそずっと分身だけ学校来れば良いのに、と思った。

 

 しかしなんというか、そうなると虎次郎くんと刹那くんの二人でナルシーをフルボッコにしたんだろうけど、それでも二人とも一日動けないほどに怪我を負ったってことはジュエルシード戦と比較にならない戦闘が起きたんだろうな……。

 まぁ王の財宝<ゲートオブバビロン>って対軍宝具の特性ありそうだし、一対多戦も楽だろうからなぁ……二人の能力次第では苦戦したのかもしれない。でも逆に考えれば、そんなチート持ち相手に二人がかりとはいえ相手の方に重傷負わせて戦意喪失させて勝てるってことは二人もやはりチート持ち確定だろう。

 

 しかし大怪我するような戦闘にまでなる喧嘩の理由ってなんだろうか?

 

 フェイトちゃんが出てきてからなら、まぁ分かる。ナルシーが全くなびかない原作娘達を捨てて、まだマイナスもプラスも関係を築いていないフェイトちゃん側に立ってフェイトちゃんを口説き落とそうとしたとかいう理由が、というかそういう光景がありありと目の前に浮かぶので。

 

 しかしこの時点での喧嘩の理由が分からない。アリサちゃんとすずかちゃんの好意の対象が虎次郎くんと刹那くんであることにやっと気付いた? それで「僕の女に手ぇ出すんじゃねぇ!」とかキレて襲い掛かってきたとか?

 

 う~ん……理由としてはちょっと弱いと思うな。気付くんならもっと早い段階で気付きそうなもんだし……あ、でもお弁当イベントが露骨だったから?

 いや、それなら図書館で刹那くんがやってきた時のすずかちゃんの態度の方が分かりやすかったと思うんだが……。

 

 ん~……駄目だ。わからん。喧嘩の理由は虎次郎くんも「見解の不一致っちゅうやつや」と小学生らしからぬ邪悪な笑みを浮かべて(多分本人自覚してわざとやってた)言うだけで答えてくれなかったし、僕にだけは教える、なんて言われたもんだから刹那くんに訊きにいくのもちょっとどうかと思う。っていうか、正直図書館のあの一件以来微妙に刹那のこと嫌いとは言わずともなんか苦手になったのであんまり話しかけたくない。

 

 なのはちゃんに訊いても原作で親友の二人に悩み事を秘密にして喧嘩にまでなるくらいだからまず間違いなく僕なんかには教えてくれないだろうし……。

 

 あ~、気になる。原作介入組の動きめっさ気になる。何があったんだろ。野次馬根性バリバリだよ。

 

 これが小説とかだったら、一方その頃虎次郎達は、みたいな場面移動があったり、虎次郎くんや刹那くんの一人語りを読んで「なるほど!」とか思えるんだろうけど、生憎とアニメの世界っぽい世界に入り込んだとはいえここは既に僕にとって二次元ではなく三次元、つまり現実世界である。他人の思考を読んだり、見たこともない場所の様子を覗き見たりは出来ないのだ。

 

 ん~……気になる。気にはなるけど、でも今の平穏な生活崩してまで踏み込もうとは思えないし、虎次郎くんとの友人としての今の距離感は結構居心地が良いので壊すようなこともあんましたくない。

 そもそも、踏み込んだところで僕に出来ることなんて何もないのだから仕方ない。やってみなければわからないとか言う人がいるかもしれないけど、僕チート能力無いからね。デバイスも無いし戦闘系特殊能力も無い。あるのは座敷童みたいな他人にほんの少しの幸せを与えるという能力。

 これが人の運気を故意に吸い取ったり分け与えたり出来る、みたいな能力なら戦闘での使い道もあっただろうけど、生憎と自分には効果のない特殊能力っぽいから僕の運の無さは折り紙付き(誰かさんとの間接キスの件とか、出生とか考えたらそう思う)なので、下手に介入したらあっさり死ねる気がする。

 

 最初のジュエルシード事件は、自分が原作組に紛れ込んでもまだ死亡確率はかなり低いだろうけど……闇の書事件とかになったら下手したら死ねるだろうからなぁ……。

 リンカーコア蒐集とかも、死にはしないっていう設定が二次創作で見た限りではあった気がしたけど、リンカーコアって人間に無くても生きていける器官とはいえ、リンカーコアが存在する人間にとっては生まれてきた時から身体に存在していた器官な訳であって、無意識のうちに魔力を消費して身体能力を向上していたりする、みたいな設定があるような話をきいたことある。原作知識なのか二次創作の創作知識なのかすら僕には分からんが、事実である可能性は充分にあると思う。

 

 まぁ、僕は仮にあっても奪われたところで日常生活に支障は無さそうだけどさ、多分魔力量なんてあってもかなり少ないだろうから。でも魔力使って身体の不自由なところを補ってる人とかだった場合、下手したら死ぬよね。免疫系を魔力で補うことで生きてる人とかいたら、リンカーコア蒐集された瞬間から身体の内部が崩壊してくだろうし、手や足が不自由なのを魔力で補っている人ならそのまま二度と手足が動かなくなる可能性もある。

 

 ……あれ? 待てよ。そもそも魔力で無意識で肉体の不備を補強しているとしたら、僕だって実は魔力でどこかを強化することで誤魔化しているけど、実際には不備のある部位があってもおかしくないんじゃないか?

 

 魔力量少ないとしても、だからこそその無い魔力を搾り出して身体を強化して、それでようやく今の運動神経悪くて身長も小さいこの身体を構成している可能性だってある。

 

 いかん、想像すればするほど怖くなってきたぞ。闇の書事件あと半年以上あるはずなのに僕その後に生きていられるかすっげぇ不安なんだけど……やっぱりはやてちゃんと仲良くなっておいて、守護騎士の方々に見逃してもらうという手も……。

 

 ……そういう打算的な考え、我ながら最低だな……。

 

 これは考えれば考えるほど鬱になりそうだ。今は考えるのはやめておこう。きっとなんとかなるさ。原作介入するだろ、三人もチートオリ主いるんだし。

 

 あ、でもなんか心配なんだけど、悠馬あたりはむしろ積極的に守護騎士達に協力して恩売りに走るような気がする……あいつならやりかねんと思うのは僕だけじゃないはずだ。

 

 あ~、大丈夫かな半年後。

 

 ……ん、半年後の心配を今から出来るってことは、きっと今は僕が心配しなくっても全然大丈夫だろう。謎の論理だけども。

 少なくともジュエルシード事件は、プレシアとか助けるルート突入しようとしない限りはほぼ間違いなく原作組だけで解決できるのだし、そこにオリ主二人(一人はむしろ不安要素なので見ないことにした)が居るんだし大丈夫大丈夫。不安要素が万が一敵にまわっても、二人で抑えられるんだったら大丈夫だろ。

 

 いや~、安心したらお腹空いた。ちょうど放課後だし今日は奮発して翠屋でも行こうかな!

 

 

 

 

 

 

 ……空気が重い。

 テーブルを挟んで正面、僕の目の前では謎のサラリーマンが憂鬱そうな表情でアイスティーを啜りながら時折モンブランを突いている。誰だコイツ、って思うよね? 僕も思ってるよ。誰だこの人。

 

 翠屋に着くと相変わらずの女性客の多さに辟易しながらも、ケーキが食べたい気持ちは変わらないので席が空いてるか店長の士郎さんに尋ねると、相席で良いなら空いてるよ、と朗らかに言われて「あ、じゃあ相席でいいのでお願いします」とか言っちゃったのが運の尽きである。

 

 女子校生とかと相席かなぁ。だったらちょっとケーキとか分けてもらえたら嬉しいなぁ、とか思っていたちょっと前の僕を殴ってやりたい。僕の現在の外見的価値は小さくて童顔、という点にあるだけであって、決して美少年とかって訳ではないのに!

 

 あぁごめん。なんの話だっけ。あぁそうそう、僕より前に翠屋に来てたらしいナルシーが女子高生……いや、中学生? に大人気みたいだよ。僕は全く見向きもされずに、女の子達はナルシーにメロメロだったよ。

 

 あんないかにも作られた感バリバリのイケメンフェイスのどこがいいんだ! あいつ顔と身長の割にまだ小学三年生だからね! 老け顔にも程があると思うんだぜ!

 ちなみに僕は身長と顔が完全に幼稚園児ばりだけど小学三年生だからな!

 大体あいつなんでここにいんの!? 学校休んだのに何出歩いてんの!? っていうか士郎さんアレ出禁にしましょうよ! おたくの娘さんのストーカーですよアレ!

 

 え? 目の前のサラリーマン? あぁごめんごめん。その話だっけ。

 

 えーっと、ごめん。僕もよくわからない。言ったじゃん、誰だこの人って。

 何せ「相席よろしいですか?」の士郎さんの笑顔に「あ……はい……どうぞ……」と蚊の鳴くような声で返事して、僕が「お邪魔します」と言ったのはガン無視です。以上、僕が知ってるこのサラリーマンのおじさんのことはそれだけ。

 脳内の観客にそんな説明をする現実逃避をして目の前の現実から目を逸らしていたものの、やはり空気が重い。

 

 しっかしなんかこの世の不幸の全部を背負ってます、みたいな顔してるな、このおじさん。まるで結婚寸前で、式場まで決めてたのに相手に他の男が出来て一方的に別れを告げられたみたいな顔だ。

 

「うぅ……陽子……どうしてあんな男に……あんな男のどこが良いって言うんだ……」

 

 ……僕の適当な考え意外と答えに近かったーッ!!

 っていうか露骨な独り言だな~……構ってちゃんなのかな……。

 

「死なないかな……あの男が死ねば陽子が帰ってくるかな……いあいあ……いっそ陽子を殺して僕も死ねばもう他の男を振り向くことなんて……へ、へへへ……」

 

 ……男のヤンデレこえぇぇ!!

 

 何この人! 違ったよ! この世の不幸背負っているというより、これから人を不幸にする気満々だったよこの人! 駄目だよ! 思いとどまろうよ! っていうか、なんでそんな暗い気分の時にこんな女の子だらけの店に来てケーキ喰ってんのこの人!

 

「はい、お待たせしました、レアチーズケーキとアールグレイです」

 

「あ、ありがとうございま……って、あれ? 紅茶は頼んで無いんですけど……」

 

 このいたたまれない空間に若干泣きそうになっていると、ようやく士郎さんが注文のケーキを持ってきてくれたけれど、僕は紅茶を頼んだ覚えは無い。飲み物は水で済ませるつもりだったんだけど……。

 

 と思っていたら、なんか傍から見てて完全に目の前のおじさんにびびってる僕を見てかわいそうに思ったので、あんまり露骨すぎない程度の、せめてものサービスらしい。

 ちなみにケーキの方も今回のお代はいらないそうだ。お客様皆に笑顔になってもらうためのこのお店で泣きそうなお客さんを作った以上、その人からはお代はもらえないよ、とのこと。士郎さんイケメンすぎる。

 そして初見だと見た目で完全に小学校入りたての女の子か幼稚園児とかと間違われてもおかしくない僕にそんな懇切丁寧に説明してくれるあたりあの人の人のよさが透けて見える。あ、それとも一昨日のサッカー応援に行ってたの覚えててくれたとか?

 ……いや、それなら一言あってもおかしくないか。んじゃあ違うな。

 

 まぁなんにしても、流石は、さすがは無駄に責任感あって、っていうかありすぎてちょっと可哀想な子、なのはちゃんのお父さんやで!

 なんとなく似非関西弁で内心叫んでから、お手手を合わせていただきます。

 

 うん、このなんというか、甘すぎず、クリーム部分はチーズ独特の少しすっぱみがあるような無いような上品な味、まさしく究極のチーズケーキ!

 うーまーいーぞー!!

 

 ……ごめん。本当はあんまり味の評論とか出来ないです。所詮普段はスーパーでうまい棒とか買って満足してる貧乏舌です。まぁとりあえず半端なく美味しいということだけは言えます。それは僕の今の顔を見てくれれば分かることでしょう。そう、とっても……ひきつってるでしょう?

 

 おかしいな。あまりの美味しさに顔をとろけさせていた気がするんだけど、目の前のサラリーマン風のおじさんがこっちをジーっと見つめてきてることに気付いて頬の筋肉がなんか痙攣し始めた気がするよ?

 

「やぁ、佐藤くん」

「んお? ……おぉぉ、佐々木くん!」

 

 そんなところに現れた我らが真の主人公、刹那くん!

 ごめんね! 若干君のこと苦手になってたけど、このきまずい空間をどうにかしてくれるならむしろどんどんウェルカムだよ! おいでおいで!

 

「どうしたんだい? 翠屋で君を見るなんてそうそう無いことだけど、っていうか何気に初めて見たんだけど」

「うん、たまにしか来ないからね。今日はちょっと心配事がひとつ晴れたもんで自分へのご褒美にね? っていうか昼間あんなに顔色悪かったのに」

「自分へのご褒美……陽子もそんなこと言って僕からエステ代持って行ってたなぁ……へへへ……もしかしてあの金もあの男に貢いでたのかなぁ……へへへ……」

「「……、……」」

 

 なんかちょっと危ない目をしながらケーキにフォークをぐさぐさ刺しつつ呟くサラリーマンおっさんに、僕と刹那くんは割とマジでひいていた。

 

「えっと……この人、君のお父さんか誰か?」

 

 僕のお父さんもっと渋くて素敵なおじさまだよ! こんな平日の昼間っから喫茶店でくだをまいてるようなおっさんじゃないよ!

 って思ったけど、流石に本人目の前にそんなことは口に出せない。

 

「いや……知らない人。席が空いてなかったから相席になって……あれ? そういう佐々木くんはどうしたの?」

「うん? あぁいや、なんか甘い物食べたくなってね。で、僕も相席って訳だよ。佐藤くんの姿が見えたから相席させてもらおうと思ったんだけど、いいかな?」

「あぁうん、僕はいいんだけどね……」

 

 刹那くんの言葉に僕はOKを出しながらもちらりとサラリーマンのおじさんの方に視線をやると一瞬目が合った。めさくさ怖い。

 

「……えぇっと、あ、あっちに悠馬がいるし、一緒にそっちに移ろうか?」

「ごめん、佐々木君は僕に首を吊れっていうのかな」

「ごめん、流石に即断でそこまで嫌がるとはおもわなかった」

 

 涙目で刹那くんに抗議すると、苦笑いしながらも刹那くんが謝ってくれたので許すことにする。僕は心が広いのだ!

 ……嘘です。ごめんなさい。単純に下手に強気に出て刹那くんが席移ったりしたらこのおじさんと二人っきりにされてしまうからです。今の僕ならこのおじさんよりはまだ知ってる人間というだけナルシーのほうがマシな気もします。でも反射的に断ってしまいました。反省してます。だから許せ!

 

「しかし……えぇと……佐藤くん」

「な、なに? 佐々木くん」

「……ごめん、僕席移っていいかな?」

「よし僕も一緒に行くよ佐々木くん! なぁに親友と一緒に話すのは楽しいからね! ハッハッハッ! 同じ男同士積もる話でもしようじゃないか!」

 

 逃げようとした刹那くんの左手をガッチリ掴んで、涙目でそう叫ぶ僕。何事かと周囲の客がこっちを見たが、僕よりも刹那くんの方に視線がいっているのはなんとなく分かる。まぁそれについては今はどうでも良い。逃げよう。早く逃げようじゃないか少年! 今の私は阿修羅すらいやなんでもない。

 

「えっと……あの、でも悠馬のところだけどいいのかな……?」

「ハハハ! 何を言ってるんだい佐々木少年! 彼と僕らは親友、そう親友じゃないか! 何を心配しているんだね!」

 

 我ながらキャラ崩壊が酷いレベルだと思うが、マジでこのおじさんの視線から逃げたいのである。ほら、今もなにかぶつぶつ言いながらこっち見てるよぉぉぉ!!

 

「え、えっと……そう、なんだ。じゃあ行こうか」

「うん! 行こう行こう! あ、お邪魔しました!」

 

 最後におじさんにペコリとお辞儀して右手でカップをソーサーごと取り、ケーキの皿を左手で取るとさっさと移動する。自ら、自らあの変態ナルシーの元へ……!!

 

 そう、間接キスがどうしたというんだね。男同士だろうが異性相手だろうが、まわし飲みとか結構普通にするじゃない。僕も前世で昔は駄目だったけど、ある程度歳くったらそういうの気にするのアホくさくなって気にしなくなった覚えがあるよ! そう、つまり間接キスがどうたらであの変態ナルシー、いや、ナル……いや、悠馬くんを避けるなんて何を言っているんだね僕は! ハッハッハッハッ!

 いいよ、間接キスどんとこいだよ! なんなら本当にキスしてやっても良いんだよ! 今の僕は怖い物なしだよ! 背後に感じるなにやらおどろおどろしい視線の持ち主以外は!

 

「あ、あの佐藤くん? 鳥肌凄いけど本当に大丈夫なのかい……?」

「大丈夫だ、問題ない」

「どうしよう、その台詞からは駄目な香りしかしないんだけど、佐藤くん」

 

 こまけぇこたぁいいんだよ刹那くん! 僕は今を生きているんだ! お願いだから今は後ろのあの鳥肌が立つおどろおどろしい視線から逃れることを優先させて! 自分でもなんでこんなに鳥肌たつのかわからんのだけど、生理的に駄目だわあのおじさん! 一言も会話してない相手なのに悠馬のほうがマシに感じてる時点で相当だよ! アレ僕の天敵だよ! お願いだからこれ「後に、あの男が生涯を通しての宿敵となるとは、このとき佐藤少年は知る由も無かった」みたいな伏線だけはやめてほしい!

 

「えっと……うん、まぁ佐藤くんが大丈夫だって言うならもうこれ以上は言わないよ。あ、悠馬、一緒に相席していいかい?」

「あ? って、てめぇ刹那……! よくもまぁ俺の前にのこのこ姿を現せたもんだな……」

「もう怪我は治ったんだね。良かったよ。流石にちょっとやりすぎたんじゃないかなって思ってたから」

「やりすぎどころの話じゃねぇよ! お前、俺の左腕消し飛んだんだぞ!? 俺はトラじゃねえんだからちょっとは考えろよ!?」

「いや、ソレは虎次郎がやったんじゃないか」

「消し飛ぶ前に普通なら二度と動かせないくらいに人の生皮剥いだりしたのてめぇじゃねぇか! 小刻みに時間止めてああいうことするお前は正直俺以上に外道だぞ! しかもトラの相手して余裕無いとこに奇襲で!」

「あぁ、そういえばそんなこともしたな」

 

 怒り狂う悠馬。冷静に受け流す刹那くん。

 ……あれ~、おかしいな。この会話って、明らかにこいつらが昨日休んだ原因の喧嘩とやらの内容じゃないかなぁ……。これ聞いたらちょっとマズイんじゃないかなぁ……。

 

「あん? ……ところでそこのモブ誰だ?」

「あぁ、佐藤くんだよ、君がリコーダー舐めた」

「だからこいつの笛舐めてねぇよ!」

 

 ザワッ、と擬音が聞こえた。

 凍る周囲の空気、注がれる数多の視線。その視線の向く先は一割僕、二割刹那くん。七割悠馬である。ちなみに一割はさっきのおじさんの視線を含んだ一割である。意識したらまた鳥肌たった。

 

「え……あの子達できてるの……?」

「え、ちょっと待って、あの悠馬くんって中学生じゃないの? あのちっちゃい子幼稚園児くらいだよね……?」

「まずくない?」

「現実にそんなことする人いるんだね……」

「「僕(俺)もう(まだ)小学三年だよ!! っていうかデキて(ないよ)(ねぇよ)!!」」

 

 周囲の女性陣からのひそひそ声が丸聞こえで、僕と悠馬は全く同じタイミングで怒鳴った。

 

「そうなんだよ皆、同意は存在しないんだ。悠馬がこの佐藤くんの了承も得ずに勝手に、無理やりヤったんだ」

 

 ザワッ。

 

 凍る周囲の空気。注がれる数多の視線。っていうか連続して二回も同じようなこと続けないで欲しい。僕は流石に二度目のコレに対して大げさには反応すまいと誓い、チーズケーキを一口食べた後、紅茶を口に含んだ。うむ。美味い。

 

「やっぱり鬼畜……」

「男の子同士で無理やりって、二次ならいいけど……」

「流石にあの外見の二人じゃ犯罪にしか見えないよね……」

「中学生が幼稚園児襲うとか……」

 

 いやいやいや、お前さんがた見てよ! 僕、ちゃんとこいつらと同じ制服着てるからね!? どこからどう見ても幼稚園児の着るあのスモッグだかいうタイプの服じゃないからね!

 

「ケッ……せめて刹那くらいの容姿だったらそれも有りだけど、こんなガキぜってぇ嫌だぜ俺」

「うん? それはもしかして僕に対する告白なのかな、悠馬?」

「外見の話だよクソが。誰が男となんざ絡むの望むかよ」

 

 僕だってお前なんかカップリング相手として嫌だわ! 変態ナルシスト! たとえTS転生していたとしてもお前なんか相手にしないわこのナルシー!

 

「おや、酷い話だな。僕TSだから一応元の精神は女の子なんだよ? その辺もうちょっと弁えた上で言って欲しいな。傷付くじゃないか」

 

 ……刹那くんの前世女の子かよおぉぉぉ!! なにそれ! 新情報なんだけど! 女の子が男の子にTSとか誰得なんですけど! 刹那くんはこの外見だったら前世のまま女の子で良かっただろぉぉぉ!! 何考えてんの神様ぁぁぁぁぁ!! 僕、刹那くんは女顔なだけの正統派主人公だと信じてたのにぃぃぃ!!

 

 ……よし、分かった。これからは虎次郎くんこそが真のオリ主だ。奴こそが真の主役だ。

 

 ……しかし、どうしよう。あんまり転生に関する話をなんの抵抗も無く聞いてるだけだと、僕も転生者だってバレんじゃない? 巻き込まれんの嫌だよ? 僕。

 でも情報は欲しい。野次馬的意味で。あと何気にこの三人組の力関係が微妙に見えてきたんだけど、間違いなく悠馬、刹那くんの下だよね。ざまぁ。典型的かませ犬ざまぁ。

 

「で、質問なんだけど佐藤くんも転生者だよね?」

「あ? そうなのか? このちびっこいのが? 小さいの除いたら外見完全にただの一般人じゃねぇか。てめぇみたいな明らかな男の娘と違って、ただのショタくせぇガキだし」

「ショタって言うな! 発育遅くて悪かったな!」

 

 前世でも僕この頃小さかったんだよ! 中学入学時に130ちょいしかなかったよ! 悪かったな! 中学卒業する頃には160まで伸びたんだから良いだろ別に!

 

 ……あれ? でもあの時は栄養不足が祟ってだったけど今世はちゃんと栄養とってるし、発育が遅い理由がわからん。もしかして前世の成長具合がそのまんま反映されてんの?

 あれ? だとしたらもしかして悠馬って前世でも小学三年生で150センチあったの? いや、でも実際小学生で180近い身長の子とかがいたって聞いたことあるし、もしかしてそうなのかな。だとしたらもしかして身長高いのコンプレックスだったりする?

 

 き、訊きたい……ッ! でも訊いたら転生認めることになる……ッ!

 

 なので、とぼけることにした。

 

「大体右腕消し飛んだとか生皮剥いだとかなんの話!? なんか怖いんだけど! あとTSってなにさ! っていうか刹那くんは刹那ちゃんだったの!? なんで男子の制服着てるの!?」

 

 キレ芸もとい、僕が脳内でしょっちゅう陥っている状態を表に出して、うやむやにしてしまおう大作戦。

 

「あぁ、一昨日ちょっと殺り合ってね。その時の話だよ、佐藤くん。あと右じゃなくて左腕ね。右は肩に剣刺さっただけ。それとTSっていうのはトランスセクシャル。要は性転換だね。転生の時になったみたいで」

「やりあっての字がなんとなくわかっちゃった自分が嫌ッ! あと剣刺さっただけとかそれはそれで怖い! でも間違えてごめんなさい! そして性転換とか小さい子がやるのいくないッ!」

 

 バカな! 僕のこのキレっぷりを軽く流すとは……ッ!

 

「性転換の意味わかるんだね、佐藤くん」

「……ん? そういやそうだな。ガキがそんなのの意味普通わかんのか?」

「知ったことかぁ! こんな危ない変な人たちのいるところにいられるか! 僕は一人で帰る!」

 

 勿論、残ったチーズケーキを口に突っ込んでね! 紅茶殆ど飲んでなくて勿体無いけど、さらばだ明智君!

 

「待つんだ佐藤くん! それは推理小説における死亡フラグだ!」

 

 狙って言ったんだよバーロー!

 

 

 

 

 そういうわけで、僕は家に帰ってから学校の宿題をやって、家計簿の計算が間違ってないか確認して、夕方に父さん帰ってきたので三日三晩寝かせたカレーで夕飯とした。ちなみにお土産は頼んでおいた罫線入りノートの十冊束になってる奴と、東京のひよこである。

 

 ひよこは福岡の名産品であるという話を前世でちらっと聞いたことがあるが、真実は知らん。っていうか、原作の話で言うと今日って何があったの日なのか結局わからん。大木事件の後はすずかちゃんの家になのはちゃんが遊びに行く日にフェイトちゃんとの戦闘があるのは覚えてるので、もしかして今週は土曜か日曜まで原作イベント無しなんだろうか。謎である。


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