転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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5.禁断の書と違和感

 姉さん、事件です。

 

 このネタ分かる人どんくらいいるんだろうか。

 そんなことを思いながら、僕はなんかもう散々な結果になった日曜日の夜中に一人で家の片付けをしていた。

 

 うん、分かるよね? 大震災並の地震がほんの十数秒でも起きたら、そりゃあ家の中ごっちゃごちゃになるよ。ちなみに台所はコップの一部が割れてたけど、幸いにも床ではなくて流し台に落ちて割れていたので片付けはそこまで大変ではなかった。まさに不幸中の幸いである。

 他に被害らしい被害というと、父さんの書斎の本棚の上の方にある本がダバーっと床に広がり、僕の部屋の服が入っているカラーボックスが勝手に開いて少し服が散らばってたり、そんくらいで済んだ。アレがあと十秒続いてたら食器棚とか開いて食器が床に散らばって割れて、大変なことになってただろうなぁ……こんなもんで済んでよかった。本当に。

 

 ちなみに、斎藤さんちのおばあさんは無事だった。人間どころか車ですら一撃で粉砕してしまいそうな威圧感を放つハンマーが自分の座っている場所から1メートル程度しか離れてない所に突き刺さってるのに、呑気にお茶飲んでて、いきなり叫びながら他人の家に勝手に上がってきた子供(鍵は開いてた。おばあさんマジ無用心)にいちご大福をくれるという親切おばあさんっぷり。とりあえずにっこり笑って礼を言うとそれをもぐもぐしながらおばあさんと世間話という名の現実逃避をした後、おばあさんの家を少しでも片付けることにした。

 

 しかし何せ壁ぶち抜かれてるわ屋根は一部吹っ飛んでるわでエラいことになっていて、片付けられたのはおばあさんの近くに転がっているどかせそうな瓦礫を頑張ってどかして安全確保するくらいしか出来なかったんだけども。

 そんでもって真昼間だから気付かなかったけど、また停電になっていて掃除機が使えなかった。

 

 これどうすんのマジで……おばあさんの一人暮らしにはちょっとキツすぎるだろ……。

 

 そう思って「お孫さんとかお子さんの電話番号分かりますか」って訊くと、番号の入った携帯を持たされてるんだけど使い方わからないと言うのでソレを借りてお子さんに電話。局地的地震が起きて、おばあさんの家が半壊状態になっていてとてもじゃないけど老人の一人暮らしできる状態じゃないので、出来る限り早めにお迎えに来て上げて下さいと伝えておばあさんを自分の家に連れてきた。

 

 しかし、ガス漏れとかガス爆発とか起きなかったのは本気で不幸中の幸いだと思う。あの規模の揺れで、地下にもあれだけ根っこが侵食していたとなるとガス管が破壊されてる可能性だってあったし、どこかの民家でガスコンロ使ってたら爆発とか起きても全然おかしくなかった。本当に、本当に良かった。正直人死にとか出てもまったくおかしくない被害だったし。

 当然のようにご近所さん達も何か騒いでた気がするけれど、生憎と自分の家とおばあさんの保護で手一杯だった僕は他の家の様子を見に行ったりはしていないので実際の被害がどのくらいかはまだ分からないけれど。

 

 まぁ、ともかくにも火災やなんかには発展はしていなかったというその点でだけは良かったと、少しだけ胸をなでおろして現状確認。

 

 今現在おばあさんは被害の少なかったうちの居間にいるけれど、電気が来てないからテレビも映らないし、LEDのカンテラとか懐中電灯とかあったからそれを掻き集めて、ポットに残ってたお湯を使ってお茶を入れてあげて、おせんべいは硬いと食べられないっていうから板チョコをブロックごとに砕いて一口サイズにしたものと柿ピーを出してトイレの位置を口頭で伝えてそこでのんびりしてもらっている。

 そんな中、僕は一人寂しくお父さんの書斎を片付けている訳だ。

 

 本の山が凄いし、本棚の上の段なんて脚立使わないと届かないのに脚立を置くための床スペースが本でふさがっているというジレンマに悩まされながら、とりあえず本を種類ごとにまとめて部屋の隅にまとめているのだが、なんというか、経営学の本があったかと思いきや天文学の本があったり、かと思えば若干古めかしいラノベが数冊あるかと思えば六法全書があったりと、片付けても片付けてもあるなんとも大量の本に僕はもう今日一日の労働量が肉体の限界に近いことを自覚し、明日筋肉痛と精神的なダメージで学校休もうかと思ってしまうほどであった。

 

 もう片付け明日にまわそうかな、と思いながらも惰性で本を片付けていると、ふとある本を目にして僕は一瞬眼を見開き、まさかそんなはずは、と目をゴシゴシこすってその本をもう一度凝視して、それがそこにあるのに間違いないという事実に僕は思わず唾を飲んだ。

 

 まさか、なんでこんな物が父さんの書斎に……?

 

 

 それは禁断の書。

 

 

 それは絶対不可侵にして、しかれどもそうであるが故に人々を惹き付け、時に人々を破滅させる恐るべき書。

 

 

 神聖にして邪悪。

 

 

 邪悪にして神聖。

 

 

 矛盾するようでしかし、それらは事実矛盾することなく、そこにある書こそがその矛盾の存在を否定し、そしてソレは人に夢を与え、代償として人は大事な何かを失うこととなる。

 

 

 

 ……もう、言わなくても分かるかもしれないが、言おう。

 

 いや、しかし下手にこれに関わったら僕の人生色々とまずいことになる気がする。やっぱり見なかったことにするべきか?

 

 ……だが、既に僕は見てしまった。ならばもう見て見ぬフリをするのはよそう。僕だって、前世ではこの手の物を渇望していたじゃないか。

 

 

 

 その書の名は、

 

 

 

 "おとうさんといっしょ~おとうさん、このおようふくスースーするよ?~”である。

 

 

 

「おとうさあぁん!!」

 

 表紙は完全にロリ。どこをどう見てもロリ。発育途上の胸が丸出しで、生えてない股間もむき出し。っていうか、俗に言うボンテージの胸部分と股間部分の生地の無いを着ているロリっ子の二次絵表紙がそこにあった。

 僕が思わず叫ぶのも、なんか思わず訳の分からない厨二病っぽい単語を並べて目の前の現実から逃避しようとするのも分かってもらえるだろうか? いや、わかってもらえるはずだ。

 

 これが、これが兄弟とかのなら、まだ良い。まだ、まだ笑って許せるレベルだ。でも、でもここはお父さんの書斎である。つまるところコレはお父さんの私物である。

 

 これが、これがまだ女子高生物とか人妻物とかなら、まだ良いよ? うん、「やれやれ、お父さんってば……問題は起こさないでよ?」とか苦笑しながら見逃せるよ?

 でもさ、見た目小学生くらいのロリっ子が表紙のエロ本だよ。いや、三次じゃないだけ良いけどさ、二次とはいえこのタイトルとそこから想定される内容は正直息子として大変危機感を覚えざるを得ない。

 

 いや、でも、でもアレか。アレだよね。二次だし。二次元だし。人の性癖って自由だしね? リアルで問題起こさなければ別にロリ好きだろうがBL好きグロ好きだろうがリョナ好きだろうが……。

 ……うん、そうだよ。お父さんは日夜僕を扶養するために働く立派な人なんだし、こういうちょっと道徳に反するアレな物を読んで興奮しちゃって一人で致しちゃったりなんかしても、犯罪おかしてるわけでもないし、大丈夫だよね。

 うん、僕だって前世での性癖はそんなに褒められたもんじゃないし……それでも犯罪起こさなかったし。

 

 そう、そうだよ。マンガやゲームを読んだりやったりした結果、現実と物語の区別がつかなくなって犯罪起こしちゃったとかそういうのは犯罪者の逃げ口実なんだよ。「僕のせいじゃない。あんな物が出回ってて、それに触発されたせいなんだ。きっとサブリミナル効果でもあったに違いない。僕は無実だ」とか言い出しちゃうような最低開き直り野郎の言い訳なんだよ。

 

 うん、僕は何も見なかった。見たけど何も問題無かった。お父さんは素晴らしい理想のお父さん。それで良い。

 

 僕はそっとその禁断の書をまだ大分残っている本の一部をどかしてそこに置くと、どかした本を上から乗せて隠蔽する。

 これで、お父さんも僕が気付いたことには気付かないだろう。頑張って整理してたけど疲れたので途中で諦めた、とお父さんには言っておこう。

 

 ……と、突然窓の外からまばゆい青い光が差し込んで来て僕は思わず眼を細めた。

 

 数秒、そのままじっと窓の外を見ていると、やがてその光はおさまり、同時に外で街灯がついたのか外が目に見えて明るくなったのがわかり、僕はほっとした。

 

 時間を操る関係の魔法持ちがやっぱいるんだな、チートオリ主チーム。こんな短時間で電柱やらボッキボキに折れて電線も切れてたのが直る訳が無いから魔法だろう。これはもしかしておばあさんの家も直ってるかな? だとしたらおばあさんのお子さんには悪いことしたな……。

 

 軽く背伸びをして背中をバキバキ鳴らしてから、廊下の電気を付け、居間の電気をつけておばあさんに「もう停電直ったみたいですね」と声をかけ、懐中電灯とカンテラの電源を切り、テレビを付けてリモコンをおばあさんに渡して一度外に出ることにした。

 だって現状確認しとかないといけないしね。完全に何もかも元通りなのかどうか分からんし。

 

 そう思って家を出ると、お向かい(斎藤)さんの家が半壊している姿が目に入った。

 

「……いや、直せよ! ここ一番大事だろ! 民家は一番最初に直せよ!」

 

 思わずツッコミを入れるのも仕方ないよね。

 ちなみに電柱とか道路とかは完全に何事もなかったかのようになっていた。そして何故か他の家は普通に直っていて、我が家に刺さっていた槍も無くなって、小さな穴が開いているだけになっている。

 

「……いや、直せよ! 抜いていくならちゃんと穴も直していけよ!」

 

 ご近所迷惑なのは分かってるけど、叫ばずにはいられないよね。

 

 仕方なく、本当に仕方なくおばあさんの家を念のために確認のためあがっていくと、ハンマーがあった場所からハンマーが消えていた。

 家の荒れ具合はそのままだった。

 

「なんなのさもう!!」

 

 僕が好意もった相手って幸せになれるんじゃなかったの神様! いや、アレが神様だったのかなんて知らないけど! 僕バリバリおばあさんに今好意抱いてるよ!? っていうか、なんかもう同情心が半端ないよ!? もうこの際僕の家に槍の刺さってた穴が開きっぱなしなのは、もう水に流すとしてもさ、この壊滅具合は直そうよ! おばあさん可哀想じゃん!

 可哀想過ぎてなんか泣けてきたよ! 涙ぼろっぼろだよ僕! もう帰るよバーカ!

 

 心の中で「ナルシー死ねナルシー死ね」と呪いを投げかけながら家に戻り、おなかを空かせているであろうおばあさんのためにご飯を作る。炊飯器の中のご飯はまだほんのり温かいけれど、ほかほかご飯というほどではないので電子レンジで温める。僕は米硬めが好きだから米しゃっきりしてるけど、おばあさん硬めでも食べれるかな。大丈夫かな。一応おかゆ的な物も作っておこう。

 

 おかずはカレーが残っているけれど、おばあさんにカレーなんて刺激物はちょっとどうかと思うので朝方作った野菜炒めの残りをおかずにチョイス。あとは天○の味噌漬けが冷蔵庫に入っていたのでそれを取り出し、ひとまず今日の夕飯はそれで済ませることにする。

 

 いや、僕だけカレー食べてるのもおばあさんに悪いし、一緒に野菜炒めと味噌漬けだけで食べるしかないじゃない。

 

 とりあえずそう言うわけでお盆にそれらを乗っけて居間へと移動。おばあさんとこれまた世間話をしつつご飯を食べる。

 

 なんかおばあさんがホロホロ涙を流していたけど、なんかお子さんと昔一緒にご飯を食べていた時を思い出したらしい。僕も釣られて泣きながら「おかーさん」と呼んで抱きついておいた。僕は空気を読む子なのである。あと割と涙もろいというか、貰い泣きしやすいのだ。

 

 ……あ、僕そういうところは父さんに似てるな。義理なのにやっぱそういうとこは似るのかね?

 

 

 

 

「いってらっしゃい、よっちゃん」

「うぅ……よっちゃんはやめてよ、恥ずかしいよ」

「嫌かい?」

「う~……いや、いいよ。よっちゃんでいいよ、もう。だからそんな悲しそうな顔しないでよ」

 

 朝、一緒に布団で寝たおばあさんは良い夢を見たとかですっごいニコニコしてて、朝ごはんを作ってくれた。今世において自分以外の人が自分のために作った料理を食べるのなんか何気に初めてかもしれない。ちなみにきんぴらごぼうと肉じゃがだった。美味しかった。息子さんの大好物だったらしい。

 

 で、まぁ学校に行くとなったらこうしておばあさんが僕をお見送りしてくれている訳である。今世でおばあちゃんいない(父さんの両親は既に他界しているらしいし、本当の両親関係に関してはさっぱりわからない)から、ちょっと新鮮な気分だ。

 

「そうかい。じゃあいってらっしゃい、よっちゃん」

「うん、行って来るよおばあちゃん」

 

 ちなみに昨日のうちにもう一度おばあさんの息子さんには電話して、向かいの家で預かっていると伝えておいた。明日一番に迎えに出ると言っていたけど、こっちに着くのは夕方頃らしい。

 

 さて、なんだろう。原作キャラとの絡みとか殆どしてないのはまだ良いけど、友達増えないでおばあちゃんが増えたというのはどういうことなんだろうか。新しいな。こういう展開新しいな。絶対他の転生者こんな展開おきてないよ。おばあちゃんを家に招いた本人の僕もびっくりだよ。ラブコメとかバトル物かと思いきやハートフル家族愛物語だったとは僕もびっくりだよ。いや、悪いとは言わないけど。

 

 そんなことを考えつつ学校に着き、クラスメイト達と挨拶を交わしつつ着席してなのはちゃんの様子を伺うと何か少し寂しそうな、でも何かを決心したかのような表情のなのはちゃんの姿がそこにあった。

 完全に僕の想像だけどね。と思って見てたら欠伸した。よく見るとなんか寝不足っぽい顔をしているだけだった。

 クッ、せっかくシリアスっぽいモノローグしようと思ったのに!

 

「は~い、朝礼の時間ですよ~。皆さん体育館に集まってくださいね~」

 

 なのはちゃん以外にも虎太郎くんとかの様子も見ようと思ったところで先生が生徒達を呼びに来た。……けど、虎太郎くんと刹那くんがまだ来てないんだけど、遅刻?

 

「なのは、先生が呼んでるぞ。朝礼の時間だ」

「え? あ、あぁうん……」

 

 そしてぼんやりしていたなのはちゃんにナルシー悠馬が声をかけ、ぼんやりしたまま反応したなのはちゃんがナルシーと共にてこてこと教室を後にする。

 

 ……あれ? すずかちゃんとアリサちゃんは?

 

 と思ったら、ナルシーと一緒に教室を後にしたなのはちゃんのことを唖然とした表情で見送っていた。

 あぁうん、まぁ、そうだよね。驚くよね。何があったんだろうね。っていうか虎次郎くんと刹那くんはどったの?

 色々疑問が浮かんだけど、僕は体育館へとなのはちゃん達の後を追って向かうことにした。

 


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