転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】 作:マのつくお兄さん
5月4日、水曜日。
帰ってきて目が覚めた時は朝だった訳だが、そのまま二度寝した僕が次に起きたのは昼過ぎだった。
エルザちゃんと博士は、やるべきことが出来たとかで食事の時以外は研究所にこもるとのことだ。
何をしているのかは知らないが、ダゴン出現の可能性があることを伝えたことで、多分破壊ロボでも作っているんだろう。なんかその前から随分勢い込んでたけど。なんにしても、声かけた時には既にエルザちゃんが粗大ゴミをリアカーに乗せて研究所に入っていくのを見ているので間違いない。
電子レンジとか冷蔵庫とか壊れたPCとか車のエンジンの部品で一体何が出来るんだろうかと疑問だが、まぁそこは博士のとんでも技術でどうにかしてしまうんだろう。
ちなみに、今の服装は普通にジーパンとパーカーである。女装なんてもうしないぜ!!
「にゃ~♪」
「てっけりり~♪」
「実に……実に和むぜよ……」
まぁ、そんなことは今はどうでも良いのだよ。諸君、ようやく我が家に平穏が帰ってきたのだよ!! 見たまえ!! アインとショゴスのこの二大萌えキャラコンビを!!
ショゴスにはアインの色違いバージョンになってもらったのだよ!! ツヴァイと名付けたよ!! アインとツヴァイってアンタ、安直すぎやしませんかっていうツッコミくらいそうだけどね!!
「義嗣、口調が何故か坂本竜馬みたいになってるから。高知弁だっけ?」
「知らんがな」
「にゃ~♪ にゃにゃにゃな~♪」
「てっけりり♪ てけりりり~♪」
アインもツヴァイも可愛いよハァハァ。
「にゃ~!! お兄さんの胸に飛び込んでおいでアインツヴァ~イ!!」
「にゃ~♪」
「ヨッシーくんてっけりり~♪」
きゃ~!! もっふもふ天国やで~!! そしてショゴス……じゃねぇ、ツヴァイはヨッシーくんが発音できるんだから、そろそろ他の言葉も覚えて~!!
「うん、なんていうか、それでこそ義嗣だね。なんか最近シリアスパートが多かったから、私の中で君がちょっとかっこよく思えてたんだけど、そのぼへっとした顔が一番いいよ、君は」
「なに、僕かっこよく見えてたの!? じゃあごめん、そのままの印象でいて!?」
「可愛いよね、義嗣って」
「がっでむ!!」
僕は!! 転生者で!! ショッタっ子で!! 男の子なんだよぉぉぅ!!
げふん。ごめん、なんか変な電波拾った。主にコーラ味のサワー的な何かを。
しかし、平和なのは大変結構なんだけども、刹那のとこにティンダロスの猟犬はまだ出てこないけど大丈夫だろうか。やっぱり一ヶ月経たないと来ないのか? それとも、おっさんがなんとかなったらしいし、おっさんが猟犬を放つのをやめさせたとかかな。
でもダゴンは出るらしいし……。
まぁいいや。今はもふもふするのだ。心置きなくもふもふするのだぁぁぁぁぁ!!
「にゃ~ん♪」
「うりうり、ここか、ここがええのんか!!」
「てけりりぃ♪」
「義嗣、なんかもう、発言が色々危ない人になってるよ。いや、外見的な面ではむしろ微笑ましいんだけど……」
知ったこっちゃないぜ!! 僕達はこの美人にゃんこ達とたわむれるのだ!!
って、あら、チャイム鳴った?
「……ん? 来客みたいだね。昨日のおじさんが今日色々謝罪とかしに来るって言ってたし、それかな?」
「あ、そうなの? それじゃあちょっと出迎えてくるね」
「行ってらっしゃい」
「あいあいさ~♪」
☆
「……やっぱり、お前……」
「えっと……何?」
玄関のドアを開けたら、居たのは例のおっさんではなく、何故か悠馬。
そして用件は何か訊こうとしたら、何故か手を握手の形で差し伸べられたので、とりあえず握り返してみたら驚いた顔でこっちを見ていた。
「……こうして握手してて、気持ち悪くないか?」
「いや、普通だけど」
「俺のこと、どう思う?」
「わかりにくいけど、ツンデレだけど良い人だと思うよ」
「……マジか……」
いや、なんでそんな心底疲れた顔で顔を片手で覆って上を見上げてため息はいてるのさ。
「今まで色々悪かったな。すまんが話がある。入れてもらっていいか」
「えぇっと……刹那いるけど、いい?」
「俺は構わねぇよ。あいつは嫌がるかもしれねぇけどな」
なんだかよくわからんけども、とりあえずそういう訳で悠馬が我が家にやってきた。
で、悠馬を連れて居間に戻ると当然ながら刹那が驚いた顔でこちらを見ている。
「……悠馬、かい? なんで君がここに」
やっぱり最初に浮かぶ疑問それだよね。今まで散々僕のことモブとか言って見下してたのに。いや、ツンデレだったくさいけど。
「てめぇには関係――いや、てめぇがいたほうが良いか。すまねぇけど二人に頼みがある」
ぶっちゃけ面倒事はもうこれ以上は勘弁して欲しいんだけど、悠馬がやけに真剣な顔なので茶化す気も起きないため聴くだけ聴いてみることにする。
「え~っと、出来ることと出来ないことがあるけど、まぁ出来る範囲でなら。とりあえず聴かせてもらえる?」
「まぁ、義嗣がそういうなら、僕も良いよ」
「すまねぇ。……単刀直入に言う。はやてを守ってくれ」
「「はい??」」
なんか予想外すぎるお願いと共に土下座までされた僕と刹那は固まった。
「え~っと、悠馬? なんでここではやてちゃんの名前が出てくるんだい?」
「今のままだと俺の目がそっちまでまわりきらねぇからだ」
「いや、でも別に原作物語上、A'sまでははやてちゃんの周りは平和なんじゃないの?」
「ここが、原作そのままなら、な。今回巻き込まれたてめぇらなら一番わかってんだろ。俺も最近は認識を変えたが……ここは、リリカルなのはの世界によく似てるが、似てるだけで、全然違う世界だ」
……そうなのか? いや、そうか。正直最近はずっとリリなの世界にしては違和感多かったしな。そもそもガチ系のクトゥルフ神話関係が絡んできた時点でそれは僕も感じてたけど。
「そうなのかい? 僕は原作は一期途中までしか見たことないし、基本的には虎次郎から聴いた話の知識でしか原作知らないからそういわれてもそうなのかとしか良いようがないんだけど」
「あぁ。それとモブ……いや、佐藤っつったな。佐藤。てめぇやっぱ転生者か。昨日のアレ見たら間違いねぇとは思ってたけど、A'sとかあっさり口に出すあたりアホだろ」
「……おぉっ!!」
しまった。なんかもう、刹那と虎次郎も知ってるから完全に気が緩んでた!!
「いや、別に良いけどよ。むしろ今はそうでないと困る。あ~、とにかくだ。刹那、てめぇは覚えてんだろ? あのニコポ能力者」
「え……? あ、あぁうん。勿論覚えているさ。左手の指全部切り落としてゲイバーに置いて来た奴だよね?」
「アレのご同類――いや、あいつはまだマシな方か。
精神干渉、精神汚染、感情操作系の連中がツルんでるらしくてな。厄介なことに、能力利用してヤクザやら一部警察組織取り込んで一大組織になってやがる。別にそれ潰すだけなら俺一人でも出来るんだが、規模がデカすぎて主犯連中の所在がサッパリ掴めねぇ。
主犯全員ぶち殺せば能力は解除されるから組織は勝手に瓦解するのは目に見てるんだけどな……。
で、問題なのが、そろそろ無印の物語が佳境だろ?
俺がそいつら本格的に探すために抜けたら原作介入組の転生者がチーム組んで出た時に抑え切れねぇ。
虎はあくまで防衛とタイマン専門だからな。あっちもあっちで、未だに絡んできてる連中が多いんだよ。管理局連中にはバレねぇように酷い奴は廃人にして適当に捨ててるから構わねぇんだが……」
……うわ~、すどいドロドロしてるな転生者達……。
本気で勘弁して欲しいんだけど……。
「で、だ。そこではやてが絡んでくる訳だが……あいつ来月誕生日だろ? そうなるとヴォルケンリッターが出てくるから、後は放置してても大丈夫だとは思うんだけどよ……。だからこそ今、連中がはやて確保に動いてんだ。
先月あたりから不審な動きしてる連中がはやての後つけてる時があってな。あの頃は俺もあんま原作介入はしたくなかったんだが、俺みたいに目立つ奴がはやてに絡んでれば、一発で転生者ってわかんだろ?
そしたら牽制になるから暫くそれで通してたんだけどよ……最近は傍に行ける時がすくねぇからか、また動きが活発になってきてる。
それも動いてるのが転生者じゃなくて一般人のガキ共が金掴まされて動いてるから始末が悪くてな。下手にこっちも手を出せねぇから、サーチャーだけは常につけて、誘拐に動こうとするような連中がいたらすぐに潰してるんだが……」
「原作があわただしくなるこの時期はそこまで手を回せないから、手を貸して欲しいってことか」
「そういうことだ」
「なるほどね……しかし、君は相変わらずだね」
「ふん……相変わらず気持ち悪いってか?」
「そうだね。君がやってることは誰からも褒められるべき正しいことの筈なのに、どうしても生理的嫌悪感を抱いてしまう。なんとも難儀な因果だよ」
「それでもまともに会話が出来るだけ、てめぇらは他のやつらよりマシだよ」
う~ん……なんだろう。こうして聴くと、悠馬めちゃくちゃ良い奴じゃないか。誰だキモいとか思ってたの。僕だね。ごめんなさい。
しかしわからんね。そんなのが相手なら余計に僕なんかじゃ相手にならんと思うんだけど。
「でもそんなの相手にしても、僕何にも役にたてないよ? 博士がガチの銃寄越してきたからまぁ威嚇くらいは出来るかもしれないけど、狙った場所に当てるなんて芸当無理だし、能力も戦闘なんて出来るものじゃないし」
「佐藤、てめぇ精神汚染とか感情操作系に対する耐性持ちだろ? 邪神の眷属とかいうレベルの呪いに耐えたって話だしな。それなら連中の操り人形にされて、はやてに危害を加えたりはしねぇ筈だと俺は判断した。
それに、はやて連れて逃げ回るくらいできんだろ。俺が向かうまで時間さえ稼げばどうにかしてやる。
今まで抱えてた問題は、原作介入してなくて、俺の知り合いで、時間を稼げる程度の能力を持った人間がずっといなかったことなんだよ。
下手なのに任せたらそっくりそのまま相手の戦力になっちまうしな。その点、てめぇなら万が一操られても簡単に潰せるし、そもそも操られる心配自体がいらねぇ。
それにてめぇ自身の人間性も……まぁ、野次馬気分で来られた時は最悪な評価になったけどよ、昨日のあんなの見ちまったら、信用するしかねぇだろ?」
おうおう、顔を赤くしてそっぽを向いちゃって、なんぞこいつ、可愛いぞ!! 見た目は中学生の身長の大学生のくせに!!
「……なるほどね。義嗣が防壁になっている間に、僕が時間を止めて二人を連れて逃げていれば、時間稼ぎには丁度良いってことか」
「あぁ、最初は西野の野郎に頼もうかと思ったんだが、昨日のアレみて考えが変わった。多分、それが一番ベストな布陣だろ? それに、てめぇらならはやてとは友達になってるみたいだし、泊まりたいって言って傍にいても違和感ねぇだろうし」
「そうだね……僕もユニゾン中なら精神干渉系耐性も多少あるし、多分大丈夫だろう。義嗣、どうだい?」
いや、どうだい? って訊かれても、この状況で「いや、僕面倒ごと嫌なんで」とか言えると思ってるのかい刹那。
まぁ友達が危ない(それも性的な意味含めて)状態と聴いたらこっちだって断ろうなんて思えないけどさ。
「いいんじゃないかな。幸いはやてちゃんには魔法バレしてることだし、危ないことになるかもしれないから一箇所でまとまっているように言われた、とか言えば信じてくれるでしょ」
「……すまねぇな。佐藤。お前は原作回避タイプの日常生活好きなタイプだったんだろ?」
「いいよ。友達が危ないって聴いたら僕だって動こうと思うくらいの正義感はあるつもりだよ。ましてやそれが僕にしか出来ないって言ってくれてるんだから、尚の事ね」
むしろ、教えてもらってよかったかも知れない。ゴールデンウィークあけてみたら、友達の女の子一人が精神操作されてレイプ目でへらへら笑いながら軽薄そうな男連中とベタベタしてたなんてなったら、僕多分自分抑えられる自信無いし。
だって、はやてちゃんがそんな風になるとしたら、絶対精神汚染とか洗脳しか考えられないからね。博士に生活費はたいて殺戮兵器でも作ってもらって犯人仕留めに走るところだよ。
なんか、考えただけでムカムカしてきた。
「それでも、悪い。今までのことも含めて謝る。報酬も出す。いくらが良い。一千万だろうが一億だろうが出す。割と本気でヤバイ案件なのは間違いねぇし」
「いらないよお金なんて」
「そういう訳にもいかねぇよ。頼むのはこっちだ」
「友達助けてって、友達に頼まれてお金なんかもらったら、自分で自分を嫌いになりそうだから嫌だ」
「あ? ……あ、おい。待て。友達ってなんだよ」
「友達は友達でしょうが。はやてちゃんと天ヶ崎……あぁもういいや。悠馬くんでしょうが」
「はぁ!?」
なんだよ、文句あんのかよ。お前なんざ友達だと思ってねぇよって言われてもこっちはもうお前さん良い人認定だから勝手にお友達認定だよバッキャロウ。
「おま……」
「なんていうか……義嗣、君ってもしかして因果とか能力系のレジスト能力持ちなんじゃないかい? いや、それとも平等な愛って、そう言うこと……?」
「なにがさ」
「……友達、で良いのか?」
「ん?」
「俺を、友達だって言ってくれてんのか? 本気か? 同情でもしてんのか?」
「今の流れのどこに悠馬くんを同情する余地があったのかこっちが訊きたいよ」
「……お前、本当に俺のこと、どうも思ってないんだな」
そんな呆れた顔で言わないでよね。そんな訳ないじゃない。
「どうも思ってないわけないじゃない。滅茶苦茶良い人だと思うよ。ツンデレだけど。僕が生きてるのだって悠馬くんのお陰でもあるんだし。なんだったら靴舐めてもいいくらい恩を感じてるよ。不器用なところとかもなんか可愛いな~って思うよ。
見えないところで、誰にも感謝されてないのに、ずっと頑張ってるのも分かったから、もうなんか、報われてもいいんじゃないかって思うよ。人間として大好きだよ。僕が女の子だったら惚れてるね。間違いない」
「……義嗣……」
「……」
ん、なんだよ二人ともそんな唖然とした顔しちゃって。
「あ、もしかして義嗣が悠馬にとってのエンキドゥなんじゃないかい?」
「いや、違う。それはアルフだ。アイツだけは俺を受け入れてくれたからな。だからこそ俺も――いや、それは良いんだが、佐藤、お前、本気で俺のこと気色悪いとか思わないのか?」
「思わないよ? 前は女子と見れば誰から構わず愛囁きまくるチャラ男め!! って思ってたけど、内面知ったら普通に好感しか抱いてないよ」
「こんな外見だぞ?」
「別に小学生でも身長170とかいく子だって前世ではいないわけじゃなかったし、ソレに比べたら身長はちょっと高いけど普通。顔は確かに年齢の割には整いすぎてるし大学生くらいの顔にしか見えないけど、単に老け顔だと思えばむしろ強く生きれ!! って応援するレベルだよ」
「ぷっ……」
「……はぁぁぁぁ……」
「なにさ二人して」
なんだね、老け顔には違いあるまい。
「ご、ごめん。ぷふっ、老け顔……確かになぁって……くふふっ」
「笑いたきゃ笑いやがれ。ったく……あ~くそ、因果のせいで受け入れてくれんのはたった一人の女だけかと思ってたのに、こんな身近にいたとかどういうことだよ。あ~面倒くせぇ……佐藤!!」
「うぃうぃ。何さ」
「友人間でも、金の問題は大事なもんだ。正当な報酬は受け取りやがれ。それでも抵抗があんなら、はやての護衛の必要経費として使え。ともかく受けとらねぇなら今回の話は無しだ」
「ぬ~……分かった。じゃあちょっと待って。一回博士に声かけてくる」
「あん? なんで西野が出てくんだよ」
「ついでだから、二人が滞納してるっていう学費代わりに払ってもらおうと思って。あの二人には今回の怪異解決に協力してもらった正当な報酬なんか全然払えてないからさ。そのくらいは出来るならしておきたい。
あと、僕も最悪の場合を想定して装備欲しいから、それの必要経費訊いてくる。それらを経費分として報酬にしてもらいたいんだけど、良い?」
「勝手にしろ。こちは数千万だろうが数十億だろうが出したって懐(ふところ)いたまねぇからな」
流石は大富豪さんだね、っと。
☆
「いらんのである」
「ロボ」
「えぇっ!?」
研究所をノックしてもしも~ししたら、エルザちゃんが出迎えてくれたので、学費滞納分を悠馬からもらう報酬で肩代わりするって話をしたら、即断られました。
「なんでさ!?」
「監視カメラで様子は伺っていたのであるが、我輩も友を助けて金をとるほど鬼畜ではないのである」
「そうロボ!! 見損なわないでほしいロボ!!」
監視カメラという点は今はツッコミ入れないでおこう。僕のこと心配してだと信じよう。
「いやいやいや、だって最初情報料要求してきた時とか言ってたじゃない。お金がまずいって。いくら義務教育だから学校側も甘い顔してるとはいえ、私立なんだから絶対そろそろ見限られるよ? 学費滞納は絶対まずいって!!」
「だったらエルザの分だけもらうのである。今回義嗣を守ったのはエルザなのであるからして」
「エルザだってそんな形でお金なんて欲しくないロボ。ロボは食わねど高楊枝ロボ」
「いやいやいや、それ武士だから。そしてそういうのは、最低限他人に迷惑かけてない人だけが使っていい言葉だから。学費滞納はいろんな人に迷惑かけてるから」
「ぐぬぅ……」
「むむむ……ロボ」
う~ん、なんなんだこの二人の頑なさは。原作でももっとさぁ、こうガメつい感じじゃなかった? 僕の記憶が間違ってるの?
あ、でも博士って友情には熱い男だったからなぁ……。
「今を逃したら、僕だってお金なんか払えないからね?」
「ぐむむむむ……」
「うむむむロボ……」
「じゃあ、せめて僕の装備開発費として、僕に売る分の利鞘としてとってよ。それなら良いでしょ?」
お金にガメつかないのは良いことだけど、僕も友達が貧困にあえぐのは嫌だよ?
「むぅ……仕方ないのである。じゃあそういうことにしておいてやるのである。確かに、我輩はともかくエルザが肩身の狭い思いをするのは、我輩もあまり望ましくないと思っているのであるからして……」
「確かにエルザも、お友達に貧乏人は存在が認識できないとか言われて蹴り飛ばされるのはもう勘弁ロボ……」
「なにそれ!? エルザちゃんのとこどんだけ学級崩壊してるの!? 女子中怖い!!」
僕女子じゃなくて良かったわ!!
「まぁ、とりあえず今はそれで良いとして、装備っていうと、昨日エルザが持っていったのだけでは足りなかったのであるか?」
「うん。出来ればもうちょっと、普段から持ち歩ける物の方が助かるよ」
「うぬん? あれらは普段から着用していても問題ないと思うのであるが」
「いやいやいや!? 銃とかマジカルステッキなんて普段から持ち歩いてたら痛々しい子扱いは間違いないよ!? 篭手だって同じくだからね!?」
「アーカムでは割と問題無いのであるぞ?」
「混沌の都市アーカムと平和の国日本を一緒にしないで!?」
っていうか、この世界アーカムあるの!?
「まぁ、言われてみればそうだったロボ。でも普段から持ち歩く必要なんてあるロボ?」
「いや、僕もいつ何に巻き込まれるかもうわからなくなってきたし。あと、相手の不意を打つにもあからさまに武器っていうの以外にも戦闘用の物持っていたいからさ」
「不意打ちであるか? なんともセコイのであるな」
「戦力を正しく判断した結果と言って欲しいよ。不意打ち闇討ち上等。正義の味方だから勝つんじゃなくて、勝つから正義の味方なんだと思うよ、僕は。
……まぁ、勝てば正義なんて考えを持つ気もないけど」
「ふむ……まぁ、一つの真理であることは、間違いないのであるな」
奇襲や伏撃は嫌われるけど、戦力で負けている側が勝つには致し方ない戦法なのだよ。それに頼りすぎると、策士策に溺れるを地でいくことになるけど。
戦闘の基本が純粋な戦闘力の確保と維持であるのはこちとら分かっているけれど、地盤が違うのだ。戦争に卑怯もクソもないのである。
「では、髪留め型の装備で、展開すると甘ロリドレスのマギウススタイルとかどうであるか?」
「なんで!! そこで!! 女の子みたいな!! 装備なのさ!!」
っていうか、モロに女の子の装備じゃないか!!
「博士、実にナイスロボ!!」
「ヌゥハハハハハ!! そうであろうそうであろう!! 我輩は大天才であるからして? 服飾センスも神がかっているのである!!」
「服飾センスはどうでも良いよ!! 確かに昨日まで着させられてたあの服可愛かったけどさ!! 今の問題は!! 僕の服装が!! なんで女装限定なのかって!! ことだよ!!」
「「ショタだから(である)」ロボ」
「君達の判断基準はなんなのさぁ!?」
あとマギウススタイルって、魔道書との合体でしょうが!! なんで髪留めなのさ!!
「ツッコミ、間にあわねぇぇぇ!!」
誰か!! 僕にツッコミの相方をくれぇぇえええ!! フェイトちゃんかんばあああああっく!!
☆
「……で、あんなこと言っておいて五百万か。割とでかくでたな、オイ」
「いや、その……最終的に博士達の気分が乗っちゃったみたいでね? 僕の魔力の瞬間最大放出量だと下手に魔法関係の技術使うよりも、ガッチリ科学技術で固めようって話になって、そしたらそっちのほうがむしろお金かかるってなってね?
いや、でもね!? 二人の学費、いっそ卒業分までもってお願いされちゃってね!? 決して僕の装備代だけでそんなにかかった訳じゃないんだよ!?」
居間でお茶を啜りながら煎餅をかじって待っていた悠馬に、金額を伝えたら苦笑された訳だけれど、仕方ないじゃない!!
結局、僕の装備は魔法なにそれ美味しいの? な感じになった。
まぁ、空想科学技術の結晶とも言える物になりかけたのだが、博士曰く「魔法なんぞ、我輩の科学技術の前では無力無力なのであぁぁぁっる!!」とのことなので逆に心配になったからちょっと自重した。
なにせ普通に考えれば素人があんまりぶっ飛んだ物装備すると余計に危ないので、まぁ本当に護身用でおさめることにしたのだ。途中から博士とエルザちゃんが暴走して紆余曲折あったので没になった物が大量にあったのだが、そっちは忘れることにする。
だって、擬似レムリアインパクト発生装置搭載パワーアームとか、海鳴市消し飛ぶっちゅう話だよ。マイクロブラックホールで対象を対消滅させるとか危険物以外の何物でもないでしょうが。
原作デモベで唯一再現出来なかったデモンベインの装備だったから、開発しまくって実現したらしいけど、誰もいらんがなって話だよ。下手したらそれ利用してタイムリープマシン作れちゃうよって話だよ。あ、ごめん。なんか色々混ざったね、話が。
え~っと、結局装備は五色ボールペン型の小型麻酔銃。普通の人間なら一瞬で昏倒させられるとか。発射方は緑色のペン出してる時に、赤、緑、赤、黒の順番でカチカチすると発射する。面倒だけど誤射が怖いのでまぁ良いだろう。
次に、デジタル腕時計型シールド。ヒヒイロカネ製。「防壁展開」の声紋認識で腕から外れ、厚さ2cmで周囲2m程度の広さにドーム状の装甲が展開されるので、護衛対象がいるのなら一緒に篭れるので便利とか。これは助かる。質量保存の法則とかは多分気にしてはいけない。
あと、30m程度まで伸びる艶消しされたアルミニウム鍍金鉄線が仕込まれたポーチ。任意のサイズで切り取ることが出来て、ポーチから伸びたままならボタン一つで一気に戻るらしい。これは単純に僕がトラップとか仕掛けるのに使えそうだから頼んだ。面白みが無いって文句言われたけど知ったこっちゃない。必要なのは実用性なのだ。
同じく30mまで伸びる、こちらは弾力性がえらいことになっているゴムの入ったポーチ。10tまでは急激な負荷でも耐えられるとか。
これも任意で切り取れるし、ボタン一つで戻るらしいので高いところからの飛び降りイベントとかが発生したら使おうと思う。これも面白くないって文句言われた。
そしてメインウェポンと言うにはおこがましいけど、お祭りとかで五百円くらいで売ってるような安っぽいエアガンを改造して32ACP弾(威力不足から軍ではもう使われていないらしいが、民間護身用拳銃の弾丸としては使われているとかいう銃弾)をピストン・プリンシプル弾(弾丸そのものに消音効果があるとか無いとかいう特殊構造の弾丸)に改造したとかいう物が発射できるようになっている拳銃。
材質は博士特性の超軽量高硬度プラスチックとやらになっているが、全体重量も1kg無いのでとりまわしやすい。
当たり所が相当悪く無い限りは、一発や二発じゃ人間は死なないっていう程度の威力の物だけど、僕の体格だとそれくらい反動の少ない物じゃないと扱いきれないので丁度良い。これなら見た目的にも持ち歩いていたって、僕の外見も相まって玩具にしか見えないだろう。
これまた面白みがないって文句言われたけど、僕の体格とかちゃんと考えてください。
後は防具だけど、防弾防刃対魔対衝撃手袋に、同じく防弾防刃対魔以下略ウィンドブレーカー。そして、非常に、非常に不本意なんだけど、防弾防刃以下略ニーソとスカート。
ジーンズにしてくれって何度も言ったんだけど、何故か二人ともそこだけは譲ってくれなかった。なんでだ……とりあえず、着用する時は上から緩めのジーパン穿いて誤魔化すことにする。
そして頭用装備として、防弾以下略バイク用ヘルメットに変形するヘアピンである。髪飾りよりはマシになったわけだが、それでも男の子がつけてるのってどうだろうか……。
ちなみにヘアピンヘルメットの材質はヒヒイロカネ。他のもヒヒイロカネを繊維状にしたものとかで、重いと思いきやサイズ調整してない見本を博士が数分で作って着せてくれたのだが、ぶかぶかサイズでも意外に普通の服と重さは変わらなかった。
ヒヒイロカネすげぇ。……でも原価の大半はコレのせいなのだが、まぁ伝説の材質であることを考えたらむしろ安すぎるくらいではある。
あるのだが、そもそもヒヒイロカネなんて伝説上の素材どっから仕入れたと訊いたら、二人して吹けてない口笛で誤魔化していた。多分、アレは訊いても答えてくれそうにない。
防御に関しては、とりあえずこれで「戦車砲くらいなら、吹っ飛ばされるけど多少痛い程度で済むのである。魔法は金髪娘のフォトンランサーとか言うのくらいであれば蚊に刺された程度にしか感じない筈なのである」とのことなので、信じよう。
……博士のことだから、どっかでポカしてないか不安だけど。
あとは今朝方もらった装備もあるし、戦闘が予測される時はそれ装備しろと言われた。
ちなみにマジカルステッキは、昨日まで着てた甘ロリに若干ピンク混ぜて手袋やらスカートふりふりがついた姿に変身して、髪の毛がピンク色に変わって赤いリボンで短めなツインテになるらしい。それらもさきほど挙げ防弾防刃対魔対衝撃性の素材らしい。
そして肝心な点なのだが、魔法を使えるデバイスとしての機能は無い。
弓とか似合うと思うので欲しければ作るのである、とか言われたけれども丁重にことわっておいた。
……クソ使えねぇ!! 事前に聴いておいてよかった!! 完全にパーティーグッズじゃねぇか!!
ごほん。まぁ、とりあえずそう言うわけで僕の装備は出来上がった訳である。いや、正確には今日中に出来上がるから待てって言われたんだけど。
しかしまぁ、魔法の物語のはずなのに見事なまでに魔法関係ない装備である。とんでも科学の産物ではあるが。
でも下手に魔法系の装備なんか持ってたら目をつけられる可能性あるしコレでいいや。うん。
「おい、何ボサっとしてんだ。んじゃ五百万、ここ置いとくからな」
とかなんとか長々と回想してたら、悠馬が王の財宝庫からにょきっと札束取り出して投げ渡してきた。
「おぉう!? そんなポンっと出せるの!?」
「いや、何千万でも数十億でも構わねぇっつったろうが。なんならもう少しいるか?」
「これ以上もらったらなんか邪(よこしま)な心が出てきちゃうからいいです!!」
既に、ちょっとこの札束でぺちぺちしてほしくなってるから僕!!
「……なんつうか、本当小市民だなテメェ。いや、良いけどよ。んじゃあ、とにかく頼んだ。あと、コレが俺を呼び出すための宝具だ。必要になったらボタン押せ。コレの位置座標を元に俺が転移できるようになるから、こっちが戦闘中とかで無ければ一瞬で駆けつけてやる。それと……なんつうか、まぁ、一応、念のためにコレも持っておけ」
「なんぞこれ?」
ガラスの球体みたいなのに刃がついてるけど、どっかで見たような。
「フラガラックの原典だ。何個かあるから三つほどやるよ。万が一宝具持ち転生者が向こうについてたら、それで対応しろ。真名は原作通りだから、間違って何もない時に発動したりするなよ?」
「おぉう、これがフラガラック!!」
原作よりも若干地味なデザインだからパッと見で分からんかった!!
「……なんか、随分丸くなったね、悠馬」
「あん? ……まぁ、こっちも少しは心にゆとりが出来たっつうか……そういう訳だからな」
「その結果が分かっててもかい?」
「分かってるからだよ。それに……俺はてめぇと違ってとっくに覚悟決めてるからな」
「僕だって覚悟くらい決めてるさ」
「出来てねぇから能力が半端なんだろうが」
おうおう、二人ともなんか主人公な会話してるね。
ま、なんでも良いや。とりあえずコレで最強お助けユニット召喚が出来ることになった訳だし、防具もいい物が出来上がるわけだし、怪異相手なら篭手で殴れば良いし、人間相手なら麻酔銃と拳銃でどうにかなるし、いや~、これで僕の物語は実に安定するね!!
……するよね? 大丈夫だよね?
やっぱりレムリアインパクトパワーアーム作ってもらえばよかったかな。チート装備あったほうがいいのかな。いやでも、間違いなく自分巻き込まれて死ぬパターンが頭に浮かぶし、やっぱいらん。
え? ショゴスを使い魔として戦わせろって? なに、本気で言ってんの? あんな愛らしい存在を戦わせようだなんて酷いじゃないか!! だってにゃんことかいろんな生物になれるんだよ!? もふんもふん天国し放題なんだよ!?
いやまぁ、それはともかくとして、なんていうか、なのはちゃんの格好してるところも見ちゃったし、戦わせて傷つくところ見たくないのよね。そりゃあ確かに僕なんかよりも何十倍。何百倍も強いのは間違いないんだろうけどさ。
それでも、女の子に戦わせて自分は後ろで見てるだけって本当に辛いんだよ。本当はなのはちゃん達が戦うのだってやめてほしいくらいだしね、僕。皆戦いなんかしないで、平和に暮らせたら一番じゃない。
これからはなし崩し的に戦わざるをえないような場面が出てくると思うけどさ。僕はどこまでいっても、平和主義のモブなんだよね。
クラスメイトMとか、運動会イベントとかで声援の声だけ入ってるような存在で良いよ。
そういうわけで、ショゴスに戦闘させるのは、最後の手段としたい。
いや、ケイネス先生の月霊髄液<ヴォールメン・ハイドラグラム>ごっこにはちょっと憧れるんだけどさ。防具も問題なく手に入ることになったことだから、最後の手段のままにしておきたい。大事な家族を盾に使うとかアホかと言いたいからね。
「んじゃあ話も終わったし、俺は帰るわ」
「……バイバイ」
「おう、またな」
「あ、帰る? 今日はありがとね、悠馬くん。見送るよ」
「礼を言うのはこっちだ。まぁなんだ……ありがとよ」
うん、きっと大丈夫だ!! 多分!!
あとこの五百万、悠馬くん見送り次第、早いところ博士達に渡してこよう……こんな大金持ってるとなんかそわそわするよ。落ち着かない。
EX編21話は、当時いただいたイラスト掲載用の話だったため、ご本人確認が出来ていないので休載といたします。ご容赦くださいませませ。