転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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36.愛する者と忠告

 視界に色が戻ってくる。

 見えたのは、久々に感じる住宅街の色の薄くなった光景。……尤も、見事なまでに住宅の殆どが木っ端微塵に破壊されているが。そこら中に血と肉片が散らばっていてグロいことこの上ないが、今更嫌悪感なんて抱きようもない。

見える光景は、全部が偽者なのだから。

 

「佐藤殿!!」

「エルザ!!」

「「フェイト!!」」

「あら、自力で戻ってきた? というよりは、この濃厚な魔の匂い……怪異と取引でもしたのかしら」

 

 僕、エルザちゃん、フェイトちゃんが現れたことで、今まさにおっさんだった者に襲いかかろうとしていた皆がこっちを向いた。

 おっさんは、足がヤギのものになり、頭には角が生えて、ヅラが無くなってハゲが見えになっている。あ~、そういえばテュロスって歳をとるとハゲるって話だったもんな。ヅラなのはそれが原因とか、誰がわかったよ、そんな伏線。

 

 既におっさんの右足は膝から下が骨が見えるほどの裂傷を負っている。右腕は炭化していて真っ黒。頭は血がダラダラ出ていて顔は真っ赤。その上血走って真っ赤になった目は、気持ち悪いの一言に尽きる。

 異形の姿も相まって、その姿はきっと、嫌悪感しか引き起こさないものだ。誰が見ても、おっさんは存在してはいけない絶対悪なる存在であると、そう断定するだろう。

 

 でも、おっさん何も悪いことしてないんだよ。皆、この事件の被害者、このおっさんだけだから。

 てくてくと、無防備におっさんに向けて歩き出す。幸い、距離は近い。

 

「ごめん皆、このおじさん、ただの被害者だから攻撃中止して」

「「「はぁ!?」」」

 

 皆の驚く声が聴こえてくるけれど、気にしない。

 なんかフェイトちゃんも僕が何を言ってるのか分からないといった表情してるけど、しったこっちゃない。エルザちゃんだけは笑ってこっちを見てるから、わかってくれてるみたいだね。

 

「裕子チャン? お家デマッテて? 私モすグ迎えニイクからネ?」

「おじさん。名前も知らないおじさん。迎えに来たのは僕の方だよ」

「っ、何してやがんだあのモブ!!」

「バカかい!? 自分からなんで近づいてるのさ!!」

「佐藤殿!! お戻りくだされ!!」

「何か、考えでもあるんじゃない? 見届けて駄目そうだったら諸共やっちゃいましょうよ、もう」

「であるな。とりあえず全員、攻撃はいつでも出来るようにしつつ、待機なのである」

 

 恵理那ちゃん過激だねぇ。博士もわざわざ待っててくれるなんて、ありがとね。

 

「裕子チャん?」

「おじさん、かがんで? 抱きしめられないから」

「「「「はぁ!?」」」」

 

 なんか叫ぶ声が一個増えた気がするけど気にしない。

 

 戦闘能力皆無、チート能力何も無しで、それでも幸福を与えられるという僕に出来ることなんて、せいぜい身体を張って、相手を癒すことくらいなのだから。

 僕が戦うとでも思った? バカ言っちゃいけないよ。少なくとも、今の僕は戦闘要員なんかじゃない。だったら、自分の出来ることだけをする。

 

 言ったでしょ? モブはモブらしく、主人公達の思惑なんて無視して僕の生き様見せてやるって。

 

 僕の理念は努力には報いを。悲劇には救いを。愛しい者には幸福を。そして、絶対悪には悪辣なる報復を。思考は正統派。自己中心的な正義感で動くだけのただのガキンチョ。勧善懲悪どんと来い。但し向こうに事情があれば、情状酌量の余地ありけり、ってところだ。

 

 その、情状酌量の余地が、ちょっと行き過ぎているっては、よく言われるけどね。本当に許せない相手なら、そんなもん関係ないけどさ。

 そして、素直にかがんでくれたおっさん……おじさんに、僕はそっと抱きついた。頭を抱きしめるようにして、そっと頭を撫でながら。

 

「……おじさんは、騙されていただけ。何も悪くなんかない。大丈夫。僕はわかっているから」

「ソウ……私はダマされタ……ダカラ報いヲ……」

「ううん、駄目だよ。だって、おじさんは陽子さんのこと、本気で好きだったんでしょ? 愛してたんでしょ?」

 

 そっと、頭を撫でていた手で、自分の右足の聖骸布の結び目を外す。

 

「ッ、あのバカ、聖骸布外してどうすんのよ!!」

「黙ってみているのである」

 

 ありがとう、恵理那ちゃん、心配してくれて。

 ありがとう、博士、信じてくれて。

 

 ガリガリと精神が削らレテイク。

 憎悪。苦痛。破壊衝動。何モカモが、憎くナル。

 

 だから、ドウシタ?

 

「今の僕は、おじさんの身体の一部が入ってる。だから、どれだけ憎くて、どれダケ苦しクテ、どれだけ悲シイのか、わかる」

 

 このおじさんは、僕が今味わってイル、今まで味わってキテいる、こんな感情を、ずっと耐えていたノタ。

 狂気に満チルのも当たり前ダ。

 

「でもネ、違うでしょ?」

 

 そう、違う。そんなのは、間違っテル。

 耐えるなら、耐え続けなければイケナカッタ。吐き出すナラ、壊れてシマウ前に、すべきダッタ。

 ソシテ、愛したのならば、最後マデ、その愛を貫きトオスべきダッタ。

 

「一緒にイタ時間は、コンナニ嬉しかったンでしょ? 楽しカッタんでしょ?」

 

 その、苦しみの奥にアル、狂おしいマデの彼の愛が、伝わってくる。

 それは、とても苦しくて、胸を焦がスケレド、でも、その時の彼は、確かにワラッテいたのだ。

 

 例え、相手がナイアルラトホテップで、彼を騙すためダケに彼と愛しアッテいたのだとしテモ。

 

 その時、彼が抱いてイタ愛は、自己犠牲の心ハ、紛れも無く、本物だったノダ。

 

「好きだったのなら、愛していたのナラ、その時の自分を、憎ンジャ駄目だよ」

 

 彼の憎悪は、本当は、陽子さんトいう女性に向けられた物ではない。

 彼女を憎んでいる、恨んでイル。それは確かダケレド、彼が本当に憎んでいるノハ、愚かでアッタと思う、昔の自分。彼女と愛を紡ぎ合っていた頃の、愚直なマデの自分。

 

 ダカラ、自分を捨てた。ダカラ、ナイアの甘言で、自分の心を捨てて、狂気に身を任せた。

 

「人を愛するノッテ、とっても苦しくて、とっても嬉しくて、とっても難シイけれど」

 

 それでも、彼女を愛した日々を忘れられナクテ、彼女の姿を探しツヅケタ。

 ダゴンの召喚よりも、彼女に固執シタ。

 

 そして、私を……彼女の娘と、勘違いして、何も酷いことを、シナカッタ。

 だから貴方は……私に命令をした時ニ、涙ヲ零してイタ。

 

「あの時の貴方は、とても美しくて、とても輝いてイテ、とても素敵デシタ」

 

 彼女と彼が愛し合うその光景は、実際に見たわけではない。でも、右足の彼の断片から、私に記憶と感情が流レテくる。

 理解してあげようとしてあげなかったから、アンナに僕は、私は、苦しくなっテイタだけ。

 

 神格クラスの呪い? そんな大層な物じゃない。コレは、彼トイウ人間の、悲しくも美しい、愛の記憶。狂気に犯され、ただ少し歪んデしまったダケノ、哀れな男性の、心。

 

 意識が、混濁していく。

 意識が、クリアになっていく。

 相反する不思議な状態に、けれど僕の、私の心はとても穏やかになる。

 

 犯セ。犯したかったのは、自分自身の、愚直な心。

 殺セ。殺したかったのは、自分自身の、傷ついた心。

 捧ゲロ。全てを捧げて、自分自身の苦しさを捨てたかっただけ。

 

「違ウ。私ハ――」

「僕は……私は、そんな優しい貴方が、とても素敵に見えました。何よりも彼女を愛して、自分のことも省みず、愛に生きる貴方は、とても素敵でした。痛々しくて、見ていられないくらい愚かしいほどに愚直だったかもしれません。

 でも、私ハ、そんな貴方のほうが、きっと素敵だと思います」

 

 身も心もボロボロの今だカラ、私を別人と勘違いしているのを利用するようだけれど、私ハ、貴方を救いたい。

 

「貴方が犯したと思ってイル罪は、存在シマセン。

 貴方が殺したト思っている人間は、存在しまセん。

 貴方が嫌っていた貴方は、それでもそこニいます。

 貴方がどんなに拒んでも、貴方の優しさは、ここにあります」

 

「裕――」

「私は、あの愛を貫いた貴方が大好きです。全ての破滅を望んでも、狂気に犯されても、それでも彼女を忘れられないくらいに愛していた貴方が、とても愛おしいと思います」

 

 だって、悲しいじゃない。一心不乱に人を愛したのに、そこに邪気は無く、ただひたすらに、自身の何もかもを捧げていたっていうのに、そんな優しい人を、否定しちゃ、可哀想じゃない。

 

 私は、幸福の王子様は、大好きなんだから。

 

「貴方は幸福の王子様の話は嫌いみたいだけれど、私は大好きです。王子様は、決して報われなかった訳じゃありません。

 確かに王子様は、自分が愛した人達に見向きもされずに、死んでしまいました。

 確かにツバメさんは、自身のあるべき筈であった、旅の生活を奪われて、最後には報われぬ愛を抱いて、死にました。

 

 でも、王子様は、自分を本当に愛してくれる存在を、最後に得ることができました。

 ツバメさんは、人々の笑顔を見ることで幸福を感じ、そして愛する人には、死の間際には、受け入れてもらえました」

「あ……」

 

 抱きしめていた腕を緩めて、そっと身を離す。抱きしめた時から、身体から少しずつ力が抜けていく感覚があったけれど、私の知ったことではない。

 頬を掴んで、顔を向かい合わせる。

 彼の目からは、ボロボロ涙がこぼれていた。

 

「恋人にはなれません。貴方だけを愛することもできません。だけど、私は貴方を、愛したいと思います。貴方にとっての、ツバメになりたいと思います」

 

 だから、どうか泣き止んで。

 だから、どうかもう自分を憎まないで。

 貴方はただ、純真なる愛を持つ、優しい人。

 貴方はただ、愛されたかっただけなのだから。

 

「私は全てを愛する者<イクォ・オブ・ラブ>」

 

 嫌悪なんて感じない。

 汚らしいなんて思わない。

 だってこんなに、貴方の心は綺麗なのだから。

 

 私はそっと、彼へと口付けをした。

 

 

 

 

 自分の中の、何かが欠けた気がした。

 それが何かは分からない。だから僕の知ったことではない。

 

 気がついたら自分の家で、刹那が僕を膝枕したまま、船をこいでいるのが目に入った。

 僕のお腹の上にはアインが、そして何故かなのはちゃんも僕の腹を枕にすやすやと寝ている。

 

「帰って……きたんだ」

 

 ポツリと呟く。

 記憶がどこか曖昧だ。

 どこからどこまで覚えている?

 ナイアルラトホテップが現れたのは、覚えている。とんだ迷惑邪神が来たものだと思うが、まぁ、それは良い。良くないが、まぁ良い。アレは人間がどうこうできるレベルの存在じゃないし、何より、多分、あいつは本物じゃない。

 

 いや、本物じゃないというのは語弊があるか。“限りなく本物に近い偽者”と言ったところだろう。少なくとも、万能の神のような存在ではない筈だ。

 

 なんで分かるのか、と言われたら僕も答えられないのだが、会って分かった、としか言いようが無い。直感というほどのものでもない。そもそも邪神相手にまともな会話が成立していたこと自体がおかしいし、まわりくどいことをしてまで作った悲劇の種を、あっさり潰されてしまったというのに何も報復すらしてきていないのだから。

 アレは、他人の不幸を嘲笑う邪悪なる存在であるが、あいつは一人では邪神らしい大災害なんて起こせないし、人間一人殺すことすら出来ない。他人を利用し、他人の願いを利用することでしか、何も成す事の出来ない半端者だ。

 それでも、人間がどうにか出来る存在ではないのが確かなんだろうが。

 

 ……ふむ、しかし半端者か。僕がそうだからこそ、分かるのだろうか?

 

 まぁとにかく、百害どころか千害、いや、億害はあるような存在だが、僕を観察して楽しみたいっていうなら、こっちだって充分に利用させてもらおうじゃないか。

 

「……ん? あ、義嗣、起きたのかい?」

「あ、あぁうん。おはよう、でいいのかな、刹那」

「あ~……外、ようやく明るくなってきてるところだから、一応はおはようで合ってるね」

 

 ……んむ? ようやく明るくって、アレ? そういえばあの洞窟で相当時間くってた筈なのに、もしかして一日あの洞窟で過ごしてたのか?

 

 いや、それならあの場面で間に合うはずが無い。時間軸がずれてたとかそういうご都合主義か? まぁ、ナイアルラトホテップが出てきた時点で、何でもアリな訳だが……。

 

 ん――あの場面?

 

 うん? あの場面ってなんぞ?

 

「ねぇ刹那?」

「なんだい?」

「僕、こっちに戻ってきてから何した?」

「……覚えてないのかい?」

「うん。なんとなく……あのおじさんを助けようとしたのは覚えてるんだけど。あ、おじさん大丈夫?」

「うん、助かったよ、あのおじさんは。義嗣の右足も、元に戻ったみたいだし」

「そっか」

 

 それは何よりだよ。あんだけ啖呵きっておいて失敗とか、いくら僕が主人公じゃないとはいっても恥ずかしいことこの上ないからね。

 

「ふふ……でも、君にもやっぱりちゃんと能力があったんだなって分かったよ」

「そうなんだ? どんな感じ?」

「イクォ・オブ・ラブだったかな。直訳で平等な愛? いや、Equal love か、その場合は。まぁとりあえずそんな感じの名前みたいだね。効果はよくわからないけど、癒し効果的なものじゃないかな」

「うわ~、なんかヒロインチックな能力だな……」

「良いじゃないか。愛を振りまくヒーローだって」

「それで誰も守れなかったら意味が無いけどね」

「守れたじゃないか、あのおじさんを」

「まぁそれはそうなんだけど……」

 

 男の子としては、戦える能力も欲しいのですよ?

 

「え~っと、どんな感じだった? それ見てて」

「おじさんにキスした義嗣と、おじさんが淡く光ってた。見た目的な効果はそれだけだったね」

「……え、僕、え? おじさんとキスしたの!?」

 

 何それちょっと初耳なんですけど!? どうしてそうなった!?

 

「うん。まぁなんていうか、深い奴じゃなかったから安心していいと思うよ」

「安心できないよ!? え、なに、キスって、え、僕からしたの!?」

「うん。聖母のような笑顔で」

「何をしとるとですか僕はぁぁぁぁ!!」

 

 頭を抱えてのたうち回る僕。刹那の膝枕は恋しいけれど、今はのたうちまわるのが優先です!! アインとなのはちゃん……いや、ショゴスだな、多分。ごめんね!! 僕のお腹枕は今度にしてください!!

 

「にゃ~……?」

「てけり・り?」

 

 うおぉぉぉぉぉ!! 訊くんじゃなかった!! きっと黒歴史だと認定して、自ら記憶に蓋をしていたに違いない!! 何かが欠けた気がしたのは、僕の貞操観念とかだったのかな!? そこは欠けちゃいけないと思うな僕!! 知ったこっちゃあったね!! がっでむ!!

 おっさん助けられたのは良かったけど、なんでそうなったのさああぁぁぁ!!

 あ、そうだ。エルザちゃんとのキスを思い出そう。口移しを思い出そう。

 

 ……ふぅ。良かった、おっさんとキスするヴィジョンが残ってないから、落ち着けた。

 

「って、そうだ。フェイトちゃん達とエルザちゃんと博士と恵理那ちゃんは?」

「あぁ、フェイトちゃん達ならもう行ったよ。ジュエルシードを回収してすぐに。

 恵理那ちゃんも怪異解決したから帰るって言ってあっさり帰ったし、博士達だけは地下に作っていたという研究所にこもってるよ。

 今回君たちがもぐってた洞窟みたいなところでとってきた変な物質の成分調査するんだって。あ、それと義嗣が頼んだんでしょ? エルザちゃんがついさっき、君用の武器持ってきたよ」

 

 そっか。フェイトちゃんとバルディッシュにもお別れ言いたかったし、恵理那ちゃんにもお礼言っておきたかったんだけど、まぁ次会う機会があったら、言う事にしよう。

 何はともあれ。

 

「武器!! 専用武器きた!! これで勝つる!!」

 

 ヒャッホー!! 一気に元気になったよ!! いいね!! 専用って良い響きだよね!!

 

「まず、このマジカルステッキだね」

「完全に外見が女児向けの玩具じゃないかぁぁぁぁ!!」

 

 いきなり出オチだよぉぉぉぉ!! 僕の上がったテンション返せよぉぉぉぉ!!

 外見だけ見ると、カレイドステッキに似てるよぉぉ!!

 

「うん、可愛らしくていいじゃないか」

「僕は男の子だってことにそろそろ刹那は気付くべきだよ!! もっとこう、剣とか銃とかの外見が良いよ!!」

「あぁ、ちゃんと銃もあるよ。はい、トカレフ」

「ガチの銃じゃないかぁぁぁ!! 銃刀法違反にも程があるよおおおお!! 博士どっからこんなもんパクってきたぁぁぁぁ!!」

 

 しかもトカレフって完全にヤの付く方々ご用達品じゃないか!!

 

「大丈夫だよ義嗣、これ中国製じゃなくてロシア製だから精度は良いよ」

「精度の問題じゃないよ!! ガチの実銃だという点が問題なんだよ!! そしてどうせならトカレフよりもミネベアM9あたりが良いよ!!」

 

 僕は外国産よりも国産派なんだよ!! チェコ製のスコーピオン(マシンピストル。拳銃サイズのサブマシンガンと考えてもらえば早い)なら認めるけど!!

 

「ふむ……なるほど。後はじゃあ、この騎士甲冑の篭手みたいな奴だね」

「おぉ、ようやくまともそうな装備が!! 効果は!?」

「これを装備して殴ると、像でも一撃死の電撃が相手に流れるそうだよ」

「そこは一撃で昏倒とかで良いよ!? なんで象さん殺そうとしてるの!?」

 

 どうしてそう極端な装備しか作れないの博士!? って、博士なんだからそうだよね!? 伊達にマッドサイエンティストじゃなかったね!! こういうところだけ原作準拠しなくていいからね!?

 

「てけりり?」

「にゃ~?」

「うん、ごめんね二人とも。ちょっと待ってね、今の僕とても混乱してるから。あとショゴスはそろそろなのはちゃんの姿やめて? 色々問題があるから、できれば猫の姿とかにして?」

「てけりりぃ……」

「いや、嫌いとかじゃなくて、単純にその姿ってなのはちゃんだから、なのはちゃんの知り合いとかが見たら混乱しちゃうし、やっぱり同じ外見の人がいるってなったらなのはちゃんも困るだろうから」

「てけりり」

「うん、分かってくれたようで何より」

「えっと……義嗣、言葉わかるの?」

「いや、アインと同じで、表情とか仕草である程度は分かるよ。伝えたいことが完全に分かるわけじゃないけど」

「そ、そうなんだ……」

 

 洞窟では殆ど理解できなくてごめんねショゴス。まぁ、今回の事件で家族が一人増えたから、それは僕にとって何よりのご褒美かもしれん。そういう意味では、今回巻き込まれて良かった良かった。ハッハッハッ。

 ……そう思わないとやってられんよ。全く。

 

 とりあえず、トカレフも篭手も、もらうだけもらっておこう。マジカルステッキも、あとで効果訊いて使えそうなら、意地を張らないでもらっておこう。

 

 これからは、最低限の自衛手段が無いと、ガチで死ねそうだしね……。

 

「いつもニコニコ貴方の影に、前後左右正面背後、関係なくなく這い寄る混沌、ニャル子さん参上だよ」

「うわっ!?」

「にゃあっ!?」

「てけりりっ!?」

「あ~はいはい。なんだいニャル子さんや」

 

 ぞぶりとか効果音無しに、いきなり背後から抱きつくのやめてくれんかね。若干心臓に悪いから。見なさい僕以外の三人を。思わず跳び退ったから。僕を置いて。

 ちなみにまたもや僕の頭の上にふにょんふにょんな物が二つ乗ってます。邪神ぇ……。

 

「驚かないんだね。せっかくサプライズを狙ったのに」

「いや、驚いたけども。で、何?」

「いやね、なんだか忘れてるみたいだから言わないといけないと思って。サービスで伝えてあげようと思うんだけど、聴きたい?」

「うん。なんぞ?」

「ダゴン、このままだと出てくるからね?」

「……は?」

 

 なんで?

 

「いや、おじさんもう大丈夫なんでしょ?」

「別に彼が生贄に捧げないといけないって訳じゃないよ。充分な魔力を持っていて、ダゴンに見入られていて、ジュエルシードがあれば条件は揃う。大ヒントだ」

「……えぇっと……?」

「義嗣……その人ってもしかして……ニャルラトホテプ……?」

「あぁ、これはこれはこんにちわ、いや、おはよう、佐々木刹那くん。お元気かい?」

「……本当に邪神がいるなんてね。本当どうなってるんだいこの世界は……」

 

 刹那、頭抱えたくなる気持ちは分かるよ。僕はもう諦めたけど。

 

「……言っておくけど、僕は君の甘言には乗らないからね、ニャルラトホテプ」

 

 あ~、自分からつっかかっちゃ駄目よ刹那。

 

「うん? いや、君はあっさり乗るだろうけど、君みたいに精神的に脆弱すぎるのを壊しても面白くないから、別に興味無いよ」

「言ってくれるね?」

「強がるのは良いんだけどさ」

 

 頭の上の二つの重しが無くなった。

 

「――ッ!?」

「ほら、ただこの姿を見るだけで、そんなに萎縮する。そんなに怖いのかい? もう報復は済ませてるんだろうに」

「ごめんニャル子さんや、うちの刹那いじめるのやめてくんないかな。どんな姿してるのか知らんけども」

「ごめんごめん。嫉妬したかい? 義嗣くん」

「それは無い」

 

 あと、僕に男の姿で抱きついたままなんかイケボ(イケメンなボイスの略)で囁くのやめてくれんかね。気色悪い。

 

「あはは、じゃあまたさっきの姿に戻るよ。君も好きみたいだしね?」

「いや、単純にデモベで慣れ親しんでたから、その姿の方が見てて落ち着くってだけ」

 

 一応、嫌いなキャラじゃなかったしね。本当に存在されたら絶対関わりたくない人物だけど。

 

「どうして……」

「どうして知ってるのかって? 僕これでも一応邪神なんだけど。人間のトラウマの一つや二つ分からないと思うの?」

「ニャル子さん。次刹那いじめたら暫く無視するよ」

「おや、それは困る。割と君との会話は楽しいんだ。それじゃあこれ以上いじめないうちに僕は退散することにするよ」

「うん、できればあんま会いたく無いけど、またね」

「おやおや、嫌われてるのやら、ツンデレさんなのやら。……なんにしても、またねって言ってくれるのなら、最後に一つだけ、我が愛しの義嗣くんに忠告をしておいてあげよう」

「一応聴いておいてあげよう」

「君、これ以上他人と関わるのをやめた方が良いよ。じゃないとどんどん不幸になる」

 

 忠告はしたからね?

 

 そう言い残して、ナイアルラトホテップは姿を消した。

 

 ……全く、面倒事は無くなってはくれないらしい。

 平和な日々よ、早く来い、ってね。




 スーパーヒーロータイムだと思った? 残念、スーパーヒロインタイムでした!

 尚、今回出た装備品関係は、改訂前の作品掲載時にアンケートをとって出た皆さんのアイディアを適当に(!?)くっつけて出来た品達の第一弾です。

 装備は出来ても、無双は今後も起きることはありません。だって義嗣ですもの……!!

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