転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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35.脱出と不定形

 喉はカラカラ。お腹はペコペコ。それな~んだ。

 正解は、今の僕です。

 

 どれだけ経ったかもう分からないけれども、壁の掘削はあまり順調とは言えなかった。

 

 起動キーを教えてもらい、バリアジャケットは魔力の無駄なので(使ってみたいけど)いらないと言ったが、壁を壊すごとに出てくる粉塵とかを甘く見ていると身体を壊す。バリアジャケットで口や鼻を覆う物を出せば防げるから着ていないとマズイと言われたために、とりあえず仮として自衛隊の迷彩服っぽいのと、口と鼻を覆うためのストール(いわゆるアフガンマフラー)をお願いしておいた。

 イメージ力不足でただの迷彩仕様のツナギになっちゃったけど。ストールはちゃんと出たから良いとしよう。

 なんか、せっかく変身したのに“土方の現場に何か勘違いして勢い込んでやってきたガキンチョ”っぽい格好のせいで感動が欠片も無いけど、まぁ良いとしよう。

 

 ちなみにこの服(迷彩服)の理由だけど、なんかこういう作業って自衛隊がやるイメージがあったもんでついついチョイスしてしまった。

 僕が迷彩服とか好きってのもあるんだけど。他に咄嗟に思いついたのがフェイトちゃんとなのはちゃんのバリアジャケットだったもんで、ペアルックはまずかろうという思いがあったのだ。

 

 そもそもなのはちゃんはスカートだし、フェイトちゃんはふともも丸見えで完全にセクシー系な女性用装備だし。

 

 真っ赤な西洋鎧とか、或いは真っ赤な和式甲冑でも良いんだけど(僕は赤が好きなのだ)、土木作業には似合わないし、何より細部を想像するのは難しいので、迷彩服でよかったのだ。ツナギになっちゃったけど、そうなのだ。ツナギになっちゃったけど、本当は鎧を着たかったなんて思ってないんだからね!!

 

 で、まぁそれはともかく、最初はサイズフォームでザクザク掘ろうとしたんだけど、なんか魔力自体はそこそこあるらしいんだけど僕から一度に放出出来る魔力が少ないらしくて、フェイトちゃんの魔力刃の半分どころか三分の一くらいしか出なくて、それで掘ったらバルディッシュ本体も壁にぶつかって痛そうなため、ピッケルっぽい形状の少し傾斜のついた棒状で細くて長い魔力刃を形成してもらった結果、サイズフォームというよりピッケルフォームになってしまった。

 いや、バルディッシュのサイズ的にツルハシ……英語でなんだっけ。マトック? マトックフォームといったところだろうか。

 まぁ、なんにしてもダサいことこの上ない名称である。

 

 でもまぁ、穴堀りにはこっちの方が最適だし、良いよね、と思ってそのまま掘り始めたのだが、岩盤は当然ながら硬い。流石にこっちも魔法で出来た刃だけあって一回である程度は刺さるんだけど、刺さりはしても全然崩れなくて、作業に慣れるまでかなり大変であるというのが判明した次第だ。

 

 かれこれ何十分掘ったかも分からないけど、一番掘れているところで僕の頭が入るか入らないか程度のサイズの穴が20cmほどいってれば良い方だろう。人一人が通れるだけのサイズの穴で4m掘るのはかなりキツい。これがせめて土であれば違ったのだろうが、ここは完全に岩盤なのだ。

 いや、でもだからこそ掘ったところに上から土が落ちてきて埋まってしまうなんてことがないから、逆に良かったのか?

 

 まぁ、なんにしても。

 

「バルディッシュ、穴掘り道具なんかにしてごめんね?」

『No problem. Your heart is very warm.

Being used by you is very pleasant』

 

 バルディッシュに謝ったら、そう返答された。

 

 なんて言ってるのか訳ワカメだったが、ハートがベリーウォームってことは心が温かい? アレかな。「戦闘以外をするのもたまには良いよね~」とか「フェイトちゃんのために働いているのだから問題ないぜ。俺はフェイトちゃんのために働くと心が温かくなるんだ!!」みたいなこと言ってるのかな?

 

「バルディッシュがあんなことを言うなんて……」

「まぁ確かに、義嗣の近くにいるとなんか落ち着くんだロボ。家で一緒にベタベタしてる時なんか最高に幸せな気分になるロボ」

 

 おう? なんかよくわからんけど褒められてるぞ。頑張ろう。

 

「フェイトちゃ~んのた~めな~らえ~んや~こら~♪ エルザちゃ~んのた~めな~らえ~んや~こら~♪」

『A hole can be dug♪ That can be dug♪ It can tunnel♪

「バルディッシュが唄ってる……」

 

 おうおう、ノリが良いではないかバルさんや。

 

「義嗣頑張るロボ~。ん~……ぺっぺっ。うぇ~、やっぱりこの液体と肉は摂取したらまずいロボね。味も成分も」

「いや、それならなんで食べてるのエルザさん……というかよく食べれるね……」

 

 とかなんとかやっていたら、エルザちゃんが何やらぐつぐつと鍋で煮られていた蛍光色の汁と、薪になっている肉をどこからとも無く取り出したおわんとお箸で食べていた。何してんの。

 

「体力的に何か食べたり飲んだりしないと二人はそろそろまずいロボ。だから毒見ロボ。幸い、エルザは食事として取り込まなければ多少は体内に毒物入っても問題無いロボ。ん~……エルザに毒素抽出機能とかあれば食べられるように出来たのに、勿体無いロボ」

「「いや、例え毒がなくてもそれはいらない」」

 

 さっきからエルザちゃんが鍋の近くにいるなと思ったら見事に怖い物知らずな真似である。本当そういうのやめなよ、ばっちぃから。

 しかし、あのお肉は本気で食いたくないけど、お腹が減っているのは事実。喉もカラカラである。ぶっちゃけ、気を紛らわせるために唄うのも喉が張り付いて辛いんだけど、何も言わないで掘ってるのは苦痛なのだ。

 う~、スポーツドリンク飲みたい。ただの水でも良い。ご飯が食べたい。真っ白いごはんに刹那の作った甘い卵焼き。最近作ってなかったし、ポテトステーキもありだ。あ、でも博士のリクエストで作ったカレーがまだ残ってるからそれ先に片付けないといけないか。

 

 ……お腹減った。

 

「あ、ちょっと戻って深き者共の肉が食べれるか試してみるロボ」

「「いや、本当にいらないから」」

 

 エルザちゃん。君ちょっとグロ耐性高いってレベルじゃないよ。いくら魚っぽいっていっても見た目人間っぽいアレの肉食いたいとは思えんよ。例え毒が無くて美味しかったとしても、SAN値ガリガリ削られるよ。

 

「む~、でも二人のバイタルデータ見た限りでは水分もカロリーもかなりまずいところロボ。義嗣、さっきから自分がふらついてるの気付いてるロボ?」

「う……まぁ、若干は。いや、でも大丈夫だよ? 唄う元気もあるし」

「唄う元気無くなると同時にぶっ倒れるロボ、それは。フェイトちゃんも今は休憩してるから良いけど、最近ご飯ちゃんと食べてるロボ? 元々お腹に入ってた栄養物が足りないせいか、神酒で回復した割にちょっと体力の低下が激しいロボ」

 

 他人のバイタルデータまで見て分かるとか、エルザちゃんどんだけハイスペックなんだ。

 

「……私は、大丈夫。それよりも彼……義嗣くん……大丈夫なの?」

「いやさ、深き者共に襲われる心配をしていなくていい分、精神的には楽だし問題ないよ」

 

 身体の方はさっきから視界がホワイトアウトしたり、心臓がバクバクいってたり、呼吸が荒かったりで大変なんだけどね。呪いくらってた時の苦痛に比べたら可愛いもんだよ。

 

「義嗣、強がってもいいこと無いロボ。そろそろ休憩するロボ」

「いや、でもやっとコツ掴めてきたから」

『Let's rest

「バルディッシュも休憩を提案してるロボ」

「うぐぅ……相棒、僕の強がりを応援してくれよぅ」

『It is impossible consultation』

「なんか最初の休憩した時のフェイトちゃんそっくりロボね」

「いや、僕はフェイトちゃんほど無理してないから」

「むっ、私もそんなに無理した覚えは無い。全然余裕だった」

「あ、じゃあ僕も今全然余裕だからいけるいける。ね? バルディッシュ?」

『You and Master are the same kinds』

「二人は同類だってバルディッシュも言ってるロボ」

「「バルディッシュ……」」

 

 僕はフェイトちゃんみたいに無理も無茶もしてないってば~。なんだよぅお前さん相棒だろぅ? 今限定だけどさ、ちょっとくらい男の子の強がり認めてくれよぅ。同じ男の子じゃないか。

 

「まぁそういう訳で休憩ロボ。ん~……しかし食料と水が無いのはキツいロボね……この液体蒸発したのを利用して水にしようにも、蒸気にかなりヤバめな成分含まれてるから駄目ロボし……あ、エルザのお肉そぎ落として食べるロボ?」

「「いえ、全力で遠慮します」」

 

 エルザちゃん自分が人造人間だからってちょっと奉仕的すぎやしないかい!? 僕目の前で知り合いの女の子が自分の肉そぎ落として「召し上げれ♪」とか言ってきても全力で拒否するからね!?

 

「そうロボか……とは言ってもこの状況では食べられるものなんてお互いの身体くらいだからどうしたものロボ……」

 

 なんだろうね~、いくら怪奇と猟奇のおりなす混沌とした作品出典のキャラだからって、カニバリズムを通常の食事と同列に語られても僕達困るよ……?

 

「あ、ところで二人共、トイレは大丈夫ロボ?」

「「全然大丈夫だから心配しないで!」」

 

 この流れでそんな話されたら、なんか凄い嫌な想像しちゃうからやめてね!?

 

「えっと……と、とりあえず義嗣くん。休憩しよう。辛くなったら私が交代するから」

「え、あ、うん。じゃあお邪魔します……」

 

 いそいそと、バルディッシュの魔力刃をしまってフェイトちゃんとエルザちゃんがいるところに行って座り込む。バルさんは宝石の状態になって、一度フェイトちゃんの手袋へと戻っていった。

 うぅ、ここは空気が美味しいね。穴の近くは風が吹き付けてくるからあの煙は吸わなくて済んだけど、それでもやっぱり空気の美味しさという点ではエルザちゃんの空気清浄機能にはかなわんとですよ。

 

「ん~……でもやっぱり食べる気力と体力がある時に食べたり飲んだりは基本なんだロボ。食べる体力も無くなってからでは全てが遅いロボ。もう神酒は無いロボよ?」

「うぐ……それはそうなんだろうけど……」

「……私は大丈夫。元々食事はあんまり摂らない方だから」

「それのせいで今フェイトちゃんは体力が落ちてるロボ。ちゃんとここから帰ったらお腹一杯食べるロボ。お姉ちゃんとの約束ロボよ?」

「いや、多分暫くお肉は無理だと思うよ……ねぇ? フェイトちゃん」

「うん……そうだね。私もお肉は当分いらないかな……」

 

 魚肉ですら、深き者共のインスマウス顔(魚とかカエルっぽい顔)見たら食いたくなくなるよ本当……。

 

「ふむぅ……黄金の蜂蜜酒でも持ってくればよかったロボ」

「いや、アレはハスターフラグだから止めて」

 

 クトゥルフと敵対はしてるけど、あいつも邪神なのは違いないから。

 っていうか、持ってたんだね、黄金の蜂蜜酒。

 

「あぁ、エルザの言ってる黄金の蜂蜜酒は、博士特性のロイヤルゼリーとか日本ミツバチから採取した貴重な蜂蜜とか、各種栄養素の入ったサプリメントとか大量に混ぜ合わせたドーピングみたいな一品ロボ。美味しくて栄養満点美容にバッチリだけど、数が少ないから研究所に置いてあるロボ」

「へ~……なんか美味しそうだね。っていうか、研究所あったんだね」

「そうじゃないと破壊ロボなんて隠しておくところ無いロボ。ちゃんと義嗣の家の庭に入り口があるロボ」

「へ~……?」

 

 いや、待て。

 

「いやいやいや、エるザちゃん!? 僕言ったよね!? 家とか家の中の物勝手に改造しようとしたら博士を止めてって!!」

「ちゃんと家の外だから問題無いと判断したロボ」

「あの時の僕、なんで自分から穴を作るかな!? 敷地内って言っておけば良かったよ!!」

 

 あ、でもここから帰ったら装備作ってもらうのには丁度良かったかも。結果オーライ結果オーライ。

 

「駄目だったロボ?」

「いや、もういいよ。代わりに帰ったら、土地の利用代代わりに僕に自衛用の装備作って」

「そのくらいなら別にお茶の子さいさいロボ。義嗣なら悪用もしないだろうしロボ」

 

 よし、装備代浮いた。……にしても、そんな信用してくれるって嬉しいねぇ。

 

 っていうか、悪用するような相手には渡さないことにしてるのか。本当に原作のマッドで研究のためならなんでもしちゃう博士のイメージから離れてるな。

 

「……楽しそうだね」

「あ、いや、楽しいけど、フェイトちゃんのこと忘れてたわけじゃないよ?」

「そうロボ。っていうか、そろそろ真面目に食糧問題を考えるロボ」

「後は壁を掘るだけ。なら、そこまで心配しなくても良いと思う」

「いやいや、フェイトちゃんは4mの岩盤を崩して人一人通れるサイズの穴作るのが如何に大変なのかわかってないロボ。破壊ロボでもいればドリルでどうにかす……あ、バルディッシュ、ドリルって魔力刃で再現できるロボ?」

『Drill

? ...sorry,I don't know drill』

「あや……じゃあ仕方ないロボね。エルザも魔力残ってればバルディッシュ借りて形状のイメージ伝えられたけど、もう魔力収束砲一発分くらいしか残ってないから無理ロボ。魔力切れしたら強制睡眠に入るからまずいロボ」

 

 ドリルか~……確かにあったら楽だったけど、仕方ないよね……。

 

「……ある程度掘れてからなら、サンダースマッシャーを限界まで魔力を注ぎ込んで撃ちこめば……」

「熱量で溶かすなら良いロボ。でも岩盤溶かして貫通しきれるだけの出力あるロボ?」

「やってみなければわからない」

「なのはちゃんの砲撃ならイケそうだけれども、フェイトちゃんは砲撃は本職じゃないし、キツいと思うロボ。それに下手にココで魔力を使い切ると、ここを出た後のジュエルシード封印はおろか、戦闘自体が出来なくなるロボよ?」

「あ……そうか……」

「焦るのもわかるけど、先を考えないと駄目ロボ」

 

 う~む。エルザちゃんが完全に指揮官だ。考え無しに突撃癖があるイメージがどんどん壊れていく。流石は自称お姉ちゃん。

 フェイトちゃんも頭は良い筈なのに、やっぱり疲労と焦りもあるから先を考える余裕がないんだろうなぁ……。

 

「む~……仕方ないロボ。とりあえず体力の無い義嗣、ちょっとこっち向くロボ」

「あいあい……んむッ!?」

「エルザさん!?」

 

 ちょ、何、今キス!? そしてディープ!? 舌入ってきてるっていうか、何か流し込まれてるんだけど!? あ、割と美味しい。っていうか、結構流れてくるね。ゴクゴクのめる……。

 

 ……あふ、なんか気分がとろんとしてきた。舌絡めていいですか?

 

「ぷは。とりあえずエルザが夕食に摂取したのを流動食状にして流し込んだロボ。これで一応、栄養分に関しては問題無い筈ロボ」

 

 あう、終わってしまった……あうあうあ、いかんですよ、これ気持ちよくて癖になりそうで……うぬ? 夕食に摂取したもの?

 

「えっと……それって、もしかしなくても、吐しゃ物といふことですかね、エルザさんや」

「あ~、成分とか味とかに関してはそもそもエルザの身体のつくりが違うから人間のソレとは違って摂取した時そのままの味になってる筈ではあるけれども、まぁ似たようなものではあるロボ」

 

 ぐっ……言うだけあって、普通に美味しかったのが腹立たしい。なんだろう。味はカレー味だったよ。いや、美味しかったということだけを考えておこう。これは(自主規制)じゃないよ!!

 

「えっと……えっと……?」

「そういうわけで、ちょっとフェイトちゃんもこっち向くロボ」

「い、いい。いらない。私は大丈夫」

「義嗣、押さえるロボ」

「任されよ~」

「ちょ、義嗣くん!? 離して!! バルディッシュ!!」

『Please give up』

「バルディんむッ!?」

 

 ごめんよフェイトちゃん。でも僕一人だけ飲まされて君だけ飲まないなんてげふんげふん。体調を整えるためには栄養をとらないと駄目なんだよ!!

 ……むぅ、フェイトちゃん身体柔らかいな。細身だけどちゃんと……って何考えてるんだ。

 

「――ぷはっ。う~、これでエルザのお腹の中空っぽロボ……義嗣、帰ったら美味しいもの頼むロボ」

「うん。その点は任せて」

 

 ふぅ……まぁ、なんていうか、色々混乱したけどエルザちゃんが僕達のこと考えて今やってくれたのだけは分かるし、実際お陰で喉の渇きも空腹も結構楽になったし、感謝してもしたり無いくらいだ。ご飯くらい美味しいもの作ってあげようじゃないか。

 

「うぅ……また……確かに美味しかったけど……」

『Please live strongly』

「バルディッシュ……」

 

 フェイトちゃん、そんな恨めしそうな目でバルディッシュを見てあげなさるな。っていうかバルディッシュの英語って本当に合ってるのか、アレ。なんか英単語をただくっつけただけ、みたいな感じがするんだけど。

 ……いや、何も言うまい。

 

 ……ところでさ、さっきから二人の姿見てるとドキドキが止まらないんだけど、もしかしてさ。

 

「エルザちゃん、確認なんだけど、さっき口に含んだ液体とか肉は、混ぜてないよね?」

「? 混ぜてないロボ。それらは別口の成分調査用のタンクに入れたままロボ……あ」

「……うん、何に気づいたのかな?」

「そういえば、口内にちょっとくらいは成分残ってたかもしれないロボ☆」

「やっぱりね~!!」

 

 これ絶対媚薬かなんかの効果だろ!! なんだよ~!! 道理で口移しの後の余韻とか酷いわけだよ!! っていうか、僕あんな得体の知れない物の断片飲ませられたの!?

 SAN値直葬だよバカー!!

 

「……え、じゃあ私も……?」

「あ、口内に残ってた分は義嗣に流し込んだ時点で綺麗さっぱりなくなってたから、フェイトちゃんにあげた時には無害だったロボ」

「よかった……」

「良くないよ!? 僕全然良くないよ!!」

 

 ちくしょ~!! でもそこまで身体に変調きたしてるわけでもないから怒るに怒れないよ!! 神酒の効果明らかにまだ続いてるよ!! 多分多少の毒物耐性ついてるよ!!

 

 うぅぅ……そうだ、あのグロ肉と謎液のことは忘れよう。僕は美少女から口移しでご飯をいただいた。そのことだけを覚えておこう。僕のSAN値は108まであるのだ。1D100しても、絶対にSAN値が落ちることはないのだ。そう信じるのだ、僕!!

 

「もう穴掘り再開するよぅ!! バルディッシュ貸してフェイトちゃん!!」

「え、あ、うん。バルディッシュ、お願い」

『Yes,Sir』

「うっしゃあ行くぞ相棒~!!」

 

 あふれ出す涙を力に変えて!! 立てよ義嗣!! ジーク・バルディッシュ!! ジーク・バルディッシュ!!

 

 あ、そういえば昔日本のゼロ戦はアメリカ側にジークって呼ばれてたらしいね。格好良いよね、ジークって呼び名。ジークフリートとかって名前もかっこいいよね。などとどうでもいいこと考えながら僕は起動キーを叫ぶのであった。ちなみにジーク・バルディッシュは起動キーではないとだけ言っておく。

 

 

 

 

 掘り始めてどれくらい経っただろうか。

 ようやく掘る作業にも慣れてきて、人一人分のサイズの掘削が50cmくらいは進んだと思う。あと最低でも3m50cm。先は遠い。

 手のひらには豆がいくつか出来ていたが、とっくに潰れて血が垂れている。とはいえこんなもん今更である。

 

 既にフェイトちゃんは疲労がたまっていたからか寝入っていて、エルザちゃんが膝枕している。寝ているフェイトちゃんの頭を撫でながらも、エルザちゃんはしっかり周囲を警戒しているので心配はいらないだろう。暗視が出来るエルザちゃんなら、もし深き者共がポップしてきても襲われる前に気付けるはずだ。

 

 幸い、あいつらが出てくるとしたらあとは奥の方からしかありえないので、警戒すべき範囲が限られているのもこちらにとっては好都合というわけである。

 

 しかし、最初は辛かったこの掘削作業も、慣れてくると体が機械的に動くようになってくるのでそこまで苦では無くなってきた。前世で土方の経験があったことも多少は影響しているのかもしれない。あの時みたいに水道管とかの存在を気にせずにガツガツいけるし、ツルハシが刺さる時の抵抗が無い分、随分と楽なものだ。

 一回である程度深く刺さってくれるから、何度か同じ場所に刺していれば壁が剥がせるのはデカい。もしこれが魔力刃でなく通常のツルハシだったら、まだ10cmも行ってなかっただろう。というか、下手をしたらとっくに折れている。下手をしなくても刃が欠けてかなり使いづらい状況に陥っていたことだろう。

 

 だから、全然、問題、無い。

 

「義嗣、そろそろ休憩するロボ?」

「大丈夫、まだ、いける」

「無理はいけないロボよ?」

「どっちにしろ、食料も水も、完全に底をついてるわけで、持久戦になったら、全員、アウトでしょ?」

「それはまぁ、間違いではないロボ、でも……」

「フェイトちゃんが、寝て、少しでも魔力回復すれば、突破のための、砲撃も、いけるかもだし、暗視が出来る、エルザちゃんは、周辺を警戒してないと、いけないでしょ? それに、刹那や博士達、そこにチートの申し子みたいな天ヶ崎くんが、いるんだから、そう負けるとは、思えないけど、あのおっさんが、逃げ出して、戻ってきたら、まずいし、ね」

 

 喋ってると手元が狂いそうだな。気をつけよう。

 

「……分かったロボ。でも、倒れる前にちゃんと休むロボ」

「うん、それは、重々承知」

 

 ここで倒れたら迷惑になるだけってことくらい分かってるしね。限界ギリギリまでは粘るけど。

 

 と、そこで急に穴から漏れていた日の光が遮られ、風を感じなくなったことに気付き、僕は慌ててその場から飛び退った。

 

「義嗣?」

「エルザちゃん……何か、外にいる」

「……了解したロボ。フェイトちゃん。起きるロボ」

 

 嫌な汗が浮かぶ。ただでさえ疲労でクラクラしてるってのに、やめてほしいものだ。

 最悪、今何かが出てきたら僕が盾になって二人を守るしかない。

 

 フェイトちゃんを膝枕しているエルザちゃんはすぐには戦闘行動には移れないだろうし、フェイトちゃんも寝起きですぐに、というわけにはいかないだろう。

 一度に出せる出力は少なくても、僕を魔力タンクとして、バルディッシュに魔法を使ってもらえば、防御魔法だっていけるだろうし、時間は稼げるはずだ。その間にフェイトちゃんが完全に目を覚ましたら、バルディッシュを渡せば良い。

 

「どうせ僕の出力じゃ攻撃はろくに通らないだろうから、もし襲われたら防御魔法で時間稼ぎお願い、フェイトちゃん起きたらそっちに渡すから。頼める? バルディッシュ」

『All right』

 

 ……焚き火の光に照らされて、穴があったところから、何かがにゅるにゅると入ってくるのが見える。

 スライム状のそれは……多分、ショゴスだろう。この状況下でスライム生物といったらそれしか思いつかない。

 

「エルザちゃん、あれ、多分ショゴスだよね?」

「恐らくはそうロボ……あぁもうフェイトちゃん、早く起きてほしいロボ。眠り深すぎるロボ……」

 

 フェイトちゃん完全に眠り姫か……。

 

 そして、ひそひそと話す僕達の目の前で、ショゴスはうねうねと動き出し……また、魚っぽい顔のなのはちゃんに変身した。今回は、あの血まみれ化粧は無しで、服装はあのお泊り会の時になのはちゃんが着ていた服だ。

 

「てけり・り」

「てけり・り。ショゴスさん。え~っと、ごめん。出来れば見逃してくれたりしない?」

「てけり・り? ヨッシーくん。てけり・り」

 

 うん、首を傾げるその姿を微妙に可愛いと思ってしまう僕は末期かもしれない。でもでも、だって姿の原型がなのはちゃんなんだもの。魚っぽい顔だけど。なんか目が外側に寄ってるけど。

 

「うん、てけり・り。ヨッシーくんです。え~っと、えっと、今はちょっと、ちょお~っと、その、場面が悪いので、僕に襲い掛かるなら、出来れば別の機会でお願いしたいなぁなんて……だめ?」

「てけり・り。ヨッシーくん。てけり・り」

 

 ごめん、なんか身振り手振りで伝えようとしてくれてるのだけは分かるんだけど、全然わからんとです。

 でも、襲ってこないってことは、もしかして敵対するって訳じゃないのかな。

 

「え~っと、ごめん。言葉が通じないからちょっと何を言いたいのかわからないんだ。ごめんね? あと、なのはちゃんの顔をインスマウス顔にアレンジしてるその顔ちょっと修正してもらっていい? 具体的に言うと、目の位置をもう少し内側に寄せてもらうとか」

「てけり・り?」

「あ、そうそう。目の位置そのあたり。うん。なのはちゃんそっくりになった」

「確かにそっくりロボ」

 

 うんうん、コミュニケーションって大事だね。ちゃんと伝わったみたいで、目の位置がぐにょぐにょ動いたと思ったら、なのはちゃんとほぼ同じ顔になったよ。動いてる時キモかったけど。

 

 ……ふぅ。違うよね!! 今気にするところそこじゃないよね僕!!

 

「てけり・り!!」

「うん、嬉しいのはその表情で分かったんだけどね? 言葉がね、通じないのだよショゴスさんや」

 

 とりあえず悪い子じゃないのだけはわかったんだけどさ。

 

「てけり・り……」

「あぁ、そんな露骨にションボリしないで!?」

 

 どうしようちょっと本気で可愛いかもしれない!?

 おのれ、外見がなのはちゃんだから可愛くて仕方ないぞ!?

 

「っていうか、ショゴスはなんで今このタイミングで出てきたロボ?」

「あ、そうそう。そこだよね。えっと、なんで?」

「てけり・り!!」

「なるほど!! わからん!! 筆談とかにしよう!! ……紙もペンも無いか!!」

 

 どうしましょう!!

 

「てけり・り~てけり・りりり~」

 

 ショゴスがなにやら不思議な踊りを始めた。

 なんだろうね、見てると魔力奪われたりする? SAN値奪われてる?

 

「う、うぅ~ん……」

「あ、フェイトちゃんごめんロボ。寝ててもよさげロボ」

 

 あうあうあ、ここでフェイトちゃん起きたら混乱するんでないか。なのはちゃん敵対してるわけだし。誰か~!! 収拾つけて~!!

 

 

 収拾がつかなかったので、それから十数分ほどの内容をまとめよう。

 

 まずフェイトちゃんが起きて、ショゴスに気付いて戦闘体勢に入ろうとしてバルディッシュが手元にないことに気付いて慌てる。

 バルディッシュがそわそわしだしたので、フェイトちゃんに返してあげる。

 フェイトちゃんが戦闘体勢にはいる。

 ショゴスが僕の陰に隠れる。

 エルザちゃんがフェイトちゃんと僕(ショゴス)の間に割って入る。

 ショゴスが身振り手振りでなんか伝えようとするも誰もわからず。流石のエルザちゃんもショゴス語を理解は出来ないらしい。

 涙目なショゴス。すがりつかれる僕。困惑するフェイトちゃん。何故か笑うエルザちゃん。

 

 最早、カオスすぎて訳がわからなかった。

 

 で、とりあえずショゴスに敵対意志はないとわかったためにまた掘削作業を始めようとしたら、ショゴスに必死に止められたのでどうやらここを掘ってほしくないということらしいというのは分かった。

 

 分かったのだが、ここを掘らねば出口が無いのである。それをなんとか伝えようとするも、涙目で首を振られてはこちらも掘るに掘れない訳である。

 だって、見た目なのはちゃんが、涙目ですがりついてくるんだよ? これを、これを振り切って穴掘り開始なんて僕にはできんとですよ!!

 

「てけり・り?」

「あ~うん、分かったから……う~……どうしよう……」

「……掘るしかない。義嗣くんがやらないなら、私が」

「てぇけぇりぃりぃ!!」

「多分、駄目だって言ってるよショゴスちゃん」

「てけり・り!!」

「駄目って言われても……」

「いや、まぁそうなんだけど……」

 

 フェイトちゃんもなんだかんだ言いながら強硬手段に出ないあたり、甘いというべきなのだろうか。

 

「駄目なのは君の方だよショゴス」

「てけりり!?」

「誰!?」

 

 突如、聴こえてきた声にフェイトちゃんが戦闘体勢に入り、またもやバルディッシュが無くてあわあわし始めたので、僕は生暖かい視線を向けながらバルディッシュを返しておいた。

 

「ショゴスの身体一部もぎって持って帰っていいロボ?」

「てけりり!?」

「エルザちゃん、ショゴスちゃんをいじめないで」

「アハハハハ!! 本当面白いね君たちは!!」

 

 ぞぶり、と変な音をたてて僕の背後からナニカが出てきた。

 逃げようと思っても、ショゴスが僕の裾を引っ張っているので逃げるに逃げれない。

 

 ……うわ~い。僕詰んだ? これある意味ハニートラップ系だった? ショゴスに心許した途端に、バックリ言っちゃう系だった?

 

「こんにちわ。貴方の隣にいつでもニコニコ這い寄る混沌、ナイアルラトホテップここに惨状もとい参上だよ?」

 

 ポン、と肩に手を置かれて、嫌々ながら振り返る。

 声だけは美少女だけど、嫌な予感しかしない。

 

 そして、振り返った先にいたのは、ガチムチスキンヘッドの黒人神父さんであった。

 

「はろ~♪」

「……うん、ツッコミなんて入れないよ僕は」

「どこから、出てきたの……?」

 

 フェイトちゃんが困惑顔だけど、こいつはこういう存在だと割り切りましょう。

 ナイアルラトホテップ。クトゥルフ神話では、クトゥルフの次に有名な存在ではなかろうか。

 二つ名は這い寄る混沌、黒貌の神、暗黒神、闇に棲む者。大いなる使者、燃える三眼、顔の無い黒いスフィンクス、etcetc...

 

 名称もナイアーラソテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトホテプ、ニャルラトテップなど何種類かある。ニャルという読み方からニャル子さんなんて愛称もある憎い奴である。

 

 このニャル子さんネタで、前世では這い寄れニャル子さんなるアニメがあったらしいが、僕は見ていないので知らん。ダメージをくらうとMSやMAの名前を叫んじゃう銀髪アホ毛美少女なんぞ知らん。

 

 とりあえず一言でこいつをまとめると、老若男女問わず、千の顔を使い分け、千の人格が世界に同時に存在し、人間に甘言を囁いてはその人間が破滅していく様を楽しんでいく邪神の筆頭である。

 

「失礼だね。ドリームランドでは僕は地球の下級の神々を守っている設定なんだよ?」

「いや、どうでも良いから。そういう情報。なんとなく今回の顛末読めたから」

「へぇ……面白いね。聴かせてもらえる?」

 

 そっちが色々教えてくれたらね。

 

「義嗣くん……その人、知り合い?」

「あ~、こっちが一方的に伝聞で知っているというかなんというか……」

「おや、僕最近は君の観察が趣味だったんだけど」

「知り合いみたいだね。お互い一方的だけど」

 

 なんだよ~……やめてよね……邪神に観察されてるとか明らかに死亡フラグじゃんかよ……。

 

「で、その義嗣の観察が趣味の邪神がなんの用ロボ?」

「いやなにね、ショゴスが勝手なことをするもんだからちょっとお仕置きに、ってところかな」

「てけりりぃ!?」

「どうでも良いんだけどさ、その黒人神父の姿でその声と口調やめてくんない? ミスマッチすぎてなんか嫌だ」

「確かに変態にしか見えないロボ」

 

 黒人マッチョのスキンヘッドでナイスミドルな神父がどっかのアニメで聴いたことありそうな美少女声で喋ってるとか誰得すぎるんだけど。

 

「君、アレだね。僕のこと怖がったりしないんだね」

「いや、正直ナイアルラトホテップに見入られた時点で人生オワタ臭がぷんぷんするし、今更怖がるもなにも無いよ。大体アンタ自分で直接手は下さないタイプでしょ?」

「まぁね。僕の趣味は観察だし。人間が足掻く姿が楽しみなだけで」

「で、とりあえずさ、声をちゃんと男性にするか、姿を女性にするかしてくれない?」

「まぁ良いよ。じゃあ……」

 

 あ~……ナイアルラトホテプ出てきた時点で、さらばリリなの世界だよ……。

 

「母さん!?」

「へ? ってうわっ!?」

「お~、良い身体してるロボね~」

「あの人結構プロポーションいいよね。歳の割に。流石は魔法の世界の住人ってやつ?」

 

 僕は何も見なかったよ!! 何も見なかったからね!!

 プレシアさんの全裸姿とか、見て無いからね!?

 

「な、なんで母さんが……」

「あぁ、ごめんごめん。娘さんがいたんだっけ。じゃあ……」

 

 あ、頭の上に何か柔らかい物が乗ってるけど、気のせいだよ気のせい……騙されるな。完全にハニートラップだからこれ。デレってしたが最後、完全にSAN値ガタ落ちの発狂フラグだから。周りの人間巻き込んで自滅するから。

 

「はぁい♪」

「おぉ、今度は翠屋の奥さんロボ?」

「どう? この子も結構いい身体してるよね」

「え、えぇ? えぇぇぇ??」

「僕はナニモミナイよ」

 

 頭の上に乗っかる柔らかい物が軽くなったとか思ってないよ。

 あとフェイトちゃん。混乱する気持ちはよく分かるよ。僕も今絶賛混乱中だよ。

 

「ちなみに旦那さんの方も結構いい身体してるんだよね。見たい?」

「なんでも良いからとりあえず服は着ようよ!? あと普通に女の子の姿でお願い!?」

 

 ナニが悲しくて友達のお父さんの全裸姿で抱きつかれなきゃいけないのさ!!

 

「そう? ちなみに何かリクエストある? アルアジフからおとめさんまでなんでもござれだけど」

「名前からしておとめさんは絶対女の子って年齢じゃないよね!?」

 

 もうやだコイツ!!

 

 

 

 

 やっと落ち着いてきたので、とりあえず情報をまとめよう。

 今日はカオス展開すぎて一々まとめないといけないというのが非常に面倒くさい。

 

 とりあえず、ナイアルラトホテップはデモベのナイアさん姿で落ち着いた。後ろ髪アップでメガネで、スーツの前面が開ききっていて巨乳がギリギリまで見えている例のアレである。

 

 青少年には、目の毒だっつってんだろうが!!

 

 うが~!! 絶対魅了系の魔法かなんか出てるだろアンタ!! 見てると意識がぼんやりして胸がドキドキしてくるんだよ!! やめてよ、僕まだ性には目覚めたくないんだから!!

 

 アレか、「俺ロリコンだったみたいでさ、あいつの綺麗な身体知っちまったら、あんたみてぇなババァの身体じゃ満足できねぇんだよ!!」とか叫んでおけばいいのか? それはそれで今度はアルアジフの格好とかされそうだけども!! 今の僕の格好と被るけども!!

 

 ……ふぅ。ごめん。落ち着いた。じゃあまとめるね。あと今の僕の格好が甘ロリであることを今思い出した人、滑稽だと笑うがいいさ。バリアジャケットになってもツナギ姿とか、救われねぇぜよ……。

 

 まず、ショゴスは深き者共とは今回の深き者共とは別口の怪異。ナイアの下僕的存在だったらしい。

 で、例の肝試しの時、本当は僕じゃなくてなのはちゃんに憑かせるつもりだったのに、何故かショゴスは僕の肩を叩いたとか。

 位置的な問題だったんじゃないかと言ったら、ショゴスが自分の意思で僕を選んだのだそうだ。ショゴスが物凄い勢いで首を縦に振っていたので間違いないようだ。

 

 ナイアは今月からショゴスを使って人間を合意の上で誘拐してこさせては「願いを叶える」と言って願いを叶える代わりに、その人間の破滅を見るのを趣味にしていたそうで、なのはちゃんにも同じことをやろうとしていたとのこと。

 もしやられていたら原作崩壊ってレベルじゃなかったね……。

 

 純真な人間ほど破滅する瞬間が楽しいのだと笑って言っていたが、何を言っても無駄だろうと僕は何も文句を言うことはしなかった。フェイトちゃんは睨みつけていたようだが。

 

 で、ショゴスが命令違反してまで選んだくらいだから余程面白い人間なのかと思ったら、人間性も背負っている因果も一風変わっていて面白かった、ということらしい。人間性はともかく、因果の内容が気になったが、笑うだけで教えてくれなかった。おのれ邪神めが。

 

 また、「今回の深き者共の騒ぎはアンタが原因だろう」って言うと、その通りだと笑って言われた。僕を観察するのとは別口で、陽子という女性の姿で今回のサラリーマン中年おっさんを騙して遊んでいたらしい。そして、絶望したところに別の姿で「願いを叶えてやる」と言って囁いたら、偶然の一致とでも言うか、おっさんも転生者だったらしく、それも元から能力の一端としてクトゥルフ系の能力を持っていたとか。

 まぁ、本人は全く自覚が無かったらしいが、ティンダロスの猟犬とドールの地震を起こす能力を使役する能力を持ったテュロスで、彼が知識としてダゴンも知っていたから深き者共を使役する能力を与え、ダゴン召喚の媒介として相応しい魔力量を持つ存在にジュエルシードを埋め込んで生贄に捧げればダゴン召喚も可能なようにしたとか。そのためにわざわざフリーの状態になっているジュエルシードを全部で三つもおっさんに渡したらしい。

 適正があったから与えるのも楽だったってさ。

 

 はぁ……。

 

 

 はた迷惑にも、程があるよね!!

 

 

 流石にイラっと来て腹パンしてやったが、全く動じてなかった。ちくせう。子供の姿はこれだから……。

 

 で、その深き者共と、ここにある惨殺死体の山だが、全部作り物だそうだ。いや、正確に言うと限りなく本物に近い偽者、というべきか。

 ナイアが作り出した、偽者の人間をあの中年おっさんと深き者共がここで貪った結果らしい。なんでそんな七面倒なことしたのかと言うと、あまり本番の前にことを大きくしてしまうと、一番の見所が見れなくなってしまって面白くないから、らしい。

 

 その一番の見所は、ダゴンの召喚だったそうな。

 

 洒落にならない。ドールだけでも洒落にならないのに。

 

 で、ショゴスが僕を止めた理由は、この空間は、厳密には僕達のいた世界とは別の異空間だから、らしい。

 座標は確かに遠見市の地下だが、次元軸がずれているとでも言えばいいのか、もしあの穴を広げて洞窟と外の空間をつなげたりしたら、本来存在しない空間と本来存在する空間同士が激突しあい、大規模次元震が発生して、現実世界に大災害が起きるところだったとか。

 そして、そこまでして僕に固執するショゴスを見てナイアは僕への興味を一層深め、ダゴンが暴れまわるところも覗きにはいくけど、それまでは僕の観察をとることにしたらしい。

 

 ショゴスにはマジで感謝してもしたりない。

 

「……で、なんでそれを、わざわざ教えてくれたの?」

「冥土の土産、なんてのは冗談で、ショゴスがここまで他人に思い入れを抱くなんて初めてだったし、君の今後が楽しみになったからね。ちょっとだけ手助けしてあげようと思ったのさ。

 何せ君、放って置いたら勝手に自滅するからね。僕が介入して自滅させるのは楽しいけど、僕が見ている相手が勝手に自滅するのは面白くないんだ。

 それに僕はケーキのイチゴを最後までとっておく派だからね。君もそういうタイプだろうから分かるだろう?

 今回のダゴン騒ぎで君が死んじゃったら、楽しめなくなっちゃうじゃないか。そして、これを知ったら君、動く気になるんだろうから、そんな君を眺めて楽しむことにしたんだよ」

「そうですか」

 

 全く持って不愉快である。

 色々、こいつの存在自体が不愉快である。

 

「知ったところで、ここを出られないんじゃどうしようもないロボ」

「……そうだね。義嗣。早く掘ろう。嘘を言っている可能性のほうが高い」

「いや、嘘じゃないと思うよ」

「その通り。僕は嘘は言わない。肝心なことは言わないだけさ。どこぞの魔法少女の世界の、白い宇宙人みたいにね」

 

 お前はアレより性質が悪い。

 インキュベーターは例え人間を食い物、ただの燃料としてしか見ていなくても、それでも宇宙の延命という大きな目標を持って動いていた。僕は、インキュベーターのせいで生まれた悲劇とかを認めるつもりは無いけれど、それでもインキュベーターの理念は、否定しない。

 

「ナイアルラトホテップ。アンタはただ人間を玩具にしてるだけだろ。インキュベーターは少なくとも、大きな目的があった。そのための手段として人間を餌にしていただけだ」

「宇宙人? インキュベーター……?」

「あぁ、フェイトちゃんは分からなくて良いんだロボ。多分、この世界には存在しない……いや、もしかしたらいるかも知れないけれども、フェイトちゃんが接触することも、その必要も絶対にない存在ロボ」

「じゃあ、そんなとっても悪人な僕を君はどうするのかな?」

「どうもしない。どうにもできない。だから、アンタの楽しみにのってあげるよ。今すぐ刹那達が戦ってる場所に、僕達を戻して。僕の生き様、見せてあげるから」

「へぇ……いいよ。見せてもらおうか」

「てけりり……?」

「ついでに、ショゴスを僕にちょうだい。うちで飼う」

「てけりり!?」

「よ、義嗣くん!?」

「ぷっ、アハハハハ!! 良いよ!! 面白いね!! じゃあ君が死ぬまでショゴスは君にあげるよ!! 充分にこき使ってやればいい!!」

「てけりりぃ……」

 

 笑え笑え。こんな可愛い生物、お前なんかにイジメさせてたまるかってんだ。いや、見た目なのはちゃんだから、一度別の生物の姿になってもらわないとだけど。猫になってもらうとかでいいな。

 

「流石は義嗣だロボ」

「ふふふ……くふ、で、良いのかい? あっちはもうすぐ決着がつきそうだけど」

「だからこそ、行くんじゃないか」

「何をしに?」

「アンタの被害者を救いにだよ」

 

 こちとら散々ひっかきまわされて頭きてるんだよ。どうせ原作物語なんざ関係ないんだ。せいぜいモブはモブらしく、主人公達の思惑完全無視してやりたいようにやらせてもらおうじゃないのさ。

 

「それじゃあ、君の生き様ってやつ見せてもらうよ。転移、開始」

「義嗣もちゃんと男の子してるロボねぇ……」

「次元転移魔法……詠唱も無しで三人……四人同時に――ッ!?」

「あ、そうそうナイアさんや」

「なんだい、ヨッシーくん?」

「僕、ショートケーキよりチーズケーキ派だから。いちごは元から食べないんだよね」

 

 なるほど、それじゃあ僕の気持ちは分かってもらえなさそうだ、とナイアが笑うのが耳に響いたのを最後に、僕達は黒い光に包まれて洞窟から脱出した。


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