転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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34.人工少女と炭坑少年

 ぽたり、ぽたりと空から水滴が降ってくる。

 空。天井ではなく、空と形容するのが相応しいくらいに、天井が高いところにあるようで上は全く見えてこない。

 そんな上から降ってくる水滴は、どこか暗い色をしていて、気味が悪い。

 

 今は壁伝いに進んでいるが、反対側の壁もろうそくの灯りがうっすら見える程度にしか見えず、相当の距離があることが分かる。   

 地下鉄のトンネル、の数倍、数十倍規模の広さだ。

 そして、別に舗装されているわけでもないのに壁も地面も凸凹がほとんど無く、むしろつるつるしているというか、妙にヌルッとしているというか、足元が滑らないように気をつける必要があるほどの歩き難さ。

                         

 幸い、見たくも無い物も見えてしまうという欠点はあるが、ところどころにあるろうそくのおかげで足元が全く見えないということはない。それでも足場の悪さもあって注意は必要だし、エルザちゃんがぼんやりと全身を発光させていなければ先頭を歩くエルザちゃんすら見失ってしまいそうなほどの視界の悪さである。

 

 ちなみにエルザちゃんが発光しているのは、わざわざ僕の視界確保のために魔力光を発しているかららしい。自分自身は暗視も熱源感知も出来るからろうそくの光だけでもこの空間で跳びまわれるほどだとか。

 アンドロイドなのに魔力使えるとかちょっと羨ましいけどそれはさておき。

 

 ぽたり、ぽたり。

 

「うひゃいっ!?」

「ッ!? ど、どうしたの?」

「ご、ゴメン。首筋に水滴が垂れただけ……」

「驚かさないで……」

「ほ、本当にごめん……」

 

 うぅ、役立たずでごめんなさい。

 

「ろ~ぼろ~ぼろぼ、エルザロボ~♪」

 

 ……エルザちゃん? それギリギリだけど、まぁうん、いいや。

 

 前方を歩いているエルザちゃんは疲れ知らずで、鼻歌どころか口で即興の歌を作って唄いながら歩くほどの余裕であるが、僕とフェイトちゃんの疲労はどんどん溜まっている。

 既にどれだけ歩いたかもわからなくなるくらいに、ずっと同じ光景が続いているのだ。目印となるのが、まぁその……人間の惨殺死体というか、それの損傷具合とか、深き者共がいるか、くらいという最悪な目印なのが余計に精神をゴリゴリ削っていく。

 

「GEGYYYY!!」

「トンファーキックロボ!!」

「ゲギョッ!?」

「「トンファー関係ないよ!?」」

 

 なんというか、エルザちゃんの存在が何よりも救いである。ここに博士もいれば安定のコメディ空間だったんだが、贅沢は言うまい。

 

「……ッ」

「あ――フェイトちゃん、そろそろ休憩いれる?」

「大丈夫……早く行かないとアルフが……」

 

 あぁ、確かにフェイトちゃんとエルザちゃんもいて、ジュエルシード使われてないのに苦戦してたなんて状況に置いて行かれた皆はマズイよね……っていうか、ジュエルシードの封印出来るのがフェイトちゃんしかいない筈だから、何気にかなりヤバイんでない? あっち。

 うあぁ……マジでごめん皆。大方僕が邪魔で大出力の攻撃が出来なかったとかだろうけど、そうだよね、流石に見えないところで死ぬならまだしも、自分達の手で殺すとなると躊躇しちゃうもんね。

 はぁ――いっそ僕、誘拐された時点で死んでしまったほうが解決早かったかもしれん。お父さんは悲しむだろうけど。

 

「そうだね。……でも、本当に大丈夫? 顔色悪いし、おんぶしようか?」

「大丈夫――少し、魔力の消費がキテるだけだから……」

「それあんまり大丈夫じゃないような……えっと、バルディッシュ、正直に言って。本当にフェイトちゃんまだいける?」

『……I'm sorry master』

「バルディッシュ……?」

『Master is realize the limitations. A break is required』

「あ~っと……えっと……りみ……? あ、ブレイク! 休憩を希望?」

『All right』

 

 やっぱり無理してるんじゃないか。原作組はすぐ無茶しようとするから困っちゃうよね。

 

 ……っていうか、英語やめてほしいんだけど。僕が転生者だからって勉強できるとか思わないでよ? 英語なんてサッパリだよ?

 いや、まぁ英語(ミッドチルダ語)しか喋れないバルディッシュにそれを言ったら「じゃあお前も日本語以外喋ってみろや」とか言わせられそうだけどさ。いや、バルディッシュそんなこと言わないだろうけど。

 あれ、でもクロノくん達普通に日本語だし、フェイトちゃんもだし、バルディッシュも日本語を理解してるよね。どゆこと?

 いや、これは気にしてはいけない。あぁ、気にしてしまったがために、見ろ!! バルディッシュに!! バルディッシュに!!

 

 ……ごめん。この状況下では割とガチ不謹慎だね。自重しよう。

 

「バルディッシュ!! 私はまだ……」

「エルザちゃ~ん」

「はいはい聴こえてたロボ。休憩タイムロボ~」

「行けます。いいえ、行きます。行きましょう」

「ぶっちゃけ途中で倒れられたら足手まといロボ。倒れたらそのまま見捨てるロボ。そうしたらあのわんこおね~さんも助けられないロボよ?」

「……」

『Master』

「――わかりました。でも少し回復したらすぐに行きます」

「はいはいじゃあ休憩中の警戒は任せるロボ~。って言っても、空気清浄させること考えたらあんまり離れられないけどロボ」

「ごめんねエルザちゃん。なんか色々任せちゃって」

「普通の人間と人造人間じゃ耐久力が違うロボ。適材適所って奴だから気にする必要ないロボ」

 

 エルザちゃん……えぇ子や……。

 

「……ふぅ」

 

 エルザちゃんが近くに来て、清浄な空気が場に満ちたことでようやくプロテクションを解除できたフェイトちゃんが小さくため息をついてその場に座り込む。

 

 あ~、ハンカチか何かあればしいてあげたんだけど、多分今朝誘拐されてから意識を取り戻すまでの間に無くしちゃったんだな。ポケットに何も入ってない。

 ぬ~……あのハンカチタオル、端っこに小さくアインをイメージしたデフォルメにゃんこのアプリケットを刺繍しておいた自慢の一品だったんだけど……。

 ……ハッ!? ち、違うよ!! 女の子みたいだとか言わないでよ!? アレは、アレはほら、小学生なんだし可愛いの持ってたっていいじゃない!! だよね!?

 いや、僕だって中学あたりにあがったら、ちゃんとオサレな感じの奴持ち歩くけどさ!! 今くらいいいじゃない!!

 

 げふんごふん。

 

「……」

「……」

 

 ……すげぇ気まずい!!

 

 どうしよう、そうだよ、フェイトちゃん基本的に無口な子だよ!! 闇の書事件の頃ならまだしもこの時期は!! しかも割と今体調悪いから、雑談振ってくる余裕なんて余計にあるわけ無かったよ!!

 ふぅ。心の中で騒いでもなんの解決にもならんがな、という奴だね。うん。

 

「え~っと……あの、フェイトちゃん?」

「ごめん。今ちょっと喋るのも面倒だから……」

「あ、本気でごめん」

 

 うおぉぉぉ!? どうするのこの沈黙!? 周囲一帯がグロだから、黙って風景を眺めるなんてやってられないし、かと言って目を瞑ったりしたらそのまま寝ちゃいそうだし、あうあうだよ!?

 う~む……僕がいなくて、代わりにいるのが悠馬とかセイバー、あと一瞬忘れかけてたけど恵理那ちゃんとかあたりだったら、フェイトちゃん休ませながらも進めたんだろうな……。

 僕が担いでいければ良いんだけど、僕の体力じゃ十分も背負って歩いたらもう限界だろうし、どっちにしろプロテクション発動しながら歩くことに変わりは無いから体調不良は治らないだろうし……。かといってプロテクション張らなくても良いように固まって歩くと、今度は不意をついて僕が襲われた時に対処出来ないし……。

 

 ぬぅぅ……正直、怖いには怖いけど、あんまり足手まといなようならもう見捨ててもらっても構わんのだけども……それはそれで、後でエルザちゃん達が責められるもんなぁ……。

 

 いっそプロテクション無しで、フェイトちゃんを僕が背負って寝ててもらう?

 

 いや、でもなんだっけ、麻薬の煙が充満してる洞窟で、その煙を集団で吸うっていう習慣。アレの洞窟とほぼ同じか、もっとヤバイのが充満してるんだろうし、少量でも吸うのは危険だな……。

 っていうか、今更だけど僕誘拐された後にまさにそのヤバイ煙吸いまくってる筈なんだけれども、よくもまぁ身体に変調無いものだ。アレか。神酒(ソーマ)による浄化作用ってそこまで凄いのか。凄いな。コレ量産できたら世界中の薬物中毒者救えるじゃん。

 ……まぁ、無理だよね。刹那も数億とか数兆しちゃうって言ってたし、そうそう量産できるもんじゃないよね……。

 

「あ」

「――ん? どうしたの……?」

「あ、ごめん。フェイトちゃんじゃなくて……エルザちゃん、さっきの神酒(ソーマ)まだ残ってる?」

「すっからかんロボ。どれくらい飲ませれば良いのかなんて知らないから全部飲ませたロボ」

「あ、そうっすか……」

 

 これで素質ある人とかだったら、覚醒、遂にモブ主人公が真のチート主人公に!! な展開なんだろうな。超神○飲んだゴ○ウみたいに。

 でも残念!! 僕全くそういうなんか力みなぎる感じとかしませんから!! 普通に体調が絶好調になっただけで、結局歩き続けたせいで疲労も溜まってますから!! むしろ今ダルいくらいですから!!

 しかしそうか……残ってればフェイトちゃんに飲ませて、少しは体調も良くなるだろうと思ったんだけど……。

 

「あ、でも毒見も兼ねて成分分析のために少し飲んだから、ちょっとだけエルザの体内に残ってるロボ」

「いや、飲んだなら胃袋でしょ? 流石にそれ出せとは言わないよ……」

「違うロボ。ちゃんと成分分析用のタンクが体内にあるから、そこに入ったままロボ」

「おぉ!!」

 

 なんというご都合主義!!

 

 っていうか、博士、あんまりエルザちゃんを人外にしすぎない方がいいんじゃない……? いや、便利だし、そのお陰で今助かるわけだけど、第二の胃袋的な物を持ってるって甘い物は別腹を地でいく感じじゃないか。

 あ、体内にナビ搭載な時点で今更か? それくらい。

 

「そっか、これを飲ませるロボ?」

「うん、そしたらフェイトちゃんも体調良くなるんじゃない?」

「なるほど、義嗣冴えてるロボ!! いいこいいこロボ」

「あうあう、乱暴に撫でるない」

 

 いやはや、良かった良かった。

 

「フェイトちゃん、え~っと、大丈夫?」

「……ん」

「ありゃ、こりゃ本格的にまずいロボね。フェイトちゃんちょっとこっち向くロボ」

「……ん、んむ!?」

「うにゃあ!?」

 

 ちょ、うわ、うわ、エルザちゃん何してんの!?

 

 あ、ごめん。状況ね。エルザちゃんがフェイトちゃんの顎を掴んで、キスしました。しかも明らかに口あけてるので、深い奴。

 

「――☆△□※ッ!?」

 

 おぉ、フェイトちゃんが目を白黒させてるよ。っていうか、何気にこの光景、なんか身体がムズムズするよ。痒いよ、なんか、こう……青少年に見せちゃいけない感じだよ!!

 

「ぷはっ。どうロボ?」

「ゲホッ、ケホッ、ど、どどどど、どうって!? ど……あれ?」

『Condition

all recovered. The completion of a magic supplement

「……凄い。魔力が完全に回復してる……それに、疲れも無くなってる……?」

 

 おぉう……凄いな。エルザちゃんがどんだけ溜め込んでたのかわからんけど、口移しで飲ませられる程度の量でそんなになるんだ……。

 

 ……なんかさ、ラストエリクサーをレベル1のキャラが毒状態にかかっただけで使っちゃった感バリバリなんだけど、僕本当にどうしたら良いんだろうね? フェイトちゃんって相当魔力あるよね。それが一瞬で全回復って、明らかに僕なんかに使うべきアイテムじゃなかったよね。

 

 っていうかさ、口移しで飲ませるなら、事前に言おうよ。フェイトちゃんが顔真っ赤だったよ? いや、口から入ってるんだし、口以外から出したらそれはそれでマズいけども、っていうか、どうせなら僕にも口移しにして欲しかったよ。

 普通さ、ああいう時って口移しイベントだよね? いや、別にエルザちゃんとそういう関係な訳じゃないし、良いんだけど、良いんだけどさ……。

 

「ふぅ~む。どうにも原理がわからないロボね。確かに取り込んだ時に身体が軽くなるような感じはしたけれども、別に凝縮された魔力が込められた液体という訳でもなかったロボ。

 伊達に神の名はついてないロボね。神力とでも言うロボ? 帰ったら博士に報告ロボね」

 

 おうおう、腕を組んで首を傾げるエルザちゃん可愛いです。何気にちゃんと助手してるんだね。

 

「んじゃまぁ、そういうわけで出発するロボ」

『All right』

「分かった」

「了解だよ」

 

 う~む。僕もこういう時ばっかりはストレージで良いからデバイス欲しいなぁ……。いや、いっそパワードスーツとかで銃火器でも有りです。あ、銃刀法違反で捕まるか。ふぁっきん。

 

 

 

 

「……なんぞこれ……」

「壁……にしては、随分……」

「ふむん? ん~……でっかいロボね。怪獣ロボ?」

 

 時折出てくる深き者共をエルザちゃんが銃撃やトンファーキックで蹴散らしつつ(最早トンファー型の銃の意味が無いんじゃないかと思う)どんどんと突き進み、前回の休憩から一時間(エルザちゃんが教えてくれた)ほど歩いたところで、ソレは現れた。

 

 青白くて、エルザちゃんの魔力光に反射して妙にテカっている微妙に曲面を描く壁。見えない天井の方まで聳(そび)え立っているのか、頂点は見えない。

 

「あ~、分かったロボ。これドールロボ」

「「ドール?」」

 

 ドールってなんだっけ。なんか前に聴いた覚えあるけど。

 

「巨大なミミズみたいなもんロボ。ん~……ここに充満してる煙の麻薬と媚薬の成分、コイツから採取された物みたいロボね。品種改良でもされてるロボ? この洞窟もコイツが掘った物ロボね、サイズ的にピッタリロボ」

 

 あ~、思い出した。ドールね、サイズダウン版がエロゲによく出てたなぁと考えた覚えがあるよ。そんな話してたね。

 でもそれってティンダロスの猟犬の仲間じゃなかったっけ? ダゴン関係あるの?

 

「ミミズ……これが……?」

「まぁ、ミミズっぽいだけで百害あって一利無しの害獣ロボ。でも今は休眠中みたいロボね。コイツが動いたら大災害レベルの地震がおきてもおかしくないから、刺激しないようにさっさとコソコソ行くロボ」

「賛成」

「……地球にはこんな生物が一杯いるの……?」

 

 あ~、フェイトちゃんカルチャーショック受けてるよ……まぁそうだよね。僕だってここが転生前の世界だったら唖然としてたわ。

 

「フェイトちゃん、一応言っておくけどこんなのそんじょそこらに居ないから。地球も基本的には普通の生態系だから。僕も初めて見たからね、こんなの」

「そ、そうなんだ……」

 

 うん、そうなんです。だから地球に恐怖心を抱かないでね? なのはちゃんとクラスメイトになるフラグばっきんばきんに折れられたら困るよ僕。完全に僕のせいになっちゃうし。

 

「しっあわっせなっら手っをたったこっ♪ しっあわっせなっら手っをたったこっ♪ し~あわ~せな~らた~いど~でし~めそ~およ♪ さ~あみ~んな~で手~をたた~こ♪ ロっボっ♪」

「「この状況下で何で歌いだしたのエルザ(ちゃん)(さん)!?」」

「む、ここでドールが動き出して、地上までのショートカットが出来るフラグは立たなかったロボね」

「「お願いだから静かにして!?」」

 

 なんでわざわざ危ないフラグ立てようとすんの!? それ博士と一緒ならギャグ補正でどうにかなるかもだけど、僕達普通だから!! 僕とフェイトちゃん巻き込まれたら死ぬから!!

 

「二人の声も充分でっかいロボ」

「グゲャ!?」

 

 うん、それは重々承知ですがね? あと奇襲をかけたのにあっさり普通におしゃべりされながら片手間で倒されていく深き者共が、そろそろ見慣れてきたせいか哀れに思えてきたんだけど、コレって精神汚染されてる影響とかじゃないよね?

 

「バルディッシュ……私色々と不安になってきたよ……」

『Please become fine. Master』

 

 なんか、本当、色々ごめんね、フェイトちゃん……。

 

 ――あれ、でもちょっと待って? ドールが動いたら大地震起きるんでしょ? で、ここ掘ったのは恐らくドール。

 

 おかしくないか? 恵理那ちゃんが言っていた行方不明事件って、先月10日前後からでしょ? もしそれの前後にここが作られたとすると、そんな大地震がニュースになってない訳ないよね。

 じゃあもっと昔からあったのか? だとするとドールは相当昔からここを住処にして掘ってあったとか? やっぱりこの世界にクトゥルフ実在するのか?

 でもそれならもっと昔から深き者共がここをねぐらにして活動していた筈だ。最近になってそんな行方不明事件が持ち上がるなんておかしい。

 

 ……駄目だ。情報が少なすぎるな。今はこの思考はカットだ。 

 

 頭を振って疑問を振り払ったところで、エルザちゃんがちょっと何かを考えるようなそぶりを見せながら、また一体深き者共を肉塊にして振り返った。

 

「そういえば、暇つぶしついでに訊きたいロボ。フェイトちゃんは何でジュエルシード探してるロボ? やっぱりお家が貧乏で、資金稼ぎのためロボ?」

「いや、そんな理由で探すのエルザちゃんと博士だけだから」

 

 いきなり何を言うのかと思ったら、誰も彼もが貧乏なわけじゃないよエルザちゃん。ジュエルシードを金策に使おうなんて普通考えないから。

 

「……貧乏……? ――ハッ!? 確かに母さん最近ご飯食べてない気がするけど、もしかして……じゃああのお土産のケーキを食べなかったのも、私に食べさせてあげようと……」

「いやいやいや!? 絶対違うと思うよ!? 君のところ要塞みたいなお家持ってるし、ガードロボも一杯いたよね確か!? どう考えても貧乏じゃないよね!?」

 

 意外にフェイトちゃんおバカ系キャラだった!?

 

「……そうだけど、なんでソレを知ってるの?」

 

 

 ……。

 

 

 ……、……。

 

 

 

 ……、……、……ぬかったぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 うわあぁぁぁぁぁ!! 駄目だろ僕がそれを知ってること言っちゃ!? エルザちゃんのバカ!! エルザちゃんのボケにフェイトちゃんが乗っかっちゃったもんだから、僕ツッコミ入れちゃったじゃないか!!

 

「……そうだエルザちゃん。ガードロボと言えば、破壊ロボって今作ってないの?」

「装甲材はいくらでもあるけど、電子機器部分が中々集まらなくて外殻だけ作って放置中ロボ」

「義嗣くん、でいいよね? なんで、私の家のこと知ってるのか、説明して」

「……ハイ」

 

 首筋に、首筋に魔力刃はちょっと、勘弁願いたいですよ。

 あ、でも至近距離でフェイトちゃんのご尊顔を拝めるという特典があるよ!! やったね!! 全然嬉しくないよ!!

 

 ……考えろ、考えるんだ僕。

 

「天ヶ崎くんからキイタンダ!!」

「悠馬が私と一緒に時の庭園に来たことは無い。それに貴方がそこまで仲が良いなんてこと聴いたことない」

 

 ですよね~!! 一度フェイトちゃんがお家に帰った時もあいつ学校きてたもんね!!

 

「こらこら、義嗣をいじめちゃ駄目ロボ。フェイトちゃんお姉ちゃんなんだから、弟には優しくするロボ」

「ちがやい!! 同い年だい!!」

「なんで、私が同い年だって、知ってるの?」

 

 チクショー!! ドツボにはまっていくよおおおお!!

 

 落ち着け、僕のIQ180の半分以上は行ってると思う脳みそよ、フル稼働するんだ!!

 

 1.「この前僕遊びに行ったじゃないか、やだな~も~フェイトちゃんったら☆」

 うん、どう考えても誤魔化せないね!! いつ来たんだよ!! って言われて終わりだね!!

 

 2.「この前、ストーキングしたんだ!!」

 まずどうやって後をつけてたのかとか、時空間移動どうやったとかツッコミくらって終わりだね。

 

 3.「好きです。結婚してください」

 ……二次創作とかでよくある、無印でもあわあわするフェイトちゃんであった場合は、誤魔化せるか!?

 いや、無理だな。っていうか、即殺されるな。

 

「トンファービーム!!」

「グゲァ!?」

「「だからそれトンファー関係ないよね!?」」

 

 今指先からフ○ーザ様のデ○ビームみたいに出てたよね!?

 

 くそぅ、ツッコミだけは完全に息合ってるから見逃してくれないかねフェイトさんや。同じツッコミタイプのよしみで。

 そしてエルザちゃん助けて? 割と僕テンパッてて誤魔化す方法が思いつかないんだけど。あ、また狂気に侵されたフリする? いや、無理だわな。今更だわな。

 

 ――あ!! そうだよ。ここは全て邪神のせいにしてしまえばいいのだよ!!

 

「で、どうして?」

「えっとね、実は、今回のこの怪異の奴等に取り込まれかけた時に……前回のジュエルシード戦で肉片がフェイトちゃんの体に付着してたみたいで、それが時の庭園とやらまで一緒に行ったみたいでね? それの記憶というか、視覚情報というか、そんな感じなのが流れて込んできたの」

「――そういえば、確かにあの後マントに変なのが少し付着してた覚えが……」

 

 よぉっし誤魔化せた!! 邪神さんありがとう!!

 いあいあはもう言わないけどね!!

 

「目からビーム!!」

「「もはやトンファーの名前すらついてない!?」」

 

 使わないならいっそソレ貸してよ!?

 って、そうだよ。ガントンファー貸してもらえばいんじゃね? そしたら僕も戦力になれるんじゃないかな。

 

「ねぇねぇエルザちゃん。それ使わないんならいっそ貸してもらえない? 銃使えれば僕も少しは戦力になるでしょ?」

「ロボ? でもコレ50口径だから子供が撃つにはちょっとキツいと思うロボ」

「50口径!? それマグナム弾なの!?」

 

 ごめん!! マグナムとか無理!! デザートイーグルとかを大人が両手撃ちしても滅茶苦茶反動でかいのに、この子供の身体じゃ無理だから!! しかも形状がトンファー型だから絶対制御できないわ!!

 

「ねぇねぇフェイトちゃん、フェイトちゃんは何か予備の武器とか無い?」

「……私はバルディッシュ無しでもある程度魔法使えるから、そういうのは持ってない」

「……だよね」

「……ごめん」

「いや、こっちこそごめん、最初から自衛用の武装くらい持ってろって感じだよね……あはは…

 

 参ったね……やっぱり僕戦力になれないのか……。

 

 う~……最近何もしてなくても巻き込まれが酷いし、意地張らないで博士あたりに武器作ってもらおうかな。恵理那ちゃんに魔術教えてもらっても良いんだけど、常に女装って……僕がそっちの方向に目覚めちゃったらどうするんだよって感じだしね。

 

 って言っても、僕が使える武器なんてせいぜい女性用の小型拳銃くらいだろうなぁ……人間相手なら充分だけど、今回みたいな怪異に巻き込まれたら明らかに火力不足だよね……。

 

 あ、今頑張ればガンドとか出ないかな。神酒なんて凄いものガッツリ飲んだわけだし!!

 

「ガンド!!」

 

 右手で鉄砲の形を作って叫んでみる。

 何も出ませんね。わかってた。わかってたよ?

 

「えっと……ガンド……って、何?」

「ごめん、訊かないで……」

 

 恥ずかしすぎる!! 前世で子供の頃かめ○め波の練習してたのを、大人になってから思い出した時ばりに恥ずかしい!!

 

「あ~、強く生きるロボ、義嗣」

「うん、強く生きるデスヨ」

 

 悔しいぜよ……。

 う~……あ~……くそ、チート能力とまではいかなくても、やっぱり僕にも自衛手段が必要だよ。ダメだ。こういう時明らかにお荷物だし、帰ったら絶対身体鍛えよう。そんで博士に武器作ってもらおう。防具とかもあれば良いね。

 とんでも素材で作った防弾防刃の服とか、時計型麻酔銃とか、携帯電話型爆弾とか。日常で持ち歩ける外見の物で作ってもらおう。タンス貯金のお金(二万円くらい入ってる)全部渡せば一個くらいは作ってくれるだろ。多分。博士なんだかんだでお人よしだし。

 

 そう、時代は科学!! 科学技術なのだよ!! 魔法とか魔術なんて知ったことかば~か!! ガンドなんて使えなくてもいいやい!!

 

 ……でも投影魔術かっこいいよなぁ……ガンドも弾薬必要無しで撃てるし、殺さずに済む非殺傷魔術としてはかなり優秀だもんなぁ……フォトンランサーとかディバインシューターとかも使いこなせたらかっこいいよねぇ……そしてバリアジャケット欲しい……やっぱり変身って男女問わず子供の夢だもんねぇ……あ、魔道書と合体してマギウススタイルとかも有りだね。うふふのふ。

 

 ――うぅ、ごめんなさい。やっぱり魔法とかも使ってみたいです。諦めたらそこで試合終了だよって声かけてくれる人いないのが切ないです。

 

 今後について一人で頭の中で考えていたら、また新しい深き者共を一人潰したところで、エルザちゃんがふと、何かを思い出したように「あー」と呟いてから、少し困ったような笑顔でこちらを振り向いた。

 

「ねぇ、フェイトちゃん。突然な話だけど、エルザは人造人間だってのはまぁ、何回も言ってるロボね?」

「少し信じがたいけれど、一応は。目から収束魔力砲出るような人間はいないと思うし」

 

 うん、さっき出てたね、目からビーム。エルザちゃんどんだけ体内に兵器隠し持ってるの?

 

「うん。……ふぅ、で、それを踏まえた上で、覚えておいてもらいたいロボ」

「……? はい」

 

 急にどったの、エルザちゃん。

 

「人造人間だって、れっきとした人間ロボ。だから、製作者が気に食わなかったら殴ったって蹴ったって良いし、いくらでも文句を言っていいし、恋だってして良いんだと思うロボ。っていうか、エルザはしたいロボ」

「……そう、だね」

 

 ……エルザちゃん。そっか、フェイトちゃんもエルザちゃんみたいなサイボーグとアンドロイドの合いの子と違って、純粋な生身のクローンとはいえ、人造人間であることには変わりないからね。今はまだ原作の話の流れ的に自分がクローンだなんて知らないだろうけど、それを知った時の迷いを減らそうとしてるのかな?

 

「うん。それに、人造人間が例え誰かの記憶や人格転写をされて作られた物だったところで、魂の形まで同じになることは無いロボ。だから、感情も感性も魂レベルで違う別人である以上、コピー元の人間とは違う人間に成長するのも当たり前ロボ。エルザなんてまさにそれロボ。

 ――エルザの元になった博士の本当の妹さんは、もっとおしとやかで、でも芯が強くて、とっても優しい子で、ロボなんて変な語尾の無い普通の子だったそうだロボ」

 

 寂しそうに言うエルザちゃんの顔は、それでも笑顔だ。

 

「でも、例え別の人間になっちゃっても、記憶も感情も、本物のエルザちゃんの物を持っている以上は、エルザは博士の妹だって博士は言ってくれたロボ。それに、博士は自分が作り出した以上、エルザは妹であると同時に愛娘だから、エルザのためならなんだってしてやるなんて言っちゃうとんだ変態でシスコンな親バカさんロボ」

「……何が、言いたいの?」

「……子を愛さない親なんて、いないロボ。親を思わない子なんて、いないロボ。でも、子を愛するあまり親が狂ってしまったのなら、子はそれをどうにかしてあげないといけないロボ」

「分かってる。母さんがもしもおかしくなってしまっても、私は見捨てない」

「見捨てないことと、どうにかしてあげることっていうのは、違うロボ」

 

 フェイトちゃんの返答に、首を振って否定するエルザちゃん。

 そこに空気を読まない深き者共が突っ込んできたが、エルザちゃんの回し蹴りをくらってただの肉塊へと一瞬で変化した。

 

「親が道に迷ったなら、一緒に道を探すのも良いし、代わりに誰かに訊いても良いロボ。

 親が誰かを傷つけてしまったのなら、一緒に謝りに行くのも良いし、自分の非を認めないで駄々をこねるなら、ひっぱたいてやるのも愛情ロボ。

 これは親だろうが子だろうが、家族なら当然しなくちゃいけないことロボ」

「…、…」

「例え人工的に作られた、仮初の人格と記憶と心を持ったエルザでも、それくらい分かるロボ。生きている以上、死んでしまった子の分も、親のために頑張るのが子の、家族の役目、責任ってものロボ」

「そうだね……」

「……ごめんロボ。何を言っているのか、今はきっと理解できないかもしれないロボ。でも、忘れないで欲しいロボ。例え自分が傷ついても、傷つけられても、例え全てが仮初であったとしても、少しでも親に愛を感じているのなら、最後まで諦めないで、自分の親を、自分の家族を少しでも正しい道へと引き戻してあげてほしいロボ。それが、家族の責任だと思うロボ」

「……わかった。覚えておく」

「ありがとうロボ。今日会ってから、フェイトちゃんの顔を見ていて、ずっとコレを伝えたかったんだロボ。……そういう意味では、義嗣は良い仕事をしたロボ」

「へ?」

 

 あ、ごめん。なんか、エルザちゃんが良い話ししてるんだなぁと思って、聞き入ってた。

 

「ふふ、こうやって落ち着いて話せる状況にでもならないとフェイトちゃんとお話しする機会なんかきっと無かったし、もし今日全てが上手く進んでいたら、きっと何も言えないままお別れになっていたロボ。だから、ありがとうロボ、義嗣」

「いやいや、なんで僕に感謝するのさ。むしろ迷惑かけてごめんなさいしなくちゃいけない立場なのに」

「ふふ……確かに、義嗣くんは迷惑かけてるだけだね」

 

 あうあうあ、心にグサグサ刺さるとですよ?

 って、あれ? 今フェイトちゃん笑った?

 

「ん、フェイトちゃんはやっぱり笑ってた方が可愛いロボ。流石は我が妹ロボ」

「いやいや、フェイトちゃんいつエルザちゃんの妹になったのさ」

 

 エルザちゃんの意見には賛成だけども、フェイトちゃんの笑顔可愛いけども。是非とも幸せになってもらいたいですけども。

 

「妹……か」

 

 おう? 意外に好感触なの? 妹発言。

 

「そう、妹ロボ。だからいつでもこのエルザお姉ちゃんを頼ると良いロボ。必要なら博士の尻蹴っ飛ばしてでも手伝わせて、なんでも助けてあげるロボ」

「……ありがとう」

 

 ぽつり、と呟くように洩らしたフェイトちゃんのお礼は、ちゃんとエルザちゃんには聴こえたようで、満面の笑みを浮かべていた。

 

 惜しむらくは、深き者共が全く空気を読んでなくて、歩きながらのこの会話中に、何度も襲い掛かってきていたことである。ろくにしんみりもさせてくれない連中で本当に嫌になるが、フェイトちゃんの少し穏やかな笑みと、エルザちゃんの朗らかで優しい笑みを見ていると、なんかどうでも良くなった。

 

 この二人の交流が、どういう結果をもたらすのかは、今の僕には分からないけれど、きっと、悪い方向にはならないんじゃないかな、と、そんなことを思う。

 

 邪神じゃないほうの神様、いるんだったら少しくらいはこの子達に幸せを恵んでください。ぶっちゃけ僕のSAN値とか幸福なんてどうでも良いから。苦労してる子達に、愛の手を。可愛い子達は愛でるものなんだからね、神様?

 

 

 

 

 出口が近い、らしい。

 神酒によって回復したフェイトちゃんもそろそろ疲労がたまってきていたし、エルザちゃんのガントンファーも弾切れを起こし、遊んでいる余裕も無くなったのか、ビームとかは出さなくなってきた頃のことだ。

 

「間違いない?」

「風が強くなってきたから間違いないロボ。それと煙が増えてきたから、絶対に防御魔法解いちゃ駄目ロボ」

 

 ようやく、外に出られる。そう思えば、三人とも足が速まるのは仕方の無いことだろう。

 

 まだ外は夜なのか、光が差し込んだりはしているのが見えないものの、遠めに何かが燃えているようで少し大きめの火の光が見える。ただ、代わりにこのあたりからは蝋燭がなくなっているようで、完全にエルザちゃんの発光している身体だけが光源だ。

 

 あの焚き火のようなところまでどれくらいの距離かは分からないけれど、もう少しの辛抱だ。ぶっちゃけ、足がそろそろ棒のようになってきているし、喉の渇きも空腹も限界なので、あと少しで歩かなくて良くなるというのは本当に助かる。

 

 あの一度の休憩の後は二人が平気そうだったので、僕も休憩を言い出したりしなかったのだが、魔法も気みたいなのも使えない一般人の子供の身体には結構な負担になっていた。

 

 エルザちゃんに時間の確認をとっていなかったが、どれくらい歩いたのだろうか。

 

「……嘘」

「……そういう、ことロボか……」

 

 と、二人の声にいつの間にか下がっていた頭を上げる。

 

 そこにあったのは、壁。いや、よく見れば僕の拳一つぶんくらいのサイズの穴は空いている。そこから、ほんの少し、薄明るい日の光が差していることから、外は日が昇り始めているところだろうか。

 

 他にある光源は、ぐつぐつと煮えている謎の青白い蛍光色の液体と、それを煮る為に焼かれている、明らかに何かの肉と思わしき物が薪になっているところだけ。このあたりにもろうそくは置いていないようだ。

 

 遠めだと、外の光なんて近くで燃える焚き火の光でかき消されてしまうくらいの、心もとない光。そんなものが通る程度の穴しか無い。このまま脱出するのは不可能だろう。

 

 でも逆に考えれば、このままでは無理でも、穴を広げれば出れるはずだ。

 

「……良かった。穴が開いてるなら、壊して出れるね」

「良くないロボ、義嗣。確かに穴は開いてるけど……」

 

 コンコン、とエルザが壁をノックして、頭を振る。

 

「壁の厚さ、4~5mってところロボ。ディグミーノーグレイブが使えれば簡単に壊せるロボ。でも、今は弾切れのただのトンファーだけロボ。フェイトちゃんはどうロボ?」

「……私も、出力を絞っていたとはいえずっとプロテクションを展開していたし、そこまで余剰魔力がある訳じゃない。まして4m以上の岩盤を一撃で砕けるような物理的破壊力を伴った魔法となると……」

「魔力刃で掘ったりは?」

「出来なくは無いと思うけど……」

 

 まぁ、ここまでずっと魔力消費してきてるし、そんな重労働女の子にさせる訳にはいかないよね。

 

「分かった。フェイトちゃん、フェイトちゃんはデバイスなしでも魔法って使えるんだよね?」

「え……? うん、使えるけど……」

「じゃあ、僕が掘るから、バルディッシュ貸してもらえない? 一応、僕にも魔力はあるらしいから、バルディッシュが魔力を吸い出して魔力刃を出してくれれば、後はただの力仕事でしょ? それにこれならエルザちゃんと固まって休んでいれば、フェイトちゃんも少し休憩できるし」

「あぁなるほど……それなら確かに、残り1mくらいまで掘ってくれれば、エルザが全力で殴れば壊せる程度の硬度にはなると思うロボ。……でも、大丈夫ロボ? 義嗣も相当身体疲れてると思うロボ」

「そこは男の子の意地って奴ですよ。ただでさえ足手まといだったんだから」

「でも……」

『Let's be in the proposal.It is not the scene of straining oneself.

Master』

「バルディッシュ……」

「バルディッシュも賛成だそうロボ」

「よぅし、じゃあちょっとは男の子らしいところ、頑張ってみせますかね!!」

 

 元から戦力外の僕が動いてる間は二人も休めるだろうし、急に深き者共が湧いて出てきても二人なら対処できるだろう。

 

 さてさて、炭坑少年ピッケル☆よしつぐ、始まるよ!!


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