転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】 作:マのつくお兄さん
5月2日、月曜日。黄金週間中において二回ある登校日の一度目でアる。
朝、相変わらず少しビクビクしていた刹那だったけれど、僕が一人で家を出ようとしたら、いきなり手を掴まれて怒られた。
「やっぱりダメだよ義嗣。辛いのも、私達に迷惑をかけないようにしたいっていうのは分かるけど、そんなに露骨に孤独になろうとしないで」
「えっと……?」
僕、甘ロリ薄化粧のロリ女装中。相手はリアル美少女外見の男の娘。何故か今日は男子の制服ではなく女子の制服。
傍から見たラこれ、なんか女の子同士に見えてルんだろうか。いや、見えてるんだろうな。さっきすれ違った近所のおばさんが目をパチクリさせて、他のご近所さんとひそヒそ何か話してたし。
「ごめん。私もちょっと気味が悪いとか思ったのは確かだけど、やっぱり私にとって、義嗣は大切な理解者だからね。その……えっと、怖がったりして、ごめんなさい。だから、やっぱり一緒にいよう?」
「え、えっと……えっと?」
イカん。ちょっとテンパってきたぞ。これどういう状況? って思ったら、玄関のドアを開けてこっちをニコニコしながら見ていて、こちらが気づいたのが分かると手を小さく振ってきている茶色のブレザーと普通のスカートをはいたエルザちゃんの姿がアった。
――って、アレ聖詳大附属中の制服じゃなイか。何気にご近所さんだっタんだなエルザちゃん。
あ~……それにしても、なんだよもう。嬉しいじゃないか。
「……やっぱり、私みたいなブサイクで薄情な子は嫌いになっちゃったかな?」
「ニャ~!! もう、そんな訳ないジゃないのさ刹那!! 僕にとってモ刹那は大事な存在だかラ、一緒にいたいのでお願いしマす!! 学校も一緒に行こウ!! 一緒の布団は無理でも、また家でもお話してくれたら嬉しイよ!!」
「――ありがとう。義嗣。それと一緒の布団でもいいよ。やっぱり、なんだか寂しくてさ。セイバーに後ろから抱きしめられてるのも別に嫌じゃないって今は思えるんだけど、自分が人を抱きしめてるのって、凄く安心するんだ」
「あ~、それは分かるカモだよ」
確かに人肌のぬくもりって、安心するヨね。マァ寝てる間に何しでかすかわかんないのが怖いけど、今のオレ。クヒ。
「だからね、え~っと……。……ま、まぁとりあえず学校に行こうか」
「あ、えっと、そ、そうだね!!」
……刹那、誤魔化し方無理やりだし、強引に握ってきた手はすっゴい震えてるし、何気に声も実は結構震えてるのに、無理しなくっていいのニなぁ。やッぱり優しいなぁこの子。
「エルザ~、そろそろ出ないと学校遅れるであるぞ~?」
「合点承知ロボ~」
あ、そういえば博士は今日は単独で学校を休んで僕達の護衛というか、監視といウか、ワズラワシイヤツダ。まぁそんな感じのことをするために小学校にもついてくるらしい。
セイバーもついてくるがこちらはあくまで刹那の護衛。
骨伝導マイクとイヤホン? とかいうのを渡されて首元と耳の後ろに変な機械をつけさせられたので、何か指示があったらそれで伝えるとのこと。
二人は博士お手製のステルス迷彩(サーマルセンサーにも映らないし、消音機能もついた優れものらしい)を着込んでくるらシいが、お前さんそんなものがあるなら窃盗とか繰り返したら簡単に大金持ちなんじゃないだろうかと思ったのは秘密である。下手なこと言って、「その手があったのである!!」とか言い出したら怖いので。
でもまぁ、窃盗とかのレベルならまだマシなんだろうネ。
もし博士がどっかの軍隊とかの研究施設に入ってたら、量産簡単超高性能大量殺戮兵器による旋風がこの世界にまきおきていただろうし、本当良かったヨなぁって思うヨ。
もしこれデ博士が「非人道的研究も、資金も自由にどうぞ」って言われてお隣の独裁国家あたりに流れちゃってタら、下手したら世界征服されててもおかしくなイし。
「ところで義嗣」
「ん? 何? 刹那」
「その格好、とっても似合ってて可愛いよ」
「刹那には到底かなわないよ」
なんニしても、少し震えながらも薄く微笑んでぎゅっと手を握りながらそんなことを言ってくれる刹那は、本当に可愛くて良い子だなぁと思った。女装褒められてもあんまり――いや、ちょっと嬉しかったりする不思議な感覚だけど、まぁあとりあえずそこまで嬉しくはないんだけどね。
☆
学校である。アリサちゃん、すずかちゃんに挨拶したら同時に「「……誰?」」って感じに反応されたのは悲しムべきか、それとも女装癖が無いと信じてもらっていたことに感謝すべきか。どっちにしろ僕の色々な沽券とかは欠片も無く粉みじんに粉砕された訳でアるが。
で、更に刹那も女の子の制服着てることでクラス中から「どうしたの?」とか「なんで女子の制服なの?」トか「佐々木さんは僕の嫁」とか色々な声が聴こえてきた。ところで最後の奴はちょっと頭冷やそうぜ。刹那は虎次郎の嫁だから。刹那にその気があったら僕の嫁デも可であるが、まぁどっちにしろ女の子に戻ってからの話である。
「さ、佐藤くんが、裕子ちゃん? いや、裕子ちゃんよりも可愛い? ど、どういうことなんだろう」
あ、隣の席の鈴木くん(覚えてる人いる? 唯一のモブ友達にシて、僕の中の好感度が一番低い友達)がなんか言ってるけど、気にしマせん。ついでに言うと、僕が制服ではないことに誰もツッコミを入れてなくて、刹那が女子の制服であることにしか注目していないのがなんともかんとも、って感じであル。
結局、囲まれて質問責めにあっていた刹那が解放されたのは先生が入ってきた時のことであっタ。
なんていうか、大変だね、刹那。僕なんか今こうして女装して制服ですらない格好ナのに、先生に何も指摘されないままスルーされたよ。
何故か、恵理那さんからはガン見されてて嫌な汗をかいたけど。
そして僕は相変わらず殆ど注目されないまま(それでもやはり多少は目立ったのか、たまに僕のことを指差して何か言ってるのとかもいたけど)お昼となった。いつもの通り、屋上で一緒に弁当を食べる僕と刹那。今日はそこにアリサちゃんとすずかちゃんも一緒だ。
「しかし刹那、アンタ女子の制服が嫌なくらい似合うわね。女の子として色々自信無くなるわ……」
「そうだね……そ、それでもやっぱり、格好良いっていうか、その、私は好きだけど!!」
「あはは、ありがとうすずかちゃん、アリサちゃん。でも二人の方がずっと可愛いと思うけどね」
う~ん、シかし本当に誰も僕の服にツッコミ入れないな。僕、朝出かける前はどうなることかと胃が痛くなりそうだっタのに拍子抜けだ。本当モブだなぁ僕。それとも因果とやらの微弱なステルス機能とやらが効いてる状態だからこそナんだろうか。
普段なら若干ションボリであろうが、こういう状況ではありがたかっタ。
「それにしても、二人して女装ってどういうことかと思ったけど、虎次郎とそんな罰ゲーム賭けてやってたなんてね。あいつもバカよね~。折角させたのに本人がいないんじゃ仕方ないのに」
「ははは、まぁ仕方ないよ。むしろこっちもそれを狙ってわざわざ居ない日にやってるんだし」
あ~、なるほどネ。虎次郎カら受けた罰ゲームの結果ってことにしたのか。それなら確かにありえなくもないしわかったわ。それにしテも僕にツッコミが全く来なかったのは本当に予想外だけども。モブって多少のことじゃ目立たないのは凄いね。
あ、いや、刹那ってば僕が目立つの嫌いなの知っててわざと自分も女装してきたのカ? つか、女の子が女装するって言い方も変だけド。
「でも刹那くんは本当、何着ても似合うよね……」
「っていうか、こっちはもう慣れてきちゃったけど、ヨッシーのほうよ、問題は」
あ、そして今更ツッコミくるんだ。遅くナイ?
「あ~……確かに、可愛いけどちょっと――その、え~っと、スカート短いよね」
「ちょっとどころじゃないわよ。階段なんかでは一段下にいるだけで全部見えるわよ? っていうか、さっき実際ずっと見えてたわよ。下着まで女物なのにはどう反応したものかと思ったわよ全く」
「アハハ……いやぁ、虎次郎の注文でネ!!」
僕の発言に、すずかちゃんは苦笑しているが、アリサちゃんは「ああいうのが好みなんだ虎次郎……っていうか、やっぱりアイツそっちの気があるんじゃないかしら……」とか言いながら考え込んでイた。
ごめんね虎次郎、お前がいない間におまエの同性愛疑惑が再浮上してきチゃったけど、頑張ってね?
心の中で虎次郎に謝罪しツつ、僕は刹那お手製の甘くて美味しい卵焼キに舌鼓を打つのであった。
午後の授業中、ガキン、と頭の中で異音が響いたが、気にシナイ。
暫くして、背後に、足元に、誰かの気配を感じたが、気にシナイ。
皆大好きダカラ、愛シテイルカラ、ジブンダケノモノニシタイ。
シテシマエ。
ぐるぐると渦巻く黒い欲望と、甘くて従いたくなる声に、やれやれとため息を吐きたくなる。
とてもくだらない妄想ダヨネ。ちゃんちゃらおかしい。
それは愛じゃないよ。ただの独占欲だ。嫉妬するのも良いし、やきもちやくのもいいけれど、相手のことを考えない愛なんて、それは自己愛でしかない。子供のわがままだ。嫌がる猫や犬を無理やり抱きしめたり、野生の鳥を捕獲して鳥かごに放り込んで飼おうとするのと変わらない。
それで愛していると思い込ンデ、噛み付かれたら文句を言う。バカじゃナイの?
君のそれは、愛なんかじゃない。精神汚染なんてちゃんちゃらおかしい。これはただの誰かのエゴだ。その執念とかそんなものが、どうせなんかの能力で僕にでもとりついてるんだろ?
僕の思考に苦情を言うかのように右足に締め付けるような万力で一箇所を潰されているような。ナイフでグザグザ刺されてイルような酷い激痛が走るけど、知ったこっちゃない。
僕を侮るなよ? この程度の痛み、我慢できなくて何が男の子か。
邪神の眷属? 精神汚染? ふん、僕を染めたければその三倍は持ってこいというのだ。
――なんてね。ギル君みたいな発言をしてみたり。本当は半端なく痛くて、今がいつだかわからなくなって、叫びだして走り出したいし、足を引きちぎりたい誘惑にも駆らレルけれど、耐えられナイわけじゃない。
脂汗も酷いし、顔色も多分真っ青だろう。
でもさ、僕ってば歩けるじゃない。走れるじゃない。痛いけどさ、僕の脚はここにあるじゃない。
ここに足があるからこそさ、痛い訳だから、だったら、痛いくらい別にいいじゃない。僕、非戦闘要員だもの。気が狂いそうなほど痛いけど、実際に傷ついてるわけじゃないもの。本当に前線で身体張っテ傷つくのは、なのはちゃんとか、虎次郎とか、刹那とか、悠馬とかナンダ。
それにクラベタラどうせ一時的なイタミでしかない。
それに考えてごらんヨ。はやてちゃんなんか、最初から足動かないんだよ? 闇の書が起動したら一時的に良くはなっても、どんどん苦しむんだよ? 歩くどころか、生きることすら辛いくらいの苦しみに苛まれるんだよ?
だったら、耐えて見せるよ。僕男の子だし。男の子ってのはやせ我慢して格好つける存在なんだよ。
はやてちゃんはきっとソレに耐え切れたんだカラ、ダッタラ、僕だって男の子として、譲れないプライドがあるモノ。
そして放課後、ようやく少し退き始めた痛みに内心感謝を捧げつつ、授業中に何度も意識を失いながらも耐え切った僕は、刹那やすずかちゃん、アリサちゃんに心配されたけど、一人で学校から出て歩き始めた。
博士からの連絡で、二人よりも一人の方が狙われる可能性があるからということで囮として今日も歩くことになったのだ。
脂汗のせいでエルザちゃんがしてくれた薄化粧は殆ど意味が無くなったけれど、おかげで気にせず顔を洗ってサッパリできたので結果オーライということにしておこう。折角してもらった化粧が残ったままだと顔を洗うにも抵抗があったからね。
本当ならお風呂に入って、服も着替えたいけれど、今は関係ナイ。どうでも良い。アルクノガ僕のシゴトだ。
一人でふらふらと歩いていると汗で服がべたつくし、どんどん右足の違和感が酷くなって、時折足がもつれるけれど、どうでも良い。
ソモソモナンデボクハコンナコトヲシテイルンダロウカ。
ナンデ、コンナクルシイオモイヲシテマデ、ガマンシテイルノダロウカ。
ラクニナロウ。ゼンブメチャクチャニシテ、ササゲテシマオウ。
うるさい。黙れ。お前のわがままを聴いてるほどこっちも暇じゃないのだ。わがままなんて自分で抑えてよね。こっちだって色々な欲が湧いても我慢してるんだから。貧乏人舐めんなよ。贅沢はテキなんダからね。自制心は割トアルほうなんだからね?
視界がぐるぐる回る。ちゃんと歩けているだろうか。博士からの指示はナイ。きっとちゃんと歩いている。
人間の姿が全部、不定形ナナニカに見エル。重症だね。まずいかな。イヤ、ダイジョウブだよ。オカシクナンテナイ。
猫がいた。可愛い。クビリコロシテヤリタイクライ。そんなことするわけないじゃないか。もふもふするんだヨ。もふもふって知ってる? 僕の一部なんだから分かるでしょ? すんごい気持ちイインダカラ。シアワセな気分にナレるンダカラ。アヘンヤ人間ノ女ノアジニハトオクオヨバないけどね。
アヘン? 僕そんなモン吸う気無いよ。女の人を性的にも食事的にも食う気は無いよ。僕は無理矢理とかカニバリズムを認める気はないのだ。カニバリズムは両者合意の上でナラ別に否定はしナイけど。
全く、どこの宗教団体さ。あ、そうか、深き者共か。不健康な奴等ダ。
「――呆れたわね。アナタ一般人みたいなのに、そんな呪いによく耐えられるものだわ」
声がキコエタ。顔を上げると、白くて綺麗な髪と、透き通るような肌、真っ赤な瞳はとてもウツクシクテ、グチャグチャにハカイしてやりたくなるような。
呆れたような声ナノニ、とっても優しクテ、頭をナデられタような気がして、ボロボロ涙が流レタ。
「オトコノコだからネ」
「ふぅん――立派じゃない? そんな可愛らしい格好してるのに」
くすり、と微笑むソノ姿ハ、まるで天使ノヨウダッタ。
オリジナル版を小説家になろうにて掲載開始。タイトルは
「輪廻転生ラプソディ~双子兄妹のドタバタ騒動記~」
となっております。