転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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26.調べ物と博士

 午前中は家で家計簿付けや勉強を終わらせてから、昼食をとって僕達はひとまず図書館へ向かうことにした。今回はセイバーもお父さんのスーツを着込んでいて、休日なのにスーツを着て子供のお守りをしている若いお父さんみたいな感じの姿で同行だ。

 和服以外着方がわからんとかいうので、着付けしてネクタイ結んであげたんだけど、あのね、セイバー女の人だった。

 

 何を言ってるかわからねぇと思うが、のネタを思わず口走りそうだけどね、うん。女の人だった。胸にサラシ巻いて誤魔化してたけど、普通に胸膨らんでた。和服だとゆったりしてるから気付かなかったよ。

 そういえば、刹那が独白の時に王子様は女性の身体みたいなこと言ってたのを今更気付いたよ。虎次郎の眼のことのインパクトでかくて聞き流してた。

 そりゃあ確かに原作の小次郎よりも声高いとは思ったけど、よもや……ねぇ?

 まぁ、別に男性だろうが女性だろうが、セイバーはセイバーなんだけども。

 女性であることに気付いた時にセイバーがなんとも言えない苦笑いをしてたのでそう告げたら、妙に驚いた顔をした後に優しく頭を撫でてくれた。なんだね、何か君の琴線に触れるようなこと言ったかね僕。

 

 それはともかくなんで図書館かというと、クトゥルフ神話がこの世界にもあるのか、またどういった位置づけの物になっているのかを調べるためである。

 家にPCでもあればネットでパパッと調べられるのだが、生憎とお父さんの書斎にあるデスクトップはパスワードがかかっているし、そもそもお父さんのPCのDドライブの中身をまかり間違って開いちゃったり、お気に入りとか経歴を見てしまった日には、刹那がお父さんと会った時にどんな態度になるかわかったもんじゃないので仕方ないのだ。

 ぶっちゃけ、パスワード自体は英語でラブの後に僕の名前と誕生日だったんで(デスクにおいてある写真立てに書いてあった)使えないことはなさそうだったんだけどね。やっぱりお父さんの尊厳って大事だから。

 で、今日も今日とて図書館に来ていたはやてちゃんと、お供をしていたリーンちゃんと会って、質問してみることにした。ちなみにセイバーのことは親戚のおじさんってことにしてある。セイバーはおじさんと言われて微妙な顔をしていたけれど、そこは諦めてくれい。

 

「クトゥルフ神話?」

「うん。聞き覚えないかな。ホラー系の本とかで」

「う~ん……聞き覚えあらへんなぁ……まぁ、私がホラー自体そこまで読む訳やないってのも大きいんかもしれへんけど」

「そっか~……まぁ仕方ないね」

「ごめんなぁ? なんやあんま手助けにならんで」

「いあいあ、えぇよえぇよはやてちゃん」

「義嗣、関西弁うつってる。あとまたいあいあ言ってる」

「うぐっ」

 

 しまった、また言ってしまった。

 いあいあが自然に出るのは、何かしらの邪神(正確には外なる神だよね、確か)を崇拝する連中の何かの影響を受けてしまってるからなんだろうか。

 やっぱり夢に出てきたダゴンと深き者共だろうか。嫌だなぁ魚みたいなカエルみたいな顔にはなりたくないなぁ……。

 っていうか、そうだ。昼を食べてる時に刹那が言ってたんだけど、ダゴンは深き者共に崇拝されてはいるけれど、外なる神の一柱というよりは深き者共より上位の奉仕種族であるという話を聴いたから、ダゴンは正式には神扱いじゃないのだろうか。そのへん調べるためにも図書館来たんだが、空振りだもんなぁ……。

 

「ふぅん……? なんやヨッシーと刹那くん、お互いの呼び方名前呼びに変えたんやなぁ? ……もしかして、二人ってデキたんか?」

 

 割とシリアスなこと考えてたけど、ニシシ、と悪戯っぽく笑いながら口元に握りこぶしをあてるはやてちゃんを見て脱力した。

 

「そうなんだ。ラブラブなんだよ私達」

「うん。とっても甘々な同棲生活をエンジョイしてるよ」

「へっ?」

 

 刹那がそれを見てニヤリと、こちらも悪戯っぽく笑いながら僕の首に抱きついてきたので、僕も敢えて否定しないで笑って言ってやると、はやてちゃんが目をまん丸に開けて、口もあんぐりと開けて硬直した。

 ふふふ、びっくりしただろう?

 僕もびっくりしたよ。なんでいきなりこういうボケふってくるかな刹那は。

 

「ま、ままままま、マジなんか!? ほんま!? え、男の子同士やんな二人共!?」

「愛に性別は関係ないんだよ、はやてちゃん」

「うん、まぁそこには同意しておいてあげるけど、そろそろはやてちゃんが本気にするから種明かししとこう」

「ふ~ん? やれやれ、虎次郎といい義嗣といい、つれないなぁ」

「虎次郎くん狙うんだったらあんまり僕といちゃいちゃしないほうがいいでしょうが」

「女の子はね、親友とは抱き合ったり平気でするものなのさ」

「それ同性の話でしょ? 僕男だからね、男。今はちっこいけど」

「いや、ヨッシーは今は、だけやなくてこれからもちっこいまんまのほうが絶対需要あるで」

「ショタコンにばっかり需要あっても困るよ……」

 

 刹那の性同一性障害にはかなわないけど、ショタだって充分悩みの種なのだ。せめて女の子に生まれてたら違うんだろうけども。男に生まれたからにはやっぱり身長はほしいじゃない?

 

「まぁ、それは良いとして……参ったね。完全に手詰まりといえば手詰まりだ。ここなら比較的大きい図書館だし、一冊くらいは、と思ったけど」

「そだねぇ……あ、インターネットで調べてみよっか?」

「あ~、そうだね。ここ閲覧用PCあったね。規制入れられてるからあんまり見れるサイト無いけど」

「むぅ、なんやなんや二人して盛り上がって。私だけ除け者かいな?」

「わふ」

 

 はやてちゃん、むくれてる顔も可愛いけども、コレちょっとガチで関わらない方がいい案件だから。はやてちゃん関わって僕がデッドエンド辿ると、下手したらはやてちゃんが次に狙われてA's編が消えるかもだから。

 司書のお姉さんにも下手に訊けないしなぁ。あの人は完全に一般人くさいし。下手に知っちゃうと僕より先に「窓に!! 窓に!!」になってしまうかもしれん。

 と、思ったら刹那が僕に耳打ちしてきた。

 

「――私はクトゥルフについて検索かけてくるから、佐藤くんははやてちゃんの相手してあげてくれるかい? 流石にはやてちゃん巻き込む訳にはいかないだろう?」

 

 やっぱり思うところは一緒のようである。僕も同意だ。

 

「あいあい了解。はやてちゃんはやてちゃん。じゃあ他にホラー系でオススメある?」

「へ? あ、クトゥルなんちゃらはええんか?」

「うん。前に人伝手に面白いらしいって話し聴いて興味持っただけだから。なんか読んだ人は呪われるみたいな話だったんで本当にあるようだったらガチで怖くて読まなかったけど」

「呪いの書物かいな。なんでそないなリアルホラーなもん探しとんのや。――あ、私の家になんや鎖みたいので開けられないようにされてる変な本ならあるんやけども、ソレもしかして……」

「いや、その本は多分違うと思うから大丈夫。でも危ない気がするからそういうのはあんまり触れないほうがいいと思う」

 

 ごめんね、それは闇の書です。誕生日までは開かないとは思うけど、原作イベント先倒しフラグだけは勘弁なので釘を刺して置く。

 

「うげ……確かにそやな。下手にリサイクルなんかに出してもなんや呪われそうやし、家で死蔵させとくんがよさそうや」

「うん、そうしとこう」

 

 ヴォルケンリッターの方々へ、出てきた時にはやてちゃんからなんやかんや言われるフラグ建っちゃいましたけど、許してね、てへ☆

 

「あ~、で、ホラー系やったな。“喉モト過ギレバ”とか“#104”あたりええんちゃうか? 去年の長編かなんかの大賞とったらしいで」

「へ~、ちなみにどんな感じの作品? 出来ればモダン系がいいんだけど」

「え~っと、まず“喉モト過ギレバ”はやな……」

 

 あぁやっぱりはやてちゃん読書家というか、本好き少女だなぁ……本の話する時滅茶苦茶笑顔がまぶしいよ。刹那みたいに哲学書とかをガチで読みふけるタイプではなくて、ファンタジーとか好んで読むライトなタイプだから割かし話やすいんだよね。

 

 結局、オススメされた本は両方共借りて別れたのだが、調べ物が終わったらしい刹那が何枚かプリントアウトした紙を持ちながら涙目になっていて、セイバーに慰められていた。

 

「どったの?」

「うぅぅ……義嗣……私一ヵ月後に死亡確定だよ……」

「――ハァ!?」

 

 何をどうしたらそうなったのさ!?

 

 

 

 

 

 図書館付近の、先日の破壊ロボと出会った公園のベンチに腰掛けながら、刹那と肩を並べつつ何があったのかを聴いていた。

 すると、PCでクトゥルフ神話を調べてみたら一件だけヒットしたためにそのサイトの情報をプリントアウトしている時に突然画面が真っ暗になって、画面の向こうからこちらを覗くティンダロスの猟犬を見てしまったのだという。

 

 そりゃあ泣くわ、本気で泣くわ。とガチで同情してしまった。

 

 ティンダロスの猟犬。90度以下の角度を持つところからならどこにでも靄と共に現れて、狙った獲物を喰らいにくる、表現しきれないほどの異臭と異形の姿をした犬のような生物(?)である。

 流石にクトゥルフ系でもこれは有名なので知っている。追跡が開始されて、現れるまでの期限は30日間だっただろうか。

 ……所謂、回避不可能即死確実イベントフラグ成立。死因は生きながら無残に喰い散らかされるという物。例えるならば四方八方360°、どんな場所からでも現れて、どんなに逃げても逃げたと思った瞬間には逃げてきたのとは別の角からまた現れて追いかけてくるゾンビ犬(無敵バグ状態)に一生追い続けられるという、通称無理ゲー状態である。

 

 そんなのに出会ってしまったとなれば、そりゃあ錯乱もするというものだ。

 癇癪を起こして騒いだりしないあたり、刹那は大人であると感じる。前世高校生だったらしいから、ある程度は成熟してるんだろう。正直助かった。

 

「うぅぅ……タイムリープ能力があれば……調べ物する寸前に戻れるのに……」

「あぁ、時間はいじれてもそこは無理なんだ……」

「自分の身体でも時間操作すれば若干のずれはあっても記憶は消せるけど、記憶を消すだけで逃げ切れるわけじゃないだろうし……むしろ見てしまったという認識を忘れてしまったら、私30日後には第二の人生からおさらばだよ……」

「主……」

 

 うあ~、こんなことなら僕が調べ物するべきだったよ……主人公達の物語からいなくなったキャラがある日変死体になって現れて、物語の謎を深めていくパターンはちょっと悲惨すぎるだろ刹那……折角昨日気持ち入れ替えたばっかりみたいなのに。

 どうしよう。コレ完全に僕の責任だよね……。

 

「この身に代えても、と言いたいところですが、流石に不死の相手となると……」

「ティンダロスの猟犬が現れた時に、相手の時間を空間ごと凍結して封じるとかは?」

「できなくはありませぬが、せいぜい一日か二日が限度ですな……それ以上は主の魔力量では無理がござる。主の魔力量が低い訳ではないのでござるが、なにぶん時間操作は魔力をバカ喰いしますからな……」

 

 うあ~……。

 

「いっそ、天ヶ崎くんに頼んで王の宝物庫につっこんでおいてもらうとか。アレ内側からなら出られないんじゃないかな」

「好き好んでアレの引き受けをしてくれる人がいると思うかい……?」

「……だよね」

 

 本気でどうするべさ~って感じだな……。

 

「うぅぅ……死にたくないよ私ぃ……義嗣ぅ。ぐすっ」

 

 あぁもうそんなガチ泣きしながら人に抱きつかないでよ。流石に連休中ってだけあって昼過ぎの公園でも人目あるんだから。

 ……まぁ、僕でも同じ状況になったら同じことしそうだけど。

 

「うんうん、どうにかするから落ち着いて」

「ぅぅぅ……やっと色々悩みが吹っ切れたばっかりだっていうのに……ぐすっ」

「だよねだよね……なんかごめんね、巻き込んじゃって。……いや、冗談抜きで……」

「うぇええええん」

 

 あぁもう僕の胸で良かったら貸すからお泣きなさいな。

 

 ――しかし、これはちょっと本気で調べ始めないといけんね。

 

 正直、僕だけだったら別にそん時はそん時で構わなかったけど(悲惨な死に方だけは勘弁だけど)も、親友の命かかってるとなったらこっちだってチンタラやってる場合じゃない。

 状況確認。僕、ショゴスに憑かれて、深き者共にも目を付けられている。夢は多分、精神干渉を受けているのを感知した結果だろう。夢占いとかそのへん詳しくないけど、多分そういう暗示だと思う。SAN値ガリガリ減少なう。

 刹那、ティンダロスの猟犬を視認。タイムリミット長くて30日。こちらもSAN値絶賛減少なう。

 

 取得アイテム。刹那がプリントアウトした唯一ヒットしたクトゥルフ神話のサイトのページが五枚。

 

 で、肝心のアイテムのクトゥルフ神話サイトの情報だけど……どうも、にわかファンが頑張ってうろ覚え知識でまとめましたって感じの物になっている。

 まず、ダーレスの設定が混ざったダーレス神話になってるんだけど、それに対する補足が無いためにコレを完全にクトゥルフ神話だと信じている製作者だというのが分かった。このダーレス神話云々は歩くウィキペディアこと刹那情報だからまず間違いない。僕にはダーレス神話と原神話とやらの違いが分かりません。

 次、ショゴスの名前がシェイゴラスになっていた。それはお前、エルダースクロールシリーズの狂気のあのお方だとツッコミを入れたくなったが我慢した。しかもなんか、設定がデモベくさい。新鮮な生肉を喰らうなんちゃらとか説明があったが、その反則的な戦闘能力ついては触れていなかったし、そもそも古き神との敵対についても書かれて居なかった。これも刹那情報。

 次、ダゴンが水の神の一柱になっていて、深き者共を従える怪獣とされており、クトゥルフと同格とされていた。刹那曰く、ダゴンはクトゥルフの下っ端の中で地位が高いだけの奉仕種族に過ぎない筈で、神ではあるが所詮は従属神という言葉があったためにこれも間違いであると思われる。

 ただ、ここで刹那がクトゥルフとは関係無いがと前置きした上で語ったのが、ダゴンは古代パレスチナにおいてペリシテ人が信奉していた神の名の一つでもあり、海神、或いは農耕神であるという実在の神でもあったらしい。ただそれを、旧約聖書においてイスラエル人と敵対したペリシテ人の崇めていた神々は邪神として貶められたという側面があり、ダゴンはその貶められた神々の一人なのだそうだ。

 

 ハッキリ言えば、そんな知識普段なら絶対いらないんだけど、今この状況ではどんな情報でもあるにこしたことはないので助かるといえば助かる。ただ、お前は本当にどんだけ知識詰め込んでるんだと問いたくはなるが。

 次、深き者共が何も考えずに人間を襲い、誘拐し、性的なものを含めた酒池肉林に耽るだけの怠惰な種族にされている。あながち間違いではないが、狡猾さがどうにも描写されておらず、ただ本能に従って行動しているだけの下等生物のような感じに書かれている。……コレがベリシテ人を現しているってんならラヴクラフトって相当失礼な人だよな。あ、いや、この設定はあくまでこのサイト製作者だから、こいつが失礼なのか。

 で、最後のページがティンダロスの猟犬。これをプリントアウトした時に刹那が見てしまったのだそうだが、記述があまりにもアバウトである。自分を見た人間を獲物にする。角のある部屋に現れて人間を襲う。丸い部屋には出入り出来ない。これだけだ。

 以上から分かるのは、前世のうろ覚え知識を基に作られたサイトで、大した人気も出ていないのだろうということ。更新も二年前で止まっていて、サイト内には掲示板もあったが、そっちは業者の広告だけが延々と張られていたらしい。

 

 さて、ここで問題となるのが『このサイトの製作者が誰か』である。もし、これが上手いこと僕にあの夢を見せた犯人と同一人物であるのなら話は早い。締め上げてでもどうにかさせれば良い。転生者の能力で、書いた物が本当に現れるとかだった場合は、弱点なり書かせればそれで対処することで事が済むはずだ。

 問題は、この世界でガチでクトゥルフが存在していて、そのために禁忌とされている場合である。

 

 これを調べる為には、アーカムシティがあるかどうかの確認が一番楽だ。ミスカトニック大学は実在するが、アーカムシティは架空の町なのだ。この僕達が住む海鳴市同様に、ね。

 ただ、それに今頃気付いても、もう一度図書館に行くには刹那の精神的ダメージが酷すぎて動くに動けない。僕にしがみついて泣いてるんだもの。

 

 もうね~、こういう頭脳労働担当は刹那の仕事のはずなのに、この子がただのウィキペディア状態に成り下がっているのだからどうしようもない。

 

 僕はね、戦場で言うなれば戦場でも鍋を担いで皆に美味しいご飯を振舞ってるだけのお料理当番で良いの。情報将校が刹那で、将軍が虎次郎でよかろうと。基本その二人でどうにかしておくれって感じなんだけど。

 まぁ刹那は僕のせいで巻き込んじゃった訳だし僕が責任持つのは仕方ないんだけどさぁ……モブとしては色々思わないとやっていけない訳なんですよ。頑張るけど。だって、これ原作関係無いから、僕ちゃんと動かないと僕も余裕で巻き込まれて死ねるし。最近友達増えたと思ったら、その分こういうのばっかだもんなぁ……本当世の中ままならんよ。

 

 うぬぬ……どうしたもんか。

 

「んお? そこで泣きべそをかいているのはもしや女にしか見えぬが実は男の子というギャップが萌えを産むと信じてはばからない佐々木刹那でぇはないか?」

「博士、普通に失礼ロボ」

「のぉう!? ろ、ローキックは地味な痛さなのである!? 下手に腕折られるのよりも、むしろ慣れていない痛みに我輩ちょっと感じちゃう!?」

 

 ……あ~、ベストタイミングで来たよ。ちょっと好感度上がったよ博士。

 

 

 

 

 公園のベンチで相変わらず愚図っている刹那を抱きしめて背中をぽんぽんと叩きながら、博士に隣に座るよう勧めて話を訊いてみることにした。ちなみにエルザは何故か博士の膝の上で座って船をこいでいて、博士が優しい顔をしながら頭をぽんぽんと優しく叩いていた。

 なんというか、その光景が原作デモベでは絶対見られないであろう安らかな光景で、ちょっとエルザと博士に胸キュンしちゃったのは秘密だ。

 

「ふむん……ティンダロスの猟犬に深き者共、ショゴス、そしてダゴン、であるか」

「うん。博士知ってる?」

「知ってるも何も、我輩元々そういったものが生業の世界から来たのであるからして? むしろ何故質問の内容が解決策ではなく知識の有無であるかの方が我輩不思議なのである」

「おぉ!!」

 

 で、こうした返事が返ってきた次第である。

 やったぜ!! この人、ちゃんとデモベ知識だけで転生したタイプの人じゃないっぽいぞ!!

 

「これこれ。あまり大きな声を出すものではないのである。エルザがおきてしまうのである」

「あぁ、すいません」

 

 普段無駄に元気良く大騒ぎしているアンタに言われると全然説得力無いけど、その優しい顔で言われたらこちらも応じざるを得ない。なんというか、博士普段変顔しまくるからイメージがブサイクだけど、元々顔立ちはイケメンなのですげぇかっこいいのが悔しい。しかもムキムキなんだぜ、博士なのに。称号が博士なのに。

 

「さて、まずティンダロスの猟犬程度であれば、別に臆することはないのである。捕獲する方法はもう思いついたので、昔のよしみで佐々木刹那のそれはどうにかするのである」

「ほ、本当かい西野くん!?」

 

 あ、刹那が凄い勢いで復活した。でも鼻水チーンしようね? ちょっと垂れてて折角の美少女っぷりが台無しだよ?

 

「えぇい、佐々木刹那!! 西野じゃなくて、ドクターとか博士とかハーバートとかウェストと呼べなのである!! なんか一般人みたいで嫌なのであるその苗字呼び!!」

「博士うるさいロボォ」

「ごふぅ!?」

 

 ……自分で騒ぐなって言っておいて、お約束すぎるな博士。

 寝ぼけているエルザの裏拳が顔面にめり込み、それをダメージ一撃目以降は涙目で変顔になりながらも静かに耐える博士をちょっと見直した。

 

「え、えっと、ごめんね? 博士くん」

「……良いのである。ともかく猟犬は我輩がどうにかするのである。で、深き者共とダゴンの件であるが……これは確証無いのであるが、魔の匂いを漂わせている男なら最近、このあたりでよく見かけるのである。もしかしたらそやつが何か関わっているかもしれないのであるが……ふむ」

「ふむ?」

「情報料五千円で手を打つのである」

「金とるの!?」

 

 しかも、割とデカい!! 小学生に五千円はデカいよ!!

 なんてこった、博士ってばなんだかんだで騒がなければ良い人だなぁとかちょっと思い始めてた僕に謝れ!!

 

「何を当たり前のことを言っているのであるか? こちとら慈善事業じゃないのであるぞ? やれやれこれだから最近の甘ったれたガキンチョは困るのである。ふ~、流石にブッダも真っ青なほどの包容力と許容力を持っている我輩でもこれには参ったものなのである」

「キー!! 博士はとりあえずブッダさんに謝れ!! 全力で謝れ!! 仏教徒とブッダさんに全力で謝れ!!」

「謝るから許せ!! ナハ!!」

 

 うっわ~!! そのドヤ顔の変顔腹たつわ~!!

 

「博士黙れロボォ」

「おうふぐぇぁ!?」

 

 博士の腹に肘打ち、次に顎にアッパーが入った。誰がやったか? エルザである。お約束である。

 

「ひ、ひたをはんはほへはふ(し、舌を噛んだのである)」

「えっと……大丈夫?」

「ふ、ふむ……げふ、うむ。問題ないのである。……さて、まぁぶっちゃけると、普段ならタダで教えても良いのであるが、ちとこちらも困ったことになっているので、早急に金がいるのが実情なのである。だからまぁ、五千円がないのなら、有り金全部で許すのである」

「それはそれで、なんかゆすりみたいだけど……背に腹は変えられないか……」

 

 財布の中にはいってるのは二千円と小銭。最近出費が多いなぁ……これじゃあ僕のタンス貯金がすぐなくなっちゃうよ。

 

「ちなみに困ったことってなに?」

「うむ。家賃滞納で借家を追い出された上、学費滞納もちょっとまずいことになっているので、もうかれこれ二日ほどご飯を食べていないのである。起死回生にジュエルシードで金を得ようと思ったのであるが、それも失敗した上に破壊ロボ2号も壊れて大赤字なのである」

「割と切実だった!?」

 

 二日ご飯食べてないって、本気で切実だよ!? っていうか、もしかして博士のテンション低いのってそれが原因!? 無駄なカロリー消費抑えるため!?

 

「っていうか、ご両親は!?」

「そんなものとうの昔にいないのである。今はエルザだけが家族なのである」

「博士うるさいロボォ」

「なんづぇ!?」

 

 え、エルザちゃん!? 今博士なにも悪いこと言ってなかったし、うるさくしてなかったよ!? なんで殴ったの!?

 

「……ぐぅう」

「だ、大丈夫……?」

「だ、大丈夫なのである……可愛いエルザのすることなら、このドクトゥアァッァハアアアァバアアァ「博士死ねロボォ」げふぉっ!?」

「博士ーッ!?」

「義嗣……元気だね……」

 

 いや刹那、なんかそんな儚げな顔で何言い出してんの? ギャグパートはテンション良く行こうよ。じゃないと気分が重くなって仕方が無いよ。

 

 で、まぁ予想つく人もいるかもしれないけど、博士とエルザはうちで暫くお泊りすることになりました。ご飯と宿を提供する代わりに、刹那がティンダロスの猟犬に襲われたらすぐに捕獲して刹那の身の安全を確保すること。家にあるものとか家を勝手に改造しないこと。したい時は僕に許可をとること。

 

 もし勝手に改造を始めたらエルザにフルボッコするよう依頼したので大丈夫だろう。多分。心配だけど。

 

 あぁ……正直食べ盛りの中学生二人も家に増えたら家計の圧迫が……水道光熱費と食費が増える……でも身の安全には代えられないよねぇ……はふぅ。

 


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