転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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24.刹那の苦悩と決心

 眼が覚めると、夕方だった。

 

 既にお見舞いに来てくれていた三人の姿は無く、代わりに優しく微笑みながら僕の頭に乗っていた濡れタオルを交換しているセイバーの姿があって、なんだか気恥ずかしくなった僕はまだ寝ているフリを続けることにする。

 うぅ、恥ずかしい。なんだって僕は大好きだなんて皆に言ってしまったんだろうか。セイバーはあの場にいなかったとはいえ、ていうか、セイバーのこと知らないであろうアリサちゃんとすずかちゃんの前でセイバーの名前出した覚えがあるし。フェイトの名前も出しちゃった気がする。

 

 その上、悠馬の名前までだよ!!

 

 う~……なんてこっただよ。最近はアイツに対して割と好感度高いけどさ。でも大好きは無いよ。

 フェイトとセイバーはまだ良いけどよ? フェイト可愛いし、セイバーなんだかんだで優しいの最近わかったし。今もこうして優しく微笑みながらタオルの交換とかしてくれてるし、汗拭いてくれる時とかすっごい優しいし。

 う~……う~……くそぅ、でもこういう思考が出来るって事は、きっと僕の熱も下がってるんだろう。子供の内は治るのも早いからね。連休が丸々潰れちゃうのは切ないけど、逆に二日三日で治るようなら万々歳としておこう。

 

「セイバー、ご飯できたよ。先に居間で食べててもらっていいかな。それとずっと世話をセイバーに投げっぱなしだったし、佐藤くんには僕が食べさせてから暫く世話をしようと思うんだけど」

「おぉ、別に構いませぬぞ我が主。……とはいえ、今は大分落ち着いたのかゆっくり寝ておられるようですから、先に二人で食べてきた方が良いかもしれませぬが……目が覚めた時に誰もいないというのも、この年頃では寂しいでしょうからやはり交代が良いか。

 分かり申した。では何かあればお呼びくだされ」

「ん、ごめんね? 結局半日以上佐藤くんの世話お願いして」

「なに、子供の世話程度、大した労力ではござりませぬよ。子は宝。主に危害さえ加えぬのであれば、家主でもある以上これくらいの世話は当然のことでござりましょう?」

「ふふ……そうだね。じゃあご飯、冷めないうちに食べてね? シチューだから」

「おぉ、しちゅうでござるか。それは楽しみですな。では」

「うん」

 

 う~……起きてますとは言い辛いなぁ。それにお腹も実はそんなに減ってないし……。

 

 ばたん、と小さく音を立てて、部屋のドアが閉まると、刹那と僕が二人だけ取り残された。

 外は既に夕暮れ時で、オレンジの光で部屋が染めあげられている。

 なんとなく恋愛ドラマか何かのワンシーンみたいだな、と思う。

 

「……佐藤くん。本当に寝てる?」

 

 おおぅ、これはバレてる? いや、でもここで返事するのはなんか気恥ずかしい。

 

「……寝ててもいいんだ。いや、寝ててもらえたら嬉しい。ちょっと、聴いてもらいたいことが……ううん。誰かに聞いてもらうという形で、僕が愚痴りたいことがあるんだ。

 ……高熱を出して風邪で寝込んでいる人間に言うのも何だと思われるかもしれないけど、君くらいにしか聞かせられないことで、多分、君以外は誰も理解してくれないから」

 

 ……あれ~……独白フラグ? なんか落ち込んでたのってやっぱり何か悩みでもあったから?

 

「僕ね――虎次郎くん……ううん、虎次郎のことがね、好きなんだ。今日もね、こっそり会いに行ってきたんだけど、またフラれちゃった」

 

 また、いきなりの告白でちょっとビックリなんだけど、うすうすとは分かってましたよ。冗談にしては結構しつこく喰らいついてたからね、君。

 

「でもね、やっぱり僕、身体がこんなだろう? ――やっぱりさ、男の子って、どう考えても女の子の方が良いよね。僕だって、身体がこんなで無ければ、それが普通だと思う。だから、女の子の僕が虎次郎を好きになるのだって、別におかしいことじゃないんだって、そう思ったりするんだけどね?

 でも、結局それは精神的に女の子だっていうだけで、生物学的には僕は男の子なんだ。おかしいよね。前世ではれっきとした女の子で、まぁそんなに可愛い方じゃなかったというか……正直、ブスだブスだってイジメられてるような子だったけどさ。

 

 ――それでも、白馬の王子様に憧れてるような、ちょっと痛々しいだけのただの高校生だったんだよ、私。

 

 だから、神様にだって誰からも愛されるような美少女の外見だなんてお願いして、願いが叶ったのに、身体は男の子にされちゃって、王子様として願って手に入れた相手は女の人の身体で、でね? 笑える話なんだけど、私本当は全然美少女なんかじゃないんだよ。

 前世よりちょっとはマシなんだろうけどね。地味で目立たない子なの。なのにね、誰からも愛される外見だって周りは認識しちゃってるんだよ?

 おかしいよね。だってこんなにブサイクなのに私。でね、気付いたの。願い事がね。全部狂った方向で叶っているだけなんだって。

 前世では散々にイジメられて、脅されて、身も心もボロボロにされて、仕返しする勇気も無くて苦しくて、結局自殺なんてしちゃったから、仕返しする勇気を願ったら、嗜虐性と残虐性を持っちゃってね。血を見ると興奮するような性癖まで得ちゃった。

 猿の手って知ってる? イギリスの作家、ジェイコブズの短編怪奇小説でね。まさにソレなんだよ。私達はね、願い事の代償に、必ず何かしらを奪われている。

 私はね、皆から愛される代わりに、自分を絶対に愛することは出来ないし、バカみたいに、何も考えないで好きだった作品のキャラクターの能力なんか願ったもんだから、能力と一緒に因果という形の呪いをそのまま受けてるんだよ。

 

 私は、生涯誰にも理解されないんだ。劣化しているから、まだマシな方ではあるとは言われたけどね。

 分かる? この苦しみ分かるかな? 性同一性障害なんてね、ただでさえ理解されないんだよ。僕だってね、前世ではバカにしてた。そんなのはゲイとかレズの人たちが語っている妄想なんだって。だって、男の身体で女だなんておかしいじゃないか。気持ち悪いよね。

 でもね、今の私は正にそれなんだよ。

 同性愛者で、性同一性障害で、残虐で利己的でブサイクで猟奇的で卑怯な能力で自分を愛されるように他人を騙して、最低最悪の人間なんだよ」

 

 ……あぁ、なるほどね。

 

「それでもね、好きになった人には嫌われたくなくて、虎次郎が望むのなら、傍にいれるのならって、男の子であろうと頑張って、だから口調だって男らしくしようとしたり、一人称だって僕に直そうとしたりして……でもね、無駄なんだよ。

 転生者同士は因果の能力を受け辛いらしいんだけどね、だからこそ、僕の愛される外見なんて能力も、虎次郎には全然効果が無かった。……ううん、むしろね、僕が虎次郎を好きになった最初の理由こそがそれだから、仕方ないんだけどね。

 私の勝手な願いで刷り込まれた愛情を持たされちゃったセイバーとか、集まってくれている友人や、私に好意を持ってくれてる女の子とかにはね、いっつも罪悪感で一杯だったんだよ。でもね、虎次郎だけはね、言ってくれたんだ。

『ワイは元から眼なんぞ見えへんのやから、外見とか性別なんて関係ない。ササッキーの心が美人やから声かけたんや』なんてさ。本当にね、嬉しかったんだよ。前世では見た目も中身もブス子だなんていわれて、、今世では皆能力のせいで私の外見が可愛いなんて勘違いして近寄ってきてるだけで、本当に私自身を見てくれたのはね、虎次郎だけだったんだ。本当に嬉しかった……。

 でもね、心がどうとか言っても、結局僕達の身体は男なんだから、恋人になんかなれっこないんだよ。

 最近はね、それでも我慢しきれなくって、告白したり、意識させようと身体を密着させたり、わざと女の子らしい態度をとったりして、なんとか振り向いてもらおうとして…。

 それでもダメで、でも佐藤くんがさ、女の子だって言ってくれて。それで嬉しくて、やっぱり諦めきれなくなって。本当、バカだよね?

 なんで、佐藤くんが初めじゃなかったんだろうね? 多分ね、最初に会ってたのが佐藤くんだったら、私佐藤くんのこと好きになってたと思う。でもね、虎次郎のことがね、忘れられないんだよ。どうしてもね、好きなんだよ。こんなに胸が苦しいのは、前世で自殺を決めた時以来なんだよ。

 なんで、私男の子の身体になんかなっちゃったんだろうね? バカだよね。分不相応な願いなんて持っちゃったから、当然の報いなんだけどさ」

 

 この子、なんて不器用なんだろうね。

 

「ユーノくんがバカにされた気がして怒ったっていうのもね、本当は、私もね、無謀なことしてるから。絶対に無理なことしてるから、ユーノくんが頑張ろうとしてたのを否定された時に、私まで否定された気になっちゃって、ただ悲劇のヒロインぶってただけで、こんなだから私は――」

「刹那」

「――ッ!?」

 

 よいしょ、と布団を剥がして、ため息一つ。

 

 なんだろうね。こういうシリアスなのっていうかさ、美少女を慰める役って、虎次郎あたりの役目でしょうに。まぁ、その虎次郎には言えない悩みだからこそ、僕に打ち明けてくれたんだろうけど。

 

「刹那さ、え~っと、まず最初に言っておくよ? 僕は刹那が男女どっちだろうが、好きだよ」

「――え……?」

「いや、別にバイだとかそういうことじゃなくてね? あ~……なんていうかさ、僕、元々前世の時もそうなんだけど、性別に関して意識が希薄なんだよね。

 オカマだろうがホモだろうがニューハーフだろうがオナベだろうが、それこそ外見に問わずさ、本人がそうしたいって思うなら、それでいいじゃないって思う人なの。よくおかしいって言われたけど」

 

 実際、前世ではそっち系の理解があると思われたせいでよく絡まれたっけなぁ。普通に女の子が好きなのに、僕。

 

「なんていうかさ、いいじゃない。最近じゃ男(おとこ)の娘(むすめ)と書いて男(おとこ)の娘(こ)って読み方があって、それはそれでジャンルが出来上がってるわけで。

 外見美少女、内面も美少女。ほら、別に問題ないじゃない。あ、それと美少女っていうけど、僕もぶっちゃけ刹那の外見は可愛さとかではなのはちゃん達には劣ると思ってるよ。それでも可愛いけど。っていうかこの辺は好みの違いだと思うけど」

「え……と……?」

「そもそもね、誰からも理解されない? そんなの皆そうだよ。僕だって普段ツッコミ担当なイメージだけど、内心だと割とおかしな人だからね?」

「あ――それは、知ってる。というか、佐藤くん自分のことツッコミ担当だと思ってたの……?」

「あ、知ってるんだ……いや、良いけど。っていうか、僕の担当ツッコミじゃなかったんだ。いや、まぁそれもいいけどさ。

 あのさ~……あ~……なんていうんだろうね。とにかくさ、僕なんかに言われても嬉しくないだろうけど、僕は刹那のこと家族だと思ってる。好きだし、なんだったら愛しちゃってるとか言っても過言ではないよ。これが恋愛的な物かどうかは、正直まだ精通も来てないこんな身体じゃサッパリわかんないけどね?

 そもそもだね? ここは科学も魔法も奇跡もあっちゃう世界な訳で、身体が今は男だけど女の子になりたいとか、そんなの絶対どうにか出来る魔法とか道具とかが絶対あるんだって。

 考えてもごらんよ。世界滅ぼしちゃう規模の破壊を生み出せるような願望実現器があるんだよ? 聖杯とかそんな大それた物には敵わなくてもさ、いわばさっき刹那が言ってた猿の手とほぼ同じような効果を持つ物まである訳。

 だったら、人間の性別一つ変えるくらい問題なく出来るロストロギアだってあるんじゃないの?

 世界の変革と人間一人の性別の変更なんて、比べるのもおこがましいくらいレベルの違う願いだよ? それ考えたら諦めるの早すぎるからね、刹那。

 いい? 虎次郎のことが本当に好きで、女として虎次郎と付き合いたいっていうなら、方法なんていくらでもあるんだよ。大体虎次郎は刹那の心が美人だから声をかけたって言ったんでしょ? 眼が見えないなんてのは初耳だったけど。

 少なくともそう言われて、今も避けられたりしてる訳じゃないんだから振り返ってくれる可能性が0な訳じゃない。まして今が男の身体だから可能性が低いだけで、今後女の子の身体に成れれば逆転もおかしくないんだって。

 僕が保証する。刹那は美少女だよ。心も見た目も、ついでに家事全般そつなくこなしちゃうしね。女性としてのポイントはそりゃあもう高いもんだよ。僕が男だったら求婚してるね。あ、男か僕。

 まぁ、それはそうとして、とにかくね、刹那は因果のせいなんだろうけど、自分に自信無さ過ぎ。外見だけじゃ人間愛されたりしないんだからね? 美人は三日で飽きるって言葉あるでしょ? 外見だけ美人でも、中身が伴ってなかったら誰からも愛されないの。OK?」

「え、えぇっと……、お、OK?」

「よろしい。で、まぁとにかく……刹那はね、原作介入なんて心底ど~でも良いことなんかよりも、性転換系のロストロギア探すのを優先したほうがいいと思う。っていうか、絶対そうしたほうがいい。

 なんとなく、刹那は虎次郎の好感度稼ぐために原作介入する虎次郎に付き合ってやってるような印象を今の話を聴いて思いましたので、ズバリ今は男友達としての好感度稼ぐよりも、さっさと女の子の身体に戻ってから、女友達として好感度稼いで、恋人になったほうが早い!!

 これ僕が保証する。もし女性に戻ってアタックし続けてもダメだったら僕が嫁にもらいますんでご安心できないね。僕じゃ安心できないわな」

 

 流石にフラれたなら僕が君を身請けするぜグヘヘ!! なんて外道な台詞は僕にはハードルが高かったです。

 前世でもフラレて傷心中の女の子慰めた時に「付き合って」って言われても、「その場の雰囲気に飲まれて簡単に決めちゃうからあんな男にひっかかるんであるからして、僕みたいなのに捕まっちゃダメです。良い男何人か紹介するから、誰も良いの居なかった時にでもまたきんしゃい」って断ってたしね。それも何度かあったこと。

 ちなみにその後、僕のところに告白に来た子達はもう再度の告白には来ませんでした。まぁ割と収入安定してて顔も性格もそれなりの連中紹介してたからなぁ……私達結婚しました、の手紙何回受け取ったことか……。

 

「……ふふふ」

「ん、どうよ? 佐藤くん一世一代の大演説でしたよ?」

「うん……ありがとう。少し、ううん。大分気が楽になったよ」

「それは良かったにゃ~」

 

 やっぱり刹那は笑ってたほうが可愛いよね。さっきまでの顔、薄目を開けてみてたけど、酷かったよ? まるでこの世の終わりでも見てます、みたいな顔で。

 

「佐藤くん……ううん、義嗣って、本当、変わってるね」

「おぉう? 名前呼びに進化しましたか? そこまで好感度あがっちゃった? フラグたっちゃった?」

「義嗣だって、たまに刹那って呼び捨てにしてるかと思ったら、今日なんか語り始めると完全に名前呼び捨てで私のこと言ってたよ?」

「あらあらまぁまぁ。これは迂闊。うっかりはちべえ佐藤くんです」

「もう……ふふふ」

 

 くそぅ、そんな口に手をあてておしとやかに笑うんじゃありませんよ。可愛いじゃないですか。

 

「ふふふ……そうだよね。諦めるにはまだ早い。うん。なにせ私なんかまだ八歳。年齢二桁にすら達してないんだから、まだまだ先は長いもんね。あと十年以内には性転換のロストロギアがきっと見つかる見つかる!!」

「そそ、人生山有り谷有り、楽ありゃ苦もあるんですよ~? 今はちょっと苦が多いかもしれないけど、楽があるって信じて突き進んでみよ~」

「そうだね。突き進んでみよ~」

「うむ。元気が出たようでよろしい。つきましてはちょっとまだ熱あるのに喋りすぎて頭ぐわんぐわんしてきたので寝ます」

「へ?」

 

 さらばだ刹那よ。僕は夢の旅路に出るぜ!!

 

 いや~、今日は気持ちよく眠れそうだよ!! 夢見も良いに違いない!!

 

 

 

 

 

 ――夢の中で、何か、粘着質な何かがどこかに叩きつけられている音が聴こえた気がした。


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