転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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 エタったと思った?
 残念、まだ生きているのでしたッ!!


21.初キスとSFなお船

 やぁ皆、元気してる? 僕は元気。酷くくだらない茶番を見た気分だけど。

 

 無敵破壊ロボ2号さんはあっさりお亡くなりになりました。

 悠馬の宝具連射コンボを自慢の曲面装甲で受け流しはしたものの腕と足が全部切り取られてダルマならぬドラム缶になったところで、虎次郎がミサイル発射口のついているところを全力で瓦割りするかの如く正拳突きをかまして装甲を打ち貫き、そのまま内部のジュエルシードを回収。実に呆気なかった。

 

 ちなみにドクターウェスト……じゃなかった。ドクターハーバートとエルザはそれを見届けるや「さらば青春の日々よ! って訳で逃げるのであぁぁある!!」「合点ロボ~!!」とか叫びながら走って逃げていった。虎次郎くんも悠馬くんもそれを追うようなそぶりは見せなかったんだけどね。

 

 問題はそこからで、当然ジュエルシードを巡って悠馬と虎次郎が戦闘始めるわけで、原作主人公のなのはちゃんとフェイトも戦いを始めちゃったのよ。

 

 うん、クロノくん普通に間に合ってないね。原作のイベント開始時間が繰り上がった上に、ジュエルシード取り込んだ樹木との戦闘が無くなったから仕方ないんだろうけども。で、二組とも良い勝負してるよ。

 

 とりあえずちょっと実況してみよう。

 まずなのはちゃんとフェイトね。

 

 ディバインシューターの自動追尾弾と手動操作弾を使い、フェイトの退路を塞ぐ誘導弾の弾幕と前方を塞ぐ弾幕でフェイトを近づけないように牽制しながら次の魔法の準備に入るなのはちゃん。

 

 そこをフェイトが魔力弾を回避しながらアークセイバーとかいうバルディッシュの魔力刃がブーメランみたいに飛んでいくのを使って、前方を遮る手動操作弾の弾幕を突破させて攻撃。突破されると思っていなかったのか慌てるなのはちゃんを守るために、攻撃魔法の準備を中断してプロテクションを張るレイジングハート。しかし咄嗟だったせいか耐え切れずに少し吹き飛ぶなのはちゃん。

 

 しかしフェイトも追撃するにも刃を飛ばしたために一時的に近接攻撃手段を失ったのと、アークセイバーで消し飛ばしきれなかった手動操作弾がなのはちゃんの制御を離れたことで自動追尾に移ったのか、後方に迫っていた誘導弾と共に挟み撃ちに来たために空中を滑るようにして回避する。

 

 フェイトの魔力刃が再度形成された時には既になのはちゃんも次の魔法の準備が終わっていて、威力よりも命中率を取ったのかまとまって行動せずにバラけて四方八方に飛ばしたディバインシューターが不規則な軌道を描きながらフェイトに突撃していき、フェイトはそれを正面の弾幕の薄さから、多少のダメージ覚悟で魔力弾を薙ぎ払いながら突撃。

 

 原作主人公二人はそんな感じで、虎次郎と悠馬はもう完全インファイト型の虎次郎と射撃型くさい悠馬だからどうなるかと思ったら、悠馬も近接戦やってた。

 

 まず、悠馬が空中から虎次郎の周囲四方八方の空間にゲートオブバビロン展開で、虎次郎を完全包囲する形で射出。

 それを時には剣の横腹を殴り、時には槍を掴んで回転しながら振り回して迫る剣群を弾き飛ばし、時に飛んで来るハンマーを足場に跳躍し、着実に、かつ素早く悠馬へと迫る虎次郎。カンフー映画もびっくりな動きである。

 っていうか虎次郎くん、君もしかしてランスロットの能力持ってるとかじゃないよね? なんなのその、明らかに初見のとんでくる武器をばっちり柄部分つかんでそのまま自分の得物にしてしまう運動神経。

 

 そんな虎次郎に対し、ちょっと悠馬のせこいところが、射出された宝具が反対側に展開されていたゲートオブバビロンに入っていくことで同じ宝具が何度も上下左右いろんな方向から飛んで来てることだろう。自動回収で再利用とか本家ギルくんと違って節制家である。

 

 とはいえ一発も虎次郎に有効打を与えることが出来てないんだけど、悠馬もそれは理解していたのか、小さく鼻で笑うと背後の空間から何やら綺麗なデザインの剣を抜き取るとニヤリと笑って「無毀なる湖光<アロンダイト>」とランスロットの宝具の真名解放して、殴りかかってきた虎次郎の拳と打ち合っている。

 

 よくもまぁ素手で宝具と正面から打ち合えるなと呆れるばかりだが、そうして近接戦をしながらも王の財宝からはひっきりなしに虎次郎に向かって剣群が飛び掛っており、虎次郎も迂闊に懐に踏み込めないまま飛んでくる宝具と、目の前で振るわれてくるアロンダイトを回避したり弾いたり、時には掴んだ悠馬の宝具で斬りかかったりしているが、決着はつかない。

 

 う~ん、なのフェイ組は完全に魔法って感じだけど、虎馬組の戦闘は完全に格闘戦だね。

 

「チッ……決着つかねえか」

「へへっ、と。いつものことやな、っと! ――ほんで、気持ちの整理はついたんか?」

「――ふん。まぁな。とはいえ、てめぇが目指してるような大幅な改変だけは認めるつもりはねぇけど、よッ!!」

「おぉう!? やりおるなぁ……でも、ほんまのハッピーエンド、見たくあらへんのか?」

「不確定なハッピーよりも、確定されたトゥルーだろ」

「ほんま、性格の割に博打うたん男やなぁ」

「知るかッ!!」

 

 って、またなんか二人が主人公っぽい会話してるよ。最近の悠馬は明らかにあざとい。あざといよあの如何にもなんかありますな空気。

 

「っとと、――せやけど、ワイを倒せへんようでは自分の意見を押し通すこともできへんで?」

 

 そして、虎次郎の言葉が事態を動かすキーとなった。

 

「ふん……だったら、これを見てもてめぇは同じことが言えるか?」

 

 悠馬が、なんか悪役が負けるフラグっぽい台詞を言い出したのである。

 

「ほう? ……なんや、おもろいもんでも見せてくれるんか?」

「ククク、さぁくらうがいい!! 草臥れ果てた中年男<ワーカーホリック・サラリーマン>!!」

「ぶはっ!?」

 

 アロンダイトをビシッと虎次郎に向ける悠馬の背後から、にょきっ、と生えてきたのは先日ジュエルシードに取り込まれていたサラリーマンのおっさんの上半身である。ヅラだったらしく、地味に取れかけて風に揺れているのがポイントだ。

 

 ……いつぞや僕も冗談で考えたけど、本当に射出するんだ!?

 

「コレは酷い……ぷふっ」

「そうだね……ぶふっ」

 

 刹那もぷるぷる震えながら口を押さえているけれど、ちょっと鼻からの息が完全に笑ってる人のそれだし、ちょっと口からも笑い声漏らした。まぁ僕も似たようなもんであるけれども。

 なんてこった。お前それはずるいわ。悠馬、それはやっちゃダメだわ。シリアスな空気におわせておいてソレはダメだわ。不意打ちすぎるわ。

 

「ちょ、は、反則や!? 反則やでそれは!! アハハハハ!! っとわ!? あっぶなヒヒヒヒ!! あ、あかん!! わろうて力が抜ける!! ちょ、待ってや!? ちょ、ちょちょちょ、ま、くふっ、あ、あかん。腹が、腹がっ、回避おくれっぶふっ。だ、ダメや、止まらへんっ、アヒヒヒ!! ず、ずっこいでぇ!?」

 

 目の前で黄金に輝く空間からにょっきり生えたおっさんの上半身を見せられた虎次郎の腹筋にかけられている負担はこちらの比では無いようだ。頑張って剣群回避してるけど、さっきまでのキレが無い。

 おのれ悠馬汚い。流石汚いな悠馬。っていうか本気できたねぇな!! 主に絵面が!! おっさんの髪の無い部分に金色の光が反射してえらいシュールなことになってるよ!!

 

「ハッハッハッ、何をほざくトラ!! 勝負と戦争は勝ったほうが正義だ!! ――ぶふっ」

 

 あぁっ、出した本人の悠馬もチラッと自分の背後を見て吹き出した!! まぁそうだよね!! お前自分でも面白かったから虎次郎にやろうと思ったんだろうし!!

 

 って、あ、宝具の射出がなんかまばらになった。お前自分でも集中途切れてるんじゃ意味ないじゃないか。ぷふぅ。

 

「い、今や!! 覚悟しいヒヒヒやユウマン!!」

「あ、ちょ、えぇい、くらえ!」

「「「「ぶふぅ!?」」」」

 

 そして射出されたおっさん。下半身はハート柄トランクス一丁。吹き出す僕、刹那、悠馬、虎次郎。実に緊張感の無い連中である。僕が言うのもなんだけど。

 そして、それが向かうのはなのはちゃんとフェイトが今まさに斬り結ぼうとしているところ。

 

 ……って、これはマズい!! 下手したらなのはちゃんかフェイトのファーストキスがおっさんに奪われるという展開が!!

 

「ストップだ――うぶッ!?」

 

 ――予想できた方も、きっといたと思うが、言おう。

 クロノのファーストキス(?)が、おっさんに奪われました。

 

「「「よくやった(で)クロノぉぉ!!」」」

 

 思わず叫ぶ僕達転生男性陣三人組であった。

 

 

 

 

 結論から言おう。なのはちゃんに怒られた。当たり前である。

 

 とりあえず無かったことにするためにクロノの時間を巻き戻して記憶を消してあげるのはどうかという意見も出たが、時空間転移した直後にクロノがおっさんとぶっちゅりいってしまったことを考えると、下手に時間を戻すとクロノくんの身体が時空間転移中の量子状態に云々かんぬんにされてしまうかもしれんので危険だからやめておこうという事になった。先生、ムズカシい話は僕分かりません。

 ついでに言うと、「流石に怪我したわけでもないのにその程度で僕も時間操作使いたくないよ……アレ割と身体の負担キツイんだからね?」という刹那の言葉に「まぁ、それもそうか」という流れになってしまったのが原因でもある。

 いや、見知らぬおっさんに勢い良く(とは言ってもクロノくんも咄嗟にプロテクション張ろうとしていたようで、多少は効果があったのかぶつかる瞬間にはちょっと勢い良く唇を押し付けられたという程度だったけれど)真正面からキスされたというのは青少年にとって非常によろしくない記憶ではあるけれど、ここは一つ事故だったということで片付けることにした。

 

 そう、アレは悲しい事故だったのだ……。

 

 と、虎次郎は目を覚まして自己紹介をしてきたクロノに、そんな感じのことを優しく告げたらなのはちゃんに睨まれた。

 

「悠馬くん、虎次郎くん。先にいう事があるよね?」

「「割と本気ですまんかった」」

 

 異口同音。尚且つ頭を下げるタイミングまで同時である。

 

「クッ、べ、別に良いけどね……」

 

 そして、顔を真っ青にしながらそう許しの告げるクロノくんは微妙に涙目であった。だよね。トラウマものだよねアレは。

 

 いや、別におっさんがブッサイクだったとかそういうことじゃないんだよ? さすがはアニメの世界というか、それなりに整った顔ではあったんだよ。ヅラだったし、下がトランクスだけだったという嫌なところはあったけど。

 ただね、例えるならば、シリアスに、格好良く決めようと思って、ドアの向こうで喧嘩中の人間を止める為に部屋に飛び込み、二人の拳を受け止めたところで目の前に迫るヅラの取れかけた見知らぬおっさんのドアップ。そして強引なキス。しかも口開いてたからちょっと唇同士どころかおっさんの唇を舐めるような感じに嫌でもなってしまった。

 

 コレを、コレを悲劇と言わずになんと呼ぼうか!!

 

「強く生きてね、クロノくん……」

 

 僕が思わずモブという立場を忘れてクロノの肩を叩いてしまうのも無理からぬ話というものだろう。

 

「同情ならいらないよ……」

 

 げんなりした顔でそう継げるクロノくんには、本当申し訳ない限りです。でも君は可愛らしい、前途有望な女の子二人のファーストキスを守ったのだ。誇って良いんだよ。

 

 

 で、とりあえず場の空気が落ち着いてきたところで改めてクロノが仕切りなおした。

 

「さっきも言ったけど、僕の名前はクロノ。時空管理局のクロノ・ハラオウン執務官だ。この場は預からせてもらう。それとロストロギアもだ」

「チッ……まぁ仕方ねぇだろうな」

「つ――ッ」

「悠馬……」

「フェイト、アルフ。分かるだろ?」

「……そうだね」

「――分かった。この場は従う」

 

 そして、虎次郎が笑い転げた時に落としていたジュエルシードをいつの間にか回収していたらしい悠馬があっさりジュエルシードをクロノくんに手渡した。

 

 ……う~ん。意外だね。悠馬のことだからクロノくんに突っ掛かっていってジュエルシード持ち逃げも有り得ると思ったんだけど、むしろアルフとフェイトを抑える側にまわってる。

 コイツ、もしかして原作剥離止めるために動いてるんじゃないだろうかと最近ちょっと思ってたんだけど(台詞もどうにもあざといくらい何か匂わせてたし、今思えば初フェイト戦で乱入したのもジュエルシードをフェイトに渡すためじゃないかと考えられる)、でも、この様子を見ると違うんだろうか?

 

 だって、原作剥離回避のためだったら、ここはジュエルシードを返すことはしたとしても、アルフをけしかけて、或いは自分からかかっていって、フェイトを逃がす方向で戦う筈だ。特になのはちゃんがフェイトを庇うのは後の友情が育まれる下地となるイベントとでも言えるはず。

 

 フェイトの好感度を得るためだとしてもおかしい。なにせこうしてこの場に残ってジュエルシードを渡した上で、アルフとフェイトをこの場に留めているのだ。

 フェイトの好感度を上げたいだけだったらジュエルシードの回収は絶対だろうに。まして、悠馬の能力なら、自分が持ったままの道具を渡さずに安全にフェイトとアルフを逃がすことだって特に難しい問題ではないはずだ。人間が王の財宝庫に入るのなら、フェイトとアルフを中に入れて逃げ出せば良いのだから。

 

「……確かに本物だね。さて、色々訊きたいことがある訳だけど――」

『クロノ、お疲れ様』

 

 あ、我らが永遠の美女(桃子さん含む。プレシアもギリ含む。美熟女じゃなくて美女というのがポイント)のリンディさんだ。

 

「えぇ、本当に疲れました……」

『……強く生きるのよ、クロノ』

 

 リンディさん。お母さんがそういう態度ってどうなのよ。なんかもっと気の利いた台詞言おうよ。いや、僕も全く思いつかないけども。

 

「えぇ……虫が口に当たっただけ、と。そう認識しますので」

『うん……あ、それで、そっちの子達から事情を訊きたいから、一度アースラまで案内してくれるかしら』

「了解です。すぐに戻ります」

 

 いや、でもアンタこの人数の転送なんてそんな簡単に出来るの? と思っていたら、アッサリ出来たようです。ぱねぇ。クロノくんぱねぇ。

 

 気付いた頃には戦艦アースラ内。如何にもSF。“星海”とか“古代のギリシアの哲学者の名前の英雄譚”とか“空想星オンライン”或いは“空想星宇宙”の船です。と名乗ってもイケそうな艦内の様子である。“機動戦士”の船みたいな若干リアルな感じじゃなくて、本当SFであると実感する未来的空間と言えばわかろうか。

 

 でね、お~、凄いな~。かっこいいな~とか思いながら、時空管理局についての説明を受けつつ歩いてたら気付いたんだけどね。

 

 僕、アースラ乗っちゃってるじゃん!! 良いの!? 僕ろくに事情分かってないただの一般人なんだけど!?


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