転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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2.転生者っぽい人達と原作組と、僕の日常

「また、この自然公園の一部の木がへし折られていたという事件についてですが――」

「っと、もう行かないと」

 居間でぼんやりとニュースを眺めていた僕は、テレビに表示されていた時間を見て慌てて立ち上がり、テレビの電源を切ると一時間ほど前に作り終えてご飯を冷ましておいたお弁当にフタをし、ランドセルに突っ込んで家を飛び出した。

 

 空は快晴。雲はちらほらあるものの、実に散歩日和、スポーツ日和な一日を予感させる朝だ。

 ……まぁ、僕は運動クラブとか所属してないから全く関係無いのだけれど。

 少し眩しいくらいの陽射しと、涼やかな風を浴びながら、僕はそんなことを思うのであった。

 

 ――前世の記憶を思い出すことで、自分が自分であるという認識をしたのは三歳くらいの頃からだろうか。

 記憶にあるのは、タバコのヤニ臭さと煙が充満した部屋と女性の金切り声に、男性の怒鳴り声。

 コップが割れて、壁が殴られて、母らしき女性が何か鈍く光る物を持ったまま子供用ベッドに叩きつけられて、それを眺めている僕は、泣きもせずにジッと耐えていた。

 母は僕を庇っていたが、その母は自身の鬱憤を僕にぶつけることがよくあったけれど、父らしきあの男性に殴られるよりはダメージそのものは低かっただろうと考えれば、まだ許せようというものだ。だから笑って我慢した。

 尤も、その我慢も結局どれだけ続いたのか。気付けば母らしき女性も、父らしき男性も家には帰ってこなくなって、餓死しかけた頃に多分、市か何かの役員らしき人に保護され、入院し、なんだかよくわからない内に自分の親戚だという男性と養子縁組をして引き取られることになった。

 

 我ながら中々に波乱万丈なスタートだな、と思う。

 そんな幼少時代な上に前世からの記憶という物を持っているということも相まってか、我ながら大人っぽい子供であると思っているし、周囲もそういう認識であったが、新しく義父になった男性は不器用ながらも良き父親であろうとしてか、そんな子供らしくない僕に随分と良くしてくれた。

 今では本当の父親としてその人のことを慕っている。

 まぁ、実際経験すると中々にハードだが、ザックリ語ってみると何とも不孝な転生者とかのテンプレっぽいノリだよな、と過去を思い返す度に思うあたり、我ながらドライというかなんというか。

 それでも身体が子供だからか、精神が引っ張られているようで時折寂しさやらで泣いたりしたものだけれど。

 

 さて、そんな自分語りは置いておくとして、ここがリリカルなのはの世界である可能性が高い、ということに僕は小学校に上がった頃に気付いた。

 ちなみにリリカルなのはとは、なんかこう、女の子が謎の動物から魔法の杖を貰って小学生なのに命賭けたバトルをして、中卒でエリート街道まっしぐらするアニメとかそんな感じだった覚えがある。前世ではアニメ一期しか見てない上に二次創作とかちょっと暇つぶしに読んだことがある程度のにわか知識しか無いので、それ以上の説明は僕には出来ない。

 

 そんなリリカルなのはの舞台である海鳴市。ここが僕の住む町の名前だ。

 

 少なくともそんな名前の市は前居た世界の現実では存在しなかった。それだけならまだ「そんな二次元の世界に転生とか夢見すぎだよ自分」とか思えるのであるが、翠屋とか、不老の高町夫妻だとか、そんな物の存在を実際に見て知ってしまった以上は「あ、うん。なるほどココはリリカルなのはの世界か」と、割と変に納得してしまう自分がいる。

 まぁ、何にしても少なくとも地球の日本は前世と殆ど変わらない世界観というのは非常に助かる。前世の記憶というものがちゃんと役に立つのは大きい。もしこれで剣と魔法のRPGみたいな世界に村人Aとかとして転生だったら特殊な能力とかもらったわけでも無い自分では目もあてられなかった。

 それこそ某○○国記で、言葉も分からずに漂流してしまった難民並のバッドエンドが待ち受けてそうだったし。

 

 で、そんなどうでも良い感想を抱きながら育った僕も今年で九歳となり、同級生には高町なのはちゃん達という状況。

 

 これは、原作介入フラグって奴だね!

 

 とか普通ならなるのだろうけれど、生憎とそういうつもりは欠片も無い。

 まず面倒だし、そもそも間違いなく転生者な人が三名ほど既になのはちゃん達にはついているので、下手にそんなことしたら怪しまれて巻き込まれて、死期を早めるだけだろう。

 まぁ、興味が無いといえば嘘になるわけだけれど。

 

 さて、そんな転生者っぽい三人のメンバーを紹介すると、

 

 黒髪茶瞳の正統派主人公の香りがして女顔で元気な男の子、佐々木刹那(ささき せつな)くん。

 料理上手で手先も器用らしく下手な女の子より女の子らしい人で、なのはちゃん達と仲良しで人当たりも良いお人よしな完全オリ主さん。

 

 小学3年生なのに150以上ある身長の銀髪オッドアイで子供なのにイケメン顔という完璧に狙った感バリバリのクールぶった男の子、天ヶ崎悠馬(あまがさき ゆうま)くん。

 女子に人気だがなのはちゃん達からは露骨に言い寄っていくせいで気味悪がられて地味に距離を置かれているのに気付かずべたべたしている。刹那を目の敵にしていて、それでまたなのはちゃん達に嫌われるという悪循環なのに気付いていない。

 間違いなく闇の書事件のあたりで消えることになりそうなかませ犬ポジション。

 

 赤髪緑瞳という「え、カラコンでもいれてんの? ていうか髪の毛染めるのは流石にまだ早くない?」ってツッコミを入れたくなる(まぁこの世界、割とありえない髪色の人多いけど。すずかちゃんも青紫っぽいし)容姿の似非関西弁糸目メガネ、桜庭虎次郎(さくらば こじろう)くん。

 "とらじろう”じゃなくて"コジロウ”と読むのがポイント。次の字が付くとおり次男らしいが詳しいことは知らない。

 うさんくささバリバリな彼だが、関西弁口調なだけありクラスのムードメイカー。アリサちゃんを相方(本人は絶対に否定するだろうが)にボケ倒す芸人魂に溢れる奴。

 親分肌なところがあって、男子からの人気は一番高い。女子からも人気と刹那くんがいなかったら確実にオリ主ポジだなと思わせる風格を持つが、刹那くんとは大の仲良しで「ワイのために毎朝味噌汁を作ってくれ!」とか言って苦笑いされていたことがある。

 現状、僕にとって唯一の親友と呼べる存在だけれど、向こうは友達が多いので向こうも同じだと思ってるかは甚だ疑問だ。

 

 あとは、なのはちゃん本人とはそんなに関わってはいないけれど、転生者だろうと思われるのが一人いる。

 

 銀髪赤瞳という完全にアインツベルンな見た目の女の子の津軽恵理那(つがる えりな)さん。この子とは挨拶くらいしかしたことが無いが、アリサちゃんにライバル認定されており、アリサちゃんがいない時に絡んでくることのある虎次郎を絶対零度の眼差しで嘲笑を浮かべながら優しく罵倒する担当。

 

 ちなみに僕は普通に「将来は見る人によってはイケメンな顔になるんじゃないか」と思われる中の上程度の顔で家事スキルがちょっと高いだけのモブである。得意教科は社会と国語(古典と漢字書き取り除く。尤も小学校低学年で古典は無いが)で名前は佐藤義嗣(さとう よしつぐ)という。

 苗字からしてモブ臭満々であるが、佐藤って由緒正しい苗字だし僕はめげない。むしろ好きと言える。負け惜しみではない。

 そして当然ながらそんなモブな僕はなのはちゃん達と挨拶くらいはするけど基本的に絡まない。下手したら名前すら覚えられていないかもしれないレベルだ。

 

 それほどスペックの差がある以上、高町御一行に無理に絡んで行っても身の程知らずとしか言いようが無いし、そもそも接点が大して無いので小学生になって三年ほど経つけれど、ろくになのはちゃん達との絡みは無い。

 

 そしてそんな小学三年生の折、遂に物語は動き出す。

 

 下校途中に突如頭に響いてきた念話っぽい物。

 どうやら念話が聴こえる程度の魔法的な能力はあるらしいということにちょっとだけ感動を覚えながら、「ペロッ、これはユーノくん!」とどうでもいいことを呟いて夕焼けの中のんびりと歩いて家路につく。

 

 今日は父さん遅いから夕飯作るのは急がなくても良いけど、なににしようか。じゃがいもとにんじん、たまねぎが近所のスーパーで安売りの日だけども……カレーでも作るか。

 じゃがいもまだ少しは残ってるけど、自前でポテト系のお菓子作ったりしてるから結構消費早いんだよね。まとめ買いしとこうかな。

 

 そんな日常的な思考のまま、苦しげなユーノくんの念話に「頑張れ! 多分そろそろなのはちゃんと会えるよ!」と内心でエールを送る僕はちょっとだけ白状かもしれない。

 

 その日は特筆したこともなく、夜になると父さんから残業で泊り込みになるので帰れないと連絡があったので、カレーの蓋をとって冷まし始めつつ、甘い物が食べたくなったので冷凍庫を開けたら、我が家の常備食ともいえるチョコレートが切れていることに気付いた。

 

「そういえばこの前最後の食べ終わったんだっけ……今日買ってこようとか思ってたのに忘れてた……」

 

 午後七時。時間的にはまだスーパーやってるし行って来るべきか。

 普段であればここは我慢しても良かったが、確か今日はスーパーでチョコが一個68円だった気がするので、買わない手は無いのである。

 普段は98円であるからして、一個30円の違いはデカいのだ。というわけでチラシどこだチラシ。一応確認しないと、行ってみたら勘違いで明日の特売でした、とかなったら悲しいからね。

 

『僕の声が聴こえる方……どうか……力を貸してください……』

 

(あ、ユーノくんだ。おいす~)

 まぁ聴こえないだろうけれど、とりあえず頭の中で返答しておく。

 この声が聴こえてきたってことは今頃なのはちゃんが動物病院に向かってる頃合だろうか。

 ふむ……しかしどうしたものか。これから戦闘起きるならあんまり外出とかしないほうが良いか。でもチョコが食べたい。勉強のお供には甘いものは必須だ。

 

 元が成人した身とはいえ、むしろ勉学から離れていた身としては小学校のうちの基礎的な勉強というのは忘れている部分もある。まだ三年生とはいえ、理科関係や社会関係の授業は結構うろ覚えなのが多いので後々のことを考えれば勉強はしておくに限るし、聖祥大附属小学校は割とエリート系に位置する入学金とかもバカにならない学校なので、そんなところに入れてくれた義父への義理もあるので勉強は大事。

 そして勉強を頑張った自分へのご褒美、もっと大事。

 

 そういう訳で、動物病院の方さえ行かなければ問題なかろうと判断。

 チラシを見たら、板チョコは間違いなく安売りになってたし。この時間に出歩くのは面倒だけど、僕はチョコレートが食べたいのだ!

 と、家を出ようとしたところで結構近所から爆音が響き、突然家の電気が消えた。

 

「あれぇ……」

 

 電線切れた? なのはちゃん、電線切った?

 玄関を出ると、近所の家も予想通り停電になったらしく家の灯りが消え、街灯も消えている。そして遠め(といっても夜に視認出来る距離なので実はかなり近い気もする)に見える謎の黒くて触手がうねうねしていて、一対の赤いお目目がチャームポイントな物が空を飛んでいた。

 いや、飛んでというより、跳んでいた、が正しいか。丁度跳ね上がったところだったみたいだが、落下していって近所の家が邪魔で見えなくなった。そして何かが勢い良く衝突する音が響く。

 

(魔法って、秘匿しなくて良いものなの……?)

 

 ユーノくんに物申したい気分になったが、よくよく考えてみたらこの時のユーノくん衰弱してて結界張る余裕も無いだろうし仕方ないのか。

 どうせいつもの三人組がなのはちゃんの救援に行ってるんだろうから誰か張ってやればいいのに。三人もいれば誰かしらは使えるだろう、結界魔法。

 とか思いつつ、僕は華麗にスーパーへと足を進めることにした。幸い、動物病院とは別方向だから問題無い。

 ――というかこれ、停電直るの時間かかるかな……。

 

 あ、そうだ。電線切れてるの発見した時って電力会社に電話しないといけなかったよな。いや、でもあの場に行って本当に切れてるのか確かめる訳にもいかないし、切れてると断定して電話してあの三人の内誰かが時間逆行魔法的なの使えて出た被害を修復してくれる可能性だってある。

 

 チートオリ主が三人もいるんだ。ありえないとは言い切れないぜ!

 

 そういうわけで電話はやめておこう。携帯持ってないから電話する手段が無いし。そもそもよく考えたら電力会社の電話番号なんて知らないし。こんだけ見える範囲で停電の家が多いんだからどこかの家が電話するだろう。

 

 ヒュンッ、ザクッ。

 

 とか考えていたら、僕の耳元を何かが掠めたと思った次の瞬間、今いる位置から二歩くらい前方に歩いたら頭直撃なコースに無骨な剣が突き刺さった。

 

 凄い。ヒュン、と来てザクッ、という擬音でしか現せないくらい唐突に耳元を通り過ぎて目の前に突き刺さったよこの剣。

 

 これはアレか。もしや僕はこの剣を抜いてブリテンの王にでもなるのか。円卓の騎士団作っちゃうのか。

 ……冗談だけど。

 

 誰だ、こんな街中で剣ぶっ放したの。王の財宝<ゲートオブバビロン>持ちでもいたのかチートオリ主に。下手にオリジナル設定多様するのもなんだか痛々しいけど、なんでも安易に他作品から持ってくれば良いと思うなよ! 無限の剣製も王の財宝も割と珍しくもなんともないスキルになってるんだぞ最近の二次創作! 格好良いから良いけどね!

 

「っていうか、撃つんならちゃんと狙えよ!!」

 

 割と混乱していた僕は、冷静さを取り戻すと同時に叫んだ。

 

「だって、おかしいだろ。なんでここに剣飛んでくるの? 危うく刺さるところだよ? おかしいよね。戦場は全然別の場所だよ? っていうか、戦場は僕の後ろの方のはずなのに、なんで僕の目の前に剣刺さってるの? おかしいよね。これあと数ミリずれてたら僕の後頭部に突き刺さるどころか粉砕して、色々グロいことになってたよ? あと耳が痛いよ? 鼓膜は破れてなさそうだけど、耳元を超高速で剣が通り過ぎたらそりゃ風圧とかで耳超痛いよ!」

 

 ……冷静なつもりだったけど、割と冷静ではないかもしれない。

 思わず口に出して文句を言わずにはいられない。本当にどこのバカだ。幸い、近くには誰もいないし僕の独り言も聞こえてないだろうし、今歩いてる場所はさほど人通りの無いところだから発見には時間かかるだろうけれど、コレ真面目に誰かに直撃していたらどうする気だったんだ。。

 

 飛んできたと思われる後方へと目をやると、先ほど黒い物体が跳んでいたのよりも高い位置に、黒に金の装飾のされた中々にイカしたデザイン(イカレじゃなくて、イカシてる。意外)の西洋鎧に身を包んだ銀髪の姿と、空間に金色の波紋を広げながら展開される大量の剣や槍の姿が見えた。

 顔は見えないけど、間違いなく銀髪オッドアイナルシー悠馬である。クソッ、王の財宝使うなら鎧も金ぴかにしろよ。鎧がちょっと格好良いとか思っちゃった自分が憎い。黒字に金とか僕好みすぎるだろ。悪役っぽくて好きだよああいう色合い!

 この剣パクってやろうか、と憤慨しながら剣の柄に手をかけるが、アスファルトに深く刺さりすぎて(摩擦熱なのか、刺さっている部分のアスファルトが溶けて剣を刺してからアスファルトをかけたみたいになっている)引っ張っても微動だにしないので諦めた。王の財宝なら仮にも宝具。下手に関わったらなんか面倒くさそうだし仕方ない。

 

「べ、別に抜けなくて悔しいと思ったりなんかしてないんだからね!」

 

 誰もいないのを良いことにツンデレごっこをしてから、一人寂しくスーパーへと向かう僕なのであった。

 

 尚、停電は帰ったら直っていたし剣も無くなっていた。

 剣はわざわざ回収したのだろうか……甲冑に身を包んで、戦場から遠く離れた場所に間違って撃っちゃった剣を拾いに走ってきたのはいいものの、深く刺さりすぎてて中々抜けずにめっさ踏ん張る顔だけイケメン銀髪オッドアイ。

 なんだか間抜けな絵面である。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 いつも通りの朝、昨日の騒ぎなど無かったかのように平和な朝に満足していた僕が学校へ到着すると、朝からなのはちゃんの席には人垣が出来ていた。

 それは何故か? 言うまでもあるまい。ユーノくんである。

 どうやら連れてきたらしい。良いのだろうか、ペット持ち込みとかして。

 

「可愛い~!」

「可愛らしいなぁ。お手せぇへんかな。ほれ、お手」

「アンタ相変わらずばかね。飼って一日目のペットがいきなりお手なんて……した!?」

「「「可愛い~!」」」

 

 ……良いのかどうかは甚だ疑問だけれど、確かに可愛い。

 それにしても朝からやかましいことこの上無い限りだ。

 だが可愛い物大好きな僕はちゃっかりとその騒がしい中に紛れ込んでいる。くそぅ。可愛いぞユーノくん。我が家で飼われてみる気はないかね。

 触って撫でたり頬ずりしたりしたいけど、口に出したりはしない。何故なら僕はモブである。

 

「チッ、淫獣が……」

 

 そんな葛藤と戦いながら可愛らしいユーノくんを眺めていたら、悠馬がこれ見よがしに舌打ちしてユーノくんを睨んでいた。

 

 おい悠馬、貴様、君はこのかわいらしい生物を相手になんていうことを言いやがるですか。

 

 ……とか思っても口には出さないのが大人である。昨日の光景を見た限り間違いなくコイツの戦闘能力とんでもないだろうことは目に見えているので、下手に目をつけられないようにする。それが正解だ。

 勇気と無謀は違うからね。うん。

 

「ペット相手に何言うとんねんユウマン。あぁもうかあいらしいなぁ。なのはちゃんにはかなわんけどかあいいで~」

「え、私? え、あ、ありがとう」

「おいトラジロウ。てめぇ俺のなのはに何を色目つかってやがる……」

「トラジロウ言うな言うとるやんか!」

「てめぇこそ変なあだ名で呼ぶんじゃねぇと何度も言ってるだろうがトラ」

「え、えっと……私、悠馬くんの物になった覚えは無いし、喧嘩はよくないよ? ね?」

「ふん、なのはが言うならやめといてやるよ。命拾いしたなトラ」

「相変わらずなのはちゃんラブやなぁユウマン。ふふん、なのはちゃんへの愛なら負けへんで!」

「あ、愛!? な、何言ってるの虎次郎くん!?」

「虎次郎、あ、あんた公衆の面前で告白とか何考えてんの!?」

「お、アリサ、なんや嫉妬か?」

「誰が嫉妬するかぁ!」

「俺のアリサにまで粉かけやがって……ッ!!」

「アンタの物になった覚えはないわよ老け顔!」

「老け顔ッ!?」

 

 バチバチと視線で火花を散らすナルシー悠馬と関西弁メガネこと虎次郎くんであったけれど、巻き込まれたなのはちゃんは顔を真っ赤にし、アリサちゃんは別の意味で顔を真っ赤にして虎次郎くんに噛み付き、それを見た悠馬が洩らした一言にアリサちゃんが猛然と文句を言い、老け顔発言に流石の悠馬も一瞬固まった。

 そんな騒がしい面々を見て、小さくため息を漏らすなのはちゃんに、すずかちゃんが笑う。

 

「大人気だねなのはちゃん」

「すずかちゃん……他人事みたいに言ってるけど」

「勿論お前のことも愛してるぜ、すずか」

「あ、そ、そうなんだ。あ、ありがとう……?」

 

 他人事みたいに笑うすずかちゃんだったけれど、基本、こういう愛情表現はストレートな悠馬が本性知らなければ見惚れそうな爽やかな笑顔で発した言葉に、すずかちゃんが微妙に後ずさりして苦笑いしながら返す。

 まぁ当然の反応だろう。このナルシー、なのはちゃん、すずかちゃん、アリサの三人に普段から愛してるとか言っては馴れ馴れしくしているし、目もなんかいやらしいというかなんというか……九歳児のする目じゃないと思う。

 なまじっか顔立ちが子供としてありえない若干成熟したイケメン顔なせいでそういう汚い感情が透けて見えるのだ。それでもなんだかんだで相手してあげてるなのはちゃん達は本当に良い子としか言えないし、そんなのと友人を名乗って付き合っている虎次郎くんはよくこんなのと付き合えるものだと尊敬する。

 

「もちろんワイも愛しとるですずにゃぶへ!」

「すずかに近寄んな、この変態!」

「あ、アリサちゃん。流石に今のは可哀想だと思うよ……?」

「甘いわよすずか! この変態に甘さを見せたら何されるかわかんないわよ!」

 

 そして、そんな悠馬に便乗してヒャッホーと叫ぶ勢いで糸目のまますずかちゃんに抱きつこうとしてアリサにボディーブローを喰らう虎次郎は、なんというか言ってることは悠馬と同じようなことなのに、見ていて清々しいので全く問題ない。流石はオリ主コメディ担当(僕の中で彼はそういうポジション)である。

 とか思ってたら、虎次郎は何故か仰向けになったかと思いきや親指を立ててアリサちゃんを見上げながら爽やかな笑顔で言った。

 

「バーニング……名前の割に白なんやな!」

「バーニング言うな! そしてパンツ見るなぁぁぁ!!」

 

 フシャー! と猫のように威嚇して床に転がる虎次郎くんに追撃のストンピングを喰らわせようとして回避されるアリサちゃんを見ながら、この二人は安定してるなぁとちょっとほっこりする。

 

「ユーノ、ビスケット食べるかい?」

 

 そんな二人を見て笑いつつ制服のポケットからビスケットの入った袋を取り出す我らが真の主人公、刹那くん。

 しかしアレだな。この子こうやって優しく笑ってると完全に女子だ。髪の毛も若干長めだし、制服が男子のじゃなかったら間違いなく間違える。

 う~ん……女顔主人公って最近多いよね。

 

「ふふふ……可愛いなぁユーノ……」

 

 肩にユーノくんを乗せ、ビスケットを食べさせながら頬を緩める刹那くん。あぁお前さんも可愛いな刹那くんよ。男なのに。そのうち性別秀吉(男女ではない、第三の性別扱い)みたいな扱いになるんじゃないかこの子。

 ……いや、女子からも大人気だから問題ないか。どちらかといったら超絶勉強が出来て運動神経抜群で変態要素を抜いたバカテスの明久だな。女装すると男子から人気が増えそうなあたりとかも間違いない。少なくとも秀吉ポジは無いな。流石はオリ主。

 アレ、完全無欠な超人主人公だなソレ。

 

「あ、え~っと……き、君もユーノくん触りたいの?」

「……あ、僕? いや、僕はいいよ。見てるだけで可愛いし」

 

 気を抜いていたら、いきなりなのはちゃんに声をかけられて焦る僕。

 いかんな。挙動不審だったな今の僕。

 

「遠慮しないでいいよ。ユーノ、いいよね?」

 

 慌てたまま意識を飛ばしていたら、刹那くんが僕にユーノくんの乗った肩を差し出してきたので、僕も咄嗟に手を広げるとユーノくんは刹那くんとなのはちゃんを交互に見比べてからひょいっと僕の手に乗ってきた。

 ……可愛い。 爪の部分がちょっと硬くて、でも全身もふもふで。だからそのちょっと硬い部分がまたなんともこう……触感による愛くるしさを数倍にも増やしている。あぁ、なんてラブリーなんだユーノくん!

 ちなみに手に乗せているといっても、両手である。フェレットは意外と大きいのである。ちょっと重いし。

 そんな訳で両手でも上におさまりきらない分、身体を変な形に縮こまらせていて居心地悪そうだな、と思ったら先ほど刹那くんにしていたように、ユーノくんは軽快に僕の肩まであがってきた。

 

「か、可愛すぎる……」

 

 もう完全に僕、骨抜きである。

 

「可愛いよなぁ……」

「可愛いわねぇ……」

「可愛いよねぇ……」

「せやなぁ……」

 

 僕の肩に乗るユーノくんを、目を細めて頬を緩めながら観察する一同(僕含む)が全員一致の意見を言っている中、空気を読まない奴が小声でボソっと口を出す。

 

「男もイケる口なのか淫獣……気色わりぃ」

 

 皆さんご存知、ナルシー悠馬である。死ね。氏ねじゃなくて死ね。

 ……失礼。思わず本音が。

 

「ユウマン表でろや……久しぶりにキレちまったで……」

 

 行け、虎次郎くん。僕の分もそいつを叩きのめしてくれ。

 

「はいはい、皆さん席についてください。授業初めますよ~」

 

 と、虎次郎くんがメガネをとって糸目を少し開けるというクール系イケメンキャラにのみ許されたポーズを綺麗に決めたところで先生が入ってきたのでそのまま解散となった。

 しかし何故か去り際に悠馬から小声で「調子のんなよモブが」と言われて軽いローキック喰らって少しよろめく。他の皆は気づかなかったみたいだけど、ユーノくんだけは気付いたのか僕と悠馬を交互に見て心配そうに僕を見てきたので、僕は微笑んで大丈夫だよ、と小さく手を振って机へと戻り、拳を握って小さく震えた。

 地味に痛いじゃないのさ、あのかませ犬……ッ!!

 

 

 

 

 どうでも良いが、先ほどまで受けていた算数の授業の問題にて、5リットルのジュースを8つのコップに同じ量づつ分けて入れた。1つのコップには何リットル入っているかを答えなさいという問題があったのだが、どうやら8分の5リットルが正解らしい。

 いや、それは別に良い。分数の計算だって事前に知らされてるわけだから、そういう単純な答えでいいってのは。

 だけど、リッターなんだから小数点の数字まで計算するべきではないか、と思って先生に指名された際に黒板に0.625リットルって書いたのだが、バツをつけられた上にどうして間違い扱いされたのかしっかり説明なかったのだけれど、これってどうなんだろうか。

 そんな疑問を虎次郎くんにぶつけてみた所、したり顔で頷いた虎次郎くんが言った。

 

「ヨッシーは頭えぇのにおバカやんなぁ。そこは625ミリリットルって答えれば良かったんや」

「な、成る程……ッ! ……それはまぁ良いとして。ヨッシーはやめてよ……」

 

 そんなこんなでお昼である。

 澄み渡った空の下、温かな風に吹かれながら、僕は自作のお弁当を持って虎次郎くんと共に屋上でお弁当をつついていた。

 尚、虎次郎くんがわざわざなのはちゃん達のグループから少し離れたところで食べている僕のところまで顔を出しにきてそのまま居座っているのは、僕のお弁当が目当てだからだ。

 こ奴はたまにお袋さんがお弁当作り忘れるとかで弁当代を渡されて持っているはずなのに、白米だけのおにぎりを自分で握ってきて知り合いの弁当から一品おかずを強奪していき、お弁当代をお小遣いとしてとっておく筋金入りの猛者(ケチ)なのである。

 そして、そんな猛者に今日奪われたオカズはポテトステーキであった。それは朝手早く作ったものだが、じゃがいも使った料理だけは自分のおやつも大概ソレで自作するだけあって中々の腕前であると思っている。

 しかし虎次郎くんに「美味いんやけど、ちょっとたまねぎ炒める時間短いんやないか? それとちょっと多いと思うで。なんかたまねぎの生食った時のなんとも言えんあの感じがちょいしたわ」と言われて悔しい思いをしたので今度リベンジしようと思う。

 そんなことを回想しつつ、目の前のしたり顔の虎次郎くんを睨みつけると、虎次郎くんは笑って僕の頭を撫でた。

 

「ヨッシーはヨッシーやんか。他になんと呼べっちゅうねん」

「義嗣(よしつぐ)って普通に呼んでよ」

「いやや。そない名前で呼んでもうたらヨッシーの愛くるしさが半減してまうやんか」

「うん、同い年の同性に愛くるしいとか言われてもあんまり嬉しくない上に、名前だけで半減しちゃう愛くるしさってなに? あと頭撫でるなー」

「それが若さや。そして頭は撫でる」

「意味がわからないよ……」

 

 どこか遠い目をして空を見つめる虎次郎くんに、僕は小さくツッコミの手を作って横にペチッと動かす。ちなみに実際にあてたりはしない。エアーツッコミである。

 

 さて、それはそうと愛くるしいなどといわれる僕だが、別に外見が可愛いとかではなくて、単純に身長が小さいのである。

 どのくらいかと言うと、比較対象としてなのはちゃんを出すと、なのはちゃんは129cm。僕は118cm。

 恐るべきことになのはちゃんより10cm以上も身長が低い。お陰でたまに女子と間違われたり、場合によっては幼稚園児に間違われることもある。

 いや、小学生くらいだと男子は発育遅いし、前世でも小さい頃は女の子に間違われたなんて覚えもあるし、子供なんてその子の同年代の他の子より小さくて童顔=女の子みたいなイメージあるから仕方ないのかもしれないけど、僕だって男の子なのだ。ちょっとは可愛いじゃなくて格好良いとかの方向で見られたいものだと常々思うわけである。

 

 まぁ、もし格好良いと思われるような容姿だったとしても原作組といちゃラブとかは全く考えないけれど。なにせ既に三人男がついてるし、なにより自分が子供ということもあってか、あまりそういうことに興味が無いというのもある。

 

 ――男三人ついてるとは言ってもナルシーは脱落するだろうけども……。

 

 それにそもそも魔力があるかも分からない(ユーノくんの念話は聴こえたから多少はありそうな気もするけれど、それだけを根拠に変な自信をつけたりしないのが僕がモブたる所以である)ので、なのはちゃんとこれから出てくるであろうフェイトちゃん、あと二期以降のアニメでメインとなるというはやてちゃんの三人との接点は地球から彼女達がいなくなった時点で無くなるだろうなと思う。

 それゆえにもし万が一、脈があったとしてもアリサかすずかちゃんだと思うが、まぁ多分それも無いだろう。

 自分の身のほどは弁えているのが僕なのである。

 

「ヨッシー、今なら義美(よしみ)とかに改名してお兄さんのお嫁に来ることも可能やで?」

「虎次郎くんはとりあえず僕が男であるということをそろそろ理解してほしいな、と思うんだけどどうだろう」

「何言うとるんや。こんなに可愛い子が女の子のわけが無い、って言うやろ?」

「ごめん。意味がわからないよ。そして可愛い子が女の子じゃないなら、なのはちゃんとかは?」

「なのはちゃん達は女の子ちゃう。天使や。性別を超越した存在や。男女どっちもいけるタイプや」

「落ち着いて虎次郎くん。君は今色々危ない人になってると思う」

 

 そんな拳を握り締めて目を見開いてキラキラした目で語られても困るよ僕。

 なんというか、虎次郎は子供の外見だから許されてるけど、大人になってからそんなこと言ってたら多分捕まると思う。

 ……いや、こいつイケメンだしオリ主補正で逆に女の子を絡めとっていくか。恐ろしい。

 

「虎次郎く~ん! おかずいる~?」

「お~! いりますいります~! 美少女のくれるおかずならいくらでも食えるで~! ほなヨッシー、ごっそさんでした!」

「うん。次はちゃんと時間惜しまずにおいしく作ってくるからね」

「おう、楽しみにしてるで! ほな!」

 

 これまたなのはちゃん達とは別の、可愛い女の子達のグループの呼び声に「美少女がワイを! 呼んどるでぇ~!」と叫びながら駆け出していく虎次郎を見送りつつ、僕は最後のウィンナーを白米と共にモグモグして味を楽しむ。

 うむ。おいしい。ウィンナーは僕の大好物だからね。

 いやぁ本当ウィンナーとられなくて良かったなぁ。

 

 

 

 

 海鳴市立図書館。割と大きな図書館で、読書コーナーの他にも奥にビデオコーナーなんて物まであるちょっと小粋な図書館である。

 

 放課後、特に一緒に帰ったり遊んだりする友人もいない僕(虎次郎くんに誘われない限り僕はボッチである)は元々文系なこともあって図書館はお気に入りの場所だったりする。

 ちなみに、はやてちゃんに会って原作介入ワッショイとかは考えてない。純粋に読書目的である。実際、今まではやてに会ったこともなければ見たことも無かったのである。車椅子に乗った女の子なんて見かけたらすぐにわかると思うので、多分時間帯が合わないのだろう。

 尚、たまにすずかちゃんは見かけるが、そっちとも全くコンタクトをとっていない。

 で、あるから平和な空間そのものであるはずだったのに……。

 

「なんなんやアンタ、別にえぇゆうとるやんか」

「照れなくていいんだぜはやて。あ、取って欲しい本とかあるか?」

「な、なんで私の名前しっとんねん。や、えぇ言うとるやんか!」

「勝手にしていいって? ふん、まったくはやてはツンデレだな」

「あかん、コレ話通じんタイプの人や!」

 

 新刊のファンタジー小説を片手にどこで読もうかと日があたってポカポカあったかそうな席の空きを探していた僕の耳に聴こえてきた声に、僕は小さくため息を吐いた。

 こっそりと声のする方を覗くと、そこには想像通りの光景が。

 勝手に車椅子の後ろにまわってハンドルを握る悠馬と、涙目になりながら拒絶するはやてちゃん。

 

 うん、流石にこれはちょっといただけなさすぎるのではないだろうか。

 

 車椅子の人を押してあげるという行為、結構簡単に考えている人もいるが意外と気を使わなくてはいけない行為なのだ。

 なにせ、車椅子を使っているということは足が不自由で襲われたりしたら逃げられない。そして、車椅子を押すということは、その人の気分次第で車椅子に座っている人の生命をも握る行為であると言っても過言ではない。

 

 例えばだが、車椅子をいきなり全速力で押されて階段から落とされたらどうなる?

 道路に押し出されたらどうなる?

 勢い良く壁に激突させられたらどうなる?

 見知らぬ所に、自分の意思に反して連れて行かれたらどうする?

 

 どれも洒落にならない恐怖だ。他三つに比べたら壁に勢い良く突進を子供の悪戯程度だと思う人がいるかもしれないが、足が不自由であるということは受身も満足にとれないということである。そもそもエアバックやらシートベルトもつけていない以上、車椅子から投げ出されて全身で壁に激突することになるだろう。冗談じゃなく大怪我する。

 さて、そんな自分の命を握ることが出来るポジションに、見知らぬ誰かが居て欲しいと思うだろうか? それも自分の話を全く聞かず、何故か初対面なのに自分の名前を知っている異性(一応美形ではあるが)である。

 車椅子側が男ならまだ「可愛い子キタコレ!」とか思うかもしれないが、車椅子側が女の子で、車椅子を押すのが男の子である。しかもかなり汚い本性が透けて見えるいやらしい笑みを浮かべ、年齢の割に身長高いわ年齢と顔がアンバランスだわで、下手したらちょっと身長の低い高校生や大学生でも通りそうな男である。

 

 犯 罪 の 香 り し か し な い 。

 

 誰か110番して! 僕携帯持ってないから代わりに通報して!

 ……しかし悲しいかな、このあたりの席は日があたりにくいために少し肌寒いせいか人が少ない。推理小説コーナーなんだからもうちょっと人がいてもいいんじゃないかとも思うんだが、小学校が終わる時間帯ではそういった物を好んで読む人は少ない。

 つまり、ここではやてちゃんを救えるのは僕一人!

 行くのか、行っちゃうのか僕! はやてちゃんかわいいよはやてちゃん! フラグたてちゃうのかな僕! とか言ってる場合じゃないよ僕! 行くなら早くしないといけないからね! はやてちゃん今にも泣きそうだからね!?

 と、そんなことを考えている間に、僕の脇をすっと通り過ぎていく青紫の影。

 

 ……すずかちゃんキタコレ! これで勝つる!

 

 僕はそっと飛び出しかけた体を本棚の陰に戻した。

 

「ゆ、悠馬く、くん! その子、い、嫌がってるから……」

 

 震える声でそう言うすずかちゃん。はやてちゃんは救世主がキタ! と顔を輝かせて「もっと言ったってぇな!」と涙目で言っている。

 

「え? ……なんだすずか、嫉妬してるのか? 大丈夫だぜ。俺はすずかのことも愛してるから。あ、はやて、勿論お前のことも愛してるからな」

「「うぅ……」」

 

 鳥肌でも立ったのか、自分の身体を抱きしめるようにして涙目になるすずかちゃん。

 うん、分かる。分かるよ。すずかちゃんの気持ち、痛いほど分かる。あいつ気持ち悪いんだよね。なんかさ、イケメンなんだけど、嫌な感じしかしないイケメンっていうか……黙ってれば歳不相応な成熟具合のイケメンなだけで済むのに。

 見ればはやてちゃんも鳥肌がたったのか自分の身体を抱きしめて完全に泣いている。鼻すすってるし。

 

「ん? なんだはやて、感動したのか? ふふふ、大丈夫だ、これからは俺がいるからな」

 

 アンタがいるから泣いてるんだと思うよ。感動じゃなくて生理的嫌悪な意味で。

 

 言いたいことを口をモゴモゴさせるだけで我慢しつつ、周囲を見渡す。

 どうしよう。他のオリ主二人のどっちか早く来ないかな。いや、無理か。今日って確か神社でわんこがジュエルシードに取り込まれる日? うろ覚えだけど確か最初は神社だった覚えがあるし。あとなんか放課後になのはちゃんと刹那と虎次郎が目配せしあってから意味ありげに頷きあってたし。二人でどっか行ってるんだろう。あ、一応ナルシーも頷いてたな。全く視線送られてなかったけど。

 ……あれ? それならなんでコイツここにいんの?

 あ、ハブられたのか。考えるまでも無かったわ。それがどうして図書館に来ることになるのかは知らんけど。

 

「と、とにかく……わ、私が押すから、え、えっと、あ。そう、その、悠馬くんはそっちの棚の上の方の本……あ、アレとってくれないか……な……? 高いところで手が届かないし、本って結構重たいから」

 

 ナイスだすずかちゃん! その言い方ならアホの悠馬は信じて手を離すことだろう!

 はやてちゃんも死中に活を見出したり、といった表情ですずかちゃんに思わず親指を立てていた。ちなみに僕も親指を立てて応援している。気付かれないようにだけど。

 

「ん? そうか、それなら仕方ないな。恋人の頼みとあっては仕方ない。ごめんなはやて。あ、はやてもどれかとってほしい本あるか?」

「わ、私はもう本もっとるからえぇって何回も言っ……い、いや、そうやな。ほならあの一番上の棚の紫の背表紙の本と、あっちの棚の赤い背表紙の本を頼むわ」

「そっか。じゃあちょっと待っててな」

 

 にこやかに(本性知ってる側からしたらいやらしいとしか言えないが)笑みを浮かべてナルシーが車椅子から離れた瞬間、目にも止まらぬ速さで車椅子の後方へとまわったすずかちゃんが早足でその場を離れ、僕の横を素通りして行った。

 

「は、はやてちゃんって言うんだね。私すずか。月村すずかって言うんだ。ご、ごめんね? あの人が……」

「え、えぇよ……それより助けてくれてありがとな……うちははやて。八神はやてや。よろしゅうな……」

 

 二人ともかなり憔悴した様子で語尾が落ち込んでいるが、疲労の中にもどこかやり遂げた感のある表情である。がんばったね、二人とも。他の誰が褒めなくても僕は二人を褒めるよ! 称えるよ! 凄いぞ! よくがんばったね!

 

 ……僕、男としても人としても何か間違ってきてる気がするのは気のせいだよね……? 無謀と勇気は違うもんね……?

 

 自分の情けなさにちょっと泣きそうになりながらも、僕は足早に図書館を出て行く二人を見送るのであった。


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