転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】 作:マのつくお兄さん
まるでスタングレネードでも喰らったみたいだな。
僕の目から、ようやく瞼の裏まで焼いていた白光が消え、耳を貫いていた音として形容出来ない音が聴こえてから役に立たなくなっていた耳に音が戻ってきた時、ようやく思考する余裕が起きた僕はそんなことを思った。
「……えっと、佐藤くん……?」
「へ? ――あ、ごめん」
と、そこでギュっと目を瞑っていた自分の胸元から声が聴こえたのでそちらに目をやると、刹那が少し苦笑いしながら僕を見上げているのに気付いて、慌てて抱きつくのをやめて立ち上がって退く。
「ふふ、別に良いよ。膝枕されてた状態から、咄嗟に女の子庇うために起き上がって押し倒そうとするなんて、ちっちゃくても男の子ですな、佐藤殿」
「うぐ……ちっちゃいは余計だってば」
ついでに言うと、押し倒そうとして出来なくて、座っている刹那の頭を抱えて立っているだけという感じだった。男の子として辛いです。
「アインも大丈夫だった?」
「にゃ~……」
まぁそれはともかく、僕と刹那に挟まれる形で閃光から守られていたアインも大丈夫そうだ。、耳ペタンってさせて涙目で尻尾抱え込んでるけど。やっぱり怖かったか。
っていうか、お前さん耳を前足で抑えるって人間みたいな仕草してるな。もう終わったぞ~。大丈夫だぞ~?
「いや、でも正直助かったよ。膝枕している体勢から君を守る為に動くにはちょっと突発的すぎる事態で、某も動けなかったからね。お陰で耳は少々痛いですが、目は大丈夫だよ。というか、二人のデバイスがぶつかる瞬間にはもう跳ね起きておりましたけど、ああなるのわかってたのかい?」
「うん、いや、原作でもなんか二人のデバイスぶつかった瞬間に凄い爆発起きてたなって思い出して、咄嗟に」
そう、なんか我ながらちょっとビックリなんだけど、原作での爆発を思い出したら身体が勝手に動いてた感じで、眠ってたアインの首根っこ掴んで身体を起こし、ほのぼのした表情の刹那の上体へとタックルして押し倒そうとしていたのである。
「嬉しいけど、君は一般人なんだしあんまり身体張らなくて良いからね? 別に自分の怪我くらいユニゾン中ならすぐ治せるでござるし」
ちょっと困った顔をしながらそんなことを言うけれど、ちょっとくらい男気見させてくれたっていいじゃない。
まぁ、爆発自体は大したダメージ無かったから良いんだけどさ。衝撃も来たけど、刹那というつっかえ棒があったから倒れるところまではいかなかったし。
「いあいあ、僕なんかより刹那が怪我するほうが大事(おおごと)だし仕方ないでしょ。すぐに治せるって点では刹那が近くにいるんだから僕だって同じだし、刹那が怪我して治癒とかできなくなるよりは安全だってば」
「まぁそれはそうかもしれないけど……というか、今更だけど怪我とかは無かったのかい?」
「あ、それは大丈夫。ちょっと背中が痛む程度だし」
「そうか。大したことないなら良かったよ。じゃあまた膝枕する?」
「う~――うん。お願いしちゃいます」
男同士だろとかツッコミは無しね? 子供同士なんだし良いじゃないか。やましいこと無いんだし、なんか落ち着くのだよ膝枕。流石男子の夢。
「はいはい、じゃあ座って座って」
「あいあい」
言われて反転くるりんこ。あ、なのはちゃんとフェイトがお互いに自分のデバイス見てすっごい悲しそうな顔してる。ヒビ入ってるんだっけ?
「――って、待って佐藤くん、背中に思いっきりガラスの破片突き刺さってるんだけど……」
「あ、じゃあ抜いてもらえる?」
「いやいや、抜くけど、治すけど、痛くないのかい?」
「痛いっちゃ痛いけど、そこまでじゃないよ? 刺さり方が良い感じになってて痛み感じないのかも」
「まぁ、これが僕の顔に刺さっていたらと思うとゾッとするから、割かし本気で某からもお礼言っておくよ。ガラス抜くからちょっとそのままそっち向いててね。これくらいなら時間操作しなくても簡易治癒で治せるから」
「うぃうぃ」
あ、バルディッシュ手袋の中に戻してフェイトが突っ込んでくる。
……あれ? なんでこっち突っ込んできてんの?
「簡易治癒(ファーストエイド)。――よし、やっぱりこのくらいの怪我ならコレで充分か。しかしガラス片結構大きいので良かったよ。あんまり細かいと取り除けなくて治癒した時に身体に残ったりするからね。時間操作だとそういうことも無いんだけどあんまり連続して使える魔法でも――」
「ねぇ佐々木さん」
「なんだい? 怪我はもう治ったよ?」
「なんかフェイトちゃんこっち向かって来てるんだけど」
「うん?」
相当な速度である。ウサギさんみたいな名前のボルトさんが走ってきたらこのくらいの速度では無かろうか。
文字通り飛んでくるフェイトだけど、なしてこっちくると?
「って、佐藤くん! ジュエルシード足元!」
「おおぅ?」
刹那が立ち上がってあげた叫び声で気付いた。本当だ。僕の足元に転がってる。吹っ飛ばされてきたの? そういえば僕の背中押したのも風というよりなんかちっさくて硬い物だった気が気がしたけど。
……あっぶね~。めっちゃプルプル震えて光ってるよこのジュエルシード。コレがグリーフシードだったら今頃魔女化してるところだよ。
「退いて!!」
「のぉう!!」
阿呆なこと考えてたら勢い良くフェイトにタックルされて吹っ飛びかけるも、後ろに居た刹那が抱きとめてくれたので助かった。
「フェイト!! ダメだ! 危ない!!」
「く――ッ!!」
と、拾ったジュエルシードを両手で握り締めたまま、手から漏れ出す光を押さえながら、フェイトががくりと膝をついたところで、足元に金色…いや、よくよく近くで見るとコレ黄色か。の魔法陣が発動し、フェイトを中心に風が吹き始める。
――さっきの爆発ほどの危険な感じはしないので大丈夫そうだ。原作アニメでも確か抑え込みきれてたし。
「佐藤くん。一応、僕の後ろへ」
「いや、大丈夫じゃないかな」
むしろ下手な動きしたらアルフや悠馬を刺激するだけだと思う。
それはそうと、こうして近距離で見て思ったんだけど、フェイトの服装ってちょっと露出高すぎない? ふともも丸見えだし、上着もノースリーブ型だし。8歳の子がするにはちょっと色気意識しすぎだと思う。
いや、でもまぁプレシアさんの格好からしてアレだからなぁ……。
そんな呑気なことを考えながら眺めていたら、そこにあるのはフェイトの手を中心に光が漏れて、風でマントがはためき、フェイト自身は祈りを捧げているようにしか見えないポーズ。
(なんかこう、聖女っぽいというか神聖な感じがあるというか……)
汚すことどころか触れることすら憚られる幻想的な美しさ。
どこぞの宗教団体の人とかが見たら宗教画にでもしそうな感じである。
「止まれ――ッ!!」
そして、終焉。
光も風もおさまり、そこにはフェイトが一人残された。
「フェイト!!」
「うっ……」
フェイトがぐらりと揺れ、向こうからアルフが駆け出してきているが、距離的にフェイトが崩れ落ちる方が早い。
あ~もう……別にこんくらいは良いよね。
「――え?」
「えっと……なんていうか、お疲れ様?」
身長差で抱きとめるようなことは出来ないけど、倒れそうになるフェイトの肩を掴んで止めてあげることくらいは僕にだって出来る。
まぁ、このくらいじゃフラグなんて建ちようが無かろうて。建つとしたら今フェイト側についてアルフから信頼を得ている悠馬だろうし、問題ないはず。
「……うん」
「フェイトから離れろガキンチョ!!」
「うわわ!?」
「あぁもう佐藤くん!! 下がって!!」
駆けつけてきたアルフがおそいかかってきたけど、そこは刹那が刀でガッチリ弾いてくれたので大丈夫。
うん、狼さん形態でガチに牙むき出しで迫られたら、マジ怖いね。
「僕達に敵対する意思は無い。去るなら追わぬ。行かれよ」
「信じると思うのかい?」
「戦う気ならばとうに襲っているわ、たわけ。それよりも貴様の主がもう限界であろう。早く連れて帰ってやるが良い」
「――本当だろうね?」
「こちらも目の前に足手まといがいるのでな。無理に追おうとも思わぬよ」
お~い刹那や? 多分、今はセイバーが表に出てるんだろうけど、地味に傷つくよ? 逃がす口実にするためだってのは分かるんだけど、そして事実でもあるんだけど。
「……ふん」
あ、アルフが人間形態に戻った。
「悠馬、悪い。退くよ」
「しか、無いだろうな。帰るか」
「……ごめん」
「謝られる必要を感じねえな、フェイト。……あー、まぁアレだ。たまにはそうやって素直になってくれると、愛が報われた感じがして嬉しいけどな?」
そして、なにやらいつの間にか目の前にいた悠馬(こいつ本気で何時の間に来たんだ。瞬間移動でもしたの?)とアルフ、フェイトの三人ですばやく逃げ出す。
「あっ――待って、フェイトちゃん!!」
「なのはちゃん、今日はもう無理や。……レイジングハートももう限界やろうし、帰るで」
「そうだね……これ以上は。なのは、帰ろう?」
「――うん、わかったよ、虎次郎くん、ユーノくん」
「ほな、刹那~! ワイらのお姫様のお守りしつつ、ここの修復頼んだで~!」
「任せておいてよ! 虎次郎くん!」
「――待って!! お姫様って僕のことじゃないよね?!」
割と、僕はそこ絶対認める気無いからね?
そして刹那もその頼まれたは修復に関してだよね? 僕に関してじゃないよね?
「ほな! また明日学校でや!!」
「またね、刹那くん! あ、あと義嗣くん!!」
「ごめんね、刹那。後は頼むよ……義嗣、またね」
「またね」
「キー! 話し聴けよぅ!!」
おのれ虎次郎くん許すまじ!!
「まぁまぁ。…さて、それじゃあそろそろ僕の本領発揮だ」
「あ、そっか。うん、ごめん。邪魔しないね?」
色々と抗議したいところではあるけれど、僕のわがままでここの修復遅れさせるわけにもいかないしね。この結界もいつまで続くのか分からないし。
「うん、じゃあ……いくよ。――あるべき物をあるべき姿へ」
詠唱始まった。僕は空気読める子だから口は黙るよ。
「時よ遡れ、美しきあの景色を此処へ」
お、青い魔法陣が刹那の上に出てきた。……のは良いけど、これ陣がアルファベット漢字平仮名片仮名英数字に記号と、やたらごっちゃ混ぜに見えるよ。なんぞコレ。
PCでゲームのシステムデータかなんかをメモ帳機能で開いたらこんな感じに訳ワカメな字が出たりするけど、アレに近い。今世では見たこと無いけど。
なんかぼんやり見えている分には良いんだけど、コレくっきり見えたらなんか嫌な感じっていうか、見てて苛々する羅列だと思う。分かるかなこの例え。
一回でもそういうの見たことある人ならわかってくれるかもしんないけど、わかんなかったら良いや。
「破壊を創造へ、創造を無へ、嗚呼素晴らしきこの世界に奇跡を。祝福を。時を司る我が命じ、念じ、願う」
意味不明な羅列の成された魔法陣が一気に巨大化し、今の自分の視界には朗々と謳いあげる刹那の綺麗な顔しか見えないけれど、多分、被害の出てる住宅地全体に魔法陣が広がっているのだろう。
「時間(とき)よ、あの美しき時間(とき)よ。ここへ具現し、世界を騙し、世界に認めさせ、時間(とき)の矛盾を淘汰せよ。
――美しきあの時を此処へ<ワールドタイム・リトログレッション>」
魔法陣が消失し、魔法陣を構築していた青い光が周囲一帯に満ちて、まるで明るく光る海の中に入り込んだような、そう、もっと分かりやすく言うのであれば、四方八方が水槽で囲まれた水族館の中に迷い込んだような錯覚を僕に感じさせる。
記号みたいな魔法陣はなんか嫌だったけれど、この光は素直に綺麗だと思う。
そして瞬きを一つした瞬間には、まだほんのりと青い光の余波が残ったままではあるものの、音も無いまま修復されたいつもの家の中の様子が目の前にあった。
「どう? 格好良かったかい?」
「……うん、凄く、綺麗だった」
それは良かったよ、と朗らかに笑う刹那の顔も、さっきの光景に負けず劣らず綺麗だったけどね。