転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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17.歪愛と共同戦線

 暇です暇だよ暇らしい。

 アインもおねむで遊べないし、刹那はいないし、セイバーがいないのは気楽で良いけど、ゲームやるにも戦略ゲーはそろそろCPU相手だと難易度限界にしても問題無い状態。早くPCを買ってRTS(リアルタイムストラテジー)がやりたいでござるの巻。

 あ、リアルタイムストラテジーってアレね。戦略ゲーとかのリアルタイム進行でやるタイプのゲーム。ターン制とかじゃないので超頭使うの。好きなのよね、ああいうゲーム。得意かどうかは別として。

 

 さて、そういうわけでもうすぐ夕方。刹那とセイバーは既に早めのご飯を先に食べてジュエルシード探しに出ているし、僕とアインはお留守番。

 ではでは後はこれから何しよう、という状態なわけである。まぁ、候補としては勉強するか、或いは原作イベントが始まる前にさっさと買い物行っておこうか、というところなんだけど。

 丁度昨日作ったカレーでニンジンが、今朝方のお弁当でじゃがいもと卵、お魚のストックが無くなってしまったので補充したいところ。ちなみにカレーのお肉はお歳暮かなんかで貰って冷凍庫に眠っていたハムを使いました。

 ほら、連休中家を空けるのに肉とか置いとく訳にはいかなかったから、そういった生物(なまもの)系は事前に料理して使い果たしておいたんだよね。お魚の切り身だけは冷凍室に残っちゃってたけど、それは今朝使ったし。

 で、そういうわけだからちょっと家にある食材が心許無い訳である。スーパーでお惣菜を買ってもいいんだけど、やっぱりどうしても高くついちゃうからね。まぁたまに閉店間際とかにちょろっと覗いて、50円でお惣菜二種類セット、とかが売ってたりしたら躊躇無く買うんだけど。

 で、じゃあ買いに行くのか、となると近所にあるいつものスーパーでは今日特売が無いものの、ちょっと行ったところにあるスーパーでは丁度じゃがいも、にんじん、たまねぎ、ピーマン、ついでに長ネギと牛肉に卵が安い日という状況である。

 まぁ、こういう時って迷うよね。行くべきか行かないべきか。

 だって、だってそんだけ食材あったら貴方、あとは白滝と豆腐があればすき焼きとか出来ちゃうですよ? カレーまだ少し残ってるけど、セイバーが好物らしいからまた作るも良し、ピーマンの肉詰めとかも有り。

 しかも幸いなことに、原作で舞台になっていたっぽい都心の方では無いのよ。むしろ逆方向で、刹那も都心部のほうで恐らく出てくる筈だからそちらには近づかないように、と出かけ際に言ってきてたので、ほぼ安全なんだと思う。だから「事件現場の反対側なんだし、別に買い物に出かけてもいんじゃね?」とも思うんだけど、なんかフラグ建ちそうで嫌なんだよね。

 

 分かる? 今日、津軽さんもなんの脈絡も無く僕に声かけたじゃない。ああいう気付いたら建ってたフラグって絶対あると思うんだ。いくら僕がモブとは言っても、そういう悪いフラグだけは何故か建つと相場が決まってるのだ。

 そんで親友ポジの虎次郎に助けられて、「虎次郎かっこいい!!」のパターン青、使げふん。が入るのである。実際昼はそうだったわけだし。

 となると、フラグが建つのは多分間違いない。だから僕は出かけない。

 くくく、舐めるなよ? 僕の原作イベント回避スキルを……出かけると思っただろう? これだけ思わせぶりなこと言ったら出かけると思っただろう? そこが甘いよね。いや、確かに買い物はしてきたいし、ついでにいえば原作イベントだって何気に猫天国とお泊り会には参加したけど、それ以外僕って原作イベント一切絡んで無いんだからね? アリサちゃんなのはちゃんの喧嘩イベントだってあっさり虎次郎が解決したっぽいし。

 つまり、そういう訳だから自分から「あ、これ小説ならフラグ建つな」と判断できる行動は避けるべきなのだ。現実的な危険の確率とかは度外視で、フラグ建ちそうな行動というのが重要。現実的に考えたら、事件現場から遠い場所に買い物=巻き込まれる心配が減る。安全。と思うが、小説ならフラグとなってしまうので、出かけない。これが正解。安心安全なモブライフを送るにはこれが一番の安全策。

 故に、ちょっと食材の在庫に不安はあるものの、カレーもあと一食分くらいはあるし、お茶漬けの元もあるし、冷凍食品もいくつかまだ冷凍庫に入っているので、今日一日と明日の朝の分くらいはご飯のおかずが無くて切ない思いをすることはない。

 

 さぁ、これで安心だ。では勉強でもするか。

 

 

 

 

「あれ、こんな時間に誰だろ」

 勉強もある程度区切りが付き、タオルケットの上で完全に寝てしまったアインを置いたまま、すっかり空も暗くなった頃に残っていた一食分程度のカレーを温めていると、玄関のチャイムが鳴った。

 時計を見ると、時刻は午後八時過ぎ。

 確か刹那は、今日の帰りは十時過ぎるかもしれないと言っていたので、刹那が帰って来たにしては少し早い。

 回覧板などがまわってくるにしても、流石にこの時間ということもないだろう。今日は来客の予定などは特に無かった筈なのだけれど……もしかして津軽さんが今日の放課後のことを謝りに来たとか……無いか。

「はいはい、今行きますよー」

 再度鳴らされたチャイムに、僕はコンロの火を止めて一度玄関へと向かう。

 向かう途中にまたチャイムが鳴り、そして、玄関のドアに着いた時にもう一度、チャイムが。

「そんな何度も鳴らさなくても……?」

 この時点で、流石に僕はちょっと不安を覚えた。

 

「……」

 

 家の電気も玄関の外の電灯も点いているので、居留守は即バレるだろう。というか、相手の確認もせずに居留守というのも失礼な話だ。

 なんだか嫌な予感を感じながら、念のため来訪者の顔を確認しようと、また鳴らされるチャイムを無視して音をたてないように気をつけながら、廊下に置いてあった小さな脚立を使って覗き穴にゆっくりと目を近づけて、そこにいる人物に首をかしげた。

 

 誰だ? この人。

 

 よれよれのスーツ姿で、髪ははげ散らかっており、玄関の照明から顔を隠すようにでもしているのか、ギョロリとした目と、真っ白で血色の悪い肌が見える。

 ぶっちゃけると、とても気持ち悪かった。雰囲気的にも、外見的にも。なんだかゾンビみたいで。

 

「陽子さん、いませんか……」

 

 と、ドアの外でぼそぼそとそんなことを言いながらまたチャイムを鳴らしているその人に、どうやら家を間違えているらしいとようやく気付き、ドアを開けて返事をしようとして、ドアが凄い音をたてたことで僕は驚いたせいで脚立から落ちかけ、悲鳴をあげかけた。

 落ちず、悲鳴もあげなかったのはわれながら偉い。

 

「いますよね……?」

 

 チャイムが鳴るのとほぼ同時に、ドン、とまたドアが大きな音をたてた。

 どうやら、蹴っているようだ。

 

「いるんですよね……?」

 

 ハッキリ言おう、滅茶苦茶怖い。

 なんだこの人、もしかして誰かのストーカーとかなのか。なんでうちにきたの。陽子さんなんて人うちには居ないからね!?

 内心でツッコミを入れつつ、僕はそっと脚立から降りて居間へと戦略的撤退をすることにした。

 幸い、覗き穴から見た限りではドアを壊せるような道具は持ってなかったし。今の内に110番、いざおまわりさんの出番であるという判断である。

 

 ……まぁ、ハッキリ言おう。油断してたよね。僕。

 

「イルンダロオオォォォォアアアァァァ!!」

 

 居間に戻って、いざ電話と、と思った瞬間、外から先ほどの男性の悲痛な叫び声が聴こえた次の瞬間、天井が吹っ飛んだ。

 

 ……うん、天井が吹っ飛んだ。何も間違っていない。

 

 物凄い轟音をたてたため、先ほどからの連続チャイムで半分起きかけ、叫び声とその音で完全に覚醒したらしいアインが物凄い慌てて僕のところに来たので抱き上げてから、玄関とは反対側の窓へと近寄り、カーテンをそっとめくって外を見てみると、ご近所の家のひとつが潰されていた。

 幸いなことに、姿は見えないけれど誰かが結界を張ったみたいで世界の色がどこか薄くなっていて、人の声とかが一切聴こえないから怪我人とかは出てないっぽいのだけれど。

 

 ……うん、待って、おかしいと思うのは分かるよ。僕も「なんでだよ!!」ってツッコミたい。でもね、現実。

 

 皆、よく聴いてね? 「フラグって、別にそれっぽい行動して建ててなくても強制参加イベントになることもある」という事実をここに述べておくよ。内心愕然だよね。そもそも僕原作の戦闘イベントとか関わる気ないんだからやめてくれ、と。この前ので懲りたんだから。

 

 そんなことを考えながら上を見上げたら。なんかうねうねした触手やら人間の腕っぽいのやらを生やした変な物体がいた。

 

 もうね、この巨大な触手うねうね巨人さんは空気を読んで欲しい。せめてね、せめて現れるなら、僕が行こうか迷っていたスーパーの方角ではないのか、と。僕が予備食料を我慢してまで建てないようにしたフラグを強制的に建たせるようなことしないでくれ、と。そしてなんか見ていて気持ち悪くなってくるから、即刻その姿を辞めてくれ、と。

 いや、まぁ言うだけ無駄だろうし、そもそも言ったところで何が良くなる訳でも無いからもう別に良いけども、なんか、生理的に嫌。アレ気持ち悪い。なんか見てて鳥肌立つ。この世にあってはいけない悪意だよ! とか言い出したくなるような気色悪さ。

 

 

 

『アァァァァ……イナイ……イナイ……ドコニイル……』

 

 暫く、じっとしたま触手を見上げて何が起きても動けるように待機していたけれど、先ほどのこの触手が原因と思われる一撃で我が家同様に近所の家の殆どは屋根が吹き飛んだり壁が崩れたりさせた後は攻撃らしい攻撃はしていない。

 ただ何かをうめき続けてキョロキョロしているだけで、まだ余裕はありそうだ。早いところ虎次郎くん達来ないだろうか。

 

 しかしアレだね。

 もうね、なんとなく予想つくけど、ジュエルシードが人間とりこんじゃったんだろうね。他にもあの見た目だと変な物も取り込んでるのかもだけど。

 でもね、アリサちゃん喧嘩回って確か、ジュエルシードは誰にも渡っていない状態で、なのはちゃんとフェイトによる奪い合いになるんじゃなかったっけ? 僕原作うろ覚えだけどそのへんくらいは覚えてるよ。

 

 なのに、なに? あのグロテスクな化物。そして結界張ったのが誰かは知らないけど、お願いだから早く倒すなりなんなりしてもらえないだろうか。

 それとも結界張った人は戦闘能力無くて、なのはちゃんやフェイト、虎次郎くん達待ちしてるとか? 転生者が結構隠れてるだけでいるっていうんなら、戦闘能力無いけど結界張れる転生魔道師が被害抑えるために結界張った、とかで理解できるし。

 っていうか、そうだと良いなぁ。もしかしたら、これが原作介入している虎次郎くん達を排除するために誰かが仕掛けた罠だったら! とかいうパターンもありえるのではないかと、この深読み名人の佐藤くんは思う訳ですよ。虎次郎くん達なら力技で罠なんて食い破りそうだし、なのはちゃん達も然りだけど。

 

 ――ところで玄関にいた人がこの触手の化物になったという解釈で良いのだろうか。

 

『ヨウコォ……オレト……』

 

 陽子という単語も先ほどあの玄関にいた人が呟いてたし間違いないだろう。多分。

 というか、イナイ、と言っているということはどうやら個人の判別するくらいの理性は残っているらしい。少なくとも僕が勘違いされて襲われるなんてことは無さそうだ。

 

『愛シテルンダ……マタ会イタイ……ドコニ……』

 

 うん、アレか、所謂痴情ののもつれって奴でこうなったのか。なんて傍迷惑な。

 いやまぁ、本人は色々辛いのかもしれないけれども、だからって他人の家をぶっ壊して良い理由にはならんですよ?

 こみ上げてくる恐怖心を抑えながらそんなことを内心で呟き、視線をおろして我が愛しのアインを撫でる。

 

「にゃあ……」

「あ~、アイン。大丈夫だよ。もうすぐなのはちゃんとか虎次郎くん達来るだろうから」

「にゃあ……?」

「うん。家もちゃんと直してもらえるよ、多分」

 

 だから静かにしてようね~、目をつけられたら大変だから、と腕の中のアインをもふもふしようとしたら、何やら急に周囲が暗くなったので、嫌な予感に僕はゆっくりと視線を上にあげて、見上げたことを後悔した。

 

『チガウ……』

 

 目の前には、ぎょろぎょろと蠢く数十数百の血走った目が生えた触手の群れ。そして、なんか、僕一人どころか、大人一人入れそうな大きさの口を開けた、やけに獣チックな牙の無数に生えた食虫植物っぽい触手みたいなの。

 どうやら、今頃僕の存在に気付いたらしいけど、ちゃんと探し人ではないと認識してくれたらしい。

 

 しかしこう、こんな至近距離でこんなの見たら滅茶苦茶鳥肌立つね。

 怖いってのもあるにはあるけど、それよりもあの、大量の蟻の群がってる地面に落ちたケーキとか、カエルの卵とか、カマキリの卵とか、そういうなんかぶつぶつしたのって、至近距離で見ると結構気持ち悪いじゃない? 分かるかな。僕ああいうのダメでさ。なんかすんごい鳥肌たって、意味も無くイライラするんだよね。カエルとかカマキリとか蟻とか見たり触ったりは問題ないんだけど。で、今感じてる嫌悪感みたいなのはソレね。わかる?

 あ、そうそう、蟻さんといえばね、意外と益虫でもあるから覚えておくと良いよ。白アリっているじゃない。アレってゴキブリの一種でね、ハチの一種の蟻さんと敵対関係にあるから、白アリと蟻さんが同じ場所に巣を作ったら白アリVS蟻さんという戦闘が起きることがあるらしいのだ。前世のテレビかなんかで見た覚えがあるよ。

 まぁ、白アリも自然界においては重要なファクターを担ってるとかで、家の柱とか喰っちゃうという人間に対する害はあっても絶滅したらしたでちょっと問題が発生する昆虫らしいので、まぁうまいこと共存していきたいもんである。

 ……え? そんなうろ覚え雑学どうでもいいって? いや、今は語らせて。目の前の気持ち悪いのから意識そらしていたいから。アイン、そんな尻尾おなかに抱え込んでビクビクしなくて良いよ。耳ペタンコにしておくのは、なんかこの生物から発せられてる呪詛みたいな声聴かないようにする意味では良いかもだけど、僕までそれするとアイン降ろさなくちゃいけないし、何より音が聴こえないと咄嗟に回避行動とったり出来ないからやれないのが切ないね。

 今は暴れまわったりしてないから良いけど、暴れだしたら正直えらいこっちゃになりそうだし。

 

『イナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイ……イナイィ!!』

 

 ……こ、怖いんだけど……いきなり同じこと繰り返して言うのやめてくれないかな……あ、今いちいち覚えてなかったけど、もしかして一回くらいイナイじゃなくてナイキって言ってたりしない? ……してないか。残念。そういう同じ言葉だけ並んでるかと思ったら、なんか違う言葉混ざってる、みたいなの捜すの好きなんだけど…。

 アハハ……。

 

『ガアァァァァァァ!!』

 

 って、動き出した!!

 

 お前さんは千手観音か、とツッコミを入れたくなるくらい、数え切れないほどのでかい人間の腕や目玉のついた触手、口のついた袋つきの触手とかが一斉に動き出して、我が家の残ってた壁を破壊し始めた。というよりは、この辺一帯の家を全て壊さんとばかりに、見境なしにバッタンバッタン動き始めた。

 ハッキリ言おう。無理。もし動き出したら回避しようとか考えてたけど無理。目観で大体30~40cmはあろうかという太さの巨大触手やら、大型トラック並のデカさを持つ袋をつけた口付き触手、そして小指の長さだけで僕の身長超えてるんじゃないかっていうでかい人間の腕が無数に乱舞するのである。

 もうコレじゃあ伏せる他無い。アインをおなかに隠して、うつぶせになって頭抱えてるしか無い。小さな瓦礫が降ってきたりとか、触手が一瞬かすったりとかして滅茶苦茶痛いけど、超我慢。前世では木刀で殴られたりリンチされたりナイフで刺されたり、そっち系の趣味の人に力づくで貞操狙われたりしたことのある僕に、この程度の痛みなど効かぬ効かぬぅ!!

 

 ……本当はすっごい痛いんだけどね!! 今、僕の身体中青痣だらけだと思うよ!! これ後で刹那あたりに治してもらわないといけないね!!

 今割と、本気で泣きそうだけどね!! きっとそろそろ虎次郎とかなのはちゃんが助けに来るからね!! 頑張ろうねアイン!!

 

 

 そんなことを内心で考えながら、結構時間が経った気がするけれど、未だに誰かが救援に来た様子は無い。

 

 ……そろそろ来てくれないと、左肩の感覚が無いっていうか、ちょっと……目の前がグラグラするんだけど……もう家の壊せるようなところ残ってないっぽいから瓦礫降って来なくなったのは良かったけど……とりあえず背中に乗っているというか倒れているなんか重い物どかして欲しいかな、なんて……。

 

 ……なんで、誰も来ない系……?

 

 あの、今、ちょっと動けないというか、動いたらえらいことになりそうなダメージといいますか、えっと、内心ではこんなのんびり語ってますが、割と本気で病院とか搬送しないといけないレベルの怪我負ってるので、誰か早く来てくれないかな……。

 左肩から先の感覚が無いし、右膝に意識一瞬失うほどの激痛走ったと思ったら動かなくなったし、右手の甲にガラスの破片とか刺さってるみたいで血がね、ダランダラン僕の頭を伝って自分のほっぺとか垂れてくの。痛いとか超えて、なんか熱いの。熱いんだけど体は寒いというか寒さにぶるぶる震えてるというか、なんか一度こういう状況味わった覚えがあるんだけど、前世でも今世でも流石にこんな大怪我したことは無かった気がするんだよね。もしかして前世で死ぬ時これと似たような状況だった?

 

「死ねやクサレがぁぁぁ!!」

 

 と、ようやく誰かが来たらしく突如叫び声と爆音が連続で頭上の方から聴こえてきたと思ったら、次の瞬間には耳をつんざくような化物の悲鳴が。

 

『ギィィィィィィィィ!?』

 

 ……誰が来たのかまでは、頭上げられないのでちょっとわかんないんだけどね。若干意識朦朧としてきてるし。その割には余裕あるように見える? ごめん、結構痩せ我慢。武士は喰わねど高楊枝。心頭滅却すれば火もまた涼し。隣の客はよく柿食う客だったが、膝に矢を受けてしまってな……。

 

 オッケー、まだ余裕ある。大丈夫。頭守ってたおかげで意識保ててるし大丈夫。アインも怪我してないと良いんだけど、声もあげないで僕のおなかと床の狭い空間でぷるぷるしてるのだけは感じてるから、大丈夫だと信じたい。ぶっちゃけ、ずっと歯を食いしばってる上に涙ぼろんぼろんで鼻水ぐちょんぐちょん状態で息が苦しいけど全然余裕。マジマジ。だからそろそろ、そろそろ助けて欲しいかな?

 

「クソッタレが……今回の戦闘は大事な……大事なファクターだったんだぞ……てめぇみてぇな名前すらあんのかしらねぇようなモブが変な欲かいて介入しやがったせいで、全部台無しじゃねぇか……」

 

 ……あ~、この喋り方、悠馬? お~い、僕助けてもらえないかな。正直もう、そろそろ限界な気がするんですよ。声出せないし、身体中痛いし、あの、ジュエルシード戦が大事なのもわかるんですが、なんか回復系の宝具かなんかで、せめて重態から重傷くらいのレベルまで回復させてもらえるとありがたいんですけど~。

 

「死にたいって泣いて懇願しても許してやらねぇ。生き地獄味わってもらうぞこのクソッタレ野郎が……ッ!!」

 

 あ~……向こうの声は聞こえども、こちらからの声は聴こえず、って感じ?

 っていうか、僕声出せてないもんね。アハハ。これは失敬失敬。

 

「悠馬!!」

「アルフ、おせぇよ。フェイトは?」

「とりあえず、あの子達とは休戦ってことになってね、私だけ先行してきた。フェイトは今向かってきてるよ。ったく、こんな化物が出なければねぇ……」

「……悪かったな。俺が魔力放出をしすぎたせいで、こんなところにあったジュエルシードが反応しちまって。小出しにして移動しながらやるべきだった」

 

 ……お~、珍しい、あの悠馬が人に謝ってるよ~……。

 

「気にしなくていいよ。アンタがフェイトや私の負担軽減させるためにやってくれたんだってことくらい分かってるからねぇ。それに、いつも美味しいご飯もらってるからね。ちょっとくらいのヘマは許してやるよぉ?」

「……愛してるぞアルフ」

「アンタ、本当誰でも彼でも愛してるって言うねぇ。別に、私は気にしないけどさぁ? 多少は女心ってもん理解したらどうだい?」

「ふん、理解する気もされる気もねぇよ。ったくお前と喋ってると調子狂うな……。いや、そんなことよりさっさとこの気色わりぃクソモブ目玉野郎を殺って、今度こそフェイトの真の実力をなのはに教えてやるぞ。フェイトも決着つけたいみたいだしな」

「やれやれ……ま、フェイトの実力思い知らせてやるってのには賛成だねぇ。あんな甘っちょろいガキ共にうちのご主人様の実力甘く見られっぱなしってのも癪だし? 珍しくフェイトが燃えてるのも事実だからねぇ」

「だったらさっさと行くぞ。あの頭の額っぽい部分にジュエルシードが光ってるのが見えたから、あそこまでの道は開いてやる。後は頼むぞ」

「はいはい、背中は任せるよ?」

「安心しろ。俺の女に指一本も触れさせねぇよ」

「はいはい。それはどうもね」

 

 ……あ~……なんだか、すっごい良い雰囲気出してるけど……そろそろ……無理……。

 

 

 

 

「――くん!!」

「にゃ~」

「……ん……?」

 

 ぺちぺちと、ほっぺを叩かれる感触と揺さぶられる感覚、そして鼻をペロペロ舐められるという三種類の色々な目覚ましさん効果で僕は眼を覚ました。

 

「……知らない天井だ……」

「良かった。そもそも天井とか無くなってるのにそんなベタベタなボケできるんなら大丈夫だね……」

「にゃ~……」

「お~? お~……何が?」

 

 お目覚め一番に、テンプレボケ以外は咄嗟に思いつかんよ刹那?

 目の前には、僕の顔を覗き込んでいる刹那のかなり近い顔と僕の顔に少しかかるくらいまで垂れている刹那の髪の毛。っていうか、頭の下の柔らかい感触は多分、膝枕である。男の子の夢、美少女の膝枕である。

 だが、男だ。刹那可愛いけど身体は男だから忘れないでね、皆。たまに僕も忘れかけるけど。

 

 ……って、うん?

 

「刹那……なんか髪の毛伸びた? ポニテ?」

「あぁ、これはユニゾンしてる影響でござ……って、そうじゃなくて、大丈夫かい? どのへんまでの記憶がある?」

「お~……刹那が女体化したところまで」

「それが本当だったのならすっごく嬉しかったけれど、残念ながら僕はまだ身体男の子のままだよ……なんだい? 君は起きたばかりな割に僕の心に地味な傷を作る気かい? 剥ぐぞ?」

「なにを!? あ、生皮!? やめて!?」

「惜しい。生爪でござるな」

「そっかぁ。生爪か……なら安心……って違う!! どっちにしろ危ないし痛いよさ佐々木さん!?」

「さが一回多いよ、さ佐藤くん」

 

 君のその冷静な意趣返しツッコミが今は怖いです。

 

「というか、今私のことを呼び捨てにしてはおらなんだか?」

「え、マジで? ……って、佐々木さん? 口調口調」

「え? ……あぁごめん。ユニゾン中って意識が妙に混濁してて、僕が僕なのかセイバーなのか自分でもわからなくなってる時あるから、気に召さるな佐藤殿」

「え~っと……頑張ってね?」

「なにやら……微妙にバカにされた気がしたのですが、佐藤くん?」

「いや、佐々木さんがユニゾン嫌がってた理由が地味にわかったってだけだよ……」

 

 なんていうか、せっかくの美少女外見なのに、痛々しい子みたいになっちゃってるよ。ドンマイ刹那。

 

 ちなみに、バリアジャケットと思わしき刹那の格好は、赤い部分が青に変わってるだけの、神社のマスコットこと巫女服に太刀を装備という姿である。色々ツッコミを入れたいところはあるが、とりあえず「なんで和装の男のデバイスとユニゾンして巫女服になるのか」とかそういうところだろうか。あとは巫女服は女の子用です、とか。だが男だ、ってネタをやるにもあんまりにもあざとすぎる。刹那はどんだけ他作品のネタで固められれば気が済むのか、というツッコミを入れざるを得ない。

 

「どうでも良いけど、その刀って妖刀五月雨って名前だったりしないよね?」

「本当にどうでも良いし、まず先に確認することあるんじゃないかって思うけど、この刀に特に名前はござらぬな。言うなれば無銘刀、としか言いようが無いが…五月雨か、良い名かも知れぬな」

「いや、ごめん。マジでその名前だと危ない可能性があるから絶対にその名前だけはやめて」

『ジャマスルナァァ!!』

 

 と、上から叫び声が聞こえてきたので僕は驚いて思わず身体がビクっと痙攣したみたいに反応してしまった。

 なんてこったい。まだ終わってなかったか。

 

「まだ戦闘終わってないの?」

「うん。ただ君の家が瓦礫の山と化してるから心配で見に来たら冗談抜きで君が死にかけてたから、戦闘よりも優先して助けに来たんだよ。……って、あれ? 記憶あるのかい? アレに襲われてる時の。割とギリギリまで怪我しなかったんだね君」

「え? なにが? っていうか、佐々木さんは僕とおしゃべりなんかしてて良いの? 戦闘に参加しなくて良いの?」

 

 あんだけのデカイの相手だったら、火力は相当必要だと思うんだけど。

 

「あぁ、僕は火力要員じゃないし、それに……今回は参加しなくても大丈夫そうだからね。ほら、見える?」

「ん~?」

 

 そう言うと刹那は少し身体をずらして上が見えるようにしてくれた。

 

 桃色の綺麗な太い光の線。

 

 金色の光を纏った流星。

 

 宙を舞う、数百どころか数千単位はあるのではないかという黄金の光に輝く箒星。

 

 橙色の小さな星々の刹那の輝き。

 

 そして翠色の美しい輝きのオーロラが、それらの光を守るかのように優しき空を彩り、

 

 最後には一際赤い光の恒星が、軌跡すら見せぬ速度で縦横無尽に夜空を飛び回っている。

 

 

 それはまるで、完成された絵画でも見ているかのような美しさだった。

 

 

「おー、綺麗だね……」

 

 六つの輝く星々が、あの影のように漆黒の、巨大な化物の無数にある腕を切り落とし、払いのけ、弾き返し、焼き尽くし、星の見えなくなった夜空になり代わり、綺麗なコントラストを描く。

 

「そうだね……」

 

 僕の呟いた声に、刹那が少し優しい声で応じて、そっと頭を撫でてくれる手の感触が心地良い。

 

 まぁ、尤も。

 

「アッハハハハ!! ほんま相変わらずのバカ火力やなユウマン!!」

「身一つで同じだけの破壊生み出すテメェに言われても嬉しかねぇよ!! ッ、フェイトあぶねぇぞ!!」

「黙ってて、気が散る」

「危なッ!? おいネズミの使い魔!! 私の防護壁だけやけに脆い気がするんだけど!? ちゃんと張っておくれよ!!」

「僕だってこれでも全力だよ!! 結界の心配無いのは良いけど、六人分のシールド展開するだけでどれだけ魔力と神経使うと思ってるのさ!! 君こそもっと火力上げなよ!! なにさその花火は!!」

「うっさいね! 私は近接型だから射撃は不得手なんだよ!!」

「ユーノくんもアルフさんも喧嘩してないで応戦してー!!」

『ジャマヲスルナァァァ!! ヨウコォォォx!!』

「「「「「「うるさい(の)!! さっさと観念して封印され(て)(ろや)(なよ)(やがれ)!!」」」」」」

 

 空から聴こえてくる声がなんともそういうロマンチックな雰囲気をぶち壊してくれてる訳だけど。

 ま、良いんじゃないかな。虎次郎達らしくって。

 

「まぁ、なんていうか、割と気楽そうだし怪我人も出てないようで、何よりですよ僕は」

「ははは、佐藤くんだけはさっきまで死に掛けてたけどね」

「僕は別にいいんだよ。モブだし。まぁ滅茶苦茶痛かったけどね……」

「にゃあ……」

「あ~、ごめんごめんアイン。無視してないよ? もう痛いのも治ったからね?」

「にゃあ」

「……うん? 怪我した時の記憶があるのでござるかい?」

「え? いやいや、普通にあるけど。いっそ一撃で意識もってかれてればそこまで苦痛じゃなかったんだろうになぁ……」

 

 別にそういうところで我慢強くなくて良いんだけどなぁ僕の身体。

 

 ……まぁ、意識失ったらそのまま死ぬような強迫観念に襲われてたっちゃ襲われてたんで、頑張ってたんだろうね。我ながら褒めてやろう。でも次はもちょっとあっさり意識落として良いからね、僕。

 

「まぁ別に良いか。……そろそろ、終幕かな? 一発デカいの来ると思うから、それが終わったらこの辺一帯を修復させるよ。それまでこうしてよっか」

「ん~……良いね。特等席だ」

「レイジングハート!!」

「バルディッシュ!!」

『Allright』

『Yes,sir』

「ほなイクでユウマン!!」

「俺一人でも充分だったんだがな。まぁ、たまには良いだろう。こんなモブ雑魚には勿体無いが――」

「口上はえぇからさっさと準備しぃや!!」

「チッ」

 

 最後の一本の触手が切り落とされて、ただの巨大な木偶の坊と化した巨大触手人間(?)を取り囲むように位置した、桃色と、金色と、黒と赤交じりの金、そして真っ赤な光が、どんどんと膨れ上がっていく。

 

 死ぬ思いはしたけど、なんだか贅沢な場面を見れたのは良かった。写真にでもおさめておきたかったくらいだよ。

 

「ディバイン・バスター!!」

「サンダー・スマッシャー!!」

「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

「虎次郎・ビーム!!」

 

 ……若干一名、魔法名というか技名があんまりにもあんまりな気がするけど、そしてエヌマエリシュは明らかにオーバーキルすぎると思うし、下手したらジュエルシード消し飛ぶんじゃないかと思うんだけど、思わず目の前に手をやって、目を細めてしまうくらいの光量が空を埋め尽くし、次の瞬間にはあの化物の姿は見えなかった。

 

 

 そして、空からジュエルシードと、何故かスラックスを履いてなくてトランクスがまる見えなんだけど上はしっかりスーツを着ているというおっさんが降ってくる。

 

 

 ……なんだろう。すっごい、すっごい良い終わりっぽいシーンだったのに、あまりにもシュールなんだけど。誰だよあのおっさん。いや、さっき玄関の前にいた人なんだろうけど、なんで下はいてないんだよ。上なら分かるよ? Yシャツとスラックスなら分かる。なんでスーツの上だけ着てスラックスはいてないの。いちいちオチをつけないと気がすまないの? この世界って。

 

「なのは!!」

「フェイト!!」

「「分かってる!!」」

 

 あ、そして二人とも、いやアルフとユーノくんも入れてだから四人か。四人ともおっさん無視してジュエルシード封印優先っぽい。なのはちゃんは助けに行くかと思ったのに。

 

「ま、こっからは二人の仕事やな。ぶっちゃけなのはちゃんに加勢したいところやけど」

「これ以上原作改変起こしたらてめぇマジで殺すからなトラ……」

「安心しいや。こっちかてフェイトちゃんには幸せになってもらいたいんは一緒や。手段は違うても、それは変わらん。せやろ?」

「……ふん」

 

 お~い、オリ主さん達や? なんかゴ○ウとベ○ータみたいな関係ですってのを強調中悪いけど、おっさんも助けてあげなよ? 割と結構な速度で落ちてってるよ? おっさん。ジュエルシードはそんな大した速度じゃないのに。まぁそっちは光ってるからなんか魔法の力働いてるからかもしれないけど。

 

 まぁ「親方ぁ!! 空からおっさんが降ってくるよ!! 飛○石は別口で空賊と軍で取り合ってるよぉ!!」って状態は、正直誰得だから無視したいのは分かるんだけどさ。おっさんとフラグ建てたりしたくないのもさ。でも一応一般人なんだろうし助けようよ?

 

「さて、それじゃあ今のうちに修復開始するかな。あ、確認しておきたいのですが佐藤くん。君が倒れてたこのへんって、何か家具あったりしたっけ?」

「いや、特に無かったと思うけど」

「了解。では少々お待ちくだされよ?」

「……いやいやいや、待って? 佐々木さんも軽く流そうとしてるけど、あのおっさん助けてあげようよ?」

「大丈夫。放っておいても虎次郎か悠馬が助けるから」

「……あそこから間に合うの?」

 

 おっさん、もう地上高40メートルかそこらじゃ……あ、おっさんが金色の空間のひずみに飲み込まれて消えた。

 

「ほらね?」

「いや、ほらね? じゃないよ!? 王の財宝庫になんで人間しまっちゃってんのさ!?」

 

 ビックリだよ!! アレ人間も入れたんだ!? っていうか、もしや今後の戦闘ではおっさんを宝具の代わりに射出でもする気!?

 ゲートオブバビロンで剣や槍がにょにょにょ~んって一杯出て来てる時に、くたびれたスーツ姿のおっさんが疲れた表情を浮かべながら一緒に顔を出してくるとか、シュールにも程があるよ!? しかもあの人スラックス穿いてないから、射出されたらただでさえおっさんが出てきたってだけでビックリなのに「下を……穿いてないだと!? しかもピンクのハート柄パン……ッ!?」って相手がビックリすると思うよ!!

 

 あ、なるほど、それで驚いてるところを攻撃するのか。汚い。流石悠馬汚い。

 

「それを某に訊かれても困るよ」

「いや、ごめん。そうなんだけどさ? 言わずにはいられなかったのよね」

「まぁ、なんとなく気持ちはわかるけどね」

 

 クスリと微笑む刹那マジ美少女。但し身体は男…あれ? そういえば膝枕されてるのに頭にアレの当たる感触が無いんだけど。

 

 ……ごめんね。違うんだ。別に期待してたんじゃないよ? むしろ頭に当たってなくてよかったって思うよ? 男同士で膝枕してアレの感触を頭に感じるとか誰得……あぁ、ホモ得か。でしかないからね?

 ただ「あぁ、この子のは小さいんだね」と思っただけだよ? 本当だよ? でも女の子になるつもりだっていうし、むしろ大きかったら困るだろうし、そもそも小学生なんだし、そうだよね。感触感じるほど大きいわけないよね。

 ごめん、ちょっと僕疲れてただけなんだ。今の妄言は気にしないで。

 

「あ~、あっと、あ、ほら、あのさ、まだなのはちゃんとフェイトちゃんの戦闘も起きる訳だし、また壊れるかもしれないから、もうちょっとこのままで観戦してよう?」

「ん? あ~……そうだね。言われてみればまだソレがあったか。いやはや、某もそこまで気が回らないとはまだまだでござるね」

 

 じゃあ、もう少しこうしてようか、と刹那に優しく頭をポンポンされて、僕の胸の上でようやく安心しきったのか静かに寝息を立て始めたアインと刹那を視界におさめつつも、刹那と一緒に空を見上げる。

 

「リリカル! マジカル!!」

「「ジュエルシード、シリアル19! 封印!!」」

 

 ジュエルシードを交点に、ぶつかりあう桃色と金色の光の線。最初は細く、やがて少しずつ太くなり、ぶつかりあって散っていくそれらの光の余波が、不思議な色合いの光で空を彩る。

 

 本当に、綺麗。

 

 ……やがて、全員が固唾を呑んでそれを見守っていると、ジュエルシードが激しく光り、恐らくなのはの砲撃が勝ったのか、勝ってしまったせいで、その威力の余波でジュエルシードが淡く輝きながらフェイト側に弾かれそうになったが、それをいち早く確認して動いていた翠の光に包まれたユーノくんが確保する。

 

「ぐっ……やっぱり持ってるだけでもキツい……なのは、今渡すから早く回収をお願い!!」

 

 そして、苦しげにうめきながらそう言うユーノくんに対して、こちらも待機姿勢をとっていたためにすばやく動き出していたアルフが奪うために飛び掛った。

 

「そうはいかないよ、子ネズミの使い魔ちゃん! って、結構固いじゃないのさこの防護壁――ッ!!」

 

 だが、翠の光、つまるところ先ほどまでアルフの周囲にも展開されていたプロテクションを自身の防御のために事前発動していたユーノくんに直接触れることが出来ず、空中で何かにしがみつくような姿勢をとるアルフを尻目に、ユーノくんが後ろ足で勢い良くジュエルシードを蹴ると、なのはちゃんの方へと綺麗に放物線を描いて飛んでいった。

 

「僕はネズミじゃない! フェレットだ! なのは! 任せたよ!!」

「わかった!!」

「そうはいかない!!」

「うわわ!?」

 

 しかし、それを受け取る前に、サイズフォームのバルディッシュで斬りかかってきたフェイトの攻撃が来たために、なのはちゃんがジュエルシードを取り損ねて、大きく後方へと弾いてしまう。フェイトがそれを追おうとするけれど、今度はなのはちゃんがフェイトの進路上に魔力弾のような物をばら撒いて足止めし、お互いに淡く発光しながらゆっくりと落下していくジュエルシードを後回しにして対峙する。

 

「フェイト! こっちは抑える!! 頼んだよ!! 悠馬! フェイトを!!」

「虎次郎! なのはを!!」

「って、言ってるみたいやけど?」

「……アルフ、悪いが俺はフェイトの邪魔をする気は無い。言ったはずだろう。フェイトの実力を見せてやるんだと。お前のご主人様を信じてやれ」

「悠馬……。それも、そうだね。じゃあ、アンタはその糸目メガネがなんかしないように見張ってておくれよ!!」

「任せておけ」

「……今日ずっと思っとったんやけど、ほんまに信頼されとるみたいやな、自分」

「割と、な」

 

 悪戯っぽく笑いかけてくる虎次郎に、少し照れたようにそっぽを向く悠馬。

 

「ふふ、悪いなユーノっち。ワイも同意見や。そもそも女の子に向ける刃はもっとらん言うとるやろ? 普段から」

「あぁもう……じゃあ虎次郎!! せめて悠馬が介入してこないように見張っててね!!」

「ユーノ、それに関しては任せときや! もし割って入るようやったら明日コイツ全裸で登校させたるから!」

 

 いきなりの虎次郎のあんまりな発言に、一瞬ギョッとした顔をした悠馬が、それはそれは良い笑顔で怒鳴った。

 

「それはこっちの台詞だトラ野郎ッ!!」

「お、なんや、やるんか? えぇで、久々のタイマン勝負やな! なのはちゃん達の戦闘終わるまでがタイムリミットや!」

「その前に終わらせてやるよ!!」

 

 まぁ、こうして三すくみというか、三箇所での一対一戦が始まる。

 さっきまであんなにお互いの背中を守りあうように皆で協力しあってたのに、中々ままならないもんだなぁと思うけれど、なんだろう。全然、怖いとかそういう感情は湧いてこない。なんだか微笑ましいとすら思えるのだから不思議だ。目の前じゃなくて、空で起きている戦いだからかもしれないけれど。

 

「――ーねぇ、この前はろくにお話も出来ないで、ただ戦うだけで、まだ自己紹介もしてなかったね」

「なんの話、しッ!!」

 

 いきなり語りかけ始めたなのはちゃんに斬りかかったフェイトだったけれど、レイジングハートを構えすらしていない筈のなのはと自分の間、丁度進行方向へと突然現れた十を超える数の桃色の魔力弾に慌てて進路を変え、距離をとる。

 

「誘導制御型……自動追尾――? いや、違う。遠隔操作? さっき撃った魔力弾を? ……コレだけの数をそこまで正確に」

「ディバインシューターの自動追尾カット版、ってところかな。虎次郎くんと考えたんだよ。私、射撃だけは得意みたいだから。手動で制御して展開すれば近接攻撃から身を守る盾にも出来るって」

「得意なんて言葉で済むレベルじゃない――甘くみていた」

 

 元々、回避して近接で一撃デカいのを叩き込むタイプ(という設定だったよね、確かあの子って)のフェイトからしたら、常に進行方向に展開され続ける魔力弾の壁なんて悪夢以外の何物でもないだろう。

 

 ……っていうか虎次郎、ちょっとそういう主人公の能力に介入して更にチート化図るとか、ずるいんでない?

 

「おいコラ、トラてめぇ――ッ!!」

「なにを怒っとんのか知らへんけどな、別にフェイトちゃん対策の魔法やなくて、そういうタイプのが襲ってきた時にも対処できるように一緒に考えただけの話しやぞ、悠馬。なのはちゃんに何かあったらどないすんねや。そもそもお前さんかてなんぞフェイトちゃんに肩入れしとるんちゃうんか?」

「……フェイトは敏捷極振りのインファイト型だから、そういうのむかねぇんだよ……」

「っていうか、それ以前にそういう強化の話すらできへんかった方に3万虎次郎くんポイントをベットや」

「殺す! ぜってぇ殺す!!」

 

 あっちはあっちで賑やかだなぁ…。

 

「――私、なのは。高町なのは。市立聖詳大付属3年生。教えて? 貴方の名前。貴方のしたい事。どうしてジュエルシードを集めようとしてるのか」

「……言う必要性はない。バルディッシュ」

『Thunder Rage』

『Flash Move』

 

 なのはちゃんの自己紹介を無視して、放たれたフェイトの魔法は、まるで空を埋め尽くさんばかりの広範囲に雷撃が走ったが、それは誰にも当たること無く空に散っていく。

 

「フェイトちゃん!」

「ッ!?」

 

 いつの間にか、フェイトの後方に現れているなのはちゃんが、泣きそうな顔でフェイトの名前を呼んだことで、慌てて振り向いて防御の姿勢をとるフェイトだが、そこに攻撃が来ることは無かった。来るのは、ただ言葉という名の武器だけを持って対峙するなのはちゃんがいるだけ。

 

「話すだけじゃ、言葉だけじゃ変わらないって、そう言ってたけど――変わらなくても、伝わる想いはあるの。想いが伝わらなきゃ、何も変わらないの、フェイトちゃん。ぶつかり合うのも、競い合うのも仕方ないのかもしれないけど、だけど、だけど何も相手の想いも知らないままぶつかり合うのは、私、嫌だから!!」

「あ――っ」

「私がジュエルシードを集めているのは、それがユーノくんの探し物だから! ジュエルシードを見つけたのはユーノくんで、ユーノくんはそれをまた集めなおさないといけないから! 私は最初はただのお手伝いだったけど、今は私自身の意志で集めてるの! そんな危ない物を放っておいて、困る人が、傷付く人がまた出るのはもう見たくないから、そんなのは、嫌だから! ――これが、私の戦う理由!!」

 

 そんな必死ななのはちゃんの声に、何か思うところがあったのか、フェイトが少し視線を泳がせた後、口を開く。

 

「――私は…私の戦う理由は――」

「フェイト!! 答えなくていい!!」

 

 でも、届かない。届かせないと、アルフがなのはの言葉に応じようとしたフェイトを止めた。

 

「……えぇんか?」

「これが、正史だ」

「それが、自分の決めた道やもんなぁ。難儀なことや。そない辛そうな顔すんならフェイトちゃんやアルフの心の闇、とっぱらってやったらええのに」

「知ってんだろ。俺じゃできねぇんだ……よッ!!」

「――せやんな。ほんま、難儀な、やっちゃ!!」

「優しくしてくれる人たちのところで、ぬくぬく育ってきたガキンチョになんか、何も教えなくていい!!」

 

 それは、言葉の割に、必死で、何かを酷く我慢して、言いながらも後悔しているような声。

 

「私達の最優先事項は――ジュエルシードの捕獲だよッ!!」

 

 それは、この場でほんの少しの間、共に戦った戦友との決別を告げる言葉。

 そして、事態が動き出す、出さざるをえなくなる一言。

 

「なのはッ!!」

「大丈夫!! ――ッ、待って!! フェイトちゃん!!」

 

 いくらゆっくり降下しているとはいえ、既にジュエルシードは大分地上に近いところまで落ちている。

 それを追って一気に急降下を始めたフェイトを追い、互いに、急降下していくフェイトとなのはちゃん。

 

 先に動き出したのはフェイトだが、位置的にはフェイトよりも下に居て、尚且つ近い位置にいたのがなのはちゃんだ。

 

 速度自体は互いにさして変わらない。フェイトの方が早そうなイメージだが、そのマントによる空気抵抗があるせいかほぼ五分といったところ。

 

 そして、二人のデバイスが交差し――。

 

 

 世界は、白い光に包まれた。

 


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