転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

16 / 38
16.アルビノ娘と下校風景

 放課後、アリサちゃんとすずかちゃんはお稽古があるからとなのはちゃんや虎次郎、刹那、ついでに僕にも手を振って別れたけれど、その時にはアリサちゃんの顔に陰は無かった。

 

 やはり身近な人の辛い顔なんてのはあんまり見たくないから、僕としては本当に「よくやった、虎次郎くん」って感じである。

 ちょっとしんみりしたというかほっこりしたから、いつものテンションが戻ってこないけど、たまにはいいよね。

 

 そんなことを考えながら下校するために校内の廊下を歩いていたら、正直ずっと、下手したら一生会話らしい会話しないままお別れになるんじゃないかと思っていたイリヤじゃなかった津軽恵理那、以下津軽さんに、後ろから声をかけられた。

 

「佐藤くん、で合ってたわよね?」

「え? え、あ、うん。そうだけど、何? 津軽さん、だよね?」

 

 今まで全く接点無かった筈なのに、どうしたのこの人、と思いつつ返事する。

 微妙にほっこり気分が吹っ飛びかけたけど、まだまだ心はゆるゆるである。

 

「えぇ、津軽で合ってるわ。……ねえ、ちょっと訊きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「え? え~っと、佐々木さんと帰る約束してるから、手短にお願いできる?」

「そうね、簡単に済むから安心して」

 

 ニッコリ微笑んだ津軽さんの顔が、まぁなんというか刹那とか原作娘さん達とはまた違った美少女というか、すっごい綺麗だったもんだから思わず見惚れていると、津軽さんはウィンクして両手をひらひらさせてから、右手の指で鉄砲の形を作って小首を傾げながら一言呟いた。

 

「ばぁん」

 

 というのをのんびり眺めていたら、次の瞬間に起きた出来事に対して、僕は事態の理解をするのに時間がかかってしまった。

 

「……なんだ。今の反応出来ないってことは随分弱いのね、貴方。なんていうか、外見通りすぎて逆にガッカリ」

 

 ……えっと、えっとね?

 なんかね? 黒い弾丸みたいなのが一瞬、一瞬、ビュンってね? 耳元をね? なんか、ビュンってなったの。

 わかる? わかんない? 僕もわっかんないね!! ごめんねなんか!! いきなり目の前をなんか高速で変なもんが飛んでったとしか言えないんだけど、えっと、まぁ、とりあえず津軽さんの指先から発射されたものなんだなってのは分かった!!

 

 まぁね、つまるところガンド。遠坂さん家の凛さんが大変お得意のアレ。宝石喰わなくて大変リーズナブルな呪いの弾丸。当たると超高熱の風邪とかひいちゃう奴。そして机の木版部分とか貫通しちゃうようなやつ。多分ね、多分。だってろくに視認出来なかったし、ぶっちゃけ、「はいはい、どうせFate系の宝具とか能力持ちなんでしょ? アインツベルン的な意味で」とか思ってたから、多分そうだと思うんだけどね?

 

 ……なんで、イリヤの外見で、ガンドなのさ!!

 

 僕ここは「なーんーでーさー!!」とか叫んだ方が良い? ねぇ、どうなの? 僕髪の毛赤く(というかオレンジ)じゃないし、身長低いし、別に正義の味方目指してないけど、言っておいたほうが良い? その魔術使うんなら黒髪ツインテにしてこいって文句言った方が良い?

 

「え、えっと……えっと? 今の、何?」

「手品よ。どう? 両手に何も握って無かったのに、どこからビー玉出したのか分からなかったでしょ?」

「うん、なんていうか、うん、うん、ビックリしたな~? あはは~」

 

 アレはビー玉なんて可愛らしいレベルの物じゃなかったですよ恵理那ちゃん、いや、ごめんなさい。恵理那さん。発射の瞬間と、目の前を通り過ぎる瞬間に、本当に一瞬、何か黒い物が通り過ぎたのが分かっただけで、銃弾とかのレベルでしたよアレ。ビー玉というよりB弾(ブレイクド・ブリッド)とか名付けた方が良いと思いますよ。

 

「……さて、それでいつまで猫をかぶってるつもりかしら」

「え? な――」

 

 何が、という言葉を最後まで続ける暇も無く、津軽さんは僕の首を片手で締め上げるようにして軽がると持ち上げると同時に、身体に真っ赤な布がグルグルと絡みついて両手足を縛られ――周囲の光景が一変した。

 

「あ……ぐ……」

 

 急に首を絞められたことで、ろくに呼吸すら出来ない状態で宙吊りにされたまま、僕はその光景に唖然とした。

 空に浮かぶ歯車、乾いた地面に、無数に突き刺さる大量の剣群。

 

 ――無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)の固有結界だ。

 

 なんでイリヤの外見の津軽さんがこんな固有結界を持ってるのか、とか、なんで僕は今首絞められて、その上固有結界に拉致られてるのか、とか色々思うことはあるけれど、それを口にすることは出来ない。

 

「最近、近辺で起きてる行方不明者や死者が出ている事件、貴方が犯人なのかしら」

「ち、ちが――」

「じゃあ少し前から貴方から出ているこの嫌な魔の臭いはなんなのかしら。特に今朝からは酷い。明らかに犯行現場に残されていた物と同類なのだけれど。共犯? それとも洗脳でも受けてる? それとも何かを目撃した?」

 

 言い終わると同時に、津軽さんは手を離し、僕は簀巻きにされたまま地面に落ちて右ひじを思いっきり強打して軽く涙目になる。いたい。

 

「わ、わかんないよ、津軽さんが何言ってるのか。魔の臭いって何?」

「……ふぅん、そう」

 

 戦闘能力は無さそうだし、暗示系かしら。そう呟いて、津軽さんは何かギザギザした形状の、ルールブレイカーっぽい短剣をどこからか取り出し、巻きついている布が少し緩むと同時、その隙間から躊躇無く僕の胸に短剣を突き刺した。

 

「あ……」

「……制約(ギアス)系の何かはかけられてない、か。魔力は微量にあるけれど、血は普通ね」

 

 さほど深くは入らなかったのか、流れ出る血は少量だし痛みもさほどでは無いけれど、刺さったという事実が僕の顔から血の気を引かせていく。

 

「おかしいわね……となると、魔導書が魔力炉になってるパターン……? でもその手の類は持って、ないわよね」

 

 ぶつぶつと何かを言いながら短剣を引き抜く津軽さんに合わせて、緩くなっていた布がまたギッチリと僕を束縛した。

 ……何がどうなってるのさ、コレ。

 僕のそんな疑問に答えてくれる人はいない。

 

「面倒だし、サクっと殺っちゃっても――」

「誰が、誰を殺すて?」

「ッ!?」

 

 津軽さんが物騒なことを言おうとした瞬間、響いた声に津軽さんと僕は同時にそちらを見た。

 

「こ、虎次郎くん!?」

「おうヨッシー、助けに来たで」

 

 いつも通りのにっこり笑顔で手を挙げて僕に声をかけるその人物は、虎次郎くん以外の何者でもない。

 流石は我等が主人公である。いざ、ヘルプミー!

 

「アンタ……固有結界に入り込むってどこまで反則なのよ」

「結界はワイの担当分野やからな。……で、うちのヨッシーに何してくれとんねん、エリナン」

「あら、何がかしら。私は仕事をしてただけなのだけれど」

「協定違反ちゃうんか?」

「この子が貴方の陣営に入ったなんて連絡、一切受けてないわよ?」

「そっちやない。関係ない一般人に手ぇ出すなっちゅう方や」

「関係ない一般人? こんな魔の臭いをプンプンさせてる怪しすぎる子が?」

 

 笑顔のまま、けれどその視線も声も向けられていないはずの僕ですら圧迫感を感じるほどの威圧感を出しながら、虎次郎くんが津軽さんにゆっくりと詰め寄るものの、津軽さんはそれを意に介さず肩をすくめて僕へと視線を向けてくる

 ……そんな目で見られましても、僕は本当に一般人なわけで、何を疑われているのか分からないけれど、完全に津軽さんの勘違いなのだけれど。

 

「せや。その臭いっちゅうんはよう知らんけど、少なくともヨッシーはただの一般人や。それは保証したるわ。せやから早いとこヨッシーのこと離してくれへんか? ――やないと、協定破棄とみなして、殴るで?」

 

 歯をむき出しにして、獰猛な笑みを浮かべて虎次郎くんがそう言うと、津軽さんは舌打ちして僕から少し距離をとる。赤い布も緩んで勝手に身体から離れていったので、ようやく自由の身になれた。ふぅ……。

 それにしても虎次郎くん、子供の外見なのにその笑みがちょっと怖い。

 

「まぁなんかあったらアンタが責任取るってのは分かったわ。それじゃあ一つだけ確認なんだけど――日曜日と月曜日、この子って何をしてたかしら。具体的にどこに居たって分かると嬉しいのだけれど」

「あん? ワイやなのはちゃん達と一緒に温泉旅館に泊まりやったけど……その魔の臭いっちゅうんと関係あるんか?」

 

 完全に僕置き去りにして話し合う二人を尻目に、僕はとりあえず絞められたせいで違和感のある喉を押さえてうーうー唸る。面倒なことに巻き込まれたなぁと思いつつ涙目なのは秘密だ。

 真面目に怖い。あと痛い。

 大体、こっちはさっきまで心がほんわかふわふわ夢気分、今日の僕ならヘビさん相手にも気持ちを通じでお友達になれるのではなかろうかというくらいメルヘンちっくな優しい思考だったのに、いきなりシリアスっぽいシーン入られたらそら怖いわ! ビビるわ!

 まったくもう、まったくもうだよまったくもう……。

 

「そう……。なら良いわ。アンタと敵対してもろくなこと無さそうだし、とりあえず了解よ。この子は返すわ」

「おう、分かってくれたらええねや」

 

 面倒くさそうに言ってから津軽さんが僕の少し血が出ている胸の部分に手を当てると、ぼんやりと手を当てられた部分が光ったと思ったら、血が一瞬で止まった。それを確認した津軽さんが指を鳴らすと、瞬きする暇すらなく、周囲の風景が放課後の校内の廊下に戻っていた。あまりにも一瞬で目の前の光景が変わったせいでちょっと気持ち悪い。

 いきなり拉致られたと思ったら、いきなり解放されたで御座るの巻。……真面目に、一体何がどうなってるのやら、である。

 まぁなんにしても虎次郎くんが来なかったらどんな目に会ってたかわからんので、速攻で助けに来てくれたのは助かった。今なら虎次郎くんに抱かれても良い。さぁ、捕らわれの僕を助けておくれ! 今、実は腰抜けかけてるから!

 

「ほいじゃ、エリナンも分かってくれたみたいやからワイは部活行くで、ほなな!」

「え?」

「は?」

 

 しかしそんな僕の願い虚しく、虎次郎くんは固有結界から出た途端にいつもの邪気の無い笑顔になって親指を立て、即座に走り去っていってしまった。

 ……あ、あれ?

 

「……普通、助けにきたんなら最後まで面倒見るもんじゃないのかしらね」

「うん……僕もそう思う」

 

 津軽さんの呆れたような声に、僕は床に転がったまま同意する。

 いや、あの、別れた途端にまた僕が襲われるという可能性は考えないのだろうか、虎次郎さんや……?

 

「はぁ……まぁ良いわ。貴方、最近は変な魔の気配を連れて随分と動きを見せてたから、てっきり桜庭くんみたいな人外転生系なのかと思ってたけど、そうじゃないのね。良かったわ。とりあえずその忌々しい臭いはお詫び代わりに消しておいてあげるから、そのまま変なことに首を突っ込まないようにね? お姉さんからの忠告よ」

 

 だからその臭いって何!?

 

 ――あ、もしかして、例のゾンビなのはちゃんに触られたから?

 

 ……え、マジで? マジで呪われてたりした? え、ちょっと、マジで? なんか思い出して怖くなってきたんだけど……。っていうか、そもそも変なことに首突っ込むなとか言われる前に、巻き込んできたのはアンタですよ津軽さん、という言葉は飲み込んで、僕は一つ頷いて答える。

 

「え、えっと……うん……りょ、了解でしゅ……」

「って、ちょ、ちょっと、泣いてるの!?」

 

 ええそうですとも、泣いてますよ!

 割とツッコミとか心の中で入れてたけど、ぶっちゃけ何度か泣きそうだったわ! そしてゾンビなのはちゃんのリアルゾンビっぷり思い出して余計に怖くなったわ! 僕のモブっぷり舐めんなよ!? 主人公っぽく格好良く切り返す台詞とか持ってないからね!?

 

「え、えっと、ご、ごめんね? いや、えっと、あ、ほ、ほら。ジャーン!! なんとビー玉が私の指と指の間に一杯! あれ~! 不思議ね! どこから出てきたのかしらね!!」

「バカにすんない。大体なんか格好良く登場したんだから、泣いてる子なんて放置して立ち去っていくのが礼儀じゃないのかよぅ津軽さん」

「いや、だって……なんかごめんなさいね? ほら、飴あげるから。ピーチ味よ? あ、パイナップル味もあるけど。どう? 欲しい?」

「パイン飴はもらう……」

 

 くそぅ、僕がパイナップル大好物なのを知っていたというのかこの娘は。うぐぅ、でも騙されないぞ、こんな飴一個で美味しいけど騙されないぞ。モブとしての僕の立場ちゃんと理解しないで勝手に勘違いして襲ってきたことを僕は忘れないしこの飴美味しいぞ。

 

「ありがとう。美味しいねコレ」

「あ、うん……本当に子供だったのねこの子……」

 

 子供苦手なのに勘弁してよ……とかぶつぶつ呟きながら頭を抱えてる津軽さんの態度を見て若干許してやろうかと思ったけど、飴が美味しいからって許してあげると思ったら大間違いなんだぜ? っていうか、ドSのイメージあっただけに、この人意外にうっかりさんとかドS枠期待してた人達に謝れなんだぜ?

 

 うん、パイン飴美味しい。……って、しまった。噛んじゃった。あ~……一回割れるとすぐ無くなっちゃうんだよね飴って……。

 というわけで。

 

「もうパイン飴ない?」

「え? えぇ、あ、まだあるけど」

「あと三個くれたら許してあげる」

「……本っ当にごめんなさいね、佐藤くん。三個といわず全部あげるわ……はい。手出して?」

 

 なんだって? おいおい、そいつぁこの僕を虫歯にしようって魂胆かい? へへっ、お嬢さん悪(わる)ですなぁ。おぉ、パイン5個にピーチ2個だって? クックックッ、まぁ、今回はこの辺で勘弁しておいてやるぜ。

 ……いやいや、なんだ僕。キャラおかしくなってるぞ。落ち着け。でも飴はもらうけど。美味しいし後で帰り道に刹那と舐めながら帰ろう。儲けた儲けた。

 

「え、えっと……どう? 許してくれるかしら?」

「津軽さん結婚しよう」

「飴玉だけでどんだけこの子懐柔されてるのよ!? ねぇ貴方大丈夫!? 怪しいおじさんとかに声かけられても絶対ついていっちゃダメよ!? お菓子に釣られてついてっちゃダメだからね!?」

「失敬な! 僕だってそんな無用心なことしないよ! 最低でもいちごパフェかチョコパフェくらいじゃないと僕は動かないよ!」

「安いわよ貴方の身の安全!! ちょっと本気で心配になってきたんだけど!?」

 

 なんか津軽さんがあたふたしてるけど知ったこっちゃないぜ。大体君だってお姉ちゃんぶってるけど、身長僕と大差な……あれ? なのはちゃんよりでっかい感じするんだけど……。ば、バカな……イリヤのくせに……ッ!?

 

「ねぇ、大丈夫? 佐々木くんにちゃんと守ってもらうのよ?」

「大丈夫だよ。全く。いざとなったら佐々木さんは切り捨てるから」

「意外にシビアだった!?」

 

 あれ、今更だけどこの人意外にいじられ属性付き?

 

「なんか、津軽さんって僕が思ってたイメージと違うね」

「ごめんなさい。貴方は外見から得られるイメージとは違う方向で意外過ぎだわ……いや、ある意味イメージ通りだったんだけど……」

 

 なんか津軽さん疲れてるけど、僕のせいじゃないよ。元々君の責任だよ。

 

「また飴ちょうだいね?」

「うん、飴くらいならいくらでもあげるから、本当変な人に付いていっちゃダメよ……?」

「勿論だよ。失敬な。……って、いけない。佐々木さんと約束してるから、またね!」

「え、えぇ。またね佐藤くん……って、だからその魔の臭い消してあげるからちょっと待ちなさい!」

 

 あ~もう、調子狂うわ、何この子……男の子イジメて罪悪感感じたのなんか初めてなんだけど……。とかぶつぶつ言いながら新しい剣を投影して掲げた津軽さんを、僕は新たなパイン飴を舐めながら何されるのかなーと眺めているのであった。

 どうでも良いけど、一般人相手に神秘をそんな堂々と披露して良いの? 津軽さん。

 

 

 

 

 そういうわけで、今現在僕は刹那と一緒に飴を舐めながら下校中です。僕はパイン、刹那はピーチ。

 尚、虎次郎は先ほどサッカークラブの練習に向かったことから分かるとおり、別行動。練習終わってからジュエルシード探しに行く予定と事前に聴いていたので今日はもう会わないだろう。なのはちゃんは暫く虎次郎のサッカーの見学をしてから自分もジュエルシード探しをするのだと言っていた。刹那も家に帰って僕と一緒に夕食を食べてから捜索に出るらしい。

 

 原作アニメ何話目だっけか、アリサちゃんとの喧嘩があったの。喧嘩のあった日はなんかちょっと都会な雰囲気の場所で雷鳴轟きジュエルシード暴走! みたいな覚えはあるんだけど、詳しくは覚えてない。フェイトとなのはちゃんの戦闘が起きるってのは当たり前ながら覚えてるので、とりあえず今日は夕方以降の外出は避けた方が良さそうだ。

 

 あ~、それにしてもなんだかふわふわするな~。やっぱ知り合いのほっこりな場面見ると心がほっこりだよ。浮ついて仕方ないよ。まして小学生の友情だもの。見ていてほっこりしない訳が無いじゃないか。その上飴ちゃん大量にゲットですよ? あ、ガンドっぽいの撃たれて泣きかけたこと? 首絞められて短剣で軽く刺されたこと? 飴もらったし傷は治してくれたから怪我も無いんだから許すし忘れるよ。あぁほっこり。

 そう、悪いことは忘れて良いことだけを思いだすのさ。それが人生を楽しむ秘訣なのだよワトソンくん。

 

「ふふふ、なんだか幸せそうな顔だね? 何か良い事あったのかな?」

「う~ん……なんだかとっても青春なシーンを見たこととか、飴が美味しいなぁとか、昨日からお世話係りの人はアレだけど、本人はいたって良い子な同居人が出来たこととか?、かな」

「あ~、セイバーについてはなんていうか、本当にごめん。なんならやっぱり外で生活してもらう?」

「あ、いや、別にそういう訳じゃなくてね」

 

 うん、やっぱり僕に主人公補正は無さそうだ。刹那と暮らすのが何気に楽しいよ、ってのを伝えたかったんだけど。

 本当、あのお目付け役(セイバー)さえいなければ、普通に仲の良い友達がお泊りに来てる、って感じで普通に楽しめたんだけど……昨日もなんか結局あわただしくてまともに遊べなかったし。

 

 しかしアレだよね。朝起きておはよう、夜におやすみなさい、を言い合える人が家に居るって……なんか良いね。

 

 お父さんが家に居る時だったら毎日挨拶してたんだけど、お父さん最近帰って来ないし、今も短期出張だから最短でも三ヶ月は帰ってこないから家には誰もいなかった訳で、自分では気にしてないつもりだったけどやっぱ子供心的なものが寂しさ感じてたんだね。アインがいるだろって思われるかもしれないけど、やっぱり言葉の意味がわかる同じ人間から返されるのとでは全然違うから。

 

 なんていうかさ、こう……う~ん、家族愛に飢えてたんだろうね、僕。今日も帰ったら刹那に「おかえりなさい」って言うつもりなんだよ。どんな顔するかちょっと楽しみ。

 あ、セイバー? うん、まぁアレにも一応挨拶するけどさ、なんか朝方も「不穏な空気を察したらすぐに斬り伏せに散じますゆえ」とか朗らかに刹那に言って「お願いだから、駆けつけるだけにしてね? 状況を判断して、僕の命令があったときにだけ斬ってね? 君ただでさえ独断専行多くて本当困るんだから……」と疲れた顔をする刹那を見てたから、なんというかあんまり好感を感じないんだよ。

 

 まぁ、う~ん……刹那のことを大事に思ってるのは間違いないんだろうけどさ。ただちょっと過剰というか過保護というか……刹那が初フェイト戦で連れてこなかったり、最初に僕の家にこさせないようにしてた理由がちょっと分かったよ。アレはちょっと、まとわりつかれる側からしても、そのまとわりつかれる友達の側からしても、ウザい。下手したら悠馬以上に。

 

 っていうか、そもそも最近僕の中で悠馬株上昇中だから、何気にちょっと友達になっても良いかなとか思ってるくらいだしね。昼休みに泣いてる悠馬の顔ちょろっと見えたけど、なんかすっごい感動してるような感じの顔で、お前もう普段からそういう感じで普通にしてなよ、って言いたくなる実にほんわかする光景があったんでね。とりあえず愛を囁きまくるところをどうにかしたら友達になっても良いと思う。

 まぁ、その前に向こうからしたら「いや、モブの友人なんかいらねぇよモブ野郎」とか言ってきそうだけど。しかしアレはきっと過剰で若干の暴力や脅迫を含むツンデレなのだと信じたい……ッ!!

 

 ……本人に言ったら殺されそうですね!!

 

「いや、正直僕も彼といると息が詰まるんだよね……」

「……じゃあなんで佐々木さんはアレをデバイスにしたのさ」

「僕だけを愛して守ってくれる異性を頼んだらアレだったみたいでね……よりにもよってデバイスだから決別する訳にはいかないし……」

「あぁなるほど……」

 

 それはなんていうか、ご愁傷様……。っていうか、そんなお願いしてたんだね刹那。温泉で聞いたのが全部では無かろうとは思ってたけど、やっぱり他にも何個かお願いしてるのかな。

 

「って、そうだ。天ヶ崎くんのした願いとか能力とか背負ったデメリットとかって何なの?」

 

 自分達より酷いかもしれないみたいなこと言ってたけど。

 

「あぁ……えっと、Fateのギルガメッシュとランスロットの能力だったかな。基本的に王の財宝<ゲートオブバビロン>と天の鎖<エルキドゥ>しか使って無かった気がするから正直あんまり覚えてないし、本当に持ってるのかとか、他にも何かあったるのかはちょっと僕も分からない。そもそも本当に全部教えてくれたのかすら分からないしね。で、背負ったデメリットは……え~っと……まぁ、察してよ」

「いや、察するには気になりすぎる話の切り方なんだけど……」

「コレは他人が勝手に洩らして良いことじゃないから。それに佐藤くんはこっちの道には関わらないんだろう?」

「ん……まぁね」

「じゃあ、余計に教えられないかな」

 

 言ってることはちょっぴり冷たいけど、朗らかにクスクス悪戯っぽく笑う刹那の姿がやたら可愛かったとだけ言っておく。

 で、まぁ後はちょろちょろとテストの話をしたりとか、小学校の割にこの学校は勉強のレベルが高めだとか、どこのスーパーが特売多いとか、アインの話だとかを適当に話してる内に、我が家に到着。

 玄関のドアをくぐり、刹那と同時に「ただいま~」と声を出して、続けて刹那に「おかえり~」と言おうとか思ってた考えは目の前の光景を見て一瞬で消し飛びました。

 

「お帰りなさいませ、我が主、そして佐藤殿。このセイバー、一日千秋の思いでお待ちしておりました。ささ、お荷物をお預かりいたしましょう」

「え、えぇ~っと? 佐々木さん?」

「た、ただいま。セイバー。ごめんね佐藤くん。えっと……君、そんなに献身的な人だったっけ?」

「これは異なことを仰られる。某、これでも我が愛しの主、刹那様のことを思えば例え火の中風呂の中、どこにでも駆けつける所存でござりますぞ?」

「ごめん、お風呂の中だけは絶対にこないでね。来たら二度と君とユニゾンしないから」

「……佐藤殿?」

「いや、今の会話のどこに僕が睨まれる要因があったのさ?!」

 

 そんな「我が主をたぶらかしおったな!」みたいな目で見られても困るんだけど!? 完全に君の自業自得だよね今の!!

 

「セイバー、夕飯抜きね」

「なんですと!? 何故そのようなご無体をおっしゃられますか主!!」

「自分の胸に訊いてみようね」

「……某の胸が見たいと? うぅむ、まぁ、我が主が言うのであれば吝かではござりませぬが」

「誰もそんなこと言ってないよ!? っていうか僕達家に上がれないからそろそろ退いて、セイバー」

「いえ、ですから荷物をお持ちしますので」

「…………セイバー、何か隠してる?」

「衣服で裸は隠しておりますな」

「よぉし、君はどうやら本気で僕を怒らせたいようだね?」

 

 お~、なんか二人が僕を置いてけぼりで掛け合いしてるけど、僕の家でそんなわざわざ隠し事してるがあるって、アレかい? 僕の家で刀振り回して鍛錬してたら壁斬っちゃった☆ とか、家具両断しちゃった☆ のパターンかい?

 いや、別に壊したところで刹那とセイバーが直せるんだから構いやしまいけどさ。そういうのはちゃんと謝ってくれればいいのにね。

 

「何を仰られますか、我が主。このセイバー、そのように不遜なことを考えてはおりませんでしたが、怒り顔も可愛らしいのでソレもありですな」

「ごめん、佐藤くん。僕、そろそろセイバー本気で殴ろうかと思うけど、良いと思う? 魔力全開で殴るから、余波で壁とかぶち抜くかもしれないけど」

「時間操作でちゃんと完全修復してくれるなら良し。但し隣の家とかには被害出さないこと。あと音抑えてね?」

「話が分かる友人で本当に助かるよ佐藤くん……」

 

 いや、コレが普通だったら絶対拒否るけどさ、この流れからして間違いなく僕にとっての被害も既に起きてるんだろうし、どうせ修復できるんだからお仕置きって意味でも良いと思うんだ、僕。実は自分に害の無い会話だからのんびり眺めてて若干ほのぼのしてるんで、別にセイバーに何か含みがあるわけじゃないんだけどね、今の僕。夜にはまたこいつの色々な行動にイラっときてると思うけど。

 

「よし、じゃあごめん佐藤くん、ソニックウェーブで君が吹き飛ぶ可能性があるから、ちょっと外で待っててくれる?」

「オッケー」

「……ふ、どうやら某の命運もこれまでか……然れども、この命は主に捧げると誓ったのだ。その主にこの命奪われるというのならば、何の悔いがあろうか……」

 

 なんか格好良いこと言ってる匂いがするけど、君は今、完全に自業自得で怒られてるだけだからね? セイバー。

 

 で、家の外に出て念のため玄関のドアから離れ、飴を舐めながら待機してたら、一瞬、爆弾でも爆発したかのような物凄い音が聴こえて家全体が揺れてたけど、数秒後には家が一瞬だけ青い光に包まれた。

 いや~、殴って即修復かい。うん、どんだけ家の中ぶっ壊れたのかちょっと見てみたかった気もするけど、なんか色々許可を出したことを後悔しそうな気もするのですぐに直してくれたのはとってもありがたいです。

 ご近所の皆さん、窓開けて何事かときょろきょろしてる人が見えたりしますが、大丈夫ですよ、害はないんで。

 

 ……あ! アインそういえば大丈夫!? 今の破壊に巻き込まれてない!? っていうか、そもそもセイバーにお世話頼んでおいたのに玄関に向かえ来なかったってことは、もしかして隠してたことってアインのことじゃないよね!? マジでなにしでかしたあのクサれ侍!!

 

 場合によってはあのサムライぶん殴る。そう決意して、僕は光の収まった我が家へど突撃するのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。