転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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15.居候と喧嘩

 今日は温泉旅行も終わってお昼過ぎ。バニングス家のリムジンで送られて家に帰ってきたところなんですがね。皆さん、今日から我が家に新しい家族が増えます。

 そう、刹那ですね。今日から居候です。いつまでなのか知らないけど。あ、あと、車から一緒に降りた僕達を見て「刹那も家まで送るわよ?」と声をかけてきたアリサちゃんに、虎次郎くんから「刹那は今日からヨッシーの家でお泊りや」と説明されたアリサちゃんがポカンとしていた。

 まぁ、そうだよね。僕と刹那ってあんまり接点あったようには思えなかっただろうし。

 

 で、リムジンが去った後に、僕が我が家の向かいにある斉藤さんの家の惨状の話と、我が家に槍が刺さって空いたままだった穴の話を「そういえば」と切り出すと、刹那が表情を悲しげに変えて眉毛をハの字にした。

 

「……なんていうか、本当にごめんね?」

「いや、良いよ。でもとりあえずお向かいの家は直してあげてね?」

「うん、今日の夜にでも早速直しておくよ、あと君の家に空いてるっていう穴もだね。あとで場所教えて?」

 

 うん、やっぱり言えばちゃんと直してくれるのね。なんだかんだでいつも切り出すの忘れてたから、ようやっとって感じだよ。

 

「あいあい。じゃあそれはとりあえず後回しにして、早速だけど家事担当とかどうするか決めよう」

「にゃ~?」

「あ、アインは良いから。お前さんは僕にもふもふされて癒しを与える担当だから」

 

 我が愛娘ことアインがクリッとしたお目目で抱っこされながらこっち見るもんだから、もう可愛くて仕方ない。

 

「ん~、そうだね。じゃあここは一人寂しく過ごす佐藤くんのために、これからはこの美少女が手料理を作ってあげようじゃないか」

「おぉ! 女の子の手料理キタコレ!」

 

 まぁ、身体は男の子ですが。

 

「というか、正直掃除とか洗濯も僕が全部やってもいいんだよ? ハッキリ言って僕ただの居候な訳だし、その辺は甘えるつもりもないから」

「いやいや、そうは言っても佐々木さんはまたジュエルシード関係で騒ぎあったら飛んでくんでしょ? 学校の勉強だってあるし全部が全部任せる訳にはいかないよ。別に佐々木さんに家政婦やってもらうために受け入れたわけじゃないんだから」

 

 そもそも、掃除は僕がやらないと色々見つかってはまずいものがあるからね。お父さんの書斎の禁断(ろり)の書とか。

 あ、そういえば前片づけを放置した書斎の本だけど、この前少しだけ帰ってきたお父さんが当然ながら唖然としてたんで「局地地震起きたみたいで全部落ちたから整理してたけど、疲れて途中のままだった」と説明したら頭を撫でて褒めてくれた。

 

 言ってから「あれ、でもニュースにもならなかったし、信じてくれないんじゃね?」って思ったけど、お向かいの家が壊れっぱなしだったのが幸いして信じてもらえたのは助かった。人生何が幸いするか分からないものである。

 尚、僕が書斎を出た後にお父さんが中で慌ててガサゴソしていたのは、まぁきっと気付かないフリをしておいた方が無難だろう。

 何か見つけたか? って訊かれた時も「難しい本が一杯で、流石は僕のお父さんだと思った」って言ったので問題無い筈だ。お父さんがすっごい罪の意識に苛まれている顔をしていたけれど、子供にちょっと危ない趣向がバレたと発覚するよりはマシだっただろう。

 

「そうは言うけどね……等価交換の原則とまではいかなくとも、やっぱり僕は対価を支払うべきだと思うんだ」

「だから良いってば。友達なんだからそのへんはお互い持ちつ持たれつで良いじゃない。その内、僕が困ったときに助けてよ」

「……なんていうか、君って普通に良い人だったんだね……」

「え、それって僕が嫌な奴だと思ってたってこと……?」

「いや、そうではないんだけど……なんていうか、僕が知ってる転生者って、虎次郎くん以外殆どまともな人居なかったから……なんだかんだ言いながらも結局は……みたいな意識はやっぱりちょっとあってね。正直な話」

「あぁ……」

 

 確かに誰彼問わず愛してると囁いて粘着する銀髪長身イケメン青年顔オッドアイとか、核爆発起こして自殺紛いに街破壊しようとした奴とか見てればそう思うかもね……。

 

「ニコポとナデポとかいう能力持ってるハーレム願望な人とかもいたんだよ、アレに一瞬でも惚れてしまいかけた自分が今でも憎らしい」

 

 あぁ忌々しい、と自分の身体を抱きしめて顔を顰める刹那に、ご愁傷様、と苦笑しておく。そりゃ確かに切ないな。

 

「ちなみにそいつどうしたの?」

「時間操作で成長させて、成長に必要な栄養が不足してガリガリの青年姿になったところでナデポ能力が付与されていた左手首から先を全部切り落として、デバイスを破壊した上でゲイバーの前に置いてきたよ」

「……南無」

 

 それはなんていうか、その人の貞操も人生も終わってしまっているんだろうね、今頃。まぁ自業自得だけど。でもリアルにお先真っ暗だなソレ……左手無かったら生活にも結構支障出るだろうし、少なくともまっとうな職にはつけないだろう。割とエグいことをするなぁこの子は本当に……。

 

「あぁ思い出したら腹が立ってきたよ……!」

「なんか、アレだよね。佐々木さんって結構猟奇的だよね」

「えぇ!? あ、いや、その……そこは、いや、僕の、僕の意思ではないからね!」

「いやいや、どう考えても君の意思でしょ。生皮剥いだり人の手首切り落としたり……どこのヤクザさんってレベルだよ……?」

「いや、本当に僕がしたくてやったんじゃないんだよ! 結果的には僕がやっているんだけど、そうじゃないっていうか……!!」

「ちなみに血を見て興奮したりする?」

「割とするね」

「アウトー」

「しまった!?」

 

 しまった!? じゃないよ、やっぱり君は猟奇的だよ。そういうそのうちヤンデレとかに進化しそうな性癖どうにかしたほうがいいよ。

 しかし、この子は本当に残念な子だなぁ。外見美少女で成績優秀スポーツ万能家事全般得意というハイスペックなのに。

 自分の意思じゃない云々というのはちょっと気にかかるけれども、あんな憎憎しげに手首切り落とした、とか平然と言っちゃうあたり自分の意思でやったとしか思えないし。

 

「お願いだから僕の生皮剥いだりしないでね? 魔道書の材料にしたりしないでね?」

「しないよ!? っていうかなんで魔道書!?」

 

 人の生皮剥いで作るっていったら魔道書じゃないか。

 

「あ、それはそうと、佐々木さんってデバイスどうしたの? 前に戦闘時にバリアジャケット展開してなかったし、時間操作それが無いと使えないんでしょ?」

「え? あぁいや、デバイスはね、その……えっと……あの……ほら……わかるだろう?」

「全力でわからないと言わざるをえない」

「なんでわかってくれないかな!」

 

 どうして僕がそこで「そうだね」と言うと思ったんだお前さんは。

 

「セイバーだっけ? デバイス名。連れてくるとかどうとかって言ってた覚えがあるからユニゾンデバイスとかなんでしょ? なんなら連れてきてもらってもいいよ? お父さんが家にいない分食費は浮いてるし」

「ぐっ……いや、嫌ではないんだけど、その……今顔を合わせ辛いというか……いや、一応、一応その、お向かいの家直す約束だし、夜には一度会って直しはするよ?」

「……一週間以上前だったよね、デバイス無しで戦闘してたの。その前から喧嘩してて、まだ仲直りしてないとか?」

「いや……むしろどちらかと言ったら、連れて行かなかったから喧嘩になったというか……でもアレは僕が一方的にわがままを言ったというか……」

「え~っと……とりあえず、いないと戦闘ろくに出来ないんでしょ? だったら連れてきていいよ。僕と違って佐々木さんはなのはちゃんに付いて虎次郎くんと一緒に戦うんだから。大体フェイトちゃんだけならまだしも、天ヶ崎くんも相手にいるし、他の転生者が介入してくることあるんでしょ? その時になって後悔しても遅いよ? 特に時間操作で被害を無かった事にしたり、封じ込めたりは佐々木さんいないとできないんでしょ?」

「……はぁ。そうだね。確かに佐藤くんの言うとおりだ。じゃあお向かいを直したらそのままつれてくるよ。……なんていうか、一人だけでも邪魔だろうに二人も……本当に申し訳ない限りだよ……」

「いやいや、良いってば。どうせ僕こういうことくらいしか出来ないんだし」

 

 大体、また核爆発だの使えるような物騒な転生者が現れた時に「被害阻止できませんですた。ごめんね? テヘペロ☆」とか言われてもガチで困るしね。いや、そんな言い方するやつ僕の知り合いにいないけど。

 

 

 ……などと結構呑気に考えていたのだけれど、その日の夜にちょっとだけ後悔する。

 

「某、我が主である刹那様が一の騎士、セイバーと申します。この度は我が主の窮地をお救い頂くばかりか、某のような輩にまで軒下を貸していただけるとか。誠になんと礼を申し上げて良い事かと迷うばかりではありますが、一宿一飯の恩義を受けるからにはこのセイバー、今だ至らぬ身ではありますが、我が主と貴公の身を必ずやお守りすることをお約束いたしましょう」

「ちょ、やめてよセイバー。そういう堅苦しい時代がかった挨拶は今の時代しないんだから。佐藤くんが混乱するじゃないか」

 

 我が家の茶の間には現在、サムライが居た。

 もう一度言う。サムライがいた。

 黒髪でポニーテールで和装。上は紺で落ち着いた色合いの服を着て、その上に黒地で背中に笹の家紋みたいなのが描かれてる羽織りをして、袴はパリッと糊の効いた奴を穿いて、腰に刀を大小二本差している。

 ぶっちゃけて言うと、衣装と髪の色が変わってるだけの佐々木小次郎(第五次アサシン)そっくりである。口調とかはなんか違うんだけど、声は若干声の高くなってるソプラノボイス? なだけって感じである。

 そんなサムライが、僕の前で正座して頭を下げていた。

 

 ……ふぅ。

 

 ……いいのか!? 色々と良いのかコレの存在!? 許されていいの!? 佐々木繋がりだからってアウトだと思うよ僕!!

 

「何を申されますか我が主よ。あぁしかし今日も美しきお顔でございますな……」

「それ今日会ってから聴くの二十四回目だからね!?」

「なんと、まだそれだけしか言っておりませんでしたか……。いや、このセイバー一生の不覚。これは敬愛する主に対するにはあまりにも不敬。今日中にあと二十六回は言わねばなりますまいな」

「やめて!? もう本当やめてくれないかな!! 僕もう本当に君のこと苦手になりそうだよ!!」

「ふふ……そのようなことを言われながらも、今日も我らが身をひとつにした時、あのように可憐な顔をされていたではござりませぬか」

「ユニゾンだからね!? その言い方絶対誤解生むから他所ではやめてよね!?」

「では、月夜の夜に身を重ねた時、と言えばよろしいか?」

「もっと誤解を生むよ!?」

 

 あ~、いや、賑やかだね。良きかな良きかな。

 

「にゃ~?」

「あ~うん。ちょっと混乱したけど、コレはコレで有りっちゃ有りかな~と」

「おっと、これは失礼致した佐藤殿。……で、これは一応言っておかねばならんことなのですがな」

「あぁはいはい、なんでしょうセイバーさん」

「我が主に一瞬でも欲情したら、次の瞬間には指の二、三本が身を離れると心得られよ」

「セイバー!?」

「……りょ、了解いたした」

 

 こ、怖いよぉ!! この人怖いよぉ!? かっこいいけど怖いよ!! なにコレ!? 刹那のお目付け役的な何かなの!? 刹那お嬢様フラグ!? 男だけど!!

 

「いや、了解しなくていいから佐藤くん! セイバー本当いい加減にしてよ!! こっちは居候させてもらう側なんだよ!? なんで脅してるの!?」

「はて? これは脅しなどではござりませんぞ我が主。そのように愛くるしい外見をなされている主に欲情しない男がおりましょうか? 否、いるわけがありません! で、あればこそ、主に害を成しそうな存在は早々に斬り捨てるべきではござりませんか!」

「害を成す気ないんで大丈夫です!?」

「佐藤くんにそんな度胸無いから大丈夫だよセイバー!!」

 

 あ、同棲中の同性の動静を見計らって同姓が襲う、とか面白くない? ドウセイカルテット。今思いついたんだけど。あれ、カルテットって五人組だっけ? いや、五人はクインテットか。

 うん、僕ちょっと余裕取り戻した。

 で、刹那。同性を襲う気が元から無いんだからそれ度胸とかとはちょっと違うよね?

 

「ふむ? なるほど、へたれでござったか」

「そ、そう! 佐藤くんへたれだから!」

 

 刹那? 僕自分では認めてるけど、それ他人から言われると色々切ないよ? あ、刹那に言われて切ないとか僕上手いこと……言ってないね。なんだ、今の僕なんでこんなに駄洒落ばっかり思いつくんだ? 今日は駄洒落デーなのか?

 

「ふむ……佐藤殿?」

「え? あぁはいはい、なんですかセイバーさん」

「本当に、襲いませぬな?」

「本当に襲いません。というか精神的には女の子でも、同性の身体の人を襲うつもりは毛頭ありません」

「ふむ……? しかし外見は美少女でござるが?」

「外見美少女だったら襲うってどこの鬼畜系主人公なんですかね……」

 

 少なくとも僕はそんな鬼畜じゃありません。

 

「むぅ……」

「もう分かったでしょ? 佐藤くんは大丈夫だから」

「分かり申した。主がそこまで心許されておられるのでしたら……まぁあの狐男よりは信頼できそうですからな」

「いつも言ってるけど、虎次郎の悪口はやめてくれないかな」

「しかしですな主。このように美しい女性の外見に向かって男として生きさせようなどと……」

「少なくとも、それが世間一般では正しい認識なんだよ。身体は男の子なんだから……」

 

 あぁ、なんかちょっと深刻な話になりそうだな。若干面倒くさげふんげふん。

 

「にゃ~」

 

 とりあえず何か言い合っている二人を視界に入れつつ、この後どうしたものかと考えていたら、膝の上に座っていたアインがこちらを見上げて声をあげた。

 

「アイン、おなかへった?」

「にゃ」

 

 あ、膝の上から飛び降りててこてこ歩き出した。正解かな。

 

「よっし、とりあえずこのへんにしておいて、ご飯食べましょうご飯。僕もお腹減ってきましたし」

「おっと、そうだったね。とは言っても今から作るとなるとちょっと時間がかかると思うけど……少しだけ待っててくれるかな」

「あぁ、それなら佐々木さんがセイバーさん連れに出て行ってからカレー作っておいたから、すぐ食べれるよ」

「本当かい? ……なんだか本当に申し訳ない限りだね……食事当番は僕がやると今日言ったばかりなのに」

「良いって。気にしなさんない。カレーなんて簡単に作れるんだし」

「ほう……かれいらいすでござるか。某あれは大の好物でな。いや、これは某の中で佐藤殿の好感度が上昇しておりますぞ? ……主に手を出したら指一本切るだけに減刑しておきますかな」

「セイバー!」

「ハハ、冗談でござるよ主。……冗談で済ませられるといいですな? 佐藤殿」

「願わくば君の勘違いで僕を攻撃したりしないでよセイバー」

「なに、主のご友人ですから痛みは感じぬようにしますのでご安心召されよ」

 

 はっはっはっ、と笑うセイバーの姿は、なんかもう色々とカオスだなこの世界、とツッコむ気力を奪わせるのには充分な姿であった。個人的には五次アサシン好きなので、まぁ好きだったゲームのキャラがちょっと性格変わって近くに現れたと思えばいいか、と思って納得した。

 

 ……とでも思っておかないとやってられないよ、なんか。こいつら喧嘩してたんじゃなかったの?

 っていうか、割とこういう理不尽系暴力な香りのする人って苦手なのだけれど、まぁ、自分に被害が及ばないように注意だけしておこう。うん。

 で、結局その後は二人に美味しいと料理の腕を褒められ(とはいえカレーなんてルーあるんだから誰が作っても大体同じ味になるから褒められても微妙な気分なんだけど)たり、お風呂掃除を買って出た刹那に任せたら、なにやら呼ばれたので行ってみるとドアから顔だけ出して

 

「その……着替えとバスタオル持ってないまま、掃除してすぐにお風呂入っちゃって……えっと……その、ぼ、僕のバッグ持ってきてもらっていい……かな?」

 

 とかほんのり顔を赤らめながら恥ずかしそうに言う刹那に若干萌えたところで、いつの間にか背後に立っていたセイバーににこやかな笑顔で

 

「ハハハ、これは早速一本ですかな?」

 

 と言われたので土下座して、慌てながらも風呂場から出られない刹那も一緒になって状況説明したりと、色々騒々しいことに。

 で、最終的に僕の部屋を刹那に貸して、自分はお父さんの寝室で寝ることにしたのだが、トイレに行き忘れたので夜中に起きた時に廊下で僕の方を見て何故かニヤリと笑っているセイバーの姿があったりして、なんか怖かったという非常に精神を使う日であった。

 

 あぁ……刹那泊めるのは失敗だったかな……。

 結局、どうして自分の家に帰らないのか、とかも気を使って聴かなかったけれども、それくらいは聴いておくべきだったろうか……。でも下手なこと訊いて面倒なことになったら困るしなぁ。

 うーむ……まぁ、過ぎたことは仕方ない。別に刹那が嫌いな訳でも無いし、家事手伝ってくれるのは嬉しいから素直に受け入れることにしよう。

 セイバーに、斬られないと良いなぁ……。

 

 

 

 

 ハローハロー皆さんおはこんぬつわんわんお。皆大好き佐藤くんです。皆のことは大好きだけど、皆に好かれてるかどうかは正直わかんない佐藤くんです。

 さて、刹那とセイバーの居候が確定した翌日、一言で言いますと火曜日になりまして、まぁなんというか隣の席の鈴木くんには笛ペロペロ事件についての事情を聴く気も起きなかったので、今後絶対にこちらからは話しかけないことを決定しました。

 

 まぁ、また刹那の嘘の可能性もあるんだけど、鈴木くんは僕の後ろの席の佐藤裕子ちゃんのこと好きみたいな話を本人から聴いた覚えがあったので、彼女のと勘違いして舐めたのかもしれないという非常に可能性の高い状態であるわけでございまして、実際、一度か二度ほど僕のリコーダーがなにやら湿っていることもあったのでございましてからしまして。なんか言葉使い変だけど気にしない気にしない。

 

 と、ぼへぼへしながら朝の教室でのんびり妄想しつつ、黙々とマンガを読んでいる悠馬をなんとなく眺めつつ「ぼっちドンマイ」とか思ってたら、突然バン、と机が叩かれる音が響いたため、驚いてそちらを見た。

 

「いい加減にしなさいよ!!」

 

 どうやら、教室にいた生徒の殆どが驚いたみたいで、視線は僕と同じ方向へと注がれている。

 

 その視線の先にいた人物は、ハッとした顔のなのはちゃんと、苛立たしげになのはちゃんを睨むアリサちゃんの姿。そして、おろおろしているすずかちゃんである。……どうやら、原作イベントのようだ。確か喧嘩だよね?

 

 ちらりと別グループの輪に混じって談笑していた虎次郎くんを見ると、小さくため息を吐いていた。刹那は自分の席で女子達とおしゃべりしていたのだが目を丸くしてアリサちゃんを見ている。

 

 ちなみに僕がさっきまで眺めていた悠馬は、ビクってしてマンガを取り落として、誰も見てないのに(僕が見てるけど)なんか咳払いして誤魔化しているのがちょっと滑稽だった。

 まぁ、前だったら「ぼっちざまぁ」とか思ってたところだけど、今はなんていうか、多少あいつを見る目が変わってきているのでそこまでは思わない。ただちょっと「ふっ、お前も僕の同類か、ぼっちなんだろう? わかるぜ、その切なさ」って声をかけてやりたいと思うくらいである。さっきまで実際に「ぼっちドンマイ」とか生暖かい目でみながら思ってたし。

 

 ……ま、どっちにしても悠馬には屈辱だろうけどね!

 

 とか考えていたら、アリサちゃんがマジお怒りのご様子である。

 

「この前から何を話しても上の空でボーっとして!」

 

 あ~……なんか心の中でふざけてたけど、割と真面目な場面なだけに真面目に見よう。

 

「あ……ご、ごめんねアリサちゃん」

「ごめんじゃない!! 私達と話してんのがそんなに退屈なら――」

「アリサ、ストップや」

「ッ!! なによ!!」

 

 あ、虎次郎くんが介入した。

 アリサちゃんの肩にポンと手を乗っけて真剣な表情である。

 

 ……でもお前さん……ここは、見守ってあげても良かったんじゃね? いや、さっきまでお茶らけた思考してた僕の言う台詞じゃないかもだけど。

 

 あ~、でもなのはちゃんも結構これ一時的とはいえ堪えるだろうからなぁ……変な主観のツッコミ入れないで黙ってみてよう。実際、喧嘩自体を起こさせないのが一番良いのかもしれんし。虎次郎くんに任せくのが一番か。どうせ僕には何もできんしね。当事者達に任せるが吉。

 

「ストップすんのはてめぇの方だトラ」

 

 と思ったら、今度は悠馬がアリサちゃんの肩に置かれた虎次郎くんの腕をとって離させた。

 

「……なんや? ユウマン。今からちぃっとお兄さんがえぇこと言うつもりやったんやけど……」

「……いいから来い!!」

「あっ、ちょ悠馬!? ほんまになんなんや!?」

 

 わたわたと悠馬に引っ張られていく虎次郎くん。

 う~ん……なんか珍しい光景だな。

 

「……あの……アリサちゃん。えっと……」

「……ごめん。ちょっと言い過ぎたわ。……少し頭冷やしてくるわね」

 

 ……うん、この状況だともうさっきの言葉の続きは言えないよね。

 結局、アリサちゃんは眉根を寄せてどこか泣きそうな顔で教室を出て行った。

 

「あっ、アリサちゃん……。……なのはちゃん……」

「いいよ、すずかちゃん。今のは、なのはが悪かったと思うから……アリサちゃんの方に行ってあげて?」

「そんなこと無いと思うけど……、うん、少し話して来るね、なのはちゃん」

「ごめんね……」

 

 ……なんか、なのはちゃんは9歳(いや厳密には8歳だけど)とは思えない陰のある表情で、見てられない。

 一体どうしたんだろうか。昨日まではそんなでも無かった気がするんだけど……。いや、でもよくよく考えたら、たまにボーっとしてる時はあったな。いやいや、でもこんな陰のある表情するような状態だったか?

 

 ……どうなってんだろう。さっぱり分からない。

 

 あぁもう……フェイト戦に虎次郎くんも刹那もいなかったから、事情訊く事もできないし……歯がゆいなぁ……。

 

「佐藤くん」

「ん? あぁ佐々木さん。どうしたの?」

「いや……ね。ちょっとなのはちゃんが見てられないから、一緒に慰めに行かないかと思って……」

「ん~……今は放っておいてあげたほうが良い気もするんだけどなぁ……」

 

 いや、僕も気にはなるけどさ。事情ろくにわかってない奴が慰めても意味無い気がする。何を言っても薄っぺらい言葉にしか感じないだろう。

 それになんていうか、昨日はあんだけ大騒ぎしたからなのはちゃんもゆっくり一人で悩める時間が無かっただろうし、今は考えさせてあげるのが一番良い気がするんだよね……。

 

 ほら、一人になりたい時ってあるじゃん? 誰だってさ。一人でいたいと思っても実は気を使ってもらいたい時と、本当に一人で色々考えたい時って判断難しいけどさ。

 フェイトとの直接対決が結局ずれ込んで、その上フェイトもなのはちゃんもお互いに横槍入った形になっちゃったから、なのはちゃんの悩みの形がどうなっているのかは僕も全然わからんのだけどね。

 

「そう……かな?」

「うん……なんとなくだけどね。ほら、一昨日フェイトちゃんと戦ったけど、昨日あんだけバカ騒ぎに巻き込まれてたし、一人でゆっくり考える時間って必要なんじゃないかなって。まぁ部外者の私見だから、正直あてにはならないと思うけど」

「そっか……いや、でもそう、かも……しれないね」

 

 僕の言葉に、刹那は納得したのか、小さくため息を吐いて肩を落とした。

 あ~……刹那はやっぱ原作組に元気で仲良くして欲しいのね。まぁ僕もそうだけどさ。

 

 しかし……アレだよね。普段は虎次郎くんのバカ騒ぎのせいで目立たないけど、一人になった時のなのはちゃんって随分大人びた表情してるよね。なんか、元大人としては「子供がそんなに達観しなくてもいいんだよ?」って言ってあげたい。

 尤も、そういうのは本当に助けられる力を持って、助ける意思を持っている人だけが許される言葉だけどね。今の僕にそんな力は無い訳で、そんなことを言っても文字通り口だけだ。説得力の欠片も無い。

 

 そして悠馬は結局何がしたいんだろうね。虎次郎くんが場を丸くおさめようとしたのが気に食わなかったの? ……やっぱそういう奴だった、で間違いないのかね。悠馬?

 

 

 

 

「朝はカッとなって言い過ぎたわ。その……ごめん。なのは」

「ううん、あれはなのはが悪かったから。ちょっと考え事してて。その……私のほうこそごめんね?」

「違うわ。アレは私がそもそも……。ううん、違う、そうじゃない。そうじゃないのよなのは。私そんなことが言いたいんじゃなくて」

 

 昼休み、屋上で刹那と共に刹那作のタコさんウィンナーやら甘い卵焼きやら、鮭の焼いた切り身やらポテトサラダやらが入った、実に素晴らしい出来のお弁当を二人仲良くつついていたところ、少し離れた位置でお弁当を食べていたなのはちゃんに謝っているアリサちゃんの姿があった。

 そして、その傍ではその様子を心配そうに見ているすずかちゃんがいて、アリサちゃんがちゃんと謝れたことで少しだけホッとした表情を浮かべている。

 

 ……仲直り、早いな。原作での仲直りがいつだったのかは覚えていないけど、丸一日二人は喧嘩したことで悩んでいた覚えがあっただけに、目を見張る。

 これが、オリ主達の介入結果、ってことなんだろうか。僕が知らない間に虎次郎くんがあの時に悠馬によって阻止された言葉をかけて、アリサちゃんがしっかりなのはちゃんと向き合おうとしたのか。

 顔を真っ赤にして、拳をギュッと握って、恥ずかしさに耐えるようにしているアリサちゃんはなんだか本当に精一杯な感じがして、すっごく微笑ましくて。

 

 ……きっと一杯勇気を振り絞っているんだろうな。頑張れ、アリサちゃん。

 

「アリサちゃん……」

「うん、ありがとうすずか。ちゃんと言えるから。……あのね、なのは。私達、友達でしょ?」

「うん。当たり前だよ。たまに喧嘩もするけど、一番の仲良し。私はそう思ってる」

「……ありがと。あの、ね、なのは。だから、その……ずっと前から悩みがあるみたいだったけど、今日は一段と酷いでしょ? それで……言いたくないなら、それでも良い。だけど私やっぱり、友達だから。なのはの力になりたいから! だから、だからね? ……なのはが、迷惑じゃなかったら、言っても良いと思える時が来たら。いつでも良いから。絶対に役に立てるなんてそんな偉そうなことは言えないけど、力には、なれると思うから。一緒に考えてあげたりは、出来ると思うがら。だがら……」

 

 あぁ、アリサちゃん、鼻声になって泣きそうになってる。あの普段勝気な子がこういう姿見せるとはね。あ~もう、頑張れとしか言えない自分がなんとももどかしいけど、頑張れ!!

 と、思ったらなのはちゃんがそっと立ち上がり、ぎゅっとアリサちゃんを抱きしめてその言葉の続きを、まるで他の誰にも聴かせないようにしているかのように、自分の胸の中でだけ言わせると、小さく息を吸ってから口を開く。

 

「ありがとう。アリサちゃん。気持ちは伝わったよ。すっごい嬉しい。……どうしてもね、悩んでる事が、あったの。でもね。これはきっと、私が一人で解決しなくちゃいけない問題で、私が努力してどうにかしなくちゃいけない問題なの。だから、今は言えないけど……解決したら、きっと言うから。だからそれまで、私の一番のお友達として、アリサちゃんとすずかちゃんは、私のこと応援していてくれるかな……?」

「あだりまえじゃないの……おうえ゛んずるに決まっでるぢゃない……」

「うん、私も応援するから、頑張ってね、なのはちゃん……ぐすっ」

 

 震えるアリサちゃんを抱きしめながらそう言葉にしたなのはちゃんの顔は、なんだかとっても優しい表情で、本当に君は8歳なのかとツッコミを入れたくなるくらい母性に溢れた顔で、アリサちゃんの背中をそっと撫でながら、アリサちゃんと、もらい泣きしているすずかちゃんに微笑んで言った。

 

「……良かったね、アリサちゃん。なのはちゃん」

 

 ポツリと、正面に座っている刹那が、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭いていた。

 ねぇ刹那、僕ハンカチ忘れてきちゃったから、それ終わったから借りていいかな。ティッシュはもってるから、鼻紙として貸してあげるからさ。

 

「な? ……丸く、おさまったやろ?」

「……結果論だろうが」

「そない涙目の鼻声で言うても説得力あらへんわ。ほれ、ハンカチ貸したるから使いや」

「いらべぇよクゾ虎。自前のがあぶ」

 

 ……あ~、給水塔の影で隅っこでコソコソ隠れてるそこの二人、もとい虎次郎くんと悠馬。他の人たちにはバレてないみたいだけど、僕からは丸見えだよ。あ、虎次郎くんこっちに手を振った。

 

 とりあえず僕も小さく手を振り返しながら、介入お疲れ様、とだけ心の中で告げておいた。


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