転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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13.後悔とか推察とかお願いと魔法とか

 悠馬に脅された翌日。……いや、あの時点で既に日をまたいでいたのかもしれないけど、日が出てきた頃にはようやく泣き止んだ僕は、真っ赤になってしまった眼を隠すのとアインのおもらしで濡れてしまっている浴衣を交換するために、一度フロントで新しい浴衣をもらってから温泉に入った後、夜風にあたりっぱなしだったせいで散々に冷えていた身体を温めてから部屋に戻った。

 

 アインも風呂に入って落ち着いたのか、暫くは手桶風呂に入ったてふるふる震えながら尻尾をおなかにつけて小さくなっていたけど、お風呂をあがったころには僕の足に擦り寄って尻尾をひょろひょろとゆっくり大きく振ってにゃーにゃー泣いていたので、多分大丈夫だろう。

 

 なのはちゃんは、空中で鎖に拘束されて落下していくのを見ていただけに心配だったけれど、どうやら怪我自体はせずに帰れたようで部屋に戻った時はすやすやと寝ていたのを確認した。ユーノくんも寝てるはずなのに尻尾がいきなり逆立ったりふるふる震えていてなんか可哀想だったけど、一応生きてはいるみたいなので安心した。

 

 しかし、良かったと思うと同時に、もう二度と野次馬根性で、好奇心だけで戦闘を眺めにいくなんてことはしないようにしようと改めて決意する。

 ちょっと調子に乗っていたのかもしれない。というか、実際に調子に乗っていたからこそ僕はあんなこそこそと観戦しようだなんて考えたんだろう。見に行ったのもアインを追ったからとはいえ、見つけた時点では発見されていなかったのだから逃げることも可能だっただろう。

 それなのにあの場で見物なんて決め込んだのは、なのはちゃんが心配とかじゃなくて、単純に戦闘を直接見てみたいという、まるで子供みたいな理由だ。

 悠馬の言っていた、ヒーローごっこじゃないという言葉はなるほど確かにその通りだと言える。だって、アレはなのはちゃんもフェイトも、お互いに譲れない思いがあってぶつかりあっていたのだ。それをただ野次馬根性で見てみたかったなんて、どうかしている。人間として最低だろう。

 物騒なのは嫌い? 暴力反対? どの口が言うのか、自分が振るわれない暴力なら構わないのか? 自分が安全な席で見れる物騒なことなら、笑って眺めるのか?

 

 本当、自問自答するだけで出るわ出るわ自分の悪いところ。こんなのがあの我らがお人よし主人公虎次郎くんの親友だというのだ。こんな滑稽な話があるだろうか?

 

 ……正直、このまま鬱入って布団の中でアインと一緒にまる一日寝ていたい(アインはもう寝た)くらいだったけど、暗い考えを頭を一振りして追い出し、僕は布団から身体を起こして、なのはちゃん達を起こさないようにしながら居間へと移ってお茶を淹れ、現在の状況を整理し始める。

 戦闘能力だのが無い上に、後ろ盾が虎次郎くんの友達であるという地位だけの僕にとって、情報というのは文字通り生命線だ。後悔するのは結構だが、状況を正しく判断出来ずにいればまた自分はバカをやらかすだろう。

 

 さて、まずというか一番大事な情報は、悠馬に関してか。

 

 ……昨日の悠馬は、正直今まで抱いていたイメージがあまりにも違いすぎた。

 相変わらず僕のことモブ扱いだし、愛してるとかサラッと言ってるあたりはそのままだけれど、いつもの人を小バカにしたような嫌な笑みじゃなくて、僕を見下していた表情も、苦笑いする表情も、怒りをぶつける表情も、全部が全部、真剣だった。

 

 なんていうか、主人公の顔だった。

 

 言動は相変わらず粗野で、まるで息をするかのように簡単に人に愛を囁いているのが気持ち悪いのは間違いないんだけど、でも、いつもみたいな、嫌な気色悪さを感じなかったのだ。

 

 いやいや、しかし待て、反省するのは良いことだがあいつに対する認識を改める必要は無い。あいつは僕のリコーダーをペロペロしたり小学校女子のスカートを覗いたりしちゃう奴なのだ。忘れちゃいけない。

 

 そう、あいつは顔はイケメン青年で、身長は中学生並なのに、小学生達と同じランドセルを肩に担いで、一回りも二回りも身長の低い小学生達と共に小学校に行っているような男なのだ。

 どうだい? 想像すると中々に滑稽な風景だろう?

 

 ……OK。少しはいつもの自分に落ち着いてきた。

 さて、整理と考察を続けよう。

 

 まず、悠馬はどうしてフェイトの味方をしているのだろうか。いや、フェイト派だとは本人も言っていたけれど、それだけであのフェイト命のアルフがあんなに敵意無く接するほど受け入れられるほどというのはどういうことだろうか。

 

 どうせフェイトにも愛を囁いてるんだろうに、ましてやあいつの性格ならフェイトが嫌がってもべたべたしてそうだし。そして何より外見の異様さもさることながら初対面の時にフェイトやプレシアのことを知っていると暴露しただけに普通は警戒されて然るべき存在だろうに。

 

 なのに、それをアルフが警戒すらせず許容して、むしろ心を許しているように感じられた。

 

 ニコポナデポの類は無いのかと思っていたけれど、持っているのか。それとも、オリ主というのは動物系の存在からは好かれるように出来ているのか。そこは分からない。

 

 そもそも昨日、風呂でユーノくんが洩らしていた“最初の時もそうだし、その次の時も必ずと言っていいほどジュエルシードを狙って現れた人たちは全員が明らかに手練の魔道師だったし、特にこの前のフェイトと呼ばれていた子と、いつも虎次郎くん達には威嚇だけして、介入者にだけ攻撃していた悠馬が突然彼女についた時は別格だった”という部分も、何か違和感がある。

 

 ジュエルシードを狙った転生者が何人かいるというのは、まぁとりあえず分かった。だが、それなら悠馬が威嚇というか、敵対するのはそちらだけで良いのではないか? 虎次郎くんと刹那がなのはに何かするような奴等でないことは、むしろ僕以上に付き合いの長いあいつのほうがわかっているだろうに。それに二年前には虎次郎くんや刹那と共同戦線を張ったと自白していたのだから、別に自分から関係を崩しにかかるような必要はなかったはずだ。

 この問題は、ことここに来て「俺様野郎だから何考えてるのかなんてわからない」で済ませられる問題ではない。

 

 まず第一の謎が、なのはちゃんに何故協力しないのか。フェイト派とはいえなのはちゃんラブでハーレムを目指してるあいつなら、好感度を上げるためにも最初から味方として絡んでいって然るべき状況ではなかったのか?

 第二の謎が、どうして今までジュエルシードと関わる際に必ず介入してきた転生者と虎次郎くん達の“両者を威嚇して、別の転生者たちにだけ敵対”していたのか。ここで大事なのは虎次郎くん達に対しては“威嚇”であって“敵対”ではないことだ。

 わざわざユーノくんが威嚇、と言うくらいなのだから敵対行動自体はとらなかったのだろう。

 第三の謎が、何故フェイトが負け確定した瞬間に介入して虎次郎くん達との敵対を明確にしたのか。今まで敵対はしていなかったはずなのに。

 第四の謎が、どうしてアルフがあんなにも心を許しているのか。明らかに悠馬は怪しいはずなのに。

 そして一番の謎といえる第五の謎のが、どうして敵対しているはずなのに虎次郎くんや刹那、そして悠馬は、日常時にお互いに接する時の態度が変わらないのか。特に悠馬に到っては相変わらず学校ではなのはちゃんを口説くし、虎次郎くんや刹那もそれを見て迷惑しているから止めるということはあっても、悠馬からなのはちゃんを守るために声をかける前に事前に動く、ということは一切ないのだ。

 あの三人の仲のよさはこの前戦闘があった翌日にプールに行った時によくわかったことなのだから、うわべだけではないというのは間違いない。

 

 ただのかませ犬ポジ、オチ担当といったイメージがあっただけに、ハッキリ言って訳が分からない。全く持って、悠馬の狙いが分からない。虎次郎くんと刹那は、単純に友達であるなのはちゃんに力を貸している、という状態なのは分かるのだが。

 

 もしかして、最初から原作介入でプレシアやアリシアを救うために、三人で役を決めていた? それで、見た目的に敵に回っても一番不審に思われない悠馬が憎まれ役をやることになった、とか?

 

 いや、でもそれなら一番手っ取り早いのは刹那がプレシアに接触することだろう。刹那は時間操作が出来る。だったら、プレシアの身体を治すことやアリシアの身体を健康な時に戻すことで蘇生させることも出来るんじゃないか?

 僕くらいの外見の人間を赤子にまで戻せるというのなら、出来なくはないのではないかと思う。

 そうすれば未然に被害は防げるし、プレシアやフェイトが犯罪者とされることも無くて済むはずだ。なによりアリシアが復活すればきっとフェイトの存在を妹が出来たということで喜ぶし、プレシアもアリシアが復活することで、自分の心が癒えて、フェイトとの関係だって修復させようとするかもしれない。

 

 それが、一番のハッピーエンドの道筋では無いだろうか。

 

 ……やっぱり判断材料が少なすぎるし、途中でIFを考えて道が逸れてしまった時点でもう駄目だ。そもそも部外者である僕では虎次郎くん達の考えまでは分からない。

 

 そもそもさっき想像した刹那接触ルートも、刹那の時間操作能力というのだって本当にあるのか、どんな感じなのかを見た訳ではないし、植物人間状態の人間を時間を逆行させるだけで本当に直せるのかという疑問もあるからこういう想像をするのも無意味だ。

 

 今重要なのは、悠馬が何も考えないでただハーレムを作ることだけを目標に行動していたのでは無かった事。

 悠馬が僕を殺したり痛めつけたりしなかったのは、虎次郎くんというチートな友人の存在があったからだという事。

 悠馬はなのはちゃん本人を痛めつける攻撃をしたりする気は無いという事。

 そして、アルフが悠馬に心を許しているという事。

 

 これらの情報だけでも、覚えておけば今後何かの役に立つかもしれない。もし虎次郎くん達にコレらを話す機会があったら、直接問いただしてみてもいい。

 

「ヨッシー、おはようさんや」

 

 そう、こんな感じで声をかけられた時にでも。

 

 ……ん?

 

「……虎次郎くん!?」

「だぁ、静かに静かに。びーくわいえっとぷりーずやでヨッシー。皆が起きてまうやんか」

「あ、ご、ごめん」

 

 いつの間にか後ろに居た虎次郎くんがそう言って口に人差し指を当てる姿が、たった一日見なかっただけなのになんとも懐かしい気がして涙腺が緩みかけたが、流石に何事かと思われるだろうと思ってグッと堪える。

 良かった。なんというか、こんな朝早くからお前はどうやってここに来たんだとか、鍵はかかってなかったのかとか色々ツッコミを入れたかったけど、何はともあれコイツがいるだけで今日一日は楽しく過ごせるだろう。

 

「お、おはよう。さ、佐藤くん」

 

 と、そこでひょっこり、虎次郎くんの背中に隠れていたらしい刹那が顔を出してきたので少し驚いてから、僕も挨拶を返す。

 

「佐々木さん、おはよう。風邪もう大丈夫なの?」

「あ……うん……えっと……虎次郎が看病してくれたからね。もう平気……だよ」

「せやで。この介護士検定一級の実績を持つ虎次郎くんさまにかかれば、風邪なんてちょちょいのぷーや」

 

 ふっふっふっ、とメガネくいっをやりながら笑う虎次郎くんに、一応訊いておく。

 

「そんな検定あんの?」

「知らんがな」

「相変わらず適当だなぁ」

 

 やっぱり適当に言っただけだったか。介護士の人たちに謝れ、とか思いながらなんだかおとなしいままの刹那にちらりと視線をやると、何故か反射的に虎次郎くんの背中に隠れてしまった。

 

「どったの? 佐々木さん。やっぱまだ具合悪い感じ?」

 

 この反応からして、そういうのとはなんか違う気もするけど。よくよく見たら刹那ずっと虎次郎くんの服の裾掴んで離さないし。

 

「あ~……えっと、やな。刹那?」

「う、うん……」

「ヨッシーなら大丈夫や。なんせワイの一番の親友やからな」

「おう、なんの話か知らんけど僕は虎次郎くんの一番の親友らしいよ。僕もそう思ってるけど」

「お、なんや嬉しいこと言ってくれるやんか」

「それはこっちの台詞」

「……ちなみに虎次郎、それなら僕は一番の恋人とかかな?」

「……あ~……好きなんは否定せぇへんけど、恋人っちゅうことはあらへんなぁ。親友二号やな」

 

 おろ、いつもなら「ソレはあらへんな」とスッパリ斬り捨てるのに。なんか返答が煮え切らないな。やっぱ看病フラグかなんか建ってたの?

 

「ふぅん……僕の方が佐藤くんより付き合い長いのに、そういうこと言うんだ。別にいいけどね~?」

 

 あ、刹那がちょっと不機嫌そうに口を尖らせた。所謂アヒル口という奴。かわいいのう。かわいいのう。だが、男だ。

 

「付き合いの長さなんて仲良し度には関係あらへんのや。あ~、その、やな。せやけど、アレやで? 刹那が大事な友達やと思ってるのは本当や。それこそ刹那をいじめる奴がおったら地球の裏側でもぶん殴りにいったるくらいには」

 

 おぉ、ちょっと照れながら言う虎次郎くん、お前本気で刹那フラグ建つぞそんなこと言ってたら。

 

「じゃあ、正反対の方向で同時に佐藤くんもいじめられてたら?」

「分身して両方助けに行ったる」

「「君だと本当にやりそうで怖いよ虎次郎 (くん)」」

 

 虎次郎くんの自信満々な態度に、僕と刹那の声がかぶって、お互いに視線を交わした後に笑い合う。

 

「ん、そうだね。佐藤くんなら大丈夫そうだ」

「せやから言うたやんか。あ、そんでお願いがあんねんけどなヨッシー」

 

 おぉ、なんか今日は朝っぱらからガンガン押してくるな虎次郎くん。僕のボケ回路もツッコミ回路もまだまだおねむさん状態なのに。

 

「刹那のことこれから一ヶ月……いや、一週間でえぇんやけど、泊めてあげてくれへん? この宿泊旅行終わったその日から」

「うん、……その、恥ずかしながら、お願いできないかな。佐藤くん」

 

 あぁ、なるほどお泊りね? 把握把握。

 

 ……ん?

 

「え? ……えぇぇ!?」

「あぁヨッシー、せやから静かに静かに」

「あ、ご、ごごごごめん」

 

 えっと、え? 何? 朝っぱらからいきなりなんのお願いなの? 家出? 刹那家出でもすんの?

 

「……ごめん。やっぱり駄目……だよね?」

「あ、い、いや、別に僕は構わないんだけどね? お父さんも多分OK出すし。っていうかそもそもお父さん出張で三ヶ月は帰って来ないからどうせ家ではアインと二人っきりだし」

 

 うん、ちょっとビックリしただけだよ。別に友達のお泊りくらいなんの問題もないよ。虎次郎くんだって二年生の時に一度うちに泊まったことあったし。勿論お父さんも快諾で。

 いや……え~……? でもなんで僕の家?

 

「ほらな? 大丈夫やったろ?」

「うん、虎次郎くんがなんでそんなドヤ顔してるのかは知らないけどさ、参考までに訊いていいかな?」

「なんや?」

「なんで僕の家?」

「それは……」

「あ~っと、アレや。今ヨッシーの家ってお父さんおらんやんか? でそんな状況ならなんちゅうか、刹那もそんな気ぃ使わんで済むやろうしなって」

「いや待って、その理由はおかしい。いや、おかしくないけど、虎次郎くんの家とかじゃだめなの? あ、別に佐々木さん泊めたくないとかじゃなくて。普通に疑問だから」

 

 だから刹那もそんなちょっと泣きそうにならなくていいから!

 と思ってたら虎次郎くんはちょっと「う~ん」と腕を組んで迷った末に、身を乗り出して言った。

 

「ほら、うち兄貴おるやん?」

「うん」

「刹那が食われる」

「……佐々木さん。僕の家はいつでも誰でも大歓迎だよ!!」

 

 あぶねぇな虎次郎くんの兄貴!? なに、小学生でも見境無しなの!? しかも見た目は女の子でも男の娘だよこの子!?

 

「念のためにきくけど、えっと、僕が間違って覚えてただけで、今言ったのが兄貴じゃなくて、姉貴、というパターンではないよね?」

「せや。兄貴や。ガッチムチや」

「佐々木さん。僕達は親友だ。そんな君と二人でお泊りだなんて、是非とも親友として夜にトランプしたりゲームやったりして盛り上がろうじゃないか」

 

 モノホンだったんだね!? 流石に僕もそれは知らなかったよ!? お前さん結構前にお兄さんの話をした時、「最高とは言わんけど、えぇ兄貴やで、ノリえぇし」とか良い笑顔で言ってなかったっけ!? ノリって、なんのノリだったの!?

 

「こ、虎次郎くん、それはぼ、僕も初耳だ、だだだだったんだけど」

 

 見てよホラ!! 刹那も若干どころじゃなくてドン引きしてるよ!! 若干涙目でぷるぷるしてるよ!!

 

「ワイも初めて教えたわ。まぁそういう訳やからうちでは無理なんや」

 

 うん、それはもう、痛いほど理解したよ。駄目だよね、貞操の危機だけは駄目だよ。そんなガチムチのお兄さんにもしハァハァ詰め寄られてベッドに押し倒されたりしたらもう、もうBLどころの話じゃないよ。なんていうか、なんていうか、男でも萌える人が意外に多いBLの域を超越して、一部のコアなマニアご用達の危ない映像の出来上がりだよ。いや、っていうか、見た目美少女の小学生を襲うガチムチとか、犯罪とかってレベルじゃねぇよ。うん。よし、大丈夫。僕は意外に落ち着いている。落ち着いているからこそ虎次郎くんに訊いておかねばならない。

 

「虎次郎くん、一応、一応訊きたいんだけど、お兄さんとは何歳まで同じベッドで寝てた?」

「え? 最近もよく兄貴が一緒に寝よう言うてくるで?」

「「虎次郎 (くん)超逃げて!?」」

 

 大丈夫なのか虎次郎くん、お前の貞操は!? いや、それとも、それともしかして、お前、お前……ッ!!

 

「虎次郎くん、一応訊くけど、好きなタイプは?」

「美少女やな」

「セエエエエエエエエエエェェッフ!!」

 

 良かった! 良かったよ虎次郎くんはちゃんとノーマルだったよ!! 口では愛してると言っておいて、身体はガチムチなお兄さん一途とかそういう誰得としか言えない展開だけは避けられたよ!?

 

「いや、だからもう一々止めるのも面倒くさくなってきたんやけど、なのはちゃん達起きてまうから静かにしてや?」

「あ、ごめん……」

「いや、えっと、佐藤くん。この場合佐藤くんが一概に悪いだけじゃないと思うよ。佐藤くんが叫ばなかったら僕が叫んでたよ……」

 

 あ、良かった。刹那っちアンタだけはわしの味方やで~。

 え? 似非関西弁やめろって? サーセンふひひ。

 

「んも~……なんなのよ……朝からうるさいわね……」

 

 あ、しまった。アリサちゃん起きちゃったみたいだな。

 ふすまを開けて現れたのは、わんこパジャマ(わんこの足跡やデフォルメわんこのイラストが至る所に描かれたかわいらしい一品)を着たアリサちゃんの姿。ちなみにトレードマークである左側にみょん、って縛ってあるでっかいビーズみたいなのがついたゴムはつけてないけど、アホ毛は健在である。

 

「おう、おはようさんアリサ。起こしてしもうたみたいで悪かったな」

「あ~……虎次郎くん? もう……昨日はどこ行ってたのよ……って刹那の家だったわね……おはよう……」

 

 お目目ぐしぐしながら話すアリサちゃん可愛いです。でもそれ目に悪いからあんまやんないほうがいいよ。

 

「おはよう、アリサちゃん。迷惑かけたね」

「あぁ刹那いたのね……おはよう……別にいいけど……。……ん~?」

 

 今度は刹那とぼへぼへしたまま会話した後に、アリサちゃんは欠伸をひとつしてから刹那、虎次郎くんを交互に見て徐々に顔を真っ赤にしていき、いきなり叫びだした。

 

「な、なんで虎次郎くんと刹那がいるのよ!?」

「「「ツッコミ遅いよ(で)」」」

 

 今日も朝から我々一同は元気一杯である。

 

 

 

 

 やぁ諸君、虎次郎くんとのアホな会話を何度か朝からしていたお陰で、既に気分は普段通りにまで回復した佐藤くんですよ。こんぐらっちれーしょん僕。

 

「暇やなぁ……」

「だねぇ……」

 

 さて、今現在僕は何故かはやてちゃんと、はやてちゃんの車椅子を押しながらおしゃべりしているなのはちゃんの四人(+二匹)で旅館周辺を散歩しているのだが、まぁここに至るまでの経緯を簡単に説明しておこう。

 というわけでダイジェストです。すぐ終わるけど。

 

 朝ごはんは、流石に昨日の夕食がアレだったのでアリサちゃんから言っておいたのか、ごてごてといろんな料理が並びまくってるだけのものじゃなくて、普通にTHE・和食って感じの優しい味が主体のお膳だった。たけのこご飯が美味しかったよ。まる。

 

 ちなみに虎次郎くんは「足らん、こんなんじゃ育ち盛りの男の子の朝には足りへんで! ちゅうわけでアリサ、ちょいとこのイケメンな虎次郎くんさんにおかずを恵んでくれへんやろか?」とかやっていた。

 

 そしてすかさずアリサちゃんは「ば、バッカじゃないの!? なんで私がアンタに……。うぅ~……そんな残念そうな顔は反則よ……じゃ、じゃあ……えっと……お、お魚! お魚あげるわ!」とツンデレっぷりを発揮し、「ほんまか? んじゃ、あ~ん」とかにこやかにやる虎次郎くんに超狼狽していた。

 

 うん、青春だね……頑張れアリサちゃん。そして虎次郎くんは堂々といちゃこらしすぎだよ。僕にはちょっと目の毒だよ、とか思ったけど、恭也さんと忍さん、士郎さんと桃子さんもなんかあ~んやってた。恭也さんは恥ずかしそうだったけど、お前ら子供の前ですよ? 自重しなさいよ。

 

 そしてすずかちゃんも刹那に何かおかずをプレゼントしようとしていたが、「あ、僕は少食だから大丈夫だよ。ありがとうすずかちゃん」と笑顔で言われてしょんぼりしていた。

 うん、刹那はもっとすずかちゃんを甘やかしても良いと思うんだけどなぁ。それとも本当にすずかちゃんの好意気付いてないの?

 ……って、そうか、精神的に女の子だから抵抗あるのか。

 

 で、そうなると余るのが僕、はやてちゃん、なのはちゃんである。

 

 しかしそこは流石は原作で仲良しの二人。ついでに席も隣同士なだけある。まだA's編まで半年以上あるというのに、既に和気藹々。で、話しながらもはやてによってユーノくんがもみくちゃにされているのがなんともユーノくんの悲壮感を誘う。

 強く生きろよ、ユーノくん。後ろでリーンちゃんが恨めしそうに見てたけど。

 

 僕はまぁたまに虎次郎くんが話題をふってくれたけど、アリサちゃんが少しむくれていたのでその度にアリサちゃんに話を持っていき、いちゃいちゃを優先させてあげた。命短し恋せよ乙女、である。

 

 で、その後は虎次郎くんや刹那と風呂行こう(朝入ったけど、早めに言い出さないと二人が拉致されて僕はまたぼっちになってしまうので)と思ったら、二人は部屋に来る前に入ってきたというし、じゃあまた夕食食べた後にでも、寝る前に三人で行こうと約束したところで、すぐに女性陣に捕まった。

 

 虎次郎くん派のアリサちゃんと、刹那派のすずかちゃんによる協定でもあったのか、僕以外の男二人はそれで拉致されました。虎次郎くんは快諾だったけど、刹那がなんとも困った顔をして虎次郎くんと僕を見ていたのが忘れられないが、「ヨッシ、つぐくん、分かってるよね?」というなのはちゃんと、「わかっとるやんな? ヨッシー?」というはやてちゃん二人の浮かべていた極上の笑みに僕はあっさり折れました。

 

 笑顔が怖いとかよくいうけど、二人の笑顔別に恐くなかったです。可愛かったです。なでなでしていいですか。

 まぁ、実際にするとなったらなのはちゃんの場合は僕が背伸びしてからなのはちゃんにちょっとかがんでもらわないといけないけどね。はやてちゃんなら車椅子だし背伸びしなくても届くんだけど。

 とか妄想はしても、本当にそんなこと言い出したりしないけどね、僕。

 

 その後はアリ虎とすず刹の二組が早速お散歩に出かけられまして、なのはちゃんとはやてちゃんに、リーンちゃんとユーノくんとアインと僕という珍しい組み合わせになったという訳であります。何気に動物天国でちょっとほんわか。

 で、僕はユーノくんとお話してればいいやと思って駄弁っている次第である。

 

 あ、さすがに堂々とフェレットと会話なんてしてたら痛々しい子と思われるかと思ったら、なのはちゃんもはやてちゃんも生暖かい目でこちらを見ていた。

 そういえばユーノくんの念話君達には聴こえてるんだもんね。はやてちゃんが魔法関係者の一員になるには早い気もするけど、誤魔化しようが無かったから教えたりしたんだろうな~。

 

 そんな感じで、今である。時間的には午前九時ちょいだね。

 

 朝九時から目的も無く散歩(森林浴)してるだけの小学生ってどうなんだろうと思ったけど、旅館の中は昨日のうちにある程度見てまわったみたいだからなぁ、皆。そりゃやること無いよね。

 大人達も僕達が出かけるときに特に同行を申し出たりするわけでもなく、「子供同士で遊ばせておこう」というスタンスなのか、各々で盛り上がっていた。何気に美由希さんが浮いていたのが印象的であった。

 

 美由希さんといえば兄である恭也さんラブ(異性的な意味で)な描写がよく二次創作で見たことあるのだけれど、実際のところどうなんだろうか。アニメでも「忍さんとこいくんだね?」みたいな感じで胡乱気な目を向けてたりしてた覚えあるし。

 ん~……確かとらハとやらでヒロインの一人だったんだっけ? 実妹が攻略対象って、どこのエロゲだよ。あ、原作エロゲか……。あれ、でもなんか色々複雑な設定あったよな、じゃあ義妹?

 

 ……あれ? 何気に、僕の近くでちょっと危ない三角関係起きてる?

 っていうか、とらハってとらいあんぐるハートの略だから非常に可能性高いね。大丈夫? 修羅場起きたりしない?

 僕、高校生達の修羅場が小学生の時に間近で起きるとか嫌だよ? もしかして原作のなのはちゃんってそれを敏感に察知して管理局に……?

 

 いやいや、まさかねぇ……?

 

『どうしたんだい、なのは。義嗣も随分ぼんやりしてるけど……』

「え? ……あ、ううん。なんでもない」

「え? あ、ごめん。考え事。っていうか、今更だけどはやてちゃんにも魔法バレしてるの?」

『あぁ……猫屋敷……じゃなかった。すずかの家でフェイトって子と戦った時に張った結界が原因でね。はやてにも魔力資質があって、アリサやすずかと話している時に結界内に残されちゃったらしくて、慌てて虎次郎くんが事態を説明してくれたとかでね。はやても義嗣と同じで物騒なことは嫌いだっていうから、あくまで知っているってだけだけどね』

 

 あ~、あの時それで刹那だけが先行してきて虎次郎くんが遅れたのか。なるほどね。

 っていうか、知らないでいきなり結界に入り込んだらビビるだろうな。いきなり景色が色あせるし、今まで目の前にいた友達が一瞬で姿を消したんだろうから。

 僕だって知っててもあの色あせた景色は初見で結構驚いたし、そこにプラスで友達目の前から消えたら驚いて大変だったろうに。虎次郎くんナイスフォローだよ。はやてちゃんの心に何か危ないトラウマできるところだったよね、下手したら。

 

「なんや、ヨッシーも巻き込まれた口なんか?」

「え? あ、あぁうん。まぁね。まぁ実害は無いから別にいいんだけど。……あ、そうだ。えっと……なのはちゃん」

「ん? ……あ、えっと、なに? よっしぃつぐくん」

 

 ……なのはちゃん、頑張って、頑張って僕の本名を言おうとしているのはわかるんだけど、そんなに覚えづらいかい、僕の名前……それとも単純に言いなれてたから咄嗟に出るのがヨッシーなだけ?

 出来れば、後者だと嬉しいんだけど……まぁ、まぁとりあえずそれはさておき。

 

「本当は虎次郎くんや佐々木さんにも一緒に言っておきたかったんだけど、朝のあの様子じゃ虎次郎くんと佐々木さんはアリサちゃんやすずかちゃんに引っ張りだこだろうから、先になのはちゃんに言っておきます」

「うん、なにかな?」

 

 あぁ、事前にユーノくんから聴いてるからか、すっごいふんわりとした良い笑顔浮かべてくれるじゃないですかなのはちゃん。

 

「今までこの街を、僕達を守ってくれてありがとう。これからも無理しないで頑張ってね?」

「うん、わかったの。ありがとう、義嗣くん」

 

 ……よかった。この場面で言い間違えるほど空気読めない子じゃなかったね、なのはちゃん。その優しい笑顔が可愛らしいよ。

 そしてそんな僕となのはちゃんを交互に見ながら、ニヤニヤしているはやてちゃん。くっそぅ君のその悪戯っぽい顔も可愛いよはやてちゃん。

 

「えぇ奴やなヨッシー。流石は男版の私こと虎次郎くんの親友。ほんなら私からもお礼言わせてや、なのはちゃん。ありがとうな? なんも知らんとほのぼの過ごしてる私らのこと、守ってくれて」

「こっちこそありがとう、はやてちゃん」

 

 悪戯っぽい笑みで僕に笑って声をかけておきながら、なのはちゃんに向き直った時のいきなりな優しい笑顔、これは、コレは僕の胸にどストライクだよ! 愛しとるよはやてちゃん! 世界一可愛いよはやてちゃん!

 ちなみに原作キャラは全員同率世界一位の可愛さです。そして僕の愛が一番向いているのはアインです。次点でお父さん、虎次郎くん。刹那とユーノくんはその二人の下です。

 アリサちゃんとかすずかちゃんとかなのはちゃんとかはやてちゃんは、さらにその二人の下です。あれ、僕の愛アイン以外全員男の人に向かってね? ……まぁいいや。

 

 あれ、なんの話しだっけ。とりあえずなのはちゃんとはやてちゃん可愛い。

 

「ん~? なんやヨッシー私らの顔ジロジロ見て……はは~ん、さてはあんまりにも可愛いから惚れよったな~? ヨッシーはおませさんやね~」

「うん、二人が可愛いのは全力で肯定するよ。大好きだよ。友達的意味で」

「にゃ、にゃはは……」

「お、おう……そうなんやな。……ちょっとビックリしたで。なんかもっとこう、ツッコミくるかと思ってたんやけど」

 

 なのはちゃんとはやてちゃんがちょっと顔を赤くしたけど、褒められ慣れてないのかなぁ、二人とも。

 いや、でも僕の知る限りでは悠馬と虎次郎くんは結構べた褒めしてた気が……あ~、悠馬はむしろ逆効果だったか。じゃあ虎次郎くんにしか言われてなかったようなもんだもんな。

 あれ、でも刹那も言っていたような……いや、あいつは見た目女の子だし、女友達に言われたような感覚なのかもしれん。すずかちゃん以外刹那に脈ありげな原作メンバーいないし。

 

「あ、よっしぃつぎゅんも可愛いよ!」

 

 なのはちゃん、今間違えかけた上に噛んだね? あと男の子は可愛いって言われても嬉しくないよ。

 

「せやなぁ。ちっちゃいしなぁ」

「ちっちゃいのは余計だよぅ。僕だって男の子なんだから格好良いのほうが良いよぅ」

 

 畜生、二人して僕をちびっこ扱いしおって! 成人する頃にはきっとお前らの身長なんか抜いてるんだからな!

 

『義嗣は、まだマシな方だと思うよ……』

 

 あ~、ごめん。そういえばユーノくんは男の子とすら見られてないもんね……完全にペットのフェレットだもんね……まぁ知ってる僕ですらフェレット形態しか見てないから扱いがどうしても動物に対するそれに近くなってるのは否定できないし。

 

「……って、そうだ。ユーノくん人間形態とかってなれないの?」

「え? ユーノくん人間になれるの?」

「そうなんか?」

 

 ふと思いついて声をあげた僕に、なのはちゃんとはやてちゃんが喰いつく。

 考えてみたら、ここにいるメンバーは魔法のこと既にバレてる人しかいないんだし、ユーノくん人間形態でも問題ないんじゃない? 戻るときには戻らないとだろうけど。

 

『う~ん……できなくはないんだけど、まだちょっと元の姿に戻っても維持できるか分からない状態でね。魔力が完全に回復したら、皆にも姿を見せるよ』

「そっか。残念だよ。いや、フェレット姿でもふもふさせてくれるのも嬉しいんだけど、せっかくだし同じ男の友達としてわいわいやりたいなぁと思ったんだけど」

『義嗣……』

 

 うん、だってさぁ、僕以外の男全員ヒロイン枠いて、持ってかれちゃうんだもん。その点ユーノくんなら、なのはちゃんとのフラグがあるとはいえそこまでベタベタしないから友人として雑談に興じるのも楽しそうだし、何より魔法のこととか色々訊いたりしてみたいし。

 

 ……さすがに術式とか魔法の使い方までは教えてくれないだろうけど、まぁそこは元々戦闘に関わろうとも思ってない僕には関係ない話だからどうでも良い。

 まぁ、本音を言うとちょっとだけ覚えるだけ覚えてみたい気はするんだけどね。僕も男の子だしやっぱり魔法って憧れる。

 

 あ、防御魔法くらいなら教えてもらえないかな。刹那の流れ弾ならぬ流れ剣を防ぐために。

 っと、流れ剣といえば、刹那が家に泊まりにくるなら丁度良いからお向かいのおばあさんの家をいい加減に治してもらおう。ご家族の方が改めてやってきたときに必要な物とかは持って行ったみたいだけど、家があんな状態のままじゃ資産価値落ちまくりで管理も大変だろうし。

 それと、流れ弾が僕に飛んできてるよって文句言っておこう。今後は注意してもらわないとね。

 

 まぁ、それはともかくとして、術式教えてもらえるか早速訊いてみる。

 

「そういえば僕もはやてちゃんも魔力あるなら、防御魔法だけで良いから教えてもらったり出来ないかな。何かあった時に便利そうだし」

「あ~、確かにせやなぁ。攻撃魔法とかはいらんけど、そういうんやったらまさかの時には使えそうや。どうなんや? ユーノくん」

「そうだね、二人だって巻き込まれるかもしれないんだし。ユーノくん、どう?」

『ん……いや、ごめんねはやて、義嗣、いくら防御魔法とはいっても、魔法文化の存在しない世界で勝手に魔法を広めること自体が法律で禁じられてるんだ。その世界の文化を損なう可能性が高いってことで』

「なるほど……ん? でもそれなら、無断で魔法をなのはちゃんに教えたのも結構な問題になるんじゃないの? 大丈夫?」

「え? 問題になの?」

「え、でも事件解決のためなんやし大丈夫なんちゃう?」

 

 いや、確かに事件解決のためではあるけどさ、特例として認められるかどうか微妙なところなんじゃないの? コレって。

 だって管理局はジュエルシード回収をあとまわしにすることを決定しているからこそ現状があるわけで、である以上、ユーノくんは完全に管理局には無断で地球にやってきているわけで、そこで更に魔法教えるとか完全にアウトなんじゃない?

 

『あぁ、それに関しては多分、大丈夫だと……思う。

 なのはにデバイスを渡して魔法を教えたのは、緊急避難の原則に則って危険度の高いロストロギアが大規模な災害を起こさない内に封印するための必要な現地協力員魔道師として手伝ってもらってる形だからギリギリ問題にはならないとは思う。

 ……でも、本来は相手に魔力資質があろうが魔法の存在を知らない世界の人間に頼っている時点で法にスレスレなことなのは確かなんだよね』

「ユーノくん、無断で地球に来てるんだし、まずいんじゃないの……?」

『いや、無断ではないよ。一応、許可そのものは取ってあるんだ。発掘したのが僕だったから、そのことを前面に押し出して民間からの捜索協力としてね。……ただ、管理外世界だから許可を得るために族長にはかなり苦労をかけちゃったけど……』

「あ、そうなんだ」

 

 まぁ、そりゃそうか。流石に無断で降りたら犯罪者だもんね。勘違いしてたよ。  

 

『なんにしても、管理局の対応が遅れているからこそ許されるとは思うけど、もし管理局が既に地球に来ていて捜査を始めている段階でなのはを巻き込む形で魔法を教えていたら、僕も犯罪者の仲間入りとなる可能性もあったかもしれない。

 だから魔力があるとはいえ、ジュエルシード探索や封印に参加しない君達にそれを教えるのはまずいんだ。下手をしたら君達は管理局に協力するか、解放しても問題ないと判断されるまで監視下に置かれる可能性もある。

 でも君達はそういったことに巻き込まれたくはないだろう? だから、悪いんだけど今回は諦めてくれるかな?』

「「「ほえ~……」」」

 

 なのはちゃんとはやてちゃんが、いきなり法に関する話になってポカンとした顔をしていた。何気に僕もちょっと似たような声をあげているのを許して欲しい。

 いや、だってそこまで大げさなことだとは思わなかったよ。防御魔法だよ? 別に人を殺せるような魔法って訳じゃないんだし、大丈夫だと思うよ、そりゃ。なんでダメなのさ。

 

 ……あ~、いや、違うな。技術ってのは完成したものがひとつあれば、人間ってそこから新しい物をどんどん開発できる種族だから、結局は軍事転用だってありえるわけか。

 他にも防御魔法だけとは教えられた人間が、何かの拍子に他人に教えてしまって、その人が魔法をもし使える人間だったら善意で他の人にも教えたりしてしまうかもしれない。「ここだけの話」がどんどん広まるパターンだ。

 

 で、防御魔法を使える人間が犯罪に走ったとしよう。銀行強盗とかが防御魔法で警察の銃弾を全部無効化して悠々と逃げ去る。

 自殺願望者が死ぬ前に良い思いをしたいと思って女の子を襲い、自分と女の子の周りに防御魔法張って外界から接触できないようにしてお楽しみ。

 鬼ごっこをする小学生が、タッチされる瞬間に「バリアー! バリアーしてるから無効ですー!」をリアルに防御魔法で実行する。

 

 ……パッと思いつくだけでこんな犯罪が思い浮かぶほどだ。なんて恐ろしい。二つ目は僕が元男だからこそ思いつく発想だな。今も男だけど。実際に目の前でそんなことやる奴いたら多分何がなんでも殺す。

 三つ目は、うん、ごめん。なんか思いついただけ。でもコレずるいよね。

 

 で、本題に戻るとして、防御魔法から術式を解析して新たな術式を製作することだって時間をかければ多分やれると思う。

 実際昔に魔法を考え付いた人だって試行錯誤の末に作り出したのを歴史をかけて改造した結果が今のユーノくん達が使う魔法な訳で、その完成形がひとつあるだけで技術開発は容易なはずだ。

 現代の合金とかの金属を過去に持って行ってプレゼントしてくるだけで歴史がガラリと変わる可能性が高い、そういうこと。

 

 しかも魔法ってのはただ術式がわかって、魔力と集中力さえあれば発動できるわけでしょ? 技術革新が早まるとかってレベルじゃない。

 一人教える人が出てくれば、後はネズミ算式に覚える人は増えるだろうから、オーバーテクノロジー以外の何物でもない完成品がいきなり溢れかえってしまうわけだよね。

 後はそれの術式をいじり始める人が出てくれば、魔法の暴走による事故も起きるだろうし、完成した魔法が威力や範囲を考えない攻撃魔法になってしまう可能性だってある。

 

 で、まぁそうして開発されていくことで結局攻撃魔法は生まれてくることになるだろう。で、そうなった時に管理局からすれば「魔法技術の無い筈の管理外世界でなんかいきなり僕達の魔法パクったのが広まっててヤバイことになってんだけど、理由シラネ? え? 前に遺跡発掘員だった奴が現地人に教えた? なにそれ、ちょっとそいつ屋上に連れてこいや。久々に頭にキチまったぜ……ッ」ってことになるわけだね。

 

 

「まぁ、確かに完成形の物がひとつあれば、他の魔法を作り出すのも時間の問題だろうし、開発なんてしないって約束してもなんかの拍子にポロっと誰かに教えたらそこから広まって行っちゃうだろうからね。ごめんユーノくん。無理言ったね」

『いや、分かってくれて何よりだよ。義嗣は話の内容をすぐに理解してくれるから助かるね』

 

 ごめんね、口では簡潔に言ってるけど、割と頭の中ではごちゃごちゃ考えてました。多分原稿用紙一枚か二枚分くらい。

 

「あ~……絶対他の人に教えたりせぇへんのやけど、ダメなん?」

「はやてちゃん、将来酒飲んで酔っ払ったりする機会があった時に、仲良しの友達に絶対に一言も、欠片も自慢したりしない自信ある?」

「……ごめん。それはちょっと保証できへんわ」

 

 駄々をこねるはやてちゃんにちょっと訊いてみたら、あっさり退いてくれたのでホッとする。

 そうだよね、子供の内に大人になってからお酒飲んで口滑らせないか、なんて分からないもんね。

 ここで「絶対いわへんて。私口堅いんやで?」とか言い出さないだけはやてちゃんは自分を分かってると思う。

 いや、なんかイメージなんだけどはやてちゃんって酒飲んだらガンガン言っちゃいけない秘密とか洩らしそうな気がする。子狸とか呼ばれることになるくらいだし計算高い感じはするけど、どっか抜けてそう。

 

 まぁ、なんにしても分かりもしない未来を絶対だと簡単に確約するような浅はかな子でなくてよかったよ。

 

 どっちにしろ、はやてちゃんは僕と違って誕生日には魔法を手に入れる訳だけど。

 はやてちゃんの家にあるのは闇の書。対して僕の家にあるのはロリの書。誰ウマだね。でも僕今ちょっと上手いこと言ったと思ったよ。ドヤ顔してるよ。心の中でね!

 

「なんや? ヨッシー急にニヤニヤしだして」

 

 顔に出てた!! いけないよ! いきなりドヤ顔する小学生、痛すぎるよ! 今の会話の流れのどこにドヤ顔する要素あったのって思われちゃうよ!

 

『……あれ? なのは?』

「にゃっ? あ、ユーノくん? なに?」

『急に黙ったままだったから。どうしたの?』

「いや、えっとね……? ……魔法の無い世界ってユーノくん言ってたけど、虎次郎くんも刹那くんも悠馬くんも魔法使ってるし、毎回ジュエルシード奪いに来る人たちとかも魔法使ってるけど、アレは……?」

「『あ』」

「ん? なんや、地球にも魔法あるんか?」

 

 そういえば、そうだよね。割とあっさり忘れてたけど、チート転生者共のせいで日本は魔法天国となってましたね。

 多分、魔術とか巫術とか妖術とか気とかそういうパターンの転生者もいるだろうから、魔法文化どころか異文化のメッカと化してますね、日本。

 なんだろうね、この国って異文化交流に全く抵抗無いイメージあったけど、まさか魔法とかそっち系まで混ざって交流しちゃってるとか、この世界の日本すげぇな。

 

 あ、日本以外にももしかしているのかな、転生者。さすがにそういう人はよほど財産あったりしない限り原作に関われないだろうけど。

 

『あれは……そういえば、そうだね。この世界って魔法文化が無いけど自治出来てるって事で管理局には管理外世界として登録されてたんだけど……もしかして情報が間違ってたのかな……いや、でも正式な情報を閲覧した上で僕は来た訳だし……』

 

 あ~……なんかごめんねユーノくん。僕はともかく一部の転生者連中がろくに世界観考えないで色々能力持ち込んじゃって……。

 

 そんな感じに、暫くはそんな感じで魔法に関して盛り上がり、「この世界にも魔法あるんなら教えてくれたってもえぇやんユーノく~ん」と甘えてくるはやてに、『いや、でも規則だし』とわたわたするユーノくんの姿はお互いとてもかわいらいしゅうございました。ちなみになのはちゃんはそのやりとりを笑ってみてた。

 結局、最後までユーノくんは魔法ひとつも教えてくれなかったけど、それでいいと思うよ、僕は。はやてちゃんもユーノくんの言ってることを理解した上で困らせようとというか、からかう感じで教えてくれって言ってただけで、本気で教えてくれないことに文句言ってた訳では無さそうだったし。

 

 しかし、何気になのはちゃんとはやてちゃんの二人とアインが全く絡まない話題でまともに話したのって相当珍しいかもしんない。

 

 そんなことを思いながら、僕がお昼が近いことを二人に伝えたことで旅館へと戻ることになった。

 

 え、アインとリーンちゃんの様子? アインははやてちゃんの膝の上ですやすや寝てたし、リーンちゃんは終始介助犬らしく指示が無かったから黙々と僕達の話しを聴いてたよ。尻尾はぱたぱたしてたから何故か楽しんでたっぽいんだけどね。

 もふもふしたいけど、知り合いのわんことはいえ外で主人に付き添う介助犬にもふもふするのはルール違反だと自分を律しているのでやんなかったよ。したかったけど。すっごいしたかったけど……ッ!!

 

 まぁ、そのうちレナードさんの背中にまた乗せてもらうからいいもんね!!

 やっぱり僕はこれくらい阿呆みたいにテンション上げていないとやっぱり僕らしくないよね!


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