転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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12.晴れた悩みと警告

 ハローハローおはようこんにちこんばんは。今日も元気に佐藤くんです。

 

 夕食は大変おいしゅうございました。

 その時を少し振り返って一言で言いますと、夕食のお膳はお刺身とアワビのステーキと鮎の焼き魚と冷奴と湯葉まきと舞茸とアスパラガスとフルーツトマトと山菜と猪鍋と茶碗蒸しと味噌汁、デザートにいちごのムースケーキと抹茶白玉でした。

 ……うん、分かる。色々とツッコミを入れたい気持ちは分かる。

 

 特産品どれだよ!

 

 って言いたいんだよね? 分かる。僕も思った。そもそも刺身出してるのになんで鮎の焼き魚あるの、とか僕も思った。魚二品は違うんじゃないかと。猪鍋という肉料理もあるというのに、何か違うんじゃないかと。

 

 いや、実際にこうしてあったんだから、もしかしたら意外にこういう料理出すとこ普通にあるのかもしれないけどさ、実際、海鳴市って海に面していながらも山も森も川もあるという土地だから、まぁそれらの特産品が全部混ざってるのも別におかしくはない、ないんだけどさ。

 

 子供が食べるには流石に量が多いよ!!

 

 いや、ガチで。品数が多すぎて、一品一品の量はそこまででも無いのにボリューム満点になっちゃってる。どう考えても子供が食べきれる量じゃない。

 一応子供用の膳だからか、猪鍋は不用意に触って火傷しないように漆塗りのでっかいおわんみたいなのに入ってて「火をかけたまま出す料理を子供に出したら危ない」って配慮は伝わるんだけど、全体的になんでこんな多いんだよ!

 と思って僕(及び虎次郎、刹那)の宿泊費及び食費を払ってくれることになったので料理の注文も出してくれていたはずの張本人のはずなのに、僕同様に膳の前で暫し停止していたアリサ・バニングス女史(8)に突撃取材したところ、

 

「だ、だって虎次郎の奴がせっかくの旅館の料理なんだし色々食べてみたいとか言ってたから……」

 

 と、供述なされました。

 

 つまるところこの無駄に量の多い食事は虎次郎の注文なのでした。

 本人いないけどね!! 結局夕食にも間に合わなかったよ!! 無駄になっちゃってるにも程があるね!! 見てよ僕の隣のお膳と、すずかちゃんの向こうに見える人のいないお膳! そして子供陣営で広がる沈鬱な空気!!

 

 分かるかな、わかんないよね、これだけの情報じゃその時の状況はわからないよね。じゃあ分かりやすく説明すると、僕、空き席、アリサちゃん、はやてちゃん、なのはちゃん、すずかちゃん、空き席、という順番なのね、僕達子供グループの並び順。

 

 まぁ、分かるよね? アリサちゃんと僕の間に虎次郎、すずかちゃんの隣に刹那という予定だったみたいだよ。

 お陰で、僕隣に人がいないせいで話し相手いないからね。だってわざわざ席に名前書いた紙置いてあったから、席詰めて座ろうなんて思えなかったし……。

 

 あ~う~……アリサちゃんをはやてちゃんが励まし、すずかちゃんをなのはちゃんが励まし、という状況で、大人組はそんな僕達を見て微笑ましそうにしているけど、僕のぼっちっぷりに気付いて、せめてファリンさんあたりをこっちに寄越して、すずかちゃんをファリンさんが、アリサちゃんをなのはちゃんが、はやてちゃんが僕を慰めてくれないもんだろうか。

 なんていうか、お膳の料理は美味しいんだけど、切ない。色々切ない。会話のノリ的に虎次郎とかなり近いはやてちゃんとなら会話盛り上がれると思うんだけど、黙々と明らかにお腹に入りきらない料理を食べている僕の悲しみを誰かわかってと言いたかった。無理してでもデザートは食べたけど。美味しそうだったし。男の子だって甘い物は別腹です。

 

 ちなみに大人組はファリンさん、ノエルさん、忍さん、恭也さん、士郎さん、桃子さんの順番で僕達の正面に座っていた。

 

 尚、ノエルさんというのはいつもメイド(大)さんと僕が心の中で呼んでた人である。

 一度自己紹介された覚えがあるのに忘れたままだったため本人に確認取るのも失礼な気がして聴き出せなかったのだが、今日やっと忍さんが呼んでいるのを聴いて名前を覚えた。

 

 まぁ、とりあえずそんな感じでなんとも微妙な夕食を終わり、すずかちゃんと共にアインと遊びながら時間をすごす。なのはちゃんとアリサちゃんはユーノくんで遊び、はやてちゃんはリーンちゃんともふもふコミュニケーションをとって目を輝かせていた。

 一応、ひとつの部屋で皆近くに寄って遊んでいる状態なので、全員自分の遊び相手(どうぶつ)と遊びながら他のグループとも喋っているというなんとも不思議な光景である。

 

 その時に聴いたのだが、なのはちゃん達は風呂上りにアルフと接触していたらしい。

 そういえばそうだったなぁ。狼さん見たかったなぁとか思ってたら、その時のことを思い出したのかアリサちゃんがマンガみたいな動きをして怒って、その動きを見てはやてちゃんが爆笑し、アリサちゃんが顔を真っ赤にして喧嘩していた。

 

 ちなみにその時リーンははやてちゃんとアリサちゃんの間に立ってはやてを守るように行動したためにアリサちゃんに「う、裏切りものぉ!」って若干悲しまれていた。でも今日からご主人はそっちってリーンに言ったのは君だという事を忘れてはいけないよアリサちゃん。

 その行動によってリーンちゃんは更にはやてちゃんからの寵愛をゲットしたようでもふんもふん(もふもふの上位種)されてた。

 

 あと、アルフの話が出た後になのはちゃんとユーノくんが念話で少し話し始めたのが聴こえてたんだが、はやてちゃんがたまに二人の念話が聴こえてたみたいでちらちらそっちを見ていたのが印象深い。まぁ、なのはちゃんは口で他の人と喋りながら同時にユーノくんと念話で話したりしていたから混乱したのかもしれない。僕もちょっと驚いた。

 

 そして、その後は就寝である。はしゃぎ疲れたのか、はやてちゃんは一番最初にダウン。次にアリサちゃん、すずかちゃんとぐっすり寝入った。

 で、アリサちゃんにグーでがっちり握られながら寝られてしまったユーノくんがげっそりしてたので、こっそりアリサちゃんの指を解いて助けてあげたら小声でお礼を言われた。そしてアリサちゃんにはいきなり腕をつかまれて「こじろぉぉ」とか甘い声を出されてしまった。

 ごめんなさい、僕は虎次郎じゃないです。

 

 で、僕も眠くなってきたので瞼がゆっくりと落ちていくのを感じながら、一緒の布団に入って寝ているアインの頭を起こさないように撫でつつ、眠りについた。

 ……どうでも良いけど、僕夕食の前に売店でトランプ買ってきてたんだよね。

 でもなんか皆思い思いに動物と遊び始めたし、虎次郎がいないせいで完全にガールズな雰囲気がぷんぷんでトランプゲームやろうとか言い出す勇気はでなかった。840円もするちょっと高い奴だっただけに、寝る時になんだかちょっと泣きそうだったのは僕だけの秘密だ。

 

 

 そして夜中。なんか頭に響く声のせいでうっすらと眼が覚めた。

 

『――また今夜にも、なにかあるかもしれないからね』

『そうだね……頑張ろうね、なのは』

『うん……。……ふふ、ユーノくん、少し変わったね』

 

 そして見えたのは、ユーノくんを抱き上げながらキリリとした表情のなのはちゃんの顔だった。

 ……あ~、原作アニメで夜中に二人で話ししてたやつか。アレって何話してたんだっけ……?

 

『ふふ……僕もそう思うよ』

『やっぱり、虎次郎くん?』

『ん……そう、だね。彼の説教は身に沁みたし……それに、彼からも』

『彼?』

『彼、義嗣だよ』

 

 おぉ、ユーノくん、君さっそく僕の名前をなのはちゃんに教えてくれているのか!!

 

『よしつぐ? って誰?』

 

 ……OK。大丈夫、僕のハートはまだ壊れちゃいない。予想はしてたからな。なのはちゃんが僕のこと全くシラネってユーノくんに言ったという情報は事前に仕入れていたからね……ッ!

 

『ほら、そこで寝てる彼だよ。ヨッシーはあだ名で、義嗣が本名だってさ』

『……えぇ!? そうだったの!?』

『なのは……僕、この世界のこの国で使われる一般的な名前を最近はわかってきたつもりだけど、少なくともその知識の中ではそれが本名だというのがまずありえないということくらいは理解できてるよ。だというのになんでソレを本名だと考えたのか、僕には君の思考がよくわからないよ……』

 

 うん、そうだそうだ、言ってやってくれユーノくん。

 

『だって虎次郎くんがヨッシーヨッシー言うからそうだと思ってたよ』

『あぁ……まぁそれに関しては虎次郎に問題があるといえばあるよね……彼あだ名つけたら拒否してもそれで呼び続けるもんね……たまに忘れて普通に呼んでるみたいだけど。義嗣のことだけは頑なにヨッシーだし……』

 

 おのれ虎次郎! やはり全ての元凶はお前か!

 なのはちゃん、虎次郎のいう事を全面的に信じるのはやめたほうがいいかもしれんよ?

 

『……で、なんでよっし……よしつぐ? くんの名前が出てきたの?』

『お風呂で、怒られちゃってね』

『怒られた?』

『ん~……“正義の味方には後悔や謝罪より、感謝の気持ちと言葉を送りなさい”って感じのことかな』

 

 え、ごめん。そんな単純明快で簡潔かつ実に分かりやすい良い言葉言った覚え無いんだけど。僕まわりくどいこと言ってた気がするんだけど。

 ……なるほど、そうやって他人のまわりくどい言葉もしっかり必要な意味だけ捉えてより単純な言葉に直せるあたり君も名言とか言い出しちゃう原作キャラの一員なんだね。

 

『えっと……?』

『あぁ……なのはには前言ったよね? あのフェイトって子と、悠馬が敵対してきた時のこと』

『あ、うん。よっし……つぐくんが隠れてたって話でしょ?』

 

 あ、そこ包み隠さず伝えてたんだ。おのれユーノくん裏切り者め。さきほどアリサちゃんの魔の手から救い出してやった恩を忘れたか。

 

 ……残念、救い出す一週間前のことだから、僕君になんの恩も与えて無かったね! じゃあ仕方ない!

 

『そう、そのことで問い詰めた時に僕がずっと迷ってたことを口に出したら、“他人の決めた覚悟を、自分の責任だの一言で勝手に決め付けるのはその人の覚悟を蔑ろにする行為で、失礼なだけだ”って感じで怒られて、その後にさっきのお言葉ってわけだよ』

 

 いや、だからそんな単純明快に格好良いこと言った覚えはないよ!? 僕めっちゃまわりくどい頭の悪い説教してたはずだよ!?

 

『ほえ~……意外だね』

『案外、そっちが彼の素なのかもしれないよ。朝のバス停で怒られた時も妙に大人びたこと言ってたしね』

 

 あ、ごめん。どっちも素です。やめて僕を過大評価しないで! フラグ建つから! 巻き込まれ介入タイプのフラグが建っちゃうから! 僕あの手の転生者と違って何も介入能力無いから! フラグ建っちゃらめなのぉぉ!! ……げふん。

 本当、マジで普段のへたれな方が僕の素です。口だけは達者だけど人様に誇れる長所や能力は無いからね?

 

『……ねぇ、じゃあもしかしてよし……つぐくんも?』

『うぅん、違ったよ。念話の受信は出来ても送信は出来ないし、デバイスとかを持っている訳でも無いみたい。それに争いごとは嫌いなんだって言ってたから、素質はあるけどただの一般の人だね』

『そっかぁ……ちょっと残念かも』

『僕としては嬉しいよ。これ以上他人を僕の事情で巻き込むのは本当に忍びないから』

『ユーノくん?』

『あ、い、いや、別にその、えっと……なのは達に関してはもう後悔もしてないし、巻き込んだだけだなんて考えてないよ。ただ、義嗣は争いごと嫌いだって言うし、そういう人は出来れば巻き込みたくないじゃないか』

『ん……それは……そうだね』

『うん。あ、それとなのは、その義嗣が、なのはや虎次郎、刹那にお礼を言いたいって言ってたよ。一般人代表として、君達に自分達を守ってくれてありがとうって伝えたいってさ』

 

 ……ユーノくん! それ、それは本人の口から言わなくちゃ意味ないのになんで言っちゃうの!! あ、でもむしろ言ってくれるならそのほうが気は楽だけど! 面と向かって言うのちょっと恥ずかしいし。

 

『……にゃはは。でもそれなら義嗣くんにはユーノくんにもお礼言ってもらわないと。なにせユーノくんがいなかったら私や虎次郎くんや刹那くんだって何も知らないまま過ごしてしまって、ただ守られる側になっていたかもしれないんだから』

 

 大丈夫。ユーノくんにはもうお風呂で言いました。

 

『ふふ、僕はもう言ってもらったからいいんだよ。それにしても、虎次郎なら僕がいなくても一人でいつの間にか気付いてこっそり守る側にまわっていそうだなって思うのは僕だけかな』

 

 あ、それは僕も思う。

 

『あ、それはなんとなくわかるか――ッ!? ユーノくん!!』

『うん、ジュエルシードだ!!』

 

 え、マジで? そういう気配みたいなの分かるの? 僕全然感じないんだけど。

 ……当たり前ですね! 僕モブだもの!!

 

 って、うわ、なのはちゃんが服脱ぎだした!? 紳士な僕は見ませんよ!?

 

 

 

 

 好奇心、猫をも殺すという言葉を知っているだろうか。

 好奇心、恐ろしい魔物である。人間の持つ知識欲が発するこのちょっとおしゃまでキュートでセンチメンタリズムな心は、猫を被ってやってきて、誘いに乗って気付いた時には僕達人間に害を為すのだ。

 好奇心マジ鬼畜。

 

「おいモブ」

「はい、なんでしょうか天ヶ崎くん」

「トラ野郎と女装野郎はどうした。なんであいつらがいないでてめぇがここにいる?」

 

 うん、そういうわけで、ちょっとね、アインがいきなり起きたかと思ったら、尻尾をピンと張って優雅になのはちゃんを追って飛び出しちゃったもんだから、それを追いかけてたら、そりゃあもう偶然、戦闘会場に居合わせてしまったのだ。

 アインの突飛過ぎる行動に僕も追いかけるか躊躇はしたけどさ、まぁなんというか野次馬根性というものもありまして(だって狼さん見たいし)、そしたら狼さんモードのアルフの姿が見えて内心で「かっこいい! 流石は狼! かっこいい! マジイケメン! あ、女性だからマジ美女!」と快哉をあげてた訳である。

 まぁなんていうか、もう本当完全に野次馬としか言いようがないけれども、わかって欲しい。一度は見たいじゃない。ちゃんとした魔法の戦闘。

 

 そんなことを僕が考えているのとは関係なく場面は進み、一人と一匹で来たなのはちゃん達を見て、悠馬が顔を顰めた。

 

「いつもの二人はどうした」

「二人とも今日はいないよ。でも、私だって負けない」

『なのは、駄目だ、ここは一旦撤退しよう。この二人を相手は無理だ』

 

 悠馬の問いに毅然とした表情で告げたなのはちゃんに、弱気だけど実に正しい状況判断なユーノくんの念話が響くが、悠馬は嘲笑するかのように鼻で笑う。

 

「ふん、俺はなのはも愛してるからな。愛する人間に手をあげる訳にはいかない。フェイト、俺は周辺の警戒にあたる。お前がやれ」

「……元から貴方には期待してない。アルフ、見張ってて」

『任せな、フェイト。そっちもしくじるんじゃないよ?』

「当たり前。そこのが背中から斬りかかってきたりしなければ、ね」

「ちっ、信用ねぇな……おい淫獣。てめぇも手を出すなよ。出したら次の瞬間にはミンチにしてやる」

 

 そんなやりとりの後、アルフが悠馬の見張りとして行動することになったため、むしろユーノくんがサポートにつくなのは有利かと思ったら、ちゃっかり悠馬が釘を刺してなのはちゃん対フェイトちゃんの一騎討ちが、原作アニメで一話分遅れた状態でスタート。

 

 そして、悠馬の索敵用サーチャーとやらであっさり発見されて今に至る訳である。

 

「佐々木さんは風邪だそうです。虎次郎くんはお見舞いにいきました。僕は完全に野次馬です」

 

 そういうわけで、王の財宝<ゲートオブバビロン>を僕の周囲に展開されて四方八方から剣や槍に狙われているという状況に戦々恐々としながら僕は正直に答えた。

 

「あ゛? 野次馬だぁ?」

『悠馬、殺っとくかい?』

 

 殺るの字がなんとなくわかっちゃった自分が嫌!! そしてごめんなさい、ちょっと正直に言い過ぎました!

 

「なのはちゃんが心配で後をつけてきました! アインが」

「にゃ!?」

「あ、ごめん、嘘です自分の意志です。完璧な野次馬根性です」

 

 ちょっぴり自己弁護(責任転嫁ともいう)をしたら僕の懐の中のアイン(先に到着して観戦しようとしてたので、抱き上げて浴衣の中に入れてた)に若干マジギレっぽい声出されたので謝っておく。

 ごめんね、ちょっと保身に走っちゃってごめんね。帰ったらオヤツあげるから今僕から逃げないでね? まだギリギリ腰は抜けてないけど、目と鼻の先に先端の尖った物が無数に浮いているのは恐怖以外の何物でもないから。今なら尖った物が怖いというトラウマ持ちの人の気持ちが分かる。注射とかの比じゃないものコレ。

 

「……まだ待て。こいつを殺すとトラ野郎が本気で殺しにくる。いや、こいつで無くてもだろうが」

『トラ野郎って……あぁ、本気のフェイト相手に余裕かまして遊んでたっていうメガネの糸目男かい? ……それはちょっと、マズイね。隠蔽したら? アンタでも勝てるかわかんないんだろ?』

「殺人の隠蔽は無理だな。アイツにその手の悪事はすぐバレる。むしろ仕返しが残忍になるだけだ。戦闘もタイマンで本気の殺し合いなら勝率は三割がいいところだと思うし正直戦いたくはねぇな。アルフの援護があっても大して変わらん。フェイトと三人がかりで五分いければ良い方か。……あいつは規格外だからな」

『……難儀だねぇ』

「全くだ」

 

 なんか、あれ、アルフさん悠馬の監視じゃなかったの? なんでそんな和気藹々としてるの? もしかしてアルフと悠馬ってもうフラグたってるの? そして虎次郎ってそこまで強いの? いや、化物じみた反射神経と身体能力は認めるけど、今僕にやってるみたいに四方八方を剣とか槍で囲んだら勝てるんじゃない?

 っていうか、お前アルフに対して会話する時だけなんか普通の人っぽいんだけど。お前外見厨二病のくせに完全に“ちょっと苦労人のイケメン悪役ポジ”みたいな空気かもし出してるんだけど。お前かませ犬じゃなかったの? この前もディバインバスターくらってオチ担当してたし。

 

「おいモブ、てめぇなんか失礼なこと考えてねぇか?」

「か、考えてないですハイ」

 

 ちょ、ちょっと剣群の包囲が狭まってきたんですけど!? 無理無理! 「いぐざくとりぃ、その通りでございます」と言いたかったけど、これ絶対にボケた瞬間ガチで殺られる!!

 

 うぅ……黙って静かにしてれば殺しはしないっぽい会話の流れだし、コレはおとなしくしてよう。虎次郎へる~ぷ。

 

『しかし……じゃあどうするんだい? コレ』

「記憶消去が出来れば一番良いんだが……出来るか?」

『無理無理。やれないことは無いかもしれないけど、私の制御力じゃ下手したら廃人が出来上がるよ。その言い方だとアンタもできないのかい?』

「俺は戦闘特化だからな……」

『……本当、難儀だねぇ……』

 

 なんか、なんか新しい! この組み合わせ新しいよ! これはこれで楽しいよ! ほんの数百メートル先の上空でなのフェイバトルが起きているというのに覗けないのがネックだけど、新手の組み合わせは見ていて新鮮だよ!

 

「……おい、なんでてめぇはそんなに眼を輝かせてるんだ?」

「あ、ごめん。なんか微笑ましくぎゃぁぁ!? 刺さった! 今背中にチクってした!!」

「次舐めたこと言ったらてめぇのタマ潰すぞ」

 

 やめて!? それは本気でやめて!? 僕そんなことされたら性転換手術しなきゃいけないから! 今の年齢でやったら初潮が永遠に来ないだけの割と完全な女の子になれちゃうから! 最近折れかけてた虎次郎のヒロインフラグが建っちゃうから本当にやめて! 僕はアイツの親友フラグだけでいいから! あと最初に僕を舐めたのは君だから! 誰ウマだね!

 

 あ、っていうか、潰されたら普通に死ぬか。多分すぐ潰れた時点ですぐ病院運ばないと余裕でショック死だわ。

 女の子に分かりやすく例えるならば、重い生理中の子がムエタイキックさんが何故かしかけてきたヤクザキックを下腹部に喰らうのと同程度、いや、潰れるんだからもっと酷いかな? まぁどっちも経験無いからわかんないけど、多分想像を絶する痛みだわ。

 

『魔法のこと口止めだけは必要だろうけど、なんかどう見ても大した能力無さそうだし、デバイス持ってるかだけ確認したら放置してもいいんじゃないかい? この子』

 

 おぉ、ここでアルフの助け舟だよ! その通りだよアルフ! 見逃してくれると嬉しいよ! 僕観戦だけさせてくれればいいから! いや、もう観戦しなくてもその見事な毛並みをもふらせてくれるだけでいいから!

 

「……こいつみたいな外見で空間指定で何もないところに核爆発起こすスキルを持った奴に会ったことがある。油断はできねぇよ」

 

 なにそれ!? 怖いなそのスキル! よくお前無事だったな!? その性格と外見からして真っ先に攻撃されてそうなのに!

 

『核爆発?』

「一言で言うと、街一つ消し飛ばして、数十年、下手したら数百年単位で不毛の大地を作り上げた上で、生き残った人間にも大量の不治の後遺症を与える傍迷惑な爆発だ」

『……なんだい、その滅茶苦茶なスキルは』

 

 ほら、アルフも呆れてるよ……。

 

「俺も原子力工学とか熱量学とか周辺の環境とか色んな方面に喧嘩売ってるのかコイツは、と思った覚えはあるな。まぁ爆発が起きる前に刹那……女装野郎が術者ごと時間を何度も巻き戻したからどうにか抑えこめたが。本人曰く核弾頭並の爆破範囲があると嘯いていたし、あの時ほど結界魔法が欲しいと思ったことはない」

 

 ……本気で危ないよソレ!? 核弾頭って10ktくらいだよね核出力!! 海鳴市下手したら今頃大規模放射能汚染と電子パルス攻撃に晒されてたじゃん! 巻き込まれたら数百単位で人が死ぬし、市の機能完全ダウンだし、大量に出来上がる瓦礫の除去とかにすごい時間と金と人手と周辺地域との交渉が必要だし、死ななくても被爆による免疫低下とか体調不良の人が増えて海鳴市の平均寿命とか出生率とかとんでもなく低くなるよ! 本気で洒落にならないよソレ!?

 

『核弾頭とかいうのの範囲は知らないけどさ、それ本人被爆しない程度の距離に撃てる能力だったのかい?』

「いや、自分諸共だ。自殺志願者だったよ。胸糞わりぃことに巻き込まれる方のことも考えやしねぇ。つっても殺してやるのも癪だから、女装野郎が赤ん坊まで時間巻き戻させてスキル使えなくしてから施設に投げたけど、これからどうなるかはしらねぇ。ステルスのサーチャーは常に監視につけてるからもしまたやろうとしたら次は殺す」

 

 ……え~……ごめん。君がそういう台詞を吐くとは思わなかったよ悠馬。お前も自分が絡んでいってる女の子達のこと考えやしねぇの状態だよ?

 いや、まぁガチでそんな能力の奴から街救ってくれてたという裏話は非常にありがたくて、僕もお礼を言いたくなったんだけどね、その明らかなチート能力って転生者だよね? どんだけこの街チート能力転生者いるの?

 

『しかしそんな戦闘、全然観測できなかったけど……いつだい?』

「二年前だからそれも仕方ないだろうな」

 

 ……原作開始前から働いてたんだね君たち!! なんか本気でごめんね! 僕なにもしてあげられなくて!? ちょっと泣きそうだよ! 僕野次馬根性で観戦したいとか思ってる場合じゃなかったよ! まず全力でオリ主組に謝罪と感謝の言葉を捧げるべきだよ!! 感謝のプレゼントはあんまりお金無いからぬいぐるみとかファミレスとかジャンクフードの店で奢るくらいしか出来ないけど!!

 

「なんか、ごめんね?」

「……なんでお前が謝る」

「いや……なんか何も知らないで野次馬根性で観戦したいなぁとか思っちゃってッ!?」

 

 おうふ!? なんぞ背中またチクチクされた!!

 

「それは俺も本気でイラッと来てたが、まぁ謝罪は受けといてやる」

 

 あ、やっぱりそうだよね?! ごめんね!? 銃弾飛び交う戦場に遠足気分でやってきて、「やぁやぁご機嫌いかがですか~? 何人くらい殺しました~?」って塹壕で戦う人たちに声かけるくらい無神経だったね!! よくよく考えたら僕の立ち位置って、ちゃんと戦ってる人たちからしたらガチでウザいね!! 今後は控えます!!

 

「なぁ覚えておけよ? 現実はヒーローごっこじゃねぇんだ」

 

 とか考えてちょっと反省してたら、どっかで聞いた名言だね、とボケじみた内心のツッコミを入れたくなる言葉で遮られ、次の瞬間には目の前にあった剣群が消えて、いきなり胸倉を掴まれて持ち上げられたことで事態についていけずに思考が止まった。

 

「お前がどっち側か俺には判断つかねぇけど、生半可な気持ちで、遊び半分で介入してくるつもりなら」

 

 殺すぞ。

 

 間違いなく、本気で、殺すつもりの目で、真正面から、鼻と鼻がくっつきそうな距離で、まさに憤怒の表情といった恐い顔で、そう告げられた。

 視界の端には、剣の一つが僕の首筋に添えられている。

 

 怖い。殺気とか分からないとか思ってたけど、多分、今僕が悠馬から感じてる漏らしそうなほどの威圧感が殺気ってやつなんだと思う。身体の震えが止まらない。怖い。恐い。怖い。

 生物的本能とでもいうか、目の前の存在が自分なんかでは絶対にかなわない相手で、それがほんの少しその気になったら、自分の命が一瞬にして消し飛ぶという事実が、これ以上なく怖い。

 

 死にたく、ない。

 

 ボロボロと涙がこぼれる。鼻水がひどいことになってきた。身体の震えも止まらない。それでも、それでも僕はコレだけは言わなくちゃいけない。

 

「ごべんね……あど……あびばどう……」

 

 通じたかどうかは分からないけれど、一応、悠馬は僕を降ろしてくれた。尤も、優しくなんかじゃなくて、30~40センチ足が地面から離れた状態から、まるでゴミでも放り投げるかのような無造作にだったけれど。

 

「……礼を言われる意味がわかんねぇよモブ野郎。アルフ、行くぞ」

『……いいのかい? レアスキルやデバイスの有無の確認くらいは……』

「このガキにそんな度胸はねぇし、デバイスも持ってねぇよ。いいから行くぞ。フェイトが寸止めで済ましてやろうとした攻撃をあの淫獣が弾きやがった。おかげで体勢整えきれてないフェイトが押し込まれ始めてるのが見えねぇのか? 協定違反だ。あの淫獣すり潰す」

『あぁ、それはこのちんまいのの相手なんかよりも大事だね。行こう』

 

 僕から完全に興味を失ったようで、悠馬とアルフは踵を返してフェイトの加勢へと飛んでいく。

 

 ようやく視界に入ってきた、見たかった筈のなのはちゃんとフェイトちゃんの戦闘シーンは涙のせいで歪んでろくに見えなくて、なのはちゃんが悠馬の鎖で縛られて空から落下し始めるのを見たところで僕は眼を瞑って子供みたいに嗚咽を繰り返した。

 

 僕に抱かれたままのアインが漏らしたみたいで少し生暖かくて気持ち悪かったけど、そんなこともうどうでも良くて、僕同様に震えて泣きながらしっぽをお腹につけているアインを抱きしめて、結局僕はその日、日が昇り始めるまでその場で泣き続けていた。


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