転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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11.温泉と少年の悩み

 わんわんパラダイスが……僕のわんわんパラダイスが……もっともふもふしたかったよレナードさん……。

 

「にゃ~」

 

 え? 何、アイン。私がいるでしょ、って? いや、そうだけどさ……うん、ごめんね心配かけて。

 

 ……さて、気を取り直すとするか。

 しかし本当、なんでわんわんパラダイス体験コーナーがあんなにも時間短いのか。

 にゃんにゃんパラダイスを見習って欲しい。昼から夕方までにゃんにゃんできたんだから。もしかして原作に無い話だしさっさと物語展開させろやという世界の意志でも働いてるのだろうか?

 あれですか、尺の問題? もしかして「巻きでお願いします」の状態? まぁ流石に確かに物語ずっと進まないのもアレだもんね。

 特に主役の虎次郎くんがいないわけですしね!

 

 さてそんなわけで、アリサちゃんには「虎次郎くん連れて来るからまた遊びにきていい?」って訊いたらOK出たから、わんわんパラダイスはまたそのうちだ。

 ちなみにアリサちゃんは「べ、別にアイツいなくたって良いわよ? っていうか、なんでアイツの名前がで、出てく、くくくるのかしら?」とか超動揺してた。ツンデレさんは反応が分かりやすくてなによりです。

 レナードも別れの際に「ふっ、また来いよ坊主」みたいな視線を向けて一声挨拶くれたし、楽しみにしておこう。でもレナード、僕の方が年上だからね、と一応は言っておいたけど鼻で笑われた。

 

 さて、で、問題があった。

 

 皆で和気藹々と(僕もアインの話しで参加できた。にゃんこパワーは世界を救う)しながら温泉旅館についたのは良い。恭也さんが忍さんとべたべたしてたのも良い。家族公認みたいだし。

 あ、そうそう、アインの話といえば、シャボン玉の歌に合わせて手と尻尾で踊って唄えるアイドルになったことを自慢すると、すずかちゃんに怒られた。なんでもにゃんこが尻尾をうねうね動かすのは機嫌が悪いかららしい。

 つまり、アインは嫌々やっていたのだ――ッ!!

 この真実を知った時の僕ったらなかったね。アインに「ごめんね! もう無理やり変な芸を仕込んだりしないからね!」ってもふもふしながら謝ったら「にゃ? にゃ~……」と言って許してくれた。うん、あれは許してくれたんだと思う。尻尾動いてなかったし。

 

 でも芸そのものはちょっと見たいという皆さんのリクエストに応えて、試しにシャボン玉飛んだって唄い始めたらアインは合わせてにゃ~にゃ~と唄い始め、さらには車内で僕の膝の上に座りながらお手手を振り振りしてくれたじゃないか!!

 尻尾も動いてないという奇跡! そして眼が輝いていくかしまし四人娘と、負けじと何故かわふわふ唄い始めたリーンちゃん!

 一曲歌い終わるとそこにはもう感動の拍手の嵐! アインとリーンちゃんは四人娘に誘拐されてもふもふされていた!

 ふふふ、我が愛娘は最高だろう?

 ……でもアインとられちゃうと僕一人で寂しいから早めに返してね?

 

 とかいうことがあったよ。

 あれ? なんの話だっけ? ……あぁそうそう、旅館についてからの話しだったっけ。最近どうも意識が変な方向に飛ぶな。危ない人になってきてるね僕、やれやれだ。

 

 えっと、まぁ問題というのを一言で言うと、僕今一人ぼっちなのである。

 アインはいるけどそういうことじゃなくて、男が僕だけなの。あ、ユーノくんがいるけどユーノくんはなのはちゃんの傍から離れないし、アリサちゃんやはやてちゃんに捕まってもふもふされてたし。羨ましい。勿論ユーノくんがじゃなくてアリサちゃんとはやてちゃんが。

 

 でね、そう、もう分かったよね。ここで大きな問題があるの。

 

 いわずと知れたお風呂だよ。そもそも温泉旅館に来たんだからお風呂イベントは欠かせないよね。貴重なお色気シーンだし。深夜帯で視聴率狙うなら絶対必要だもんね。少なくとも今の僕はあんまり興味ないけど。

 でね、問題はね、僕がお風呂に誘われたことなの。

 

 もうわかった人がいるかもしれないけど、女湯にね。

 

 ……無理だよ!! 僕そんな度胸無いよ! 僕ちびっこいから男として見てないのは分かるけどね!? 男女三歳にして同衾せずみたいな感じの諺あるでしょ!? お風呂なんて論外だよ!!

 

 ここで、ここで我らがオリ主こと虎次郎がいたならば、彼ならば喜び勇んで特攻したことだろう。そして追い返されたことだろう。刹那の場合は普通に受け入れられそうなのが怖いけど。

 

 でもね、でもね、僕はモブ。誰もが認めるモブ。お友達になったとはいえ僕の立ち位置はあくまでモブ。そんな嬉し恥ずかしお色気イベントに巻き込まれた何が起きるかわからない。特に悠馬あたりにバレたら殺されかねない。

 

 そして、そんな度胸はない!!

 

 ここ大事だから何回でも言うからね? 僕にそんな甲斐性は無いからね? ナリはこれだし精通も来てないけど、精神的には大人の男の人だからね?

 いや、確かに、確かに魅力的なお誘いではあるし、男湯に行って殆ど面識の無い友達のお父さん(翠屋で何回か顔は会わせてるけど)やお兄さんと一緒にお風呂入るというのもちょっと抵抗はあるけども。

 

 だから僕は勿論逃げました。ユーノくんをお土産に強奪(でもかすめとるのは無理なので、女の子と入るのも恥ずかしいけど一人で風呂入るのも寂しいのでとお願い)して。

 なにせユーノくんも僕と同年代の男の子。そんな子に女湯、それも美女と美少女だけでスタイル良い人だけが全裸で身体洗いっこしたりしている場所に連れ込ませるなんて毒にしかなりません! ユーノくんがエロガッパになったらどうするんですか!

 いや、原作でエロガッパになってないから大丈夫だろうけど。でもユーなののカップリングの可能性を高めるとしたら、ユーノくんをただのフェレットと認識させないことが重要だよね。後々のユーノくんとなのはちゃんのお友達から進展無しの状態とかが多いみたいで転生主人公に寝取られてたりするし(二次創作でだけど)。

 

 まぁそれは建前で、本当に男一人でお風呂入るのが寂しかったのと、かつて大人の男性だった一人としてはユーノくん一人がそんな美味しい思いするなんて許せないからなんだけどね! このくらいの干渉は僕にも許されても良い筈だよね!

 

 

 

 

 そういう訳で現在の僕はお風呂なう。外に露天風呂があったのでそっちに入っています。だって恭也さんとか士郎さんと同じ風呂場とかガチガチに緊張するもん。

 緑川ボイス聴きながら一緒にお風呂入るとかその気が無くてもBLフラグが建つよ!!

 僕の頭の中で「ヨシ……お前はリンと生きるんだ……早く、いけぇぇ!!」みたいな台詞が流れるもん。そりゃあ惚れちゃうよね。ちなみに地味に台詞うろ覚えだけどそんな感じだったよね。

 え? リンって誰だよって? 知らないなら良いよ。僕の妄言だよ。

 

 で、ユーノくんとアインを、アリサちゃんが持ってきていた犬猫用石鹸シャンプーをユーノくん拉致ついでに頂いてきた(ちゃんと頼んで借りてきたよ?)のでそれを使って目や鼻、口にそれらが入らないように丁寧に洗ってあげたあと、手桶二つにぬるま湯を汲んできて二人(二匹)にはそこにゆっくり入ってもらっている。

 アインは熱かったり寒かったりしたら自分で逃げ出す子だし、ユーノくんも中身が人だから温泉に入りたかったら自分から来るだろう。

 

 いや~、目の前でフェレットとにゃんこが手桶に入ってのんびりしてるのを眺めながら入る温泉は格別ですなぁ……月見酒ならぬ猫見酒とか良いと思わない? アニマルテラピー効果できっと良い感じに酔えるよ。悪酔いなんてしないと思う。

 まぁ今の僕未成年どころか年齢一桁だし、そもそも前世でもあんまり酒飲まない人だったからやろうと思わないけど。

 

 あ~……極楽極楽……。

 

『ねぇ、ヨッシーくんだっけ?』

「う~ん? なに~? ぼくはよしつぐだよ~?」

『……やっぱり聴こえるんだね? 念話。少しでも魔力が無いと聴こえないように出力は絞ったんだけど』

「うん~? うん!?」

 

 えぇ!? なにさ!? びっくりしたじゃないか!? ユーノくん人が油断してる時に声かけてくるとかズルいよ!?

 

「いや、えっと、あれ~? なんだろう。今僕、何か声が聴こえた気がしたんだけど、気のせいかなぁ~?」

「今更感がバリバリだよ義嗣? くん」

「がっでむ!」

 

 くっそ、バレた! なんてこっただよ! ずっけぇよユーノくん!

 

 ……あ、いや、でもよく思い出したらこの前初フェイト戦で隠れて覗いてるとこ見られたし、そもそもあの時に声かけられてたわ。それを見逃してくれたのもユーノくんだったわ。ユーノくんマジ優しい。

 

「えっと……で、義嗣くん?」

「どうも、本来の名前を殆どの人が忘れている、切ないぼっち少年こと義嗣くんです」

「それは……確かになのはもヨッシーってしか知らないみたいだし確かに……なんというか、強く生きてね」

「うん、ありがとう。頑張る」

 

 ちょっと優しい言葉をかけてくれるユーノくんのやさしさに泣きそうです。そしてなのはちゃんが僕の名前を正しく覚えていないという確定情報をありがとうございます。

 

「で、えっと……なんで今話しかけてきたの?」

「いや、君と二人っきりになるなんてそう無い状況だしね。とりあえず、まずはアリサ達から助け出してくれてありがとう。僕もこんな格好とはいえ女湯に入れられたりしたら色々と思うところがあるからね……」

「あぁ……うん……なんだろう、君とは同属の香りがぷんぷんするよ」

 

 そういえばユーノくんもショタ属性持ちだったからね。ついでにフェレットの姿だから男としてどころか人間として見られていないという僕以上の悲惨さ。

 

「うん……何故だかその言葉を否定したいと思った僕がいるよ。なんかごめん」

「そこで……そこで謝っちゃうんだ……!?」

 

 ぺこりと頭を下げるユーノくんの姿は実に愛くるしい。愛くるしいけど、同属からも一緒にすんなと言われるとは思わなかったぜ僕も……ッ!!

 

「ご、ごめん……あ、で、その……え~っと、君もやっぱり、虎次郎や刹那たちみたいに何かレアスキルやデバイス持ちなのかい?」

「え、ごめん。僕にそんな能力欠片も無いです。そもそもレアスキルとかデバイスって何? あの虎次郎が出したにゃんこときつねさんの召喚魔法みたいなのってそれ? 僕も使えるようになるんならあの魔法使ってみたいんだけど。剣とか槍とかはいらない」

 

 剣とか槍は眺めたり素振りしたりするだけならなんか格好良くて良いけど、人間相手に真剣を使いたいとは思わないしね。そもそも僕は暴力反対。でも格闘技とかでやるのなら否定はしません。だって男の子だもの!

 

「あ~……そうなんだ……参ったね……魔力資質はあるみたいだし、彼らの友達みたいだからてっきり……そっか、完全に一般人の子だったんだ……」

 

 ごめんなさい。本当は知ってるし厳密に言うと僕もモブとはいえ転生者なので一般人ではないですが、スペック的には一般人なのは否定しません。

 っていうか、やっぱり僕にも魔力資質あるんだ。ちょっと嬉しいといえば嬉しいけど、リンカーコアがあるの確定したってことはA's編に入ったら襲われる可能性高いってことだよね……。

 

「え~っと……ごめん。よくわかんないんだけど、結局僕はにゃんことか呼ぶ魔法使えるの?」

「にゃ~?」

「あ、もちろんにゃんこの中ではアインが一番可愛いけどね? クイーンオブザにゃんこの称号はアインのためにあるようなものだから」

「へぇ、そんな称号があるの?」

「うん、僕が作った」

「あ……そ、そうなんだ」

 

 この称号は永遠にアインの物として不動の存在となるでせう。

 

「で? 使えるの?」

「いや……あれはそもそも僕も術式が分からないからなんとも……あんなの見たことないし……召喚魔法にしてもあんな生物達は聞いたこともないから僕にはちょっと分かりかねるね」

「そっかぁ。残念」

 

 まぁ、そうだよね。僕だってあんな魔法がこの世界にあるとは思えないし、大方虎次郎のオリジナル魔法だろう。

 

「え~っと……それでね、義嗣くん。君は……その、魔法のことを」

「あ、誰にも言ったりしないから安心していいよ。言ったところで荒唐無稽過ぎて誰も信じないだろうし、そもそも僕も物騒なこと嫌いだからね。え~っと、そういうわけなので記憶を消すとかそういった方向は無しでお願いね?」

「そこまでする気は元から無いよ、ありがとう。いや、でも少しホッとしたよ。僕先週からずっと君のこと気になっててね。

 なのはに訊いても君のことは殆ど知らないって言うから虎次郎なら、と思って訊いても“知らんなぁ、気のせいちゃうか?”で済ませるし、刹那だけは“魔法関係者じゃないかと思ってるけど、証拠として提示できるだけの確証はまだ無いからなんともいえないね”の一点張り、だったからね」

「そっかぁ……」

 

 ねぇユーノくん? 君今、あっさり僕のこと信じて自分の陣営の情報ボロボロ僕に洩らしてるけどいいの……?

 刹那が僕のこと疑ってるって情報、本人の僕がもう知ってるとはいえ、これ完全に君自分から自分の所属するチームに不利益な情報与えてるからね?

 あとなのはちゃんが殆ど知らないって言ってたのは当たり前ではあるんだけど、本当にお友達になったんだよね? 僕達、って思わず訊きたくなるよ?

 

「でも本当に良かったよ。正直僕もこれ以上人を巻き込みたくないって思ってたからね。なのはだって虎次郎や刹那がいなかったらきっと一人で無理をして、今頃倒れていたかもしれない。

 いや、最初の時もそうだし、その次の時も、必ずと言っていいほどジュエルシードを狙って現れた人たちは皆明らかに手練の魔道師だったし、特にこの前のフェイトと呼ばれていた子と、いつも虎次郎達には威嚇だけして、介入者にだけ攻撃していた悠馬が突然彼女についた時は別格だった。

 虎次郎の戦闘能力が高すぎて目立たなかったけど、戦闘能力は刹那との戦いを見た限りではどう見てもなのはより上だったし、悠馬だってデバイスを持っていなかったとはいえあの刹那を一方的に攻撃してたんだ。

 なのは一人じゃ絶対に勝てなかった。彼らの助けがなかったら、とっくになのはは大怪我していた。僕のせいで……」

 

 あれ、ユーノくんがなんか訥々(とつとつ)と語りだしたんだけど、なんなの? 僕別に聴かせてとか頼んだ覚え無いんだけど。

 いや、まぁ野次馬根性はありますので聴きますけどね! 何より原作の進行状況とか、改変され具合とか気になるしね。魔法とかの戦闘だって、巻き込まれない程度にだったら眺めたいと思う程度には興味あるし。折角ファンタジーな世界なんだもの。

 

 ……っていうか、初回のジュエルシード時から既に敵対してる勢力いたんだね……やっぱ転生者だよねそいつら。そして悠馬、最初からなのはちゃん側についてなかったんだね。フェイト出るまでは敵でも無かったみたいだけど……じゃあなんで虎次郎と刹那相手に喧嘩なんか起きたんだ……?

 

「戦力は確かに欲しい。でも、現地の何も知らない人間に頼むなんて、緊急時だったからこそなのはにはお願いしたけど、もっと早く虎次郎達に出会っていたらきっとなのはにジュエルシードの封印を手伝うことを頼む必要なんてなかった。

 いや、違う。そもそも僕がちゃんと戦えていれば……いや、もっと言うならジュエルシードの輸送をもっと厳重な警備と警戒のもとに行うよう管理局に要請してれば、護衛の艦を管理局に派遣してくれたかもしれないのに……それなのに僕のせいで何度もなのはは危ない目にあって、僕がもっとしっかりしていれば街の被害だって始めから出ることなんて無かったし、全部僕が悪いのに、なのに……!」

 

「えっと……あんまり思いつめるのはよくないよ? それに虎次郎や佐々木さんやなのはちゃんだって、嫌だったら初めからユーノくんの手助けなんてしてなかった筈だし。その……自分の意志で決めた人の行動なら、それはユーノくんが責任を感じるべき問題じゃないんじゃないかな?」

 

 なにやら感情が昂ぶってきたのか自虐が強くなってきたので、声に詰まったところを見計らって話に割り込む。

 

 なんていうか、ユーノくんって責任感がちょっと強すぎるよね。

 なのはちゃんもそうだけど、「いや、それは君達のせいじゃないでしょう」ってツッコミ入れたくなるくらいジュエルシードで起きた被害に責任感じて心痛めるような子達だし、あ、いやでもなのはちゃんはオリ主達に過去介入受けてるんだよね?

 となるとどこまで原作と同じくらいの良い子でいようとしすぎる子って特性が残ってるかわかんないけど、でも悪い方向に変わってるとは思えないし、やっぱり責任感じてるのかな。そうは見えないけど。

 

 参ったね、こういうのはオリ主組の仕事だよ? 全く……虎次郎や刹那はちゃんとユーノくんの悩みに気付いて相談に乗ってあげなくちゃいけないよね。

 

「……君も、そう言うんだね」

 

 少し、寂しげな声になってポツリと呟くユーノくんに、僕は地雷踏んだかしら、と不安になったけど、ユーノくんは小さく息を吐くだけで怒ってきたりはしない。

 

「虎次郎も、刹那も、なのはも……皆同じことを言うんだ。僕が巻き込んでしまったのに、僕のせいで苦労してるのに」

「ユーノくん。苦労ってのは、本人が苦しいと思ってなければそれは苦労じゃないよ。労働って言うんだ。

 働いて手柄を立てるって意味で労働。働いている以上はそこに苦しさもあるかもしれないけど、それ以上に得ている物があると思ってるなら、それを他人がどうこういうのは逆に失礼だよ。

 ユーノくんはなのはちゃん達が頑張ってるのを、嫌々やってるだけだから迷惑だって言いたいの?」

「そ、そんなことはないよ!」

「でしょ? だったらユーノくんのことが好きで、君のために働いてくれてる人に感じるべき事は、言うべき事は、後悔とか謝罪とかじゃなくて、感謝の気持ちと言葉じゃないかな」

 

 僕だったら、そういう言葉を聴かせて欲しいと思うよ?

 

 そう言ってから、自分で言ったことがちょっと偉そうだったな、と思って恥ずかしくなり、僕はそっぽを向いて頬を掻いた。

 う~ん、周りの人間の苦労を知ってて、ただ見てるだけの自分が言っていい言葉じゃなかった気がするよぅ。

 

「……ふふ、ごめ……ううん、ありがとう。少しだけ、少しだけ気が楽になったよ。それに、虎次郎が君のことを一番の親友だって言う理由が少し分かったかな」

「あ、虎次郎そんなこと言ってくれてるんだ? それは嬉しいなぁ」

 

 僕もあいつが一番の親友だと思ってるからね。まぁ僕の交友関係が一桁台という恐るべき数字を叩き出している以上、当たり前といえば当たり前かもしれないけどね。

 嬉しいねぇ、とほっこり笑っていた僕に、ユーノがちょっと悪戯っぽく(声の感じからしてそんな気がする)笑って言う。

 

「うん。類は友を呼ぶって奴だね」

「え~? それって変人的な意味で?」

「あはは、確かにそういう意味でもあるかもね?」

「なんだよぅ、僕そんな変じゃないぞ。ちっこいだけで」

「そういうことじゃないよ。ふふ、あはははは」

「えぇい、笑うない! 説明しろってんだ!」

 

 てい、と手桶風呂でケラケラ笑いながらかわいらしく身体をくねらせるユーノくんの首根っこを引っつかんで温泉に入れてやると、「うわ、ちょ、いきなり何さって熱い!?」と騒ぎ始めたユーノくんに僕はケラケラ笑い返してやる。

 

「全く、酷いことするなぁ……」

「とか言いながらも、もうこの温度になれて人の髪の毛に捕まりながらぷかぷか浮かんでるのはどこの誰ですか?」

「僕だね」

「全く、どっちが酷いことしてるのさ。捕まるのはいいけど引っ張らないでよ?」

「流石にそんな悪戯はしないよ」

 

 お互いに笑いながら言い合う。

 あ~、なんだか久々に虎次郎以外の男友達と喋ってるって感じするわ。刹那は中身女の子だからか、話しやすいっちゃ話しやすいけどやっぱりなんか違うしね。

 

「……ありがとう、義嗣。流石になのはや虎次郎達本人に何度も言う訳にもいかない愚痴だったから、さ」

「少しは気が楽になったって?」

「うん。さっきも言ったけどね。三人して、自分が好きでやってることだから構わない、それ以上言ったら怒るって言って聴いてくれてなかったから……。

 でも、義嗣まで三人と同じこと言って、その上虎次郎と似たような説教してくるんだもん。なんだかおかしくなっちゃってね。自分が悩んでいたのなんて意味無かったんだなぁって……もう吹っ切れた。だから、ありがとう」

「ん、そっか……まぁ、うん……えぇっと……なんだ? こちらこそ、ありがとう」

「あはは、なんで君がお礼言うのさ?」

「だってさ、ユーノくんは自分が原因だって言うかもしれないけど、そのジュエルシードっていうのを巡ってこの街で戦いが起きてて、あの街に大木が出てきた時みたいな規模の災害が起きてしまうような危ない物をどうにかしようと、ユーノ達は頑張ってくれてるんだろ?」

「……うん。そう、だね。そういった災害を容易に引き起こしてしまう危険性を秘めたロストロギア……ジュエルシードを回収するのが僕達が今やっていることだよ」

「ならさ、それってユーノくん達がどう思って回収してるのかは知らないけど、僕達一般人を結果的には守ってくれてる訳なんだよ?

 誰に褒められるでもないのに人を救って、感謝もお礼も受け取るどころか救ったことすら知られないまま戦っている報われないヒーローのことを知ったらさ、やっぱり感謝の言葉は必要だって思っちゃうじゃん?」

 

 実際、あまりにも寂しいよね。それじゃまるで正義の味方を目指して一人寂しく裏切られて死んでいった、とある世界の赤い弓兵みたいじゃない。

 管理局で働き始めれば、直接ではないにしろお礼や応援の声が届くんだろうけどさ、今のなのはちゃん達は良い事をしているのに誰にも言えない、誰にも感謝されないまま自分の生活を犠牲に無償奉仕している状態なんだよ?

 

 僕にはきっと、そんなご立派なことできない。

 

 だから、こんなモブが言うのもなんだけど、でもモブだからこそ、一般人の代表として感謝の言葉を送りたい。

 

「……なら、それは直接なのはや虎次郎、刹那に言って欲しいかな。きっと、喜ぶよ」

「ん……。そう……だね」

 

 まぁ、感謝の言葉を直接送るくらい……別に良いよね?

 だって僕達、友達な訳だし、気兼ねする必要なんて、無いよね? ちょっと面と向かって言うのは恥ずかしいけど、さ。

 

「にゃ~」

 

 少ししんみりした空気になったところで、アインが手桶風呂からぴょん、と出てきた。

 

「あ、アイン。もうお風呂良いの? それともお風呂ぬるくなりすぎた?」

「にゃ」

「あはは、もう良いって言ってるみたいだね」

「んじゃ、あがりますか~。でも一回僕とユーノくんはシャワー浴びて温泉の匂い流しちゃうからすぐには戻れないぞアイン?」

「にゃ~」

「うむ。わかったならよろしい。んじゃユーノくん、出よっか」

「猫の言葉わかるのかい?」

「いや、適当。そう言ってたらいいなぁってだけ」

「あぁ、なるほど」

 

 そうして、三人仲良く(二人と一匹とか一人と二匹が正解かもしれないけど、良いじゃないそういう細かいこと、今は)屋内の浴場に戻ってユーノくんと僕は一度身体を改めて流し、ついでに戻ってくる時にちょっと寒くなったのかぴったりと僕にくっついてきたアインも手桶を使ってぬるま湯で少しだけかけ流ししてあげてから、まだ入っている士郎さんと恭也さんに一声かけて男湯を後にした。

 

『あ、義嗣。分かってると思うけど、僕が喋れることはなのはと虎次郎と刹那以外には内緒だからね?』

 

 と、着てきた服の代わりに浴衣を着て男湯の暖簾をくぐって出たところでユーノくんが念話で話しかけてきたので応じることにする。

 まぁ確かにユーノくんが喋ってるところを万が一見られる(聴かれる)訳にもいかないもんね。

 問題点があるとすれば、僕が念話の仕方も知らないしデバイスとかの術式やら代わりにやってくれるような便利アイテムも無いので受信限定だから、僕だけは独り言のように声を出さなくてはいけない点である。別に周囲に人いないし構いやしないけど。

 

「勿論わかってるよ。……あ、そうだ。じゃあ交換条件としてなのはちゃんに僕の名前はヨッシーじゃなくて義嗣だって説明しておいてくれる? 最近諦めかけてきてたけど、ユーノくんにちゃんと呼ばれてたらやっぱりちゃんと呼ばれたいなって思ったから」

『そっか。分かったよ。確かにいつまでも愛称しか覚えてもらってないのも可哀想だもんね』

「よろしくね?」

『勿論』

 

 そんな風に、肩に乗ったユーノくんと二人でくすくす笑いつつ、風呂入る前に見つけた牛乳の自販機でフルーツ牛乳でも購入しようかと考えたところで、抱っこしていた風呂上りの愛娘アインがぐねぐね身体を動かし始めたのでそちらに目をやる。

 

「にゃ~?」

「おうおう、アイン、なんだい? お腹へったかね? 一回部屋に戻ってキャットフード少し食べる?」

「にゃー!」

 

 ん、これは否定だな? ちょっと言い方が荒くて強い。

 

「なるほど、そんなこと言っておらへんがな、それより散歩したいから降ろせ、と? ごめんごめん」

「にゃ!」

 

 お、正解? じゃあ降ろしますよ、と。

 

 ……あ、本当にテコテコ歩き出した。

 

『……本当に言ってること分からないんだよね?』

「うん。適当だよ? ……その、筈だよ?」

 

 最近、アインと僕って割と本気で意思疎通できてるんじゃないかという疑問が浮かんできてるけど。でも不機嫌のサイン気付いてないときもあったしなぁ……どうなんだろ。

 

「まぁ、とりあえずは愛しの愛娘を追いかけますかね」

『じゃあ、僕は一度なのはのところに戻るよ。今日はありがとね』

「いえいえこちらこそ。あ、お礼の言葉あげるのは虎次郎と刹那もいる時でいいかな」

『うん、勿論だよ。ありがとう』

「うん、じゃあまた夕食の時にでも、またね」

 

 あ~、夕食なにが出るのかな~。旅館の料理だしちょっと楽しみ。……まぁまだ三時過ぎだからかなり時間あるけどね。夕食は確か六時半って言ってたからまだ三時間近くあるんで気が早い話だけど。

 

 ……っていうか、虎次郎も刹那も来ないなぁ……。刹那の風邪よっぽど悪いのかな……せめて虎次郎だけでも来れれば良いんだけど、あいつ刹那相手にハーレム能力でも発動して看病イベントでも起こしてるんじゃあるまいな。

 原作物語的に夜までには来てくれないと君ら原作介入できなくなるから、悠馬に好き勝手されることになるよ……?


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