転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】   作:マのつくお兄さん

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10.猫観察日記と犬天国

 遂に、この日が来た。土曜日である!! わんわんパラダイスの日である!!

 

 え、月曜から金曜の描写はどうしたって? あぁはいはい、ダイジェストでお知らせしますよ?

 

 月曜日、虎次郎くんが悠馬にコブラツイストをかける。

 罪名「ろくな理由も無く人を蹴っ飛ばした罪」。

 この前イケメン同級生にローキックしていたのを前にこっそり虎次郎くんに告げ口しておいたのである。で、月曜日に双方から確認を取った後に断罪した訳である。悠馬もあっさり認めていた。

 

 で、わざわざ月曜日に断罪したのは被害者の前でやることで、被害者にもスカッとしてもらうためだそうな。あと珍しく刹那とすずかちゃんが話しかけてきたので、アインの話題で少し話す。

 ……邪推だけど、刹那が来たからすずかちゃんも来たんじゃないかなぁと思ってる。アインの話を嬉しそうに聴きながらも、ちらちらと刹那に視線をやってたし。

 その後にアリサちゃんがやってきて土曜日のわんわんパラダイス集合が朝の9時頃からに変更のお知らせを受けた。なんと午後からは皆で温泉にお泊り会ということになったのである。旅館への送迎はバニングス家のリムジン。

 

 やっぱりあの時点で忘れてただけなのか、と思いつつ、「いきなり言われても宿泊旅行するほどのお金をいきなりは出せ無いよ?」と言うと、その辺はバニングス家の方で出してくれるとのこと。虎次郎くんや刹那も「金が無いから旅館への宿泊参加はちょっとキツい」と言っていたので親に頼んだらしい。

 元々予定が大幅に変更になったのは自分が言い出したことであって、前からしてた約束を忘れて提案した自分の責任でもあるし、虎次郎くんと刹那の分を出すならもう一人分、それも子供の分の宿泊費なんて大した差ではないから別に構わないとか。流石は金持ちである。

 

 なんでもわんわんパラダイス招待を約束した時点では温泉旅行を忘れていたようなのだが、約束した土曜日には家族旅行の予定があったことを月村家高町家共に家の人に言われて思い出したらしい。アリサちゃんの方は自力で思い出したので二人に電話して日曜日に三人娘で集合し、連休の予定をどう弄ってわんわんパラダイスご招待をねじ込むかを相談していたとのこと。

 

 ちなみにファリンさんは話し合いの場に居たのになんで思い出さなかったのか、とメイド(大)さんに怒られたとか。やっぱりファリンさんのドジっこ属性持ちは宿命だったらしい。

 しかし部外者の僕がすぐに思い出して、当事者達は言われるまで思い出さなかったというのも不思議な話である。

 そして一番大事なのが、アインは餌で釣らなくてもお手をすることが判明したこと。超賢い。三回ほど右左と繰り返してから首をかしげて「にゃ~?」とか言うもんだから、かつおぶしあげて、ねこじゃらしで遊んだった。

 

 火曜日、刹那が風邪でお休み。また喧嘩という名の戦闘でもしたのかとそれとなく刹那が休んだ理由を虎次郎くんに訊いてみたが、「電話してみたんやけど、本当にただの風邪やそうやで」と苦笑していた。

 あと、朝にはかしまし三人娘にまたもや悠馬がアタックしていたが、微妙な顔(アリサちゃんは睨んでいた)をする三人の空気を読んだ虎次郎くんに絡まれて引き摺られていった。その後は悠馬は他の女子とイチャイチャ。

 

 虎次郎くんは休み時間によって色んなグループ(かしまし三人娘含む)と話を弾ませていた。あいつのカリスマすげぇ。

 あと一番の事件は、アインが朝の新聞をくわえてひきずりながら持ってきた。賢いってレベルじゃない。この子は僕の子。オヤツとしてかつお節をサービスしてあげた。でもそろそろ新しいオヤツを買わなければと水曜日の帰りに買ってくることにする。

 

 水曜日、刹那は出席したものの顔色が悪く、二時間目が終わると保健室へと行ったまま教室には戻らなかった。お昼に見舞いに行ったが「ちょっと吐き気と寒気が酷くてね」とベッドに入ったままで言っていたので、安静にするよう言伝してその日はそのまま別れる。あ、そういえば朝アリサちゃんから挨拶された。珍しい。お友達発言は本気だったようだ。ちょっと嬉しい。

 

 そしてスーパーで猫のおやつ用焼きささみとやらが105円で売っているのを発見して10個ほど購入。これで今月のお小遣いは赤字となったけどへそくりがあるので大丈夫。帰ったらアインが玄関でお出迎えしてすりすりしてくれた。あまりの可愛さにさっそくおやつをあげそうになったけど我慢。

こういうのは褒めるようなことをした時にあげないと、貰えるのが当然だと思って猫が増長してしまうのだ。

 

 ……あれ? でも玄関でお出迎えは褒められる行為だよね! いや、でもさすがにそれだけで毎日オヤツあげてたら毎月のお小遣いが赤字になってしまう。なによりキャットフードも別口で買うのだからこれではすぐにへそくりも底を尽いてしまう!

 今日は、今日はあげないんだから! とあげるのを我慢しながらもふもふした。可愛かった。

 

 木曜日、刹那がまたお休みし、虎次郎くんまで休みだと先生が告げる。お陰で悠馬のストッパー役がいなくなったからかしまし三人娘に絡みまくっていた。あいつは懲りないな、と思った。

 

 え、止めなかったのかって? あ、一応悠馬には話しかけてみて気を逸らそうと試みたけど、睨まれて舌打ちされたところでアリサちゃんが「小さい子をイジメるな」と怒ったことで悠馬が退散していった。これでは助けられたのがどちらかわかりはしない。

 

 虎次郎くんの自宅に電話して休んだ理由を訊いてみると、「刹那の風邪が移ったっぽいんやけど、大したこと無いから明日にはいけるわ」と笑って返された。

 電話した時の声の様子から大丈夫なんだろうと思って安心し、アインに二足歩行の芸を伝授する。いきなり三歩ほど歩けた。この子マジ賢い。マジスペック高い。

 今度は二足立ちして、音楽に合わせて前足二本と首を動かす芸を仕込もうと思う。三十分ほどやってたらアインがうとうとしだしたので、かつお節をちょろっと食べさせてあげた後に抱っこして寝床に置いてあげた。焼きささみは明日この芸が進展したらあげようと思う。アインちゃんマジ天使。

 

 金曜日、刹那も虎次郎くんも出席。顔色もいつも通りで、アリサちゃんが虎次郎くんに「天ヶ崎がヨッシーをイジメていた」と言ったことで悠馬が逆四の字固めを喰らった。

 罪名「ワイの親友をイジメた罪」だそうだ。

 ありがたいけどアリサちゃん、虎次郎くん、僕そこまで気にしてなかったから別に良いのに……蹴られたわけでも無し。まぁアリサちゃん達が迷惑こうむったのは間違いないから罰として与えるのは良いんだけど。

 あと、刹那には体調は大丈夫なのかと訊いても「問題ないよ、むしろ今日は良いくらいだね」と朗らかに笑っていたのでわんわんパラダイスご招待は問題無いということだった。その後は虎次郎くんが如何に良い奴かという話題で話に花を咲かせた。

 

 そして帰宅後はお迎えしてくれたアインを部屋に連れ込んで、二足立ちと前足と首くいくいの芸の練習である。ちなみに曲はシャボン玉。曲に合わせて僕が唄いながらアインの背後から身体を支えてあげつつ手を掴んで、曲に合わせて交互にみょんみょん動かす。これを一回終える事に一口ぶんのかつお節をご褒美とし、三回目が終わったところで手を離してレッツトライ。

 

 するとどうでしょう! アインちゃんはニャーニャーと曲に合わせて唄いながら、お手手をふりふりどころか、尻尾まで振り振りするではないですか!!

 首はまだ仕込んでないから仕方ないけど、唄っている上に手だけじゃなくて尻尾も動かすとかこの子分かってるね! さすがは僕の愛娘だよ!

 ちょっとだけ音ずれてるけど、そこはご愛嬌だよ! 一曲見事に完走したので、僕は感極まって、でも驚かさない程度にパチパチと拍手をしてからポケットに忍ばせておいた焼きささみを取り出して手ずから与える。

 すると尻尾をゆっくりふりふりしながら上機嫌で食べ始めたのです!! もうね! もうね! この子ったら最高! 可愛すぎるよ! なにこの芸を覚える早さと従順さ! 僕、後ろから抱えながら手を持ってみょんみょんさせるのも二回目あたりで抵抗されるかと思ったのに抵抗しないし! もう、もう僕の人生いっぺんの悔い無し!

 

 ……ふぅ、いけないいけない。思い出しただけでこんなに語りが熱くなってしまった。つまりこの一週間を要約すると「アインちゃんマジ天使」である。

 あ、そういえば水曜に悠馬が階段で足踏み外しかけて手をわたわたと動かしている場面を見たよ。何事もなかったかのように取り繕ってたけど、非常に間抜けだった。どうでも良いけどね。それよりちゃんとアインの可愛さ伝わった? ねぇ、これで足りないならまだまだ語れるよ? え? そろそろ本編始めろ? やれやれせっかちだなぁ……。

 

 

 で、まぁそんな訳で土曜日は虎次郎くん、なのはちゃん、刹那、僕の三人でバス停で待ち合わせ。わんわんパラダイスへGOという話になり、今に至る。

 待ち合わせのバス停には虎次郎くんがいたが、まだなのはちゃんと刹那は来ていない。

 

「おはよ~さんやヨッシー。アインもおはようさんや」

「にゃ~」

 

 こちらを見かけると、すぐさま爽やかな笑顔で僕とアインに声をかけてくる虎次郎くん。

 あぁ、今ので分かる通り、僕の手にはアインの入ったケージがもたれている。

 原作でも温泉旅館にはユーノくんを普通に連れて行ってたし、大丈夫だとは思うけど一応確認したら、ペットOKとのことだったので同伴させたのだ。

 

 というか、もしペット同伴不可だった場合はわんわんパラダイスだけ堪能して帰るつもりであった。あぁ、アイン本当は抱っこして連れて行きたいけど、バスの中とかでそのままって訳にもいかないからケージの中。この子賢いから出してても言う事聞いてくれるんだけど、知らない人からしたらペット出したまま公共の乗り物使うなんて非常識にしか見えないもんね。

 

「おはよう、虎次郎くん。相変わらず早いね」

「おう、女の子を待たせたらあかんからな! 三十分前には来てたで!」

「デートの待ち合わせでも無いのに凄いね……」

「女の子との約束っちゅう点では変わりあらへんからな」

 

 ふふん、と得意げに胸を張る虎次郎くん。ちなみに彼の荷物はスポーツバッグひとつ。僕が丸まれば入れそうなくらいのサイズのものだ。あとは食べかけの海苔とか巻かれてない真っ白おにぎりを手に持っていた。

 

「その心意気は分かったけど、せめて朝ごはんくらいゆっくり食べてきたら良かったんじゃないの?」

「あぐ……んぐんぐ……あ~、なんちゅうか、寝坊してもうてなぁ……あんま時間なかったんよ」

「へ~、珍しいね。虎次郎くんが寝坊なんて」

「ほら、ワイ一昨日風邪で休んだやん? どうもまだ身体の調子が本調子やないみたいでな~。んぐんぐ」

 

 いや、困ったわ~、とカラカラ笑いながら、虎次郎くんがおにぎりの最後の欠片をパクリと食べる。

 

「大丈夫なの?」

「ん、おう、まぁせいぜいいつもなら出来る半回転ひねりバック宙が、普通のバック宙しかできんくなった程度の体調の不備や。問題ないで」

「普段出来たの!? 半回転ひねりバック宙を!?」

 

 なにそれ! 忍者じゃん! 完全に忍者の動きじゃん!

 

「おう、なんや? 見たいんなら体調完璧になった時に見せたるで」

「見る見る!! アレでしょ!? 背後から来た一撃を避けて、尚且つ着地した時には背後の敵を正面に捉えている、みたいな奴でしょ!? 流石だね虎次郎くん!」

 

 流石はチートオリ主! 身体能力チート具合も半端ないね!

 

「くっくっくっ、虎の一字は伊達やない、言うことやな」

 

 右手の中指でメガネをくいっと持ち上げてニヒルに言う虎次郎くん。くそぅかっこいいなコイツ。

 とかやってる内になのはちゃんが駆け足で手を振りながらこっちに向かってくるのが見えた。

 

「おはよ~、虎次郎くんく~ん、ヨッシーく~ん」

「おはよ~さんや、なのはちゃん。ユーノん」

「おはよう、なのはちゃん。ユーノくん」

 

 ふぅふぅとちょっと荒くなった呼吸を整えるなのはちゃんと、そのリュックから出てきてでなのはちゃんの肩に乗り、ペコリと頭を下げるユーノくん可愛いです。流石は原作主人公達だね! 愛らしいことこの上ないよ!

 特にユーノくん! その姿でちょこんと頭を下げられたら、もう可愛いとしか言えないよ! まぁアインには劣るけどね!

 

 ……あれ? ところでなのはちゃん、ユーノくんを入れるケージは……いや、ユーノくんならなのはちゃんが背負っている小さなリュックの中に隠れられるから問題ないか。

 

「ごめんね? もしかして待ってた? あ、アインちゃんもいるんだ。おはようアインちゃん」

「にゃ~」

「いや、わいらも今来たところや」

 

 ……この会話だけ聞くと、デートの約束してた時のカップルの会話だね。いや、別にだからどうしたって感じだけど。

 

「うん。それにまだ佐々木さんも来てないしね」

 

 会話に混ざっていいものか一瞬迷ったけど、別に甘々な空間が出来てる訳でもないので普通に混ざることにした。

 あぁ、ちなみに刹那のことは対外的には佐々木くんじゃなくて佐々木さん、と呼ぶようになったよ。ちょっと喜んでたけど、僕以外の人たちはその辺の微妙な違いに気づかないまま相変わらず“くん”呼びである。若干可哀想。アリサちゃんだけは呼び方の変化に気づいたのかちょっと僕を不思議そうな顔で見てたけども。それはさておき。

 

「あ、そうなんだ。珍しいね、刹那くんが一番後だなんて」

「確かにせやなぁ。……まぁでもそんな時もあるやろ。バスの時間まで10分ちょいあるんやし、適当に駄弁って待ってればええやろ。それよりなのはちゃん荷物えらい少ないんちゃうか?」

「あ、そうだね。お泊りに行くのにリュックだけ?」

 

 虎次郎くんの言葉に、僕もそこでようやくなのはちゃんの手荷物が少なすぎる事に気づいて少し驚いた。

 なにせ先週にゃんにゃんパラダイスに行った時と同じリュックを背負っているだけで、手荷物が何もないのだ。よくよく考えたらおかしい。

 僕ですらなのはちゃんが今背負っているバッグの三倍はあろうかという大きさのリュックを背負っている(中身は換えの下着や服、携帯ゲーム機とアインのキャットフードとオヤツの焼きささみとかつお節にねこじゃらしと毛糸玉。パジャマは旅館の浴衣でいいやと思って入れてない)というのに。

 

「お父さん達は先に旅館に行ってるから、荷物も一緒に持って行ってもらってるの」

「「あ~、なるほど(なぁ)」」

 

 それもそうだよね。いくら小学生でも女の子なんだからそれなりに荷物ある訳だしね。あまりにも荷物少ないからおかしいと思ったよ。

 そんな感じでベンチに座って三人でまったりと雑談していると、バスがやってきて目の前で止まってしまった。

 

「あれ、バスきちゃったね」

「あちゃ~……ちょい時間より早くきてもうたみたいやな……」

 

 二人が困った顔をして周囲を見るが、まだ刹那の姿は無い。すると虎次郎くんが仕方ない、とため息を吐いて立ち上がる。

 

「しゃあない。時刻表よりちょっと早く着いたんやし、運転手さんに頼んで時刻表の時間まで待ってもらおうや。幸い客は乗ってへんみたいやし」

「そうだね。えっと、なのはちゃん携帯持ってたよね? 佐々木さんの番号わかる?」

「あ、うん、わかるの。電話かけてみるね?」

「ほならワイは運転手のおっちゃんに声かけてくるわ」

 

 う~ん、虎次郎くんは本当イケメンだ。僕だったら運転手さんに気を使っちゃって待っててもらうなんて出来ないよ。普通に一本遅らせて遅刻覚悟で友達待つ程度だと思う。友達のためにそうやってパッと動けるのは素直に凄いと。こういうところはチートオリ主とか関係なく凄いよね。

 

「あ、もしもし刹那くん? そろそろ約束の時間だけど今どこに……え? 風邪? 昨日やっぱり無理してたの?」

 

 え? 刹那また風邪? ぶり返したの?

 電話中のなのはちゃんがもらした内容に驚く。昨日は結構大丈夫そうだったけれども。実は結構しんどかったのだろうか。

 

「うん……うん。うん……そっかぁ。うん、わかったの。じゃあ皆には私から伝えておくね? ゆっくり休んでね? あ、もし良くなったら電話くれればお父さんにお迎えいってくれるように頼んでおくから! うん、じゃあね?」

「佐々木さん、風邪ぶりかえしたの?」

「うん、だいぶ鼻声になってて辛そうだったよ。大丈夫かなぁ……」

「心配だね……」

 

 う~ん……昨日会った時は全然問題無さそうだったんだけどなぁ……もしかしてインフルとか? でもそれならとっくにそう先生が言ってるよな。っていうか、そもそもチートオリ主達って病気になるもんなの? 回復魔法とかあるんだろうし、刹那は時間操作使える以上は自分の時間を戻して風邪を引く前の状態に戻すとか出来ないのかな。

 

「おう、おっちゃんえぇ人で助かったわ。あと五分ちょい待ってくれるそうやで」

「あ、虎次郎くん、それが刹那くんまた風邪悪化したみたい」

「……それ、ほんまか?」

「うん。よっぽど酷いみたい」

「あ~……そうなんか……」

 

 ポリポリと頬をかいてため息を吐く虎次郎くん。

 うん、まぁ気持ちは分かるよ。ちょっと可哀想だよね。せっかくのわんわんパラダイスが……昨日もだいぶ楽しみにしてたみたいなのに。

 

「しゃあないな。すまんなのはちゃん、ヨッシー、悪いんやけどワイ今日はアリサん家パス。温泉も途中参加や。ちょいと刹那の様子見てくるわ」

 

 とか思ってたら、突然の虎次郎くんの発言である。

 

「えぇ!? でもアリサちゃん虎次郎くん来るの楽しみに……えっと、あの、私が行くよ!」

 

 なのはちゃん、それストレートにアリサちゃんが虎次郎くんのこと好きだって情報流したようなもんだよ? まぁ虎次郎くんもわかってるだろうし、僕も知ってることだから良いけど。

 

「いや、なのはちゃん刹那の家わからんやろ? それになのはちゃん、おとぎ話の基本を破ったらあかんで」

「おとぎ話の基本?」

「お姫様は王子様が連れ出すもんや。せやろ?」

 

 ニカッ、と爽やかイケメンオーラの溢れる笑顔を浮かべて虎次郎くんがくっさい台詞をのたまった。

 くそぅ、お前は悠馬と違って歳相応の外見なんだから、あんまりそういうオーラ出すなよ、かっこいいけどさ。台詞もお前が言うと全然くさくないんだけどさ。かっこいいよ虎次郎くん。

 でも刹那は男の子だよ。いや、心は女の子かもしれんけども。

 

「ほえぇ……」

 

 あ、なのはちゃんが虎次郎くんの発言に頬を染めながらお目目をパチクリしてるよ。だよね。こんな台詞、恥ずかしくて中々言えないもんね。そして小学校低学年の女の子からしたら本気で王子様に見えるよね、今のこいつ。

 

「まぁ、あいつは外見お姫様でも身体は王子様やけどな」

 

 けど、そのイケメンオーラを自ら誤魔化すように笑って霧散させる虎次郎くん。

 

「そういう訳やから、なのはちゃんヨッシーのエスコート任せたで?」

「うん! わかったの! 任せて!」

「うん、お願……待って!? 僕がエスコートされる側なの?!」

 

 あんまりにも自然な流れで言うから聞き逃すところだったよ! 男としての威厳とかなんとか、そういうのが僕にもあるんだよ!? そこは僕になのはちゃんのエスコート頼もうよ!

 

「ほな、任せたでぇぇ!!」

「まっかせてぇぇ!!」

「むしろ任すなら僕に任せてよぉぉ!?」

 

 しかし僕の悲鳴はあっさり無視され、虎次郎くんは名前の如く虎のような速度でダッシュして曲がり角へと消えていった。くっそぅ。本当にお前の呼び名を今度から虎さんにしてやろうか。

 

「よし、じゃあ行こうヨッシーくん! ユーノくん!」

「僕の言い分も聞いてよ!? って、ちょっと待ってなのはちゃん」

「うわっ、なに? ヨッシーくん」

 

 僕の言い分完全無視で、肩にユーノくんを乗せてバスに乗り込もうとするなのはちゃんのリュックの上についてる取っ手部分を掴んで止め、僕は怒り顔を作った。

 

「駄目でしょなのはちゃん。いくら今はお客さんが他にいなくても、ユーノくんはちゃんとケージなりなんなり、外に出ないような物に入れておかないと。非常識でしょ?」

「え? でもユーノくんは別に他の人に迷惑かけたりしないよ?」

 

 きょとん、と首を傾げるなのはちゃんと、そうだそうだと言わんばかりにこっちに寄って来てうんうん頷くユーノくんだが、僕はこんなナリでも前世では元社会人、つまり精神的に大人であると自負する者として言わねばならんのである! 実はかなり幼児退行化してる部分もあるのも若干自覚してるけどね!

 

「駄目だよ、いいかい? ユーノくんが迷惑をかけないような賢いフェレットだっていうのは僕も知ってるよ? でもそれを言ったらアインだって賢いから他人様(ひとさま)に迷惑かけるような子じゃないけど、肝心なのはその事実を僕達しか知らないってこと。

 何も知らない人からしたら動物が公共の乗り物の中にいたらオイタをするんじゃないか考えて嫌な顔をする人だっているし、アレルギー持ってる人だっているし、単純に動物が嫌いな人が乗るかもしれない。そういう人達からしたら、動物がいつ何をしでかすか分からない状態で近くに居られたら嫌なものなの。

 なのはちゃんだって、他の人に迷惑かけたいと思わないし、ユーノくんを見て嫌な顔されたら嫌でしょ?」

「あ、でもたまにワンちゃんが普通に乗ってたりするよ?」

「ああいうのは介助犬って言って、人間に迷惑をかけないように特別厳しい教育を受けた犬なの! 今回はやてちゃんが貰い受けるわんこみたいなやつ。眼が見えない人とか耳が聞こえない人とか手足が不自由な人とかの、使えない器官の代わりになってくれてる犬で、世間的に認められてるけど、ユーノくん違うでしょ?」

「え、えっと……うん……」

 

 ……なんか、なのはちゃんが目を白黒させてるけど、そんなに僕にこういうこと言われるの意外だったのだろうか。

 

「にゃはは……なんだかヨッシーくんお父さんみたいだね」

「アインという一児を持つ父だからね」

 

 君、それはお父さんではなくてただの飼い主だよね、とでも言いたげなユーノくんの視線を感じるが、知ったこっちゃないね!

 

「うん、分かったよ。ごめんねユーノくん、ちょっとだけリュックの中で我慢してもらっていい?」

「きゅい」

 

 何回か聴いてるはずなのに初めて聴いた気がする、ユーノくんの鳴き声。カワユスなぁ……。

 

「にゃ~」

 

 あ、勿論お前が一番可愛いよアイン!

 

「じゃ、乗ろうか。……っていうか、すいません待っていただいて……」

 

 なのはちゃんが納得してリュックを開けたので、僕はやれやれと思いながらバスに乗ろうとして、こちらを微笑ましそうに見ている運転手さんに気づいたので頭を下げた。

 

「なに、良いよ。他にお客さんもいないからね。それにしても良く出来た弟くんだね。その歳でそこまでちゃんと考えられる子はなかなかいないよ? お姉ちゃんも負けないようにね?」

 

 ……頭の下げ損だったかなぁ?

 

「あ……アハハ……」

 

 後ろでなのはちゃんが苦笑している。

 まぁいいけどさ……慣れてるし……この身長じゃ仕方ないよね……。

 最早文句を言う気力もなく、力なく笑って、僕はなのはちゃんと共にバスに乗り込むのであった。

 

 

 

 諸君、分かっているね?

 わんわんパラダイスである。もう一度言う。わんわんパラダイスである。大事なことなのだけれど、流石に二週連続でこのネタはくどいのでやめておく。

 

 さて、玄関先でわざわざ待っていてくれた如何にも老執事って感じの柔らかい雰囲気を身に纏った執事さんに案内されて、月村邸より更に立派な門をくぐった先に存在するのが我らがわんわんパラダイスことバニングス邸である。見たまえ、ここまで聴こえてくるだろう? 天使(わんこ)達の歌(なき)声が……。

 

 っていうか、既におっきいわんこが三匹、ちっこいわんこが5匹ほどが視界に入っている。各々が自由に遊びまわるその姿はまさに雪が降っても降らなくても庭を駆け回る我らが天使(わんこ)達。

 

 ……まだだ、まだ耐えろ僕。今日は虎次郎くんがいないからなのはちゃん一人じゃ僕の暴走を制御できないだろうし、我慢するんだ。

 ついでに言うと、もし暴走したままの僕を見た後に虎次郎くんが不参加になったことがアリサちゃんに知れたら、彼女の機嫌は地べたを這いずる哀れな生贄(ぼく)に急降下爆撃を開始することだろう。

 それくらいウザいからね、僕の小動物見て暴走する癖は、と、このように自覚はしてるのさ! 尤も直す気はさらさら無いがね!

 この年齢でこの外見のうちだけだからね、わんにゃんを抱きしめて暴走するのが許されるのは。僕も大の大人の男性が小動物抱きしめて「わんこ(にゃんこ)カワユスなぁ」とか言ってたら、流石に苦笑いするし。

 

 まぁなんにしても可愛いなぁわんこも……。

 うふふ……あ、アインをケージから出してやらないと。

 

「ごめんなアイン。今出してやるからな~」

「にゃ~」

「……あ! ユーノくんリュックに入れっぱなし!」

 

 あぁ、そういえばそうだったねなのはちゃん。

 

『ユーノくん大丈夫? ……あれ? 返事が無い? ユーノくん!? しっかりして!?』

 

 なのはちゃん、そういえば背中のリュックにユーノくん入ってるの忘れたまま椅子に思いっきりもたれかかったりしてたもんね。ユーノくん、惜しい命を散らしたものだ……フェレットなんてかなりのレアモフモフなのに……。

 あとなのはちゃん、近くにいるせいか念話だだ漏れだよ。僕が聴こえてるって言う訳にいかないから指摘しないけど。

 

『うん……大丈夫だよなのは……勢い良く背もたれとなのはに押しつぶされた時は死ぬかと思ったけど……』

『ご、ごめんね? 本当にごめんね?』

『いや……大丈夫大丈夫……』

 

 強く生きろ、ユーノくん。あと久々に君をもふもふしたいんだけどどうだろうか。結局君に触れたのって一度だけだからね。僕の好感度を上げておくとちょっぴり幸せがあるらしいからオススメだよ? フェレット形態の人に効果あんのか知らないけど。

 

 あ、メイドさん来た。え? ケージ預かっておいてくれるんですか? どうも。お願いします。

 

 ……って、おぉ! あそこにいるのはチワワではないか! ぷるぷるしとる!! なんぞ可愛い!!

 

 わんわん! わんわんお! おっきいわんわんちっちゃいわんわんにわふわふしたいお!!

 

「にゃ~」

 

 ……おっと、落ち着けビークール。今日の僕は一味違うんだぜ? そう、なにせ今の僕にはおにゃんこ大明神アイン様がおられるからね? ふふふ……よそ様のわんこに見惚れて暴走し、アインちゃんをおろそかにしたりはしないのさ。

 

 あ! ゴールデンレトリバーが寝転んでる! でっけぇ! かっけぇ! すっげ~毛並みいいんだけど!

 背中に乗っかって抱きつきながらもふもふしつつ、僕を乗せながら走るゴールデンレトリバーにキャーキャー言いながら遊びたい!

 あ、起き上がったらちっこいレトリバーが出てきた! 親子なの!? 親子なんだね!? イケメンなお母さんを持って幸せだね君たち! とっても可愛いよ!

 

「うわ~! わんこ! わんこ! おっきいわんことちっちゃいわんこで親子わんこ~! きゃ~! もふもふしたい~!」

「にゃ~」

 

 あ、ご、ごめんな? 違うんだよ。浮気じゃないんだよ? アイン。勿論僕にとって一番のもふもふ要員は君だよ? まいりとるぷりんせすさんだよ? 愛しの愛娘さんだよ?

 ただ、ちょっと、ちょっとね? こう、なに? にゃんこの保護してあげたくなるというか、こう遊んであげたくなる魅力とは違ってね?

 わんこさんには遊んでほしくなるような、とってもかわいらしい魅力に溢れてるのだよ。だから、決してアインよりもあっちが良いって言う訳ではないんだよ。

 そう、例えるならばアインは米。僕が生きていく上で欠かせない存在。それに対してわんこはチョコレートパフェ、或いはいちごパフェ。たまに、そう、たまにね? たまぁにお腹一杯食べてみたいな、って思っちゃうような感じ? うん、あくまで主食とオヤツの好きの違いみたいな? アインならわかってくれるよね?

 

「にゃ~?」

 

 くそう、抱っこされながらちょっと小首を傾げるアインちゃんマジ天使。分かってくれてない? いや、大丈夫。僕とアインには見えない絆がしっかり繋がっているから、きっとわかってくれるはずだ。

 

「えっと……よ、ヨッシーくん? 急にどうしたのかな?」

「……え? 何が?」

 

 いきなりなのはちゃんに声をかけられて僕は顔を向けた。

 あれ? いつのまにか抜かれてたのか僕。なのはちゃんが先を歩いてたよ? あ、老執事さんが微笑ましいものを見るような目でこっちを見てる。なに?

 

「えっと……わんこがどうとか?」

「……おぉう」

 

 しまった。僕は妄想を口に出していたか……ッ!!

 どこ!? わんこ語りのどのあたりからどのあたりまで口で語っちゃってた!?

 

「あの……う~んと、アインちゃんがいるんだし今はちょっとだけ我慢して、とりあえずはアリサちゃんに挨拶してからお犬さん達と遊ぼうね?」

「うん、わかったよなのはちゃん!」

 

 そうだね! アリサちゃんガン無視でわんこと戯れてたら、せっかく友人にランクアップした僕の立ち位置は急降下だね! 下手したらわんわんパラダイスに二度と入れてくれないね! それだけは勘弁だし、今は我慢するよなのはちゃん!

 だから、その微妙にドン引きな感じの表情と、一歩後ずさるのはやめてくれないかな!

 ……すいません。はい、自重します。

 

『バスに乗るときに理路整然となのはを諭した彼はどこにいったんだろうね、なのは』

『えっと……こっちが素なんじゃないかなぁ、って思うよ?』

 

 君達、その念話聴こえてるからね? 念話はちゃんと一方向だけに向かうようにやってね?

 とか思ってもツッコミ入れられないまま、虎次郎くんがいないので話し相手がいなくて暇なので、なのはちゃんとユーノくんの念話をぼーっとしながら聴きつつ歩き、館のドアへとたどり着く僕となのはちゃん。

 

 す、凄い! 僕の身長の五倍以上のエネルギーゲインがいやなんでもない。

 

 でっかい扉だな~。縦幅何メートルくらいあんの? これ。少なくとも3~4メートルはあるよね。

 あ、でも月村邸もにゃんこと戯れること優先してたからそこまで気づかなかったけど、よくよく考えたらあの家も玄関のドアは充分でかかったな。屋敷の大きさは流石に使用人がそれなりにいるっぽいここよりも見た感じ一回り以上小さかった気がするけど。

 いやはや上には上がいるもんだ。庭師っぽい人とかメイドさんっぽい人とかもまだ家に入ってないのにちらほら見えてるし、わんわんパラダイスであると同時ににんにんパラダイスでもあるわけだね、ここは。

 あ、にんにんって人間ね。忍者じゃないよ?

 

 ……忍者のパラダイスってそれはそれで面白そうだね! 忍者村みたいな感じかな! 行ってみたいね! 今の状況と全く関係なくてどうでもいい話しだけどね!

 

「さぁ、どうぞお入りください、高町様、佐藤様」

 

 あ、今佐藤様って言われた! 久々に刹那以外からヨッシー以外の名で呼ばれた気がする! 嬉しい!

 って、違う違う。それよりもちゃんと家にあがる時は挨拶言わないと。

 

「「お邪魔します」」

 

 なのはちゃんと同時に言ってぺこりと頭を下げる。

 

 そして顔をあげると目に入るのは、扉の向こうの桃源郷(わんわんぱらだいす)。犬の種類って殆ど知らないんだけど、なんかモップみたいな毛並みの犬とか、プードルとか、柴犬とか柴犬とか柴犬とか、ブルドッグとか、ブサかわからイケメンまでよりどりみどりじゃないですか!!

 

 え? なんで柴犬連呼したのかって? いや、単純に視界に柴犬の数が多かったというのもあるけど、ここに並んでいるわんこメンバーの中では僕は柴犬派だからです。

 

「アリサちゃんまた犬増やしたんだ……」

「とても良い事だね……」

「にゃ~」

 

 あ、そういえば今更だけどアインはわんこ怖がったりしないんだね。僕そのへんよく考えないで連れてきちゃったけど、この子いっつも通りの呑気な顔してにゃーにゃー言ってるわ。良い事だ。

 やっぱアレかな? 飼い主に似て優しいのかな、ここのわんこ達も。で、それを動物の直感的なものでわかってるとか。

 いや、単純にアインが呑気な子なだけだな。流石に話したことも無い相手を理解しちゃうほど賢い子ではないだろう。

 

「ぅ~、ワン!」

「「うわっ!?」」

 

 うわ、びっくりした! いつの間にか足元に来てた柴犬わんこに吠えられた!

 

「にゃ~?」

 

 あ、でもアインは相変わらず平和そうだよ!

 

「ワンワン!」

「にゃ!」

「わふ?」

「にゃ~ん」

「わふ」

 

 とか思ったらアインとわんこが会話っぽいことしてから、わんこは僕となのはちゃんを一瞥して去っていったよ!

 なに? アインお前わんこと会話できんの!? にゃんこ語とわんこ語のバイリンガルなの!?

 

「レスター、駄目ですよお客様に吠え掛かっては。そんな悪い子にはオヤツ抜きです」

「わふ!?」

 

 あ、離れたところでお世話係っぽいメイドさんに怒られた。がんばれレスターくん。

 

 

 

 

 あれ、なんか急に場面が変わった気がする。気のせいか? まぁいいや。

 

 目の前にはアリサちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、なのはちゃんがわんこ達と戯れている姿が。

 美少女達がわんこ達と戯れている姿とか、眼福すぎるよね!!

 

 で、アリサちゃんは虎次郎くんが来れないとなると目に見えてガッカリしていた(声のトーンが落ちてなんかどよ~んとした空気を一瞬出してた)けれど、すぐに気を取り直してた。刹那に関しては「そっかぁ」で割とあっさりだったけど、今度はすずかちゃんがガッカリしていた。分かりやすいなこの子たち。

 

 そして僕は今現在、ゴールデンレトリバーのでっかいのの背中にアインと一緒にのっかって、もふもふしながらのんびり歩いてもらっています。

 うへへ、こういう時だけは低身長軽体重でよかったって思うね。

 

「いや~……どの子もべっぴんさんやし、迷ってまうな~」

「ふふん、今日ここにいる子達はうちの中でも五本の指に入るほどの知性を持つ、介助犬用訓練済みエリートわんちゃん達なんだから当然ね!」

 

 あ、僕がのっかってるこの子も含めて? おぉ、どうりで文句ひとつ言わないまま僕を乗せて優雅にてこてこ歩くと思ったよ。お前エリートわんこさんだったんだね。ごめんね、なんか僕みたいな一般ぴーぽーなモブ乗せてもらっちゃって。

 

「せやな~、皆お利口さんやしな~……う~ん……」

 

 迷うよね~、僕でも迷うよコレは。どのわんこも可愛いもんね。

 ところでアリサちゃん、はやてちゃんがチワワ抱きかかえてるけど、その子も介助犬訓練された子なの? 五本の指に入るって事は、僕が乗っかってるわんこさんとチワワも合わせてピッタリ5匹なんだけど。あとの三匹の内二匹は現在すずかちゃん、なのはちゃんと戯れて、一匹ははやてちゃんの前で伏せの体勢をとったまま尻尾をパタパタさせて待機している。

 

 ……あれ? 気付いたけど僕、今現在原作キャラしか周囲にいなくね?

 

 ……いや、別にいちいち気にする必要は無いか。でも虎次郎くんいないと僕、この子達とまともに会話できないんだよね。いや、話しかければ普通に応対してくれるし、向こうもたまに話しを振ってくれたりすることもあるんだけど、やっぱり女の子しかいないところに男の子一人だと気まずいよね。

 よく虎次郎くんはあんなに会話広げられるよ。そういう意味では真っ先にお願いしてエリートわんこのレナード(アリサちゃんがそう紹介してた)さんに乗せてもらったのは僥倖だったかもしれない。

 

「わふ」

 

 あ、レナードさんもそう思う? だよね、それに君以外の四匹って全員女の子でしょ? アリサちゃんがちゃん付けで呼んでたし。やっぱり僕の気持ち分かってくれたりする?

 

「わふ」

 

 話しが分かるじゃないかレナードさん。うんうん、やっぱりこの年齢だと同性といたほうが気楽でなんか楽しいよね。

 いや、別に女の子が嫌なわけじゃないよ? 好きだけどさ、この年頃の子との接し方ってちょっとわからんのですよ。

 前世の時なら普通に子供相手ということでおにいちゃんぶって相手できたけど、今同年代な訳で、でも同年代=精神年齢同じじゃないわけで。

 まぁ最近は特に“肉体に精神が引っ張られる”状態が起きてるので完全に子供の心が理解できないわけじゃないんだけど。

 

 ……あ~、虎次郎くんと喋りたい。気兼ねなく話せるのあいつだけなんだよなぁ……後は虎次郎くんほどじゃないけど次点で刹那か、隣の席の太郎くん? あぁ、彼の場合は会話のキャッチボールがまともにできないからおしゃべりって感じじゃない。僕ツッコミ入れるだけになるし。

 

「にゃ~?」

 

 あ、ごめんごめん。アインは女の子だけど付き合いとっても気楽だし大好きだよ?

 

「にゃ!」

「わふ」

 

 おぉ、嬉しそうに鳴いてくれるじゃないのアイン。そしてわんこさん。いや、名前で呼ぶべきか。レナードさん。

 背中に乗ってる僕達を器用に首を動かして見ながらその微笑ましい物を見るような生暖かい目をやめて?

 よもや人間だけじゃなくてわんこにまでそんな目を向けられるとは思わなかったよ?

 っていうか、よくよく考えたら君達はちょっと僕の考えてること分かりすぎじゃない? 僕一回も口にだしてないよね?

 

「にゃあ」

「わふぅ」

 

 え? お前は考えが顔に出やすいって? マジで? お前さんがた二人そろってため息吐かんばかりに呆れた声出さないでよ。

 ……あれ? 僕も何気にこいつらの考え分かってね? いや、違うか。

 僕がそう思ってるだけでもしかしたら「こいつ家で私にべたべたしてきてセクハラが酷いんだけど、どう思います? レナードさん」「ふむ。それはけしからんな。どうだいアインちゃん、ここは一つ我らが主アリサお嬢様に身を寄せるというのは」とかいう会話をしていた可能性だってある。

 

 って、なんだって!? そんな、やめてくれ! 思いとどまってくれアイン! アインにセクハラ(もふもふ)するのちょっとだけ控えるから許して! あ、でもやっぱりもふもふは譲れないからオヤツ増やすから!

 

「よっし、決めたわ! やっぱりこのリーンちゃんにするわ!」

 

 脳内で若干パニック起こしてたら事態は推移しておりました。

 はやてちゃんが叫んで指差したのはなのはちゃんやすずかちゃん、僕のこともほぼガン無視(挨拶した時に視線を向けて「わふ」と声をかけるくらいはしてきたけど)して、はやての目の前でずっと伏せて待機しっぱなしだったゴールデンレトリバーのリーンちゃん(♀)。名前に惹かれるものでもあったのだろうか。夜天の書の人格にリィンフォースって名前を自分で考えたこともあるはやてちゃんだしな。

 

 ……あれ? 夜天の書の機能を統括していた人格がリィンフォースだよね? なんか銀髪っぽいお姉さんがそれだった気がするんだけど。……う~ん、なんか微妙に違ったような気もしてきた。どうなんだ? 原作知識一期のうろ覚えのみ、以降の話は二次創作系のうろ覚え知識のみという状態はしょっちゅう自信が無くなる。

 

 まぁいいや、どうせ僕関わらないし、実際に見る機会あったらその時に知ればいいよね。

 

「オッケー! じゃあリーン、今日から貴女のご主人様はこっちのはやてだからね? ちゃんと守ってあげるのよ!」

「わん!」

 

 おぉ、すっげぇ嬉しそうだリーンちゃん。尻尾ぱたぱたして元気良くお返事したよ。

 あれ、でも介助犬の訓練受けたわんこって吠えちゃいけないんじゃなかった? いや、今の場合は別に良いのか。敵意ある恫喝の吠え声って感じじゃなくて、むしろ「この私にどんと任せてくださいよお嬢様!」とでも言いたげな声だったし。そもそも具体的にどういう訓練受けてるのかすら僕知らないしね。

 

「アリサお嬢様、昼食の準備が出来ました」

 

 あ、メイドさん来た。

 そっか、もうお昼? あれ、でも腕時計見るとまだ十二時になってないよ?

 

「あ、丁度良かったわ。それじゃあ皆、ご飯食べて旅館に行きましょう? ちょっと早いけどなのはやすずかのご家族待たせる訳にもいかないし」

「では皆様、食堂までご案内いたします」

 

 え? もしかしてわんわんパラダイスの至福の時間、もう終わりなの?

 え? 嘘だよね? 僕まだ全然堪能してないよ? 暴走できないからむしろ欲求不満がたまっちゃってるよ? 待って? せめてレナードさんの上でもうちょっともふらせて!

 

「わふ」

 

 え? 任せろって? あ、食堂まで運んでくれるの? マジで? やべぇ、レナードさんマジイケメン。

 

「にゃ~」

 

 あ、良かったねって? うん、良かった。あぁ実にもふもふだなぁ。


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