オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
こんな妄想を形にするなんて『コイツ馬鹿なんだな』と生暖かい目で見やって下さい。
多分、喜びます。
2015.9.23 6:40頃修正 蜂蜜鮭→蜂蜜酒
「ナザリック自家製パン。小麦はケレースの小麦を使用しました」
大分打ち解けたのかルプスレギナはにこにこと笑顔で配膳をしてくれている。
ジョンとしても常に畏まっていられては、自分も気を張り詰め続けなければならないので疲れてしまう。
それにしても――ジョンは考える。
このパンは自分が大地の女神の下からとってきた小麦で作られているが、種籾は残っていただろうか。
ゲーム的には畑に蒔いて収穫まで現実時間で数時間だったが、流石に現実でそれは無いだろう。畑の土もきちんと作らないと育成も悪くなるだろう。
連作障害は……やけに記憶が鮮明に蘇る。
これはひょっとして、先ほどの料理のバフだろうか。
黄金の蜂蜜酒には知覚力へのボーナス。知恵の鮭を使った料理には知性へのボーナスがあった。
ステータス画面を開ければ直にわかるのだが、己の主観が頼りとなると分り難い。
(ステータス画面と言えば、モモンガさんの《星に願いを》でコンソールが開けるようにはならないものだろうか?)
(消費される経験値もフレンドリィファイヤが解禁されている今なら召喚したモンスターを殺して獲得できるかもしれない。
《強欲と無欲》で吸わせれば経験値があるかどうかもわかるだろうし、蘇生実験が無事に済めば、自分がモモンガさんに殺されて経験値を《強欲と無欲》に吸わせ、レベルダウンの後に召喚モンスターを狩ってレベルアップ出来るのか。レベルアップするとどうなるかを検証するのも良いかもしれない。
だが、死んだ場合にログアウト状態となって消滅とかではモモンガさんを一人にしてしまう。理想は敵対的なソロプレイヤーを発見し、捕獲。実験する事だろう)
ワーウルフは人狼形態では筋力と敏捷が増強され、知力が減少する。その減っている頭の回転が急に良くなった気する。
もっとも、100Lvの知力が半減していても、リアルの自分より頭が良いのだろうなとも同時に思った。
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「スープはチキンコンソメスープ。隠し味にマンドラゴラっす」
「ルプー。……隠し味は教えて良いものなのか? 隠れているから、隠し味じゃないのか?」
「うへぇぁ」
後頭部に手をやり、可愛らしく舌を出すルプスレギナ。
そんな気安い表情を見せてくれるようになった事を嬉しく思いながらジョンは食事を続ける。
「まあ、教えてもらわなければ分からないからな」
スプーンですくって口へ運ぶ。舌先にぴりっとしたスパイシーな刺激。それが味に深いコクと旨みをもたらしている。
だが、自分の知ってる鶏と違う気がする。
「……チキンって、鶏だよな?」
「いえ? これはコカトリスっすよ」
人間には毒っすね。そう言って「てへへっ」とルプスレギナは笑う。
このスパイシーな感じはひょっとして毒かとジョンは思う。病気無効、毒無効を持ってるから、確かにジョンには問題ない。
人間種より遥かに丈夫であるからこそ、少々の毒も美味く感じるのだろうか。確か河豚などの毒があるものは高級食材とされていたらしい。
「……今度、バジリスクを狩ったら試してみるか」
取り敢えず食べるんすか!?ジョン様、食いしん坊だったんすねぇとルプスレギナは感心する。
「ほう? じゃあ、ルプーはいらないんだな」
「えっ!? あー、ちょ、ちょーっと食べてみたいっすね」
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「メインディッシュ一皿目。ノーアトゥーンの海老のグラタンっす♪」
目の前の陶器製の丸皿の中では焦げたチーズとふつふつと煮立ったホワイトソースが黄色と狐色で美しい斑模様を作り、その上には千切ったパセリが彩を添えている。
そして、海老は海老でも高レベルモンスターの巨大な海老だ。
チーズの焦げた香ばしい香りと共に、一口大に切られた海老とマッシュルームはチーズのコクと塩気、ホワイトソースの柔らかな味わいと甘味、それら様々な具材に包まれながら、ホワイトソースを纏ったマカロニと玉葱と共に甘く、口の中で優しくとろけていく。
「美味しいっすか?」
「ああ、美味いな」
温かい食事。
食卓を囲んで……いるわけではないが、共にいてくれる存在。
美味い飯を食べてもらう。その為に力を尽くした愛情や敬意の篭った料理。
これらはなんと自分を満たしてくれるものなのだろうか。
コンビニやスーパーで買い物をし、一人きりで食べる食事。
それが当然であって何も感じなかったが、今なら言える。自分は寂しかったのだ。
一人きりの部屋。一人きりの世界が寂しくて、ユグドラシルにのめり込み。
皆が去った後も立去れず、モモンガと二人で最後までしがみついていたのだ。
最早、あの一人きりの寂しい部屋。一人きりの寂しい世界、食事には戻りたくない。
ホワイトソースはほんの少しだけ塩が効いていた。
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「お口直しに青春のリンゴのソルベっす」
北欧神話の中のりんごは若さの秘密を得る不死と豊穣を象徴する果実として語られている。
しかし、当時の北欧人はりんごを知らなかったと言う。
野生の林檎がないわけではないが、それは小さい果実で食用にもならず、珍重されることもなかった。
そんな話を、タブラがモモンガへ聞かせていた事をジョンは思い出していた。
このリンゴのソルベは生クリームを混ぜて適度な滑らかさも保っている。滑らかな口当たりの中にシャリシャリとした食感が程よくブレンドされ、リキュールの香りと苦味が良いアクセントとなって、口に入れると冷たい甘さが雪のようにふわっと溶けていく。
それでいて甘さが口の中にべったりと残る事も無く、爽やかなリンゴの香りが春を告げる風のように鼻に抜けてくる。
ふっと息をつき、ルプスレギナを見てみるとメイドとして完璧な姿勢を保っているが、眼の輝きだけは興味津々と手の中にあるソルベに注がれていた。
その姿に、食事を前に自分の器の前で『僕、良い子にしてるよね』と、やたらと良い姿勢で待つ犬の眼を連想した。
存在しない筈の尻尾がぱたぱたと振られているような気もしてくる。
ペットを飼っている昔の動画などで『ついつい甘やかしてしまう』とあったが、確かにこんな眼をされては甘やかさずにはいられないだろう。
「ルプーは食べた事があるのか?」
「至高の御方の食材を食べるなんてとんでもないっすよ!?」
尋ねてみれば、わたわたと両手を振りながらそんな事を言う。
考えてみれば、自分が食べる為に採ってきたものなのだから、忠誠心的に彼女たちが食べないのも当然か。
ギルドメンバーが減っていく中、ナザリックの維持コストを下げる為、リング・オブ・サステナンスを集めて主要NPCに行き渡らせ、モモンガと2人だけでもナザリックを維持できるように節約してきたのだ。
つまりは十分な餌を巣に持ち帰れなかった自分の不甲斐無さの結果だ。狼としてのプライドがちくりと痛む。
「許す。ほら、食べてみろ」そう言ってソルベを掬ったスプーンをルプスレギナへ差し出す。
「うぇ!? あ、あーんっすか!?」
わたわたとこれまで以上にあたふたするルプスレギナへ「食べないのか?」と、からかうように問いかけながら、スプーンを更に突き出す。
「あぅ、え、ええっと……い、頂くっす」
理性と感情がせめぎあい、結局、食欲が勝ったらしい。
緊張しているのか頬を赤らめ微かに震えながら、半目になってスプーンを咥えるルプスレギナ。
その彼女の口の中でふわっとソルベが溶け、銀糸を引いてスプーンが口から離れると――
ぽん! 軽快な音を立てて白い煙が上がった。後には10歳ぐらいになったルプスレギナの姿があった。
「ええッ!?」
「あーやっぱりか。料理バフで子供になるのがあったからなー」
驚くルプスレギナの腋に手を差し込むと、軽々と膝の上に抱き上げ、ぐりぐりとその頭を撫で回すジョン。
このちびルプーはペロロンチーノとぶくぶく茶釜が見れば泣いて喜ぶ可愛らしさだ。
自分とペロロンチーノなら『YesロリータNoタッチ』的にアウトだが、ピンクの肉棒であるぶくぶく茶釜でも、絵的に陵辱ものになるのでやはりアウトだ。
胸の中でザマー見ろと、この場にいない仲間たちへ言ってみる。
「小さいルプーも可愛いな」
「ええッ!? な、なんでジョン様はなんでもないっすか!?」
「さぁ、どうしてだろうな?」
答えは状態異常無効装備をつけてるからであるが、今はあたふたしているちびルプーを堪能するのが重要だった。
(茶釜さん、確かに可愛いは正義だ。
ペロロンチーノ。君は良い友人だったが、リア充なのがいけないのだよ)
ルプスレギナたちの服はマジックアイテムでもあるので身体が小さくなっても、サイズも自動的に変わる。なので残念ながら、ありがちなハプニングは発生しない。
ぽん! 再び軽快な音を立てて白い煙が上がる。
「一口だからこんなものか」
「あ、戻ったっす」
そう言ったジョンの膝の上には、元に戻ったルプスレギナの姿があった。
急に身体のサイズが変わった為、バランスを取るのにジョンの首へ手を廻すルプスレギナであるが、それに調子に乗ったジョンはルプスレギナの背中と膝裏に腕を回し、更なる爆弾を放り込む。
「そろそろ、メインディッシュを頂こうかな?」
「ええッ、私っすか!?」
ジョンに抱き上げられ、見つめられて、真っ赤になりながら、何やらごにょごにょと口にし始めるルプスレギナ。
何を言っているのか聞こえてはいるが、その姿に玉座の間でのモモンガとアルベドのやり取りを思い出す。
アルベドのように特定の個人を愛している設定はなかった筈だが、NPCたちの忠誠心などはどこまで突き抜けているのだろうとジョンは首を傾げる。
ジョンは知る由も無いが、プレアデスの認識では、ジョンはルプスレギナに対して光源氏計画を発動中の策士となっているのだから宜乎。
「冗談だ。次を頼む」
そう言って床に下ろせば、しょぼーんとするルプスレギナ。心なしか頭巾の耳型も萎れているように見える。
ルプスレギナのそんな姿を見ても、ジョンは人間の時と違って理性を失うほどムラムラしなかった。繁殖期ではない所為だろうかと考える。
狼の雄は繁殖期の雌の尿や分泌物に含まれる性フェロモンを、上顎の切歯骨の後ろにある「ヤコブセン器官」と呼ばれる副嗅覚器で感知し、性的に興奮する。
人間であった時は精嚢が充填されればムラムラきていたが、この身体だと狼などと一緒で精嚢がないのだろうか。
そうだとすれば、性フェロモンを感知しない限り、そこまで自分は興奮しないのかもしれない。これはどう検証すべきだろう。
取り敢えず、そう、取り敢えずは欲求が無いわけでは無いし、これはもっと落ち着いてから――そう、後で考えよう。
そうしよう。
これは決して未使用者にありがちなヘタレでは無い。脳内でるし★ふぁーがこんな顔『δ(^q^)プゲラww』をしていたが、断じて違う。
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「メインディッシュ二皿目はムスペルヘイムのフレイム・エンシャント・ドラゴンのフィレ肉ステーキっす」
炎の国の巨人を倒す前に出てくるモンスター。やまいこさんの強化の為にウルベルトさんとたっちさんが炎の巨人と氷の魔竜どっちに行くか喧嘩して、最終的には両方回ったものだ。炎の古竜は氷の魔竜より小さく、炎熱対策がしやすい上にボス属性ではなかったので、特殊技術の練習も兼ねて結構な数を狩っていた。
熱く熱せられた鉄の皿の上にどんと置かれ、ジュウジュウと音を立てる大きな――重量にして1kgは――ありそうなステーキ。
付け合せには八つ切りのフライドポテトと、甘くなるよう茹でられた鮮やかなオレンジ色のニンジン。更に濃い緑の葉野菜が添えられて見た目にも食欲をそそる。
ごくり。
既に結構な量を食べたのだが、肉の焼ける香ばしい匂いに唾を飲み込む。
この身体は相当の大食いのようだった。その上、狼だけあって肉は別腹らしい。このサイズでもまだまだ2~3枚は食べられそうだ。
先ずはメインをと肉にナイフを入れていく。本来固い筈のドラゴンの肉は柔らかくナイフを受け入れ、切断面からは赤身が覗く。
ほどよく赤身が残っていながら、表面は香ばしく焼かれているミディアムレアだ。
切り分けた肉を噛み締めれば、滋養あふれる熱い肉汁がじわっと咥内に広がる。一噛み毎に力が染み渡り、身体から力が湧いて来るような味だった。
古典的ゲーマーの間ではドラゴンステーキを食べるのが冒険者の夢とまで言われていたらしいが、そこまで拘りの無かった自分が今、五感でドラゴンステーキを味わっている。そんな感慨深いなどと言う感情も吹き飛ばす、力強い旨味がこの肉にはある。
人間の時と違い何度か噛んだら、染み出した肉汁と共に柔らかくなった肉をごくりと飲み込む。
しっかり噛むよりも、こうして喉越しで肉を味わう方がこれまでにない美味さと満足感を得られた。
これも異形種になった影響だろうか。確かに犬や狼などはそんな食べ方をしていたような気がする。
気づくと鉄の皿の上は付け合せまで綺麗になくなっていた。満足気に息をつくジョン。
「食後のお飲み物は如何致しますか?」
笑顔のルプスレギナに問われ、ジョンは照れて、頭を掻きながら珈琲を頼んだ。
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「デザートにはフリッガの苺のショートケーキ。生クリームはグラス・ガヴナンの乳を使用しているっすよ」
あとグラス・ガヴナン(豊穣の牝牛)の乳はキッシュとかの生クリームにも使われてたっすと、ルプスレギナは続ける。
北欧神話の神々の女神フリッガに関する伝承で、彼女は幼くして死んだ幼児をイチゴに埋めて、密かに天国に送り出す。イチゴは子供が変化した姿なので、それを食べることは子殺しに繋がるという解釈もあるらしいが、そうするとソリュシャンはイチゴも食べるのだろうかと考え、悲鳴が好きとか設定にあったから食べないだろうなと一人で納得する。
ケーキは上に苺がひとつ、スポンジには生クリームが1層と苺が挟まっていた。挟まっている苺の鮮やかな色が目を引く。
スポンジはきめが細かくしっかりとした甘さ。そこに生クリームのふわっとした甘さを味わうと、最後に苺の酸味とさわやかな甘さが現れて美しいハーモニーを奏でる。
それらが一緒になって溶け合い流れた後にブラックの珈琲を流し込めば、その苦味が甘さと一緒に流れていき、後には珈琲の香味が余韻となって残っている。
「ごちそうさま。美味い飯だった。料理長にも伝えてくれ。それと……楽しい時間だった。ルプー、これをやろう。『古の守り』だ」
「ふへっ!? そ、そんなわけには」
慌てるルプスレギナにジョンは首を横に振ってみせる。
「お前が敬語も抑え、気の置けない会話をしてくれたおかげで楽しかった。俺の我侭ですべき事をさせなかったのだから、礼をするのは当然の事だ」
そう言ってルプスレギナの手を取ると『古の守り』と名付けたアミュレットを握らせる。100Lvには非力だが、50Lv前後では十分に強力なアイテムとなる性能がある。
「これからも宜しく頼む」
「は、はひっ、こちらこそ、宜しくお願い致しまっすす」
緊張の余り変な語尾になってしまっているが、一般メイド達は至高の御方に手ずから褒美を賜ったルプスレギナへ羨望の眼差しを向けていた。
そんな一般メイド達をジョンは見る。
メイドとして完璧な立ち姿を崩さず、自分に振り回されるルプスレギナのフォローを見事にしてくれた一般メイド達へも何かやるべきだろうとジョンは考えた。
「……お前達にはこれをやろう」
椅子から立ち上がり、メイド達へ歩み寄りながら、アイテムボックスから人数分の『それ』を取り出すと手ずから授けていく。
手渡されたメイド達は驚きで声を失っていった。
「……こ、これは……カルバイン様の、お姿……ですか?」
メイドの一人が渡された『それ』を抱きしめながら、震える声でジョンへ問う。
渡された『それ』は、デフォルメされた人狼のぬいぐるみ。ジョンと同じ青と白の毛並みになるよう染色された愛嬌のあるモフモフ尻尾も可愛らしいぬいぐるみだった。
「ああ、自作だよ。この間は村の開拓が進んだから材料を揃えられてな。作ってみた」
ジョンはなんでも無い様に答えると「料理長にはこれを。俺の予備の蛸引包丁だ。刺身を作るときにでも使ってくれ」そう言って挨拶に出てきた料理長に包丁を渡す。
そうして、振り返ると自分の受け取った『古の守り』と一般メイドの貰った『ぬいぐるみ』を見比べているルプスレギナの姿があった。
(戦闘メイドだから戦闘に役に立つアイテムと思ったけど、ルプスレギナもぬいぐるみが良かったのか?)
ルプスレギナも意外と女の子してるなぁとジョンはのん気に考えていたが、彼女らにしてみれば至高の御方の似姿をその本人から頂けるなど望外の喜びであり、そこに実用性など入る余地はないのだ。つまりはそちらの方が彼女らにとっては価値が高い。物の価値とはそれを扱う者の主観によると言う事をジョンは失念していた。
だが、その見比べているルプスレギナの様子が余りに可愛らしかった為、ジョンは一つ調子に乗って、ルプスレギナをからかい始めてしまった。
「なんだ、ルプー? 物欲しそうな顔をしているぞ」
「えっ!? い、いやぁそんな事ないっす、よ」
「そうか? 実はまだあるんだが、なら……これは仕舞っておくかな」
ルプスレギナとしては手ずから褒美を貰っておいて違うものが良いなど言える筈もないのだが、目の前でもう一つぬいぐるみを取り出されては眼で追ってしまう。
「……え、ええっと、その、私もそっちが……」
「ん? なんだ」
自分の気持ちを知りながら、焦らすようにからかうジョンの意図をルプスレギナは正確に読み取っていた。
この御方は自分に羞恥を忍んでそれが欲しいと言わせたいらしい。
自分がこれほど弄ばれるとはなんと言うことだろう。羞恥で頬がかっと熱くなっていくのが止められない。
だが、至高の御方がそれを望んでいるならば、羞恥に耐えてそれを口にしなければならないだろう。
(うう、恥ずかしいっす。でも)
「ジョン様のぬいぐるみ! 私も頂きたいっす!!」
言い切った。
言い切ったが、羞恥の余り頬が熱い。視界もなんだか滲んでいる。
(うう、メイドにあるまじき失態っす)
ルプスレギナは両手で頬を押さえて羞恥に耐える。
「あーーすまん、構い過ぎた。俺が悪かった」
羞恥のあまり眼に涙を溜めたルプスレギナ。
その姿にジョンはようやく調子に乗り過ぎた事を悟る。
だが、悪かったと謝っても、ここではジョンが言えば全ては是となるのだ。謝ったところでジョンが悪かったなどと彼女達が認める訳が無い。
ルプスレギナを宥め様と頭を撫でてやるが、そう簡単には激情は治まらないものだ。
「ひっく、ジョ、ジョン様は、わ、悪、くく、な、っいっす、よ?」
「セバスやペス、ユリには内緒にしてくれよ? 俺がルプーを泣かせたと叱られるのは良いが、俺の所為でルプーが叱られるのは嫌だからな」
「な゛んでそ、んな優しいん゛すかー!!」
(うぉっ失敗した!?)
ルプスレギナを撫でながら一般メイドにも声をかけたが、かえって感極まったルプスレギナが本格的に泣き出してしまった。
結局、ジョンは椅子に戻ってルプスレギナを膝の上に乗せ、彼女が落ち着くまで頭を撫で続ける事となったのだった。
後日、事の詳細をしったナザリック地下大墳墓が支配者のコメント
「爆発しろ。この駄犬ども」
守護者統括のコメント
「モモンガ様がお望みとあらば、私は羞恥プレ(以下略)」
好きな子を構い過ぎて泣かした事のある男子は挙手をお願いします。
手を上げた奴――けっ、このリア獣め。
うううううらやましくなんてないんだからなッ!!
……アイス買って来よう。