オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
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小都市を落として1週間。なんだかんだと謀を巡らせてもウルフ竜騎兵団に頼りっきりになった解放軍にグスターボの胃痛が限界を迎えようとする頃、地平の彼方に亜人の軍勢が姿を見せた。
しかし、それは想定を遥かに超える大軍だった。
亜人たちの軍が大挙して押し寄せ、慌ただしくなっていく都市を眺めながらジョンはゆっくりと周囲を見回す。
展開していた野外炊事車、食料運搬車、入浴車のうち、野外入浴車は撤収準備を進め、民たちの仮説住居であったテントも折りたたまれ、いつでも脱出できるように幌付き荷馬車に退避させている。数日、入浴が出来なくなるが非戦闘員の退避を優先して考えた為だ。
捕虜収容所と小都市を解放したので、解放軍は1万人ほどの規模になっていたが、戦えるものは少ない。
ウルフ竜騎兵団としては非戦闘員を退避させる準備をしていたのだが、解放軍首脳部はどうやら籠城戦を考えているようだ。門を閉ざし、戦う準備を進めている。
「1万対4万と言っても、戦えるのは半分もいないぞ」
「〈
「……いや、閣下。無理だろ」
まー俺が本気出せば、あのくらい幾らでも蹴散らせるけど――などと考えつつ、ジョンは市壁の上で都市から亜人の軍勢に向き直る。
550名ほどのウルフ竜騎兵団が一騎当千だから、総兵力50万って計算おかしいと呆れるゴ・ギン。
「カストディオ団長は門の前で1対1を4万回繰り返せば良いとか考えてそうだぞ」
「……確かに疲労回復ポーションを飲みながらであれば、出来るだろうが……」
戦争ってそういうものなのか?とゴ・ギンは首を傾げる。
グスターボがいれば頭を抱えただろう。本当に出来そうなあたりが頭を抱える最たる理由なのだが。
「“豪王”バザーみたいな強者が一人でもいれば、カストディオ団長一人では出来ないだろう」
「戦士隊もそこまで出来るのは、まだゴ・ギンだけだしな」
ブレイン連れて来れれば良かったんだけど、あいつ補習中だしな。ジョンはそう言って肩を竦める。
ブレイン本人は従軍したがったのだが、カルネ・ダーシュ村の学校での読み書き四則演算の成績が悪く、ペストーニャ先生とユリ先生から卒業許可が下りなかったのだ。
地頭は悪くないのにカッコつけて勉強をさぼるからだ。
対してクレマンティーヌは法国で基礎教育を受けていたおかげで、ウルフ竜騎兵団に参加できている。
「作戦次第だけど……本当にカストディオ団長が1対1を4万回作戦やろうとしたら、そっちの門にゴ・ギンとクレマンティーヌを派遣するよ」
「閣下は?」
「俺は突撃隊と火消しに跳び回ろうと思ってるよ」
突撃隊か……閣下の同族は強者ばかりで恐れ入る。まだ俺の知らない強者がまだまだ世界にいるのだと知らされる。
ゴ・ギンの心からの感嘆に、ジョンは(やべぇウルフ竜騎兵団に傭兵モンスター召喚し過ぎたか)と冷や汗を流していた。
突撃隊の〈
幾らなんでもそれはないと思うので、なんとか良い勝負になるよう手加減しようと考えるジョンだった。
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果敢に進む我等 誇りと共に ローブルの聖騎士
適当な替え歌で聖騎士たちを鼓舞していたジョンだったが、使いの者に呼ばれ、ネイアを伴い作戦指令室まで案内される。
作戦指令室ではレメディオスたちが地図を広げ会議を行っていたようだ。ジョンが入ると籠城戦の配置の説明が始まる。
この都市にいる聖騎士、神官、軍士そして壮健な男は8割方が西門とその付近の市壁の上に配置される。残り2割は東門だ。ウルフ竜騎兵団には南北の市壁を守ってほしいとの要請だった。
そして、指揮官は西門がレメディオス・カストディオ団長。東門がグスターボ・モンタニェス副団長。総指揮官としてカスポンド・ベサーレス王兄と言う形になっている。総指揮官は都市内部の指揮官詰め所にいて外には出ない。
攻城戦で破壊した東門の落とし格子は、この1週間でウルフ竜騎兵団の工兵隊が綺麗に直していたので問題ない。
「平地での戦いになるから打って出るのは論外だが……援軍の当てはあるのか?」
援軍の当ても無い籠城戦は無謀だと援軍の当てはあるのかと、ジョンも聞かざるを得ない。
ジョンとしては東門から撤退戦をしてくれる方がありがたい。
「貴族の皆様を南への使者として送り出しておりますので、直に援軍が来る筈です」
「兵糧攻めにされても、しばらくは〈
「王兄カスポンド様もいらっしゃいますから、南に見捨てられる事は無いかと」
次期聖王の座の為に逆に見殺しにされないかな、と思うジョン。
「……包囲殲滅戦とか懐かしすぎて涙が出るな」
ダーシュ村攻防戦を思い出し、遠い目になるジョンにグスターボが尋ねる。
「大使閣下は包囲殲滅戦の経験がおありで?」
「殲滅される方だがな。まだ弱かった時、故郷では幾度となく人間に包囲され殲滅され、故郷を焼かれたものさ」
あいつら開拓村を焼き払いにくるんだぜ。あんまり来るから最後はもう祭りだと思って戦ってたけどな。
「人間が……亜人の村を、ですか?」
「モンタニェス副団長。ところ変われば……だよ。結局、弱ければ何処だって、誰だって、襲われるんだ」
「大使閣下は、その……人間を憎んではいらっしゃらないのですか?」
「もちろん恨んでるぞ? ああ!君たちは恨んでないぞ? 襲ってきた人間とは別人だからな」
その言葉にネイアは思う。故郷を焼かれ、家族を焼かれ、幾度となく追い立てられ、それでもその亜人とこちらの亜人は違うと自分は言えるだろうか。暴力だけではない。ジョンは心の強さが違うのだ。本当に――弱いと言う事は罪なのだな、とネイアは改めて思う。
それで作戦の詳細だが……と、レメディオスが語り始める。
「広い平野で戦った場合、後ろに1匹もやらないというのは無理だが、門など限られた範囲なら1度に私を襲ってくる敵の数は限られてくる。であれば私が縦横無尽に動けば門の後ろに敵をやらない事も容易だ! 疲労回復ポーションを飲みつつ、1対1を数万回繰り返せば勝てる」
西門の戦術を尋ねたところレメディオス・カストディオ団長は大きな胸を張って得意げに作戦?を語る。グスターボは『こいつ本気か』と言う表情をしている。対照的にレメディオスはとても良い笑顔だ。グスターボに代わって
「カストディオ団長ならば、民に被害を出さない為にそうすると思っていた。しかし、“豪王”バザーのような強者がいた場合、作戦が破綻する」
その通りだとレメディオスが頷く。頭を使う事は苦手だが、戦闘に関してはちゃんと?頭が回るのだ。
常識を語り、団長を止めてくれるのかとグスターボが縋るような視線をジョンへと向ける。
「なので、ウルフ竜騎兵団から強者を2名西門に派遣しよう。“豪王”バザーを討ち取ったゴ・ギンと戦闘メイド見習いのクレマンティーヌだ。あとで手合わせして強さを確認してほしい」
今度はジョンに向けて、グスターボの『マジかこいつら』と言う表情が向けられる。彼が顔をしかめて鳩尾のあたりをさするのは胃痛が出たからだろう。
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亜人の陣地に大きな動きあり――その報告にネイアはついにその時が来たと知った。
間違いなく敵が攻めてくる前兆だ。
ジョンから借り受けた武装に身を包み、都市の中を走る。
すれ違う民たちが目を丸くして自分を凝視しているのが分かった。
借り受けた弓の素晴らしさに目を奪われ、そしてこの都市を支配していた豪王バザーの着ていた鎧に驚愕しているようだった。鋭いネイアの聴覚が「あの戦士は誰だ」とざわついているのを聞き取る。その答えに「あの魔導国の従者だ」とか「魔導国から来た女だ」との声が上がっている事も。
(私は別に魔導国の人間じゃないんだけど……)
こうして間違った話を耳にする度、どんな噂が立っているのか知りたいような知りたくないような気になる。ただ魔導国の迷惑になるような噂があれば、それははっきりと否定しなくてはならないだろう。
(でも、魔導国の従者か……)
少しだけ嬉しくて、思わず含み笑いを浮かべる。以前ならば、それを見かけた気の弱い人間から小さな悲鳴を上げられるところだが、今はそんな事もない。今回は死に化粧になるだろうと覚悟して、気合を入れてメイクもしてきたのだ。
そんなネイアが向かうのは配置場所である西門に隣接した市壁。亜人の兵力のほとんどが展開されている方面だ。ジョンの下にいたネイアが一番遅かったらしく市壁の上にはこの場所を守る為に集められた民たちが多数いた。
側塔へ入り、市壁への階段を一段飛ばしで駆けあがり、指示された持ち場に急ごうとした時、西門市壁左側部隊の指揮官である聖騎士に声を掛けられた。
「魔導国の部隊は――配置に付いたのだろうか」
ネイアは頷く。ウルフ竜騎兵団は既に南北の市壁防衛に付いている。判り切った事をどうして彼が尋ねるのだろうと考え、ネイアが気が付く。あの軍勢を前にすれば、聖騎士だって不安なのだ。
「はい。ウルフ竜騎兵団は南北の市壁防衛に付きました。ここは――西門と東門は私たち聖王国が守るべき場所です」
ネイアの強い光を宿した瞳に聖騎士は一瞬口ごもり、引き攣った唇を無理やり歪めて笑った。
「……そうだな。従者ネイア・バラハ――死ぬなよ」
「はッ! ありがとうございます!」
礼をし、振り返ると持ち場へ駆け出そうとするネイアだったが、数人の民兵らしき男たちとウルフ竜騎兵団のゴブリンたちが大きな鍋を運んで階段を上がってきた。この寒空に似つかわしくない汗の量で既に何往復もしている事が見て取れる。何百人もの兵の糧食を運んでいるのだ。
彼らの邪魔になってはいけないと壁に寄って場所を譲ると、男たちとゴブリンはその前をせわしなく通り過ぎていく。だが、その中の一人が僅かに顔を上げ、ネイアの顔を見た。その瞬間、男は驚きの表情を浮かべた。
「あれ? あんたは
「そうです。私は魔導国大使ジョン・カルバイン閣下の従者をさせて頂いています」
ネイアと男の話が聞こえたのか、鍋を運ぶ他の民兵たちも立ち止まり、ネイアの顔を驚きの表情で見ている。
ジョンの従者として知れ渡っているのだと思うと、照れくさい反面、鼻が高い。
ネイアの内面に湧き起こる感情などつゆ知らず、男は遠慮がちに尋ねた。
「えーと、その、実は魔導国大使閣下?ウルフ竜騎兵団団長様?の事で少し聞きたいんですが――」
「はい。閣下の事なら、私が知ってる範囲でお答えします。と言っても、私は魔導国の者ではないので、残念ながら詳しく知らない事も多いですが」
「え!? しかしあん――んん、貴女様は魔導国から来たのではないんですか?」
「え!? い、いえ、違いますよ。私は聖王国の従者です」
「え? そうなのか?」
「そうですよ? だから敬語なんて使わなくてもいいですから……」
ざわめきが降ってきた。見れば、飯がこないからか、いつの間にか市壁にいた民兵たちがこちらの様子を窺っている。
注目を浴びて、かなり恥ずかしい状況になってしまったが、ジョンの名前が出てしまっては無様なところは見せられない。いっそ全ての兵に聞かせてやれと言う気持ちで堂々と胸を張った。
「えー、じゃあまず……その鎧はあの山羊の化け物の親玉が着ていた奴だと思うんだけど、もしかしてあんたが倒したのかい?」
「いえ、違います。この鎧を着ていた豪王バザーは閣下の部下ゴ・ギン様が一騎打ちで屠り去ったのです」
おお、という声が上がる。
中に紛れて「あの化け物を!」「一騎打ちなんて信じられない」「広場で訓練してるの見た」「レメディオス団長より強かった」「すげぇ……惚れちまうぜ……」などと言った声が聞こえてくる。
囁き合いや独り言のつもりなのだろうが、耳の良いネイアには十分な声量だ。
自分が尊敬している人物へ他者も同じ様な感情を抱いていると言うのは非常に嬉しい。
(閣下のされている事は無駄じゃないんだ。分かる人にはやっぱり分かるんだ)
「そ、それじゃ、あのウルフ竜騎兵団団長様は今回も俺たちに助太刀してくださるのかい?」
一転して、ざわめいたギャラリーが沈黙する。その反応は、この質問こそが核心なのだとネイアに即座に理解させた。
「……閣下は既に加勢を始めて下さっています。カストディオ団長を鍛え、民兵の皆さんを訓練し、西門に団の強者である御方2名を派遣し、更に南北の市壁の防衛、戦えない女子供の避難の準備と八面六臂の活躍です」
ネイアは言葉を区切ると周囲の様子を窺う。緊張で喉がカラカラだ。そして思う。聖王国に来てから、どれほどの事をジョンがしてくれたのか、を。
「他国の方がです。本来、私たちの生命に最も高い価値を付けるのは私たちであるハズなのに、閣下は私たち弱き者の為に尽力されて下さいます」
慈悲深きジョン・カルバイン。魔導国大使閣下の姿を思い起こせば、瞳に涙が浮かぶ。
「私たちは、それに、それの温情に甘え続けて弱いままでいて良いのでしょうか? 強者が弱者を助けるのは当たり前と甘えて良いのでしょうか?」
話を聞いている男たちの表情が曇る。罵声などが飛ぶかとネイアは心の中で身構えるが、それでも言葉を紡ぎ続ける。
「違うのではないでしょうか? 私は違うと思います。弱い者が全てを奪われるこの世界で、助けて下さる強者こそ奇跡の存在なのです。その温情に感謝し、私たちも強くならねばならないのです」
「弱いと言う事は悪なのです。強くなり、守るべきものを自らで守らねば、受けた温情に応えなければ――人でも、神でも、獣でも、大切なものを守る為に戦う世界で、弱い事を言い訳に甘え続けるなら、それは獣にも劣る所業です」
「魔導国の、閣下の、温情を、高潔な精神を知ったからこそ、私たちも先ず自分の力で戦わねば――自分たちで強くならなければ、どうして……助けて下さいと言えるでしょうか」
ネイアの独白が終わった。周囲は、市壁の上は静まり返っている。
「――そりゃそうだよな。普通、他国の部隊がここまでしてくれないよな。飯も寝床も、風呂だって、ここまでしてくれた事に感謝しないとバチが当たるっていうもんだ」
「だな。もう俺たちは十分助けて頂いている。今度は俺たちの番だ」
「……あの人は冷徹だが、それでも多くの人が助かる為の手段を選んでくれた。あの時、死んだ子供を抱えて悲しそうにしてたな」
「ああ、俺も見た。確かにこの国に最も高い価値をつけるのは俺たちだからな。――妻は俺が守る!」
「何の話をしてるんだ?」
「俺らはこの都市を解放する前に助けられた者なんだけど――」
好意的な声があちらこちらから聞こえてくる。ジョンの考えを理解してくれる者がこんなにもいる事にネイアの胸は熱くなる。
ジョンの、魔導国の話でざわめく民兵たちの前を通って持ち場につき、ネイアは敵の陣地を睨む。
大軍だ。こちらを一飲みに出来そうな兵力だ。これが攻めてくるのだ。
胃がひっくり返りそうだった。
要塞線にいた父親は幾度もこんな思いを抱いて戦っていたのだろうか。ネイアは空を見上げる。ネイアの気持ちのような曇天の空を。
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そうしてネイアたちは勇敢に戦った。
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西門、左側の市壁の上で《完全不可視化》したルプスレギナは困っていた。
(あちゃー頑張るネーちゃんたちを楽しく観察してたら、みんな死んじゃったっすよ)
ネイアを中心に亜人たちと死に物狂いで戦う民兵たちの表情、その無様な努力が眩しくて、わくわくしながら戦闘を観察していたら、気が付くと最後に残ったネイアも亜人たちに串刺しにされて死んでしまったのだ。
ジョンにネイアを見ておいてくれ、と頼まれ、ここに来ていたのだが――多分、絶対、死ぬまで見ているのは指示の意図としては違うだろう。
「……リチャード、シンタロー、キッシー。市壁の上の亜人を掃討しなさい」
《完全不可視化》を解除して、護衛に連れてきた〈
「さて、上手くいくかしら」
死の宝玉の埋め込まれた聖杖を構えると、ルプスレギナは《蘇生》を唱え始めた。
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ネイア・バラハは瞬きを繰り返し、ぼんやりとした視界を元に戻そうとする。
何かあった気がするが、何も覚えていない。ただ、自分は亜人たちと戦っていた筈だ。どうしたと言うのか?
「……危ないトコだったっすね」
静かな声がし、ネイアは半眼を向ける。
そこには静かにこちらを窺う夜の月のような金色の瞳があった。
金色に輝く狼の瞳。
「お、く、さ、ま……」
ネイアは思わず手を伸ばす。不安な幼子が親に手を伸ばすように――
「ネーちゃん。無理に動いちゃダメっすよ。もう大丈夫だから休んでるっす」
必死に首を巡らすと、〈
横たわるネイアの前に立つルプスレギナは聖杖で、トンと地面を突く。
〈
ネイアに高位の治癒魔法を掛けてくれる。
今この瞬間も戦いは都市のあちこちで起き、1秒ごとに人の生命が散っているだろう。しかし、この瞬間だけはネイアはそんな事を忘れてしまった。自分を助ける為に駆けつけたルプスレギナに慈母を見たのだ。
「〈
「す、べて……たおされた……で、すか?」
「こっちを狙ってるオーガ弓兵がいたから、魔法で焼いといたっすよ。登ってくる奴らはリチャードたちが梯子を壊してるわ」
外側、亜人の軍勢がいる側の市壁の方から亜人たちの悲鳴が聞こえてくる。そして落下し、大地に激突する音も。
ルプスレギナはポーション瓶を取り出す。非常に綺麗で繊細な瓶だった。中に入っているポーションの効能は分からないが、非常に高価な物だと言うのは見て取れる。
「だ、いじゅうぶです、おくさ、ま……」
「遠慮しちゃダメっすよー」
ルプスレギナは遠慮なく瓶の中身を惜しげもなく振りかけた。先ほどまであった脱力感は溶けるように消えていく。ただ、身体が怠い。自分の中の何かが削れたような気がする。それと同じくらい、いやそれ以上に身体の芯に熱が溜まっている感じがする。
複数の足音が聞こえ、視線を動かすとこちらに向かって走ってくる聖騎士と民兵の姿があった。
「ウルフ竜騎兵団の皆様! ここまで助けに来て下さり、ありがとうございます!」
「気にしなくて良いっすよ」
ひらひらと手を振りながら歩き出したルプスレギナに寂しさを感じたネイアは、思わずルプスレギナのスカートに手を伸ばしかけ、あまりに恥ずかしい事をしようとしていると気が付き、ぐっと堪える。
「あ、〈
「……この辺りの人たち、まだ息があるっすよ。ネーちゃんも含めて急いで安全なところまで運んで下さいっす」
「あの、いま、何か回復魔法を……?」
「そうっすよ!回復魔法っすよ!(蘇生魔法じゃないっすよ!)」
ルプスレギナは慌てたように叫ぶと、ふわりと浮かび上がった。
「それじゃ私は右側も見てくるから、後はよろしく頼むわね」
空に飛び上がったルプスレギナを見送り、聖騎士がネイアに顔を向けた。
「従者ネイア・バラハ、そのまま連れて行きたいのだが……担架の材料もないので少し難しい。立てるか?」
「ええ、なんとかなります」
ネイアはゆっくりと立ち上がる。足が震え、体重が掛かると痛みが走る。民兵の一人が肩を貸してくれ、それにネイアは掴まる。
市壁から下を覗き込むと西門を守る部隊の〈
空に消えて行ったルプスレギナの姿を探し、影も形もない事を残念に思いながら、ネイアは側塔へと入って行った。