オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
原作準拠シーンはキンクリしてるから、原作14巻読んでない人は?になるかも。
アローアロー!こちらジョン・カルバイン。
ただいま各階層守護者および統括、ランドスチュワードの皆さん大激怒。激おこぷんぷん丸です。
あ、ルプーも怒ってる。
それもこれもバルブロが『不死にして不滅なる王』とか名乗るからだ。
馬鹿なの?死ぬの(もう死んでるけど)?
どうしてよりによってモモンガさんと被るようなのを名乗るかなー。
『黒衣の王』とか『夜の大王』とか『悪の帝王』にしてれば良かったのに。
みんなをなだめるのはモモンガさんにお任せして、俺は珈琲でも飲んでようっと。
ルプー。今日の珈琲は甘い香りがするね。どこの豆?粉(コナ)?
細挽きかー(違います。コナと粉の勘違いです)。
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想定よりもゆっくりと侵攻しているバルブロのアンデッドの軍勢。それが占拠する街の領主の館で、バルブロはソファに腰掛け、優し気な声を――自分でも驚くような――優し気な声を、目の前の娘へ掛けていた。
「例えば……だ」
醜い人面犬を何頭も従え、膝の上のそれを撫でながら、見目麗しい娘へ言葉を続ける。
「この花だ。君は花で言えば、このぐらいの若さと言える。考えてみたまえ、お嬢さん。この花は咲き盛ってしまえば、あとは枯れ行くのみ……悲しいとは思わないか?」
緊張と怯えから硬い表情の娘へ向け、咲き誇る寸前の蕾の香りを楽しみながら語りかける。人間であった頃には持ち得なかった貫禄と余裕があると自分でも思う声だった。そのバルブロに媚び諂う声をあげたのは人面犬だ。
「彼女は16歳。正真正銘の生娘!生命が漲ってて美味しそーっでしょ?バルブロ陛下~~」
ウシャシャヒャヒャヒャと下卑た声をあげる人面犬に苛ついたのか。バルブロは、唐突に人面犬を床に叩きつけ、その頭を踏み潰した。真っ赤な血の花が床に咲き、部屋に濃厚な血の臭いが満ちた。
「……こういう手合いでも生きる価値はあるかと犬と人間の死体を合体させて造ってみたが、下賎のものは所詮この程度か」
自ら作り出したものを自らの手で奪う。生殺与奪を意のままにしている優越感、全能感がバルブロを満たし、生前以上に冷静なダンディさを演出してくれていた。
「どうだね、お嬢さん。一つ選択してくれないか?今のままの若さで永遠を楽しみたいとは思わないかね?」
そうして、バルブロはまた一人、
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バルブロの姿を遠見で観察していたジョンは、モモンガの執務室のソファに深く腰掛けた。
「なんか。自分の嫁を喰い殺してからハーレム作ってるし、ゲシュタルト崩壊してない?吸血鬼化で人格変わったっけ?」
「人間種への帰属意識は薄れますけど、家族や仲間への帰属意識は私は変わりませんでしたね。もともと、そういう人格だったのでは?」
モモンガの言葉にそう言えば、そうだったなと思い返し、納得するジョン。首周りのたてがみのような毛を掻きながら、モモンガが続けた「クレマンティーヌかブレインで実験してみますか?」との問いには、首を横に振った。
「止しとくよ。折角の現地基準での強者なのに勿体ない」
そして、珈琲をすすりながら言葉を続ける。
「この前まで
シャルティアによって、吸血鬼化したバルブロは送り込んだ当初は
「死の螺旋とか言う現象。実に興味深いですね。アンデッドであれば、こんな方法で力を増せるのか……」
モモンガの答えとそれに続く呟きに、耳の良いアルベドが思わず「では、モモンガ様も!?」と食いついた。
「いや、私は私と言う器の限界まで力を満たしているのだ。恐らく器の方を広げなければ、同じ方法で力は増えまい」
食い気味のアルベドへ苦笑の雰囲気を漂わせ、モモンガは100Lvの自分はこれ以上は強化されないとの見解を示す。
「なんでさ?」
「その理屈で言うなら、ナザリックの下僕の分だけ私が強化されていないとおかしいからさ」
「あーそう言う事か」
ジョンの問いにも同じように既に配下にある多数のアンデッド分だけ強化されていない事を例にあげて説明するモモンガだった。確かに既にナザリック内部のPOPモンスターもモモンガ配下と言えるし、毎日毎日モモンガが生産しているアンデッドの総Lvを考えたら、強化されるならとっくに101Lvになっているだろう。
「ふむ……シャルティアの支配を逃れたわけではないのだな」
モモンガは40Lv前後になったと思われるバルブロがシャルティアの支配下にある事を、同席していたシャルティア本人に確認した。シャルティアは淑やかに返答しながらも、後半は、瞳に獣の凶悪さを煌かせる。
「はい。いまだに私の支配下にあるでありんす……あのものを滅ぼさなくて良いでありんすか?」
「良い。これも実験だ。王都へ侵攻するのであれば、あとは自由意志で好きにさせよ」
以前、説得したように『不死にして不滅なる王』を名乗っている事は構わないとモモンガは言うが、やはりシモベたちとしては許せない呼称のようだ。
そんなシモベたちを愛おしくめでながら、モモンガは「さて」とここまでの観察の経過をまとめに入った。
「デスナイト、ソウルイーターの発生までは確認できました。恐らく40Lv手前までのアンデッドが発生し得るようですが、この辺りで頭打ちですかね?」
「万の単位くらいで終わりっぽいね」とジョンは両手をあげてみせた。「まーここまで10倍くらいの比率で発生Lvが10Lv毎に上がってたから、この先は現実的ではないかな?」
「そうですね。これで行くと100Lvアンデッドを自然発生させるには100億人と運が必要になります。法国で第7位階天使召喚が人類最高とされてましたから、人口的にも、こんなところでしょう」
戸籍を持っているのが近隣諸国では法国だけであることもあり、王国の人口などは法国が推測したものしかない。それで見積もっても、王国全土で1000万人もいないのだから、王国北部だけであれば10万規模の軍団がほぼ最大数だろう。
「さて、それじゃ皆の機嫌も損ねてる事だし、そろそろバルブロには的になってもらうかい」
「そうですね。もう良いでしょう。……シャルティア。あのものに王都へ進軍せよと命令を下せ」
「はっ。ご下命賜りました」
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王都から半日も離れていない平野には、アンデッドの南侵の報を受けて簡易的なものであるが、対アンデッド用の陣地が形成されており、そこに入ってアンデッドを迎え撃つ作戦だった。
陣地は街道を封鎖する形で作られているので、アンデッドの軍勢がこのまま王都へまっすぐ向かってきたら効果はあるが、向きを変えられたら陣を作り直す必要がある。そんな不安もあったが、物見の話ではアンデッドの軍勢は真っ直ぐに向かってきているとの事で、杞憂に終わりそうだ。
近隣貴族たちに王都の民、難民の中でも戦える男などをまとめ上げた王国の決戦兵力は40万を超える。
これは毎年の帝国との戦いで動員される大兵力の2倍を超える。よくぞこれほどの軍勢を集めたものだと賞賛したくなる数だが、内実は寄せ集めであり、碌な武具がなかった為、手製の棍棒を持っている者たちも多い。
ただ、それに反して戦意は高い。追い詰められたネズミの最後のあがきのように、アンデッドの軍勢の――バルブロ不死不滅王の――残忍さを知る者たちが自分たちの大切なものを守るという思いだけで武器を取ったに過ぎない。もし、勇気に少しでもひびが入れば王国軍はあえなく瓦解するだろう。
戦闘準備だけで2日も経過してしまった。
全ての布陣が完了した頃、十分な時間を与えてやったと言わんばかりの堂々たる行進で、アンデッドの軍勢がついに姿を見せた。その数は13万に及ぶ大兵力だった。ほとんどがゾンビ、スケルトンと言った低位アンデッドで占められていたが、デスナイトやソウルイーターと言った致命のアンデッドも少数ながら存在していた。
そして―――その夜、
王都から飛来したパワードスーツにより、バルブロはヘビーマシンガンでハチの巣にされ、滅びた。
不死にして不滅なる王を名乗った男のあっけない最後だった。
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《さて、行きますか》
《私たちの出番ですね》
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突如――バルブロの滅んだ跡を中心に漆黒の闇が生まれる。
ぽっかりとした黒い穴は何処までも――何処までも、何もかも吸い込みそうな漆黒の色を湛えている。何処から見ても真円に見えるが、実際は球体状の深淵。
それはかつて、神都に出現した巨大な深遠の穴だった。
深淵の穴から湧き出るように、身長2mに達する逞しい青い人狼と漆黒のローブを身にまとった
龍の形をした雷は周囲のアンデッドに着弾すると次々とアンデッドを滅ぼしていく。眩い雷光が周囲を照らし、しかし、深淵の穴から出現した2つの存在には何の痛痒も与えていないようだった。
左肩のウェポンラックに光が吸い込まれ、別の魔法が吹き荒れる。
ジョンとモモンガを炎の嵐が飲み込み、吹き荒れる。
〈
風を踏み、
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慌てて王都とは別の方角へ飛び出したように見えるパワードスーツ。その姿にジョンは内心で首を捻った。
《どう見ても罠ですよね》
《引っかかる奴いると思ってるのか?》
《さっそく掛かってるようですけどね》
サモン・ムーンウルフで久しぶりの眷属召喚。移動速度が尋常ではない狼を地に放つ。既に周囲には不可視化したバイアクヘーを偵察に飛ばしている。何度かの実験の後、バイアクヘーの飛行速度は地球上で時速70km程だが、この世界では法則が違うのか
《勢子じゃ……ない?》
《転移で包囲するかもしれないし、分断したいのかもしれません》
たとえ個々が離れようとも、既に離れた位置に控えるシャルティアとルプスレギナと〈
《こんなので分断されるとか……PvPやった事ないのか?》
普通に〈
やがて、諦めたのか。彼らにとって都合の良い距離となったのか。
パワードスーツは急に振り返り、ヘビーマシンガンを構えた。
唸るような音と共に大量の銃弾が吐き出されてくる。
(あー懐かしい音だぁ。でも……)
ドングリよりも若干大きめの弾を大量に吐き出してくるので、面の攻撃を回避するのは困難だ。特殊技術〈二指真空把〉を使えば弾を投げ返す事も可能だが、ジョンはそのままパワードスーツに突っ込んでいった。
案の定、魔法の宿っていないヘビーマシンガンの弾は、全て装備に無効化されて、ジョンの身体を逸れていった。
慌てた様子のパワードスーツに、ひょっとしたら戦闘は素人なのか?と思い始めたジョンは牽制に軽いジャブを放つ。
ゴガン、とやたら硬質な音が響き、3mを超える巨体がノックバックし……そのまま墜落していった。
「え?」
死んだふりかと思い、下に展開していたムーンウルフを近くまで寄せてみたが、墜落したパワードスーツはピクリとも動かない。
殴った感じ、特殊技術で推測する相手のレベルは30Lvもなかったように思う。それならば牽制の1発で即死するのも納得だが、装備と中身が余りにも不釣り合いだ。
(マジか……まーモモンガさんの方にもお客さん来たみたいだし、もう少し時間潰していくか)
実のところ、ネタビルド、ロマンビルドと言われようとも、仮にも廃人であったジョンの――100Lvアタッカーの牽制パンチ。こちらの世界の
モモンガの方が本命らしい。ただ彼がナザリックの外で力を振るったのは、カルネ=ダーシュ村と神都のみ。対策をしているカルネ=ダーシュ村周辺で情報を抜かれたとは考え難い。神都になんらかの眼があったと考えるのが自然だろう。
帝国、聖王国、竜王国、評議国。
法国の情報からすれば、評議国以外は外せそうだ。
そうすると、これは国境を接する事になる評議国の手のものなのか。
それとも潜んでいたプレイヤーなのか。
地に降り、パワードスーツを調べるジョンは仮想敵国となりそうな国を考えていた。戦闘に備え、料理長の料理バフもたっぷり貰ってきているので、いつになくシリアスを維持できる。
勝手知ったるパワードスーツ。
外部操作でハッチを開けると、中では人間の男が
胸部装甲に括りつけられたアダマンタイトプレートを見ると、どうやらアズス・アインドラらしい。
(ちょっと弱すぎだ。まさか牽制で即死とか。まー《死者との会話》で情報とれば良いか)
そんな事をジョンが考えたのと、リク・アガネイアが「世界断絶障壁」を展開したのは、ほぼ同時だった。それと同時にジョンの〈
《ルプー!モモンガさん!シャルティア!》
《カルバイン様が急に〈
《こちらの〈
ルプスレギナとだけ《伝言》での会話が出来ない。
《伝言》はモモンガとシャルティアには通じる。ルプスレギナには通じない。そこから考えられる事は……
《……
《そのようですね。この結界は
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《これ以上の情報は無理のようですね》
《OK。ヘルプ入りまーす》
モモンガと白金鎧リク・アガネイアの戦闘場所の上空で待機していたジョンは降下に移る。自由落下に〈
《転移した相手を追い掛けるのに手間取った割に知覚が早い。世界絶対障壁を越えられたからか?》
超位スキル〈
《いつの間に超位スキルの同時発動なんて出来るようになったんですか?》
《なんか出来そうな気がしたから、やったら出来た!》
《ふざけるなよ、駄犬。何やったら強化されたか実験が必要だと言っただろう》
《……ごめんなさい》
ジョンの一撃で止めを刺された鎧の中身は空っぽだった。
戦闘していたモモンガの感触では、空っぽの鎧で白金鎧の正体は遠隔操作で武器と鎧を操っていたのではないだろうかと言う感想だった。
《それなら、モモンガさん。壊れた鎧に〈死者との会話〉試してみましょう。ハーフゴーレムとかだったなら、情報が取れる筈です》
《冴えてますね。……ジョンさん、常に食事摂りますか?》
まったく、強くなれるなら私だってそうしたいのに……ぶつぶつ零しながら、壊れた鎧に〈死者との会話〉を試すモモンガだった。
《遠隔操作で決まりかな?……今こそ使いますか?〈
《《強欲と無欲》に貯めた
《潜在的な脅威度は高いから、使っても良いんじゃない。情報を制する者が世界を制する!だよ》
《そうですねぇ……試してみますか》
何れ何処かで〈
「
勿論、こんなセリフなどいらない。それでも問題なく魔法は発動し、モモンガの眼窩に宿る赤い灯火は小さくなる。
「なんだ……これは……」
まるで頭に新しい情報が書き込まれていくような不快感。そして、同時に感じる巨大な何かと結びつくような幸福感。人間だった頃と同じような幾つもの感覚がモモンガを襲う。
その波が去った後、モモンガはこの世界での〈
「白金鎧の正体を我に知らしめよ!」
GM「遠隔操作された鎧だねー」
( 'д'⊂彡☆))Д´) パーン
《質問の仕方ぁ―――ッ!!》
《ああ!経験値が!!》
《プレイヤーかどうか質問すれば良かったのか!!》
今日も《伝言》漫才はキレッキレであった。
がっくりと膝をついた二人の超越者たちであったが、部下が近くにいる状態でいつまでもがっくりしてるわけにもいかない。
立ち上がり、膝の土を払う。
《ああ、勿体ない》
貯めたポイントを失効した主婦のようなノリのモモンガの呟きに、ジョンは悪魔の囁きを以って答えた。ねぇ、モモンガさん……。
《……そこに40万の兵士がおるじゃろ?……ここに《強欲と無欲》があるじゃろ?》
ゴクリと、無いハズの唾をモモンガは飲み込んだ。空っぽの眼窩に燃える灯火が、目を細めるように小さくなった。
《強欲と無欲》を満タンに出来るチャンスが目の前に転がっている……これは。
《やるか!》
《おうよ!》
こうして、王国史上最恐最悪の大量虐殺が始まったとは、歴史の何処にも記される事は無かった。
わるいこには超位魔法〈