オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
カルネ=ダーシュ村の広場は村人達の声と音で騒がしくあったが、どこか空虚な――悲しみを抱え、堪えて、それでもあえて明るく振舞っているような、そんな空々しくも力強い空気があった。
共同墓地での埋葬、葬儀はジョン達《チーム時王》の助力もあり、一度で終える事が出来た。
その後は、弔いの宴だ。ジョン達《チーム時王》が用意したとん汁とバーベキュー、インベントリから出した酒に水、村人達からすればとんでもないご馳走だったが、ジョン達は開拓村でつくったものだと笑って話す。何れはこの村でも、村人達でも作れると笑った。
何度も村を焼かれたが、何度も村を再建した。
様々な種族と協力し、様々な種族と知恵を出し合い、過去の人々から知恵を学び、失敗を繰り返して作り上げたのだと楽しそうに彼らは笑う。
もう逢えない村人達はたくさんいるけれど、自分達はそうやって生きてきたのだと笑う姿に、村人達は眩しそうに目を細めた。
いつか、自分達もこれほどのものをつくれる様になるだろうか。
否、自分達もこうなりたい。どのような苦難も悲しみも、笑って話せる彼らのようになりたいと村人達は思った。
「あ、悪りぃ。リーダー」
「時間か?」
「ああ、またな」
村人達にせっせとバーベキューを焼き、焼き方を教えていた《チーム時王》の面々が空に溶けるように消えていく。
急に消えた恩人達に驚き、一人残った青い人狼ジョン・カルバインに「あの方達は、一体何処へ?」と聞けば、彼は寂しそうに笑って答えた。
「さっき何度も村を滅ぼされたって言ったろ? あいつらは今、実体が無い幽霊みたいなもんさ。俺の力で現世に引き止めているけど、そんな長い時間は実体を保てないんだ」/(拠点NPCみたいに出っぱなしだと良かったのに。……デスペナでリビルドも出来るし、それも利用してきたから、今更文句を言うものじゃないけど)
その言葉に村長は思う。思ってしまった。
狼とは時に聖獣とされると言う。
死んだ者を現世に留めておくなど人間業ではない。この方は伝説にある竜や英雄の如き神の御使いなのでは……と。
殺された仲間を思い、寂しげに笑う人狼の姿に村人は幻視してしまった。
その村が幾度滅ぼされようとも、その人狼は弱きモノ達へ、その手を差し伸べる事を止めなかった。
幾度も村を滅ぼされ、幾度もその身を滅ぼされ。
また、救えなかった。また、守れなかった。そう慟哭し、大地を叩き、何も出来ない己を呪い。それでも諦められずに戦う力を、守る力を磨いてきたのではないかと幻視してしまった。
それら全ては事実ではなかったが、村人達はそう信じてしまったのだ。
そんな村人を他所にジョンはマイペースにのんびりとした調子で、これは本当はあいつらと合奏する曲なんだがと何処からか取り出した弦楽器で演奏を始める。
それはこの苦痛多きこの世界で、それでも喉が枯れるまで希望を謳う歌。手を広げ、腕を伸ばし、自分にも何かが出来る筈だと信じる歌だった。/お好みのBGMをおかけ下さい。
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(サポートキャラクターも眷属召喚も制限時間は変わっていないんだなー。呼び出しっぱなしで開拓するのは無理かぁ)
ジョンは村人達のシリアスを他所に、気楽に演奏しながら、気持ち良く歌っていた。
泣き、笑い、よく食べた事で、子供達はうとうとし始めている。そんな子供達を見ながら、生き残った大人達はこれから子供をどう面倒見ていくのか相談し始めているようだった。
男手など10人を切っているが、それでも誰も子供達を持て余したり、見捨てようとしないのは好感が持てる。
そんな周囲を見回しながら、のんびりとしていたジョンにモモンガからのメッセージが繋がる。
村を襲った騎士達から得られた情報は、村人よりも遥かに詳しく世界情勢をモモンガへ教えてくれた。
ジョンが疑った通り、彼らは囮部隊であり、王国戦士長を抹殺する為の餌であったようだった。王国への内部工作により戦力を削がれた戦士長は、本日中にはカルネ村で本命部隊に捕捉され、抹殺されるだろうと言うのが彼らの見方のようだ。
《それでジョンさん、すみません。隊長格が大した情報を持って無くてですね。副隊長が実質的な隊長だったようなんですよ。ジョンさんに取り置きを頼まれていた死体がそれだったのですが、情報の為にパンドラ(タブラさんモード)に(脳を)食べさせてしまいました》
あちゃーと残念がるジョンへ、モモンガは慌てて言葉を続ける。
《ああ、でも他の騎士で蘇生実験をしたら脳が無くても蘇生できましたから、大丈夫ですよ。ええ、蘇生させた騎士をもう一回殺して蘇生したら灰化したので、騎士は5~10Lvの間で間違いないようです。実質的な隊長だったわけですし、蘇生1回ぐらいは平気な筈です》
情報の為なら止むを得ない事であるので気にしていないとモモンガへ伝え、それよりもモモンガが取ろうとしている行動が彼にしては随分と思い切ったものだと指摘する。
《彼らの言う戦士長が、私達から見ると随分と低レベルみたいなんですよ。それ以上の強者の情報もありませんし、そうであればプレイヤーはまだ近くにいない。もしくはまだ活動を始めていない可能性もありますが、廃村でジョンさんが拾ってきた芋を見ると転移時間が大きくずれている可能性の方が高そうです。
後はですね。一緒に冒険しましょうと言ったじゃないですか!
だから、いっその事、世界を征服するつもりで冒険するのも良いかなと思いまして。きっと、るし★ふぁーさんや、ウルベルトさんなんかが悔しがる大冒険になるでしょうね!》
話している内にモモンガの口調が何時に無く高揚してきているのが、ジョンには分かった。
《おおッ! モモンガさん、やる気だねッ!!》
《ええ! ……それでこの殺戮劇ですが、王国と法国は当事者ですが、帝国は関わっていないようです。ですが、その村を利用して周囲三カ国に揺さぶりをかけます》
などとモモンガとメッセージで話している間に村人達は幾つかに分かれ、荒らされた家屋の片付け、子供達の世話、宴の片付けを始めていた。日が暮れる前に今晩の寝床を確保しなければならないようだ。全体の采配は村長がとっていたが、子供達の世話や片付けなどは村長の妻が女達へ指示を出しているようであった。
それの姿を見ながらジョンは立ち上がり、鍋に残ったとん汁に《小さな願い》で保存をかける。正式な《保存》の魔法ではないので長期保存は無理だが、冷蔵庫がなくとも一晩ぐらいなら保存が利くような感触だった。バーベキューの残り物にも後で食えるよう、同じように保存をかけてやると村長を探して歩き出した。その背中を村の女達が羨望と神の使いを見るような目で見ていたのだが、本人は人狼が珍しいのだな程度にしか思っていない。
村長を見つけ、モモンガから伝えられた事をさも自分が考えたかのように話すと、村長は村人達と相談し、ジョンの前に連れてきたのはエンリ・エモットだった。
帝国の陣地へ赴き、村を襲った帝国騎士をカルネ=ダーシュ村に住み着いた人狼が掃討したとの話を伝える為のメッセンジャー。
危険度は帝国の出方が未知数の為、同じく未知数。最悪、生きては帰れない可能性もある。それでなくとも女の一人旅は危険極まりないだろう。エンリは年頃であるし、顔立ちも愛嬌があり整っている。
だが、村の再建に貴重な男手を使う訳にはいかない。両親を亡くした子供で、一人でも行動が出来(年頃の男子は戦争と今回の殺戮でいなくなってしまった)、妹がいる彼女が出るしかなかったのだと言う。たとえ彼女が戻ってこなくても、妹は村で面倒を見るという約束のようだった。
「カルバイン様、助けてくれて、本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるエンリ。
ジョンは頭をがしがしと掻く。自分が人間形態で行く方が安全確実なのだが、しかし、それよりも相手が警戒しないから。相手の本音が読みやすいからという理由で少女を送り込むのだ。モモンガの考えもわかるし、合理的なのもわかる。ユグドラシルでもPKの為、ナザリックを守る為、幾らでも悪辣な手段を取って来たのだ。
だが、真っ直ぐに自分へ感謝を向けてくる少女を捨駒に使うのは心に効く。
拾った子猫や子犬を必要だからと交通量の多い道路へ放り込み、無事に戻ってくるのを待てる動物好きがいるだろうか。
《あのーモモンガさん、この娘、助けちゃダメ?》
やはり、このヘタレには無理だった。
悪っぽく振舞っても最後でヘタレる。戦闘指揮は兎も角、情報心理戦になるとヘタレる。
ウルベルトとぷにっと萌えにヘタレ認定されただけの事はあった。
《ダメです。心を鬼にして下さい》
《くッ、直接、向き合ってないからって》
「エンリはそれで良いのか?」
「?」
「行けば生きて帰ってこれない可能性もあるんだぞ?」
「村はこんな状況です。再建する為には皆、自分に出来る事をやるしかないんです。今の私に出来るのはこのぐらいですから」
そう言って、広場の向こう。子供達を見る。
別れはすんでいるだろうが、それでも寂しげな瞳で自らの姉を見ているネムの姿があった。これが場合によっては最後の別れになるかもしれない。そんな必死さが姉を見る視線に込められている気がした。
「それにカルバイン様は流離っていたのですよね。ここに落ち着くのは本意では無かった筈です。ですから、今度は助けていただいた私達の番です」
死を覚悟した透き通る笑顔でエンリはそう言った。
「……ッ!」
それを言われると弱い。
とうとう耐え切れず、ジョンは天を振り仰ぐとモモンガと先ほど取り決めたキーワードを、天へ届けと大音声で解き放つ。
「善意には善意を。悪意には悪意を。盟主よ、我は願う! 我が善意に善意を以て応えた人の娘に一度の加護を!」
《
《すみません。すみません。ホントすみません》
《まぁ、俺も時機を計っていたので構いませんけどね》
《え? 俺が弄られてた、だと?》
それは黄昏時の終わりに見える紫の空の色を斑に溶かし込みながら大きく広がり、その中から死の気配が噴出し始める。
村人達が肩を抱き震える中、そこから死そのものが歩み出してきた。
異様な杖を持ったおぞましい死の具現。
骸骨の頭部を晒しだした化け物。
まるで闇が一点に集中し、凝結したような存在。
空ろな頭蓋骨の空虚な眼窩の中、流れ出したような血にも似た色の光が灯っている。
それはまさに死の神の姿。
圧倒的な存在感、死の気配に耐え切れず、村人達は一人残らず平伏した。
「至高にして偉大なる死の支配者。我等が盟主よ」
人狼の死を称える声に応えず、それは広場の正面を異様な杖で指し示す。瞬時にそこにあった家を吹き飛ばし、高さ30mに達しようかという教会がそびえ立っていた。
「これは我が家である。……我が名はアインズ・ウール・ゴウン。生には生を。死には死を以て応えよう。いずれ我が下へ来るまで良き生を生きるが良い」
血色の光がジョンを眺め、次いで平伏し、自らの矮小さと迫り来る死に震えるエンリを捉える。
見られている。ただ、それだけで、エンリの血は凍り、生命が流れ出していくような恐怖、身を押し潰す重圧に襲われ、心が砕け散りそうだった。
「……その姿に惑わされず、己の心を信じた人の娘。善意で我が盟友と接した者、失敗を恐れぬ者よ。
それが生ある者の勇気。必要ならば他の為に火に飛び込む決意。
力の大小ではない。その覚悟こそ我は愛でよう。それこそが人の生き方だ」
ゆっくりと骨の手が突き出され、両手で隠せるぐらいの小さな角笛を二つ取り出し、エンリの方へ無造作に放った。
二つの小さな角笛は、平伏するエンリの前に不自然な動きで音も立てずに地に着いた。
「取るが良い。それが旅路の助けとなろう」
それだけを告げ、死の具現は再び、黄昏時の紫の空を斑に溶かし込んだ闇の中に消えていった。
村には静寂が残り。
ジョンが「あー死ぬかと思った」と間の抜けた声を上げるまで、村はその静寂に押し潰されていた。
《ジョンさん、あとで教会の中に転移門の鏡《ミラー・オブ・ゲート》を設置しておきますよ。開拓は構いませんが、ちゃんとナザリックに帰って来て下さいね》
《これがッ……モモンガさんの攻めッッッ》
《一緒に冒険するのでしょう? ふふ、一度、ジョンさんを振り回して見たかったんですよね》
モモンガがこの演出をやると言い出した時にはジョンは驚いた。
だが、メッセージ越しにも分る。ここ数年なかったモモンガが楽しそうに笑う気配。
なので、少々話が大きくなりそうだが、悲壮な顔で入られるよりは全然良いとジョンは受け入れた。
受け身な正義の味方よりも、夢と浪漫を語る我侭な悪の組織こそが自分達に相応しいのだ。
(それにしても、モモンガさん。楽しそうだけど、こっからどうすんだろ? 何か考えてるんだろうけど、えらく楽しそうなんだよなぁ。本当に何するんだろ? ……ああ、エンリちゃんに小鬼将軍の角笛の使い方を教えてあげないと)
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ジョンは、エンリに小鬼将軍の角笛の使い方を教え、村人達にほぼ創作に基づく先ほどの説明をした。
自分達、人狼の群は夜や死を支配するものを盟主としている。村人達に分りやすく言うと守り神のようなもので、群のリーダーに許された守り神の直接的な援助を願う盟約によるもので、先ほどのあれは現れた。この地に流れてくるまでに残った最後の1回を使った事。エンリへの助力を叶える代わりに、盟主は自分達人狼にここで生き、自分を崇めよと教会を残したのだと。
そうジョンは説明しながら、悪意ある人間は騙しても心が痛まないのに、同じ人間でも純朴と言うか純真な人を騙すのは、どうしてこんなに堪えるのだろうと自問していた。
一寸でも疑ってくれれば、疑いを晴らすのに一生懸命やれるのに。素直に全部を信じられると罪悪感が半端なかった。
そんな中、村人達は先ほどの死の神降臨に気を取られていたが、ジョンは周囲を警戒しているシモベ達からのメッセージで村に近づく騎兵を察知していた。
村の中央を走る道の先に数体の騎兵の姿が見える。やがて、騎兵達は隊列を組み、静々と広場へと進んでくるだろう。
「エンリちゃんは村の人を教会の前に集めてくれ。危なくなったら教会の中に逃げるんだ。村長は俺と一緒に広場へ。何、同じに日に
村長はそうですなと苦笑を浮かべ、エンリは村人を集める為に駆け出した。
ジョンと村長はそのまま広場中央まで歩み出て、騎兵達が集うのを待つ。
この20名程の騎兵達は全員とも同じ紋章の全身鎧を着ているが、各自カスタマイズがされ、予備武器を持ち、騎士というよりは歴戦の戦士集団のように見えた。
しかし、全員が兜をかぶらず頭部をさらしているのは何か理由があるのだろうか。
ジョンはそんな事を考えながら、戦士集団の動きを窺う。
その中から馬に乗ったまま、1人の男が進み出た。
年齢は30前後、極めて屈強な体つきをした偉丈夫で、ジョンは内心で渋い叩き上げの戦士だと喝采を上げる。
しかし、村を襲っていた騎士達と比べれば、全体的にレベルは高いが、自分達ナザリック勢にとって脅威にはならないレベルだ。
騎士達の記憶を丸ごと喰らったパンドラのクリスタルモニター越しの首実験によれば、これがスレイン法国が狙っている王国最強の戦士ガゼフらしい。
そのガゼフの鋭い視線がジョンを射抜く。
襲撃されている村を回っていたら、村長と並んで人狼が立っていました。これは警戒もするだろうとジョンは思う。
けれど、いきなり襲い掛かってこない程度の理性はあるようだと安心する。
「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐するために王のご命令を受け、村々を回っているものである」
「王国戦士長……もしや、あの……?」
村長の口から微かな呟きが漏れた。ジョンは辛うじて「知っているのか、雷電!?」と口にするのを耐えた。
一応、聞いておかないと不自然だと、モモンガから
「村長、あれは誰だい?」
「商人たちの話では、王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭戦士たちを指揮する方だとか……すみません。本物かどうかは、私には判断が……」
申し訳なそうにする村長へ「見た事がないなら仕方ない。気にするな」と返す。
「村長だな」ガゼフの視線が逸れ、村長に向かう「そして、横にいる者は一体誰か教えてもらいたい」
「この方は私達を救って下さった
村長は即答し、ガゼフも即座に馬から飛び降りた。そして、重々しく
「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」
その行動に騎乗の戦士達からどよめきが起こる。
無理も無い。王国戦士長という地位がこの国においてどれほどのものかはわからないが、特権階級にあることは間違いない。そんな彼が人間ですら無いものに敬意を示しているのだから。
ジョンもその行動に素直に感心していた。レベル差がかなりあるので、ガゼフは気づいてるかは分らないが、この広場の中はジョンの間合いである。仮にそれが分っていなくとも、人間よりも肉体的に優れた異形種の前で無防備に頭を下げる度量は、並大抵のものではない。
だから、ガゼフの誠意には誠意で応える事にした。
「あーいや、戦士長。すまないが、貴方の感謝を受け取るわけにはいかない」
「どう言う事ですかな?」
若干、困ったようなジョンの返事に、訝しげな表情でガゼフは尋ねる。その疑問に答えたのは村長だった。
村長は、先のエンリのような、死を覚悟した透き通った表情でガゼフへ答える。
「戦士長様、私達は王国を抜け、カルバイン様の手を取り、カルネ=ダーシュ村として村を再建していきます」
「……村長、それは」
「はい、王様から討伐隊を差し向けられるのも覚悟の上です。ですが! 村の男は私を含めて10人を切りました。今年も戦争に取られては村の者達は冬を越すことも出来ません。今死ぬか、後で死ぬかの違いならば! 私達は私達を助け、共に生きると仰って下さったカルバイン様と共に生きたいと思います」
村長の言葉にガゼフとその部下達は怒りではなく、急所を打ち抜かれたような悲痛な表情を浮かべた。
一方のジョンは(あれ? もうそこまで覚悟してくれてたの? なんでこんなに入れ込んでくれてんの?)と胸中で疑問符を浮かべ、次いで、戦士長達の表情にある理解と共感が気になり一つ問う。
「戦士長。失礼だが、戦士長と部下の皆さんは平民出身なのだろうか?」
「その通りだが、何故?」
「村長の覚悟を理解した上で心を痛めたように見えた。村人達の生活を理解した上で共感しているなら、平民かと思ったんだが……」
ガゼフはジョンの言葉に納得し、感心したように頷き答える。
「俺自身、平民の出であるし、部下達にも辺境の村出身が何人もいる。モンスターに襲われ、戦火に焼かれる度に力有る者が救いに来てくれる事を俺達も願った。だが、現実は誰も来なかった。ならば、そうではない事を我等が示そうとした……我々は遅かったのだな」
そのガゼフの姿勢。
現実は、人間はそんなに捨てたものではない。
そう自らを以て証明しようとする姿勢にジョンは覚えがあった。
ダージュ村でロールプレイで同じ事を言っていた奴がいた。
『人は馬鹿でも、優しい生き物だと、俺は俺で証明する』だったか。
世界が変わり、人が変わり、それでも変わらないものもあると、ジョンは嬉しくなる。
(でも、ガゼフは徴兵を否定しなかったよな?)
「戦士長。ここで間に合っても、徴兵されたら数年後に村は立ち行かなくなるぞ? 戦士長には政での協力者はいないのか?」
「政の……」
虚を突かれた表情のガゼフに、「あれ?」余計な事を言ったかなと、ジョンは不安になる。
(ぷにっと萌えさん達に教育される前の俺並みに脳筋か、この人?)とりあえず、話を逸らそう。
「ああ、それと戦士長は見ていると思うが、隣村も襲われてたぞ。埋葬はしてきたが」
「そ、それは、ありがたい」
「その時の戦士長の足跡は50名前後あったけれど、今の人数を見るとその他に3~4つ村が襲われたのか?」
「……」
「これは俺の独り言なんだが、人間弱いんだよな? 弱いから国を作ってるんだよな。こんな事で殺し合ってどうするんだ。人間だけで生きていけないなら、他の種族と共生すれば良いじゃないか。なんで人間だけで生きなきゃならない?」
ガゼフは人狼の言葉に息を呑み、それに答えようとした時だった。一人の騎兵が広場に駆け込んできた。息は大きく乱れ、運んできた情報の重大さを感じさせる。
「戦士長! 周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります!」
《モモンガさん、こんなんで良いの?》
《ええ、王国は王と貴族で勢力争いをしているようです。貴族側は絵に描いたような悪徳貴族が多いようですし、最高戦力はガゼフのようですから武力的な脅威度は低いでしょう。
厄介そうなのはスレイン法国ですが、これも内部に火種を投じて身動き取れないようにします》
駄犬の
それでも言わせてほしい、駄犬だけの所為では無い筈だ。
モモンガさんは逸般人。
次回、『その日、運命に出会った』