俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第5話

 

 

そんなこんなで、スーパー。

 

「えーっと……何買えばいいんだっけ?」

 

「そういうのは料理当番が何を作るかによるんじゃねーの?」

 

「ああ、そうだね確かに」

 

慶の台詞にポンっと手を打つ茜。ちなみに修は瞬間移動で逃げた。

 

「今週の料理当番は?」

 

「知らね」

 

「あんたでしょ。そのくらい覚えときなさいよ鳥頭」

 

「よーし今日は焼肉だ。そこの牛乳女を調理してやる」

 

「スーパーの中でまで喧嘩やめてよー!」

 

慶と奏が目で火花を散らしてると、頭を抱えて声を上げる茜。その時だ。

 

「なぁ、あれ茜様じゃね?」

 

「ほんとだ。奏様もいるぞ」

 

「うおお、すげぇ……」

 

などと周りから声が上がる。その度に「えっ?」「えっ?」とテンパる茜。その時だ。奏が急に笑顔になった。

 

「皆さん、こんにちは。いつも見守ってくれてありがとうございます」

 

「うわっ………」

 

慶が思わずドン引きした声を上げるほどの外面だった。

 

「誰だこいつ……」

 

「そ、そんなことより周りの人なんとかしてよ!こ、このままじゃ……」

 

「この前、0ptだった俺にどうしろと?一部の国民には俺は王家とすら思われてねんだぞ」

 

「ぜ、ゼロ?ぷふっ……」

 

今のはイラっときたため、慶は茜の背中を人前にドンっと押した。

 

「ふぇ……?ひゃあっ!」

 

ドサッと転んでしまう茜。

 

「いてて……な、何するの慶⁉︎………って、ひゃああ!見ないでぇ!」

 

恥ずかしがる茜、ここぞとばかりに愛想よく振舞う奏。いつの間にか慶は茜から財布をスッてポテチを買いに行っていた。

 

 

 

 

「うぅ……酷いよけーちゃん……」

 

昼間なだけあって、ほとんど人のいないレジに並んでいる途中、涙目で愚痴る茜。

 

「うるせーよ。それより買う物はそれで残り全部なんだろうな」

 

「うん。間違いない……はず」

 

「そこは言い切りなさいよ」

 

奏が株をチェックしながら呆れて言った時だ。奏の後ろに並んでいる男が、奏が肩から掛けている鞄の中に手を突っ込んでる男がいた。

 

「オイ」

 

「っ⁉︎」

 

「けーちゃん⁉︎」

 

慶が声をかけると慌てて鞄から手を抜き、そっぽを向く男だが、慶はそいつの胸ぐらを掴んだ。

 

「テメェ、今何してやがった」

 

「やめなさい、慶!」

 

奏が言うが慶は言うことを聞かない。

 

「何もしていない」

 

「してねーことねーだろ。明らかに手ェ鞄に突っ込んでたよな」

 

慶がそう言うと、辺りは「何?喧嘩?」「また慶が?」「スリ?」などと騒然とする。

 

「してない。君の見間違いだ」

 

「………なぁるほどぉ、王家の中で一番信用のない俺にあえて見つかるようにスリをしたか。そうすれば見つからなければ金が手に入るし、見つかったとしても相手が俺なら逃げる口実はいくらでも作れる。いやあ、悪くない考えだ」

 

「………………」

 

「だが、方法が甘い。俺ならまずチャックで閉められている鞄は狙わないし、人混みに紛れてケツポケットの財布を盗る」

 

「君が何を言ってるのかサッパリ分からない。俺はスリなんてしていない。第一、証拠はあるのか?」

 

「ああ。悪いがある」

 

「なに?」

 

言うと慶は携帯を取り出した。その画面には思いっきり鞄の中に男が手を突っ込んでる写真が写っていた。

 

「んなっ……⁉︎」

 

「悪いが、お前がしらばっくれることも俺は想定済みだ。さらに、証拠はあそこの監視カメラだ。レジを映さない監視カメラがあるかってんだ。いいか、俺の家族を狙ってスリをするなら20手以上は先を読んでおけよ」

 

「グッ……クソッ‼︎」

 

男は逃げようと出口に向かって走り出した。

 

「逃がすかよ!」

 

後を追う慶。

 

「あのバカ!能力もない癖に……!茜、お会計お願い!」

 

「ええ⁉︎一人にしないで!」

 

さらにその後を奏が追った。で、犯人はスーパーの外を出た。

 

「チィッ!」

 

閉まる自動ドア。だが、慶がすぐに到着し開いた。その時だ。真横から振り下ろされるナイフ。

 

「ッッ‼︎」

 

なんとか躱すが、頬を掠めた。

 

「慶!」

 

「馬鹿、来るな奏!」

 

店の出入り口にいる奏に言い放った瞬間、ナイフを振り回してくる犯人。その動きをよく見て躱す慶。下手に手を出さずに隙を伺っていた。

 

(野郎……思ったより喧嘩慣れしてやがんな……めんどくせぇ!)

 

と、思ってる通りめんどくさくなった。慶は、次の一撃を左手のひらに突き刺させた。

 

「っ⁉︎」

 

「捕まえた」

 

手のひらにナイフが貫通した状態で敵の拳を握る。そのまま顔面に拳を叩き込んだ。

 

「ぐあっ……!」

 

「今のは奏の鞄の恨みだ」

 

そして、そのまま裏拳を顔面に放ち、相手はヨロヨロと後ろに飛ばされる。

 

「今のは俺の左手の分」

 

そして、相手の後頭部を右手で掴むと、顔面から地面に思いっきり叩き付けた。

 

「これは、演出の分だ」

 

「さい、ごのは……いらね、え……だろ……」

 

その捨て台詞と共に気絶する男だった。

 

「っふぅ……あー痛ぇ」

 

左手に刺さってるナイフを抜く。その瞬間、ブシューッと音を立てて血が噴き出した。

 

「オイオイ、血ィ出過ぎじゃね?」

 

「慶!」

 

声がして振り返ると、買い物袋を持ったまま走ってくる茜と奏が走ってきた。

 

「おう。鞄の中の物は無事か?」

 

と、聞く慶を無視して奏は飛び付いて、抱き締めた。

 

「うおっ!」

 

「バカ!無茶しないで!」

 

「ちょっ…奏お姉様⁉︎顔に胸が……!」

 

「いいから黙って!」

 

「は、はい!」

 

顔を真っ赤にする慶。すると、茜が慶の左手を摘み上げた。

 

「うわあ……穴空いてる……。カナちゃん、消毒液と包帯出せる?」

 

「任せて」

 

言われて出す奏。そして、消毒液を慶の左手の上に持って行った。

 

「染みるわよ」

 

「いっだ!いだだだ!待っ……染みッ………!」

 

「我慢して!」

 

「無理無理無理無理!泣きそう!」

 

「てか、けーちゃん泣いてるよ?」

 

「嘘?マジ?」

 

で、包帯でキュッと血を止めるように結んだ。

 

「………ったくもう、能力もないくせして出しゃばるんだから……」

 

「別に出しゃばったわけじゃねーよ。ただ、その、なに……お前は能力的に金ないと困るんだろ?」

 

慶が言うと、感動し涙を流しそうになる奏と茜。だが、

 

「だから借り作っといてお礼の一割くらい貰うのも悪くねぇかなって思って……」

 

と、続いた瞬間、二人は半眼になった。そして、奏が言った。

 

「へぇ、ってことは何?その謝礼金のためにそんな怪我をしたと?」

 

「ああ。お前の1割はデカそうだからな」

 

「なら、それ召喚したお金でチャラよ」

 

「そりゃねぇだろ!てかこんなん500円くらいだろ⁉︎財布を守ってやったんだからせめて5000円くらいいいだろ!」

 

「嫌よ!せっかく私のせいでって責任感じて心配したってのに損したわ!」

 

「え、なに心配してくれてたの?あれだけ今朝悪口言ってきた癖に?なに、ツンデレ?」

 

「違うわよ!あーあったまきた!今日の晩御飯はあんたのハンバーグだけタバスコ大量にぶち撒けるから!」

 

「いや当番今日俺だし!」

 

というやり取りはしばらく平行線を辿ったが、茜はニコニコしながら見守った。

 

 


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