「さて、じゃあ行こうか慶?」
勝ち誇った笑みで慶に言う奏。だが、
「おう」
と、すんなり立ち上がった。
「あ、あれ?怖くないの?」
「本物のお化けは怖いけどここはお化け屋敷だろ?中身は人間って分かってんだ。怖かねーよ」
すると、「つまんねー」とでも言わんばかりに奏はため息をついて立ち上がった。
「そう。それなら行きましょう」
「カナちゃんは怖くねーのかよ」
「そんな子供じゃないわ」
「じゃあ先に悲鳴を上げた方が後でなんか奢りな」
「いいわよ」
で、二人はお化け屋敷へ向かった。
*
(って、何よこれ!外見より本格的じゃない!)
と、心の中で悲鳴を上げてるのが奏だ。モチーフは病院で、患者服のお化けやら何やらが出てきて中々にリアリティがある。一方の慶は、
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっ!大腸はみ出てやがる!あっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
と、爆笑していた。
(あんたなんか地獄に落ちればいいのよ!)
心の中で呪う奏。その奏に慶はニヤリと笑って聞く。
「怖いか?奏」
「は、はぁ?全然怖くなんか……」
「………おい、おまえ後ろ」
「ひゃっ、なに?」
振り返るが何もない。
「いやなにもないけど」
「な、なによ!ビックリするじゃない!」
「ていうか、今『ひゃっ』って悲鳴上げたよね」
「はぁ?………あっ」
「はい、後で奢り〜」
「ち、ちょっとズルいわよ!そんな……」
と、言いかけた奏の手を慶は握った。
「やっぱり怖いんだろ」
「こ、怖くないわよ!」
「手汗がすごいけど」
「お、女の子に普通そんなこと言う⁉︎」
「怖いなら無理すんなよ」
言われて、奏は少しビクッとする。
「別に俺はお前の怖がってる姿見てどうしようとか思ってないから」
「……………」
「ちょっと弱みになればいいかなくらいにしか思ってないから」
「あんた最低だ!」
「さ、震えは止まったろ。行くぞ」
慶が手を引き、奏がついていく。
「ううっ……私がお姉ちゃんなのに……」
「そうかい。そりゃドンマイ」
いつの間にか手を繋ぐどころか腕に引っ付いてる奏。そして、そのままゴール付近まできたときだ。
「あん?」
「えっ、な、何⁉︎」
慶が声を上げた。視線の先には真っ白の着物を着た女が真っ直ぐこっちを見ていた。それになんとなく霊気のようなものを感じた慶。思わずゾクッとしてしまった。
「…………」
「ど、どうしたのよ?」
「なんでもねぇよ。ほらゴールだ」
そのままゴールした。お化け屋敷から出た瞬間、奏は胸を張っていった。
「ふんっ、まぁまぁだったわね」
「携帯みたいに震えてた癖に何言ってんだ」
「う、うるさいわね!大体、あんただって出口のところで震えてたじゃない!」
「あ?ああ、あそこにいた白い人はなんとなく雰囲気出てたからな」
「はぁ?そんなのいなかったわよ?」
「えっ?」
「えっ?」
慶に嫌な汗が流れる。
「……………」
「慶?」
「う、うん。気のせいだなうん……。カナちゃん、飯にしよう」
「う、うん」
*
そのまま二人で飯を食ってその他諸々のアトラクションを乗った。で、なんやかんやで夕方。
「そろそろ帰ろうぜ」
「あ、待って」
「えー。まだなんか乗るのかよ……」
「いいから。次ラストだから」
「何乗るんだよ」
「観覧車」
「恋人かっての」
「んなっ……な、なわけないでしょ⁉︎自惚れんなバーカ!」
「お前がバカ」
なんて話しながらも二人は観覧車の中に入った。
「おお……おいおいおい、高ぇなおい」
慶は窓の外を眺める。
「ガンダムより高ぇんじゃねーの?」
はしゃぐ慶を見ながら奏は微笑んでいた。
「ねぇ、慶」
「あー?」
「今日は楽しかった?」
「まぁな。怖かったけど」
「そっか、良かった」
「それは俺の台詞だ。奢ったのは俺の方だからな」
言うと慶は座った。
「ねぇ、慶」
「あ?」
「二人きり、だね」
「そーだな」
奏は慶の隣に座る。
「………なんだよ」
「……………」
奏は何も言わない。そのまま慶に顔を近付けた。
「おい、近いぞ」
だが、奏は無視して慶に手を伸ばす。と、思ったら慶の頬のご飯粒をとった。
「あ?」
「お昼の時からずっとついてた」
「マッジかよ!え、なんで言ってくれなかったんだよ!」
「その方が面白いもん」
「うーわ!マジ恥ずかしい奴じゃん!」
と、慶が喚いてる時だ。ガタンッと観覧車が止まった。その結果、奏と慶の唇が重なった。
「っ」
「……………」
目を見開く二人。そして、慌てて離れた。そのまま気まずい沈黙が流れることしばし。動き出した。
「………………」
「………………」
奏は真っ赤な顔をしたまんま動けなかった。すると、ヴーッと携帯が震えた。櫻田家の家族LINEだ。
櫻田慶『姉に童貞取られたったお☆』
「変なこと送ってんじゃないわよ!」