買い物へ向かった。慶と茜は2人並んで歩く。すると、自販機の前で慶が立ち止まった。
「茜さん。喉渇いてませんか?何か奢りますよ」
「へ?い、いいよ別に。買い物なんてすぐだし」
「いえ、僕が記憶喪失になってしまったことで迷惑かけてしまっているので、何か奢らせてください」
(この人誰⁉︎ていうか普段の方がよっぽど迷惑なんですけど!)
声に出さずもヒビる茜。慶は返事を待たずに缶コーヒーを買ってしまった。
「どうぞ」
「あ、ありがと……」
そのまま二人は近くのベンチで一息ついた。その時だ。
「あれ?けーくん?」
声をかけられて振り返ると紗千子が立っていた。
「って、さっささささっちゃん⁉︎」
「?」
慶の頭の上には「?」マークが浮かんでいる。それを察したのか茜はなんとか理性を抑えて言った。
「あ、えと……さっちゃ……米澤さん」
「あ、茜様。初めまして。米澤紗千子です」
「ああ、ご丁寧にどうも。で、けーちゃんなんですけど……今、記憶喪失でして……」
「…………今なんて?」
「や、だから記憶喪失でして……」
「」
固まる紗千子。そして、「そんな……」と呟きながら肩を落とした。その紗千子に慶が言った。
「申し訳ありません。今は覚えていませんが、必ずあなたのことも思い出してみせます。だから、落ち込まないでください」
「けーくん……」
思わず涙が出そうになる紗千子と茜。茜は別の理由だけど。そして、続けて慶が口を開いた。
「それで、貴女と僕はどういう関係何ですか?」
「へっ?………あー」
紗千子は口を開いたまま固まった。そして、ピーンと良いことを思い付き、言った。
「彼女です」
「「ブッフォアッ!」」
缶コーヒーを噴き出す慶と茜。で、茜が「へっ?そ、そうなの……?」みたいに困惑していると、慶は膝をついた。
「ど、どうしたのけーくん?」
「ふ、二股じゃないですか!なんて奴だったんだ僕は……」
「へっ……?けーくん、彼女いるんですか?」
「はい……。どうやら僕は王族のカナちゃんに貰われたはずだったんですが……どうやら不倫していたみたいです……」
しょぼんと肩を落とす慶。それに少なからず紗千子は驚いた。奏と慶の関係の真相を知っている茜はオロオロするばかりだった。そんな茜の気も知らずに慶は言った。
「こうなったら仕方ありません。米澤さん、カナちゃんと僕と三人で話し合いましょう」
「は、はぁ?」
「あなたは僕の2人目の女性かもしれませんが、それでも僕を愛してくれた女性の一人、ここは三人で決めるべきです」
「や、あの……」
「け、けーちゃん?」
「茜さん、申し訳ありませんが僕は買い物より大事な用事が出来てしまいました。失礼します」
「ええっ⁉︎」
そう言うと慶は紗千子の手を引っ張って自宅へと引き返していった。