大晦日になった。
「このパンツ誰の⁉︎今日の分の洗濯終わったよ!」
「光!箒は使ったら元の場所に戻して!」
「岬!窓拭き終わったの⁉︎」
「お風呂掃除係!洗剤置きっ放し!」
「光!クイックルワイパーは使ったら元の場所に戻して!」
「修ちゃん!サボってないでこの本片付けなさい!」
「洗い物係は……奏。一つ残ってるぞ」
「光!フローリングワイパーは使ったら元の場所に戻して!」
「遥ー!窓拭き手伝って〜!」
「茜姉様ー!掃除機は何処ですか?」
「光!掃除機は使ったら元に戻して!」
「栞、それ一人で持てるか?」
「うんっ。へーき」
「光!高圧洗浄機スチームクリーナーは使ったら元に戻して!」
「そんなのあたし使ってないよ!ていうか何に使うのよそんなもん!」
などと戦争状態の中、リビングの真ん中で慶と葵は誕生日プレゼントのダブルオー1/100スケールを創っていた。
「そうそう。で、ここ。わざと若干残して……そう、そしたら綺麗に削れるっしょ?」
「本当だ……ありがとう。慶」
「いえいえ、当然のことをしたまで」
言いながらも慶は自分のガンプラ(1/100スケールケルディム)を作っていた。
「すごいのね……。こんなに関節って動くんだ」
「ああ。最近のは高性能だからな」
「慶はどんなの作ってるの?」
「そっちの機体の仲間の機体、っていうのか?まぁそんな感じだ」
「へぇ〜。じゃあ私と慶も仲間ね」
「そーだな(棒読み)」
「何よその言い方」
なんて話してるときだ。ガンッと慶が頭を殴られた。
「って!」
振り返ると、不機嫌そうな顔で奏が立っている。
「なんだよ。つーか何すんだよ」
「何サボってんのよ。あんたも葵姉さんも」
「俺と葵は自分の掃除終わってるよ。お前らノロマと一緒にするな」
「な、なんですって⁉︎」
「俺の掃除場所は自室に階段、葵はコタツ周辺。気になるなら確認してみろ」
「むぅ……」
「奏、本当に終わってるのよ。けーちゃん要領だけはいいから」
「頭と運動神経と性格もな」
「「性格はないかな」」
「ちょっと待て声を揃えるか普通?」
反論しても、なぜか不機嫌そうな顔をする奏。葵はなんでか分かってるかのように微笑む。すると、奏がニヤリと笑った。
「なら慶はボルシチの世話しててくれる?」
凍り付く慶。が、構わずにボルシチを抱いてくる奏。
「まっ、待って待って!流石にそれはないんじゃないの⁉︎」
「あら、いいじゃない。手が空いてるんだもの。ねぇ、葵姉さん?」
「そ、そうねぇ……」
葵からのお許しが出て、奏は慶の元へボルシチを運ぶ。
「ま、待って!奏様!ごめんなさい!」
「やだ」
「いやあぁぁぁぁ‼︎」
女みたいな悲鳴をあげて慶は葵に抱き付いて逃げた。顔に胸が当たっているのだが、テンパってるのか慶は気にしていない。その様子を見て凍りつく奏。
「あ、葵助けてコノヤロー!」
「あ、あははっ……」
苦笑いで頭を撫でる葵。が、やがて奏からドス黒いオーラが放たれてきた。
「か、奏……?落ち着いて……?」
葵が言うも奏から放たれるオーラは止まらない。魔人ブウみたいになっている。が、慶は気づいていないのか、葵の胸に顔を埋めたまま震えている。その震える慶の肩に何かが乗った。
「? なんだこれ……」
なんだか理解する前に慶は自分の肩に乗ったものを触ろうとした。が、それがカプッと噛み付いてきた。
「」
顔を真っ白にしながらもそれを見ると、ボルシチだった。声にならない悲鳴が響いた。
*
ようやく掃除も終わり、全員でダブルオーとケルディムが並べられたコタツに集まり、テレビを見ている。
『櫻田家!チキチキ年末大世論調査会ー‼︎王家ごきょうだいの中から時期国王を決める選挙に先駆け。今宵、全国民回答による世論調査会を開催いたします!』
「実質、本番の国王選挙みたいなもんだよね」
岬が言うと、奏が口を開いた。
「あくまで現段階での順位よ。これで王様が決まるみたいな捉え方は……」
「……れ…がれ…下がれ……」
奏の台詞は誰かの念仏で遮られた。
「順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ順位下がれ………」
「うるせぇカス」
慶が一蹴すると茜はキッと慶を睨んだ。
「たった今岬が言ったじゃない!実質総選挙だって!」
「その後の奏の台詞も聞いてなかったのか」
「そーだよ。それに、案外ビリかもよ〜?」
光が乗って言った。だが、
「いやビリはけーちゃんだからないかな」
「その通りだ。ビリは俺だ」
『ではまず10位から!』
一応、全員テレビを見た。
『第10位、茜様です‼︎』
『はっ?』
茜や慶どころか、全員が声を漏らした。
「………………」
「喜べよ茜。最下位だ」
「なんか、慶より下って素直に喜べない……」
「お前いつか殺してやるからな」
で、テレビが言った。
『第9位、修様‼︎』
「んなっ……け、慶が、順位を上げている⁉︎」
「待て修!俺は何もしてない!この前俺、ゲーセンで他校の奴に絡まれて全員まとめて蹴散らしたんだぞ⁉︎」
「慶?ちょっとお話しましょうか」
葵に連行されていった。
「この様子だと、次は光かしら?」
奏がニヤニヤしながら言った。
「待ってよー!あたしまでけーちゃんより下だっていうの⁉︎」
「なんかそんな感じするのよ。ねぇ、栞?」
膝の上にいる栞の頭を撫でながら奏は言った。栞は奏の胸に頭を置きながら何も言わずに視線を逸らした。
「栞まで⁉︎そんなわけないわよ!あたしだって……!」
『第8位は光様です!』
「」
「ほら見たことか」
すると、慶と葵が戻って来た。が、慶は涙目だ。
「死んじゃおっかなーもう」
「慶⁉︎どうしたの⁉︎」
「なんでもねーよ……」
葵は慶に何を言ったんだろうと思いつつも全員何も聞けなかった。すると、またまたテレビから声がした。
『第7位は輝様です』
「妹の栞より下なんて……兄としての威厳が……!」
と、悔しがる輝の頭に慶が手を乗せた。
「大丈夫だ輝。あそこに兄としての威厳なんてない奴もいるし、そもそも栞はこの世の生き物の頂点に立つ天使なんだ。俺たちなんかと威厳が違う」
『続いて6位、栞様です』
「兄様、生き物の頂点6位ですが」
「ちょっと栞に投票しなかったゴミクズども全員殺してくる」
「慶?」
にっこり笑う葵が怖かったのでやめといた。
「しかし、けーちゃん快進撃だね〜」
岬が微笑みながら言った。
「そーだよね。万年最下位だった癖に」
光もそれに乗って言う。
「へ?俺、8位じゃないの?」
「8位は光だよ」
「……………」
顔色が悪くなり、ドッと汗が浮かぶ慶。
「おい国民、どういうつもりだ……」
「そりゃ、強盗とかスリとか退治してるし、当然じゃない?」
「…………あっ」
遥に言われてようやく慶は理由がわかった。
「なんで俺の目の前でばかり問題が起こるんだよ……。コナンくんかよ俺は……」
「でもまぁここまでよきっと。流石にこれ以上はないわよ」
奏が口を挟んだ。
「そうだな。同じ下位グループとしてこれ以上上げられるのは困る」
修も腕を組みながら言った。
『それでは、ベスト5の発表です!』
テレビがそう言うと、全員がそっちを見た。