俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第12話

 

 

翌日。風邪が移っちまった。

 

「ゲホッゲホッ」

 

「何やってんのよあんた……」

 

「あ、あははっ……」

 

咳き込む慶に奏は呆れ、茜は苦笑いを浮かべた。

 

「う、うるせっ……そこのバカのが移ったんだよ……」

 

「ご、ごめんね……」

 

「別にいいよ……油断した俺の落ち度だ」

 

「いや、備えてれば助かるってもんでもないと思うけど……」

 

「ぇほっぇほっ!」

 

「だ、大丈夫?カナちゃん、どうしよう……」

 

不安そうに奏を見る茜。だが、奏は、

 

「ふん、そんなのほっとけばいいのよ。それより茜、なんか1日長引いてお父さんたち帰るの遅くなるみたい」

 

「あ、うん。分かった」

 

「それと、栞がお腹空いてるだろうから朝ご飯作るの手伝って」

 

「へ?それくらいカナちゃん一人で作れるでしょ?私、けーちゃん見てるよ」

 

「いいから来なさい」

 

そのまま茜は廊下に連れ出された。

 

「もう、どうしたのカナちゃん?」

 

と、聞いた茜の肩をガッ!と掴んだ。

 

「ど、どっどどどうしよう茜!け、慶が……慶がぁ!」

 

「慌て過ぎだよ!てかなにその豹変っぷり⁉︎」

 

「だっだだだだって!死んじゃうかも……!そ、そうだ!万能薬!かいふくのくすり!いにしえの秘薬!」

 

「落ち着いて!未知のもの作っちゃダメって言われたんでしょう⁉︎」

 

「未知じゃないわよ!慶のやってたゲームで見たのよ!」

 

「ゲームの世界にしか存在しないじゃない!」

 

「止めないでぇ〜!」

 

「ああもう!めんどくさい姉だな!」

 

そんな様子を聞きながら慶はニヤリと口を歪ませた。そして、大きく息を吸い込んだ。

 

「ゲッフッ!ゲフッ!」

 

「慶!」

 

バタンッ!とドアが開いた。

 

「だめだー死ぬー」

 

「し、しししし死ぬぅ⁉︎ど、どうすれば……!」

 

「新作ゲームがないと死んでしまうー」

 

「げ、ゲームね!何がいい?」

 

「モンハンで」

 

「わかったわ!モンスターハンター……モンスターハンター……」

 

などと呟く奏。その頭をペシッと茜が叩いた。

 

「カナちゃん落ち着いて。そんな病気があるわけないでしょ?」

 

「はっ!確かに、騙されたわ!」

 

「いや騙されないでよ……」

 

チッ、と舌打ちする慶。

 

「病気でもやっぱり慶は慶ね……」

 

「でもまぁ、その様子なら大丈夫そーだね」

 

「えー無理ー。ご飯食べたい〜。ラーメンで」

 

「「却下」」

 

茜と奏は口を揃えて言った。

 

「そういえば茜、病人は汗を掻くといいんだったわね?」

 

「そーだったねカナちゃん。じゃあタバスコでも買ってくる?」

 

「待てお前ら!何を入れる気だ⁉︎」

 

「え、何って……」

 

「汗かくといいんなら辛い物入れるの当たり前じゃん?」

 

「何処の星の常識⁉︎」

 

「じゃ、買い物に行くわよ茜!」

 

「私は無理!監視カメラがある!」

 

「いいから行くわよ!」

 

そのまま嬉々として出て行った。

 

 

 

 

「クッソー……奴らめぇ……」

 

ボヤきながら慶は近くにある名探偵コナン3巻に手を伸ばした。

 

(そういえばここで一回、蘭にバレるんだっけ……)

 

なんて考えてる時だ。ガチャッと扉が開いた。

 

「栞……だめだろお前。風邪移るぞ。いや俺の移した風邪なら少し興奮するかも……」

 

「だいじょうぶ?」

 

「ああ。平気だから。栞は部屋に戻ってろよ」

 

「でも……兄様以外にだれもいない……」

 

「あー……あのクソ姉貴共……じゃあアレだ。ゲーム貸してやるから下にいろ」

 

「…………やだっ」

 

「へ?」

 

「お兄様と、一緒にいる……」

 

「やだこの子可愛い一緒にいよう」

 

「うん♪」

 

そのまま布団に潜り込んできた。

 

「可愛いなぁ、小動物みたいで。いつか結婚しような」

 

「お兄様となら、いいよ」

 

「でも移るから出なさい」

 

「えっ……」

 

「栞の苦しむ姿を見るくらいなら俺は世界の病原菌を敵に戦争を起こさないといかん。だから頼むよ?」

 

「分かった……」

 

そのまま栞が出た時だ。

 

「げほっげほっ!」

 

「お、お兄様!」

 

「だ、大丈夫だから……ゲホッゲホッ……栞は、外に出て……」

 

「……………」

 

そのまま栞は駆け足で出て行った。

 

 

 

 

買い物中の奏と茜。ちなみに茜はサングラスをかけている。

 

「これなら、大丈夫、だよね?」

 

「そーね。それより、タバスコと何入れる?」

 

「うーん……豆板醤とか?」

 

「あんた……エゲツないわね……」

 

なんて話しながら歩いている時だ。奏の携帯に電話が掛かってきた。

 

「もしもし?」

 

『お姉様!栞』

 

「あら、どうしたの?というか電話かけられるの?」

 

『電話さんに教えてもらったの!』

 

「そ、そう……ちなみに私の番号はどうやって?」

 

『電話さん!』

 

「買い換えた方がいいかしら……」

 

『そんなことより、大変!』

 

「? どうしたの?」

 

『お兄様が!』

 

「えっ………?」

 

 

 

 

茜の能力で二人は急いで帰宅した。そして、玄関に入る。

 

「そんな……!辛さで泣かそうとしてる場合じゃなかった!」

 

「栞、いる?」

 

茜が呼ぶと、涙目で出て来る栞。

 

「すごい、咳き込んでて……それで……」

 

そのまま三人で部屋に突入した。

 

「慶!」

「けーちゃん!」

「お兄様!」

 

「あー?」

 

中で慶はゲームをしていた。瞬間、踏み付ける三人。

 

「いってぇ!何すんだお前ら!」

 

「あんたこそ何してんのよ!栞が電話なんてよこすから心配してたってのに……!」

 

「そうだよ!ゲームなんてやって!バカなの⁉︎」

 

「お兄様、めっ!」

 

三人に怒られて、慶は3DSを閉じると、ため息をつきながら布団に篭った。

 

「悪かったよ……。大人しくしてるからお前らは出てっていいよ」

 

「はぁ?何その言い方」

 

「移すと悪ぃーしな。風邪引いた時は一人で寝てんのがなんだかんだで最高の形なんだよ」

 

「……………」

 

「分かったら出てけ。シッシッ」

 

「分かったわよ。でも辛くなったら言いなさいよ」

 

「おー。おやすみ」

 

そのまま奏も茜も栞も出て行った。

 

「何よあの言い方!腹立つなぁ!そう思わないカナちゃん⁉︎」

 

「ねぇ、茜。知ってた?」

 

「なにが!」

 

「慶ってね、たいしたことない時は大騒ぎする癖に、本気でヤバいと思った時は隠すんだ」

 

「……………えっ?」

 

「どうしよう……本気で辛いみたい……」

 

「えっ?」

 

もう少しだけ続く

 


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