san値直葬? 何それ美味しいの?   作:koth3

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第6話

 アレの破壊をしてから血まみれの洋服を処分して数日が立った。あれ以来幾ら探しても見つける事が出来なかった。人の居ない場所などを探しているのだが如何やらもうこの町にはないのかもしれない。アレの数が分からない事が問題だ。一体今どれだけの数のアレがこの海鳴にあるのか。そして可能性で考えるのならほかの町にもあれはある可能性だってある。如何にかしないといけない。その焦りが探索の足を引っ張っていく。如何れだけ探しても見つからないストレス。何時アレが本来の形で起動してしまうかが分からない不安。それらが体の中で綯い交ぜになって混沌としている。まるで常に動くことを強要されるように。動くことを止めてはならないという強迫観念から足を止めて冷静に考える事すらできない。そんな時間を使うくらいなら探さなければと思ってしまうからだ。冷静じゃない事は自分でもわかるがそれでも体は動いてしまう。

 落ち着け。そう自分自身に言い聞かせて体を止める。当たりもなく唯探しているだけではだめだ。そんなのは時間の無駄。では如何すれば? そこまで思考を回してもそこから先には進まない。当り前だ。何の取っ掛かりもない中良い考えが浮かぶはずもない。そんな事を考えていると目の前の河川敷の方から歓声が聞こえてきた。如何やら何時の間にか海鳴の方に戻っていたらしい。確か今日は翠屋の店長さんが監督を務めるサッカーチームが試合を行うはず。隣の席の彼奴が試合に勝ったら好きな子に告白するって数日前に言っていたからよく覚えている。そんな平穏を失うわけにはいかない。そう体に、心に言い聞かせて俺はもう一度思考を進めていく。

 

 「此処まで人気のない場所を探して見つからなかった。ならば一度前提条件を崩すべきか」

 

 そう。もう人気のないところにあるという前提条件は意味が無くなってきた。恐らくは起動するまでの強力な思考を察知できていないから起動していないアレがあっても可笑しくはない。もしそうだとしたら最悪な状態だ。何時爆発するかわからない不発弾の方がまだ可愛い。アレは不発弾より被害が酷すぎる。一度完全に起動したら世界を滅ぼすことは不可能でも文明を終わらせることくらいは十分可能だ。だから急いで迅速にそして安全確実に破壊しなければならない。俺にはアレを元有った場所まで送り返す事なんて出来やしない。ならばせめて破壊して世界の危険を無くさなければ。使命感とは違うしなければならない義務感というのだろうか。そう言った気持ちが体の内側から溢れてくる。

 止めていた足を今度は町の方へ向けて進めていく。結局人間である俺に出来る事なんて少ししかないんだ。その少しを必死になって探して見つけて走り抜ける。そこまでして漸く道が切り開けるか如何かなんだ。だからこんな所で止まる訳にはいかない。気持ちを切り替えて俺は探索を続行した。この後に起きる事を知らずに。愚鈍で矮小で愚かな脆弱な人間である俺には未来を知ることも未来を変えることもできないのだから。

 

 

 

 

 ビル街の一角をあちらこちらに顔を振りながら探している俺だが一向に成果が上がらない。とはいえそれも仕方が無い。海鳴市は比較的に大きい市だ。この市の中から小さな宝石くらいのサイズのものを探すのはかなり大変だ。むしろ一個でも見つかったこと自体かなり運が良かったのだ。

 そう思いながら探索していた時だ。地面が急にぐらぐらと揺れだした。地震!? そう思ったが実際は違った。アスファルトの大地を砕いてそこから出てきたのは巨大な木の根っこだ。それを見た瞬間俺はアレが起動し始めたことを知った。

 

 「クソ! こんな場所でこれほどの規模で発動するなんて!」

 

 本来の規模と比べれば可愛いものだがそれでもこんな人が密集するような地帯で発動してしまったら大変なことになる。

 焦り、走ろうとした俺の瞳に何かが横切った。その横切ったのは隣の席の彼奴だ。驚愕に目を開けて恐怖に染まり切った顔で悲鳴を上げていた。

 

 「え?」

 

 赤い、赤い海が花となって咲いていた。

 隣の席の友人が、平穏の象徴が、止めなければ、あれを破壊しなければ、赤い、鉄の匂い、何処だ、何処で発動している、ザクロのように潰れて、頭が砕け散っている、あそこか、あの樹木の所か、何で、何でだ、早くとめなければ、止めないと被害が広がる、何で俺じゃなくて彼が、彼が死んでいる、必要な道具はある、後はこの場を離れてあそこに行けば、何でだよ、何でお前が死んでいるんだよ、道具を使えば破壊できる、迷っている暇なんてない、消えたい、動け、消えたい、動け、消えたい、動け、消えたい、動け、消えたい、動け。キえたい、うゴけキエたいウゴけキエタいうごケきえタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイ―

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 ひぃぐ、はぁぐ! ああああああああああ!!!!!!

 走れ、走れ奔れ奔れはしれはしれはしれはシれハシれハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシハシハシハシハシハシハシハシレ!!!!!

 

 

 

 気が付いたら俺は近くの河原にいた。まるで吸い込まれるように水面を何も映さない瞳で只々見つめ続けていた。

 彼奴は、あいつは俺と違う。俺のような邪神に選ばれたような被害者(・・・)とは違う。唯のこの世界で生きる人間だ。平穏な世界で暮らしていた人間だ。普通に学校を卒業して、普通に会社に入社して普通に結婚して普通に子供を作って普通に子供の世話で悩んで普通に老いて普通に死ぬ事が許された、権利を持っていた奴なのに! 俺たちと神によって生まれ変わらせられた存在と違って普通に生き続ける権利を持っていたのに! 何でだ! お前たち神の暇つぶしはそんなに大切なのか!? 人ひとりの命、いや彼から続く系図を奪い去って俺たちが活躍すれば満足だというのか!!? ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるナ、ふざ…………ケルナ、フザケルナ。

 水面に映った瞳は黒く染まり切り、その顔は憤怒と憎悪に染まり切っていた。何もできなかった俺に対して怒りが込み上げてくる。この体では誰も、救えない。アレを止めるだけの力もない。ああ、これが、この無力感か! これが救いを求めた彼らを狂信者へと変えていったのか! 救いたいのに救えない! 何もできない! ただ見ているだけで終わってしまう! これが、こんなのが人間の限界だ。だからこそ人は神に縋る。救いを求めて。良いだろう。ならば俺は神になろう。人から邪神になって人を救おう。この世でアザトースから生み出された闇となりて人を覆い隠して守り抜こう。たとえそれが邪神の行いでなくともだ。

 ああ、体が崩壊しソウだ。いや、崩壊してもイイ。この身は所詮仮初ノ器。壊れたら自由になレる。

 

 

 

 アザトース。万物の王にして魔王を越える存在。そんな彼が生み出したのが唯の人間になるはずがない。その精神が人間の限界を迎えればその人間の体は崩壊して神格を手に入れてしまう。そう、宇宙の法則すらにも縛られない絶対的な外なる神として。

 彼の存在はほかの二柱の神にとって予想外。有り得てはならない存在。しかし、そもそもアザトースが彼らの遊びに使われているルールを守るはずがない。アザトースにとって遊びに勝つことも大切だが何よりも世界が混沌となる方が楽しいのだから。

 

 彼の精神はこれより崩壊を始める。どんな方法を持っても彼を救う事はできない。なぜなら彼は邪神。救いをもたらすのではなく生命を嘲笑い吹き飛ばして蹂躙する存在。救いなど始めから存在していないのだから。

 

 

 

 san値チェック

 

 主人公 (九頭竜 ???) 1D100

 

 チェック 自動失敗

 

 san値減少 -13-87=-100

 

 状態 拒絶すべき醜悪な邪神の生誕




はい、とうとう主人公が壊れました。ですので文章も支離滅裂な部分が出始めています。
とはいえいきなり神の力ですべてを終わらすという事はないです。唯単にこれ以上壊れることはなくなったといった知度です。……まだ。

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