主の中に入ろうとする者を追い出していくが、それでも主に悪影響は出てくる。実際に干渉を受けた主との間に悪影響が出てきている。
『主! 主!』
「終わりや……!」
駄目だ! 主とこれ以上ユニゾンできない!
強制的にユニゾンが解除されて、私は主の中から弾き飛ばされた。
「主!」
そのショックで気絶し、空から落ちていく主を抱え、私は破壊されつくした町並みに降り立った。
「主よ、ここでお休みください」
私は主を横たわらせて、飛び立つ。目の前にいるすべての元凶を倒すために。
「クトゥルフのテレパシーの影響を受けないか。いや、影響を受けるだけの弱さが存在しないという事だな」
「貴様が私を狂わせた。我が主を助けるためだ、貴様は決して許さない」
「貴様程度に何ができる? 私の知識だけで、翻弄されて文明を滅ぼし続けたお前程度に?」
ぎゅう、っと拳を握りしめる。悔しい。こいつの言うとおり、私ではけしてこいつに叶わない。いや、そもそも絶対に叶わない存在であるがゆえに、こいつはここまで遊んでいられるのだから。
だが、だからと言って指をくわえて見ているだけなど出来やしない。私は月に吠えるものを睨みつけながら、魔法を発動させる。
ヴォルケンリッター達は動けなくとも、私はこいつに作られたわけではない。元々夜天の書に存在していた管制プログラムだ。改造されたのは夜天の書の防衛プログラムだけ。私とは関係ない部分が改悪された。だから、私の動きを阻害できる訳が無い。
「はああああああああああ!!!」
私の周りに、血に浸したかのような色合いのナイフが生まれる。それを操作させて、360°からの同時攻撃を行う。ダメージが無くても、時間は稼げる。
「星の光、集いて砕け」
詠唱破棄。本来は危険な行為だ。詠唱というのは術式を制御するためにある。それをしないで魔法を発動するという事は、制御を失敗する可能性が高くなる。だが、それはあくまでも他の人間や将達だけだ。私は違う。長い間、こいつと一緒に闇の書として存在したがゆえに、詠唱を破棄したところで制御を失敗することはない。それはこいつが魔導の制作者であるからだろう。その技術や知識を使って、私はこの魔法を発動させる。
辺りにはありえない程高密度の魔力が漂っている。この魔導の威力は最大まで高まり、そして完成も早くなる。
「スターライトブレイカー!!!!!!」
あたりの魔力を吸収して、強大な魔力の球が出来た。これ一つで都市、いいや県一つは飲み込めるだろう。
「喰らえ!」
私が知る限り最大威力の一撃。魔力だけであるがゆえに、干渉することもできない一撃。確実に喰らう。ピンク色の光で辺りは照らされ、一気にそれが拡大する。
その範囲は広域にぶつけるのではなく、一定範囲を蹂躙するように放った。だから、主たちには危害は加わらない。
「なかなかの技術と褒めておこう」
これでも、これでも届かない。もうほかに手段はないのか?
「他に何かしないのか? 私としてはもう一つ、二つくらい芸を観たいのだがな?」
ああ、申し訳ありません。主。やはり私には不可能でした。あの時、私の主となった科学者を止められなかった私では、力不足だったのでしょう。邪神を見て、飲み込まれて正気を失った主を救う事も出来なかった私では。
「なら、なら最後の抵抗をしよう」
ぐっ! 頭、頭ん中に!
「ぐう!」
シグナムは! シャマルは! ザフィーラは! それに、はやては!
約束したんだ! はやては救うって! 何が起きても助けるって!
「負けられないんだ!!」
わたしが叫ぶと同時に、私の周りを何かが覆う。それは私たちが使う魔法に似て、何かが違った。
「な、何だこれ?」
それに、この魔法が私を覆った瞬間、頭の中に入ってきていた何かが止まった?
「ヴィ、ヴィータ……」
「シグナム! 無事か!?」
「何とかな。ザフィーラも、それに主も無事なようだ。主は下でザフィーラと共にいるようだ」
そうか。良かった。
「それよりも、これが何かわかるか?」
「わかんねぇ。こんなもの見たこともない」
私達を覆うように張られている何かを見ながら、私は残りの一人を探す。
先ほどから見えないが、どこかにいるはずだ。シャマルが。シャマルなら、これが何かも分かるだろう。
「何処だ!? シャマル?」
私が叫んだあとに、シャマルがどこにいるかは分かった。だが、それが如何いう状況だかは分からなかった。
「何だよ、何が起きているんだよ!?」
だって、私たちの知っているシャマルはあんな模様はない。体の至る所に、模様のように黒い何かが這いずり回っていない。瞳だって、あんな色はしていない。黒い目ん玉に、黄金に輝く瞳孔なんてしてはいない。
なのに、何でそんな色をしている?
「なるほど。器が崩壊している最中で動けないから他者を利用したか」
目の前の、全てを裏で企み、操っていた邪神を睨みつける。ニャルラトトテプは俺がこの世界に来てから、ここまで大がかりな状態に発展させたのだろう。全ては、世界を滅ぼすために。その下準備は幾つも用意された中で、最悪な形で出てきた。それがあの宝石であり、闇の書だ。
いや、そもそも俺は最初にこの世界に来て、感じ取っていたはずなのだ。あの図書館で。月に吠える怪物と、それに従う科学者の饗宴を。それを認識しておきながら、俺はそれを忘れてしまった。それが、それが全ての元凶。俺こそが世界を滅ぼす邪神だったのだ。
「そうだ。お前がもっと考えて動けばこうなることはなかった。お前が言う最悪な形になる事はな。だが、それは既に遅い。私は世界を滅ぼして、お前はそれを眺めるだけ」
そうだ、今の体では何もできない。この体はあの時突き刺して、埋め込んでおいた俺の体の一部を使ってハッキングをしているに過ぎない。力を使えば簡単に器が崩壊する。それに、そんな力はもはや残されていない。
「くくく! ジュエルシードは星辰をそろえ、闇の書は私を召喚させる。だが、ジュエルシードでの影響を最小限にしていれば、私は召喚されることはなかった。唯闇の書は破壊されるだけで終わった。それを都合良い状態にしたのはお前なのだからな」
そうだ。俺が邪神の力をジュエルシードの近くで使わなければ、ここまで酷くはならなかった。
「そうだ。全ては俺が原因だ。ルルイエが浮上するのも、
「ほう」
「お前が、這い寄る混沌たるお前が、高々地球を滅ぼす程度に出てくるはずがない。お前はこの状態を作ろうとしたのは、
「正解だ。くくく! 嗤ってしまうさ! こいつらは私がルルイエを浮上させるためだけに策を講じていたと思っていたようだ。そんなクトゥルフ程度で私が何かするとでも思ったのか、こいつらは」
そう。ニャルラトトテプはルルイエを浮上させたのは、あくまでも次の為の準備。
「お前、お前は誰だ!? シャマルの体で何をしている!」
ヴォルケンリッターが話しかけてくるが、それは無視する。何せ、
「そして、お前はクトゥルフを利用する」
「そうだ。そもそもあいつは祭司。邪神ですらない。利用するのにためらう必要もないだろう?」
躊躇う必要? 邪神が相手でも嗤いながら、軽蔑しているお前が躊躇う訳ないだろう。
「そして、クトゥルフに我らが総帥を召喚させる」
「そう。それを持って私の全ては終わりを告げる」
「
「そう、それこそが私の願い! 何故、この私があのようなくだらない存在に従わなければならぬ! この世界の無秩序を司る私が! 盲目白痴にして、唾棄すべきあの愚かな神を!」
ニャルラトテプには、一つだけ他の邪神と違ったある特別な力がある。それは、
「星辰が揃いし時」
「ニャルラトテップは」
「アザトースから」
「笛を奪い」
「吹く」
「それが」
「意味するは」
「世界の」
「滅び」
san値チェック
主人公 (九頭竜 ???) 0/1D10
チェック 0%(実質100) 自動成功
san値減少 0
状態 這い寄る混沌の真の企み
久方ぶりの九頭竜君の登場です。それと最後のsan値チェックはsan値が回復しているから0です。
器から離れてシャマルの体を奪ったがゆえに、今の九頭竜はある程度san値が回復しています。とはいえ、意味が無いのですが。