ニヤニヤと、這い寄る混沌は私たちを見続けている。
「さて、では約束の景品を教えてやろう。とはいえ、その話の前に前提条件を教えてやらなければな」
「前提、条件……」
トゲのついた服を着た男の子が声を絞り出して、ナイアーラトテプへと尋ねる。
「そうだ。そもそもお前たちは何だ?」
何を言っているんや? 私達は人間や。
「私達は人間や」
「くだらない。そんな如何でも良い事を聞く訳が無いだろう。さて、お前たちは周りの人間から如何いわれる存在だ?」
面白そうに嗤いながら、ナイアーラトテプは私、いやこの場にいるすべての人間を嘲笑っているのだろう。この邪神ならそう考えても可笑しくはない。
「それは如何いう」
「ああ、良い。答えは別に期待してもいない。お前たち程度では分からないだろうからな。
くくく、何、簡単なことだ。お前たちは魔導師だ」
いきなり、何を言っているんや?
「何故、魔導師なんだ?」
「え?」
「くはははは! 簡単なことだ。魔術師でもなく、魔法使いでもなく何故、魔導師というのかだ。それこそがすべての前提条件を理解する鍵となる」
魔導師。それは魔法を使う人間をそう指す。そのはずや。
「魔術師は魔術を使うから、魔術師。魔法使いもまた同じ。では、魔導師とは? 魔道を使うから何てくだらない答えはやめてくれよ?」
一体、一体何をさせたいんや。目の前にいるナイアーラトテプは。
「名は体を表す。この国ではそう言うらしいな。ならばそれをそのまま当てはめれば良い。
魔導師とはな、魔を導く人間を指す」
「嘘だ! そんなはずがない! 魔導師の魔法は科学的なプログラムで組まれている。そんな魔なんていう曖昧なものは関与できない!」
いや、違う。この邪神だからこそ、その言葉は信じられる。
「その女はそう思っていないようだが? 執務官殿?」
厭らしく、見ているだけで吐き気を催す嗤いを見せながら、ナイアーラトテプは私を見る。
そうや。この邪神は他の邪神と違う。人間に積極的にかかわり、破滅をもたらす。
「アンタの化身。その一つは」
「くくく! そうだ。それが分かるのなら如何いう意味か分かるだろう!」
「核推進派の科学者。
それだけやない。アンタは人間に関わって、多くの情報や技術を伝える。そしてその伝えられたものによって人間が自滅するのを見て楽しむ。それがアンタという邪神や!」
今までの中で一番の嗤いを見せて、邪神は謳うように続ける。
「そうだ! そもそもお前たちが言う魔導師の魔法は、私が作り上げたのだからな! 正気を失わないように調整して、多くの人間に使えるように大衆化させて!」
そして、多くの人間に一般化してから破滅させる? いや、それじゃ可笑しい。それだけならこの邪神はきっと魔法を人間に伝えなかった。
それは、リインが保証してくれる。
『主、私の記憶から考えて、彼が言うのは間違いではない。しかし、まだ裏に何か隠されています。あの時、私の主に接触してきた時もそうでした。分かり易い企みと、分かりづらい企み。その二つを用意して、わざと最初に気付かせて油断させる。そして油断から自滅していく様を楽しみながら見ていたのですから!』
「くっくっく。いや、それだけではないがな」
そう言ってナイアーラトテプは目の前に、幾つかの青い菱形の宝石を浮かばせる。
「そ、それは、ジュエルシード!!!」
「くくく! これも私が間接的に作りだした。とはいえ、私がジュエルシードを作った科学者に作らせた闇の書が、同じ世界にあるとは中々面白い事になっていたがな!」
そう言ってナイアーラトテプは宝石を握りつぶす。
「こいつの役割は唯加速させるだけ。お前たち魔導師が使った魔法の効果を」
「魔法の効果?」
「くくく! そうだ。お前たちが知らず知らずに使っている魔法の副次効果、いや本来の効果をな」
魔導師の魔法が何か特殊な効果を持っている? それは? さっきの魔を導くという言葉が、何か関係しているんか?
「まだ分からないか。愚かなお前たちには少し難しすぎたか?
あの金髪の娘ほど愚かだったら最高に面白かったのだがな。なにせ、あれは魔導師がもたらす災厄を防ごうとしていた存在を殺そうとしたのだからな」
そう言ってナイアーラトテプは嗤う。私には誰だか分からないけど、それは周りにいるすべての人間を怒らせるには十分だったようや。
「お前! ふざけんな! フェイトが、あいつがどれだけ苦しんだか!」
「あの子を莫迦にするのは許さない!」
だが彼らの怒りすらも、目の前の邪神にとっては唯心地良かっただけのようや。
三つの瞳を細めながら、嗤いを深くしていく。
「アレが愚かでなくて、何が愚かだというのか! いや、アレの愚かさは血統が保証していたか!」
「……如何いう意味だ!」
「アルハザード」
ただ一言で、彼らは動きを止めた。私にはその言葉の意味が分からない。
『アルハザード。全ての魔法が存在するといわれるおとぎ話の世界です』
だとしても、その言葉が何故彼らの動きを止めるん? それが分からないけど、彼らには何か特別な意味があるようや。
「それが、それが如何した!」
黄金の鎧を着た男の子の声は、私からでも分かるほどに震えていて、虚勢を張っていることが分かった。
そしてそれは私だけではなく、ナイアーラトテプにも丸わかりのようで、嗤い声をあげながら先を言う。
「アルハザードを探していた愚か者だという事だ。アレの母親は。何せ、望んでいた世界は目の前に、いやそれどころか自分の用意した人形がいた世界だと気が付かなかったのだからな!」
如何いう事や。それに用意した人形?
「くははははは! 簡単なことだ。アルハザードとは、そもそもがこの世界を指す! この世界に存在する魔術こそが魔導の原型。ならばこそ、全ての魔法が存在すると考えられ、作られたというのに!」
そう言ってナイアーラトテプは、つまらなさそうになる。
「とはいえ、その程度も分からない、知性の低い人間に私が手を出すつもりはない」
そして、ナイアーラトテプは最後に、景品であるこれからの出来事を言った。そしてその内容は決してはあってならない出来事であった。余りにも、余りにも信じがたい出来事。しかも、それは知識のある、私だけしか知らないような出来事を。
「南緯47度9分、西経126度43分」
それがもたらすことが何を意味するか。私はそれを理解してしもうた。
私の中にある知識が、ナイアーラトテプがしようとしていることを。それは絶対に起こしてはならない事であり、考える事すら悪徳である事を。
けど、アレは条件がそろっていないはず! でも、でもあの邪神がしているんや。条件だって揃えられている? 違う、そんなことあってはいけないんや。ダメ、駄目ダメだめや!
それでも、目の前の邪神がそんな事を理解していないはずがない。
「うそ、嘘ウソうそ嘘ウソうそ嘘ウソ嘘!!!!!??」
「は、はやて!?」
ヴィータが何か言っているけど、それらも今の私には意味をなさない。だって、私達に突き付けられたのは、
「ルルイエが……浮上する」
san値チェック
八神はやて 2D6/3D10
チェック 34 21 成功
san値減少 34-8=26
状態 邪神の企み
ニャル様の企みが出てきました。