トリオンエンジニアリング!!   作:うえうら

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『ワトソンプロジェクト:人工知能はクイズ王の夢を見るか』
※凪視点


03 拉致・入隊試験

「これより、入隊試験を行う」サエグサが声高に、そして厳かに宣言した。

 前方には西洋風イケメンがいる。私との相対距離は目算10m。

 そいつの名前は確かクラウダ。

 その手に握られるは幅広の大剣。

 白銀の剣尖(きっさき)が私に向けられた。

 対して、私の両手に握られるは直刀のスコーピオン。

 それを十字に交差し、臨戦態勢へ。

 端的に言って、急展開である。しかし、ここに至るまで、そう長い時間はかからなかった。

 時計の針を巻き戻すこと、おおよそ3時間分。

 

 

 

 

得てして眠りからの覚醒とは急な場合が多い。そして、今回も突発的な外的要因によって、私の浅い眠りは阻害されることになる。

 ――お腹辺りに、何か不快な質量感。

 ――それから、けたたましいローターの音。

 耐えきれずに、私は目を覚ました。

「凪、ご主人が――」

 ドローンに装着されている指向性マイクから、クーちゃんの声。

 それは緊張感を孕んだ声音だった。

「え、どうしたの、クーちゃん」

 起き抜けの私は、寝ぼけたような腑抜(ふぬけ)た声を出す。

「凪、驚かないで聞いてね」

「ええ、どうぞ、クーちゃん」

「ご主人が連れ去られた……」

「へえ、兄さんが連れ去られたんですか」

 ストライキでも起こしたのかとばかりに、私の頭は働いておらず、何の感慨もなく復唱していた。

「凪、驚かないでという前振りは、驚いてくださいという意味なんだけど」

「え! 兄さんが連れ去られたですって!!」

「ワンテンポ遅いよ、……凪」

 少し、いやかなり遅れて私は驚愕の声を上げていた。そして、その意味を理解することになる。

 布団を跳ね上げて、上半身を起こし、首を振って辺りを見回す。

 信じられないことに、兄さんの姿はなかった。

 兄さんのバックパックも残っていない。

 代わりに残されたのは一枚のメモ用紙。

 

―――――――――――――――――――――ー―――――――――――――――――

親愛なる凪へ

 凪がこれを見ている頃、僕はもうここにいないと思う。

 僕のことは探さないでほしい。

 非常食やら、充電器やらはベッドの下に入れておいた、使ってほしい。

 誰かを残して()くというのはこういう気持ちだったんだね。

 詳しいことはクーちゃんに聞いておいて。

 最後になったけど、この手紙は読み終えてから10秒後に爆発する。――兄より

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

テンプレばかり詰め込まれた内容だった。

 もちろん爆発はしないし、絶対探しに行く。

 一つため息をついてから、メモ用紙をシステム手帳に挟んだ。

 この手帳は兄さんが私の大学合格祝いに買ってくれたものだ。正直に言うとあまり使っていない。手帳に挟んだペンは兄さんの部屋から失敬したもの。今着ているパジャマは兄さんが買って来てくれたもの。鏡を見ながら頭に付けたカチューシャは兄さんが作ってくれたもの。今では私服になっている白衣は兄さんとのペアルックを狙ったもの。おっと、どんだけ私はブラコンなんだ……。

 というか、身の回りの品々を改めて確認している場合ではない。

「クーちゃん、詳しくはクーちゃんに聞いてくれって書いてあったんですけど」

「じゃあ、端的に説明するよ、凪。……ご主人は≪キオン≫の第三王女に見初(みそ)められたらしい。それで、拉致されちゃった。ゆくゆくは皇室入りしてしまうかも」

 クーちゃんは事のあらましを神妙な声で告げた。

 ………………。

 その意味を理解するのに、少しばかり時間がかかりそう。

 逆玉の輿。あるいは逆シンデレラストーリー。あるいは逆雅子様。あるいは一昔前のライトノベル。あるいは国家権力に引き裂かれた兄弟愛、そう! これだ。これがしっくりくる。

「クーちゃん、兄さんは抵抗しなかったんですか」

「ご主人は生身で、相手はトリオン体だったからどうしようもなかったと思う。電極の出力を最大にすれば逃げるくらいはできたかもしれないけど、凪が(なか)ば人質状態だったから……」

「それって私のせいじゃないですか……」知らずに白衣を握りしめていた。

「いや、そんなことないって、凪」

「兄さんと連絡はとれますか」

「もう大分距離が空いたから連絡は取れない。でも、ご主人の隣には僕がついているから、ある程度近づけば通信はできるよ」

 クーちゃんは少し得意げに言った。今はクーちゃんの姿をARできていないけど、いつもなら微笑みを浮かべているときの声音だ。

「えっ、クーちゃん、それってもしかして、捉えようによってはですよ。……兄さんとクーちゃんが2人きりってことになりません」

「まあ、ご主人は一人きりで固い椅子の馬車に詰め込まれたから、捉えようによってはそうだろうね。まともに親しい人物は僕だけだと思うよ」

 キオンの第三王女に気に入られてしまったことより、クーちゃんと密室で2人きりという事実のほうがよっぽど私の危機感を煽る。

 それでも、一番心配なのは兄さんの身の安全だ。

「兄さんの貞操って大丈夫ですかね……」違うだろ、私。そうじゃないでしょ。

「ご主人はああ見えてというか、見た目通りというか、言ってしまえばヘタレだからね。無理矢理ってことがなければ大丈夫じゃないかな」

「まあ、兄さんですしね。早速ですが、兄さん奪還作戦を開始しましょう」

 私は流しっぱなしの髪を櫛で撫で下ろし、勢いよく言葉を発した。

「いいね、調子が出てきたね、凪。でもさ、普通は逆だよね、シチュエイション的にはさ」

「まあ、ヒロインが助けに行くってのもありじゃないでしょうか、自称できる妹ですしね。渡し損ねたチョコレートをぶつけてやります! 」

 語尾に勢いをつけると共に、スッと手を伸ばしてあたかも中二病のようなポーズをとる。姿見に映る私の白衣はそれに呼応し、威勢よくはためいた。舞い上がった白衣の白とゆれる髪の黒。無彩色が刻むコントラストは相変わらず凛然と克明に。これは自画自賛である。

「そのポーズはどうなの凪……」

 やれやれといった口ぶりでクーちゃんがたしなめてくれた。

 

 

「何をするにも、まずは情報収集ですよ、ワトソン君」

「凪、ワトソン君は医者だから、白衣を着てる凪の方が似合ってるよ」

「へ!? ワトソン君は医者だったんですか、てっきり物書きだと思っていました」

「まあ、あれはワトソン君が書いたという(てい)だから、勘違いするのも無理はないかも、読んでいなければね、凪。……というか、sAI(補助人工知能) に向かってワトソンと呼ぶとは、凪もなかなか洒落てるね」

 クーちゃんとそんな茶番じみたやり取りを交わし、サエグサ邸の1階へ降りる。

 ちなみに、クーちゃんはクイズ王ではない。

 リビングに入ると、机につっぷしたサエグサがいた。

 事件の匂いがする。

「ワトソン君、昨夜ここで何があったのかね」声を作って言ってみた。

「昨夜、王立騎士団に抵抗したサエグサ(16) が鈍器で気絶させられた」

「しょ、証拠はあるのかね」あたかも犯人っぽい声で言ってみる。

「ご主人の視覚情報なら2日分遡れるから証拠もあるよ、凪」

 迷宮入りかと思われた事件は解決した。名探偵の座とホームズの名はクーちゃんに返上しよう。

 彼の肩を揺すって起こしてみる。ピクリと頭が上がったので、私は少し狼狽(うろた)えた。

「お、おはようございます」

「あ、あれ、八宮は!? 」はっとした表情でサエグサは声を上げた。

「兄さんなら、連れて行かれたらしいですよ」

「ああそうか、そうだった、……すまない」 そう言って、サエグサは方形の机に項垂(うなだ)れた。

「謝ることはないですよ、その王女がいるって場所を教えてください」

 椅子の方へ詰め寄り、肩を強く揺さぶって目を覚まさせてやる。目にかかってそうでかからない、そんなサエグサの前髪が揺れた。

「わ、わかった、近い近い。…………王族関係はノルンに聞いた方が早いから、まずは手を離せ」

 サエグサは少し顔を赤くして、そう言った。風邪気味なのかもしれない。

「誰ですか、そのノルンって人は」

「昨日会っただろ、あの狙撃銃を持っていたやつ」

 昨日の狙撃銃っていうと、あいつだ。一人だけ、兄さんと戦わなかった奴。たしか、長髪と眼帯で二重に目を隠していた。

「へえ、ノルンって名前だったんですか、では、早速行きましょう」

「待ってくれ、まだ朝ご飯を食べてない」

 サエグサはお腹を押さえて、お腹と背中がくっついていそうなポーズをとった。

「チーズケーキ味とフルーツ味」私は端的に選択肢を示す。

「え?」サエグサはぽかんと口を開けた。

「どっちがいいか、ですよ」

「チーズなんたらってのは分からないから、フルーツで」

 キッチンへ向かう足を止めて、サエグサは答えていた。

 

 

カロリーメイトのパチモンを口に咥えて、石畳の道を走る。

 サエグサはジャスコブランドのこの味をお気に召したらしく、チーズなんたら味も食べてみたい、と言ってきた。一本ずつ食べることにした。

 昨日は異国風情なこの街並みが輝いて見えていたはずなのに、兄さんが隣にいないだけで、無機質なジオラマのように映る。景色自体は全く変わってないはずなのに、こうも違って見えるなんて、人間ってやつは存外複雑に作られているらしい。

 カロリーメイトのパチモンが口の中の水分を奪っていき、もさもさ感だけが取り残された。砂を噛むような感触。幸い味を感じられる程度には私の心は健康だったらしく、それほど不快ではなかった。

「これ、粉っぽいんだけど」200kcalを胃に収めたサエグサが文句を言ってきた。

「兄さん、雪でも食べればいいじゃないですか」

「ぶっ、ふはははっ! 」サエグサは思いっきり笑いやがった。腹を抱えて、笑いやがった。

「凪、枕詞みたいに、兄さんって言うのやめなって、……ふふっ」クーちゃんも笑いを堪えきれないらしい。

「雪食わせますよ、サエグサッ」

 照れ隠しに、私は雪玉を投げつけてやった。女子力を込めて無い雪玉は、奴の口に吸い込まれていった。

 (しばら)く走っていると、大きなモミの木を中央に生やした十字路に到着し、そのまま横切る。どうやら、ここが村の中心らしかった。

 不意にジャガイモをゆでたような、どこかデンプンっぽい香りが鼻をくすぐってきた。パン屋さんみたいな造りのお店から、この香りが立ち上っているようだ。ほつれのある黄色いエプロンを身に着けた少女が呼び込みの声を上げながら、オープンカウンタへ品出しをする。労働が流す爽やかな汗が、鮮烈な朝日を受けて輝いた。背丈の低い子供たちが銅貨を握りしめてそのお店に群がっていった。

 この村の大人はみんな出稼ぎにいっている。地域経済を支えているのは紛れもなく子供たち自身である。

 少年少女がスノーダンプを器用に使いこなし、側溝へと雪の塊を流し込む。そんな働く姿に感心していると、

「ほら、ついたぞ」と、サエグサが足を止めた。

「げ……。これ本当に豪邸っぽいじゃないですか」

「ノルンはキリン家の次男なんだ。一応、王族とも繋がりがある。ほら、入るぞ」

 サエグサ邸の10倍はありそうな貴族貴族している豪奢(ごうしゃ)なお屋敷。定期的に磨かれているのか、赤茶の煉瓦(レンガ)は太陽(太陽ではないのだが、この星系において太陽の役割を果たす恒星) の光を受けて、燃えるように煌めいてた。

 重厚で荘厳な両開きの扉が重々しく開かれる。

 

 

メイドさん!? が迎えてくれた。レースにふちどられた帽子や袖口の真っ白なフレンチカフス、そして躰の全面を覆うフリルつきのエプロン、まぎれもなく19世紀大英帝国を思わせる衣装だった。そしてそのメイドさんに、おそらく応接間――長い机とそれなりの数の椅子が用意されている長い部屋――へ通された。

 部屋に入ると、まるでここが指定席だと言わんばかりに、サエグサは流れるような動作で椅子に座った。

「あ、そうだ、今日は会合がある日だった。丁度いい」

「会合って何ですか? 」

「オレ達の部隊の話し合い」そっけなくサエグサは答えて、それから言葉をつづける。「もうちょっと待てば、みんな揃う」

「へえ、そうなんですか」

 自分から聞いておいて、私は生返事で返した。椅子や机の装飾、壁に飾られている絵画に目を奪われていたのだから仕方がない。すると、ヘッドセットからクーちゃんの声がした。

「凪、さっきの見てた、メイドさんだよ」

「いやー本物のメイドさんでしたね、クーちゃん」その姿を思い返しながら答える。

「ご主人ってああいうの好きかな」

「いやーどうでしょうね、いま一つ兄さんの好みが分からないんですよね」

「そうだよね、凪。以前さ、ご主人の隠しフォルダを見たことがあるんだけど、どうにもご主人の好みは判然としないんだよね」

「えっ、どんな、内容なんですかそれは!? 」

 椅子から立ち上がった私は上擦った声を上げていた。

 サエグサが怪訝(けげん)そうに視線を寄越したが、そんな(いぶか)しみは大事の前の小事である。神秘のベールに包まれていた兄さんの性癖の一端を垣間見られる、そんな淡い期待が湧きあがった。

「いや、ご主人のプライバシーにかかわるから、ダメだって、教えられないよ」

「ぐっ……」

 言葉に詰まった。兄さんへの領域侵犯を幾度も重ねてきた罪深い私は、クーちゃんのその(げん)に反論する言葉を持たない。

 唇を噛みしめて論駁(ろんばく)案を模索していると、

 忽然とドアが開いた。

 ぞろぞろと入ってきたのは3人の少年。みんな黒いコートを羽織っている。

「あれ、なんで、玄界人の妹がいるん? 」サシャとかいう人が言った。

「あ、昨日の八宮って人の妹」私に指をさして、クラウダとかいう人が言った

「……とりあえず、私は自己紹介がしたい」ノルンと言う人がぽつりと呟く。

 彼の希望通りお互いの自己紹介が執り行われたが、こいつはほとんど自己の詳細を明かさなかった。

 その後、私とサエグサが斯々然々(かくかくしかじか)と事のあらましを説明する。

 そして、会議が開かれた。話し合う事30分、少しの紛糾があった後、お互いの利害が一致することが判明。

「……書記である私がみんなの話をまとめた。……見てほしい」

 そう呟いて、ノルンはA3ほどの面積の用紙をテーブルに乗せる。見事な丸文字が刻まれており、抑えきれない女子力を放っていた。私はギリリと歯噛みする。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■チームスノリア、王立武闘大会緊急対策会議――date3/35

・大会の優勝賞品は王族へ謁見する権利。それと金貨3年分。

・出場資格は20歳以下で構成された5名の団体。ただし男女混合。※同性愛は異端であり、魔女狩り対象であるため。

・予選は団体戦。実際に戦うのが4人。補欠が1人。

・本戦は団体の部と個人の部がある。

〇チームスノリアのニーズ

・紅一点が足りない。強い女性が欲しい。女子力は不問。

〇八宮妹のニーズ

・とにかく王都に行きたい。

・できるなら、兄に会いたい。

・可能なら、第三王女に直接話をつけたい。

・最高の結果は兄を直接かっさらうこと。とにかく王都にいかねば。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんだ、私が適任じゃないですか」

 ノルンの丸文字にざっと目を通して、私は揚々と言ってのけた。

「お前はどこのポジションが得意? 」訝しむように、サエグサが()いてきた。

「一応、近・中・遠・情報支援、一通りこなせますよ」

「じゃあ、あんたは兄よりも強いの? 」挑むような目でクラウダが言葉を発した。

「兄さんとなら、まともにやれば7対3で勝てますね」

 無い胸を張って、私は答える。

「……その、7対3の7を最初に引けます? 」

 綿雪のように不定形でつかみどころのない声。(すだれ)みたいな長い前髪が邪魔をして、ノルンの表情は確認できず、その言葉の真意は汲み取れなかった。そうであっても、彼の台詞には底冷えさせる重みがあった。

 たとえダイヤグラムで勝っていても、ここでは最初に相手の喉元を()っ切らなくては意味が無いのだ。

 ――私は忘れていた。

 ――兄さんがいなかったら、私はあっさり死んでいたことを。

 ――ここにはリアルな死があることを。

 ノルンのその問いに私は答えることができなかった。

 言葉に詰まった私へ、サシャが疑念の眼差しを向ける。

「いや、玄界人が言う事は怪しいから、テストが必要じゃない? 」

 私はごくりと固唾を飲んだ。そして、チームのスノリアの面々を順々に見据える。狙い通りに視線が私へと集まった。一つ深呼吸。

「誰でも、かかって来てください。妹より優れた兄はいないと証明してあげましょう」

 白衣と長い黒髪を勢いよくなびかせて、啖呵を切った。

 重要なことに気づいたからこそ、威風堂々と喧嘩を売れたのだ。

 とりあえず、兄さんがいなくては死とか生とかの概念があまり意味を持たないのだから、恐れることはあんまり無い。

 

 

 

 

かくして、シーンは冒頭に戻る。舞台は村の外。

 3時の方向には村を囲う丸太の柵。9時の方向には見渡す限りの雪原。

 6時の方向にサエグサ、サシャ、ノルンがいる。

 兄さん意外の人と剣を交えるのには少し抵抗があるけれど、兄さんを助けるためだ、仕方がない。

「これより、入隊試験を行う」サエグサが声高に、そして厳かに宣言した。

 私との相対距離は目算10m。そこに西洋風イケメンがいる。名前はクラウダ。

 その手に握られるは幅広の大剣。

 白銀の剣尖(きっさき)が私に向けられた。

 対して、私の両手に握られるは直刀のスコーピオン。

 それを十字に交差し、臨戦態勢へ。

「クーちゃん、上空へのドローンの配備は済みましたか」こそこそと声を出す。

「済んだよ、凪」

「ありがとうございます、視覚共有と熱観測を」

「了解、凪」淡々とクーちゃんが返した。

 直後、人工視覚が立ち上がる。頭の後ろにスクリーンがあるような不思議な感覚。

 チャキリ、と大剣を構えなおす音。

 一瞬間、サエグサの目が大きく見開かれた。

「疾ッ」突き刺すような声。

 彼はブレードシューズを巧みに操って、雪上を滑走する。

 相対距離がぐいぐい縮まる。

 エスクード、と静かに詠唱。

 十数のコンクリ壁を展開。四方八方アトランダムに点々と。

 これは防御用ではない。移動用だ。グラスホッパーを踏んで跳び退る。

 上空のドローンのおかげで、私は私を三人称視点で操縦できる。

 エスクードを次々に跳び渡って、サエグサの間合いに入らないよう距離を取る。

 キィイインと可聴域スレスレの高周波。鼓膜を通り越し、脳にまで届く。

 瞬間、白銀の閃光が疾る。エスクードが水平方向に両断された。

 相変わらずの威力である。切断面は溶けるような滑らかさ。

 クラウダは大剣を反転させ、翻す。

 大剣の刃先が眼前を駆けた。ハラリ、と大剣に切られた髪が宙を舞う。

 私は後ろを振り向きもせずに、バックステップ。防壁の上に着地。勢いを殺さずに、次のコンクリ壁へ。

 エスクードを飛び石に、次から次へと縦横無尽に移動。

 片手の拳銃で仕込みを入れつつ、グラスホッパーを使って更に移動速度を上げる。

 ブレードシューズの内燃機関から小刻みな炸裂音。

 クラウダはモーグルの選手みたいに、スラローム滑走でこちらへ迫る。

 エンジンの推力も合わさって、直線的な加速力は私の比ではない。

 上段から大剣が振り下ろされる。

 グラスホッパーで真横に跳ねて、躱す。

 大剣が弾かれるように翻って、私を追った。ほぼ直角な軌道。並みの膂力(りょりょく)ではない。

 間一髪、テレポートで1mほど移動し回避。

「このやろっ、ちょこまかと!! 」クラウダが吠えた。

 やられ役(ぜん)とした台詞に、私は思わず苦笑を漏らす。

 どうやら、直情型っぽい性格。

 拳銃から通常弾(アステロイド)を放って、それとなく誘導。

 雪面にも撃って、程よく目くらまし。

「てめっ、待てッ――――へぶっ!!?? 」

 吠えたクラウダは足元からつんのめって、前のめりに倒れた。

 仕込みというのはスパイダーのことである。

 あらかじめ、エスクードの2点間に幾重にも鋼線を張っておいたのだ。

 背後へテレポート。

 スコーピオンで首からバッサリ。

 ぼふん、と音がした。クラウダは大の字になって寝転がっている。どうやら、そういう流儀らしい。

「あんたもなかなかやるな。八宮の妹」

「妹より優れた兄などいませんからね」私はニッと笑顔を作って、踵を返す。「ほら、チームスノリアのみなさん、これでどうですか」

「すまん、もう一人やる気になった……」サエグサが声を張って、私に告げた。

 圧倒的な既視感を覚える。どっと肩の力が抜けて、私は大きなため息をついた。




ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
感想、お気に入り、批判嬉しいです。

凪ってかわいいですかね。どうすれば可愛くなるでしょうか。
サエグサは正しいシスコン。

※以下はチラシの裏
この作品がつまらない一番の原因は原作キャラがでないこと。
あと文章のテンポが悪い。
原作キャラが出ない。
地の文が多い。
世界戦を変えて、凪が暴走しない話も書いてみたかった。それで、栞さんとメカニック談義させる。

どこかの隊が遠征に出向かないですかね。ばったり遭遇させたい。



「ねえ、凪。凪はご主人の妹でしょ」

「ええ、そうですね、クーちゃん」

「ベタな妹キャラの設定、というWEBページを見つけたんだけどさ」

「へえ、それがどうしたんですか? クーちゃん」

「まあ、とりあえず、聞いてよ、凪。
 LV1.兄に近づく女に対して、『誰?』と、舌打ちする。挨拶されてもガン無視。
 どう、これは凪にあてはまりそう? 」

「いや、私は基本愛想がいいですし、そういった感情を表にはだしませんよ」

「じゃあ、LV2.『あなたみたいな人がお兄ちゃんに釣り合うわけないわ!』と、面と向かって罵る。
 これはどう? 」

「いやいや、だから私はできる妹ですって。思うことがあったとしても、そんな怖いことは言いませんよ」

「じゃあ、LV3.『・・・匂いがするッ! お兄ちゃんの体中から、あの女の匂いがするよッ!!』と、兄に言及する。
 これはどうかな、凪? 」

「いや、まあ、そういう『副作用』があったらやるかもしれませんけど、私の鼻は人並みですからね」

「あ、LV4はOUTっぽいよ、凪」

「いやいや、LV1~LV3までセーフだったんですから、いきなりOUTはないでしょ、クーちゃん」

「じゃあ、LV4.『お兄ちゃんは私だけのもの・・・』と、光のない目で包丁を手に取る。※包丁を向ける人は問わない。
 凪……、これは紛れもなく、OUTでしょ」

「いやいや、トリオン体はセーフですって、クーちゃん」

「もう、今までの返答の全てがOUTなんだってば、凪……」


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