干物妹!まきちゃん   作:ユカタびより

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予想以上に遅くなってしまいましたが、お待たせいたしました。

これにてハロウィン回は終劇となります。

最後までお付き合いくださいませ。

新しく評価をいただきました。
 
 塩釜HEY!八郎さん、ありがとうございました!


では、投下。


【ハロウィン編】Trick or Treat in the Nisikino's 【後編】

 

 

 ふと、キッチンに明かりが点いた。

 窓から漏れるその光に気づいた俺は、なんだろうと思い勝手口の扉を開ける。

 するとそこには…

 

 

「お帰りなさいませー♪ ご主人様っお嬢様♡」

 

 

 ―――――メイドさんがいた。

 

 

「…はは、今度は君?ことりちゃん(・・・・・・)

「うぅ…こ、ことりちゃんっ!お嬢様って言うのや、やめてよぉ…」

 

 甘くて可愛い声でそう言って俺達を迎えてくれたのは、メイド服を着た南ことりちゃんだった。

 花陽ちゃんはお嬢様と呼ばれたことが恥ずかしいのか、ほんのりと顔を赤くして小動物のように縮込(ちぢこ)まってしまっている。

 

「うふふっ、ねぇ秀くん」

「ん、どうしたの?ことりちゃん」

「おやつっ、食べたいな♪」

 

 来た、おねだりだ。ここまでくると正直もう予想はできていたので、あげる分には全然問題はない。いっぱい買って来てあるから幸い数の心配もないし種類もそれなりに豊富のはずだ。

 それにしても、おやつって…可愛い言い方するんだな、ことりちゃんは。

 ここで少し聞いておこうと思う事がある。

 

「ねぇことりちゃん」

「? なぁに?秀くん」

 

 首をコテンと傾げて頭に疑問符を浮かべてから、ことりちゃんは応える。

 

「俺がおやつをあげない、って言ったらどうする?」

「……」

「……」

「……」

 

 …………………沈黙。

 ことりちゃんはニコニコとした表情を固めて。俺は口角を上げてはいるものの、ニコニコとは違う笑みを。花陽ちゃんはあはは…と言わんばかりの苦笑したような顔を見せている。

 多分だけど、俺悪い顔してるかもな…。

 まもなくして、ことりちゃんが焦ったように口を開いて沈黙を破る。

 

「え、え~?困るよそんなの~」

「ふふっ、さぁどうする?ことりちゃん」

 

 困ってはいるように見えるものの、笑顔を崩すことののないことりちゃんに俺は追い打ちをかけるようにして再度尋ねる。

 

 

 一方、この様子を見ているこの時の花陽ちゃんの心情は

 

(秀平さん、楽しそうだなぁ…)

 

 というものなのだが、俺は当然の如くそんなことは知る由もなかった…。

 

 

「う、う~んそうだねぇ…おやつをくれないと~…」

「うんうん、おやつをくれないと?」

「おやつをくれないと~…!」

 

 おっ、どうやら答えが出たみたいだ。

 少し意地悪だけど、敢えてお菓子をあげないという選択を選んだらいったいどうなるのか?

 その答えが今、ことりちゃんの口から明かされようとしている。

 

 果たして、その答えは―――ッ

 

 

「おやつをくれないと、おやつにしちゃうかもっ♪」

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 …………………再び沈黙。なんだろう、この感じ…。

 困った様子をみせることりちゃんが少し可愛いなと思ったから、ほんの少しだけ攻めるように聞いてみた結果、なんだけど…。

 なんだろう…こう、ひっくり返された感が物凄い。

 

 ことりちゃんはついさっきまでのうんうんと考えて困ったような表情とは打って変わって、今はすがすがしい程の気持ちのよさそうな満面の笑顔で何とも言えない威圧を放ちながらこちら、というより俺を見ている。…ちょっと怖い。それに花陽ちゃんが若干怯えてるのが目に見えて分かる。

 

 しばらくして、俺はなんとかして口を開く。

 

「そ、そっか。あはは、俺もおやつにはなりたくないな…」

「も~う秀くん、冗談だよっ冗談♪」

 

 笑顔を崩さず、軽い感じでことりちゃんは言う。

 はは…冗談、か。花陽ちゃんの様子を見るとちょっと疑っちゃうかな、その言葉は…。

 そんなことを思いながら、俺は花陽ちゃんの方をチラリと一瞥する。

 

「?」

 

 花陽ちゃんと目が合うものの、その瞳には少し涙が溜まっていた。よっぽど怖かったのかな…?

 

 でも、成程な。おやつが貰えなかったらおやつにする、か。

 深いな…自給自足宣言か。たくましい女の子だな、ことりちゃんは。

 

「ねぇ秀くん」

「ん?」

「おやつっ、いいかな♪」

「…ふふっ、いいよ。どれにする?いっぱいあるから、ゆっくり選んでいいよ」

 

 そう言いながら、俺は袋を両手で大きく広げる。

 

「う~んとねぇ…あ!ねぇねぇっチーズケーキみたいなやつってあるかな?」

「スライスチーズならあるよ」

「いらないっ♪」

 

 

 残念だ…。

 

 

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

 とりあえずケーキ繋がりだということで、パウンドケーキを渡して俺たちは一度ことりちゃんと別れた。なにやら行くところがあるらしいけどどこへ行くんだろう…?

 

 さて、花陽ちゃんの案内によると、次に向かうところは…

 

「え?倉庫?」

「はい、そうです」

「あ~倉庫かぁ…」

「? どうかしましたか?」

「ん、あぁいや大丈夫だよ」

 

 西木野家の倉庫はコンテナ状のものであり、主に物置として活用されている。

 この倉庫がまたそこそこの大きさを誇っており、横幅3m,奥行5mの空間が広がっているくらいなのだ。

 未だにどうやって敷地内へ入れたのかが分からない…。

 

 さてこの倉庫だが、先程通って来た庭の反対側に位置しているのだ。つまり、最初の玄関の所を左ではなく、右に進んだ方向にあるということだ。

 はぁ~…せっかく中に入ってきたというのに、また出ないと駄目なのか…。

 

「また妙なところに誘うなぁまきのやつ…」

「わ、私自身も、誘う場所とその場所の位置は真姫ちゃんから教えてもらったんですけど…」

「そこでどんなことを計画しているのかまでは、聞かされてないってことか…」

「う、そ、そうです…あのっごめんなさい、お役に立てなくて…」

「ううん大丈夫。どのみち行けば分かることだろうし、それに今更だけど、こうして花陽ちゃんたちがまきの遊びに付き合ってくれていることの方が申し訳ないよ。だから、こっちこそごめんね?それと、ありがとうっ」

 

 ずっと言いたかったことをようやく言えて、俺はすっきりとした気持ちになる。

 しかし花陽ちゃんの方を見てみると、いきなりお礼を言われたことに戸惑っているのか恥ずかしがっているのか、無言で俯いている。まぁ花陽ちゃんも海未ちゃんと同じで、少し恥ずかしがりやなところがあるからなぁ。

 

 まきだったら

 

 

『ふふん当然よ♪っていうかそんなことよりモスバ買ってきて。トマトオンリーね』

 

 

 だもんなぁ…。あいつも少しは花陽ちゃんや海未ちゃんを見習ってほしいものだ。

 

 

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

 ヒュウっと風が吹き抜ける。

 あれから花陽ちゃんが口を開くことはなく、お互い静々としてここまで来たのだが、それがようやく解かれる――――

 

「着いたね…」

「は、はい…」

 

 大きくドンとそびえ立つコンテナの倉庫。

 もうすっかり遅い時間帯の今、月明かりに照らされているのが不気味に感じてしまう。

 

「…絶好の場所だと思うし、いる(・・)と考えた方がいいよねこれは」

「いっいるって…なにが、ですか…?」

「いやμ'sの娘」

「あ…そ、そうですよね。ごめんなさい、私…」

 

 まぁ別の何かが潜んでいると思ってしまっても無理はないな。それほどまでにここはそういう雰囲気が強い空間になってしまっている。かくいう俺もちょっと怖い…。

 幸か不幸か、倉庫の引き戸は開いているみたいだ。

 

「じゃあ…せーので開けるよ?」

「は、はい…っ」

「いくよ?……せーのっ!」

 

 ガラっ

 

 ……………………………………何も起きない。

 

「何も…起きませんね?」

「…そうだね」

 

 しかし、花陽ちゃんに俺をここまで案内するように言ったのはまきのはずだ。

 だとするなら、何もないなんてことはないはずなのだが…。

 

「…中、入ってみる?」

「え!?えっ、と……入ります!」

 

 俺の発言に肩を跳ねさせて少しだけ迷ってから、強く頷く花陽ちゃん。

 俺は引き戸を開け放ったままにして中の空間へと一歩踏み込んでいき、花陽ちゃんも後に続く…。

 

 

 

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 暗闇の中へと足を踏み込んでみたのはいいものの、現在倉庫の中は物置小屋として活用されているか怪しいくらいにガランとしている。

 空間の隅っこに箒や塵取りといった清掃用具や工具セットが固められて置かれているだけだ。

 

「うわぁ…綺麗、ですね」

「あはは…」

 

 まぁそもそも、父さんも母さんも物を溜め込んだりするような性格じゃないからこの光景は珍しくないんだけどね…。

 二人共、基本的に物は最後まで使い切るか、使えなくなったら即修理するか処分するかの考えを持ってるから、この場所が満足に活用されることはあまりないのだろう。

 だったらなぜ倉庫なんて置いたのだろうか?と疑問を感じていると…

 

「ひゃあぁぁああっあぁああっっっ?!?!」

 

 突然隣から悲鳴が上がった。

 花陽ちゃんのものだ…。

 

「ど、どうしたの?花陽ちゃん」

「う、ううぅぅうぅう…っ」

 

 花陽ちゃんはそのまま(うずくま)る形でしゃがみこんでしまった。……………胸を押さえながら(・・・・・・・・)

 

「え?え?ど、どうしたの花陽ちゃんっ気分悪いの!?」

「………っ」

 

 しかし花陽ちゃんはフルフルフルと少し強く首を横に振る。

 しゃがんでよく見てみると肩が震えていて、顔の方も覗き込んでみると頬を紅潮させて涙目になっている。

 

「い、一体何が―――ッッ!?」

 

 その時、俺は感じた。

 俺の背中に何か(・・)が纏わりついていることと、同時に身動きが取れないということを…。

 

 (え…えぇーーーーっ!?な、なにこれ金縛り?まきのやつっ一体どういう手を使って―――!?)

 

 いつの間にか恐怖を感じることよりもこの現象の正体を知りたいという気持ちの方が強くなって、俺は首だけを後ろに向けようとする。

 

 ―――――――しかし、俺の首が後ろに向くことはなかった。

 

 俺の首にふーっと冷たいような生温かいような、そんな小さい風のようなものが吹き当たり、ぞわりとした感覚が次第に全身を駆け巡っていくことを感じたからだ。

 

「~~~っっ」

 

 あああっもうっ!一体何が起こってるんだっ!?

 

 直後に、体にのしかかるように纏わりついたものは、俺から離れた。

 今がチャンスだと思い、俺は今度こそ後ろをバっと振り返る。そしてそこには…

 

「! あ~、成程ね…。まぁよく考えてみればこんなことをしてくるのは君しかいないか…」

「ふふふっちゃんと驚いてくれた?」

「うん、まぁ驚いたよ」

 

 

 

 

 

「希ちゃん」

 

 

 

 

 

 目に飛び込んできたのは、なんとも妖艶な格好をしていて、そしてなぜか水晶玉を撫でながら立っている東條希ちゃんの姿だった。

 

 

 

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「なんか微妙な反応やねぇ、もうちょっとこう…秀平さん?」

「…………」

「ど、どうしたん秀平さん…」

 

 俺がずっと黙っているからか希ちゃんは不安そうに聞いてくる。

 

「あ、あぁゴメンね。いや、なんかその衣装、凄く希ちゃんに似合ってるなって思ってさ」

「! も、もぉ~秀平さん、ウチのこと見つめてそんな風に思ってたん?い、いきなりそんなこと言われたら恥ずかしいやんっ!」

「はははっゴメンね?それより、その衣装ってもしかして…」

「うんっ、占い師!」

 

 そう言いながら希ちゃんはその場でクルリと一回転する。

 

 妖艶だとも思える希ちゃんの今の姿は、フリルがついた黒いタンクトップにミニのヘムスカートを着用している。少しばかり露出が多いもののそれだけでも充分魅力的に見えるのだが、占い師ということで頭にベールを被っており、スカーフのような衣を腕に纏わせていることで妖艶さが高まっている。

 

「やっぱりそうか。似合っているどころかピッタリだと思うよ、いつもよりさらに大人っぽい感じかな」

「ふふ、ありがとう秀平さんっ褒め言葉として受けとっとく♪でも残念、今日のウチは少~しだけ子供っぽいかもっ」

「え?」

「ん、分かるやろ…?」

 

 そう言いながら希ちゃんは、手を広げて伸ばしてきた。

 そういうことか…。

 

「ちなみにあげなかったら?」

「わしわしMAXや♪」

「……………」

 

 わしわしMAX。

 確かよく希ちゃんが、μ'sの皆にお仕置きと称してやってるやつだったっけ…。

 ただ胸を揉むだけにとどまらず、その感想・評価が被害を受けた娘に下されるそうだな。確かまきも受けたことがあった気がする。うん、セクハラだな。

 

「セクハラやないよ?ウチなりのスキンシップやもん♪」

「うわぁっ!?え?何も言ってないよ俺…」

「ふふ~ん、何考えてたか分からないけど、ウチのスピリチュアルパワーは誤魔化せんかったみたいやね」

「はは…」

 

 迂闊なことは考えられないな…。

 

「まぁいいや。希ちゃん、好きなやつ取っていいよ」

 

 例の如く、俺は袋を広げる。

 

「わぁあああーっ、いっぱいあるやーん!!」

 

 袋の中身を見て目を輝かせる希ちゃん。

 普段は落ち着いた雰囲気を持っているイメージが強いばかりか、無邪気な子供がおもちゃ箱を漁るようにしてガサゴソとお菓子を探る希ちゃんは少し新鮮に思えた。

 

 

 

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 ふと、俺は先程から全く口を開かずにいる花陽ちゃんに疑問を持ち、気を向けた。

 

「花陽ちゃん?さっきからずっと黙っているけど、大丈夫?」

「……………」

 

 返事がない…。あ、そういえばさっき胸を押えてたんだったな。

 最初は気分でも悪くなっちゃったのかなと思ったけど、希ちゃんとの先程のやりとりを思い出して考えてみると…。

 

「あははは…花陽ちゃん、ゴメンな?相変わらず良い形してたみたいやったから、ついついウチの手が疼いてしまったんよ」

 

 希ちゃんが口を開くとふんっとそっぽを向く花陽ちゃん。あぁ、怒ってるなぁ…。

 

「っていうかやっぱりあの時の悲鳴は希ちゃんが原因だったんだ…」

「うん、ついこう、わしわしっと…」

 

 自分でも口元がヒクついていることを感じながら、俺は苦笑をこぼす。

 

「…でも!でもな秀平さんっ!!花陽ちゃんのってすっごい良い触り心地なんよ!?ウチもμ'sの色んな娘のをわしわししてきたけどっ花陽ちゃんのは尋常じゃないくらいにクるんや!!まるで指一本一本がそれぞれ別の意思を持っているかのように動いてしまうんよ!!!」

 

 瞬時に俺の方へ接近してきて力説をくれる希ちゃん。

 少し早口気味だった為か語り終わるとゼーハーゼーハーっと肩で息をしている。

 

「あ、はは…そう、なんだ…」

 

 前から思ってたけど、希ちゃんもけっこう変わった娘なのかな?

 それとも、もしかしてまきから変な影響を受けたとか…?なんかこの勢いがまきに似てるような気がする。

 …いや、でもあいつは外では真面目(らしい)だしな。

 

「あ、あのっ希ちゃんっ花陽ちゃんいるわけだし、もうその辺に…」

「あっ…ゴメンな秀平さん、ちょっと興奮してしもたね…」

「うん、大丈夫だよ」

 

 これ以上はマズいと思った俺は花陽ちゃんに聞こえないように小声で希ちゃんを落ち着かせる。

 っていうかこれ、男の俺が聞いてしまった時点でも相当マズいんじゃ…

 

「花陽ちゃん、本っ当っに…ごめんなさい!!」

 

 希ちゃんは花陽ちゃんに真っ直ぐ向き直り、深く頭を下げて謝っている。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 花陽ちゃんの反応を待つ。

 

 そして――――…

 

「……はっあぁぁ別にもういいよ、気にしないで?」

「「!」」

「でも!!」

「「っ!?」」

「…もういきなり、あ、あんなことは、しないでね…?」

「花陽ちゃん…」

「…ふふっ」

 

 微笑ましい光景に堪らず俺は微笑みを漏らす。

 あぁ、やっぱりこの娘たちは仲がいいな…。

 

「じゃあ次はちゃんと断ってからするねっ!」

「っ、の~ぞ~み~ちゃ~ん~?」

「あはは…」

 

 うん、仲がいいなっ。

 

 

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

 倉庫を後にして、希ちゃんと別れた俺たちは家の中に戻った。

 希ちゃん曰く、俺たちが次に向かうところは…

 

『真姫ちゃんの部屋やね』

『まきの部屋だって!?』

『カードがウチに…ううん、秀平さんたちに告げてるんや♪』

 

 っということらしい。

 ちなみにこの時、なぜ希ちゃんに教えてもらったかというと…

 

 

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『せっかくこんな衣装着てるんやし、ウチが占のうてあげるよっ!』

『あはは…今回は私、必要ないね…』

『あれ?タロットカード…その水晶玉は使わないの?』

『こっちの方が注入されてるんよ』

『何が?』

『希パワーが♡』

 

 

 --------------------♦--------------------

 

 

 

 ということがあった数分前。

 

 希パワーってなんだろう…?

 

 

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

 『ノック必須』

 

 目の前にはそんなプレートが掛けられた扉。

 あいつ、部屋にいるのかな…?

 

 コンコンっ

 

「はーい」

「今の声は…」

「あはは…」

 

 扉の向こうから帰って来た声は、まきのものではなかった。

 

「…入ろうか」

「はい」

 

 ガチャ、と扉を開ける。

 部屋にいたのは…

 

 

 

「いらっしゃーい!秀平さんっかよちん!」

「こんばんは、凛ちゃん」

「お、おじゃまします…」

 

 部屋に入って俺たちを迎えてくれたのは、星空凛ちゃんだ。

 ただいつもの凛ちゃんと違う所は…

 

「へぇー、今夜の凛ちゃんは手品師(・・・)なんだね、うんっ可愛いと思うよ」

 

 凛ちゃんの服装は黒いスーツにミニスカートといった感じだ。

 ミニスカートは裾の部分がプリーツになっており、おしゃれで女の子らしさが出ている。

 これに加えて、頭にシルクハット、白いグローブを両手につけて一本のステッキを持っているのでまさしくマジシャンガールだ。

 

「えへへ、ありがとうっ秀平さん!凛のRin rinマジック、とくと見てほしいにゃー!」

「凛ちゃんっ頑張って!」

 

 ふふっ、楽しそうだな花陽ちゃん。

 

 

 

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 …数分後。

 

「秀平さん、ちょっとクローゼットに近づいてみて?」

「え?うん、分かった」

 

 言われて、俺はクローゼットの所まで移動する。

 

「よーしっそれじゃあこれで最後にゃー!」

 

 そう宣言して、凛ちゃんはステッキをクローゼットの方へステッキを向ける。

 それに釣られるようにして、俺も花陽ちゃんもクローゼットに注目する。

 

 そして―――

 

「1,2…3っ!」

 

 ………………………。

 

「……何も起きないよ?」

「にゃふふ~ん♪秀平さん、クローゼット開けてみてっ?」

「う、うん」

 

 ギィィと扉を開ける。

 

「でも一体何g、ぬおおおっ!?」

 

 そこには…

 

 

 

 

 

「お、おおお…お菓子をくれないと…その、い、いいいたずらを…っ」

 

 

 

 

 

 

 魔法使いのような衣装を着た園田海未ちゃんが、窮屈そうに隠れていた…。

 

 

 

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「………………」

「くすくす…」

「にゃっふふ~♪」

 

 俺がただただ言葉を失って立ち尽くしている中、こうなることが分かっていたかのようにくすくすと笑う花陽ちゃんに、イタズラが上手くいった子供の様に不敵に笑う凛ちゃん。

 

「いえーい!海未ちゃん大成功にゃー!!」

「うぅ…こ、こんな恥ずかしい…っ」

 

 ドッキリが成功して嬉しいのか楽しそうにはしゃぐ凛ちゃんとは反対に、海未ちゃんは顔を真っ赤にして俯いている。

 

 そしてしばらくしてから、ようやく俺は口を開く。

 

「あ、び、びっくりしたよ…。何かあるんだろうなとは思っていたけど、まさか中に海未ちゃんがいたなんて…それに、その格好」

 

 海未ちゃんの格好は、凛ちゃんと違って全身黒に包まれてるといった感じだ。

 黒いローブ、そして頭にとんがり帽子を被っていて、手に持っている箒がより魔法使いらしさを際立たせている。

 

「海未ちゃんは魔法使いさんだよっ!」

「やっぱりそうなんだ。うん、海未ちゃんも似合ってて可愛いよ」

「そ、そうですか?ありがとうございますっ」

 

 顔を赤くしつつも、丁寧な動作でお辞儀をする海未ちゃん。

 

「それにしても、手品師と魔法使いとは面白い組み合わせだね」

「やっぱり秀平さんもそう思う?凛もそう思ってこの衣装を選んだんだ!なんかハロウィンって感じがするしっ」

「で、ですが凛っなにも私だけあんな登場の仕方をしなくても良かったはずでしょう!?」

 

 あんな恥ずかしい…と呟いてから、海未ちゃんは凛ちゃんを睨む。

 あれ凛ちゃんの案なんだ…。

 

「え~?凛はよかったと思うけどな~、海未ちゃんかっこよかったし。ね、かよちん」

「どこがですかっ!?」

「まぁまぁ海未ちゃん…」

 

 なんともなく言う凛ちゃん、抗議をする海未ちゃん、そんな海未ちゃんを宥める花陽ちゃんを見て、俺は再び微笑ましく思い口元が緩むのを感じた。

 

 

 

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「はい、ハッピーハロウィン。好きなの取っていいからね」

「わーいっ凛これにするにゃー!」

「凛っはしたないですよ!すみません、ありがとうございます」

「ふふっ、どういたしまして」

 

  いただきますと添えてから、海未ちゃんも袋の中へと手を伸ばしてお菓子を取っていく。

 

「さて、あと出会ってないのは誰だったかな?」

 

 そう呟いて、俺はこれからのことを考えだす。すると、

 

「次は、地下室だって聞いてます」

 

 俺の考えていることを予想したのか花陽ちゃんが答えてくれた。

 

「ち、地下室とはこれまた…」

「そこに真姫ちゃんもいるはずだよっ」

「そうなんだ、え?それって言ってよかったことなの?」

「はい、秀平さんがここに来た時点で教えてもいいって真姫が言っていましたので…」

 

 成程な。しかし本当に、あいつは何を企んでるんだろう?いくら今日がハロウィンだって言っても、みんなを巻き込んでここまで手の込んだことをするものだろうか?

 そして一つ思い出したことがある。まだ全員と出会っていないから決めつけるのは早いかもしれないけど、これまで出会った娘全員、去り際にちょっと怪しい笑いしてた気がするんだよなぁ…。

 そのことと何か関係があるのかな…。

 

 …考えていても仕方ないし、とにかく行ってみるか。

 

「分かったよ、ありがとね。じゃあ行こっか花陽ちゃん」

「あ、待ってください!ここからは私たちも一緒に行きます」

「え!?」

「そ、そんなに驚かなくても…」

 

 海未ちゃんは少ししょんぼりとした様子で項垂れる。

 

「あ、ご、ごめんっでもそれって一体…」

「この後は4人揃って地下室まで来てほしいって、真姫ちゃん言ってたにゃー!」

「そ、それもまきのやつが…。本当に何を考えてるんだろうあいつ」

「ふふ、きっと行けば分かります。さぁ、行きましょう!」

 

 海未ちゃんがドアノブに手をかけて扉を開ける。

 

 さて、いよいよこの遊びも佳境に入ってきた頃だろう。まだ会っていないメンバーはまきを除いて残る2人。もしかするとこの2人はまきと一緒にいるのかもしれない。

 どちらにせよ、これから行く先にまきがいると言うんなら色々と話を聞く必要がある。さっさと行くことにしよう…。

 

 次に向かうべき場所は地下室。

 同行する人数も増えたということでより賑やかになって、先を急ぐべく俺たちは歩を進めることとした。

 

 

 

 

 

 ……そういえばずっと騒がしくしてるし、またご近所さんから苦情入りそうだなぁ。はぁ~

 

 

 

 

 一抹の不安を抱えながら…。

 

 

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

 通常の一般家庭に地下室はあるかと聞かれたら、誰しもこう返すだろう。

 

 『No』と…。

 

 しかし、『Yes』という答えになってしまう辺り、悲しきことに我が西木野家は通常の一般家庭ではないということになってしまうだろう。

 

 まき曰く、 

『地下室?大声で騒いでも問題ないから私は好きよ、でもゴロゴロするならリビング安定ね』

 

 母曰く、

『え、地下室?なんか秘密基地みたいでカッコいいわね♪』

 

 と、うちの住人はそれぞれ前向きな意見を持っている。ちなみに父さんはどっちでもいい派だ。

 そしてかくいう俺も学生時代にお世話になったことがあるから割と好印象だ。学習環境としては最適の空間だからな、あそこは。

 

 おっと、色々考えてるうちに着いたな。この階段を降りたら、地下室だ。

 

 ……それにしてもさっきからやたらいい匂いがするな。気のせいか?まぁ今はいいか。

 

「よし、ここからが地下室だ。皆、足元暗いから気を付けてね」

「は、はい」

「分かりました」

「ふふっ凛ちょっとわくわくするにゃー」

 

「よし、じゃあ行くよ…」

 

 タッ、タッ、タッ、と俺たちはゆっくりと階段を下りていって、やがて扉の前まで来る。

 

 コンコンっ

 

「どうぞ」

 

 返ってきたのはまきの声。海未ちゃんたちの言う通り、どうやらここにいるみたいだ。

 

 ドアノブを捻って、俺は扉を開ける。

 

 ガチャ…

 

 果たしてこれにて、この遊びは終わりを告げるのだろうか?

 それを知るためにもまず俺は、目の前の扉を開け放つ―――…

 

 

 

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 バンっ!

 

「おいまき!やっと見つけ」

 

 ッパーン!パンパーン!!

 

 

 …………………は?

 

 

「「「「「秀平さん(秀くん)(秀平)っ!お疲れ様です(お疲れ様)!!!」」」」」

「はい、お疲れ様お兄ちゃん」

 

「み、みんな…?え、え?なにこれ…」

 

 扉を開けて中に踏み込んでいった俺を待っていたのは、激しいクラッカーの音と、みんなの俺に対する労いの言葉だった。

 何が何だか分からないと困惑している内に、ふと後ろの3人も俺の前へと動き出して…

 

「秀平さん、お疲れ様だにゃー!」

「お疲れ様です、秀平さん」

「くすくす、お疲れ様ですっ秀平さん」

 

 同じように口を開いた。 まさしく、ドッキリ大成功!と言わんばかりな表情で…

 予想だにしなかった今のこの状況に立っている俺にまきが声をかける。

 

「お兄ちゃん?Trick or Treat(トリック オア トリート)なんていう謳い文句は、別にお菓子をくれなきゃ~なんて意味で使われるとは限らないのよ」

 

 まきのその言葉の意味を少し考える、そして理解する。

 

「…あぁ、考えてみたらそうだな。でもそっちの意味(・・・・・・)だと、俺は両方味わったことになると思うんだが?」

 

 Trick or Treat (トリック オア トリート)

 世間に知られている通り【お菓子をくれないとイタズラするぞ】という意味になるのだが、そもそも『トリート(treat)』という単語に、『お菓子』という意味合いはない。

  正式には『もてなし、招待、接待する』というような意味があり、トリック・オア・トリートというこの文句も、直訳してやると「イタズラされるか、おもてなしするか、どちらがいい?」というものになる。

 

 『お菓子をくれないとイタズラするぞ』

 『イタズラされるかおもてなしするかどっちがいい?』

 今回まき達が則ったハロウィンの謳い文句の意味は、後者となる。

 

「そう?別にそれほど大したイタズラでもなかったと思うけど」

「いやところどころ心臓に悪い場面があったんだよ…っていうかお前、ハロウィンをドッキリか何かと勘違いしてるだろ」

「似たようなものじゃない、っていうか私の方が先にドキッとさせられたんだからおあいこでしょ!」

「は?なににだよ」

「お兄ちゃんのお菓子のチョイスによ!」

「バリボリ食べてたじゃないかお前、リスみたいに頬膨らませてもきゅもきゅしながら」

「あ、あれはもう仕方なくっ!「はーいはいお二人さんもうそこまでにしぃや、皆困ってるよ?」

 

 と、皆の方へ視線を向けると…

 

 「私たち、置いてけぼりだね」

 「あはは…」

 「でも、なんだか微笑ましく思えます」

 

 「まぁでもいつも通りだよねー」

 「うん、そうだね凛ちゃん」

 

 「ハラショー!仲がいいのは素敵なことよ?今度また亜里沙と一緒にお買い物でも行こうかしら」

 「本当に仲いいわねぇあんたたち。デキてるんじゃないの?」

 

 いやいやにこちゃん?俺たち兄妹だよ、きょ・う・だ・い。

 

 この後しばらくしてから、俺は絵里ちゃんとにこちゃんにお菓子を配り、これでμ'sのみんなには全員配り終えたなとホッと一息ついていた。

 しかしこの直後にまきが、皆の視線が俺たちから外れている隙に残りのお菓子を袋ごと掻っ攫っていったので、この催しが終わったら強くお灸を据えてやろうと決めた。

 

 

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

 今更だが、俺は絵里ちゃんとにこちゃんの衣装、というより服装に注目する。

 二人共、私服の上にエプロンと頭に三角巾を着けてまるで料理人のような格好をしている。

 絵里ちゃんは黒いパーカーの上から胸掛けエプロンを、にこちゃんは赤いセーターの上からメイドエプロンを着けている。

 

「絵里ちゃん、にこちゃん。その格好なんだけどさ…」

「あんた今頃気づいたの?なってないわねぇ~、乙女の扱いが」

「にこちゃんが乙女とか寒いにゃー」

「ぬぁんですってぇー!?ちょっと凛!待ちなさいっ!!」

「かよちん逃げるにゃっ」

「え、えぇっ!?どうして私まで…う、うぅっダレカタスケテー!」

 

 タッタッタッ…

 

 そう言ってその場を去っていくにこちゃん。

 花陽ちゃん、頑張ってねっ。

 

「ふふっどうですか秀平さん、似合ってるかしら?」

 

 その場でクルリと一周回る絵里ちゃん。

 

「うん、とても似合ってるよ。…でも、どうして料理人?」

「それはねぇ…あ、そろそろ時間ね」

「?」

「丁度良かったわ、秀平さん」

「え、どうしたの?」

「さっきの答え、リビングに来たら分かると思うわ。だから、はやくねっ?…ことりー!にこー!」

 

 そう言い残して、絵里ちゃんはにこちゃんとことりちゃんを呼んで地下室から出ていく。

 

「? なぁまき」

「行こっお兄ちゃん」

「え、どこに?」

「さっき絵里が言ってたでしょ?リビングよ」

 

 ゾロゾロと皆が地下室を後にしていき、未だに状況があまり飲み込めていない俺もまきに手を引かれながら地下室を出ていく。

 

 

 

 ------------------------------------

 

 

 

 一体、リビングになにがあるというのだろうか?

 少なくともさっき俺たちが通った時は何もなかったはずだ。

 ………強いて言うなら、『匂い』。

 あの時感じたあの匂いは、一体なんだったのだろうか?もしかすると、リビングに行けばその答えが分かるかもしれな―――ッ!?

 

「!、この匂い…」

 

 どうやら考えているうちにリビングの前まで着いたようだ。

 そして同時に漂ってきた匂いに、俺は驚きを隠せなかった。

 

 ガチャ

 

「ふわあぁ~、海未ちゃんっ海未ちゃんっ!凄いよ!穂乃果もう待ちきれないよぉ…じゅるり」

「ほ、穂乃果!?なんですか今の音はっ!…ですが、これでは無理もないですね…」

 

 目の前の光景に対してあまりの感動に打ち震えて、さりげなく舌なめずりをする穂乃果ちゃんとそれを注意するものの力なく前の光景に見入る海未ちゃん。

 

「ふわわわわわわぁぁぁ………グス…」

「あははっ、花陽ちゃんも感動して泣きながら震えてるやん」

「凛はこんなかよちんも大好きにゃー!」

「ちょっと花陽、落ち着きなさい。でも、美味しそう…ね」

 

 穂乃果ちゃん以上に感動して、挙句涙を流す花陽ちゃん。そんな花陽ちゃんを見ておかしく笑う希ちゃんに、花陽ちゃんの様子を見てウキウキとして楽しそうな凛ちゃんに花陽ちゃんを落ち着かせつつも目を奪われているまき。

 

 そして―――

 

「これで完成よ!」

「ふふっ、上手く出来たわねっ♪」

「みんなーできたよぉ~!」

 

 そう言いながらことりちゃんがキッチンから持ってきたのは…

 

 

 

「はわわぁ~!お、美味しそうな、か、『カボチャパイ』ですぅ!!」

 

 

 

 中には滑らかそうなオレンジ色や茶色が入り混じって、外のパイ生地はよく膨らみ、それでいて丁度良い焦げ目が見える『カボチャパイ』。

 

 成程…匂いの正体はこれだったのか。た、確かにこれは花陽ちゃんたちの気持ちが分かるな…。

 

 

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

「それでさ、さっき聞きそびれてたけどどうしたんだ?突然ハロウィンだなんて…」

 

 ひとまず皆落ち着くことができ、俺たちは料理が用意されているテーブルを囲って集まっている。

 

「先日の練習終わりに、穂乃果が言いだしたのよ」

 

 

 

 --------------------♦--------------------

 

 

『ねぇねぇみんなっ、もう10月に入ったよねっ?』

『そういえばそうだねぇ』

『それがどうかしたんですか?』

『ふっふっふ…はいっ突然ですがここで問題です!』

『ほ、本当に突然ね…』

『まぁ聞くだけ聞きましょ』

『10月のものといえば…何!?』

『え、えぇ?な、なんだろう…?』

『ラーメンが美味しい時期だよねっ』

『それ、関係ないでしょっ!』

『確かに食欲の秋ともいうけど…』

『う~ん………』

 

『ハロウィン…やないかな?』

 

 

 --------------------♦--------------------

 

 

 

「とまぁそこからなんやかんやあって今に至るわけよお兄ちゃん」

「成程、納得した」

 

 ハロウィンパーティーか…。

 今日の一連の出来事は、全てその一環だったというわけだな。そういうことだったのか、メールを見たときは本当に何の遊びだと思ったけど、裏にこういう意図があったなんて思いもしなかった…。

 

 でも、

 

「でもなまき、パーティーをするんなら一声かけてくれよ。言ってくれれば、俺も色々と準備してたぞ」

 

 主に料理とかな。

 

「ヴぇ…あ、あのねお兄ちゃん…」

「ん?」

「あの、その…」

 

 ? なんか要領を得ないな。どうしたんだ…?

 ふと皆の方へ視線を向けると、

 

「真姫ちゃん、ファイトだよっ」

「ほら真姫、頑張ってください」

「真姫ちゃん、がんばって」

 

 なんのことだろう?と考えているうちに、徐々に口を開いて言葉を紡ぐまき。

 何のことだか分からないが、とりあえず黙って待つことにしよう。

 

「い、いいつも…お、遅くまで…」

 

「がんばれー真姫ちゃん!」

「あ、あと少しだよっ」

 

「遅くまで………お、お、お…」

 

 お?

 

「お、遅くまで……」

 

「…ほら、真姫」

「しっかりしなさいっ、ちゃんと言うんでしょ?」

「まぁまぁにこっち、ここは黙って見てよ?」

 

「ヴぇぇ……う、ゴホンっ」

「お、お兄ちゃん…っ」

「ん」

「いつも遅くまでっ」

 

「お疲れ様っ!!」

 

 そう強く言い切って俺に差し出されたのは、綺麗に飾り付けがされた包装袋だった。

 言い切った反動か、まきの顔は真っ赤に染まっているが、その表情は後悔一つない満足そうな微笑みだった。

 

「あ、ありがとう…え?なにこれ」

 

 本日何度目か分からないえ?なにこれである。

 

「お、お菓子よっ!今日が何の日か考えたら分かるでしょ!」

 

 微笑みを崩していつものように照れ隠しをしながら赤い顔で抗議してくるまき。

 

「んな無茶な…」

「ふふっ、秀平さん」

「ん、なに希ちゃん」

「真姫ちゃんな?今日のこの日をハロウィンパーティーだけで終わらせるつもりなんてなかったんよ」

「? どういうこと?」

「真姫は、いつも夜遅くまでお仕事を頑張っている秀平さんの為に、ハロウィンパーティーも兼ねて秀平さんの『お疲れ様会』を企画したんです」

「お疲れ様、会…」

「つまり、ハロウィンパーティーを提案したのは穂乃果。あんたのお疲れ様会を提案したのは、真姫だっていうことよ」

「…………」

 

 俺はあまりの急展開により声を出せずにいて、同じように無言になっているまきを見やるもぷいっと視線を外される。

 

 しかし、

 

「そうか…色々考えてくれてたんだな本当に。…ありがとな、まき!」

「…きゃっ!?ちょ、ちょっとなによ!やめてよくすぐっt…っもぉお~!!」

 

 距離を詰めて俺はまきの頭をわしわしと撫でる。

 

「わ!秀平さんいつの間にわしわしMAX覚えたん!?」

「いや、あんたのあのおぞましいものと一緒にしないであげて欲しいわ…」

「おんやぁ~にこっち?そんなに本家が見たいん?もぉー仕方ないなぁ!!」

「なんでそうなるのよっ!?え?ちょっ、ちょっとっ!?誰かたすけひあっ、ん…っ」

 

「ねぇねぇー!凛もうお腹限界だにゃー!」

「り、凛ちゃんっ落ち着いて…」

 

「………」

 

 騒ぎの中一人、そろりと料理へ手を伸ばす影が…

 

 ペチっ

 

「いたっ!」

「こら穂乃果!つまみ食いなんてはしたないですよ!」

「え~!?海未ちゃんのケチっ!ケチケチドケチ!!このガミガミマナー将軍!」

「っ誰が将軍ですか!誰が~っ!!」

「まぁまぁ海未ちゃん、っていうかガミガミはいいんだ…」

 

 そしてただ一人だけ、誰よりも早く…

 

 サクッ…

 

「ハ、ハラショー!これがтыква пироr(トゥイークヴァ ピロク)ね!ロシアではまず味わえないわねこれは♪」

 

 焼きたてのパイにかじりつく女の子が。

 

「「あぁー!?絵里ちゃんずるいー(にゃー)!!」」

「にこっち、ウチらもそろそろ食べよっか♪」

「……そうね」

 

 にこちゃん顔が青いけど、大丈夫かな…ん?

 

 ふと袖が引っ張られていた。横を見ると…

 

「お兄ちゃん、ハッピーハロウィン ねっ♪」

「…ふふ、そうだな」

 

 微笑んで、俺は改めて皆を見やる。

 

「「はむはむはむはむ…っ」」

「二人共もう少しゆっくりと、はぁ…」

「「あはは…」」

「の、希!これ凄いわっ中までサクサクよ!?」

「はいはい、エリちも落ち着いてな」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 「ハッピーハロウィン、だな!」

 

 

 

 

 




長くのお付き合いありがとうございました。
これにて、番外編Trick or Treat in the Nisikino'sを終劇とさせていただきます。

まだ本編の方で出ていないにも関わらず、今回は全員出してしまいましたがあまりにも秀平くんとメンバー全員を絡ませたいという想いからこの話ができたというのも一つの理由です。
 
 メンバーの口調などおかしければご指摘ください。恥ずかしい話ちょっと不安なもので…(笑)


なお、メンバーのオリ主に対する呼称は本編では変更になる可能性もあります。

今回のお話に出てきたメンバーの衣装ですが、花陽、凛、希、絵里、にこの5名の衣装はスクフェス既存のものです。引用させていただきました。

Google画像検索で

花陽→中編あとがきに詳細記載
凛→『星空凛 手品師 スクフェス』で検索。
希→『東條希 占い師 同上』
絵里→『絢瀬絵里 エプロン 同上』
にこ→『矢澤にこ エプロン 同上』

同じく私のツイッターで画像UP予定です。


次回から本編です。
これからもお付き合いいただけたら幸いです、 ではまた本編で。



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