真姫ママかわいいよ真姫ママ。
廊下を歩いていると、小鳥のさえずりと共にカーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。
「…晴れてる」
つい先ほど、昨晩眠りに就く前に設定したスマホのけたたましいアラーム音により、俺は目が覚めた。
降水確率80%は伊達ではないと思っていたが、まさか20%の方が当たるとは思わなかった。
ふわぁーあと欠伸と背伸びをしつつ、俺は階段を下りてリビングに向かう。
ガチャ
「ん?」
「あら秀くん、おはよう」
リビングに入ると、一人の女性がソファに座ってコーヒーを飲んでいた。
俺が気づくと同時に、女性はこちらに目を向けてにっこりと俺に挨拶をくれる。
この女性こそ西木野家における母。つまり、俺とまきの母さんだ。
「おはよう。帰ってたんだ、母さん」
「またすぐに戻らないといけないんだけどね…」
苦笑しながらそう答える母さん。
姿が見えないところをみると、どうやら父さんは職場に残ったままのようだ。
「とりあえず、朝食はまだだよな?今適当に何か作るよ、テレビでもつけて見ててくれ」
「あっ、お母さんが作るから別にいいわよ」
「いいから座っててくれよ。流石に今まで働いてた人に作らせるのは、ちょっと気が引ける」
「でも…」
「まだ残ってる仕事があってまた戻らなきゃ駄目なんだろ?いいからここは、孝行させてくれ」
「…分かったわ。ありがとね、秀くん♪」
「………」
ふふっと微笑む母さんだが、当たり前の事をしたはずなのに俺はなんだか照れ臭くなってしまって、ぷいっとそっぽを向いたままそのまま朝食の準備に取り掛かる。こういう所は兄妹そっくりなのかもしれない…。
苦笑をこぼした後、トースターにパンをセットして、コンロに火をつけてフライパンと卵を用意する。
さて、ほんじゃいっちょ作りますかっ!
--------------------------
チーンっ!
どうやらトーストが焼けたようだ。俺はこんがりと焼けて狐色になったトーストを皿にのせて、先に食卓に置いていく。
「母さん、トースト焼けたから先に食べててもいいよ。ジャムとバターここ置いとくから」
「ふふっ、ありがとう。でもせっかく秀くんが作ってくれるんだもの。出来上がるまで待ってるわ♪」
「……ご自由に」
全く、何がそんなにおかしいのか母さんは先程からくすくすと笑ってばかりいる。
本当に西木野家の女性には、困らされてばかりだ。
・・・
「……よし、できた」
後は皿に盛りつけて、先程のように食卓へ持っていくだけだ。ちなみにメニューは、
トースト・目玉焼き・サラダ・コーンポタージュスープである。目玉焼きはベーコンを加えて、ベーコンエッグにしている。
「はい、母さんできたよ。あとこれドレッシング」
「本当にありがとう。あら、美味しそうねっ♪」
「あまり期待はしないでくれよ、俺だってあまり料理は上手い方じゃないんだ」
「何言ってるの、充分美味しそうじゃないっ!流石わたしの自慢の息子ねっ♪」
「…はぁ、まきを起こしてくるよ。先に食べてて」
スタスタと俺は早歩きでその場を去る。
はぁ…、なんていうかうちの親、特に母さんは俺達に過保護すぎるところが本当に目立つと思う。
別になんていうこともないのに照れ臭くなるのと同時にいたたまれない気持ちでいっぱいだ…。
なんとかしてくれねぇかなぁ、あの自分の息子・娘を異常な程に持ち上げる親バカみたいなところ…。
ガチャ、ギィィ…バタン。
スタスタスタ…
……………
「ズズー…、! あら、やっぱり美味しいじゃないっ♪うふふっ」
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「まきのやつ、ちゃんと起きてるだろうな…」
俺は部屋の前に立ってそう呟き、ノックをしてまきに呼びかける。
コンコンっ
「おーいまき、起きてるかー?」
・・・反応なし。
コンコンコンっ
俺はもう一度ノックをして、先程より一回多く扉を鳴らす。結果、やはり反応なし。
確なる上は…っ
「はぁ…、まき、入るぞ」
溜息を一つ吐いてから、俺はドアノブを捻る。
ガチャ…
「おいまきいつまで寝て、ってなんだ起きてるじゃないか」
まきはベッドに座って、顔を少し俯かせた状態でぼうっとしていた。
「まき、起きてるならちゃんと返事しろって…」
「お兄ちゃん」
「ん、なんだ?」
「わ、わたし今日ね…」
「うん」
「が、学校休もうかな~~~………」
な~んて…、と小声で付け足して、そんなことを言い出した干物妹。
目を泳がせながらこちらの顔色をチラチラと窺ってくる干物妹。
とても具合が悪いようには見えず、むしろ俺が仮に了承して立ち去ったらその場で狂喜乱舞しそうな干物妹。
「…まさか眠いから、じゃないよな?」
「ヴぇぇっ!?そ、そそ…そんな訳ないじゃない!!」
俺が訝しげな視線を向けているからか、干物妹はしばしう~んと考え、おっ!と何か閃いたような様子を見せる。
「お兄ちゃん…、私ね…目がすっごく痛いの…」
指をさして目の痛みを涙目で訴え始めた干物妹。しかし顔を近づけてよく見てみると、確かにまきの目は普段より赤くなっている。別に泣いていたという訳でもなさそうだ。
「……う~む…まぁ、確かに今日は…いつもより目が赤い気がする、な?」
「でしょう!?はいきたこれ!!赤いわよね!?ねぇ!?」
「う、うぅむ…」
なぜだ?確実にこいつのこれは仮病だと分かるのに、目が赤いというだけで俺の判断が鈍る…っ。
もしこれが本当に何かの病気だとしたら?こいつの自覚がないだけで、もしこれが失明の予兆だったりしたら?
くそっ、自分の知識不足が恨めしい…っ。
「ねぇお兄ちゃん」
「な、なんだ?まき」
ふと、声のトーンを低くして口を開くまき。
「お兄ちゃんって、最近遅くなってるでしょ…?仕事で帰ってくるのが…」
「まぁ…そうだな」
その通りだ。昨日は上手く早めに帰ることができたが、繁忙期に入っているからか最近は長期残業が当たり前となっている日々だ。しかも父さんと母さんにいたっては昨日のように帰ってこないケースも多々あるから、実質まきは家に一人ぼっちというパターンが多い。俺が家に帰るのは、日付が変わる直前か後となっている。
まぁ、そんな時間になってもこいつはリビングか部屋でゲームをしている訳だが…。
「パパもママも病院で、お兄ちゃんも会社で仕事だから…、いつも一人で寂しくてね…」
「…あ」
『ヒクッ、グスッ…お兄ちゃん、私、寂しいよ…』
……………っ
そうか、友達がいないこいつは学校でも一人で、その学校から帰ってもずっと一人だから、もしかしたら精神的なものからくるストレスで…。
しょうがない、ここは一度心を休ませてやるということで了承してやろう。
「なぁ、まk」
呼びかけたその時。
「3DSが止まらないのよっ!!」
……
『ヒクッ、グスッ…お兄ちゃん、私、寂しいよ…』×
『ヴぇえっ!?なにこれ飛び出てくるわっ!』ピコピコ 〇
……
ブチっ。
頭の中でそんな音が聞こえた。
「ほら行くぞまき!!」
「っやだやだやだ!!まきちゃん眠い!行きたくないー!!」
力づくでまきを連れ出そうとするも、布団にしがみついて駄々をこね始める妹(15)。
「夜遅くまでゲームしてたからだろうが!!」
「別にいいじゃなーいっ!私はまだまだゴロゴロしていたいのよーっ!」
「訳の分かんねぇこと言ってないでさっさと出ろー!!」
「嫌よっ!私、絶対に行かないっ!休むわっ!!」
「あっお前!?」
ここにきてついに開き直って本音を吐露し、堂々とサボタージュ宣言をした干物妹まき。
そこからの行動は早いもので、まきは身を翻して俺に背を向け、布団を深くかぶってそのまま微動だにしない。
「~~~っ、まき!お前いい加減に…っ」
パチーンっ!…
--------------------------
【1F リビング】
―――――パチーンっ!
「ズズーッ…?、秀くんと真姫ちゃん、遅いわねぇ…」
「ズズー、ふふっやっぱり美味しいわ♪」
--------------------------
「ぐ…っ、こ、この…っ!?」
何が起きたかを説明しよう。
布団にくるまって微動だにしないまきに対して、とうとうイライラが最高潮に達する域にまで及んだ俺は、布団を無理やり引っぺがそうという強行手段に出た。
ベッドに近づいてそのまま布団を掴もうとした瞬間、まきが硬直状態を解いてガバっと起き上がり、そのまま…
「お前平手打ちはないだろ!っていうか下で母さんが待ってんだからさっさと起きて支度しろって!!」
「嫌だって言ってるでしょ!?めんどくさい!!今決めたわ!私このまま学校辞めてニートになる!!」
「はぁっ!?何言ってんだこのバカ!!」
「あはは残念でしたー!いえむしろ幸運ね。こんなにも美人で可愛い完璧美少女がいつまでも傍に
いてあげるって言うんだから、よかったわねお兄ちゃん♪」
「いや全然完璧じゃないけど?むしろ最低なんだけど!?」
「えっへへ~♪まきちゃんは~生涯をかけて~、お兄ちゃんに養ってもらいまーす!よろしくねっ♪」
きゃるんっ☆とした口調で宣言し、最後はばちーんとウィンクを決めるまき。
そんな干物妹に対する俺の反応は…、
「っ、いい加減にしろ――――――――!!」
――――――――――――……
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
数分後、干物妹と一騒動終えた俺はなんとかまきを連れ出すことに成功して階段を下りてリビングに戻った。
なお、まきを連れ出す条件として来週発売のゲームソフト『モンスターイーター』、通称”ME”の購入を余儀なくされた。
嗚呼、頬も出費も痛いなぁ…。
ガチャ
「あら、真姫ちゃんおはよう」
「おはようママ、あとおかえり。朝ご飯できてる?」
「えぇ、秀くんが作ってくれてるのよ♪」
「そうなの?ありがとうお兄ちゃん♪」
「あぁ…」
「あら…?ちょっと秀くんどうしたのそのほっぺ!?」
「ん、あぁ別に気にしなくていいよ。ちょっと蚊が止まって強く叩き過ぎちゃっただけだから…」
「まぁそうなの?大きな紅葉ができてるからお母さんびっくりしちゃった」
「はは…」
案の定母さんに頬の紅葉について問われる。
そんなに目立つのだろうか…。くそっ、まきのやつ思い切り振り抜いたな。
恨めし気な眼差しでまきの方に向いてみるが、当の本人はとても上品な姿勢で紅茶に夢中だ。
改めて思うが、こいつ本当に親の前では淑女なんだな…。
「~♪」
--------------------------
「それじゃあそろそろお母さんは戻るわね?秀くん、朝ご飯ご馳走様っ♪」
「ん、お粗末様。いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、ママ」
「ふふっ、いってきますっ♪」
そう言って手を振って玄関を出た母さんだが、直後にまた戻ってくる。
? どうしたんだ?
「どうしたの?ママ」
「真姫ちゃん」
「「?」」
本当にどうしたのだろうか?
母さんはわざわざ玄関から上がって戻ってきて、俺たちの前まで来てまきに呼びかける。
とりあえず二人の様子を見ていると、母さんは優しく微笑みながら、
「あまりお兄ちゃんを困らせちゃ、駄目よ?」
――――――透き通るほど優しい声音で、そう言った。
「? …うん、大丈夫よ。ね、お兄ちゃん」
「あ、あぁ」
「うふふっ、それなら安心ね♪」
「…秀くん」
向き直り、今度は俺の様だ。
「なんだ?」
「いつも家と真姫ちゃんのこと、任せてしまっててごめんね?」
「別に大したことじゃないよ。っていうかむしろ、俺も仕事で家空けちゃってるからさ…」
「それでも、お仕事で疲れてるのに家事も真姫ちゃんの相手もしてくれてるじゃないっ」
「それは、…そういうものだから」
兄というものが、そういうものだから。
「ふふっ、秀くんはきっと弟だったとしてもお母さん変わらないと思うな~♪」
「ねぇママ、それって私がお姉ちゃんだったら、っていうこと?」
「そうよ~♪」
「やだよこんな姉」
「なによっ!?」
いやだって干物だし。干からびてるし。
母さん本当に俺を先に産んでくれてありがとうっ!
「っていうかもう言いたいこと終わったなら早く行きなよ。父さん待ってるんじゃないの?」
「無視しないでっ!」
「ふふっそうね、それじゃあ今度こそ」
「いってきますっ♪」
「「いってらっしゃい」」
今度こそ母さんはドアの向こうへと消えていく。
さて、俺もそろそろ会社に行かなきゃな。
「おいまk」
「もし私がお姉ちゃんになったら、なんでもお兄ちゃんに命令できる。そう、例えばあんなことやそんなことまで、おぉっとこれはマズいわね…。でも、ふひ、ふひひ。ふひひひひひひ…」
呼びかけると、何かの呪文を唱えるかのようにしてブツブツと口を動かしているまき。軽く恐怖を感じる…。
ちなみに母さんが家を出た今、まきは完全に干物妹モードになっている。
「…何考えてるかさっきの会話の流れからで大体予想できるが、それは叶わない夢だぞ」
「もうっ!どうしてお兄ちゃんはお兄ちゃんやってるの!?」
逆になんでお前は干物妹なんてやってるの?
「はぁ…、馬鹿言ってないでさっさと支度しろ。俺ももう家出るぞ」
「ちょっと!待ってよお兄ちゃん!!」
なにやら後ろでまきがぎゃーぎゃーと騒いでいるが、俺は無視して先程の母さんがまきに言い放ったセリフを思い出す――――――
『あまりお兄ちゃんを困らせちゃ、駄目よ?』
…あの表情であのセリフ、とても俺を気遣っただけのものとは思えない。
まさか…っ
「ちょっとお兄ちゃん!無視しないでって言ってるでしょ!!」
「泣くなよ…」
まさかなぁ…
はいどうも皆様!
1週間に1更新を目指しているユカタびよりです。
次回からとうとう少しですがラブライブ本編に入っていきます。よろしくお願いします。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
次回もよろしければお付き合いくださいませ。
ご感想や誤字脱字、文がおかしい所のご指摘など、頂ければ嬉しいですっ!
Twitter垢です。
フォローやそして感想をこちらでもいただけたら幸いです。
@yukata_chika