後悔はない
ひもうと【干物妹】
家の中では様々な事を面倒くさがり、
適当に済ませてしまう妹。
《類義語》干物女
集英社『妹辞典』より
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「ただいまー、ん?」
玄関に丁寧に揃えられているローファーを見つける。
「はぁ…、帰ってきてるのか」
帰ってきている、というのは俺の妹のことだ。
俺こと『西木野秀平』には、世界でたった一人の妹がいる。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ…はまぁまぁ。
しかしそれでも、俺の妹は世間的に見てとてつもなく優秀で、文句のつけようがない超絶完璧美少女だ(友達いないけど)。
だが…
「おーい”まき”~」
それはあくまでも、”世間の目から見て”の話だ。
ガチャ
「まき、いるなら返事くら…」
父さんも母さんも知らない、俺だけが知っている現実…。
リビングのドアを開けた次の瞬間、目に飛び込んできたのは凄惨な状況だった。
脱ぎ捨てられてグチャグチャな制服、積み上げられて山となっている大量の漫画雑誌、そして床に直で置かれているノートパソコンをぺたぺたと弄りながら、寝そべってポテチを食べ散らかして、服に手を突っ込んで(!?)ぽりぽりとお腹を掻いてるそんな妹、ではなく”干物妹(ひもうと)”。
「あはははははははっ!、あぁお兄ちゃんおかえりー」
これが”家にいる時”のまき、グータラな干物の妹。
俺の妹、『西木野真姫』は
「…まき、制服はちゃんと吊っとけっていつも言ってるだろ?あと食べ散らかすな」
「えぇ〜別にいいでしょーこれくらいー」
「はぁ、全くお前は…」
干物妹(ひもうと)だ。
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夕方。
夕飯の支度を終えた俺は、ずっと寝そべってパソコンの画面と向かい合っている(頭を逆さにして)まきに声を掛ける。なんつー体勢してんだこいつ…。
「ほらまき、夕飯の支度出来たぞ。パソコンばっかやってないで椅子に座れ」
「えぇ~…、私今仕事中なんだけどー」
「そ、そうか、ごめん…。うん?仕事?」
「まとめサイトの巡回で忙しいのよ。だからお兄ちゃん、食べさせてー」
そう、んあ”-と口を開くまき。
「さっさと起きろ!!」
「ヴぇえっ!?」
全くこいつは…
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「っていうか今日ママはいないの?」
味噌汁を一杯ズズっと啜った後に突然、まきはそんな疑問を口にした。
「母さんは今日病院の方忙しくなるだろうからって帰ってこれないんだよ、父さんもな」
「私聞いてないんだけど?」
「お前は部屋で寝てただろうが」
そう言って俺がジト目を向けると、まきは唸りながら頭を抱えて昨日のことを思い出そうとしている。
「んんー…?っ、そうだったわ!確かトマトジュースのおつまみに干しトマト食べてたら眠くなってきちゃったのよ!」
「思い出せてよかったな」
それにしても、花の女子高生がおつまみて。そしてそのおつまみも干しトマト…。
こいつなにもかもが普通のJKからかけ離れてるな…。
「もうっ、どうして起こしてくれなかったのよ!?」
「母さんが起こしにいったけど、起きなかったらしいじゃないかお前」
「ニチヨル見れなかったじゃないっ!」
「そっち!?」
愕然とする俺に、まきは涙目になって訴えかけるような眼を向ける。
ちなみに、ニチヨルというのは、日曜の夜に放送されるアニメ番組のことだ。
「っていうかどうせ後からDVDなりBDなり買うんだろうが…」
「リアルタイムで見ないと意味ないに決まってるでしょっ!?お兄ちゃんのばか!!」
箸を置いて両手で机をバンバンさせながら俺に抗議するまき。
「おいこぼれるこぼれるっ!?」
「ふんっ、自業自得よ」
「意味分からんぞ…。っていうかそんなに変わらないだろ、リアタイでもBD買って見るのでも」
俺のその発言は、まきに火をつけるには充分すぎるものだった。
直後、まきの鋭いツリ眼がカッと見開かれて、更に鋭くなり、身を乗り出して俺に顔を近づける。
「そんなに変わらないですって?いいえ全然変わるわ!
誰かが使った使用済みの中古のフィギュアを買うか新品未開封のフィギュアを買うか くらい変わってくるのよっ!
そもそもね、気分が違うのよ気分が。確かに後から円盤化されて”見る”ことはできるわ。地上波放送では公開されてないあんなところやこーんなところのしっぽりムフフなシーンも解禁されてるわよっ!でもね、所詮それだけよ。それだけじゃ私の心は半分も満たされない。円盤化されて何度もその作品を目に焼き付けることはできても地上波で放送されるのはたったの1回のみっ。そのワンチャンをものにできるかどうかで作品に対する愛の大きさが変わってくるのよ!そこが本番なのよ!だから私は」
「分かったっ!もう充分だ!とりあえずBD買うのはなしってわけだなっ」
干物妹による怒涛のマシンガントークに圧された俺はそこで切らせる。人の語りを聞くのにこんなにも疲れたのは初めてだ…。
「はぁ…?なんでそうなるのよ、BDも買うに決まってるじゃない。anamateとGabersとsofmappieの3店舗ともね」
「3店舗!?あ、あれか。巷で流行りの保存用、観賞用、使用用ってやつか?」
使用用と観賞用の違いが全く分からんのだが、まぁさっきこいつがあれだけ語ったところを見てみると本当に好きなんだろうな。こいつの言葉を借りると、この情熱こそが愛…
「なに言ってるの?法人別特典回収に決まってるじゃない、残りの円盤は即らせんばんに売却よ」
「そ、そう…」
いや、どうなんだ…っ!?
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ダダダダダッ パパパンッパパン
夜の西木野家から、銃撃音が聞こえる。しかし行われてるのは当然リアル銃撃戦などではなく、FPSというTVゲームだ。
夕飯を終えて入浴も終えた俺達2人は、TVに向かい合ってゲームをしている。正直俺はあまり乗り気ではなく、さっさと寝ようかと思っていたのだがまきが
『こんな時間に寝るとかイミワカンナイっ!』
と、喚き始めて、挙句の果てには駄々をこねそうだったので仕方なく相手をすることにした。のだが…
「お兄ちゃんっはやくリロードリロードっ!!」
「え!?ど、どれ?どのボタンだ…?」
「あああっ!後ろ後ろっ!!」
「は?…ボタンとか何もないぞ?」
「コントローラーの裏じゃないわよ!ああああ!」
「え?あ」
がぶっ
ウ…ウギャアァァァ~…
男の悲痛な叫びと同時に、画面が暗転してでかでかと表示される『You Are Dead』の血文字。
「あ~~~、負けちゃったわね」
「おぉう………」
えぇ…最近のゲームってこんなに難しいの??スーファミやってたあの頃に戻りたい…。
「お兄ちゃんそんなんだと日々日々苛烈さを増していく社畜戦争で生き残れないわよ?戦わなければ生き残れないのよ?」
「お前それ龍騎で覚えただろ?っていうかほっとけ!最近のゲームが難易度高すぎるんだよ…」
「別に普通じゃないの?」
髪の毛を指でくるくるさせながらあっけらかんと言い放つまき。
「お前がやりこみすぎなんだよ。あとこれ、えーとFPSだっけ?これ視点がグルグル回って気持ち悪くなるんだが、なんとかなんないのか?」
「それこそがFPSの大きな特徴であり醍醐味の一つなのよ、仕様だから仕方ないわ」
「そ、そうか。なら俺にFPSとやらは合わないかもしれないな…」
残念だ。なんだかんだでこいつと遊ぶのは楽しいから、その遊び道具が一つ無くなってしまうのはちょっと寂しいな…。
「む、それならソフト入れ替えましょ。えーとじゃあ…」
プツっと起動中のゲームを切り、ごそごそとテレビ台の中を探り始めるまき。
そこでふと、視線を時計に向けてみると時刻はPM11:00を過ぎていた。
もうそろそろ寝る時間だな…。
「お兄ちゃん次は何する?マリカ?マリテニ?それともマリパ??」
「全部マリヲじゃねぇか…。っていうか時計みろ、もう寝る時間だ」
「えぇー!?私の宴はこれからなんだけど…」
「明日も学校あるだろ、さっさと寝るぞ」
「むぅぅぅ…」
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ぽつ、ぽつ…ザアアアアアァァァ────
「ん?あぁ…降り出したか。明日は降水確率80%だって言ってたけど、まさか今晩から降るなんてな…」
ゴロ、ゴロゴロ…ピカッ!ドォン!!
「うわ雷まで…。起きたら大雨、明日会社行くの大変そうだなぁ…」
さっさと寝てしまおうと目を瞑ったその時、
コンコンっ
と、俺の部屋の扉が鳴った。あいつまだ寝てないのか…、さっさと部屋に帰そうと考えながら扉の方へ歩み寄ると、
ガチャ、ギィィィ―――――………
「お、おにいちゃん…」
涙目になって消え入りそうな声で俺を呼びながらまきは入ってきた。
「なっ!?ど、どうしたんだ?どっか痛いのか?お腹か?」
「グス…っ、…いれ」
「なに?何だって?」
「といれ…ついてきて…っ//」
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「ぜ、絶対に先に戻らないでよっ…!」
「あーはいはい、いるからはやくしなー」
ふわぁ、と欠伸をしながら俺は応える。まぁ女の子だしな。雷が鳴ってる中、暗闇の廊下を突き進んでいくなんていうのは少し厳しいかもしれん。
本当に何事かと思ったが、大したことじゃなくてよか「おっ、お兄ちゃんっ!?いる!?」…。
「いるよー」
「な、ならいいけど…」
・・・
しばらくすると、ジャーという水を流す音が聞こえてきた。どうやら終わったようだ。
ガチャ、ギィィ…バタン。
「…マ、ママにはこのこと言わないでね…?絶対によ!?」
部屋に戻る際、まきは顔を真っ赤にして俺を睨みながら、釘を刺してくる。
「はいはい。…ちなみに、父さんにならいいのか?」
その時の俺はニヤニヤしていただろう。まきの発言に微笑ましさを感じて、意地悪い問いかけをまきに投げつける。
「ダメに決まってるじゃないっ!//他言無用よ!もし言ったら二度と口利いてあげないんだから!!//」
「ぷふっ、そりゃ勘弁だな。まぁせいぜい気を付けるとするよ」
そんなこと言うまきについおかしくなって、俺は噴きだしてしまう。
だからなのか、まきはまだまだご機嫌ナナメだ。
「ちょっと!何がそんなにおかしいのよっ!?//」
「い~や、なんでもない、よ…ぷっ、くくく…あはははははははっ!」
「わ、笑わないでっ!//あぁもう…っ!~っ笑うなーーー!!///」
深夜でさらに雨が降っているのにも関わらず、2人しかいない西木家は明るい雰囲気に包まれていた。
この後もそんな状況は続き、あまりにも賑やか、というより騒がしい声だったため後日ご近所さんから注意が入って母さんにこってり怒られたのはここだけのお話…。
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「さぁ、着いたぞまき。もう遅い時間だ、夜更かしはやめてさっさと寝ろよ」
部屋の前までまきを送って俺はそう言うものの、返事が返ってこない。
「…まき?」
「…………」
ふむ、どうやら先程のやりとりを根に持っているらしい。自分の失態を言われないと分かっても、どうやら笑われたことでその事に勝るほどの怒りを感じてしまったらしい。
名前を呼びかけても、まきは頬をぷくーと膨らませてツーンとそっぽを向くばかりだ。
でもだからといってここでまきを叱りつけても意味がない。そもそも悪いのは俺なのだから、とりあえず謝っておこう…。
「…ごめんな、笑ったりして。でも本当にもう遅い時間だから、はやく寝ろよ。じゃあ」
おやすみ、と言おうとして同時に背を向けた直後、
くいっ…
俺は裾を掴まれたことを感じた。
「…まき?」
振り返って見てみると、まきが俺の裾を掴んでいる。相変わらずそっぽは向いたまんまだが、暗闇の中でもはっきりと分かるくらい頬を朱色に染めながら…。
「…おやすみ、お兄ちゃん///」
俺の妹は、干物妹だ。
普段学校ではどんな感じなのかは知らないが、少なくとも家の中だと年中グータラしているどうしようもない干物妹だ。
「…あぁ、おやすみ。まき」
だけど、俺は知っている。
そんなグータラな干物妹でも、高飛車でプライドが高くて、負けず嫌いで気が強くて…、
その癖繊細で傷付きやすくて、素直になれない寂しがりやな妹だということを。
俺が微笑みながらそう返すと、各々部屋に戻って寝床につく。
きっと、俺の日常は明日からも変わらず、まきの干物妹っぷりを鎮めることに努めていくのだろう。
ははっ、今更だけど我ながら大変な妹を持ってるなぁ…。
「明日も楽しい一日になりますように…」
ありがちでベタだけど、それでもこんな時は言いたくなる小さな願い事を呟いて、
俺は今度こそ眠りに就く…。
全く、俺の妹は
とんでもない干物妹だ―――――――……
ここまでお付き合いいただいてありがとうございます。
どうも!
お前捻デレ物語はどうしたっ!?と言われざるを得ないユカタびよりです!
いや本当にすいません。
うまるちゃんにどハマリしてしまってこんなものを書いてしまいました…。
続くかどうか分からないです(笑)
極力続ける方向ですが…。
干物妹なまきちゃんのイメージは、
皆様Googleの画像検索で、ラブライブ×うまるちゃんといった具合で検索かけてみてください。中に、まきちゃんの干物妹verがあると思うのでそれを(笑)
探すのがめんどいっていう方は、私のTwitterで上げてますのでそちらを。
誤字など文がおかしいところがありましたら、言っていただければ幸いでございます。
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@yukata_chika