提督だと思った?残念、深海棲艦でした(仮)   作:台座の上の菱餅

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あれだ。

未来日記面白かったですウヘヘ

※7月3日乃黒の口調を修正しました


第5話

 

 

「あーあー、煙草もう二箱しかない……」

「そもそも煙草なんて吸うほうが悪いのですよ乃黒さん」

 

 モモから辛辣な言葉を頂くと、困ったように肩を竦め、苦笑いを浮かべる乃黒。

 残り少ない煙草を一本取り出して咥えると、艤装の熱で火を点けた。

 

 吐いた煙の向こうに見えるのは、無数の砲口を此方に向ける艦娘達。

 深海棲艦の自分が殺意に呑まれそうになるのが感じられるが、完全で不完全な自身の存在にはあまり効果はない。

 

 つくづく、自分が変わった奴だと思い知らさられるよ。

 そんな風に考えると、不意に笑顔が漏れ、モモに怪訝そうな目を向けられる。

 

「多分、と言うか確実に、相手の大半の奴等が低練度の艦娘、経験不足の艦娘だろうな。でなけりゃあんな遠足気分で来る筈がない」

「たしかに、歴戦の猛者なら未知の敵には油断はしないはず」

 

 舐められているのでは? と思い付いたようにモモが言うと、彼は少し戯けた仕草をする。

 此方も此方で、ある意味遠足気分にも見えなくもないが、先程から彼女等を見詰める乃黒の目は常に鋭い。

 

 ヲ級はどうしたのか、ちゃんと逃げられただろうか、心配だ。

 殆ど灰となった煙草を握り潰すと、静かに弓を取り出して彼は口を開いた。

 

「では始めよーか」

 

 そう言うと、彼は浮かんでいる燃料の"入ったドラム缶"を、全て撃ち抜く。

 激しい爆音をたてて、燃料の入ったドラム缶は大爆発を起こす。

 黒煙が上がり、やがて乃黒と艦娘たちは互いの姿を確認できなくなった。

 

「なに!? これは……燃料?」

「大和、これは随分と厄介な事になったな」

 

 恐らく、弾薬も少し混ぜたのだろうか。黒煙が晴れる様子は無く、向こう側の状況が把握できなくなる。

 此度の作戦の旗艦を務めている大和と、その姉妹艦の武蔵は、困ったように佇んだ。

 乃黒の予想通り、彼女等の大半は低練度の艦娘であり、このような非常事態、普段の出撃にすら慣れていないような者ばかりだ。

 現に、一部を除いて殆どの者が狼狽えて、必要以上に騒いでいる。

 

 弾薬が切れては戦闘も糞も無いため、迂闊に乱射する訳にはいかない。 

 かといって、このまま突っ立っていれば、それこそ時間の無駄だ。

 どうするか、悩んでいると、先の爆発よりか小さい爆音が、彼方此方で響く。

 腕を組ながら周りを見渡すと、武蔵は表情を一変させた。

 

「だ、大丈夫か!!」

 

 次々に被弾する、艦隊の面々。

 余程高威力なのか、一撃で大破する戦艦や、掠っただけで中破する重巡の姿が、すぐに見受けられた。

 不味い、そう思うと同時に、大和の頭にとある事が過る。

 

 駆逐艦や軽巡が危ない

 

 戦艦、空母、重巡達は比較的高練度の艦娘が多いが、駆逐艦や軽巡達は違う。

 避ける事に慣れていない彼女等にとって、この状況は危ない。

 加えて彼女等の装甲はかなり薄い。

 守らなくては、と動いたときには、もう既に遅かった。

 

「なんっ……てことを!!」

 

 撃沈にこの上なく近い大破。

 意識の無い者は、ギリギリ意識を保っている者に抱えられ、何とか耐えている。

 不幸中の幸いと言えば、誰一人も轟沈していないといったところか。

 怒りに体を包み込まれそうになるが、拳を握り締めて何とか耐える。

 

 まだ戦える者に陣形を作るよう命令すると、大和は自慢の主砲を憎き敵に向ける。

 が、黒煙が晴れた先には誰も居ず、海が静かに波打っていた。

 

 

「んー、作戦成功っと。このままトンズラだ」

「なんか、すごいスムーズにいきましたね」

 

 悪戯っぽく笑う乃黒を見て、先程まで居た方向へ首を振るモモ。

 実のところ、彼は全ての砲撃を手加減していたのだ。

 恐らく、駆逐艦が一撃でギリギリ沈まない程度の威力に抑えて。

 

 轟沈する者を出したくないが為に。艦娘等の隊列配置を覚えて攻撃したのも、自身の存在が曖昧で、沈めたくない、と思えるからだろう。

 いずれ完全な深海棲艦となってしまった時、どうなるのか想像すると、不思議と何も感じなかった。

 

 煙草に火を点けると、モモと同じ方向を見詰める乃黒。

 刹那、のんびりとした乃黒の目が、驚愕と決断の色に染まる。

 

「何か違和感があると思ったら……モモ、どうやら相手の親御さん方はお怒りなようだよ」

「え? 何が見えるんですか?」

 

 モモの目には、水平線しか見えないが、よく目を凝らしてみると、二つの点が此方へ向かって来ているのに気づく。

 あそこの位置にいる者の表情が見て取れるとしたら、かなりの視力だ。

 

 面倒臭そうに、溜め息を吐きながら煙を吐くと、煙草を咥えたまま静かに矢を引く。

 その目には、憤激する大和と武蔵が此方に向かって来ている姿が写っていた。

 

「大和型、加えて双方改か。勝ってんのは機動力ぐらい」

「迎え撃ちますか?」

 

 首を傾げるモモに笑い掛けると、艤装を再度全て展開した。

 

 初の戦闘。

 先程の攻撃は、相手が警戒を然程していないお陰で有利に出来たものの、今回は違う。

 真っ向からの二対一、多勢に無勢とまでは行かないが、火力や装甲などの面で言えば乃黒達が不利なのは目に見えていた。

 しかし、何故か彼の中で引く気は微塵もなく、今度は真っ正面から迎え撃つ。

 そう、決めていた。

 

 しかし、やはり分が悪いのは事実。

 どうしたものか……と、姿形がくっきりと見えるぐらいの距離まで近付いた二人を見ながら考える。

 砲撃音が鳴り響くと同時に、煙草を口から落として矢を離した。

 

「モモ、機動力だけで言えば俺の方が上だ。それに、火力だって相手が二人ってだけで、単騎同士ならそこまでの差はない」

「確かに、装甲のさはありますけど、索敵や速力なら乃黒さんが上ですね」

「やだなあ、力の差は」

 

 そう言うと同時に、最高速度で大和と武蔵の元へ近付く。

 彼女達の主砲から、当たったら即轟沈の砲弾が幾つも飛んでくるのを全て意識外に飛ばす。

 残り約十メートルと言ったところか。

 予想外の行動に、大和達は少し驚くがそんなことは関係ない。

 姿勢を一気に低くして砲弾を避けると、同時に二本矢を飛ばし彼女達の動きを一瞬止める。

 

 今だ。

 

 尾の口で大和の艤装を噛み砕き、矢で武蔵の艤装の右側を破壊。

 尾の口が噛んでいる大和の艤装を武蔵の艤装にぶち当て、左側の艤装も破壊する。

 

「まだ終わっていない!!」

 

 辛うじて残っていた副砲を撃つ武蔵。

 しくった、と舌打ちすると、強烈な一撃を尾で受け止める。

 やはりダメージは大きく、尾の動きが異様に鈍くなり、痛みが押し寄せる。

 

 直ぐ様矢を両手に取ると、矢先を大和と武蔵の首元に突き付ける。

 大和と武蔵も、まだ壊れていない艤装を乃黒の頭に向けた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 沈黙。

 互いが自らの武器を向け合うことにより、動こうにも動けない状況が完成する。

  無茶な作戦を建てたのは分かっていたが、しくじるのは予想外。

 全ての艤装を破壊することができれば、こんな状況にはならなかったのに。

 

「おい、貴様」

 

 沈黙を破ったのは、武蔵。

 まるで侍のような風格を持つ彼女の眼差しには、しっかりとした敵意が込められている。

 視線だけで返答する乃黒を睨むと、吐き捨てるように続けた。

 

「貴様は何がしたい?」

 

 何がしたい。予想外の質問に疑問符を浮かべる乃黒を見て、抽象的な質問の続きを話すために大和が口を開く。

 

「貴方は、以前遭遇した六隻の艦娘たちを全員大破まで追い詰めましたね?しかし、容易に轟沈させることが出来るにも関わらず、貴方はそれをせずに見逃した。これは、その場に居なくとも報告だけを見れば分かります」

「加えて先程の貴様の奇策、あれ程の被害の中で一隻も轟沈者が居ない」

 

 最初からもっと具体的に話せば良いものを、と至極簡単な返答をしようとするが、突然の爆音によって遮られる。

 何だ?と周りを見渡すと、逃げたはずのヲ級が、艦載機で大和達を攻撃していた。

 嬉しい半分逃げていなかったのか、と呆れ半分のまま、二人を蹴り飛ばしてその場から上手く離脱。

 

 置き土産に"一言"言うと、その場から最高速度で離れていった。

 

 

 

「ふー、助かったヲ級」

「ウム、借リガアルカラナ。コレクライハ至極当然ノ事ダ」

 

 そうか、と笑うと、傷付いた尾の艤装を少しだけ撫でる。

 焼け焦げているが、内部までは傷付いていない。

 入渠する場所がないため、どうしようかと考えていると、ヲ級が思い付いたように、話し始めた。

 

「ソウイエバ、逃ゲル途中ニ使イガ来テナ」

「使い?なんだそれ、執事かなんか?」

 

 艤装を仕舞うと、何とも興味無さそうに聞き返す乃黒。

 少し頷くと、そのままヲ級は続けた。

 

「執事トイウヨリ、主ノ下僕。コノ近クニ住ンデイル姫……『戦艦棲姫』ノ使イダソウダ」

「……マジ?」

「マジダ」

 

 戦艦棲姫、恐らく新米の提督でさえも知っているだろう深海棲艦の名前。

 そんな者がどうしたのか、急に身を乗り出した乃黒に若干引きつつ、ヲ級は口を開いた。

 

「ドウヤラ、オ前ニ会イタイソウダ。私ニ案内ヲサセテ、話ヲシタイト」

 

 興味津々だったのが一転、露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 そんな事か。つまらない。

 が、もしかして何処か住める場所を紹介してくれるかもしれないため、乗り気がしないが了承した。

 

 

 

 最後、突然現れたヲ級によって作戦失敗を余儀無くされた大和達艦隊は、沈んだ雰囲気で鎮守府へと足を運んでいた。

 その中で、最後の最後まで戦い続けた大和と武蔵は、彼の去り際に放った言葉が頭から離れず、違った意味で暗い雰囲気を出していた。

 

「……何なのかしら……あの深海棲艦は」

 

 


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