提督だと思った?残念、深海棲艦でした(仮)   作:台座の上の菱餅

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※7月3日乃黒の口調を修正しました


第3話

 

 とある喫茶店。お洒落な曲と静かな雰囲気が流れる。

 人其々紅茶やコーヒーなどで喉を潤しつつ、共に来た者と会話に花を咲かせる中、一番端の席で一人静かに紅茶を飲む者がいた。

 

「なー、案外近くにあるモンだな」

 

 黒一色で彩られた、戦場で着るようなフード付きの服を着る青年一人。

 彼……乃黒は、何とも言えない複雑そうな表情で肩の方向へ顔を少し捻る。

 

「まぁ、潰れたとはいえ鎮守府ですしね。本土はそれなりにちかいでしょう」

 

 彼の問い掛けに応答するのは、二頭身の体をした、小人を連想させる者。

 彼女……モモは、クッキーの端を割り、小さな口に放り込む。

 その様子を横目に、再び熱を保った赤い紅茶に口を付けた。

 荒っぽい風味に少し顔を強張らせ、静かに洒落たティーカップを皿に置いた。

 

「にしても、艤装を仕舞うとここまで変わるもんなんだなぁ」

 

 そういって手のひらへ目を向ける。

 そこには以前見ていた真っ白で生気の無い肌ではなく、少し色みの入った健康的な手のひらがあった。

 

 艤装を仕舞う。即ち一旦戦う者としての武器を己の手から離すこと。

 戦うことを気概にして生まれてきた艦娘等にとっては、自分等ではない人間になるようなものなのである。

 そもそも、軍艦が人間に近付いたのが艦娘なのであって、艤装を外せば更に人間に近付くのは当然のことかもしれない。

 

 話は変わり、普通の、人間の黒髪で真っ黒な青年となった彼は、壊れかけの執務室に残っていた金庫に入っていたお金(矢で抉じ開けた)を手にし、念願の本土へ足を延ばしたのだ。

 以前、戦った艦娘等の撤退経路を確認し、長期遠征を覚悟していたのにも関わらず拍子抜けしたのは余談だ。

 

「うーん、飯の材料とか買って帰るか」

「食卓を色とりどりに飾れますね!!」

 

 会計を済ませると、活気のある港町を宛もなくふらつく。

 深海棲艦の出現に伴い荒んでゆく筈の港町がここまでもの活気を保っているのは、きっと近くにあった鎮守府が関係しているのだろう。

 恐らく、司令部がかなりの手練れか。それとも戦う者が手練れか。

 

 どのみち自身の曖昧な存在が知られたら怪しまれるに違いない。

 早急に帰ろうか、と歩く速度を少しだけ早めた。

 

 

 

 

 奥に進むにつれて段々と濃くなってゆく人混みに若干の苛立ちを覚えつつ、少しずつ出来る隙間へ体を潜り込ませる。

 しかし、この大人数の中では同じ考えを持つ者が現れるのは必然的。

 どうやら誰かとぶつかったらしく、腹部より少し上に衝撃が走る。

 

「ん、スマン。注意が足りなかった」

「いえ、私こそ前を見ていませんでした」

 

 珍しい、というより異質なピンクの髪をした少女が、凛とした面持ちで頭を下げる。

 一瞬、鋭い視線を感じたが、気のせいか、ともう一度謝罪すると、乃黒は足を進めた。

 

 先程いった通り、この町は深海棲艦の出現とは関係なく、とても活気がある。

 活気がある、イコール人が多い。

 人混みが至極嫌いな乃黒は、早急に鎮守府へと足を向けた。

 

「ただいま」

「ただいま~」

 

 島の規模にしては大きい砂浜で、買い物袋を片手に歩く二人。

 優先的に修復した厨房(入渠ドックも優先的に修復した)に足を運ぼうとするが、砂浜の端に普段無い違和感を感じて足を止める。

 赤い夕日が照らす岩礁の直ぐ側の場所、人型の何かが横たわっている。

 

 小声でその事をモモに伝えると、艤装の尾、弓と矢を用意して音を消し去って近付く。

 所詮万が一だ。もし生きていて、加えて敵意があったとしたら、の時に備えて。

 

「……あれなんだか分かる?」

「たぶん、深海棲艦のヲ級では?あたまの艤装が無いようですが……」

 

 完全に意識が無いのを確認すると、艤装をしまって弓のみを構える。

 確かに、よく見れば艤装の無いボロボロのヲ級が横たわっていた。

 

 このまま捨てておくのに問題はないが、自分も似たような存在、というか多分深海棲艦の仲間なのかもしれない。

 加えて生きている者を見殺しにするのは目覚めが悪いため、入渠ドックへと放り込む。

 

「ホント、あんま無い資材使ったんだから感謝してくれよなぁ」

 

 面倒くさいので、何やら資材集めの途中拾った高速修復材を使用。

 みるみる傷が癒えていくのを確認すると、側にあった椅子に腰かける。

 体の傷が全て癒えたので、タオルを被せて自身の座っていた椅子に座らせた。

 暫くすると、ヲ級はゆっくりと目を開く。

 

「気分は如何? 言葉は分かるの?」

「ヲ…」

 

 首を縦に振り、肯定の意思を見せるヲ級。

 取り敢えず言語の理解があるのを確認すると、次の会話へ移った。

 

「何があったのか知らんけど、君は砂浜で倒れてました。見捨てるのもアレなんで助けたわけです」

「……ソウカ、アリガトウ」

 

 あ、普通に喋れんのね。

 ペコリ、と頭を下げるヲ級に、頭を上げて、と催促する。

 ゆっくりと顔を上げる彼女の目には、しっかりと黄色い光が籠っていた。

 

 『flagship級』

 高練度の艦娘が沈んだり、怨念が強い艦の成れの果てと言われている、深海棲艦の上位個体の事を指す。

 他の個体とは桁外れの性能を保持しており、高練度の艦娘が束になってやっと傷を付けることが出来る程度だ。

 

 少し驚く乃黒だったが、それ以前にflagship級もの深海棲艦を此処までボロボロにする艦娘が居ることに驚愕した。

 恐らく、相手にするとなれば、かなり苦戦を強いられるのだろう。あまり遭遇したくない未来の話だ。

 

「此処に流れ着いた理由とか分かるか? 覚えてないならいいけど」

 

 どう?と首を傾げる彼の顔を暫く見詰めると、悔しそうな、憎しみの籠った表情で、話始めた。

 

「多分、私ハ戦艦ノ奴等ト交戦シテテ……最初ノ方ハ此方ガ優勢ダッタケド、相手ノ援軍ノ到着に伴ッテ……」

「ボコボコ? にされたと」

「……」

 

 頭を縦に振り、肯定の意思を見せるヲ級。

 ふーん、と呟くと、乃黒は尻のポケットから煙草を取り出して、徐に吸い始める。

 肩からジト目で睨むモモの事は、この状況下で敢えて無視した。

 

「そう……。ああ、そう言えば。もう気付いてるかもしれないけど、さ」

 

 そう言うと、艤装を取り出す。

 気持ちの悪い音を立てて生える尾の艤装に、少しずつ真っ白になってゆく肌。

 そして真っ黒に透き通った目が、濁った青へと変わってゆく。

 一瞬驚愕の表情を浮かべるヲ級だったが、悠々と煙草を吸う彼の姿を見て直ぐに真顔へと表情を戻す。

 

「深海棲艦と言えば深海棲艦。でも本質が似てるだけで、違うかもしれない。そんな曖昧な存在だよ。つまり君に敵意はない」

 

 煙草を握り潰し、煙と共に火を消すと手を組んで再び口を開く。

 

「こっからは俺が個人的に知りたいことなんどけどさ、君は何処の鎮守府に着任していた?」

「……何ガ言イタイ?」

「そのまんまさ。君が艦娘だったとして、何処に居たのか? と」

 

 にへら、と笑いながら、戻る肌と共に艤装を仕舞う。

 少し考えるように黙り込むヲ級だが、ソノ前ニ、と一言告げ、ゆっくりと話始めた。

 

「オマエハ、"記憶"を残しているか?」

 

――――――――――――――――――――――――

 

「ナルホド、部分的ニ抜ケテイルト」

「元は人間だったって事は分かるけど、その他の事はさっぱりなのさ」

 

 納得したような表情を浮かべつつ、少し嬉しそうに頷くヲ級。

 すると、ヲ級のお腹から特徴的な音が鳴り響く。そして空気の凍る室内。

 沈黙が流れるなか、一つ大きな溜め息を吐くと、彼は呆れたように口を開く。

 

「腹減ってるなら言えば良いのに。ほらほら行こう」

「チョット……」

 

 

 一人で使うには大きすぎる厨房には、肉を焼く良い匂いが立ち込める。

 少し余分に買ってきたのが幸いだったか、お腹の減っているかもしれないヲ級とモモに、夕飯を作ろうと思った乃黒は、慣れた手付きで買ってきた食材を捌いていた。

 

 その調理風景をニコニコと見詰めるモモと、物珍しそうに見詰めるヲ級。

 男が料理するのは珍しいのか。そもそも料理自体が珍しいのか。

 出来上がった物から運ぶように催促され、ヲ級は危なしげに食事を運んだ。

 

「では、頂きまーす」

「頂きまーす」

「イ、頂キマス」

 

 小さい口一杯にご飯を詰め込み、幸せそうに頬張るモモの姿を見ると、嬉しそうに乃黒も箸を進め始める。

 少し遠慮気味に食べ始めるヲ級だが、一口口に入れると途端に表情が明るくなる。

 

「口には合った?」

「……アァ、トテモ、美味シイ」

 

 そりゃ良かった、嬉しそうで優しい笑顔をヲ級に向けると、自身も箸を進め始める。

 黒ばかりの服を着た人間と、艦娘にしか加護を与えない妖精。そして妖精の加護を受けない深海棲艦という、何とも珍妙な光景が広がっているが、其々笑みを浮かべているのに変わりは無い。

 

 深海棲艦になってから彼女、ヲ級は断片的な記憶を頼りに自身が居た鎮守府を探し回っていた。

 暖かく迎えてくれた提督。相棒の蒼龍。その他の優しい面々。

 掛け替えのない大切な思い出は、少ししか残っていなかろうと彼女の体を動かすのに十二分のものだった。

 

 放浪の際に、彼女はとある事に気付く。

 記憶を残したまま深海棲艦になる艦娘等、そういないことだった。

 あるのは本能のみ。居たとしても、幸せな記憶は全て削り取られている。

 故に、自らが居た鎮守府を探すような輩は自身を除いて一人も居なかった。

 

 だからこそ、彼の存在が不思議然り、とても嬉しい。

 記憶が残っていて、それを分かち合える存在が、堪らなく嬉しい。

 例えそれが部分的でも、だ。

 

「どうした?」

 

 彼の声で入り浸ってしまった幸福感から抜け出す。

 ナンデモナイ、と首を振ると、飛びきりの笑顔を……彼女は、ヲ級は……――飛龍は浮かべた。

 

 

 

 

 

「んー、サラダの盛り付けが甘かったかな」

「そうですか?私的にはたべればみんな同じだと思いますけど」

「お前……」

 

 呆れたようにモモを見詰める乃黒。

 一人で寝るには勿体無い程の広さを持つベッドの上であれこれ雑談するのは、最早彼らの日課となっていた。

 と言っても、寝る前の十分~二十分程度の時間なのだが。

 

「やー、乃黒さんのつくる料理はみんな美味しいですからねー。暖かいうちに食べたいのですよ」

「なるほど、それなら仕方ない」

 

 面白そうに笑う乃黒だが、扉付近に気配を感じて目を向ける。

 すると、そこには少しもじもじしながら佇むヲ級の姿があった。

 どうしたのか、問おうとするが、その一声は次のヲ級の一言によって噤まれる。

 

 

「一緒ニ、寝テホシイ」

 

 

夜は長そうだ

 




此処等で人物紹介でもしことうか



『乃黒』

乃黒と書いて"のぐろ"と読む。
曖昧な部分が多い存在で、モモの考察上、深海棲艦に似た人間。彼の考察上深海棲艦といった具合の人物だ。
元々は人間だったことは知っているが、記憶の一部が抜かれるように消えており、身の回りの情報は皆無だ。

艤装が体に付いており、任意で出したり仕舞ったり出来る。何処に消えるのかは、妖精さんも知らない。

白い長袖シャツに黒いパーカーのような軍服を羽織り、下は真っ黒なズボン。
艤装を閉まっているときの肌は少し白い程度の色白な肌。
髪は黒、目は少し濁った黒。

実は、家事スペックがカンストしてたりする。

乃黒の能力値

lv 3

耐久 50

装甲 30

回避 152

火力 200

雷装 0

対空 53

対潜 42

索敵 123

搭載 30

運 15

速力 高速

射程 長









モモの紹介は後に

何か微妙な数値ばっかすね

因みに弓は火力の数値とは無関係の威力です

ではまた次回

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