提督だと思った?残念、深海棲艦でした(仮)   作:台座の上の菱餅

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遅くなりました


第11話

 

 駆逐棲姫と離島に住み着いてから三日。乃黒達は早くも鎮守府(仮)作りに励んでいた。厳密に言うと、作るのはモモであるが。

 乃黒と駆逐棲姫はせっせと資材を集めては、鎮守府を生成するモモの元へ。そんな事を繰り返して、三日。

 やっとのことで、工廠と入渠だけは作ることができた。モモ曰く、温泉のような建物にしたいとのことで、外見は最早旅館。

 乃黒は気に入っているものの、彼がこの建物が鎮守府という前提を忘れてないか、駆逐棲姫は非常に心配だった。

 

 「いいんじゃない? 他とは違くて、何かいいいと思う」

 

 「具体的な理由がありませんね……。近くを通り掛かった艦娘や深海棲艦を泊めたりするんですか?」

 

 「将来的に、世界で唯一の、約束された平和の温泉とか言われたいね。艦娘と深海棲艦の戦闘が起きない点で」

 

 「銭湯だけにっ、ですか?」

 

 「……成る程、冴えてるねモモ」

 

 「く、くだらない。」

 

 割りと本気で大丈夫かと、ひたすら心配な駆逐棲姫だった。

 

 後は母港、そして鎮守府に所属する者達──今は実質三人だけだが──が寝泊まりしたり、食事をしたりする生活施設。

 この二つさえ作れば、見た目はどうであれ鎮守府として成り立つ。言ってしまえばこの二つはあまり要らないのだが、やはり無いと完璧とは言い難いだろう。

 

 そして、何より乃黒が所望したのは、高台である。それも、十数メートルの。

 連射はできないが、射程距離が長く、尚且つ威力の高い狙撃手的な意味合いでは強い乃黒にとって、あったら損はない、むしろ得をする施設だ。

 常時、とまではいかないが、戦闘時に周囲を警戒する際、大いに役に立つだろう。

 

 ──そんなある日の昼下がり。

 

 「そういえば、駆逐姫の足って何があったの? 超能力みたいに浮いてるけど」

 

 神妙な面持ちで、駆逐棲姫の足を見つめる乃黒。恥ずかしいのか、駆逐棲姫は真っ白な頬を桃色に染めて言葉を探す。

 それはそうと、駆逐棲姫だと長いし言い辛い、と乃黒は駆逐棲姫のことを『駆逐姫』と呼んでいた。

 

 「えっと……記憶は結構断片的で」

 

 「うん」

 

 「確か、沈む寸前かそれより前に、戦艦に吹き飛ばされました」

 

 「……うぅうぅん」

 

 あっけらかん、と言い抜く駆逐棲姫に、何とも言えない表情を浮かべる乃黒。しかし、彼女自身あまり気にしていないようで、自分が要らぬ気遣いをしても彼女にとって逆に迷惑だろう、と考えた乃黒は溜め息を吐いた。

 

 「あれだね。君って結構、逞しいね」

 

 「それは勿論、貴方の部下ですから!」

 

 「なんだ、俺の部下は皆そんな感じ?」

 

 「大体は」

 

 前世の自分がどうにも気になる乃黒だった。

 

 

 ***

 

 

 「名無しの提督?」

 

 「ハイ」

 

 怪訝な顔つきで不知火に返す提督に、彼女は淡々と返す。懐かしむような様子もなく、しかし、その胸の中にあるだろう嬉々とした感情からか、口角が少し上がっていた。

 

 「えっと、聞き覚えが」

 

 「腫れ物の天才、って言えば分かりますか? あの、廃棄場と呼ばれてた鎮守府の」

 

 「……っ」

 

 意図して言ったわけでもなく、だからこそ皮肉でもないのだろう。ただ、提督に理解して貰うため、彼を認識するにあたって最も適切な呼び方を語る。

 しかし、それは分かりやすくも本人に対する侮辱ともとれる。

 だが、事実は事実。不知火にとって事実は事実でしかなく、それ以上のものでもそれ以下のものでもない。

 そう言う風に、"司令官"に教わったから。

 

 「数年前、本土に近いにも関わらず設置された離島の泊地が、突如現れた深海棲艦の大群に襲撃され壊滅。

 

 幸い艦娘らに損害はなく、実質的な被害は泊地の破壊のみ。

 未だ襲撃の理由は不明であり、襲撃の後速やかに深海棲艦達は去って行った。

 

 ──知ってますか? あの日、この情報しか伝えられなかった貴女方は。あの人が何をしたかを」

 

 この不知火は、本来他の鎮守府等に配属されている不知火とは大きく違う。

 

 まず一つは、駆逐艦という小規模の艦娘にしては荷が重すぎる能力を持っていることだ。

 乃黒と初めて相対したときは、鉄仮面の下砲口を突き付けながらも酷く動揺していた為使うことはなかったが。

 駆逐艦にしては非常に優れた膂力、耐久力が彼女の異種性の最たるものだろう。

 

 だからこそか、彼女は人格までもが若干歪んでいる。

 歪なまでに固く、そして変わることの無い表情の鉄仮面と、任務中時折見せる狂喜的な表情。

 彼女は"殺す"事に対する異常な快楽を知っているのだ。これが、他の不知火と、この"欠陥品"との違い。

 

 だからこそか、自分の大切な、殺しても快楽を得られないであろう人物以外との応対は極めて冷たい。

 相手の心を意図も簡単にへし折る言葉ですら、彼女自身には何の意図なくとも飛び出す。逆に言えば、それだけ彼女の興味が他人に置かれていないことになる。

 

 今もそうだった。今の提督は、不知火にとって大切な存在ではない。だからこそ、無意識に、意図することなく責め立てるような口調となっていた。

 

 「なにも、知らないよ」

 

 提督として、一人の人間として、知りたいという意味も込めて言葉を出す。それに答えるかのように、不知火は口を開いた。

 

 

 

 「彼は、私達を捨てたんですよ」

 

 

 

 ***

 

 

 「で、できた」

 

 「できましたー!!」

 

 「できましたね、司令官!」

 

 目の前にあるのは、流石にそのまま温泉のような外見にするのは不味い、と赤レンガを上手く使い和風な雰囲気を醸し出す立派な鎮守府に完成した。

 島の大きさから大分小規模ではあるが、少なくとも鎮守府としては成り立つ。

 

 そもそも、何故鎮守府を作ろうと思ったのか。すばり、拠点作りである。

 遠くに出掛けようと、近くに出掛けようと、帰る場所さえなければ意味がない。

 だからこそ、拠点が必要だった。最早過ぎた長物が完成したが。

 

 玄関を開け、高鳴る胸を押さえながら中を見渡す。柱から階段の手すりまで、他の鎮守府では絶対に見られない和風の装飾。

 廊下などに使われる照明には、吊るし行灯の様な物が使われている。それでも失われない鎮守府の雰囲気と、仄かに漂う温泉旅館の様な雰囲気を合わさって、独特ながら落ち着いた内装に仕上がっている。

 

 「予想以上、吃驚したよモモ」

 

 「えっへへ、もっと誉めてくれてもいいんですよ?」

 

 「偉いぞー、ほれほれ」

 

 手加減しながら強めにモモを撫でる乃黒。嬉しそうに笑うモモ。そんな二人とは別に、駆逐棲姫はあまりの驚きに唖然としていた。

 

 「も、モモさんは、一体何者なの、かな」

 

 「俺の妖精兼情報科兼建築士」

 

 「スゴく……凄いですね」

 

 「意味不明だね、その言い回し」

 

 一つ一つ、部屋を確認して行く、乃黒と駆逐棲姫。全ての部屋がしっかりと出来ているか確認し終えると、最後に執務室へと向かう。

 此処は、乃黒の要望として、あまり装飾は付けず、そして広すぎないように、という少し欲の無いようなものが出されていた。

 広いと落ち着かないでしょ、というのが乃黒の意向である。

 

 「お、此処も良い感じだな」

 

 「何と言うか、面積的には他の部屋とあまり変わりませんね。強いていうなら若干広い」

 

 「此方の方が落ち着く」

 

 書類仕事など当然無いが、形として作った執務室。簡素な家具だが、ソファーやテーブルなど、寛げるようになっている。これも乃黒の意向だ。

 『別に仕事をする場所じゃあないんだから、寛げるようにしてしまおう』と。

 

 「フフ。何だか、懐かしいです」

 

 ふと、駆逐棲姫がそんな呟きを漏らす。どういうことか、興味を抱いた乃黒は首を傾げる。

 

 「司令官と、私達艦娘が鎮守府にいた頃を少し思い出しちゃって……」

 

 「あー、成る程」

 

 

 「また、皆で集まれないかなぁ……」

 

 あまりにも悲痛な願いに、乃黒は顔を歪める。何故なら、駆逐棲姫の顔には儚く消えてしまいそうな、何かを押さえ込む様な笑顔が張り付いていたのだ。 

 記憶はない。けれど、少なくとも艦娘達を蔑ろにする様な鎮守府では無かったのであろう。

 

 「ごめんな」

 

 何故かは分からない。しかし、その言葉はすんなりと自然に出てくる。

 何も出来ない自分が情けなくて、何も知らない自分が情けなくて。

 

 何より、目の前に全てを知っている駆逐棲姫が居るにも関わらず、未だ過去の自分を聞くことが出来ない自分が情けなくて。

 

 「大丈夫ですよ。きっと、また皆に会えますから……」

 

 それは未来の事を思う願いではなく、何処か確信的だった。

 

 

 

 

 

 

 




なんかほのぼのなのかシリアスなのか、色々と混濁してんなあ

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