スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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007.「チーム、作ってみたら?」

一言で表すならそれは疾風。

風のように気配など全く感じさせず彼女は現れた。

 

身を低くした姿勢で、一気に駆け抜けていく。

 

「……ログベルトか」

 

全速力で駆けながら彼女は得物を抜き鞘を投げ捨てる。

手にしたのはまるでカタナのような反った刀身だが、

それでいて決してカタナではない武器。

 

サイズが大きすぎるのだ。

 

2メートル近くはあるだろうか?

イアイの技術を前提としたカタナでは

絶対にありえないサイズ。

汚れ一つない美しい刀身が陽光の光を反射させる。

その剣の特性なのだろうか。

溢れだす淡い赤色のフォトンが

まるで紅葉のような形を彩って散っていく。

 

「な、無茶だ!」

 

ウェズが叫ぶが彼女は躊躇なく飛び込む

まさにログベルトがレシアに拳を振り下ろそうとする、その眼前に。

 

彼女はニヤッと笑う。

それは肉食獣を連想させる獰猛な笑み。

 

「ギルティブレイク!」

 

突進した勢いのまま思いっきり剣を叩き込む。

 

「ァガァァァァァァァァァァァ!」

 

それはどれほどの衝撃だったのだろうか。

信じられないことに、

殴ろうとしていた勢いづいたログベルトが

尻もちついて後ろに倒れたのだ。

 

彼女はすぐさま飛び上がり、剣を頭上に掲げる。

 

「悪く思うなよ」

 

彼女の剣にフォトンが収束されていく。

桁はずれの力が生み出す青白いフォトンの光が、

刀身に発光させ、ただでさえ大きい剣が更に大きく見える。

 

「オーバーエンド!」

 

――!

 

獣は悲鳴を上げる暇すらない。

振り下ろされた剣が、

浸食核もろともログベルトを文字通り一刀両断した。

それがどれほどの力なのか、

ログベルトがいた地面にまで一文字の抉れた跡が残る。

 

彼女がつまらなさそうに剣を振ると、

フォトンの残滓の紅葉が周囲にひらひらと散っていく。

 

「……すげぇ」

 

ウェズは呆然と呟く。

扱うフォトンの質も量も自分たちとは比べ物にならない。

 

彼女は振り返って、未だに目を閉じたままのレシアの肩を叩く。

 

「怪我はないか?」

 

まだ生きていることを不思議に思いつつレシアは眼を開ける。

そこに立っていたのは長身の女性だった。

特徴的なのはその褐色色の肌と、

後ろで無造作な束ねた白い髪。

かつて存在したという「サムライ」をどこか連想させる。

そして少し釣り目なのが強気な雰囲気を醸し出していた。

 

機動性を重視した動きやすそうな軽鎧を身にまとい、

桜が描かれた羽織を背中につけている。

たしか、スズナクシナダという衣装だったか。

 

彼女の手を借りてレシアは立ち上がる。

レシアは身長が150ちょっとなのだが、

見上げるほどその女性の身長は高かった。

170のウェズより更に大きいだろうか。

 

「災難だったな。

 こんな森の浅い場所でログベルトが出るなんてことは滅多にないんだけど」

 

そう言って彼女は、「もう大丈夫だ」と

力強い男勝りな笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます。えーとあなたは……」

 

レシアが尋ねるとそのアークスは肩を竦める。

 

「kでいい。チームの仲間にはそう呼ばれてるからさ」

 

鞘を拾ってきたウェズから受け取り、

「ありがと」と言いながら愛刀「紅葉姫」を収めた。

カタナのようにも見えるが、ソードのカテゴリーに含まれる。

 

kは端末を開いてウェズとレシアの情報を確認した。

 

「これはまあ、中々の成績だ」

 

苦笑する彼女に二人は気まずそうに目を逸らす。

アークスになってから2か月経ったにしては、

あまり進展が見られていないのはクレストレコードを見れば一目瞭然。

 

「あまりと上から目線で話すのは好きじゃないけど、

 2人で組み始めたのがつい数日前、それで……」

 

彼らが倒したロックベアを横目で見て

 

「悪くないと私は思う。

 ただ経験が圧倒的に足りてないか」

 

そう言って笑った。

 

「助けてもらってついでみたいに頼むのは図々しいとはわかってるけど、

 強くなるにはどうしたらいいか何かアドバイスとかもらえねーか?」

 

ウェズは今回で自分の力不足を痛感してしまった。

今までは「なんとなくそのうち強くなれる」と思っていたが、

結果はこのざま、kが助けてくれなかったらレシアを目の前で失っていたのだから。

 

「私からもお願いします」

 

レシアも頭を下げる。

彼女も似たような心境だった。

 

2人に言葉に思案をしていたk

 

 

「多分二人が言ってる『強い』ってのは

 フォトンをどれだけ効率良く練って、あわせてキャパシティ自体を増やすかだろ?

 それなら地道に戦って慣れていくしかない」

 

正論を言われて「やっぱりか」という顔をする二人に対して

kは首を振り、「けど」と付け加える。

 

「私が大事だと思うのはそうじゃないと思う。

 常に変化する状況……そこへの柔軟な立ち回りの方が大事だ」

 

彼女は自分の腕に付けているブレスネットを見せる。

白く飾り気のない装飾品だが、そこには一つの木が描かれていた。

 

「私はそれをチームで学んだ。

 色んなアークスがいて、それぞれに戦い方がある。

 そいつらの良いところってのを吸収して、

 そして背中を預けれる安心感ってのが私を強くしたのかな」

 

その時、彼女の端末がピピピと甲高い電子音を立てる。

kは「げっ」という顔をしながら通話を開始した。

 

「……何してるかって? そりゃクエストですよ。

 え? 早く帰ってこい?

 何言ってんですか、木の実取ってこいってのはマスターでしょうが。

 アナタの不始末をマネージャーにバレないようにしてあげてる私になにか?」

 

不機嫌そうに何かを話していたが、溜息を付きながら通話を切る。

 

倒したログベルトの体を探し、何かを拾っていた。

 

「任務完了っと」

 

どうやら彼女の目的はログベルトから木の実を取ることだったらしい。

 

「チーム、作ってみたら?

 色んなアークスと一緒に成長していけばいいさ」

 

そう言って、現れた時と同じように颯爽と駆けて行った。

 


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