スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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何本武器折るんだよ、という主人公が
新しい武器を手にする話です。
あんまり感動的なシーンにはできませんでしたが、
みなさんどう感じるでしょうか?
スノーフレークという物語にとって、
大事な場面にはなったとは思います。
まさに王道ストーリー。


【挿絵表示】


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
気軽に感想を書いてくれると作者喜びます。
要望などは個別にメッセージ機能なり
ツィッター(@neko_neko_xojya)でお寄せ下さい。
※感想欄に書くと規約に引っかかるため
※要望は全てに対応できるわけではないのはで予めご了承ください。


070.「強くなれ」

複製体を倒したウェズが奥へと進むと

ダーカーの死骸がブルドーザーに

跳ね飛ばされたかのように

左右に転がっている。

 

「こりゃ、ケーラのヤツ……

 相当荒れてるな」

 

敵がいないのは助かる。

なにせ今のウェズは無手だからだ。

 

「また、カタナ折っちまった……」

 

一応折れた刀身も拾ったが、

当然ながら半分の長さになった

ディオシガルガでは戦えない。

アークスの使う武器は

見た目以上にデリケートであり、

折れてフォトンの刃が出なくなった

カタナはなまくら同然。

予備としてキャスティロンを

持ってくるべきだった。

 

「げっ」

 

そんなウェズの前に

羽音を響かせて

エル・アーダが2匹飛んでくる。

これが鈍足のダーカーならまだしも、

振り切るには分の悪い相手だ。

 

「くっそ……」

 

どうすべきか悩んでいたその時、

 

「ソニックアロウ!」

 

横から飛んできた真空波が、

エルアーダを真っ二つにする。

 

「ラ・フォイエ!」

 

離れようとしていた残りの一匹も

突如として発生した炎により

全身を焼き尽されて落下する。

 

「よう、ウェズ。

 借りを返せる時が、

 意外と早くきたもんだぜ」

 

ウェズを助けたのは

 

「ベルリック! ティオ!」

 

仮面の騎士団の2人だった。

ベルリックの背中には

ヒューマンの男性が背負われている。

彼はニヤリと笑う。

 

「お陰様でエランコットを拾えたぜ」

 

「無事だったのか?」

 

「ああ衰弱しきっていたが生きてるぜ。

 仮死状態みたいになっていて

 お蔭でダーカーも

 死んだと思って放置していたらしい」

 

一週間も前に行方不明になったというのに、

よくも生きていたものだと感心する。

ティオがベルリックの裾を

ちょいちょいと引っ張った。

 

「ベルくん、他の3人も助けにいかないと」

 

「ああ、そうだったぜ。

 ウェズ、行こうぜ!」

 

2人に先導されてウェズは続く。

残りの反応はここからすぐ傍、

レーダーでは先行した三人も到着しているようだ。

 

「悪い、遅くなった!」

 

駆けつけると、

すぐに漂う悲痛な空気に気付く。

視線で問いかけると、

ナイトメアが首を横に振った。

その背には一人のヒューマンの女性。

ウェズの知らないアークスだ。

だが隣のシェスタはタバコを吸って、

目を瞑って黙っている。

それだけで残り3名いたはずの

要救助者の中で助けられるのが

その女性だけだと気付く。

 

奥へと歩く。

そこにいるのは蹲ったケーラ。

彼女は黒髪の女性を抱きしめて、

静かに涙を流していた。

 

「……ウェズ=バレントスか」

 

抱えられているのは

満身創痍のレイ=タチバナ。

複製体とは違う、

強い意志を持った瞳の本物の剣士。

だが出血も酷く、

特にえぐれたような脇腹の怪我が痛々しい。

もう一目見て、彼女は助からないのだとわかった。

その後ろにはピクリとも動かない

ニューマンのテクター、ガンス。

彼は先に逝ったらしい。

 

「……こんな場所で、

 最後にお前の顔を見るとはな」

 

「ああ」

 

短く頷いた。

なんて言葉をかければいいか、

わからなかったから。

あれだけ強く輝いていた彼女の

土気色の顔が痛々しく、

けれど目を逸らすことはできなかった。

 

「アンタの複製体、物足りなかったぜ」

 

「ふっ……当然だ」

 

彼女の前に跪く。

 

「俺は……アンタを超えたかった。

 あんな偽物じゃ意味がねえんだ……

 レイ=タチバナじゃなければ、

 意味がないんだよ……」

 

彼女には2度も煮え湯も飲まされた。

そして同時に、

ブレイバーとして大切なことを

戦いを通して教しえてもらった。

アザナミとはまた違った意味で、

ウェズにとっては師のようなもの。

いつか超えるべき壁だった大きな存在。

だというのに……

こんな最後、誰が予想できただろうか。

 

「お前は、もう立派なブレイバーだ……

 アザナミの、自慢の一番弟子……」

 

彼女は億劫そうに腕を動かし、

手に持つスサノグレンの

柄に巻いていた淡い赤色の紙垂をほどく。

 

「……ケーラ。

 最期にお前に渡せるモノが、

 こんなモノしかない」

 

「レイ……」

 

それが彼女たちにとって、

どんな意味を持つモノなのかはわからない。

だけれど、ケーラは大事そうに受け取る。

 

「……うん」

 

彼女はトレードマークのツインテールをほどき、

紙垂をリボン代わりにで髪を後ろでまとめる。

それはまるでレイのようなポニーテール。

 

「どう、かな?

 似合ってる?」

 

「ああ、よく似合っている」

 

ケーラは涙を流しながらも笑う。

レイはそんな彼女に

穏やかな表情で微笑んだ。

 

「……ウェズ=バレントス。

 使って、くれないか?」

 

そして彼女はスサノグレンを

ウェズに差し出した。

 

「……いいのか?」

 

「……ふん、悔しいが、

 私のスサノグレンを使うのに

 お前以上に相応しいブレイバーを

 私は知らない」

 

受け取ったスサノグレンは、

ずっしりとした重みを感じさせる。

ウェズは強く握りしめた。

 

「確かに、受け取った」

 

――彼女の意思とともに。

 

「ふっ……最初に出会った頃が

 嘘のような良い面になったな。

 ……アザナミも喜んでいるだろう」

 

ゴホッと血を吐く。

 

「レイ!」

 

ケーラが悲痛な叫び声をあげる。

だが彼女は言葉を止めずに、

ウェズの瞳を見つめ、呟く。

 

「強くなれ」

 

 

――それを最期に、彼女は逝った。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ケーラの慟哭が響き渡る。

 

それにまるで応えるかのように、

大地が激しく揺れる。

 

 

――ダーカーの巣窟の崩壊が始まった。

 


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