スノーフレーク   作:テオ_ドラ

7 / 111


【挿絵表示】


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711


006.「俺らもやればできるな!」

唸り声を上げるロックベアから視線を外さずに

ウェズはレシアを下がらせる。

 

「どうする?」

 

なにを、とは言わなかった。

それには彼女に対して自分を囮にして逃げても構わない……

そういう意味合いも込めての言葉。

 

彼女もそれはわかったのだろう。

どこか不快そうな雰囲気を滲ませて

 

「戦うに決まっているじゃないですか」

 

はっきりと告げた。

 

「後悔するなよ」

 

レシアに対して聞いてはみたが、

どこか彼女がそう答えてくれるのを期待していたのかもしれない。

 

「……長くは足止めできないかもしれないぜ!」

 

今にも飛び出してきそうなロックベアを前に、

悠長に作戦など決めている余裕はない。

 

先手必勝とばかりにカタナを抱えてウェズは駆けだす。

 

 

――浸食核

 

ダーカー因子が体内に溜まり過ぎると、

ある一定量を越した時、内部から食い破られる。

ロックベアの肩から飛び出した赤いモノは、

そのダーカー因子の塊なのである。

浸食が進んでしまったら、

知性あるものでも完全に正気を失い暴れ狂うだけの存在となる。

アークスたちはフォトンの力で中和が可能ではあるが、

逆に言うとアークスたち以外はダーカーと戦えない。

 

フォトンで消し去らないと

ダーカー因子は消えることはない。

そして今、目の前にいるロックベアのような存在は連鎖して増えていく。

 

何としても浸食された存在は倒さねばならないのだ。

 

「っても、荷が重いか……!」

 

理性と引き換えに、非常に大きな腕力と耐久力を持つのが浸食種。

体の限界など関係なしに戦うのだから当然ともいえる。

 

「アサギリレンダン!」

 

足元に立ちカタナで乱れ切りをする。

 

――!

 

雄叫びを上げて、ロックベアが思い切り腕を振り下ろしてくる……

がしかし、それは予想していたことだ。

すぐさま、相手の股下を通り抜けて回り込む。

勢い余ってロックベアは地面に倒れ込んだ。

 

その衝撃にひやっとする。

 

「これはカウンターとか無理だぞ……」

 

浸食種は攻撃が単調になるとは聞いていたから、

正直に言うと「なんとかなるだろう」とは考えていた。

 

けれどすぐに考えを改める。

これは……非常にマズい。

 

「けどやるしかないな!」

 

仰向けに倒れたロックベアの顔に何度もカタナで斬りつける。

 

「サクラエンド!」

 

腹立たしげに唸り声をあげるロックベアの剣幕に

逃げ出したい衝動に駆られるが、

 

「……」

 

テクニック職であるレシアに絶対に近づけてはならない。

回避能力の低いフォースではひとたまりもないだろう。

自分になんとか注意を惹きつけて、

その間に彼女に何か効果的な攻撃をしてもらうしかない。

 

(逃げてくれてもいいんだけどな……)

 

横目で見ると彼女は何かの詠唱をしていた。

本来テクニックに詠唱など不要なのだが、

フォースには彼女の様に詠唱をする者は少なくない。

体内にあるフォトンと、また周囲から取り込んだフォトン……

それらを混ぜ合わせて強力なテクニックを使うには高い集中力が必要だ。

つまり詠唱というのは呪文に意味があるのではなく、

深くフォトンと繋がるために自信へと暗示をかけるようなものである。

 

「――」

 

彼女が何をしようとしているかはわからない。

けれどあれだけ長い詠唱をするということは、

余程大がかりなことをするつもりなのだろう。

 

ならば……彼女に賭けよう。

 

ロックベアが腕を大きく振り回して起き上がる。

咄嗟にバックステップでウェズは避けて、

すぐにまた肉薄してカタナを振り上げる。

 

「ツキミサザンカ!」

 

斬撃は確実にクリーンヒットした。

けれど岩のような皮膚を前には

とても致命傷を与えることなどできない。

 

丸太のような岩が左右から挟み込むように叩き込まれる。

間一髪で飛びあがり回避。

そのまま腕を駆けあがって、頭を超えて回り込む。

 

「ゲッカザクロ!」

 

そしてロックベアの背面を頭上から切り落としていく。

 

「全然効いてねーのかよ!」

 

すぐに離れる。

さっきまで自分が立っていたところを

敵の腕が風を切りながらよぎって行く。

その風圧に無理な体制だったために軽く飛ばされしまった。

ウェズは「しまった…!」と自分の迂闊さに舌打ちした。

ぎりぎり回避できて満足していた油断である。

 

シガルガが手を離れる。

他に武器など持っていない、すぐさま拾いにいこうとするが

 

「――!」

 

それは雄叫びをあげるロックベアの腕の届く位置だ。

カタナを掴むのは自分から死ににいくようなものである。

 

しかし、これでカタナを踏んで壊されたりしたら、

それこそもう自分には攻撃の術がなくなってしまう。

 

「ウェズ、離れて!」

 

そこへ力強い彼女の声が響き渡る。

カタナを選ぶか、彼女の言葉に従うか……

 

「ちっ……」

 

考えての行動ではなかった。

思いっきり後ろに跳び退る。

 

「これでもくらいなさい!」

 

レシアが投げたローザクレインの羽……

ウェズに襲いかかろうとしたロックベアの背中に飛翔して突き刺さる。

数は5枚、どれもがフォトンをまとっていた。

 

「ギ・ザン!」

 

彼女がフォトンを解放する。

 

――!!!

 

ロックベアが声にならない悲鳴を上げる。

体に刺さったタリスが5回とも、

そこを中心としてカマイタチを生み出したのだ。

至近距離で炸裂した風テクニックはそれだけでも

体をズタズタにしてしまうというのに、

5か所から発生したカマイタチは

お互いに干渉して更に暴れ狂う。

そこまでは意図して行ったことではないが、

偶然にしては想像以上の威力が出た。

 

全身の傷から赤いダーカー因子を噴きだして膝をつく。

 

「ウェズ!」

 

「わかってる!」

 

駆けだしカタナを拾い、その勢いのまま突っ込む。

刃にありったけのフォトンを込める。

 

「いっけぇぇぇぇ!」

 

そしてカタナは浸食核に深々と突き刺さり、

 

「ァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

ロックベアは断末魔を上げて絶命した。

 

2人とも体内のフォトンを出し切って、脱力して膝をつく。

 

「はは…やった」

 

知らずのうちにウェズは笑っていた。

地面に座り込んだレシアもつられて笑い出す。

 

「やりましたね! 私たちにもできました!」

 

明らかに自分より格上相手の勝利。

 

「俺らもやればできるな!」

 

「これで落ちこぼれなんて言われません!」

 

2人して笑う。

 

 

――だから油断していた。

 

 

「ゥオオオオオオオァァァァア!」

 

 

雄叫びをあげてレシアの背後の崖からロックベアがもう一匹降ってきたのだ。

いや……

 

「な、なんですか……これ」

 

先ほどのロックベアとは明らかに違う毛並……

白い体毛を持ち、比べ物にならない威圧感。

 

そう、ログベルトと言われる変異種だった。

頭には真っ赤に溢れる浸食核。

 

「逃げろ、レシア!」

 

離れていて駆けつけることもできない。

それにフォトンも底を尽きて立つのもやっとなのだ。

 

「あ……あ……」

 

腰を抜かした彼女は、ログベルトが振り上げた腕を

ただ見上げることしかできなかった。

 

「ァァァァァ!」

 

雄叫びを上げて、ハンマーが振り下ろされる。

 

 

 

――彼女は、自分の死を覚悟してそっと目を閉じた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。