スノーフレーク   作:テオ_ドラ

65 / 111
さあクエストか!と思わせておいて、
まだ出発しないっていう。
はい、申し訳ないです、必要な場面なんです……


【挿絵表示】


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
気軽に感想とか要望を書いてくれると作者喜びます


064.「ナメたことを言ってくれるじゃん」

「君、まさか私を置いていくつもり?」

 

出撃準備が整ったウェズが

ロビーからキャンプシップへ

向かう途中の通路で、

彼女に呼び止められた。

 

「……もう落ち着いたのか?」

 

黒耀の牙のケーラ=ニベルムだ。

取り乱していたのが嘘のように、

今は落ちついてはいるが……

かなり険しい表情を見せていた。

 

「呑気に寝てなんていられないよ」

 

腰に吊るしたナックル、パオネリアンが

擦れあって甲高い音を鳴らす。

 

「それで?」

 

短く尋ねてくる。

以前に見た飄々とした口調からは

想像できないくらい低く、

返答次第ではこの場で襲ってきそうなほど

剣呑な声だった。

 

ウェズは一度目を閉じて、

深呼吸してから言い放った。

 

「レイがまた生きてる可能性は低いんだぞ」

 

ガンッ!

 

ウェズの横を風が横切り、

背後で破砕音が響く。

横目で見るとパオネリアンの3枚の刃が

深々と通路に突き刺さっていた。

彼女の左腕から放たれた拳は、

視認できないほどの速度。

 

「だから寝ていろっていうの?

 ナメたことを言ってくれるじゃん」

 

彼女の血走った眼は本気だ。

今まで2回しか彼女とは会ったことがないが、

その時はどこか含みを持ったような、

悪戯っぽい表情をしていたのを覚えている。

けれど今のケーラは感情のない冷たい表情、

しかし内に秘めたマグマのごとく激情は

痛いほどにまで伝わってくる。

 

恐らく、これが本来の彼女の姿なんだろう。

 

構えられた右腕のナックルが

次は顔面を打ち抜くと告げていた。

 

「俺は……」

 

ウェズは真っ直ぐケーラの瞳を見返して

 

「仲間が死んでいるかもしれない、

 そんな場所に行くのは怖い」

 

チームメンバーの前では

言えない本音を漏らす。

その意外な言葉に

ケーラは少し息をのんだ。

 

「……レイは君を認めた。

 その君、ウェズ=バレントスが

 仲間の危機に背を向けるとは思わないけど?」

 

「ああ、逆の立場なら

 俺だってアンタと同じだっただろうさ。

 けど、ケーラ=ニベルムが俺の立ち位置なら、

 きっと俺を連れて行こうとは思わない」

 

「君と私では実力も経験も違う!」

 

ウェズは首を振った。

 

「ケーラ、死んでも構わないって

 そう思ってるんだろう?」

 

「……」

 

「勇敢と無謀は違うだなんて

 使い古された言葉だけどよ。

 今なら俺でもわかる。

 冷静な判断ができないアークスは

 致命的な判断ミスをしてしまうんだろうって。

 アンタを見ていたら、そう思う」

 

ウェズは突き刺さったナックルを掴み、

思い切り力を込めて引き抜いた。

そしてそのまま

彼女を押して後ろに下がらせる。

 

「もし俺のチームメンバーが

 目の前でアブダクションされたら……

 俺は冷静に対処できる自信がない。

 絶望感に押し潰されそうになりながら、

 けれど『もしかしたら』という

 根拠のない希望に縋りたくなる」

 

彼女はナックルをしまい、

落ちつかせるように一度深呼吸をした。

 

「……ぐうの音も出ないよ」

 

小さくつぶやく。

 

「初めて火山で見た時と

 なんだか別人になってるじゃん」

 

数回呼吸をした後、

彼女は感情を抑えながら口を開く。

 

「後輩に諭されるとは私も焼きが回った。

 私も君の立場なら、危険うんぬんじゃない……

 そうだ、残酷な選択を

 させたくないと思うに決まってるじゃん」

 

「そう、だよな」

 

「アブダクションは

 今までにない大型の

 ダーカー兵器の仕業かもしれない。

 そんな場所へ行ったら

 もしかしたら助かるかもしれない命を

 目の前で諦めなければいけないことも

 あるかもしれない……」

 

「……俺は、そんなことになれば

 耐えられる自信がないんだよ。

 他のモノを投げ打ってまで

 また飛び込んでしまうかもしれない」

 

その選択が、

誰もが悲しむ結果に繋がる可能性もあるのだから。

 

浮遊大陸でレシアが空に投げ出された時、

ウェズは形振り構わずに飛び出した。

結果としてヴォルドラゴンに助けられたが、

あれは奇跡のようなもの。

 

実はあの後、

レシアにこっ酷く叱られてしまったのだ。

本人は否定していたが、

少し涙ぐんでいて、

それを見て馬鹿なことをしたと気付かされた。

悲しませてはいけないと誓いつつも、

だが見捨てることが本当にできるか……

その時になってみないとわからない。

 

「どうする?」

 

ウェズとは違い、

彼女は歴戦の猛者だ。

短いやりとりではあったが、

もう冷静に判断できるだろう。

 

「行くよ」

 

全てを覚悟した上で、

彼女は即答した。

 

なら、もうウェズから言えることはない。

 

「スノーフレークは他のチームより

 人手も戦力も至らない。

 フォローしてほしい」

 

「大船に乗ったつもりで、

 先輩に任したらいいんだよ、君たちは」

 

軽口を叩く彼女の表情は、

いつものどこか小悪魔的な

人を見定めるようなモノに戻っていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。