スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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坑道編はこれでお終いです。
少し長くなりましたが、物語は進んだかなと思います。
若手は勿論、ベテランたちも
それぞれが想いを抱えて戦ってる……そんな場面でした。


【挿絵表示】


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
気軽に感想とか要望を書いてくれると作者喜びます


050.「次に会えるのを楽しみにしてる」

ショップエリアの片隅、

カウンター席が5席しかない小さなBar。

レイはそこで一人、静かに飲んでいた。

 

「随分と傷だらけになったみたいだね」

 

そんな背中にかけられる声。

どこかからかうような陽気な口調に

レイは振り返りもせずに、

 

「……お前の息子にやられたんだ」

 

「あんな大きな息子がいると思われるのは困るね。

 せめて弟って言ってくれないかな」

 

不機嫌そうに呟レイに

声の主はそんな彼女に笑いながら

隣に座った。

 

「マスター、ウィスキーのロックよろしく」

 

その女性はジェンダーピラートという

どこか海賊のような、

あるいは中世の貴族が着ているような服をきている。

身長はレイより少し小さく、160程度か

少しくすんだ赤い髪を

頭の後ろでまとめているが、

レイの綺麗なポニーテールとは別で

随分とボサボサだった。

優しげな表情の中に、

凛とした瞳を持つブレイバー

彼女の名前は……

 

「アザナミ、お前が何故、

 ブレイバーというクラスの確立に

 固執するか、やっと分かった」

 

ウェズの育て親であり、

ブレイバークラスの創設者のアザナミだった。

 

彼女は出されたウィスキーを一気にあおり、

すぐにおかわりをする。

 

「どう、あの子は強かった?」

 

「まだまだ未熟だ……と言いたいところだが、

 悔しいが、成長する伸び代は大きい」

 

「そ、なら良かった」

 

レイもウィスキーを頼む。

 

「お前の一番弟子というから期待をしていたが、

 最初に見た時はあまりの甘えた面に、

 思わず殺意が沸いてしまった」

 

「だからといって、

 私があげたシガルガを折ったのは感心しないよ」

 

「アザナミがしていることを

 全否定された気分だった、

 ならそれくらいはしても当然だろう」

 

「相変らず手厳しいね」

 

会話そこで一度途切れ、

二人は静かに酒を交わす。

 

しばらくしてレイは、

疲れたような声を出す。

 

「師匠は、相変わらずか?」

 

「そうだね。

 レギアスは……

 何か大きいモノをずっと抱えたままだ」

 

アザナミとレイ。

二人にカタナの扱い方を指導したのは

三英雄であり六芒均衡の筆頭アークス

……そう、レギアスだった。

同じ師から学んだ二人であったが、

レイは自分自身でカタナを極める道を選び、

そしてアザナミはその技術を広く普及させるため、

ブレイバークラスを提唱して活動する道を選んだ。

 

道は分かれたけれど、

二人は目指す方向は同じ。

それは……

 

「あの人は、

 そろそろ解放されなければいけないんだ。

 何を抱えているかは知らない……

 けれど、辛そうな顔はもう見たくない」

 

「そのためにも、負担を減せるだけの

 実力をもったアークスが必要、ってね」

 

薄々とは感じている。

レギアスが抱えているのは、

オラクルの「闇」だ。

アークスという存在を根本から揺るがしかねない……

そんな重荷をずっと抱えている。

 

二人は、そんなレギアスを解放したいと思っていた。

レイは自身が師と同じ立場になることを、

アザナミは多くのアークスを育て師を支えることを、

方法は違えど、気持ちは変わらない。

 

「お前の弟みたいなアークスが増えれば、

 確かに、変わるかもしれないな……」

 

「おや、レイにしては素直な言葉だね。

 けど惚れたとしても

 私は簡単にはあの子はあげないよ」

 

「ふっ……青臭い性格のあいつは、

 私の好みじゃない」

 

とはいえ、

レイもウェズという新米アークスに

興味が沸いたのは事実だった。

彼女は完全なる実力主義。

ゆえに、一度認めた相手に対しては

寛容な性格ではあった。

二人は気持ちよく飲んでいたが、

アザナミは声を潜める。

 

「レイ、気をつけなよ。

 最近、ダーカーだけじゃなくて

 アークス本部もどこかキナ臭い」

 

「……どういうことだ?」

 

「『噂のルーキー』に、何かをさせている。

 わからないけれど……嫌な予感がするんだ」

 

「…なら、私よりも

 お前の方が危ない立ち位置だろう。

 自分の心配をしろ」

 

「私はレイよりも強いんだからね、

 余計なお世話、ってね」

 

「ふん、相変わらずだな」

 

二人のグラスが甲高い音を鳴らす。

 

「次は、あの子も連れてきて飲もうか。

 次に会えるのを楽しみにしてる」

 

「……そうだな、悪くない」

 

穏やかな時間が流れる。

 

 

けれど二人は知る術がなかった。

 

これが、

二人にとっての最後の邂逅であることを。

 

 

――もう、二度と語り合う機会が訪れることなかった。

 


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