スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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少し本編と関わる話です。
『彼女』が誰のことかは
ストーリーモードをした人ならわかるかなと思います。
それにしてもこの二人、
明らかにもうデキてますよね


【挿絵表示】


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
気軽に感想とか要望を書いてくれると作者喜びます


049.「他の誰でもない、お前が必要なんだ」

なんだか体が温かい。

傷だらけで疲れ切っていた体を、

体内を巡る活性化したフォトンが

少しずつ癒していく。

 

「……ん」

 

億劫ではあるけれど、

ウェズはなんとか目を開けると

 

「目が、覚めましたか?」

 

レシアの顔が目の前にあった。

穏やかな表情を浮かべ、

額に手を当て

光のテクニックで癒していてくれた。

 

「悪い、気を失っていたのか」

 

慌てて立ち上がろうとするが、

彼女がそれを抑える。

 

「まだ無理はしないでください。

 怪我、結構酷いんですからね」

 

少し押されただけで動けなくなる。

確かにまだ立って歩くには辛いかもしれない。

ウェズが寝かされていたのは、

ビックヴァーダーと戦った広場の片隅だった

もう他にアークスはおらず、

ここにいるのはウェズとレシアだけのようだ。

 

「……レシア」

 

頭が何かやわらかい物に乗っており、

それがレシアの膝であると今更気付いた。

 

「……悪い」

 

もう一度謝るが、

彼女は気にしないでと首を振る。

 

「俺は、負けたのか?」

 

レイ=タチバナのハトウリンドウによる

衝撃波を無防備なところで直撃して

そこからの記憶がない。

 

「痛み分け、というところでしょうか。

 レイも辛うじて立っていましたが、

 ヒエンツバキを直撃しましたから」

 

自分は意識を失った。

けれど、レイは立っていた。

それが、戦いの結末ということか。

意志を貫かんと彼女に挑んだけれど、

 

「まだ届かなかった、か」

 

今のウェズの気持ちには、

悔しさや後悔はなかった。

ただ、至らなかった自分は、

先へ進まなければいけない……

そう改めて決意を固めた。

 

そんな彼をレシアは眩しそうに見つめている。

 

「聞いて、くれますか?」

 

小さな声。

何を、とは言わなかった。

けれどなんとなく、

今まで話してくれなかった

彼女自身の話なんだろうなとわかった。

 

「ああ」

 

だから短く頷いた。

彼女はビックヴァーダーの戦闘で壊れて

穴の開いた天井を見上げる。

遠くに見える空はもう暗く、

リリーパの星空がそこにはあった。

それからしばらく彼女は口を開かなかったが、

少ししてから

 

「クローン」

 

ポツリと呟く。

 

「それが私です。

 元になったアークスのことを私は知りません。

 ただ、『彼女』はとても優秀な

 テクニックユーザーだったそうです。

 私は、そのアークスの出来そこないのクローン。

 オリジナルとは比べ物にならない

 お粗末なフォトン感応力……」

 

彼女の銀髪が、風でなびく。

 

「私の他にも『姉妹』はいるみたいですけれど、

 何も知りません……

 ただ、私は失敗作だったみたいです」

 

「クローン技術……

 都市伝説程度では聞いていたことがあるが、

 けど本当にオラクルで行われていたのか」

 

第三世代と呼ばれるアークスたちは

多少なりとも遺伝子操作はされている。

だがそれでも親はいるのだ。

対してクローンは素体の複製……

非人道的とされ技術自体も凍結されているはず。

隠れてできるようなモノではない、

もしかすると、

オラクル全体で何かを隠している可能性が高い。

 

「優秀な『彼女』を複製すること以外にも

 いくつもの実験がされていたみたいです。

 そんな中でミリアは……」

 

一度、言葉を区切り

 

「出来そこないの私から、

 良い『モノ』を作ることができるか……

 ただそれだけのために生まれました」

 

硬い声で告げた。

 

「けど、欠陥品から生まれた彼女もまた

 やはり至らない存在でした。

 フォトンの感応力も上がり、

 ほとんど全てにおいて

 私の上位互換みたいな形でありますけれど、

 唯一の『アークスとしての資質』だけが、

 ミリアには欠落していたのです」

 

「そのことを、ミリアは知ってるのか?」

 

「いいえ。彼女は何も。

 私たちのような

 失敗作は珍しくないのでしょう。

 ……そして私ともう一人の私は気付けば

 揃って街の孤児院で暮らしていました」

 

やっと、彼女はがミリアを避ける理由がわかった。

彼女は優秀なもう一人の自分に

コンプレックスを抱くと同時に、

後ろめたさを感じているのだ。

自分は曲りなりともアークス「だけ」はできる。

妹は優秀ではあるがアークス「だけ」はできない。

 

「……レシア」

 

「ウェズ……

 私は、誰からも必要とされない存在なんですよ」

 

空を見上げる彼女の表情を、

ウェズからは見ることができない。

今まで共に戦ってきた、

掛け替えのない彼女に何を伝えればいいだろう。

 

「俺は……」

 

けれどそんなことは、

考えるまでもない。

いつかの星空の下で、

彼女は本当の気持ちを伝えてくれたじゃないか。

 

「俺は、お前がいたから今ここにいるんだ」

 

それは彼女があの時に自分へかけたのと同じ言葉。

 

「俺が一緒にいたいのは、

 その名も知らない『彼女』じゃない。

 ウェズ=バレントスは

 レシア=エルシアできなゃダメなんだよ。

 他の誰でもない、お前が必要なんだ」

 

手を伸ばして彼女の頬をそっと撫でる。

 

「ウェズ……」

 

彼女は空を見上げたたままだったが

 

「本当に……あなたは単純なんですから」

 

肩を震わせる。

 

「……私は、ただ……」

 

嗚咽交じりの言葉はそれ以上は意味をなさなかった。

 

ポトリ……

 

彼女を頬を伝って、

涙がウェズの顔に落ちる。

 

「うわぁぁあああ!」

 

彼女は覆いかぶさるように、

ウェズの胸に顔を埋めて泣いた。

らしくない子供のような泣き声。

ただ、ただ彼女は叫んでいた。

 

ウェズはただ、

彼女の頭を優しく撫で続ける。

レシアの気が済むまで、ずっと。

 

 

隙間から覗く空に、

いつかと同じように流星が流れる。

けれど願い事を言う必要はない。

 

――いつかの願いは、もう叶ったのだから。

 


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