スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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登場人物紹介とあらすじにも掲載しましたが、
RimiQwiさんがスノーフレークに表紙を描いてくれました!

【挿絵表示】

ぜひみんな、RimiQwiさんを応援してあげてくださいね!
登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
気軽に感想とか要望を書いてくれると作者喜びます


041.「怒らないから正直に話してください」

レシアの妹のミリアは

前に会った時の作業服のような

オールブリングを今日は着ていなかった。

厚着の白いダブルブレストコートで、

下は短い黒のミニスカート。

それはアークスコートという人気の衣装だった。

常に空調が快適に調整されている

オラクルならではのコーディネートだといえる。

 

「ミリア……」

 

露骨に嫌そうな顔をする姉の横に、

平然と妹は椅子を引いて座る。

こうして並んでいると、

やはり姉妹だなと思う。

薄着のワンピースの姉と、

厚手のコートを着た妹では印象は違うけれど、

顔立ちはよく本当に似ている。

 

「ウェズさん、ごめんなさい。

 突然にこんなところへ来て貰って」

 

「あ、ああ……それは構わねーんだけど」

 

「カタナ、きちんと仕上げましたので、

 受け取ってください」

 

彼女が手渡してきたのは、

懐かしい形の鞘だった。

けれどウェズが知っているのは黒だが、

手渡されたのは

白に薄い青のラインが入った鞘。

受け取ると、想像以上に軽さに驚く。

 

「こいつは……」

 

制作者であるミリアは頷いて、

カタナの銘を教えてくれた。

 

「――ディオシガルガ」

 

彼女は初めてウェズが使っていた

カタナであるシガルガ、

その発展形を作り上げてくれたのだ。

粋な計らいに

ウェズは無意識にニヤッとしていた。

 

「慣れた形状が使いやすいと思って、

 折れたカタナをベースに組み上げました。

 フォトンによる洗浄をした特殊合金で形成してますので、

 見た目は同じでも出力は段違いなはずです」

 

鞘から少しだけ抜くと、

刀身は前のモノより淡い青色のフォトン。

これは一目見ただけでわかる、

以前とは比べ物にならないフォトンの凝縮率だ。

 

「ありがとうな。

 想像以上の満足の行くデキだ」

 

「私の自信作です。

 ウェズさんが使いやすいように

 チューニングもしているので。

 ただ軽量化しすぎたのと、

 出力が今装備してるキャスティロンより

 はるかに出力が高く、

 まだ使いこなすのは難しいかもしれません」

 

「ああ、俺がいけると思ったタイミングで

 試し切りさせてもらう」

 

礼を言い、

腰にキャスティロンと並べて装備する。

ミリアはほっとしたように息をつき

 

「気に入ってもらえたようで嬉しいです」

 

「こいつならスサノグレンとも戦えるぜ」

 

これで本来の目的は果たした。

そこで先ほどから

黙っていたレシアが口を開く。

 

「それで、私はどうして呼ばれたんですか?」

 

とても不満気な声。

それはそうだろう、

騙し討ちみたいな形で呼ばれたのだ。

 

「姉さん!

 こうでもしないと全然会ってくれないじゃない!」

 

「だからと言って、こういうやり方はどうかと思うんですが」

 

ふて腐れた姉に食ってかかる妹。

この二人は喧嘩している姿しか

見たことがないなと思う。

 

「私からのメールには返信しないのに、

 ウェズさんからの連絡だったら

 すぐ来るってどういうこと!?

 それともそういうことなの!?」

 

「なっ、そういう言い方はないでしょう!?

 それは……ウェズは私のチームのマスターです。

 連絡が着たらそれは返事するでしょう!?」

 

「それならどうしてそんなにおめかししてるの!

 私はおかしいと思う!」

 

周囲の客との席が離れていて良かったなぁと

しみじみとウェズは思う。

そこに引き攣った笑顔の店員がやってきた。

 

「こちらラッピーパフェでございます。

 またご用がありましたら

 ボタンを押してお呼びください」

 

店員はささっとパフェを置いて、

ブレイバーも顔向けの

もの凄い速度でテーブルから離れて行った。

 

(席予約しておいて注文したのが

 一人分のパフェだけかよ)

 

さすがに少女二人を前に、

ウェズが食べるのは気が引ける

可愛いラッピーの絵が描かれたマカロンの乗る

色鮮やかなパフェを二人の前に置く。

 

「とりあえず、落ちついてくれ」

 

スプーンを二つ渡した。

 

「……仕方ありませんね」

 

レシアは一度深呼吸をして、

ゆっくりとスプーンで

パフェからクリームを食べる。

何も言葉には出さなかったが、

不機嫌そうな顔がちょっと嬉しそうにほころびていた。

 

「……溶けちゃったら勿体ないですもんね」

 

妹もパフェの反対側をスプーンで突く。

その様子になんだかんだで仲がいいと思うのは

ウェズだけだろうか。

あるいは甘いモノは別話ということか。

 

(さて、どうしたものか)

 

ウェズは内心では頭を抱えていた。

彼は以前、ミリアにこう言ったのだ、

 

「レシアが話したいと考えた時に、

 あいつから直接聞くさ、面倒な話はな」

 

そんな言葉を。

それからドタバタしていて、

すっかり聞きそびれてしまった。

今から覚えば、

砂漠で一緒に流星を見た時に

聞いておけば良かったと後悔する。

 

いちいち根掘り葉掘り聞いて

姉妹喧嘩の仲裁なんて

器用なマネがウェズにできるはずがない。

 

(レシアのことを知りたいっていう気持ちはあるけどさ)

 

今ではかけがえのない相棒だ。

孤児であるウェズの事情を聞いても

まるで態度を変えなかったのは感謝している。

が、逆にレシアの境遇を知ってしまい、

自分が遠慮してしまうのではないかという恐れもある。

だからこそ、

彼女が話してくれるまで待とうと思ったのだ。

 

「……」

 

「……」

 

ラッピーパフェが少し大きいとはいえ、

無言で食べる二人もそう長い時間はかからないだろう。

ウェズが覚悟を決めようとした時

 

ピピピピピ

 

通信機が鳴った。

レシアのモノは鳴っていないので、

ウェズ宛の個別連絡だろう。

これは救いになるかと思い、

さっと通話ボタンを押す。

 

『ウェズさん、新しい依頼が入ったよ。

 場所は惑星リリーパの、初めていくエリアみたい』

 

通信はメディリスからだった。

クエストの話ならトゥリアから来るのに珍しい。

それにウェズにだけというのはどういうことか。

 

『地中で見つかった坑道の調査らしくて、

 なんだか薄暗い場所なんだって。

 それで少しお願いがあって……

 レシアさんには内緒で

 ちょっと射撃練習に付き合ってほしいの!』

 

未だに緊張すると

銃身が安定しないメディリスだから、

このお願いは別段におかしいことはない。

そう、マスターに個別で

練習に付き合ってほしいという話なだけだ。

 

けれど、今はマズい。

何がマズいか、うまく説明できないけれど、

とにかくよろしくないのだ。

というかそもそも

何故レシアの名前を引き合いに出した?

 

メリッ!

 

華奢なレシアのどこにそんな力があったのか。

スプーンが嫌な感じに曲がっていた。

無言で通信機をよこせと合図してくる。

 

『ウェズさん……?

 返事がないけれど、どうしたの?』

 

何も知らないメディリスに、

悪い、とウェズは心の中で謝った。

通信機を受け取ったレシアは

 

「その個別練習は、

 どうして私には秘密なんでしょうか?」

 

非常に言葉にはし辛い

大変難しい表情を浮かべていた。

その硬い声に、

通信先でメディリスは可哀想なくらい慌てる。

 

『えーと……そのね、ほら。

 ウェズさんはマスターの仕事も忙しいのに、

 余計な手間増やしたら怒られるかな~……とか』

 

「ふーん……何を言っているかよくわかりませんね。

 忙しいとわかってるのにどうしてウェズにですか?

 ライガンでも私でもいい気がするんですが」

 

それにどうにも機嫌を損ねたのは

レシアだけではなかったらしい。

なんだか妙にじとっとした目で

ミリアまでこちらを睨んでいた。

 

(俺、悪いこと何もしてねーになぁ……)

 

とはいえこのままではマズい。

ウェズは通信機をレシアから取り返して、

メディリスが何か話していたが電源を切った。

 

「なあ、ミリア

 せっかくだからよ、

 このクエスト、付いてこないか?」

 

「……ウェズ、何を言ってるのですか!」

 

唐突の提案にレシアが叫ぶが、

ウェズは構わずに続ける。

 

「俺もレシアと仲違いした時は、

 一緒にクエスト行ってさ、

 なんか話し合わなくてもすっきりしたんだ。

 だから、一緒に来て、

 それでアークスをしている姉の姿を見ないか?」

 

唐突で要領の得ない提案であるのは

ウェズだってわかってる。

けれど、このままここで話し合っても

きっと、平行線のままだという確信はあった。

 

「そう、ですね……」

 

それはミリアも感じていたのだろう。

意固地な姉とここで押し問答しても何も解決しないと。

 

「姉さん、私もついていく」

 

「ミリアまで馬鹿なことを言わないでください!」

 

妹は首を振る。

 

「私も実際にアークスたちが

 どういう感じで武器を扱っているか、

 見てみたいと思っていたの。

 だからこれは武器職人見習いとして

 スノーフレークに同行させて欲しいの」

 

そしてウェズの腰に吊るしたカタナを見ながら

 

「お願いします。

 そのディオシガルガのお代は、

 私の護衛の報酬の前払いです」

 

忘れていた代金を引き合いに出してきた。

 

「なら話は決まりだ。

 レシア、これはマスターの決めたことだ。

 文句は後で言ってくれ」

 

強引に話をまとめあげる。

レシアは不満しかない表情を浮かべていたが、

話は終わりと立ち上がったウェズを呼び止める。

 

「待ってください」

 

「……なんだよ?」

 

彼女はスプーンでコンコンとパフェの器を叩く。

 

「まだ食べ終わってないんですから、

 座って待っていてください」

 

「それ俺、いないと駄目か?」

 

「駄目です。

 私、納得もしてないし怒ってるんですからね」

 

その様子を、ミリアは堪えきれなくなったのか

くすくすと笑っていた。

 

「で、メディリスとは頻繁に個別練習をしてるのですか?」

 

「いや、そんなことしたことねーよ」

 

「怒らないから正直に話してください。

 素直に話したらそこまで怒りませんから」

 

「既に怒ってるし、話しても結局怒るんじゃねーか」

 

針のむしろは、まだ続くらしい……

 


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